王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第16話 3対3 ①

そして 運命? の土曜日がやってきた。

3対3の試合の日である。

 

「えーと、サインとか大体確認し終えたけど、俺がセッターのポジションで良いのか?」

「そうだね。火神はどこでも出来るって言ってたデショ。僕と山口もミドルブロッカー出身だし?トスは控えめに言っても上手く無いから」

「了解。山口もそれで良い?」

「うん。よろしく」

「んじゃあ、ジャンジャン上げるから、ビシバシよろしく」

 

 

火神、月島、山口チームは しっかりと打ち合わせをしているのに対し、影山、日向、田中チームはと言うと。

 

 

「潔子さん! 今日も美しいっス!!」

「わっ、び、美女だ! 美女がいるっ!! なぁなぁ、あのひとマネージャーかな?? なぁなぁ影山!」

「………………」

 

 

控えめに言っても、コミュニケーション不足ではないか? と思えちゃう光景が広がっていた。変に緊張するよりは良いのかもしれないが……。

 

それでも特に不安を覚えるのは司令塔だと自覚している筈の影山だ。

日向を完全に無視していたのだ。確かに会話の内容は影山にとっては正直どうでも良い内容な上に試合にも関係ない清水のことだから。

でも、一蹴すらせずに終始無言だったのはあまりよろしくない。

 

 

 

「よーし、じゃあ 始めるぞ! 集まれ、お前らー」

 

 

澤村の号令。

その後 互いのチームがネットを挟んで向き合う。

 

「んじゃあ、互いに全力を尽くす事。まぁ色々とあったが、今日は一先ずプレイに集中してくれ」

 

澤村の言う色々とは本当に濃いものではあり、それに日向や影山にとっては重要かもしれないが、他の者たちには関係はない。ただ全力でプレイするだけなのだ。

 

 

「あーえー、オホンッ」

 

 

そして、全力で戦う~と言うのは何も肉体的なものだけではない様。

 

 

「小さいのと田中さん、どっちを先に潰―――抑えようかなぁ? あっ、そうそう 王様が負けるところも見たいよなぁ。一応、火神くんのリベンジマッチでもあるしー」

 

 

精神を揺さぶるのも立派な戦術のひとつだ。

練習で、同じチームメイトにしちゃうのはどうかと思うが、煽ってくる対戦相手もいないとは決して言えないので、良い経験の1つ……となれば良いんだけれど、揺さぶる相手はしっかりと選んだ方が良いかもしれない。

 

 

「ちょっ、ツッキー。聞こえてるんじゃない……?? ヤバイって!」

「何言ってんの。聞こえるように言ったんだろうが。冷静さを欠いてくれると有難いなぁ」

「うわぁ…… 性格わっるぅ……。と言うか ここでも俺の名前勝手に使われてるし……。とばっちりはほんと勘弁だよ」

「だな。良い具合の悪さしてると思うよ。……まぁ あれだ。頑張れよ? 火神」

 

 

主審位置に戻る前に、澤村に肩をぽんっ、と叩かれた火神。まとめ役は最早決定事項になってしまったと言っていい様だ。この優等生でもあり問題児でもある男(月島)の。

 

 

「……頑張りますけど 変に期待しすぎないでくださいね?」

 

 

火神がそう返すと、澤村は笑顔で手を振って戻っていった。

 

「ま、即興のチームだし 気張らずに行こうよ。それに、見てみたいって思うだろ? 火神も。……家来たちに見放されて一人ぼっちになっちゃった王様ってヤツを直に」

「ほんっと、良い具合に古傷を抉っていくねぇ。なんか煽りも堂に入ってるし。……んでも、それが吉と出るか凶と出るのかも把握しといた方が良いよ?」

「は?」

 

 

火神の含みのある言い方に月島は、少し不快感を覚えたのか 一体凶の部分はどこなのか、と聞いてみたかったんだが、それは聞くまでも無く直ぐに来た。

 

 

「ウフフ~ 聞いたあ?? お2人さん。あ~~んな事言っちゃってぇ~~。育ちが悪かったのかしらぁ? あ~~んな良い子も一緒にいるのに、どーしてなのかなぁ~~?」

 

 

もの凄く違和感を覚える田中の言動。

笑っているんだけど笑ってない。その辺りは 月島も似たような表情なんだけれど、田中のそれはまた違った。明らかに怒の感情がその笑みの奥に見えていたから。隠そうとさえしてないんだろう。溜めて、溜めて――放出するために。

 

 

「月島クンってば、もうホ~ント~……―――――擂り潰す!!!」

 

 

迫力のある眼を飛ばしてくる田中。心此処に在らずだった影山も思わず二度見してしまう程で、日向は田中の陰に隠れて煽り返していた。

 

「ふふん」

「うぁ……」

「想像以上にしんどいかも……。でもそこがいい」

 

山口は完璧に気圧されていたが、月島はしてやったりな感じ、火神は火神でげんなりしてはいたが、それでも田中、そして影山、日向のチームとやれるのが楽しみだった。

 

 

そして、煽るという事は相手がイラつくという事。

そのイラつき、怒りと言うのは 力を与えたりはするかもしれないが、あまりに気にしすぎて、過剰に入ってしまう場合もある。諸刃の剣ともいえるかもしれない。

結果 変に力が入ってミスを誘発もしやすくもなってしまう。

 

これらは、月島の色々と計算された思考だったりする。もちろん、本人の性格がアレなのも言うまでもない事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は始まった。

 

まずは山口のサーブからで 手堅くフローターサーブでボールを入れ、田中がそれを処理、怒気をそのまま剥き出しにして跳躍。

 

 

「そォォ らァァァアア!!!」

 

 

怒気を込め放たれたスパイクは 月島の右手に当たる。利き腕だし 叩き落とせるかと思った月島だったが、田中のパワーが圧倒的に勝っていた為、落とす事はおろか ボールを彼方に吹き飛ばしてしまった。

 

 

「どぉだ、オラァァァァ!!」

 

 

ぶんぶん、と腕を振って 得点を確信するのだったが。

 

「ッんっっ!!」

「なぬっ!?」

 

火神が飛ばされた先にいた。

もう少し、月島が押されてしまっていたら 飛ばされたボールは体育館の壁にまで届いて、そのまま有無言わさずに点を取られてしまったと思うが、幸か不幸か そこまで吹き飛ばされてはいなかった様だ。

 

 

「火神ナイスレシーブ! 田中~~、だっさいぞ~~~」

「決まってからドヤ顔しろよ~~~」

「ってか、服脱ごうとすんなよ~~~」

 

「外!! うっせぇぞっっ!!」

 

 

ブーイングが外から飛んできた。

何やら今の田中はどうにも人気がない様だ。

 

 

「ゴメン山口! カバー!!」

「うんっ、ツッキーー!」

 

 

山口の二段トス。アンダーで上げたボールの為、精度は落ちるものの 比較的上手く上げる事が出来た様だ。

後は月島の長身がものを言う。少しの助走でも十分。

ブロックに来た田中を手を躱す様にライトサイドに打ち放ち、コートにボールは落ちた。

 

 

「っしゃっあ! ナイス月島!」

「ナイス ツッキー!」

「まだたったの1点デショ。大袈裟じゃない?」

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

 

月島の言い分を物ともせず笑顔で駆け寄ってくる2人に、何だか苦々しい顔を見せていた様だが、それでも手を伸ばす火神。

月島とは真っ向コミュニケーションが一番である事を火神はよく理解していた。あれだけ口が悪く 更に身長も高ければ なかなか正面突破で接してくる者は少ないと思えたから。

 

それは、事前情報ではあるものの 月島と直接接した火神はより確信が出来て手を伸ばしていた。渋々と言った感じではあるものの、月島もその手を叩いて答える。

 

 

「忘れてた。火神ってレシーブとかもかなりレベル高いんだったな……」

「そうです!! 何度も何度も俺たちを助けてくれたレシーブですので!! めちゃくちゃ心強かったですっ!!」

「そうだったなー、って思うし 日向がそんな気分になんのもわからんでもないが、とりあえず笑顔で言うのは止めろ日向。ありゃ今の俺らにとっては、心強いじゃなく脅威そのものだぞ。ただでさえ高い壁がいんのに フォローに回る火神もメチャやべぇじゃねぇか。(……攻守に隙なし。まさにオールラウンダーってヤツか。――すげぇな。今のレシーブ、ノヤとかぶって見えた)」

 

怒りに身を任せていた田中が一気に冷静になってしまう程のファインプレイだった。

田中の攻撃は 田中自身も 見ていた周りも決まった、と思っただろう。それ程までにボールは弾き出されてしまったのだから。……だが、見事に上げて見せた火神。

反応速度が凄まじいのか 或いは読んでいたのか。

 

 

「と言う訳で、わかってると思うけど 田中さんは煽っちゃダメ。その辺ぜーんぶ力に変えて打ってくるから。何とか拾えたけど、あんなのそうは無いと思ってくれよ」

「チッ」

 

点が決まったことより、月島は自身のブロックが弾き出されてしまったことに不快感を覚えた様だ。これが後々のネチネチリードブロックに変わるんだ、と思えば火神も何処となくワクワクしてくるというものだ。

 

「田中さんへのマークはこのままで。あと翔陽は動きが早いから、影山から上がったら冷静に追いかけてくれ。ひっかけたボールは取れる範囲で俺が頑張るから」

「OK!」

「わかってる」

 

たった一度ではあるが、火神のプレイには魅せられた。

あの中学の試合の時。北川第一を目的に見に行った筈だったが、違う方に目が奪われた。

山口は勿論の事、月島でさえ……心に何かが沸き立つ思いだった。

たったワンプレイでここまで惹きつけられたのは初めてで、かなり複雑な思いを抱える月島も、何も言わずただ火神に従った。  

 

澤村も菅原も、そして対戦している田中、マネージャーの清水でさえも、間違いなく3人のまとめ役は火神であると再認識した瞬間でもあった。

 

 

そして、当の本人はそんな事は考えてはいない。

ただただ考えているのはこれからの事。

これからやってくるかもしれない速攻の事。

 

 

「(……さぁ 影山、翔陽。見せてくれよ。お前たちが噛み合った所。……あの変人速攻を生で体感させてくれ)」

 

 

火神は、ただただ楽しそうに楽しそうに構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も攻防が続く。

広いコートをたった3人で守り、攻める為 得手不得手はあれど 苦手を補ってくれる人は6人に比べたら圧倒的に少ない。故に個々の実力が試される場面でもあるのだ。

そして、広いコートだからこそ、一度抜かれたらそう取れるものでもない。

 

「っしゃあ!!」

「くっ……!」

 

 

それは火神も勿論例外ではない。当たり前だが彼は超能力者の類ではないのだから。

培ってきた経験からくる予測、そして洞察力から読み 最善に動く、ただそれを愚直に熟しているだけなのだから。それだけでもかなり高い水準にいる事は事実だが、すべてをフォローできる筈もなく、取れないボールは取れないから。

 

 

 

 

 

 

そして この6人の中で 最も苦戦を強いられているのは日向だった。

影山にトスを上げさせる。納得させる事は出来たが、それでも悉く月島に阻まれてしまっている。

 

 

「んー、田中は何本か決まってるけど、日向はけっこう止められてるな」

「月島……、身長があるだけって訳じゃないな。かなりブロックが上手いよ。サーブとブロックでシャットされてるな。せっかく火神のサーブ上げてもこりゃ厳しい……」

 

 

 

 

 

当然、攻撃が決まらなければ得点を得られない。ブロックに阻まれ続けたら ブレイクポイントを許してしまう。

 

「ほらほらどうしたの? ブロックにかかりっぱなしだよ? ここでこそ、王様のトスじゃん。ブロックも振り切れるヤツ。まぁ、ついでにスパイカーも振り切っちゃうけどね」

「っ……、うるせぇんだよ」

 

 

そして、影山への煽りも健在だ。田中には効果は出ないどころか勢いがそのままついてやってくるという事を学んだので、今の標的は日向と影山の2人に絞っている。

 

 

「(火神がいる以上、サーブで稼ぐって手はそうは使えない。日向は、今のところ ほぼシャットアウト。……田中さんは上手く捌いてるが、それでも何度か捕まってる。……どうする、どうする)」

 

まるで、将棋の様に 徐々に手を詰められていくような感覚がした。

全てを防がれた時、何も通じないのではないか? と。

 

 

「ほらほら、次は火神君のサーブだよ? 大丈夫かい? おチビちゃん」

「むっかーーーー!! 取ってやる!! 取ってやる!!! 見てろよ、このやろーー!」

 

 

日向の煽りも効果は抜群にあったんだが、今回だけは旗色が違った。

 

火神の放つジャンプサーブは正確に勢いよく、そして守れていないスペースを突いてくる。

それも エンドラインぎりぎりを狙ってのサーブだ。見ている側も火神本人もサービスエースの手応えだったが。

 

 

その軌道上に阻む影があった。日向だ。

 

 

持ち前の反応の良さ、そして 月島から受けた仕打ち(煽り)もあり、ビビらず真っ直ぐ見据えて……。

 

「ほぎゃっっ!!」

 

火神のサーブを胸部で受けて、上げた。

 

周囲から歓声、と言うよりどよめきが沸いた。

 

「……日向って、ほんと時々だけど すげぇ動きするよな」

「ああ。今のは俺も決まったと思ったよ」

「アレ、絶対痛そう……」

 

等と反応は様々。位置取りも見事で反応もかなり良い。後はレシーブの技術さえしっかりと修めれば……。かなり先の話になりそうだが。

 

 

その後は 田中の二段トスからの影山のストレートで得点。火神のサーブを一本で切った。

それが意味する所は非常に大きい。そして次は影山のサーブ。

 

「(火神は駄目だ。……狙うは、アイツら)」

 

影山はボールを高く上げる。イメージを強く持ち、想いも強く込める。練習し続け来たサーブトスからの跳躍、空中姿勢。思い描くのは2人の男の姿。決して負けてない、劣っていないと自分に言い聞かせつつ、打ち放ったサーブは 山口の方へと矢のように放たれた。

 

 

「山口ッ!」

「うぐっっ!?」

 

 

山口は影山の強力なサーブをとらえきる事が出来ず、ボールは彼方へと飛んで行き、そのままホームラン。

 

「ゥシッ!」

 

確かな手応え、そして 得点した結果を見て、ぐっ と影山は拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も立て続けに山口が狙われ、連続得点を許してしまった火神チーム。

 

「ご、ゴメン。ツッキー、火神……」

「オーケーオーケー。反省はしつつ一回落ち着いて。そんで次切っていこう。月島、なるべく山口の方に寄ってフォローを頼めないか? 反対側のスペースが広がってしまうけど、そっちは俺が何とか対応するよ」

「チっ……」

 

影山に連続得点を決められる事に苛立ってるのか、山口の連続ミスに苛立ってるのか、或いはその両方か。月島の舌打ちの回数も多くなっている。

 

「それにしても、影山、サーブの精度がどんどん上がっていってるような気がする。……流石だな」

 

 

ぐいっ、と流れる汗を拭いつつ、影山を見据えた。

最初こそは、火神を狙って 勝負するつもりでサーブを打っていたんだが……、もう殆ど火神の方へ狙って打ってくる事は無いのだろう。リベロにサーブを打つようなものだと考えているのかもしれない。

確かに そこで、点を取れれば盛り上がる事間違いないのだが、初見で取られている以上 そちらへ打つリスクを鑑みると、もう選択はしてこないと判断できる。

何より、負けた時の罰を考えたら、勝ちに徹するしか無いのだろう。

 

 

 

「まとめて点を稼いでやる!」

 

影山の3球目。弾丸のように放たれたサーブは今度は月島側に飛んだ。イラつきもそこそこに増している月島は ここで意地のプレイを見せる。お世辞にもナイスレシーブとは言えないが、それでもボールを上げる事には成功。ややエンドラインより後ろ高くに上がったボールを火神がフォローに走る。

 

 

「よっしゃ、影山ナイッサーー! チャンスボール来るぞ、日向!」

「うっす!」

 

影山のサーブで乱れたボールを見て、チャンスボールが来ると田中は判断し ネットから離れて構えた。日向も同じく。そして 戻ってきた影山もセッター位置へ戻り 攻撃態勢が整った。

 

それを横目で確認した火神は、大きく息を吸い込み。

 

「山口ッ! レフト!!」

 

吐き出すと同時に山口がいるレフト側を指さした。

 

 

ジャンプしボールをとらえた。

 

そして、可能な限りの丁寧さで、短くも長くも近くも遠くもないトス。

美しささえ感じるアンテナまで伸びるトスを上げた。

 

 

 

「(影山のような超精密無茶苦茶速攻トスなんて、無理だった。……でも、このトスはお前を何度も見て、何度も繰り返したヤツだ)」

 

 

 

視野を広げ、スパイカーに選択肢を増やし、可能な限り考えられる時間をも生み出すトス。

 

 

位置が悪かったのを考慮すると会心の手応えだと言える。

指に掛かり具合から、高さ、ボールの勢い、そしてイメージした到達ターゲット位置まで。そう何本も出来るものじゃない会心の当たり。

 

 

ただ、やや残念なのは 山口はそこまで考えていなかったようだ。

普通に助走、そしてスパイクを淡々と決め、またしっかりと集まってハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

「……綺麗なトスだったな」

 

一瞬、目を奪われたと言っていい。目が離せなかった。

菅原は思う。自身はセッターとして、今のが理想的なセットアップなのではないか? と。無論、速攻等を加えれば必要なトスも変わってくるから一概には言えないのだが、それでもそう思えてしまった。

 

「んっん~~。天才ってホントいるんだべな~。それも2人とか」

 

悔しくはある。だが、それ以上に糧にするべきだと菅原は思った。

アレは言うなら、凄く―――物凄く丁寧なトス。

割と簡単なイメージも沸きがちではあるが、それでも一瞬一瞬で判断するプレイの最中で可能な限りの丁寧。簡単なようで物凄く難しい。

 

 

それでも、自分もやる。出来ないとも言えない。やらなければ セッターとは言えない。

 

 

菅原はそう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そのプレイに目を見張ったのは 菅原だけではなく、同じくセッターである影山もそうだ。完璧なトスだと思った。自分なら あの上げにくい位置のボールをどう処理するかを考えてみたら、数ある選択肢の中の1つのイメージが重なって見えた。

 

「(……完璧。なんなんだよ、お前は本当に)」

 

一瞬怖いと感じた。初めてかもしれない。

でも、それ以上に心沸き立つものがあったのだった。

 

……が、今はどうすれば勝つことができるかが重要。

 

なので、直ぐに気を引き締め直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、互いのポイントゲッターである影山と火神のサーブを制するも、やはり地力の差が徐々に表れていったのか、火神側の点が追加されていった。

攻撃面では、影山チームは負けてない、寧ろ勝っていると言っていいが、点を取りきる、ブレイクする事が出来ない。個々で勝ってる部分があっても、3人が強い方が強いのだ。

 

 

 

そんな中で、焦りが見え始める影山。そして、そんな表情を決して見逃さないのが月島だ。

 

「ホラホラ、点差広がって行っちゃうよ? 王様。ほんと、そろそろ本気だした方が良いんじゃない??」

 

ここぞとばかりに煽る煽る。

その言い方は、何も知らない日向にも非常に不愉快になるもので。

 

 

「なんなんだ!! お前!! ってか、昨日からだよな!? 試合中にまでつっかかってきやがって!! 王様のトスってなんなんだよ!!」

「あれ~? 君知らないの?? 火神君は知ってるって言ってたんだけど?」

 

 

月島の一言を受けて、日向の視線が…… いや、顔がぐるんっ! と勢いよく火神の方へと向いた。ここでも勝手に名前使われる火神。ほんといいとばっちりである。

 

 

だが、今回に限っては 火神は何も言わなかった。

払拭できる切っ掛けのひとつでもあるから。考えたくはないが もし―――何も起こらなかったら影山はこのまま変わらないかもしれない。あの夢中になれたセットアップ、そして 今後戦うであろうチームとのバレーも変わってくるかもしれない。

今に不満がある訳ではないのだが、それは少々さみしいから。

 

 

 

火神が見守る間に、先へと進んでいく。

影山の根幹部分へと、月島の言葉が突き刺さった。

 

 

「噂じゃさ。コート上の王様って異名は、北川第一の連中がつけたらしいじゃん。王様のチームメイトがさ。その意味は――自己チューの王様、横暴な独裁者。元々噂だけは聞いたことあったけど、あの試合を見て納得いったよ。――横暴が行き過ぎて、あの決勝 ベンチに下げられてたもんね」

 

 

 

刺さった言葉は、影山の脳裏に深く深く侵入し、記憶を司る海馬まで到達した。

 

あまり、思い出したくないあの光景。

 

影山は 速さを拘った。もっともっと早く、と。ブロックを振り切らないと勝てない。

 

決勝戦の相手は白鳥沢中。

 

全中の常連校。はっきり言えば地力の差は明白だった。一回戦の時とは訳が違う。

この強敵に勝つなら 周りが自分に合わせなければ勝てない。影山は強くそう思ったのだ。

 

 

 

――もっと速く動け!! もっと高く跳べ!! 俺のトスに合わせろ!!! 勝ちたいなら!!

 

 

 

それが引き金だった。

 

第1セットの相手のセットポイント、トスを上げた先には――誰も居なかった。

 

コンビミスは何度かあった。トスの速度についてこれなくとも、触るくらいは出来ていた。

でも、もう誰も居なかった。

 

完全な拒絶。もう付き合いきれない。

 

言葉ではなく行動でそれを示された。

 

 

そして――影山はベンチに下げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影山本人の口から聞いたわけではない。

だけど月島の言葉とあの場にいた雰囲気から全て理解できた者たちは解る。そして言葉にならなかった。

確かに影山の自業自得な面はあるだろう。横暴な自己中なプレイをされ続けたチームメイトの苦悩や苛立ちも判る。

 

でも、そこまでしても、言ってはいけない部分に触れたとしても、そうまでしてでも勝ちたかった影山の気持ちもわかる。

それは誰しもが大なり小なり持ち合わせている勝利への飢え。影山はそれが突出していた。誰よりも貪欲に飢えていた。

 

そして 他の者たちが勝利より、拒絶を取った後 影山は漸く取返しがつかない事をしたんだと理解出来たんだろう。

 

 

 

「――それで、クイックを使わないのもあの決勝のせいでビビってるとか?」

 

 

月島の言葉は、影山のトラウマを正確に抉り続けた。あまりに陰湿だと思った田中が一歩前に出る。

 

「……てめぇ、そろそろその辺にしとけよ。試合中だろうが」

「田中」

 

そして、田中なら 代わりに食って掛かるであろう事を読んでいた澤村が 田中を見て首を横に振った。月島は確かに陰湿、性格悪すぎる。でも、ただ事実を言っているに過ぎない。自己中がどういった結果を生むのか。それを影山にはっきりと判らせる為に、澤村は田中を止めたのだろう。

田中は納得がいかないような顔をしていたが。

 

 

「………ああ、そうだ」

 

 

暫く沈黙が流れた後、影山の口が開いた。

 

それは、あの瞬間から今日までずっと思っていた事だった。

 

 

「トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ」

 

 

プライドの高い影山の告白。

それを聞いて、ますます体育館は静寂に包まれるかと思いきや。

 

 

「えっ、でも ソレ中学のハナシでしょ?? 俺にはちゃんとトス上がるから別に関係ない。影山に認めさせるだけのレシーブできたし! それに誠也のサーブだって、とってやったしな!!」

 

 

日向の何処か陽気な発言が一気に空気を弛緩した。

緊迫感が緩んだ。わかってはいても、火神は頬が緩むのを止められなかった。

 

 

「……ははっ! ナニそれ。ぶつかった、の間違いじゃないのか翔陽」

「と、とったんだよっっ!! それは兎も角、今の問題はもうただひとーーつ! お前をどうブチ抜くか、それだけが問題だ!」

 

 

ビシッ、と指さしてくる日向。

一球取った(ぶつかった)だけで、火神の分は目標達成、みたいな感じの日向に やや複雑な表情を浮かべていた火神だったが、とりあえずヨシとした。

 

 

場が笑いに包まれたからだ。 

 

 

 

「俺たちが勝って、ちゃんと部活入って、お前は正々堂々セッターをやる! そんでもって俺にトスを上げる! それ以外になんかあんのかっ!?」

「~~~ッ……」

「あっはっはっはっはっは! やっぱ 翔陽はそういうよな、そうだよそうだよ。それに影山が選んだんだろ、これって。なら、弱音なんて一度で十分。ってかそんな暇なんてもう無いんじゃないか。相棒が横で待ってんだから、早く続き始めよう」

 

火神の笑い声、それに更に呼応するようにまた、周囲も笑みに包まれる。

そんな中で苛立ちを見せていたのは月島だった。

 

 

「―――そういう、いかにも【純粋で真っ直ぐ】みたいな感じ、イラっとする。気合で身長差は埋まらない。努力で全部何とかなると思ったら大間違いだろ」

「まぁ、片一方は確かだ」

 

 

月島の肩を軽く叩いて頷く火神。自分に対しても言われているのは解ってるが、あえてそこには触れなかった。

 

そして、日向は 複雑そうに、それでいて恨めしそうな眼差しを向けていた。

 

 

「身長は確かに頑張って伸びるもんじゃないからな。……でも、他に出来る事はあると思うぞ?」

「は?」

「俺たちの試合、見てたんなら 判るだろ? 翔陽がどうやって点とってたか」

 

 

からから、と笑いながら、火神は手に持っていたボールを山口へとパスした。

 

「それと、影山は今自分の中の弱さを認めた。頭ん中がぐちゃぐちゃしてる時って、その理由を一回でも認めたら、晴れるもんなんだよ。だから、次から手強くなるって思うぜ? 厄介な怪物を起こしたって感じにな」

「ナニそれ。漫画とかの見過ぎじゃない? そんなどっかの主人公みたいなパワーアップなんて現実にある訳ないデショ」

「ははははっ、そうかもな」

 

 

火神は、んっっ、と両太腿を叩いた。

 

「なんでだろうな、今すっげぇ 楽しくなってきたんだ」

「……わけわかんない事言わないでよ。暑苦しい」

 

 

月島は、淡々としつつも 少し、ほんの少しだけ警戒するのだった。

 


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