王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなってしまって申し訳ありません……。
6月、鬼ですね……。おまけに暑さも鬼………熱中症に注意……。

6月中に投稿出来て、取り合えず良かったです。これからも頑張ります!




それにしても、こんな中でバレーするとしたら、まじで逝ってしまいそうですね……(苦笑)


第159話 和久谷南戦⑨

 

 

 

「(最強――――か………)」

 

 

年甲斐もなく、その単語に反応してしまうところを見ると、西谷や田中、そして日向、影山達を笑う事なんて出来るものだろうか。

自分も同じようなものだ、と縁下は自分自身を笑う。

 

火神が言い切った烏野は最強。

そんな風に極端な事を思う事なんて、これまで一度でもあっただろうか? 

思える事が(・・・・・)出来るだろうか?

 

縁下は、最強と言う単語に対して甚く気に入ってるメンバーを見て、笑えない、と思いながらも苦笑いをしつつ、ひとり考える。

 

高い火力を誇るのが烏野の武器。どんな壁でも戦える力があるのが烏野。そう言ってきたつもり、だった。

でも、やっぱりどこか後ろ向きだったのも否定出来ない。それは凄い先輩たち、ヤバい同級生たち、とんでもない後輩たちだけだと。

自分と他の皆は違う―――と。

 

 

でもコートに立ってしまえば、そんな事は関係ない。

 

 

最強と力強く後輩が言う。

皆が頷き合い、意識し合ってる中で、自分だけが無視する事など出来ない。

例えそれに程遠い力しかない個の力だったとしても、せめて思考は、姿勢は見せなければ立つ瀬がないのは事実だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大惨事になりかけたベンチサイドはと言うと。

 

 

「す、すまん先生。大丈夫か?」

「あははは……、大丈夫です。びっくりして ひっくり返っちゃっただけですので」

 

 

日向のファインプレーに、ほっと胸を撫でおろしていたのと同時に、ただただ感動を覚える。

 

それはベンチまでそれなりの被害を齎したが、それを気にする者など居ない。

でも、今回目の前で繰り広げられた光景だけは武田の目に焼き付いている。ひっくり返っても尚、焼き付き離れない。

 

 

「いやぁ、毎回顔面を擦っていたとは思えないフライングレシーブでしたね。日向君は!」

「だな。……それと、もう1つあるぜ先生」

「??」

 

 

武田の日向成長の話を聞きつつ、烏養はにやり、と笑った。

 

確かに日向の成長には目を見張るものがある、間違いない事実の1つ、見ていて好ましく嬉しい。だが、現在 烏養が注目したのはそこだけじゃない。

 

凄すぎる1年たちが目立つのは当たり前。……例え目立たなかったとしても、着実に、確実に成長し、前へと歩きだしている者はいるのだ。

 

 

 

「縁下の表情が、また変わりやがった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「影山ァ!! ナイッサ―!!」

 

 

17-16

 

1セット目で流れを完全に掴み、2セット目でもいい流れを生み出しながら進んできた筈だが、イメージ以上に点差はつける事が出来ず、常に張り付かれている。

要所要所的確に攻め、守り、粘る、和久南の地力の高さがよく解る展開だ。

 

 

 

「んぐっっ!!」

 

 

そして、ここ一番の集中力の高さも脅威。

影山と言う烏野2大ビッグサーバーを前にして、更に集中力を上げてきた、とでも言うのか。これまで以上を更新している様な動き、反応、そして読みで対応してきていた。

 

 

「ナイス! ナイスだ! 繋げぇ!!」

「っしゃ!! 猛!!」

 

 

見事なリベロ秋保のレシーブ、そしてその託された(ボール)を確実にセッター花山が和久南のエーススパイカーに託す。

全てを託された中島は、自信を持って全力で打ち放った。

 

 

「フッ―――!!」

「――――くそっ! ワンタッチ!!」

 

 

烏野は3枚ブロックで、中島に対応したが、そのブロックを利用する中島のスパイクを止める事は出来ず、そのまま大きく弾かれる。

中島の得意とするスタイルだが、まだまだ順応しきれない。少しでもレシーブの隙を見せればフェイントも飛んでくるから、一概に下がり過ぎるのも良くないから。

 

弾き飛ばされた(ボール)に影山が何とか追い縋るが、それでも弾き飛ばされた距離が大きすぎて届かない。

 

 

「猛ナイス!!」

「こっからだ! 逆転するぞ!!」

 

 

17-17

再びイーブンに戻す。

第2セット目で、1セット目を烏野が取っていて、有利なのは烏野だが、この試合展開を見る限り、正直どちらに転ぶか解らない、まさに一進一退だ。

 

 

 

ベンチでは これまで、和久南側の攻撃を見てきて、烏養は決めた。

最大のスコアラーは間違いなく文句なく中島だ。空中戦でのテクニックはこの場においてもトップクラスだと言って良い。

 

 

 

「やっぱ中島には3枚ブロックはやめるか。的を広くしてやる必要無ぇからな」

「了解」

 

 

リベロの西谷に伝令を伝える。

リベロは、選手の中でも最も頻繁にコートに出入りするのでこういった役目も務めているのだ。

 

 

「そんで、向こうも同じくブロックアウトを烏野(ウチ)で一番使ってくる火神に対して、壁2枚にしてきてる。……悔しいが、臨機応変な対応の速さは向こう上手だな。単純に壁数減らしゃ打ち抜かれる可能性だって上がるってのに、和久南側の守備力の高さ、粘りの自信があってこその英断だ。ブロックアウトを得意とする中島がチームに居るからこそ、相手側のブロックアウトにも対応する自信がある、ってのもありそうだが……」

「粘り……こっちも負けられん! 守り勝つ!!」

「だな。攻撃力だって守備力だって、負けてねぇ。事実、1セット目は獲ってるし、2セット目も接戦だ。変に気弱に構えるくらいなら、自惚れる方がマシってなもんだ」

 

 

烏養は苦虫を嚙み潰した様な顔をした。

ブロックアウト狙いで打ってくる選手は、烏野で言えば火神がそうだろう。

だが、それを主として練習に組み込んでるか? と問われれば首を横に振る。個人練習ではやっている様子だが、それでも自分達が慣れる(・・・)程ではない。

 

烏養は自分自身を戒めつつ、首を左右に振る。

今現在の事だけを考える事に集中する。

 

 

「兎も角だ。頼んだぞ、西谷」

「オス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東峰が連続得点(ブレイク)を許さず、一本で切って見せた。

 

 

18-17.

 

 

再び烏野のリード、そして西谷がコートに戻る。

万全な烏野の守備陣形で臨む、相手の攻撃(ターン)

 

レシーブ、そしてトスまで淀みなく完璧に上げて、最高の一撃が来るだろう―――と、誰もが思える展開で。

 

 

白石(シロ)!!」

「っしゃああ!!」

 

 

白石が選択したのは、インパクトの刹那、脱力し、力を殺し……身構えた相手の前方に落とす。

 

 

「フェイントォッ!!」

「!!」

 

 

いち早く気付いた西谷が声をかけ、それに反応した縁下が跳び付いた。

どうにか落とす事は無かったが、乱れてしまう。

 

中島のブロックアウトを見過ぎたせいか、無意識に半歩後ろに下がってしまっていたのが仇となったのだ。

 

 

「スマン! 西谷ァァ!!」

「オレ――――だぁぁ!!」

 

 

縁下の傍に居た西谷が続いて飛び込んだ。

2段トスは、丁度東峰が控える場所に飛び―――。

 

 

「旭さん!! ラスト!!」

「フッッ!!!」

 

 

渾身の力を込めて、打ち放つ……が。

万全じゃない状態からのスパイク、相手の壁のプレッシャー、第2セット後半、そして何より和久南側の堅牢な守備。

全ての面が良い風に働き、東峰のスパイクは、枠内を捉える事が出来なかった。

 

 

「ノータッチ!!」

「アウト! アウト!!」

 

 

ブロックは東峰の(ボール)に触れておらず、東峰のスパイクが着弾したのは、エンドラインより(ボール)二個分は外側。

 

 

18-18.

 

 

再び和久南側が巻き返す。

 

 

「トス! 低かったぁァァ!! スンマセン!!」

「いや、あの状態であそこまで上げれたら十分だ! ……決めきれなかったエース(オレ)が悪い!」

「ッッ~~~! ダメなトコはダメだって言わなきゃダメっスよぉぉぉ!! って言いたいっスけど、旭さん、自分にダメって言っちゃってるから、言えないじゃないっスか!!」

「ええ!? スミマセン!!」

 

 

 

いつも通り? な東峰と西谷のやり取りを耳に入れつつ、縁下はファーストコンタクトが自分であった事、フェイントのモーションは見えていたのに、西谷の方が遥かに早く、反応していた事、何より今のは澤村ならきっと取っていただろう、と言う確信。

 

 

「(何が、最強――……ッ)」

 

 

 

少し前まで本気で考えようとしていた自分が恥ずかしくなってくる。

夢見る前に、現実をちゃんと見ろ、と自分の頬を強く挟み込んだ。

 

 

「縁下! 今のは、ナイスレシーブだぞ! 後の繋ぎが悪かったオレが悪い!! 反省!!」

「決めきれなかったエース(オレ)も悪い!! 反省しますっ!」

「「あざーす!! うぇーーい!!」」

 

 

バチンっ!! と縁下の肩を叩きつつ、東峰と西谷は互いに身体をぶつけあう。

僅かだが、マイナス方面に考えてしまってた縁下の脳裏をまるで読んでいたかの様に。

 

 

メンタルにダメージを喰らってる余裕を持つくらいなら、次は捕る。そして最強である、最強の一員であれる事を自己暗示する方が遥かに有意義。

 

 

「ふぅ~~~~~………、次は、もっと完璧に取ります!! 反省!!」

「「おお!!」」

 

 

まさかの縁下まで乗ってくるとは想定外。

でも、その顔つきを見るなり、腹の決まった様子に皆が笑みを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~~ん、烏野は主将の方が守備力高そうだから、入れた方がより確実な気がするんだがなぁ」

「先を見据えての温存ってヤツか? んな先の先の事まで考えてったら足元掬われるどころじゃねーぞ。今だって和久南1番にブロックアウト取られまくってんだから。アイツ1人に何点獲られたんだ??」

 

 

慢心でもなければ過信でもない。

この試合も、先の試合も勝つための、チームの為の策だ。

だが、観客側から見たらそうは見えないらしい。

 

烏野のベストメンバーの1人は間違いなくオールラウンダー・主将澤村なのは間違いないのだから。

 

勿論、2連戦に向けて温存する必要性は重々理解してる様だが、それでも和久南も間違いなく強豪校。加えて同じ展開で点を獲られている。

そう思っても仕方がない。

 

 

嶋田は、烏養の判断は間違えてない、と頭で考えつつも、一進一退の攻防に手に汗握っていた。

 

 

「うう~~~~、誠也も今の結構やってっけど、相手もやってくる、って考えたら嫌な感じだね! いっその事、全部吹っ飛ばし縛りにするとか良いと思うのに! 強いの真っ直ぐスパ―ン! ってのも捨てがたい!」

「ええっ! それしちゃうと、烏野(こっち)の多彩さもなくなっちゃいますよ?」

「うぅ、それは駄目か! んでも、ハラたつ!!」

 

 

田中と谷地もブロックアウトには辟易としている様子。

火神が決めてくれる分に関しては大歓迎だが、同じ攻撃を相手もやってくる……と考えたら、どうしてもゲンナリとしてしまうのだ。

それ程までに、難しい攻撃だから。

 

 

「……点の取り合いは五分。この試合、ブロックアウトをどうにかするのがカギになってくるな」

 

 

嶋田は最終的にそう評する。

互角の均衡を何処で破ってくるか。……そして、どちらが破り一歩前に出るか、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ~~~~」

 

 

縁下は、もう一度ゆっくり深呼吸をする。

熱くなるのは構わないが、頭の一部くらいは冷静に戦況を見極めなければならない、と自分に言い聞かせながら。

 

 

「(いきなり、俺が大地さんの代わりになれるなんてありえない。技術が劣ってるんだ。メンタルは大丈夫でも、メンタルだけで技術の穴は埋められない。………今持てる力で、自分の最強の力でどうするか。……どうしようか)」

 

 

この時思い返すのは日向の言葉。

中島が格上なのを認めつつ、自分ならどうするか、と考え続けている。

頭を使うのが決して得意ではない日向も、懸命に振り絞っているのだ。

技術で劣るのなら、頭を使え――――。

 

 

 

「あの、ちょっといいスか」

【?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20点代に入っても、一進一退。

どちらも連続得点(ブレイク)を許さない。

 

それは、烏野最大の攻撃力を誇るターンでも例外ではない。

 

 

「旭さん! ナイスレシーブ!!」

 

「10番くるぞ!!」

 

 

綺麗に返球された(ボール)を影山が捕らえ、そして日向が飛び出す。

目の前にすればとんでもない存在感。間違いなく釣られる。

 

だからこそ、和久南側も日向には1枚ブロックで対応している。

1人は必ずつき、レシーブで勝負する。音駒のスタイルとここでも被ってくる。

 

 

「! 11番だ! レフト!」

「こっちだ!!」

 

 

そして、火神のマークも強めている。

火神・日向のコンビは、どっちも存在感が圧倒的だから、相対し続けるにつれて、スタミナも削られてくる筈なのだが、粘りの和久南の名を持つ彼らが先に音を上げる事はない。

 

 

「ストレート!!」

「!」

 

 

中島が花山に指示。

火神に対しては、とんでもなくスキルが高い故に、どんな策を講じても対応してくるのはここまでで嫌と言う程解っている。

だから、この瞬間は あえて打ち易いストレート側を開ける様に指示したのだ。

 

 

打ち易いコースを狙ってストレート勝負。

フリーで打たせる……とまではいかないが、これは スパイカーとしての意地・誇りを刺激する効果もあった。

 

 

「―――!! (勝負!!)」

 

「こいやぁぁぁぁ!!」

 

 

そして、火神はソレに乗った。

ストレート側に待ち構えるは川渡。

気合一発、吼えた。そしてその目だけは氷の様に冷静そのもの。

吼える様子からは想像がつかない程、集中しているのが解る。このスパイクモーションの一瞬でも感じ取れる程に。

 

 

生半可な、小手先では獲られる可能性が高い。純粋にパワー勝負。

 

 

 

「んんんッッッ!!」

 

 

 

コースの打ち分け、それらを全て度外視した一撃を見舞った。

火神は、特に苦手な事(バレー関係)は無いが、あえて言うならパワー頼りはどちらかと言えば不得手気味ではある。

でも、ここは引くに引けない。

 

 

 

「んぎっっっ!!」

 

 

 

川渡は飛び出した。

レシーブ――――と言うよりは殆ど体当たり。

気合で前に出て、ぶつかりにいったのだ。

 

 

 

「んぐぁぁぁ、っっっっしゃあぁぁぁあぁぁぁい!!」

 

 

腕と胸を使って強引に上へと上げる。

乱れるのは仕方ない。でも、上に上げさえすれば、味方が必ず繋げてくれると信じているから。

 

 

 

「ッッッ、くっそっ」

 

 

 

双方の気合・執念。

絶対に決めてやる・絶対に拾ってやる。

 

 

その攻防――――矛と盾。

 

 

今回は矛盾する事なく、盾側が勝利と言って良い。だからこそ、悔しいと歯を食いしばると同時に、口端が吊り上がる。

傍から見れば笑っている様にも見えなくもない。……と言うより笑っている。

 

 

それは川渡も同様。互いに高め合っているのがよく伝わる攻防だった。

 

 

「猛さん!!」

「オオ!!」

 

 

だが、悠長に浸ってる場合じゃないのも事実。

問題なくリベロの秋保がカバーし、2段トスで中島に上げたから。

場面としては最高にして、最大の連続得点(ブレイク)チャンス。

 

 

「!! 止めろ! 連続得点(ブレイク)許すな!!」

 

 

ここで一歩前に出られたら厄介な事になる。

烏野のエース……ではないが、スコアラーと言っても良い火神の攻撃を防ぎ、点を決めたともなれば、チームの士気も間違いなく上がるだろう。この1点は間違いなく重い、と瞬時に理解したからだ。

 

 

 

「ブロック2枚!!」

「いけ!! 猛!!」

 

 

 

そして、当然ここ一番で託すのは和久南の絶対エース中島。

 

 

ここで決めなきゃエースじゃない。

―――小さな巨人じゃない。

 

 

ブロック枚数を少なくさせて、対応をする烏野だったが、見事に日向の手の先を狙われ大きく弾きだされた。

 

 

 

 

―――だが、これは烏野にとって想定内。

 

 

 

 

ここで、時を少し遡ろう。

縁下が、自分に出来る事を最善を熟す為に、皆に提案した事があった。

 

 

「あの1番がブロックアウト狙ってきた(ボール)……、オレが拾います」

 

 

澤村なら拾っていただろう、と何度も自分に言い聞かせてきた(ボール)を、自分こそが獲る、と前へ出たのだ。

 

 

「インサイドは、火神や旭さんが守ってくれるから、オレは敢えて真ん中の深い所で守って、吹っ飛ばされた(ボール)に集中します。相手の背丈を考えたら、ブロックの上から打たれる事はあまりないでしょうし。……正直、賭けの要素が強いかもですが」

「賭けになってないですよ。絶対できます! 縁下さんですから」

「………何だか、火神のその強い信頼、結構オレには痛く響く………」

 

 

縁下なら大丈夫、と胸を叩きヤル気満々な所を魅せる火神を見て、縁下は苦笑いをした。

特に、本当に特にしてあげられてる事は無い筈なのだが……。

 

 

「見えない所でカバーしてくれてるんだよ、縁下は。……まぁ、特に同級生たち案件は?」

「……あぁ、それは……」

 

 

東峰は笑って頷いていた。

勿論、縁下の案採用だ。

 

 

「よっしゃ、それ次やってみんべ。前はオレら2人に任せてくれ」

「寧ろ、常にこっちに来て欲しいくらいですね。中島さんには狙って貰いたいです」

「あれ? 何か、火神が西谷化した? いやいや、元々資質あったっけ??」

「あははは。光栄です」

「光栄って言えちゃうのがスゲー大物……」

 

 

そういうと、3人はそれぞれの配置に戻った。

 

 

 

 

 

託された。

そして自分にも言い聞かせた。

 

澤村なら捕るであろう(ボール)……自分も必ず獲る、と。

少しでも、最強烏野の一翼になれる様に、と。

 

 

裏を返せば―――――。

 

 

 

 

 

 

『――――これを、拾えなければ』

 

 

 

 

 

立ちふさがる大きな壁。

後1歩、後1歩が足りなかったこれまでの大きな壁を乗り越えるべく、突き進む。

 

 

 

 

 

『コートでオレに存在価値は無い―――!!』

 

 

 

 

 

 

超えようと藻掻きに藻掻いた、その渾身のレシーブ。

和久南側の川渡の先ほどのレシーブにも通じるモノがある。

見る人をまさに魅了させるだけの渾身のスーパーレシーブだ。

 

 

 

「クッソ……!!」

 

 

 

渾身の当たりなのは、中島とて同じ。

だが、完全に拾われたのを見て、歯を食いしばる。

最大級の賞賛を上げたい気はあるが、これは不味い……と歯を食いしばる。

 

 

 

 

「「「えんのしたァァァァァァ!!!」」」

 

 

 

 

コートの外では、田中・木下・成田が大きな大きな声援を送った。

今の一本、単なるレシーブじゃない事は3人にも十分伝わっている様だから。

 

 

 

「繋げぇぇ!!」

「西谷ぁぁ!!」

 

 

「来るぞ!!」

「ここ、絶対止めるぞ!!」

 

 

両チームともに熱が入る。

これは互いに獲られてはいけない点である、流れを呼び込む点である、と言うのを自覚しているのだろう。

是が非でも獲る! と両チーム声を張り上げた。

 

 

 

「ふっっ!!」

 

 

 

そして、縁下が繋いだ(ボール)を見事に上げて繋いだのは西谷。

その先に待ち構えているのは―――日向。

 

 

「センター!! 真ん中だ!!」

 

「日向ラスト!!」

「ブロック3枚!!」

 

 

あの西谷の位置から日向の位置に2段トスを上げれただけでも十分過ぎる程のナイストス。

ただ、日向の最大の武器を思えば3枚ブロックとの勝負は、当然分が悪い。

常人離れしたスピードも、サードテンポの2段トスであれば十分追いつける上に、日向の背丈を考えれば壁に阻まれる可能性の方が極めて高い。

 

 

 

「(落ち着いて、落ち着いて………)」

 

 

 

そんな場面であっても、日向は一切ひるむ様子は無い。

ただ無鉄砲になっている訳でも、我武者羅になってる訳でもない。

 

ただただ、今自分に出来る事を、何をすれば良いかを考えているだけだ。

幸いな事に、お手本となれる相手は沢山いる。

それも たった数ヵ月間で沢山増えた。

 

―――何よりも、今までずっと共にバレーをしてきた相手は誰だと思ってる?

 

 

 

 

今ここで3枚ブロックを打ち抜くだけの火力は持ち合わせていない。

でも、烏野は最強。皆が揃えば最強なのだ。

 

 

 

「(―――打てば、捕まる)」

 

 

 

最強の二文字を胸に抱くが、そのまま打っても間違いなく捕まる未来が見える。

冷静に、見据えている。

 

 

「(なら、フェイント? 秘技・静と動? ブロックアウト?)」

 

 

集中しきった日向の目には、時間が緩やかになったかの様に感じているだろう。

本人は自覚していない。ただただ考える時間が、その猶予を得る事が出来たのは、間違いなく、ここ一番で見せる集中力だろう。

 

 

 

「(ブロックアウトは―――ダメだ。失敗した。成功出来る自信を持てない。……なら 立て直す)」

 

 

ここで、1つの解にたどりつく。

手本らしい手本は、幾つか、幾つも見てきた。

あの指先を狙う精度を求められるブロックアウトより、可能性は極めて高い。

 

 

 

「ん゛ッ!?」

「???」

 

 

 

日向の選択。

それを頭の中で決定したその瞬間、変な声を出すのは月島だ。

日向が何をしようとしているのか、それを悟る事が出来たから、だと言える。

そして、変な声を出してしまった最大の理由。……あの手は(・・・・)ブロックアウトを狙ってくる、ブロッカーを利用してくる攻撃と同じくらい……嫌な技だから。

 

 

 

 

「(リバウンド――――!!)」

 

 

 

 

日向は、軟打で角度をやや斜め上に付けて、相手のブロックを利用して、大きくバウンドさせた。

これまでで一度も見せてこなかった手。まさかの選択に動揺を隠せないのは和久南側、中島。

 

 

「(コイツ―――っ!!?)」

 

 

だが、それに気づいた時にはもう遅い。

日向のリバウンドで跳ね返させた(ボール)は、見事に次に繋ぐ事が出来た。

 

 

「ッシャ! オーライ!」

 

 

後ろで控えていた西谷が余裕を持って落下点へと入ったからだ。

最高の形で、攻撃に入る事が出来る。

 

 

 

「今のリバウンドか! わざと? 偶然??」

「多分、狙ってやってますね。おとーさんがやってたのを真似たのか、第3体育館の秘密特訓か」

「そういや、火神もやってた……って、秘密特訓て何??」

 

 

秘密特訓を知ってるのは、あの場にいたメンバーだけだ。

ブロックアウトを日向が初めて成功させたのも、あの秘密特訓の時。間違いなく糧になっている……が、月島は苦い顔をした。

 

 

「まぁ、見取り稽古はし易い環境と言えばそうですが、絶対マグレですね」

「辛辣!! 褒めても良い場面だと思うよ!? 日向ナイス!!!」

 

 

菅原は、月島に苦言を呈しつつも、日向にはナイスだと、声援を送った。

 

 

そして、菅原は今の日向の姿を改めて見ると、確信出来る。

稀に顔を出すと言われてる(火神&影山談)ここ一番の集中力を見せている、と。

 

 

 

「(縁下、日向………、どんどん飛んでけ(・・・・)よ!!)お前ら!! ここだ!! 獲りきれ!!」

 

 

烏養も菅原同様。

この試合でまた1つも2つも成長して見せたメンバーに最大の声を上げる。

 

 

 

「影山ぁァァ!! こい、やぁぁぁぁ!!」

「――――!」

 

 

 

和久南側は、日向のリバウンドに目を奪われ、間髪入れずに攻撃に入ってくる日向に更に深く奪われる。

その結果―――最も注視しておかなければならない相手を、ほんの一瞬だが見失ってしまった。

その一瞬を、影山は見逃さない。

 

 

最強の囮を最大限に活かし、繋げるのは火神。

 

 

「2度目――――の!!」

 

「ッッ!!?」

「向こうだ!!」

 

 

 

完全に振られたブロッカー陣。

レシーバーの陣形も乱れているのが一目で解る。

 

 

 

「正直ッッ!!」

 

 

 

2度目は決めきる! と思いっきり火神は打ち抜いた。

今度は高さが明らかに足りてないブロッカーの上から鋭角に打ち抜く一撃。

粘りの和久南の誰にも(ボール)に触れさせない。

 

 

 

「っしゃああ!!」

「うぉあああああああ!!」

「火神ナイスキーーー!!」

 

 

 

3度ではなく2度目の正直。

決められなかった分を見事に決めて見せた。

 

 

「翔陽ナイス!! 今のは完璧! 完璧だ! あのタイミングであの意表のつき方なら、叩き落とされる心配は殆どないよ!」

「うぉ、おおおおおお!!! だろっ!?? だろっっ!?? イケル、って感じたんだよっ!! めっちゃイメージ通り!!」

 

 

火神と日向は2人でハイタッチを交わした。

ただ、月島と同じレベルで辛辣な者が1人、ここに居るのを忘れてはいけない。

勿論、影山である。

 

 

「マグレで舞い上がってんじゃねぇ! 次使って、叩き落とされんじゃねぇぞ!!」

「前半部分いらん!! 後半部分だけで良い!! 次も成功させてやる!」

「リバウンド成功させてやる! より、決めきってやる! の方が良いと思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶好の場面。

連続得点(ブレイク)をして、逆転を狙う絶好の場面で取り返された事に対してもそうだが、それ以上に中島に衝撃が走ったのは、あの日向にだった。

 

 

烏野高校が、何故最近になって頭角を現しだしたのか。

ほんのつい最近までは特別強くもなく弱くもない、目立たないチームだった筈だ。

トップ戦線争いからは脱落した。―――特別な想いがあるからこそ、烏野を【堕ちた強豪 飛べないカラス】などとは呼びたくはないが、それが現実だった。

 

 

でも、IH予選の活躍を聞き、そして対戦してみてよく解る。

強力な戦力が整ったのだと。新たな次代を担う1年が入ったのだと。

 

2セット目に入り、戦線離脱していた11番が帰ってきて、そのプレイを目に焼き付けた。

 

監督の話を聞いて、自分も直に接してみて解る。

彼は、間違いなく【小さくない(・・・・・)巨人】だ。

 

 

あの時代、春高の空を舞った【小さな巨人】

 

 

目を輝かせて追いかけたあの選手。

高い技術があり、背丈が無くとも大きな相手から決めて見せた力に見惚れた。強烈に憧れた。

身長の事を気にし始めた頃の支えとなった。

 

 

 

そして現在―――目の前の男は、高い技術を持ち、そして尚且つ背丈も相応にある男。

歳下かもしれないが、超えなければならない相手だとロックオンをしていた。

倒さなければならない相手だと無意識に考えていた。

 

 

だが、ここで少々上ばかり、背の高い相手ばかり見過ぎていた事に気付く。

 

 

烏野の現10番。

あの小さな巨人と同じ番号を背負う男。

試合の前から注目していた筈なのに、同じ舞台に立とうとしている存在を、その匂いを感じていた筈なのに。

 

少々、目が曇ってしまっていた様だ。

 

 

 

 

「そんなんで、勝てる相手じゃないよな!!」

 

 

 

中島は己自身に活を入れる。

試合はまだ終わってない。

 

 

 

 

 

 

「猛!!」

 

 

また、回ってきた(ボール)

仲間たちから繋がれ託された。

 

 

 

「――――フッッ!!!」

 

 

 

渾身のバックアタック。

自身の目を覚ます一発目、そして尚且つ相手に意識させる一撃を。

 

だが、それは無情にも―――。

 

 

 

 

ドッドン!!

 

 

 

烏野の壁に阻まれてしまった。

 

 

 

23-21.

 

 

 

烏野高校連続得点(ブレイク)

 

 


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