王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりました。
漸く月島、山口参戦です。


第15話

 

早朝の練習も何日か重ね、それでも 足りないと思ってた日向は昼休みも利用して練習に励んでいた。

練習相手は火神だったり、時には駆けつけてくれた菅原だったり。

 

今のところ日向の練習相手はこの2名である。

 

そして今も練習中。

火神が授業関連で遅れてくる為 菅原と日向で練習をしていた。

 

そんな中で話題に上がったのが まだ一度もしてない日向のスパイク練習だった。

 

「日向は影山に認めさせるまで、ずっとレシーブばっかりしてっけど、そろそろスパイクの練習もしてみないか? あれだったら、俺があげてやるし」

「!!! ほんとですか! あ、ありがとうございますっっ! ――――……ッッ」

「(おおー、色んな感情が顔に出てる? ここまでわかり易く顔変わってるヤツ初めてみたかも)」

 

日向は、菅原の提案を聞いて はち切れんばかりの笑顔だったんだが、途端に真顔になり、苦虫をかみつぶしたような顔になり、と変化し続けていた。

 

「い、いや…… でも…… ここで菅原さんに上げてもらったら…… なんか、負けを認めた気がするっていうか…… そ、それに せいやにも 上げてもらってないのに…………」

「はっはっは。あん時啖呵きってたしなー。そりゃそーだ。言ってみただけだって。火神に言えば普通にスパイク練習は出来ると思う所を日向は堪えてるしなー」

 

日向なら、断るだろうと菅原にはある程度予想は出来ていた。あの数日前の朝練の時 影山に宣言していたのを菅原も聞いていたから。

 

「聞いてみたいのはこっから。なんで影山に張り合うのかー、ってトコだ。俺なら出来るだけ強い奴とは争いたくはないんだけどなぁ。一緒に練習とか 一緒に強くなるとかだったら話は別だけど」

 

日向が影山と張り合ってるのは傍から見れば一目瞭然であり、その理由を菅原は知りたかった。あそこまでバレーのスキルが高い男だったら、張り合うよりは一緒に練習すると言うのが良い気がするから。何より、日向は火神とは出来ているから、そちら側にシフトチェンジしても良い筈だと思っていた。

 

「……中学の試合の時です。俺、せいやがいたからちっとやそっと高い相手くらいなら、絶対負けねーって思ってたんです。でも、影山には全然通じなくて…… メチャクチャ上手くて、俺よりずっとデカくて、とにかく強くて……目の前に立たれるのスッゲー嫌でした。せいやいなかったら、どーなってるか考えたくもない……。若干トラウマです……」

「あー……わかる気がするなぁ。影山の殺気とか 結構ヤバそうだし」

 

菅原の脳裏に浮かぶのは、ネット越しにいる影山の姿。相手を射殺さん勢いの眼力、勝利への飢え、兎に角怖いのは違いないだろう。冗談抜きで子供が見たら泣きそうだと思う。

 

「それに俺、あの時…… せいやにばっか頑張らせちゃったって自覚があるんです。皆がミスをした時 一番フォローしてくれて、サーブでバリバリ点とってくれて、スパイクでも。仲間だから力を合わせて~って よく言ってくれてるけど、俺今のままじゃ絶対ダメなんだって思ってました。だから、そんな時に影山の顔が頭に浮かんで…… 浮かばせたくなかったけど、浮かんで…… その影山を倒してやろうって思って烏野に来たんです。影山をやっつけれるくらい上手くなったら、もっともっと皆で強くなれるって。せいやも合わさって、無敵だーーって。……影山じゃないですけど、足は引っ張りたくないって思ってて……」

 

日向の気持ち。

それは火神も恐らくは気が付いているだろう、と菅原は思っていた。

火神がいくら構わない、仲間だから、と口にしても プライドと言うものは大小必ず存在する。ここまでバレーが好きな日向が プライドがないなんて絶対あり得ないから。

 

「ふーん。じゃあ日向はさ、火神に追いつきたい。それで追いつくには影山って言う最強だった敵を倒せれたらきっと追いつける。んで、その為にバレーやるの?」

「え?? えーーっと……、影山倒せるくらいになれば それくらい強くなってれば、俺はもうせいやのお荷物にならないって思えて……。せいやがそんなこと思ってないことくらい分かるんですけど、名ばかりのキャプテンだったってこともありますし。それに何より 強くなったら、試合で簡単に負けたりしない。俺、もう負けたくないんです」

「ほほう。えー、つまり 日向の中での不動のトップは火神で、そこに行く為には影山をやっつけないといけない。影山をやっつければ、火神に追いつけるってことはつまり、同年代の2強があの2人ってことになるのかな?」

「う……あ、あうふぶ……ッッ」

「(あうふぶ?)」

「せ、せいやは ともかく……影山、は…… いっ、い~~……は、んいぃぃ~~……」

「(なるほどね。影山には ハイって言いたくないんだな)」

 

日向は火神に追いつきたい。でも、その前に影山が立ちはだかってるイメージなのだろう。影山は影山で 接した感じでは火神を目指している様にも菅原は見えているので、結局この日向と影山はある意味で似ているのかもしれない。

互いが目標と掲げる男が火神である一点においては。

 

「影山もこの間 火神に試合には勝っても勝負に負けた、って言わせてるし。2人して目標がおんなじって訳か」

「あー……えー そんな感じ、ですかね」

「んで、日向の中では味方の最強が火神で、影山の事を倒すべき敵としては最強ってことか」

「はい」

「はははっ、すげーって思わない?」

「???」

 

菅原が笑っている意味がいまいちわからない日向は 首を傾げる。

菅原は笑みを向けたままその真意を答えた。

 

「2人の最強がこの烏野に、日向の傍に揃ってるってこの状況がさ。日向、中学生の時とは比べ物にならないくらい恵まれてると思うよ。影山はまだ正式には入れてないけど、同じチームでいるんだから味方だし。最強の味方が2人になる。すげぇな。俺までなんかワクワクしてきた」

「………………」

 

 

火神の事は言われるまでも言うまでもない。ただただ、影山の事だけはどうしてもなかなか認めたくはない。日向は、影山に認めさせるつもりで練習を続けているんだから。

 

葛藤葛藤―――と続けていた所で、頭がパンクしそうになってた。

 

「よしっ、休憩終わり。じゃあ レシーブやるべやるべ。もうちょいしたら火神も来ると思うし」

「! しゃス!」

 

 

 

 

日向は 難しい事を考えるのは今は止めた。

日向は 頭が痛くなりそうな事を考えるのは今は止めた。

 

ただ愚直に前を進む。只管練習あるのみなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人を陰から見ている者がいた。

 

「最強の2人だって。何かそーんな言われ方されたら むずがゆくなるよなぁ? 影山」

「…………」

 

影山と火神だった。

 

火神は、2人に合流しようと向かっていて、そこで影山を見つけたという形。

入りにくい話題だったので、2人して盗み聞きになってしまったようだった。

 

「翔陽は まだまだ技術は拙い。でも、それを補って余りある運動のセンスがある。活かしてやってくれよ。俺は翔陽と影山がかみ合ったトコを見てみたいんだ」

「現時点でどう合わせるっつんだよ。運動センスは俺も認める。だが、お前も判ってんだろ。バレーはそんな甘くねぇ。どう頑張ってもこんな短期間で上手くなんかなれねぇよ。俺の意見は変わらねぇ。勝ちに必要だとまだ思えねぇからな」

「まだ、ね。そりゃそうだ。……だが、翔陽が頑張らないとキツイのも事実だ。セッターに未練がないっていうなら、話は別だが」

「無い訳ないだろうが! 俺はセッターだ!」

「おう。チームの司令塔なら チーム全員余すことなく使いこなせってことだ。じゃないと……」

 

火神は 日向達の所へ行くため、影山の隣を横切るように歩きながら、一言。

 

 

 

「3対2で挑むんじゃ俺たちには勝てないって思っておけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も練習練習練習。

火曜も、水曜も……そして木曜も。只管 日向はレシーブレシーブ。前に後ろに飛んではねて 全てをとれるように。火神や菅原が居なくてもボールには触り続けた。授業中居眠りして教師に怒られもした。

それでも考えるのはバレーの事。

 

そして――実を結ぶ。

 

 

 

「おいコラ! 手加減すんなよッ!!」

「んだとォ!? 上等だァ!!」

 

 

それはまるで殴り合いだった。

木曜の早朝練習。

影山が打ちまくり、日向が拾いまくる。時には近くに 時には遠くに フェイントを交え、色んな球種を打つが、それでも日向は拾い続ける。

 

 

影山に認めさせるために。

 

 

そして、25分――経過。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。田中さん」

「おう……って、あれどのくらいやってんだ?」

「30分未満って所じゃないですかね」

「連続で?」

「はい」

「うげっ……」

「日向は本当……まさに一級品だな」

 

火神、田中、菅原が見守る中、日向は ただただガムシャラにボールを追い続ける。

それ程までに続ける理由はただ一つだった。

 

 

 

「おら! そろそろ限界だろ! もうこのくらいで「まだだ!!」ッ」

 

影山さえ、やめようとしていたのに それでも日向は止まらなかった。

 

「ボールッ……! まだ、落としてない!! 負けてない!!!」

 

勝ち負けなんかあるのかよ! と一瞬言いたかったが、影山は飲み込む。

 

落としてないから、日向は止めない。そして、ここで止めたら、日向に負けた気分になるからだ。影山にじゃなく日向自身にも。それも火神の前で。

それは、影山自身も同じことだ。この練習に勝ち負けは無いと思っているが、それでも ここまでやられたら、止まるに止まれない。それも火神の前で。

 

 

「このっ…… やろっっ!」

 

 

大きく振りかぶってボールを打ったボールは、エンドラインを越えて壁近辺まで飛んだ。

 

「うわっ、影山性格悪っっ」

「っ……!(しまった、つい無茶なボールを……)」

 

日向程ではないにしろ、影山も十分疲れている。ムキになったことも有って、無茶な所へとボールを飛ばしてしまったのだ。

 

「あんなの無理だろ」

「いや、俺はそう思わないです」

「え?」

 

この時、明らかに無茶なボールだった事と、もう30分も動き続けた事、それらもあって取ることは無理だと火神以外のメンバーは思っていた。打った影山もだ。だが、火神だけは日向を見据えていて、そしてそれに応えるかの様に、日向は一歩大きく前へと足を動かした。

 

 

「大体は限界を自分で決めて、止まってしまうと思います。でも、翔陽はそんなの決めてない。あんな顔をして前を向き続ける時の翔陽は、止まることを知らないんです」

 

 

火神が言う様に 全員が日向の方を見た。

決して止まらない。足が縺れそうになっても、それでも右左と前に出し続ける。

 

そして、飛びついて右手を伸ばし――ボールを上げた。それも見えていないであろう見事なレシーブ。

 

最初で最後の試合で負けた日向は、誰よりも勝ちたいという思いがあった。

もう負けたくないという気持ち。そして言うなら、勝利にしがみつく力だけは誰よりも強いかもしれない。

 

 

「うおっ、上がったぁっ! ひぇー……、スゲーぞ、日向ァ!!」

「ナイスレシーブ。返球位置も完璧」

「アレは偶然ッポイけど、ほんと凄いな。日向は」

 

 

しゅるるる、と緩い回転。高さ。火神が言う通り 完璧な返球だった。

 

そのボールを目で追って、その先には影山がいる。

何かを考えていたのだろう。でも、その時間はほんの僅かしかないが、長く長く感じた。

日向の執念が、今――影山の考えを改めさせた。

 

影山に返されたボールは、そのまま打つことはせず、身体を45度ズラし、ネットからやや離れた位置で高く上がる。それは ふわっ、と優しいタッチ。

 

 

「(翔陽の勝ちって言ったら影山がまたへそ曲げるかもしれないか) しょーよーー! トス上がったぞぉー!

打てぇーー! 」

「いや、お前も鬼かよ!! 何十分も動き回った後で、スパイク打つ気力なんて……――」

 

 

普通なら、田中の意見が正しいかもしれない。ただの朝練でそこまでする必要があるのか? とも思えてしまうかもしれない。

 

だが、日向にとってトスが上がるというのは他人よりも重みが違うのだ。

 

 

 

「――――――っ!!」

 

 

 

どんなに疲れてても、日向が見せるのは飛び切りの笑顔だった。

笑顔のまま、高く飛び上がり ボールを叩きつける。疲れていても 跳ぶのは別腹です。と言わんばかりだった。

 

それを見た火神は笑う。思い出しながら……。

 

「ほんとに打っちまったよ、ははは」

「でしょ? あんな感じで打ってましたよ、いつも。……コート借りて練習するのも難しかったですから」

「そっか。……そうだよな。セッターからトスが上がるっていうのは、俺たちにとっては当たり前で、ごく普通だった。でも、日向は。いや、火神もそうか。2人にとっては特別なことなんだ」

「あー、成程。……んん?? んでもよぉ、火神。お前さんも日向と条件は同じ筈なのに、なんで中坊離れしたことできんの??」

 

練習環境が悪い中、培われたものが今の日向なのであれば、火神はどうだろうか、と田中は純粋に疑問に思った。力量は認めている。認めるもなにも、示しているのだから。影山と火神は並んでいる、同系列に見ている。だからこその疑問だ。

 

火神は、ん~ と少し照れ笑いを浮かべながら続けた。

 

「俺は親がバレーやってての影響ですよ。と言っても高校までで、春高とか全国はいったことないって言ってましたが、俺がバレーを好きになっちゃいましてね。小さなころからボールは ずっと触ってたんです」

 

これは本当の事。力の根幹部分は話してはいないが 火神のバレー人生は 生まれる前から始まっていたことではあるが、そこは説明しようがないのでカットだ。

 

そして、その説明を聞いて 特に疑うようなことはせず、田中と菅原も納得していたのだった。

 

 

 

 

勿論―――その後、日向が盛大に体育館を汚したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の部活。

 

 

「「ふ、あ~~~あ~~~」」

 

 

菅原、田中の2名。

ほぼ同時に大きな欠伸をしていた。実に眠たそうだ。

 

「お前ら、眠そうだな。2人して」

「「ッッ!!」」

 

それを見逃さなかったのは主将の澤村。常に周囲には気を配り 最善を尽くすのがキャプテンなのである。……と やや大きく言ってみただけで、実のところは かなり 2人の欠伸が目立っていたからだったりする。

 

その後、菅原と田中は勉強を言い訳にし、田中に限って勉強は無いだろ! と菅原がツッコミをしたりしていた。話を逸らせるには、もちろん話題変更が一番で、直ぐ隣にいた火神が自然を装って、澤村に声を掛けた。

 

「澤村さん。そういえば、今日同じ1年が入部する、って言ってましたけど」

「ん? ああ、もちろんだ。今日で間違ってないよ。おーい、入って来ーい」

 

話題逸らしは成功。

 

そして、漸く対面する2人の新入部員。

 

 

「宜しくお願いしまぁーす!」

「宜しくお願いしますー!」

 

 

今回、火神と同じチームで戦うメンバー。

 

「紹介するよ。月島と山口だ」

 

 

微笑みを絶やさず、笑っている大きな男 月島。

そして、その後ろでまるで付き従っている? かの様にしてる山口。

 

「そんでもって、この土曜日の件は、2人にも伝えてるから。火神。言われるまでも無いって思うかもしれんが、頼むぞ」

「い、いや いきなりな上に大分アバウトですね!? 幾ら何でも。【頼むぞ】だけで終わらすのはちょっときついですよ」

「ははは。悪い悪い。ついな」

 

火神は、顔見知りとは言わないが、2人は知っていてはいても初対面だ。

なのに いきなりまとめ役のようなのをやれ、と言われた気がした。それも一癖も二癖もある月島の。

 

 

「ん?」

 

 

月島と目があった。

笑ってるのは笑ってるんだけど、目の奥では何か冷めたようなそんな気配がひしひしと感じる。笑顔が張り付いているだけ、と思えたのは初めてかもしれない。

 

「あー、君ってさぁ、中学ん時、王様のチームと戦ったことあるんじゃない? なんか見覚えがある」

「え?」

 

そして、意外な事に月島から先に声を掛けてきたんだ。

初対面でも 毒を吐くことを厭わない性格だから、別に驚きはしなかったけど。少し意外だった。

 

「あ、ほんとだ、確か 一回戦だった筈。火神っていうんだな。俺、ツッキーと一緒に見に行ってたんだぜ!」

「山口、一緒とかそこ言う必要ある?」

「ごめん、ツッキー!!」

 

2人のやり取りを見てて、思わず笑いそうになった火神だったが、どうにか堪える事が出来た。ほんの後少し。たった数ヶ月で この2人も目を見張る程の成長を遂げる。最初こそは 山口も月島の斜め後ろからついて回るだけだったが、次第に月島を動かすような存在になる。常に先を行く男だと月島からも称される程に。でも、今みたら悪いけどそうは思えない。……腰巾着? って思ってしまったとしても、無理ないと思う。

 

「ああ、そうだよ。北一には見事に負けちゃったけどね。火神誠也だ。宜しく2人とも」

「ふ~ん。でも、君凄かったよ。天才ってほんとにいるんだねぇ、って。ああ、後ほんのちょぉ~~~ぴり、お仲間たちがしっかりしてくれたら、王様にも勝てたんじゃない? かなりの高確率でさ」

「いやいや。あの時はベストだったよ。あのメンバーで出せる最高のプレイをした。でも、及ばなかった。それだけだ。たらればを言ったって仕方ないだろ? 敗けは敗けだって」

「……それで、今度の土曜が雪辱戦って訳かな?」

「そりゃ、リベンジ出来たらって思ってるよ。手は抜かないし、そもそも抜いたら怒る連中だ」

「…………」

 

 

月島は、少しだけ視線を細くした後に、また乾いた笑みを浮かべ。

 

「自己紹介、遅れたね。1年4組 月島 蛍」

「同じく、1年の山口 忠」

 

互いに挨拶を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の部活も終了。

 

 

「………けっ! な~~んか気に入らねぇな。あの新1年!」

「お前、初対面のヤツ大体気に入らないじゃん。ああ、火神くらいだったっけ? 気に入ったの。なるほど。褒めてもらえないと気に入らないってわけか」

「んなっ、そ、そんなことねーですよ!」

「はっはっは。そうだったな。そういう習性だった、ってことか」

「習性って……」

 

 

毎度おなじみの田中の威圧もどこ吹く風な月島。

凄んだ田中だったが、完全に通じてなかったので より苛立ちと言うものがあったのだろう。もしくは対戦相手だったからなのだろうか。

 

「でも、予想以上のが来たな。2人とも経験者で高身長。3人の内1人は超高校級。火神、大丈夫かな? 明日」

「俺、まだ高校でバレーを出来てないので、その ちょうこうこう~っていうのは止めてほしいかなぁ、と。……あと田中さんじゃなくって俺に聞くんですね。菅原さん」

 

菅原はなぜか、菅原曰く 【すごいの】の連中の中に入る火神に聞いていた。田中と言う 日向影山チームに入る男が横にいるというのに。

 

「そっスよ! 俺だって入るんスから!!」

「うぅ~~ん、火神の能力で アイツらの力が底上げされたら、……きつくね?」

「ぬぐっ」

「菅原さん。俺の事どー思ってるか 知らないっすけど、そんな無茶な力とか無いですからね!? どんなチームでやるにしても、時間は絶対必要ですよ! あと、田中さんも威嚇しないでくださいよ……」

「ははは。冗談冗談。わかってるよ」

 

菅原は 手を振って笑っていたが、何処までが冗談なのか分かったものじゃない。

月島は、頭がキレる実力者。山口は大器晩成型。……が、それ以上に癖のある男なので、物凄く骨が折れそうだ、と言うのが、実際あってみての火神の感想だった。

 

「でも、火神ならなーんか、やりそうな気がするんだよな。上手く月島たちとも練習で合わせてたし。形になるのに時間かからなかったし。……でも なんか、月島って 最初お前にも少なからず突っかかって無かったか?」

「あー……、思いましたか」

「そりゃね。笑みと柔らかい口調の中に、ちょーーーっと、イラつきそうなポイントが含まれてたじゃん」

 

 

月島が煽ってきてるのは火神にも勿論わかっていた。

中学時代のメンバーを多少なりとも貶されてたのも判っていた。

確かにあの時のメンバーは頑張ったとはいっても、実力不足だったのは否めない。でも、それでも限られた中で精いっぱい頑張ったし、それを他者に貶められる筋合いは無いとも思う。

だが、月島と言う人間性を理解しているので、反論するよりは 認めたうえでの正論を言うのが一番良い。月島が抱いているものも判ってる上での事。

 

 

「ギスギスしてても始まりませんし、そもそも烏野高校のバレー部って言うスタートラインに立ったばかりです。さらに言えば今回は目的も同じですからね。後々チーム内での人間関係も構築していければ良いかな、って思ってますよ」

「……田中。こういうトコだよ。火神を見習えって」

「うぐぐっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度、噂されていた月島達は ひと悶着を起こしていた。

相手は 日向と影山。

月島は例によって乾いた笑顔で応対していたんだが、如何せん物言いがかなり引っかかる。

影山や日向がそれを笑っていなせる様な器用さを持ってる訳もないので、ちょっとした口論になってしまったのだ。

 

それも一応は収まったようだが。

 

「あぁ、明日は敵だったね。王様のトス、見れるの楽しみにしてるよ」

「……………」

 

終わりでも、いついかなる時も挑発を忘れないのが月島である。

 

「なんだよ! すっげーー感じ悪い奴!! 明日、絶対ぶっ倒すぞ! アイツだけでもぶったおーーす!」

「……言われるまでもねぇよ」

「ムカっ! やっぱ、お前も感じわりーー!!」

「うるせえよ」

 

 

イライラが募る日向。

そして、思い返していた。火神に言われていたことだ。

 

高校に行けば色んなヤツがいる、と。

そんな多彩な者たちの中で、色んな強さに揉まれて、それで上手く強くなっていける、と。

 

 

「んでも、アイツのムカつき具合は 想像以上ですーーー!!」

 

 

 

因みに 煽りに煽って 清々したのだろう、とも思えた月島だったが、そうでもないらしい。

 

「ツッキー! 待ってよ、どーしたの!?」

「……イライラすんだよ。無駄にアツい奴って、さっきの王様も、チビも……。それに…… チッ」

 

月島の変な苛立ちには、おそらく火神もいたのだろう。

菅原が思った通り、そして 火神も判っていた様に 月島は火神を煽っていた。

 

あの試合。ど素人チームと王様チームの試合を観戦した時から、妙な苛立ちを覚えていた。

 

 

頼られる存在。

笑顔でスパイクを、サーブを、何度も点を決めて、最後まであきらめずに戦って、皆に囲まれて……。

 

 

――まるで 昔、見たことがあるような光景だった。

 

 

忘れたいと思いつつも、忘れられないあの記憶。

月島は暫く何故か湧いてくる苛立ちを抑え続けるのだった。

 

 

 


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