王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第171話 青葉城西戦Ⅱ⑦

 

 

 

 

――――ああ、また(・・)だ。また(・・)考えてる。

 

 

 

バレーボール。

小さい頃からずっとずっと、あの(ボール)を追いかけ続けた。

仲間を知り、相手を知り、勝った時の嬉しさ楽しさを知り、負けた時の苦しさ、悔しさを知ってきた。

全部、バレーボールのおかげで培ってきたと言ったって良い。

 

そして今はあの男(・・・)を通じて、あの男(・・・)からでしかありえない事を考えている、と自覚する。

 

 

 

【もっと強い。もっと凄い】

 

 

 

あの男のあの無邪気な笑顔が頭を過る度に思い出すこの感覚。

 

 

この感覚は、随分と懐かしい気がするのはきっと気のせい等ではないだろう。

初めて感じた時は終わった後、正直白昼夢の類ではないか? と何を馬鹿なと思った事は多々あったが、もう違う。

 

あの男と初めて会った時、初めてあの強烈なサーブを受けた時の事のあの感覚、あの時感じた事、そして前回のIH予選での事。

 

今でも鮮明に思い出せる。少々物騒な例え話ではあるが、敢えて説明するとすれば走馬灯のアレに近い。刹那の時間の中でも鮮明に、ハッキリと思い返す事が出来る。

 

その中でも特に印象に残っているのは最初の練習試合のサービスエースの献上だろう。

それは自分のミス……と言うより、相手が自分の守備力を上回った。相手が一枚上手だった。悔しく、腹立たしく、何度も思い返しては練習を積み重ねてきたのだから。

 

 

 

 

【凄くて強くて、チームワークも完璧で――――】

 

 

 

 

 

それは口に出している訳じゃない。目で語っているなんて正直馬鹿げているとも思えるが、これは理屈じゃない。

こうも何度も何度も続けば……。

 

 

 

「だっしゃああああ!!!」

 

 

 

岩泉は確かな手応えと同時に、(ボール)の行方を目で追うまでも無く完璧に拾い上げた事を自覚し、雄たけびを上げた。

 

火神の渾身の、技ありの、鬼コースの一撃(スパイク)を拾って魅せた。

誰もが裏を掛かれるだろう、誰もが仕損じるだろう完璧な攻撃を完璧に拾って魅せた。

 

その最中、交錯する視線に、そしてその表情を見て岩泉はまた思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西(あなたたち)は凄い、もっと凄い、もっと強い】

 

 

 

 

 

 

あの男は……火神は絶大なる信頼を、信用を、……何よりも尊敬の念を、敵チームである自分達に向けているだろう、と。

 

 

 

 

―———お前の言うすげぇすげぇオレ達は(・・・・)、期待に応えられているか(・・・・・・・・)

 

 

 

 

不思議と不快感は全くない。

及川が同じ様な事を感じ……そして口に出し、言葉にしたとしたら、いったい何様だと不快感はMAXにまで跳ね上がるかもしれないが、それは相手に及川が絡んだから仕方ない。

 

 

そして、ある意味気分が晴れた所で、もう考えるのは止めにした。

期待に応える強さを見せるまでは良い。ただ、そこから先は……。

 

 

 

 

 

―——勝ちだけは譲れねぇ。勝つのはオレ達だ。

 

【同感です】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その完璧なレシーブ、スーパーレシーブは場の熱気(ボルテージ)を一段階高く上げた。

 

 

【うっっおおっっ!!!?】

【ナイスレシーブ!!!】

 

 

 

敵も味方もない。正しく会場が一体となった、と言っても良いスーパープレイだ。

 

 

「っっ!!」

 

 

無意識下ではあるが少々遅れた形でやられた、と顔を顰める火神。

 

 

「すっげぇ………!」

 

 

思わず息を呑む日向。

 

 

「(決まったと思った。……ストレートに打つ、そうしか見えなかった。その寸前までストレート側勝負だって思った。知覚出来ないくらいの一瞬のタイミングでコースを変えた。……なのに、岩泉さんはアレに反応した)」

 

 

傍でトスを上げた影山本人も決まったと思った一撃を拾った岩泉に唖然とした。

 

思考の中で生まれた隙。

拾われたならば、次の攻撃に備えなければならないのに、そのプレイに魅せられる形で思考回路が一瞬遅れてしまったのだが。

 

 

「止めるぞ!!」

「「「!!」」」

 

 

後ろで構えている澤村の一言で、皆の思考回路を正常に戻す。

澤村も、今の一撃は思わず魅入りそうになったのは否めないが、それを考えるのは後。(ボール)がコートに落ちたその後で良い、と声を張り上げたのだ。

 

幸いな事に(ボール)の滞空時間はそれなりに有り、思考を正常に戻すまでの時間は十分だ。岩泉は見事なレシーブを魅せたが、それでも火神の一撃にはパワーも乗っており、威力を殺しきる事は出来なかった様だ。

……それでも、Aパスなのには変わりないが。

 

 

「くぅぅ、会心の出来だったのに、メチャクチャ調子も良かったのに。拾われた。……拾われたぁぁぁ」

「ドンマイ!! 誠也っ!!」

「おうっっ! 今のはあっちのがスゲーー!! で良いって自分に言い聞かせてるよ!! ええいクソッっっ!!!」

「おぉぉぉ、誠也がここまでムキになってんの、久しぶりに見たかも!? ってか、バレーでは初かも!? おぉぉぉ!!」

「翔陽うるさいっ! 変な時に頭働かせて冷静に分析すんな! 何に感動してんだよっ! それより(ボール)! 前注意!!」

 

 

自分達が備える為の時間がある。それなりの余裕が生まれる、と言う事は当然、相手にも同じ事が言える。

 

岩泉が齎した間違いなく良い流れを生むであろうレシーブを決して無駄にしない、と喧しく声を上げる烏野の前衛とは対照的に、及川は静かに、そして集中力を高めた。

 

金田一がセンター線、及川の背面(後ろ)側に切り込んできた。

 

 

つまり、金田一のCクイックが選択肢の1つ、決定率を考えると、有力候補の1つだと言えるだろう。

 

 

「!! (金田一(らっきょヘッド)が来るッ!?)」

「ステイ!」

「!!」

 

 

反射的に日向は金田一の方に跳ぼうとした……が、直ぐ横の火神の【ステイ】の声に反応し、無理矢理身体を止めた。ある種の特殊能力だと言っても良いかもしれない。

火神は、日向の行動の起こり(・・・)を読む事が出来るから。……色々と魂に刻まれてる記憶の残滓のおかげ、と言う理由もあるかもしれないが、最早長年培い、共に有ってきたからこそ、理解できる能力、である。日向がそれを火神に対して使えるかどうかは……不明である。

 

 

 

「(岩ちゃんのレシーブで結構頭ん中まで乱せた、って思ったんだけどね。アレを一瞬で通常運転に戻す、か。それに、とことんチビちゃんの操縦に慣れてるって感じもする。……飛雄まで操縦出来てるんだから当然っちゃ当然か)」

 

 

火神・日向のやり取りは集中している間でも及川の耳には入っている。

自陣の皆を、攻撃陣を見る。各スパイカーの状態を見るのも重要だが、それと同じくらい相手にどう見られているかを考える事も重要。

渾身の一撃を岩泉に完璧に拾われた上でのカウンター、加えて珍しい十分過ぎる程精神に揺さぶりをかけ、隙を生む事が出来るくらい乱したと及川は思っていたのだが……。

 

だが、やる事は1つ。選択肢も変わらない。

搦手が通用しにくい相手である事はもう嫌と言う程解っている。だからこそ、今現時点で選べる最高で最強の攻撃法を選ぶ。

 

 

「狂犬ちゃん!!」

「ッッ!!」

 

 

それはまるで突然出てきたかの様に錯覚させた。

そしてその感覚は間違っていない。なぜなら京谷は金田一・及川の背後からレフト側に向かって真横に跳んだのだ。

対峙している者からしてみれば、突然出てきたと錯覚しても無理はない。

横に跳んでいる以上最高到達点には遠く及ばないが、それでも高さは十分、跳躍速度も申し分なし。京谷は相応の跳躍力がある、身体を操る能力に長けていると言う事だろう。

 

だが、リードブロックを徹底させたこと、事前の火神のステイの声、2人の反応速度の良さ、それらが有りその攻撃に対して対応する事は十分出来た。

 

 

「ぐっっ!!」

「んんっっ!!」

 

 

完璧———とは言えないまでも、しっかりと攻撃を見据え、日向・火神の2枚ブロックで京谷を捕らえに掛かる……が。

 

 

「うがっっ!!?」

 

 

位置が悪かったのか、或いは今回も及川・京谷の狙い通りなのか。

ブロックと言う盾の中でも弱い方を、高さ(垂直跳び)も技術も力もまだまだ遠く及ばない日向の方に狙いを定め、打ち抜いたのだ。日向も(ボール)に触れる事は出来たが、相手のパワーが上回り、捉えきれなかった。先ほどの失点と同じ状況である。

 

 

「しゃああっっ!!」

 

 

それを見て、及川はガッツポーズ。

最高の形で、流れを呼び込むカウンターを決めきったのだから当然。このままの流れで行くぞ! と気合でも1つ入れたかったのだが……。

 

 

「ッ!!」

「うおっっ!??」

 

「ゲッ!?」

 

 

それどころではなくなった。

レフト側に囮で攻撃に入っていた花巻と衝突したのだ。……京谷は横っ飛びをした。その跳んだ先の状況までは頭に入ってなかった様子。

花巻自身も、まだまだ京谷と上手く呼吸を合わせて~と出来る訳も無く。そのまま勢いよく無防備な横っ腹にぶつかってしまって倒れたのである。

 

 

「大丈夫かっ!!?」

「お、おう……!」

「……………」

 

 

慌てて及川は2人を起こした。

大事は無さそうだが……、無駄に危ないプレイをするな、とは中々言いずらい。

何故なら、間違いなく烏野に有効な攻撃手段となっているのは京谷のこの身体能力から繰り出される攻撃だから。

 

何をしてくるか分からない。

いわば、青葉城西の日向翔陽の様なモノだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの青城が綺麗にかみ合ってないのって、新鮮っスね……。ぶつかり合うとか初めて見たっス」

「ああ。でも今のは正直痛かった。………大地ん時のレシーブは及川に止められて、今回のは逆に決められた。嫌な1点だ」

「………ッッ」

 

 

 

流れを呼び込むプレイ。

それは中でも解るが、外からでも十分伝わる。

田中は、青葉城西が上手くかみ合ってない場面を始めて視るので、そちらの方に注目し、菅原はあの一連の攻防、その結果のマズさを指摘した。

たかが1点。まだまだ第2セット序盤で、第1セット獲っている状態……とはいっても、今のは間違いなく嫌な流れを生む。そういう類の得点は、中でも外でも何度も見てきているから。

 

 

「(乱れても、多少乱暴でも、強引にあの16番を使ってくる。……ひょっとして意図して、か?)」

 

 

 

青葉城西。

選択肢は限られている訳ではないのにも関わらず使ってきたのは京谷。そして結果連続得点。

まだ2点目だが視野の広い及川が同じ選手を、間違いなくマークしている2度連続で使ってくる。何か狙いがある筈だと菅原は訝しむのだった。

 

 

 

「1セット目の最後といい、今といい……、あの16番くんはよく真ん中に突っ込んできますね……、今はややレフト気味でしたが、横っ飛びとは……。正直、見ていてハラハラします」

「ああ。……綺麗なセットだった青城に、また違う風を吹かしやがった、って印象だ。確かに強引かもしれないし、今までのリズムは決して悪く無かったのに、それを崩壊させる可能性だって捨てきれなかった筈だ。16番(あの乱暴な風)が青城に、どう変化を齎すのか……。正直、目が離せねぇぜ先生。……俺は違う意味で今ハラハラしてんよ」

「な、なるほど……」

 

 

京谷の起用について、烏養も思う所が無い訳ではない。

青葉城西と白鳥沢の決定的な違い。

前回は最後の最後まで追い詰めたのかもしれないが、結局な所軍配は白鳥沢に上がっている。後一歩、及ばなかった最大の理由は【攻撃力】の差にある、と踏んでいる。

3大エースを要する白鳥沢だから誰もが思い浮かべる感想だ、と一笑しても良いかもしれないが、後一歩、その後一歩の追い風を齎す為に、起用したのがあの京谷だとしたら……? と烏養は考えを張り巡らせ、可能な限り先手を打とうと心掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、翔陽。―――ブロックは?」

「くっそぉ……、バンザイ駄目! ネットに当たらない程度に前に突き出す!! 止まって上に跳ぶ! ですっ!!」

「よっしゃ。黒尾さんの教え、しっかりと解って覚えてたらそれで良い。……今のもあっちがスゲー、あっちが上手(うわて)だった、で良いよ。……いや、上手(じょうず)と言うよりは力負けした、って感じか。確かに翔陽じゃ分が悪いか。高さ勝負なら兎も角」

「がーん……」

「いや がーんって。……力だけは一朝一夕でどうしようもない。でも、ブロックに特に重要なのはタイミング。烏養(コーチ)も言ってただろ?」

「……おう!」

 

 

2連続で自分が打ち抜かれた事に、2連続で(ボール)に触れる事が出来たのに吹き飛ばされた事に、日向は苦虫を噛み潰す顔をしているが、それでも頭の中は大丈夫。表情に出ていても、頭の中ではしっかり解っている事を確認した火神は軽く深呼吸をした。

想像以上である事を、実感しながら……どうしてもこみ上げてくる。

 

 

「だから、次は止めるぞ」

「……おう!!」

 

 

抑えきれない。……否、そもそも抑える気なんてサラサラ無い。

持てる力の全てを出し切って、思う存分皆と一緒にぶつかるだけだ。

 

 

 

 

 

 

更に続く岩泉のサーブ。

 

 

「ちぃっっ!!(トスミスった!!)」

 

 

トスが低過ぎた。

でも、ギリギリ強打を狙える高さでもある。

軟打で相手にチャンスボールを与えるも同然にするくらいなら、強打を狙う……と選択してしまった結果。

 

 

ザフッッ!!

 

 

豪快な一撃はネットを大きく揺らし、そして阻まれてしまった。

 

 

「スマンッッ!!」

「「「ドンマイドンマイ!」」」

 

 

ドンマイ、と声を上げるが……頭の上、頭の直ぐ上に直撃し背筋が凍ってしまったのは花巻。

何せ、岩泉のサーブはいつもよりキレがあり、更にパワーも増しているのか、アレが頭に当たったら、と考えたら……仕方ない。

 

 

「ミスって、後頭部(あたま)(ボール)当てんなら、及川(あっち)にしてね」

「おう」

「なんでだよ花巻(マッキー)!! つーか、岩ちゃん!? 【おう】じゃないでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-2

 

 

京谷の登場、そしてその乱暴性? もあって体感時間がかなり長く感じていた谷地は一先ず大きくため息。

 

 

「や、やっと1点返した……」

「だねだね。……それにしても、気合入ってる子、嫌いじゃないね。何となく雰囲気ウチの龍に似てる気がする」

 

 

冴子が見下ろす視線の先に居るのは京谷。

流石は姉弟か……、色んな意味で。 京谷の持つ性質と自身の弟が持つ性質に気付いている様子。

 

 

「……明らかにリズムが変わってきてるな」

「はい。あちらのきょ……、16番に(ボール)を集めてますね。多分、意図的にです」

 

 

前衛に居るからこそ、及川との駆け引きを存分に楽しめる火神。でも、今は違う。ハイリスクハイリターンな暴走特急かもしれないが、臆する事なく強気で京谷を使おうとしているのが見てわかる。そして、間違いなく嚙み合えば、青葉城西の攻撃力は更に一段階上がる。

いや、それ以上(・・・・)に………。

 

 

 

 

 

 

烏野のビッグサーバーの1人、影山のサーブ。

申し分なく強烈な威力、精度も全く落ちる気配は無いと言える……が、流れは青葉城西側に傾き始めている、とでもいうのか。

 

 

「オレ――――だっっ!!」

「ナイス花巻(マッキー)!」

 

 

更に精度が上がったと見紛う見事な花巻のレシーブに拾われてしまった。

それも綺麗なAパスでだ。

 

一切乱れる事無く、綺麗な攻撃、反撃が始まろうとする最中、やはり一際異彩な気配(オーラ)を放つのは京谷の存在。

日向は、その京谷にどうしても目が行ってしまう。

 

 

「(くっそぉぉ、今度こそッッ!!)」

 

 

目が行ってしまうのは仕方がない事。狙われたのは日向自身だから。

3度目ともなればもう日向も意地だ。これ以上自分が吹っ飛ばされ続ける訳にはいかない、となけなしの力を腕と手に込める様に意識する。

 

今にも噛みついてきそうな狂暴なオーラが日向を包み込み――――。

 

 

「翔陽!!」

「ッッ!!?」

 

 

意地だけじゃなかった。京谷と言う男の存在感は、その圧は、何度も火神に口酸っぱく言われていたリードブロックの基本を忘れさせてしまう程だった。

 

日向自身は知る由もないが、まさに青葉城西の日向翔陽とでも言うべきか。

そのとてつもない存在感は、ブロッカーの1秒を奪う。1秒でも時間を奪われてしまえば、もう(ボール)には追いつけない。

 

何度も何度も言われても言われても、こればかりは難しい。

 

本能を理性で抑え込むと言うのは非常に難しい。火神は勿論、月島が最もそれを得意としているが、日向は基本本能の赴くままの猪突猛進型。改善してきた兆しは十分にあるとはいえ、トップクラスの実力を誇る相手にはまだまだ難しいのが現実なのだ。

 

 

「ほら金田一!! 獲ってみせなよ!」

「ッ!!」

 

 

連続の京谷からの、金田一による移動攻撃(ブロード)

迎え撃つは、火神の固く、大きな壁。

 

 

「ふんっっ!!」

「ッ!!」

 

 

金田一VS火神の構図。

金田一は、及川に発破をかけられるまでも無く気合は十分。

 

 

「(たった1枚に、この条件で、止められて―――――たまるか!!!)」

 

 

相手が相手だったから。

まるで、自分の頭の中の全てが読まれている様な感覚に見舞われてる事多数。

そして、本当に頭の中が読める、読まれても何なら不思議に思わない自分もいる。

 

それらを全て一蹴。

意地とプライドを胸に、思い切り打ち切った。

 

無論、火神もそれを、その気概に負けない意志を以て迎え撃つ構えだ。

圧倒的に不利なのは1枚ブロックなのは言うまでもない事だが、それこそ関係なし。(ボール)が消える訳じゃあるまい、と。

 

 

そして交錯するこの攻防の結果は直ぐに表れる。

火神の打ってくるコースを読む……までは良かった。後ほんの少し届かなかったのだ。

 

 

 

「くっそ――――!!」

「っしゃあああ!!」

 

 

 

結果は打ち切られてしまい、軍配は金田一に上がった。

 

 

火神は、金田一とは何度もやり合ってきているから、そして魂にも刻まれているから、もう大分解っているつもりだった。

でも、それが早計である、と思わせるのに十分過ぎる威力をそこに見た気がした。

 

 

「くそっっ! すいません! 今の、ムリに止めに行くよりコース絞った方が良かったかもです!!」

「いや、今のは仕方ない。そもそも1枚だし、相手有利なのは変わりない」

「釣られた日向(こいつ)が悪い。囮が囮に釣られてんじゃねーよ」

「うがっっ!! くっそーーー!! スミマセンッッ!!」

 

 

青葉城西が変わってきてるのを肌で感じつつも、直ぐに修正し合い、声を掛け合う。

この嫌な流れのまま行くわけにはいかないから。

 

 

「誠也、今のはオレの守ってた位置が深過ぎたのも原因の1つだ! もうちょい前に出るべきだった。正直ブロックアウト意識し過ぎだッ!!」

「それ言うならオレもオレも!! 声掛け足りなかった!! うん、ぜんっぜん足りない!」

「自信もって不甲斐ないオレアピールすんな、エース! 点獲る事考えてろ!」

「痛っっ! ————って、解ってるよ。次、取り返す!!」

「よし!」

 

 

嫌な雰囲気は声を張り上げて誤魔化す。

強引にでも、流れを押し留めなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし。金田一もノッてきてるな」

 

 

及川は満点の出来、と金田一を褒める。

金田一も触発される部分は当然あるのだろう。今のは動きのキレも高さも文句なしだった。

そしてそれと同時に、京谷の方も見る。

相性で言えば決して良いとは言えない。本能の赴くままに行動するタイプに対しては、ある意味耐性がある筈だ。

 

京谷はそれを恐らく本能で察している。

本能的に火神と言う男の危険度を察知しているからこそ、勢いのままに打ち放っても良いタイミングでコースを狙うし、日向(弱い方)を狙ってきた。

1年の時、いきなり最上級生に噛みついていたあの狂犬が、だ。

ほんの一瞬でここまで変わる事にも正直度肝を抜かされるし、摩訶不思議を通りこしてる印象は拭えないが、一先ず今は考えない様にする。

 

他に確認する事があるから。

 

 

「(……でも、根っこの部分(・・・・・・)は変わってないよな?)」

 

 

それは京谷の性質。

例え何を察知しようが、相手を本能で見極めただろうが、どうであろうと、攻撃は自分自身がしたい。思い切り打ちたいし、決めたい。

何処までも貪欲である事。

 

 

「………………チッ」

 

 

そして、それは京谷に確認するまでも無い。

あの仕草は、間違いなく腹立ってムカついている。

自分が囮に使われた事もそう。何より自分に(ボール)が来なかった事に対する苛立ち。

攻撃に対する飽くなき執着心を感じられる。

 

 

「うんうん。良い具合だ。流石に速攻で狂犬ちゃんが忠犬ちゃんになる、なんて思ってないしさ」

「「「???」」」

 

 

たまたま及川の独り言を聞いていた者も居たが、一体何を言ってるか解らないので、取り合えずスルー。

少なくとも、試合に関係の無い事ではない……と言うのは何となくわかったから、岩泉のツッコミも無しだ。

 

 

「―――お前の牙、オレがもっともっと鋭くしてやるよ」

 

 

及川は不敵な笑みを見せた。

 

試合はまだまだこれから。

確かに第1セットは落とした。烏野は間違いなく文句なく強敵。

でも、必ずこの牙を烏の喉元まで届き得る様にする―――と決意を漲らせるのだった。

 

 

勿論、その後不貞腐れた中学生みたいな京谷も巻き込んで円陣を組むのも忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それよりも……」

 

 

一頻り声を掛け合い、そして一息ついた所で澤村は改めて青葉城西の方を見た。

向こうが良い流れで、こっちが少々悪い流れである……と言う事よりも感じられるモノがある。

 

 

「間違いないな。今の青城は……オレ達の知らない青城(・・・・・・)だ」

 

 

善し悪しの流れどころの話じゃなく、まるでチームそのものが変わったかの様に感じられたのだ。

それに対し、今の今まで声を掛け合っていたメンバーの誰もが異論を口に挟まず、静かに頷く。そして……警戒心を更に上げた。

 

あの京谷と言う全く情報の無い未知の選手が入ってきた事もあるが、バレーは6人でやるスポーツ。たった1人でガラっと変わる事なんて早々あるモノじゃないのだが……。

 

 

「まぁ、オレはよーく経験してるからよく解るってもんだ」

 

 

たった1人で流れを変える者を知っている。

たった1人で空気を一変させた者を知っている。

言い方は悪いが、たった1人でチームを悪くさせた者だって知ってる。

 

さっきまでの警戒していた表情からうってかわって、きょとん―――としている面々が澤村の視界の中に居る。どうやら自覚は無いらしいし、意図は伝わってない様だ。

でも、別に問題は無い。

 

澤村は、驚かない。

 

だからこそ最大限以上に、これまで以上に警戒する。

意図は通じなくとも、その澤村の雰囲気は場の全員に十分に伝わり、チームの気を引き締め直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5-2

 

 

「金田一ナイッサー!!」

 

続くは、金田一のサーブ。

及川・岩泉と続いた強打に比べたら、まだまだ発展途上、と言えるサーバーではあるが、決して油断せず警戒を怠らず。

 

 

「オーライ!!」

 

 

確実に西谷が拾って見せた。

 

 

「ナイスレシーブ」

 

 

影山の元へAパスで返ってくる刹那の間、相手コートの方も影山は視た。

そのブロックの配置はスプリット……と言うよりはデディケートシフトに近い。

東峰・火神が居る方に2枚を置き、そして日向に対しては1枚。

 

 

「(日向には必ずMB1人張り付くスタイルで固定……か?)」

 

 

2枚ブロックでも火神ならば、そして東峰であれば十分勝算の高い勝負が出来ると言える。

だが、日向の変人速攻もまだ機能しているし、相手も1枚だ。

そして決めた。ここで影山が選んだのは日向。

 

 

正確無比に日向の手のひらに収まる高速トス。

見る者が見れば、その異常な神業には一周回ってドン引きする精度。

 

 

「ふんっっぬっっぅ!!」

 

 

だが、そんな一撃は、岩泉再びのスーパーレシーブで防いで見せた。

良い流れは未だ青葉城西側だ。

 

 

「っしゃあああ!!」

「ナイス岩泉!!」

「キレッキレだな!!」

 

 

湧き起こる大歓声。

それはさっきの火神の一撃を拾った熱がまだまだ燻ぶり、残っているかの様だった。

 

 

「(チぃっ、くそッまだ甘ぇぇ!!)」

 

 

そしてその熱とは裏腹に岩泉は納得してない。

間に合っていた筈だったが、ほんの一瞬だけ火神の方を見てしまった。

その結果がこのレシーブなのだから。

 

 

「フォロー!!」

花巻(まっきー)! 頼むよ!!」

 

 

及川までは遠すぎる為、花巻が代わりにアンダートスで京谷がいるライト側に向けてあげた。

 

青葉城西と言うチームは突出した選手がいる、と言うよりは全員バレー。

全員が満遍なく高いスキルを擁しているのも強みの1つだ。

 

例え及川(セッター)が上げれなくとも最低限度のトスワークが出来る面子が揃っている。十分補填出来る――――のは間違いないのが、乱れたレシーブに対し、アンダートスともなれば話は別。

これでも完璧なトスを上げてくるのは影山くらいだろう。

 

 

 

「!! 悪っ! ネット近ぇ!!」

 

 

花巻が上げた二段トスはネットに近く、捕まりやすい位置。

更に、烏野側は二段トス故に時間も十分。マークもきっちり3人揃えられた。

 

 

「ブロック3枚!! 1回返せ!!」

 

 

間違いなく打てば捕まる。ブロックフォローに回っていたリベロ渡は思った。

 

如何にブロック3人の中に何度も吹き飛ばした日向が居るとは言え、高さもタイミングも十分。何より3度もやられてたまるか!! と言う圧もそれなりに感じる。

 

 

これは間違いなく捕まるヤツだ、と渡以外の誰もが思ったのだが。

 

 

 

「ふんっっっ!!」

 

 

 

そんなの気にするか!! と言わんばかりの真っ向勝負をする京谷。

勿論、狙いは中央ど真ん中の日向でフェイントの類は一切なし。

 

 

「んがぁぁぁっっ!!」

 

 

小細工なしで強行突破なのは日向にも十分伝わった様子。

普段の日向ならまだしも、ここぞの場面でのビビりさは一切見せない。

京谷の様に苛立ちもある。……何度も打ち抜かれた事に対するモノ。

色んなモノが合わさってそれらが上手く日向の中で作用され、更には左右に澤村・火神が付いてくれている事もあり、揃ったブロックの壁は完全に京谷を包囲。

 

 

結果、ズドンッ!! と景気よく日向の手に当たりその後澤村の腕にも当たり、攻撃は真っ向から叩き返された。

 

 

【ナイスブロォォォック!!】

 

 

烏野側は、青葉城西側に傾いているであろうこの嫌な流れをどうにか断ち切ってくれ!! と声を大きく荒げる。

 

 

「清々しいほどのフルスイング……」

「そりゃ、そう中身が変わる訳ないよね!! そりゃそうだ!! いや、さっきまでのは気のせいだった! きっとそうだ!!」

「何1人で喚いてんだボゲ!! 直ぐ立て直すぞ!」

 

 

確かに、ここまで来たら、ある意味清々しい気分にもなると言うものだ。

京谷は色々考える様になり、烏野に触発される形でより良い方向へ向かっていく~~と楽観的な事を考えていた節のある及川だけど、それは甘すぎると一蹴。岩泉も意味解らんこと言うな、と及川を一蹴。

 

 

「馬鹿かお前! もうちょい軟打とか――――」

 

「おい」

 

 

そして京谷に対しては外から、溝口がベンチ側から大きな声で怒鳴る様に指摘をしようとした―――が、それは最後まで言い切る事は無かった。

何故なら、京谷の前に岩泉が居たからだ。及川を一蹴した後すぐに京谷の方へと向かっていたから。

 

 

「自分だけ(・・)が気持ち良いバレーをしたい、ってか?」

「!!」

 

 

京谷の心の内を見透かしたかの様に、岩泉は京谷を見た。

京谷は思わず気圧される。それは岩泉だから、と言う訳ではない。確かに、思っていたから。攻撃は強打が決まらなければ気持ち良くない、と考えていたから。

 

 

「まぁ、まだ入って数本だ。及川が好き勝手やって良いっつった手前もある。……少しくれーなら、調子を上げるっつー名目で目を瞑らん事も無いが、も一回言っとくぞ」

 

 

岩泉は京谷の目をしっかりと見据えて、告げた。

 

 

「やり合うあいつらをしっかり見とけ。………テメーの自己満浸りで勝てる様な相手かよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ!! 3度目の正直ってヤツだ!!」

「ナイスブロック、翔陽! 澤村さん!!」

「おう!」

 

 

青葉城西側の流れを変える男である、と言う認識の京谷の攻撃を防ぐ事が出来たのは中々大きいだろう。無論、楽観的に見る事は出来ない。

何故なら―――。

 

 

「今のは殆ど向こうの自爆みたいなモノだからなぁ」

「で、でも止めたっスよ! 澤村さん!!」

「お、おう! そうだな。すまんすまん。後ろ向きな姿勢は駄目だった」

 

 

日向と澤村に当たって跳ね返したスパイクだったが、あの場面で強引に打ってくるとは正直想定外だった面もあった。

確かに、京谷を止めたのは良い。どういう流れを生み出すのかまだまだ決まっていないが、紛れもなく青葉城西に何かを齎すのはあの京谷だと睨んでいるからだ。

 

 

「ひょっとして………」

 

 

そして、澤村は1つの結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澤村の考え、それはベンチ側も同じであり、澤村とほぼ同時に烏養は思い描いていた。

 

 

 

京谷と言う男の性格、性質と言う面も勿論あるが普通に考えたら3人揃ってるブロック相手に対して乱れた(ボール)で勝負しようなどとは思わない。

 

 

 

 

「正直、あの16番はアクが強い。今までの青城を、って考えりゃ強過ぎるってもんだ。まさに安定の真逆、不安定。ここまで試合に出てこなかった所から見ても、【諸刃の剣】なのかもな」

 

 

 

 


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