王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

167 / 182
人数が減ったままの状態で、年末業務に突入———————……・・・・・・・・・・


◎んじゃうかも・・・・・・・・・・・・ 。。。_| ̄|○












何はともあれ、遅くなってすみません!!
これからも頑張ります!


第167話 青葉城西戦Ⅱ③

 

 

日向の完全復活。

否。それは日向だけに留まらない。

影山や火神、烏野全員の完全復活とも言える一撃だった。

 

最後に烏野の代名詞となりつつあるあの変人速攻を止められて、敗北してしまったのだから、その辛く悪夢と呼べる苦しい過去を今打ち払った。払拭したと言える。

ここからスタート。

まだスタートラインに過ぎないと言えども、今間違いなく成長した、間違いなく前に進めた、と言う実感をこれ以上ないくらいに証明する事が出来た。

最高の流れを生むプレイだった。

 

 

 

しかし――だからと言って簡単にその流れに乗せる様な相手である訳がない。

 

 

 

 

「調子に乗せないよ。そう簡単には……ね」

 

 

 

 

頭はどこまでも冷静で、それでいて心は燃え滾る。

冷静さ、そして闘志を兼ね備えている及川の流れるセット。

国見を囮にした金田一による一撃で、それ以上の連続得点(ブレイク)を許さない。

 

 

及川の視線を先陣で受けたのは烏野の主将・澤村だった。

 

及川と澤村の視線が交錯し、軈てそれはまるで示し合わせたかの様にそれぞれのチームのメンバーに言う。

 

 

 

「さあ」

 

「お前ら」

 

 

【こっからだ!】

 

 

 

決勝への道。白鳥沢戦。

春高行のたった1枚の切符。

それを賭けた激闘は、まだまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青城対烏野、まだやってかな? 結構注目してた試合だし」

「時間的に考えてまだ絶対終わってないって。多分1セット目中盤から終盤くらいじゃね? ……青城は完成度の高いバレー、抜群の安定性、んで、烏野は意表を突いてくる。あの攻撃力に目が行きがちだけど、それ上回るくらいメチャクチャ拾ってくる」

 

 

青葉城西VS烏野

その一戦、本日のカードで注目度だけで言えばあの白鳥沢を上回るかもしれない。

 

全国的に見れば注目されているのは白鳥沢なのは間違いない。

白鳥沢は、ここ数年間は宮城のトップを独走中であり、元々全国常連であり、近年成績はIH予選・昨年春高共にベスト8の実績。

確かにここ数年の成績は全国ベスト4の壁には阻まれているが、それでも試合内容的に言えばまさに紙一重。

全国トップクラスともなれば何処もかしこも高校生とは思えないバケモノ揃いであり、優勝しても何ら不思議じゃない力を兼ね備えているのだ。

 

 

——が、近ければ近い者程、極めてレベルが高いと言わざるを得ない宮城県予選の中身を重視している。それがこの両校、烏野と青葉城西だ。

 

どちらも、大空を舞う白鷲に届きうる牙を持っているチーム。

そのチーム同士の決戦。観ている側も燃えるモノがある。

 

 

烏野は前回の青葉城西戦、IH予選の雪辱を晴らす為。

青葉城西はもう1度烏の猛攻を跳ね除け、3度目の正直、悲願の優勝を果たす為。

 

 

互いに負けられない。

 

 

「注目してんのは、やっぱ青城のビッグサーバーの及川か……。それにオールラウンダーだし、攻守に隙なしってヤツ?」

「いやいや、それ言うなら、1年のバケモノ。あの烏野火神(11番)の方もだろ? あの2つのサーブ。緩急自在の揺さぶり、ぶっちゃけ今大会で相手にしたくないサーバーNo.1だぜ。まだ及川の強打連発の方がスカっとして良い。……アレと対峙するとか、考える事多すぎてめっちゃ頭が疲れそうだ」

「スカッとする、じゃなくて、取れる様にする、って言えよ。どんなサーブでも全部取る! って」

「無茶言うな。あのサーブ連発とか腕捥げるわ」

 

 

注目する選手をそれぞれが口にする。

その内容をもしも……誰とは言わないが、聞いていたとしたら、嫉妬し物凄く対抗心を燃やす事だろう。

だが、その嫉妬は杞憂と言うもの。

 

 

「烏野でいや、あの日向(10番)もヤベーだろ? あの背丈(タッパ)で主力なんだぞ? メッチャ打って跳んで、スタミナお化けだアレ」

「そりゃ確かにな。あ、でも、それ言うなら日向(10番)を使いこなしてる影山(セッター)もスゲーよな……。北川第一出身のヤツ。……王様の異名は伊達じゃない、っつーか」

 

 

口々に出てくるのは、烏野の変人コンビ。

当然忘れられている訳がない。烏野の真骨頂とでもいうべき2人だったから。

 

 

「―――って、おいおい、ここで呑気に語ってる場合じゃねえ! ほれ、試合見に行くぞ!」

「!! そりゃそうだ!」

 

 

今大会で一番気になると言っても良いチーム同士の決戦だ。

立ち話するのも勿体ない、と言わんばかりに足早に2階観客席へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は第1セット中盤。

 

 

16-15

 

 

1点差に詰めているが、まだ烏野優勢状態。

だが、次のサーブは及川。青葉城西側の連続得点(ブレイク)チャンスのローテだ。

 

 

「一本で切るぞ!!」

【アス!!】

【おう!!】

 

 

それが分かっているからこそ、この及川のサーブ時は、より集中し、一本で切る、と全員で声を上げる。一瞬でも気を抜けば、気づいたら(ボール)は後ろ……なんて事もあるから。

 

 

「及川さんナイッサ―!!」

「ナイッサ―!!」

 

 

声援に後押しされ、及川は(ボール)を上げる。

助走から跳躍、そして空中姿勢も全てが完璧———だったのだが。

 

 

「グッッ!!」

 

 

またしても、澤村の好レシーブに阻まれた。

ミスは無い、狙いも良く相手コートも見えている。

だが、それでもこの(サーブ)(レシーブ)の対決は、(レシーブ)側に軍配が上がる。

 

 

「ぬぅっ……!」

 

 

及川自身はあまり認めたくないが、烏野の守備は確実に高いレベルで進化しているのを改めて実感した。

あの烏野との練習試合時に、レシーブに対して散々忠告し、サーブを磨くとも宣言した結果、全てが繋がり、今この状態だというのなら……岩泉に言われなくても及川は今更感が物凄いが軽く後悔する想いだ。

 

 

「大地さん、ナァァイス!!」

「ナイスレシーブッッッ!!」

 

 

及川のサーブを上げてみせる事の意味を、それがチームに良い流れを齎す事を知っているからこそ、大きな声を上げて、チーム全体で声を上げて奮い立たせた。

 

 

「飛雄!!」

「かぁぁげぇぇやぁぁまぁぁぁ!!」

 

 

澤村のレシーブから、攻撃に入るのは2枚。

 

火神と日向。両方とも厄介極まりなく、どちらも無視できない相手だが、ブロッカーたちは徹底して火神をマークする選択をした様だ。視線や体勢を見た感じ、動く気配は見られない。

日向はセンターからサイドに向かって全力で移動をしている。つまり、移動攻撃(ブロード)をする。……即ち。

 

 

 

「(前回、終盤で少し見せた対日向用の、あの対応か。確かあの時は取れなかったが、それでも日向の移動攻撃(ブロード)にはディグだけで対処するって事か? 日向に振り回された上に火神が加わるよりそっちの方がまだ良い、と?)」

 

 

影山は、セットを組み立てる刹那、青葉城西側の取っている手段を瞬時に把握。

 

確かに、日向に振り回され、その隙を真っ向からでも十分勝負できる技巧派の火神に打ち抜かれてしまう方が失点リスクが高いと影山でも判断する。

だから、無暗矢鱈に追いかけるより集中的にどちらかをマークする方がマシな事だって十分ある。

 

前回は、日向のスパイク威力がリベロの守備能力を上回ったが故に軍配が日向に上がったが、それでもブロックで追いかけられるより、地で待ち構えられる方が嫌な感じがした。

あの時、火神の退場と言う悲劇を経て、精神面から高く進化を果たした日向はゾーンに入っていたと言っても過言ではなかった……が、表情を見た限りでは恐らく似た感想だった事だろう。

 

そして今。

 

あの時より守備力を上げて鍛えて鍛えてこの場に来ているのかもしれないが、それで取れると思っているのであれば正直日向を甘く見ている。

 

 

「フッッ!!」

「!!」

 

 

今いるのはあの時の日向ではない。

影山基準では、まだまだヘタクソ、下の下、と毒舌オンパレードだが、事点を獲る力に関しては認めている。

単純な威力もそうだが、それ以上にあの変人速攻は進化しているのだ。

 

通常なら当たり前の事で、それでいて変人速攻には当てはまらない常識。

 

目を開けてスパイクを打つ。相手コートを見て手首のスナップでコースを打ち分ける。

100%、それをモノにした日向は圧巻。

以前のままの目を瞑ったスパイクであれば、或いは対応されたかもしれないが。

 

 

「うおおああああ!!」

「翔陽ナイスキー!」

「ナイスコース!!」

 

 

IH予選の時は取れなかったが、今度こそ拾ってやる……と気概を持って相対した渡だったが、(ボール)には届かずに歯を食いしばった。

 

 

「くっ……!(あの10番、コース打ち分けはやっぱりマグレじゃない、って事か……)」

 

 

流石の守備専門のリベロであっても、範囲外の攻撃に対してノーブロックで拾いきるなんて神業不可能に近い。日向が相手がいない位置を狙って打ってきているのであれば尚更だ。

 

打ち分けが100%出来るのであれば、今の手法は駄目だ。

ある程度コースが読めれば、どれだけ強くなったとしても、意地でも拾う。リベロとしての矜持があるから。

だが、あの速度の速攻で、更にコースの打ち分けが出来てくるともなれば話は別。

 

言うならノーガード戦法で常に急所を受け続ける様なモノ。完全な悪手となってしまっている。

 

成長速度があまりにも早いこの脅威を前に、何か他に手は―――と、渡は決して慌てず、周囲の声にも耳を傾け、それでいて集中力を高めていくのだった。

 

 

 

17-15

 

 

 

続いて影山のサーブ。

及川を追いかけ、火神に負けじと鍛えに鍛えてきた強烈サーブは当然健在。

及川のサーブである程度強打に慣れはあったとしても、それだけで取れる生易しいサーブじゃない事は嫌と言う程理解している。

 

 

「ンッッッ!!」

 

 

だが、決してサービスエースだけは献上しない。それは高揚し向上し更なる波に乗る事になるから。

影山は基本的にメンタル面で技量や威力が左右される事は無く、常に一定の実力を叩き出す男ではあるが、波に乗せない事が何よりも重要になってくる。

高レベルの試合であれば尚更だ。

 

口で言うは易し。影山は想像を超えるサーブに仕上がっている様だが、それでも意地でも上げる! と渡は食らい付いた。

バチンッッ!! と強烈な痛みが腕に迸る。それでもどうにか飛ばされず、抑え込む。

 

 

「すみません! カバー!」

 

 

何とか抑え込む事には成功した……が、乱れてしまった。

及川からはかなり遠い……が。

 

 

「っしゃ!! 乱した!!」

「ここだ! 獲れ!! チャンスだ!! ブロックで仕留めろ!!」

 

 

青葉城西が影山のサーブで乱す事に成功! と場は喜び、声を上げる。

影山のサーブが連続して続くともなれば、これ以上ない程に心強いからだ。

 

 

だが、周りの声援に後押しされ、流れに身を任せる事は無かった。

普段、応援は物凄く力になる、とてもありがたい―――と言う事はよく知っているつもりだが、ここでは、その声援に身を任せるより、冷静になる方が先決だから。

 

 

「集中!! 青城のセッターは、及川さんだけじゃない!!」

【!!】

 

 

火神の言葉に皆が更に一段階気を引き締め直す。

そして、意図せずとも図らずとも、それは先ほどのお返し、と言った形となった。

 

 

「ッ~~」

 

 

及川は、少々苦虫を噛み潰した様な顔になるが、それも一瞬。

知っているから。知っていたから。

 

 

花巻(まっきー)! 頼むよ!」

「あいよっ!」

 

 

自分に出来る事は、火神も出来る。

それを及川はもう随分前から知っていたから。

 

 

「翔陽!」

「!! おうッッ!!」

 

 

花巻からのセットアップ。

それは背面トスでセンター線に切り込んできた国見に上げた。

それを冷静に、リードブロックで見極めた火神は即座に日向に声をかける。

見てから動いても十分間に合うだけの反射神経、反応速度を持つ火神・日向の2枚ブロック。

 

 

 

 

 

「やっぱ、かがみん すっげーな! 周りよく見てる!」

「フツー、相手乱したらチャンスボール来るかも? って反撃側に意識集中しそうなモンだが、きっちり2枚揃えた!」

 

 

国見に対し、2枚揃えた。

高さは然程でもなく、威力も青葉城西の中で言えば低い方。

 

だが、国見は技巧派。何処までも冷静で視野が広く、最善を最短で導く。

 

 

「(火神と対決……は、嫌だ。疲れる。……なら、一択か)」

 

 

冷静に分析し、そして最善を実行させるだけの技量を持って日向を狙った。

跳躍力に関しては烏野でもトップクラスの部類に入る日向だが、流石に助走無しの跳躍、リードブロックではどうしても分が悪い。

 

そして、何よりその技術。

 

 

「ひっかけた!!」

「上手い!! ブロックアウトだ!」

 

 

日向の手を上手く利用し、サイドラインより大きく外に叩きだした。

レシーバーも届かない位置に落とされ、失点となる。

 

 

「んがっっ!!」

「惜しい惜しい! ドンマイ! 切替だ」

 

 

「うぇーい! ナイスキィー!!」

「ナイストスです」

 

 

その技術(スキル)は、あの超辛辣、酷評嵐な影山も【上手い】と認める程のもの。

 

青葉城西に、……と言うより及川に国見自身の持つ全てを見出された今、この男も成長し、その速度が遥かに増している、と言って良いだろう。

相変わらず中学時代では考えられないあのハイタッチをしている所を見ても。

 

 

 

17-16

 

直ぐ後ろに、捕まれる距離にいる。

このまま点の取り合いで逃げ切れる点差ではあるが、リードは有って無い様なモノだ。ここから更に気を引き締めて―――と、思っていた矢先の事。

 

 

「はい、よっしゃ! 因みに火神に言われるまで頭に無かったから。一応言っとく。すまん!!」

「ええっ! 因みにって、一体何の事ですか??」

「「??」」

 

 

突然の澤村の謝罪。

 

火神は困惑、日向・影山は小首を傾げた。

そして、渦中の澤村は軽く苦笑いしつつ、続けた。

 

 

「相手は青葉城西。熟練感がハンパなく、総じてレベルの高い相手だったって事。……及川に返らなかったとしても、油断して良い相手じゃないって事。解ってた筈なのに今更だが、あの時俺が声をかけなきゃならんところでした!! 幾らおとーさんでも頼りきるのは間違ってる! でも、だからと言って控えろって意味じゃない。火神はナイスでグッジョブだ!」

「いえいえ、アザス! です! ―——あぁぁ、でもおとーさんってのは間違ってますよ。俺はおとーさん違いますから」

「お、久しぶりにそっち反論されちゃったな。もう受け入れたと思ったんだが」

 

 

慣れとは怖いモノ。

でも、一応火神は受け入れてない、と首を横に振った。

 

全てを否定しまくるのは、想像以上にスタミナを使うので、所々流してスルーしてるのは否めないが、それでも否定する時はする。……それは法則性は全くないが。

 

 

 

『うおら大地ぃぃぃ!! 言いたい事は解ったァァ!! 解ってたんならヨシ!! そんでもって反省したら後は前向くだけだぁぁぁっ!! 気ィ入れろよお前らぁぁぁぁ!!』

 

 

 

そんな中、コートの外から一際大きな声が轟いた。

菅原のモノだ。

澤村は、解ってると言わんばかりに手を挙げる。

 

 

「よし……菅原(あっち)にも怒られたし、禊はここまで」

「それ言うなら大地だけじゃなくて俺の方も……」

「はいはい、(エース)は猫背になるな。つーか、俺よかずっと前向いてなきゃダメなヤツだろ」

「いてぇっ!!?」

 

 

コートの外、副将・菅原からも叱咤激励を受けて澤村は両頬を叩いた。

同じ年齢、最上級生である東峰も似たような気持ちになって、沈みかけたが……それは許さずに強引に背中をぶっ叩いて前へと向かせる。

 

 

「んじゃ、……取り返すぞ」

【アス!!】

【おう!!】

 

 

 

澤村の最後の言葉で、皆が同じ方向を―――皆が前を向いた。

 

 

「いや、高いレベルのチームってのは、どうしてこうも腹立つのか」

「烏養君。それならウチに対しても腹立つ、って事になりません?」

「それはそれ。これはこれ、だ」

「あはは………」

 

 

青葉城西のあの淀みないセット。

傍から見ていても、崩した事に対してガッツポーズを見せて、声を大きく上げたのだが、さらりとセットアップしてきたのを見せつけられて烏養は腹が立った。

でも、それに負けずに対応しようとし、点を獲られてしまったが、悪い空気にはならず飲み込まれず、前を向き続けている烏野(ウチ)は誇らしい。

 

相手は腹立つが、自分達はヨシ。

大なり小なり、誰だってこういう感性はある筈だ、と烏養はその強面を笑みで歪ませた。

 

 

「こちらの歯車のかみ合い方も上々です。決して劣ってない。ですが、相手のソレもまた素晴らしく、素晴らしい。ここからより魅了し続ける試合になるでしょうね」

「ただの観客として見る分にゃ、問題ねーんだがな」

 

 

チームを預かるコーチである以上、ただの観客でいられるわけがない。

烏養は、澤村の真似をする――――訳ではないが、己に活を入れつつ、試合を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も岩泉のサーブミス。

 

 

「スマン!!」

 

 

見事に火神と西谷の中間を狙った結果のレシーブお見合い。

 

 

「スマン!!」

「すみません!!」

 

 

一進一退、離されず付かずのシーソーゲーム展開。

 

 

18-17

 

 

依然として烏野リードのまま第1セット後半。

先に20点台に乗るのはどちらのチームか、手に汗握る展開だ。

 

 

「いや、どっちも守備力高いし。メチャクチャ長いデュースになったとしても、もう驚かねぇよな」

「ああ……。音駒のアレか? 確かになぁ。40点突破。未だに鮮明に浮かぶもん。……でも、あくまでそれは練習試合だ。公式戦でのデュースは疲労度が半端ない筈。……このままどうにか連続得点(ブレイク)とって、突っ走りたいもんだが………」

 

「じゅーすってなんだっけ?」

「えと、デュースは、25点でセットを取れるんですけど、同点状態。つまり24-24が続く状態の事で……。その、2点差がつくまで続くんです」

「なるほどなるほど……スゲーきつそうだって事は解った。……だったらやる事は1つしかねーな」

「???」

 

 

手に汗握るのは、それを見ている観客側も同様。

息つく暇も無い程に目まぐるしく、高い技術戦を展開する両チームの試合は白熱する。知らず知らずのうちに力が入り、感情移入をしてしまって思わず疲れてしまう。

 

 

でも。

 

 

「うぉらぁぁぁ!! 気合入れろ~~~!! 烏野ぉぉぉぉぉ!!」

「「「!!!」」」

 

 

どれだけ疲れてたとしても、応援だけは途切らせてはならない。

そこまで深く考えてないかもしれないが、冴子も声を張り上げた。

 

それに思わず驚いてしまったのは嶋田や滝ノ上の男性陣。

だが、直ぐに気を取り直して冴子に続く形で声を上げるのだった。

 

 

 

 

そして試合は金田一のサーブ。

リベロの渡が下がり、松川が戻ってくる。

 

 

「おい、ちょっとちょっと」

「「??」」

 

 

ローテーションシステムのおかげで、仲間たちが粘ってくれているからこそじっくりと外から観察する事が出来た松川は、花巻、金田一に声をかけた。

 

 

「次、動くヤツが来たら、俺がマークする――――」

 

 

そして、ここで勝負に打って出る、と2人に告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして金田一のサーブ。

強打のジャンプサーブを打つ者以外が狙ってくる場所は基本的にほぼ決まっている。

後衛セッターが出てくる場所を狙ってくる。

影山が後衛のローテのパターンでは殆ど間違いなかった。

 

でも、それを徐々に変えてきている。

 

 

 

「(影山が取っても何ら問題ない。……火神がセットアップするだけだから)」

 

 

 

さぁ、こい。と構えている澤村はそう考えていた。

以前までなら、影山にファーストコンタクトをさせる訳にはいかない、と踏んでいたが、それはもう大分前……過去の烏野だ。

 

 

今は誰に来ても問題ない。

 

 

後衛は、火神・影山・西谷の3人。

地の鉄壁だと言って良い布陣だから。

 

 

 

 

 

「――――(って、考えてる頃合い、か)」

 

 

及川は、烏野の守備陣形を眺めながら思考を巡らせる。

定石(セオリー)通り、影山(セッター)に取らせて攻撃の橋渡しを狂わせる手段を取ってきていたのは認めるが、想像以上に火神のセットアップも進化していっている。

火神がセッター代わりになる事は、もう周知の事実だったが、何度か見た二段トス。影山より精密さには劣るかもしれないが、空中戦での駆け引き、視野の広さ、スポーツIQなど、総合力で見れば何ら劣っていない。寧ろ影山を超えている。

影山嫌い、と言う自分自身の、及川自身の感情論を抜きにしても、公平な目で見たとしても、そう評価をする。

 

最早、烏野の生粋のセッター、正セッターだと言っても不思議じゃないレベルになっている、上がっていっているのだ。

 

 

「穴は少ない。……でも、無い訳じゃない。狙い所はいつ、如何なる時だってあるものだよ」

 

 

及川は金田一の方を見た。

金田一も、及川の視線に気付き頷き返している。

 

 

それは、及川が練習試合の時に見せた手。

 

 

 

「チビちゃんには毎度毎度驚かされるけど……、やっぱり基礎方面はまだまだって感じなんだよね」

 

 

 

狙いは日向。

現在前衛に居るので、元々ジャンプサーブでは狙いにくいから、フローターサーブ陣の出番となってくる。

更に言えば、あの凶悪な縦横無尽にコートを駆け抜ける速さにブレーキをかける意味合いもある。

レシーブを他に任せている間に済ませる事が出来る僅かな準備期間を奪う。

 

 

 

「ふおっ!(俺の方きたっっ!!?)」

 

 

 

本日初となるサーブレシーブ。

正直な所、レシーブに関してはどうしても苦手意識が日向には残ってしまっている。

及川を含めた、他のチームの皆さんが知る由もないが、日向はあの高校で初めて影山と再会したあの日にしでかした事がまだまだ頭に残ってしまっているのだ。

 

 

凶悪な影山のサーブを受けようとして、当たったは良いけどものの見事にホームラン。ついでに教頭の頭頂部の秘密を暴くと言う学校内部でもトップクラスな不祥事を叩きだしてしまった。

 

その後の澤村のお叱りも重なり――――結構なトラウマになってしまっているのだ。

なので、少々慌ててしまった所に―――。

 

 

「翔陽!! 獲れるぞ!!」

「!!」

 

 

火神の言葉が入ってくる。

確かにビッグサーバーと呼ばれる選手たちは、強打で狙ってくる技術を持っている……が、このサーブはこれまで戦慄してきたサーブと比べてみたら……問題ない。

 

金田一が聞いていたら怒るかもしれないが、それでもまだまだ下の下だと罵られる事はあっても、曲がりなりにも日向は東京の梟谷グループで揉まれて来た。

サーブに力を入れている生川の強打を何度も。他の森然や音駒も当然油断ならないサーブで、更に全国を知る、全国を戦う梟谷からもサーブを受けてきた。

 

 

何より、毎日受けているサーブは誰だと思っているのか。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

フローターサーブで強打は限界がある。

打つ所を狙ってきているのであれば尚更だ。

 

日向は渾身のレシーブ、見事なレシーブをして見せた。

 

 

「どうだ!」

「全然普通だボゲ」

 

 

影山の辛辣な言葉が降りかかるが……日向は意に返す様子も無く、スタートした。

 

 

 

「(流石に、簡単にはミスってくれないか)……でもね」

 

 

 

日向がレシーブをした事で―――。

 

 

 

「MAXの速い攻撃は封じたも同然だよね」

 

 

あの囮としての機能が最大限に発揮するのは、あの他者を圧倒し、自分の存在感を大きく見せる踏み込み。

ワンテンポでも、それが遅れたらその威力は削がれる。選択肢として残り続けるのも困難となってくる。

 

 

「東峰さん!!」

「おおお!!」

 

 

そして影山自身も100%を発揮していない日向と烏野エース、東峰とではどちらに分があるか、どちらを使うのか、それはやはりエースの方に傾く。

 

 

 

「3枚ブロック!!」

「ぶち抜け!! 旭!!」

 

 

速い攻撃を見続けてきたからこそ、その削がれた速度の攻撃で、囮の機能が著しく低下した状態で、追いつくのは造作もない。

 

国見・花巻・松川の3名のブロックが東峰を包囲した。

 

 

「おおおお!!」

 

「止めるぞ!!」

「オオッッ!!」

「―――!」

 

東峰はエースとしての意地と誇り(プライド)で全身全霊を以て大砲を打つ。

 

そして青葉城西側、松川・花巻・国見は、これを止められなければ流れを持っていかれる。全身全霊を以て大砲を止めると歯を喰いしばり、手を出した。

 

強靭な矛と堅牢な盾のぶつかり合い。

それはまるで互いに空間が歪み、火花が見えるかの様な威圧感を醸し出していた。

 

 

 

 

そして、矛と盾の対決の結果は―――。

 

 

バァァンッッ!! 

 

と凄まじい破裂音を奏でながら、(ボール)はネット上、青葉城西側コート、アタックライン内側に飛んだ。

 

 

「国見!!」

「はい!」

 

 

矛と盾の対決。

今回は矛盾が成立。

 

いや、東峰にとってみれば叩き落とされなかったとはいえ矛の負け、と思っても無理はない。

相手は3枚ブロック。圧倒的に不利な場面だったとは言え、ここぞで決めるのがエースだ。

その渾身の一撃、持てる大砲を阻まれてしまったのだから。

 

そして、青葉城西側に軍配が上がった最大の理由。

それは、更に上を知っているからに尽きる。

 

東峰は優秀で力強い烏野のエースなのは間違いない。

だが、それ以上を知っている。烏野が梟谷の木兎を知ってる様に、青葉城西も知っているのだ。

 

幾度となく打ち抜かれ続けた宮城の絶対王者。

今度こそ超える相手―――白鳥沢のウシワカ(・・・・)を。

 

 

 

「!!(国見からの、ファーストコンタクトの、セット!?)」

 

 

ネットにやや近いとは思った。だから、そのまま打ってくると思った。

でも、国見のそれは、ツーアタックを打つ姿勢じゃない。(ボール)に向かって跳んだのだ。

 

 

「レフト!!」

「打ってくるぞ!!」

 

 

その所作を正確に見抜いていた火神と西谷は後ろから声を出す。

 

 

だが、ここで想像だにしてなかったプレイが飛び出してきた。

 

国見のファーストセット。それはレフトで構えていた松川に向かってのオープントス。

及川のセットじゃないから十分過ぎる程奇襲になるし、何より前衛陣もブロックの体勢が整ってなかった。

だから、そのまま打っても決まる確率は、その公算が高いと言える形だった。

 

 

でも、有ろうことか松川が選んだのは―――。

 

 

 

「―――ほいっ!」

 

 

 

その背後———

虎視眈々と牙を磨き、敵を欺き、研ぎ澄ましていた男が居た。

 

 

 

「これって―――」

 

 

真正面。

慌てて松川に向かってブロックに跳んだ日向はその光景を唖然と見つめていた。

時間がゆっくりになった気がする。

松川が打ってくる、と思っていたのにその背後から飛び越えてくるかの様に男が顔を出したのだから。

 

 

 

「(大王様の―――バックアタック!?)」

 

 

日向に向かって放たれる及川渾身のバックアタック。

それは、日向だけじゃない。後方で、この奇襲に驚きの表情を見せている火神に。

 

 

前回は辛酸を嘗めさせられたが、今回はどうだ? と不敵な笑みを込めて……渾身の一撃を及川は打ち放ったのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。