王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりましたが、何とか投稿出来ました。
この話で決着まで行きたかったですが……この次で、青城戦終わりになります。

長かった、ものすごく、ながかったです……… あまりにもいそがしすぎて………

決着は寂しくもあり……何だか達成感もあって嬉しくもあって……、次の話へのワクワクもあって………、現実がものすごーーーく邪魔をしてきて大変です。(苦笑)



王様ぎゃふん! を読んでくださり、本当にありがとうございます。
これからも頑張ります。


第183話 青葉城西戦Ⅱ⑲

 

 

——最後の勝負——

 

 

これが正真正銘最後の勝負だ、と背を押して送り出す烏養。

烏養に言われるまでもない。コート内の選手らも敵味方全員例外なくそう思っていた。そして当然、勝つのは自分達だと気合を入れていた。

 

 

現在、烏野の盾でありブロックの司令塔の月島が外に出た事で宙の防御力は落ちたかの様に一見みえるかもしれない……が、それを補い、最後の点を獲りきる事が出来る布陣が完成したのだ。

 

 

日向と菅原、最後の最後で満を持してコートIN。

 

 

「おおお! ここで戦術的ワンポイントツーセッター!!」

「命名したの大分気に入ってんのね……。つっても、()烏野(ウチ)の場合じゃ少々違うから、ツー(・・)じゃないかもねぇ~」

「ああ。ツーじゃなくて、最早スリー(・・・)だ」

 

 

燥ぐ冴子を尻目にニヤリと笑みを浮かべる嶋田と滝ノ上。

確かに、ポジション的に考えたら影山と菅原のツーセッター配置……かもしれないが、こちらには超オールラウンダーである火神が居る。

 

細かな組み立てが出来、視野も抜群に広い。誰でも対応できる基礎能力値が高い~と言うレベルではなく生粋のセッターであると見紛うレベル。

影山が聞いたらムキになるかもしれないが、もう周知の事実。

 

 

「……まぁ、当然その辺は青城(向こう)も十分過ぎる程解ってんだろうな。最早周知の事実だし」

「あぁ。……今更ビックリして隙が出来る~なんて希望的観測……。正直無理だろうな。何せ青城は元々個々の能力の高さ、総合力の高さが売りな所があるし」

 

 

まさに幾度となく組み交わした相手だからこそ、解ると言うモノだ。

見なければならない所、その情報量の多さ。……自分達が想像し対応するとなったら頭が痛くなる事極まれり~だが、青葉城西も試合中に進化し対応していってる。

 

及川のサーブを完璧に上げて見せて、その上での布陣だと言うのにその精神がブレる事が無い。……選手らの表情を見ていればよく解る。精神的な気負いが一切ない、と。

 

だからこそ、今の烏野を即座に対応する。……される可能性の方が高いかもしれない。

 

 

「できれば、勢いこのままに押し切って貰いたい所だ……」

「ああ。対応される可能性が有るとはいえ、前ン時みたいに上手くハマってくれりゃぁ……」

 

 

不確定要素、不安要素は尽きない。

でも信じるしかない。烏養同様に、町内会チームメンバーもただただ信じる。

信じるに値するメンバーだと心の中では太鼓判を押す。

真剣な面持ちの中で薄く口角が上がるのはそう言う事なのだろう。

 

 

「オレと影山で決まるまであげんべ!」

【おおっしゃあ!!】

 

 

菅原が入った事で澤村に続く精神的な支えが増えたと言っても過言ではなく、24-24のデュースと言う場面でも自然に、いつも通りに、肩の力を抜かせて皆の最大限を引き出す。

それだけを意識して周囲に気配って声をあげた。

 

 

「ここ大事だ。……獲るぞ、翔陽」

「おおよ!」

 

 

前衛にあがってきた日向に声をかける火神。

その火神の声に力強く反応する日向。

そして、互いに拳を合わせた。

 

 

日向は火神と拳を合わせた途端、内から湧き上がってくるモノが合った。

 

 

身体は熱く煮え滾っているが、頭の中は冷静沈着。

無音の世界に立っているかのよう。

いつ、如何なるタイミングでも全てを爆発させれる様に……まるで嵐の前の静けさの様だった。

 

 

慣れない者が今の日向を見たなら寒気すら感じられる事だろう。

研ぎ澄まされた集中力は、周囲にすら伝わる程だから。

 

何より隣り合わせで立っているからこそ、解る。 

よく解る。

 

 

日向翔陽と言う存在そのものの圧。それが何処までも心地良い。そう言わんばかりに火神は口角を緩めて全身で感じた。

 

 

猪突猛進スタイルなのは変わらないかもしれないが、直感反応反射、全てが類を見ない仕上がりとなっているこの状態は大歓迎。

何よりこういう場面こそ、最高のパフォーマンスを発揮してくれる男だと火神は他の誰よりも知ってるから。

いや、ある意味知らない。

この状態に入る為には、本人の最高のコンディション以外に整えられた舞台(ステージ)が必要だから。負けられない戦い。春高予選の試合の最後の最後。ありとあらゆる条件が整えられた所で……今の日向翔陽が観られる。

 

だからこそ————嬉しい。楽しい。

 

 

互いに引き合う様に、互いに惹かれ高め合う様に。

共鳴と増幅が繰り返されてる。

 

 

 

 

 

「(この集中力……。日向(こいつ)の終盤で見せる集中力だけは、火神(アイツ)とまったく見劣りしねぇ)」

 

 

肌で感じているのは同じく前衛である影山も同じ。

周囲の時間がゆっくり流れているかのような感覚……。近しいもので言えば先ほど火神があの及川のサーブを完璧に上げた時のアレに近い。極限レベルだと言ったって良い。

火神を挟んでいると言うのに、あの集中力は目を見張るモノがある。

 

 

だが……。

 

 

 

「(だけ(・・)だ。集中力だけ(・・)!! だけどな!!)」

 

 

 

決して認められない部分はあった。

火神と日向が同類? に見てしまう事だけは是が非でも認めない。

いや、集中力と言う分野……後は超人的な身体能力は認めざるを得ないのかもしれないが、総合力を考えれば下の下の下(暴論)。

 

 

———火神と日向が共鳴と増幅? ふざけた事言ってんじゃねぇ!!

 

 

と言った感じである。

 

 

「はいはい、飛雄。その熱烈な視線は青城(あっち)にな」

 

 

戒めつつ……実はくくくっ、と口角を歪めながめてるのは火神。

日向の様に、日向と一緒に集中していたが、更に心地良いとも言える圧を感じたので、戻ってきた様だ。

 

そもそも、影山が日向に注視するあまりプレイが疎かになる~なんて120%無いから基本心配はしてない。

 

だから影山と日向、その間に居るからこそ2人の圧をただただ楽しむ。

間に居る事で日向の事も影山の事も解る。試合の時だけはなんて贅沢なポジションなんだろう……。(日常パートは鬼の様に大変なだけなんだけど)こういう時のまさに役得感に酔いたい気分にもなってしまっていた。

 

ここへきて最高に楽しめる。

こんな息も詰まる緊迫感な世界であっても、十全に楽しみ……100%以上を出せる。

 

 

 

「スガさん、ナイッサ――――!!!」

「ナイッサーーーー!! です!!!」

 

 

コート外の皆の声を受ける菅原。

誰もが試合に出たい気持ちがある筈だ。こればかりは年齢関係ない。出られなかった連中の想いをも(ボール)に込める……なんて、格好良い事を考えてられる程、菅原に余裕がある訳じゃない。

 

 

「ふぅ……」

 

 

だから、軽く深呼吸をした。

改めて得点を見る。

 

24-24

 

デュースの最初の攻防……紛れもなくこの先を占うと言って良い場面。どう転ぶかは初手に掛かっている、と思っても良い。

 

 

「(まだ余裕があるなんて思わないし、思えない。それじゃあ何のために入ったか解らないし。……だから後がない、ミスったらオワリ……それくらいの気概で打つ)」

 

 

そして眼を閉じた。

体育館内の喧騒が耳に飛び込んでくる———が、それらを雑念とし、一切を遮断する。

ただ、笛の音だけはハッキリと聞いた。……笛の音を聞いて再度深呼吸をし………眼を見開いて構えた。

 

 

「行くぞぉ!!!」

 

 

菅原の武器(サーブ)はフローターサーブ。

このサーブで点を獲れるなんて思ってない。

威力も日向のサーブと対して変わらないし、最弱だと言って良い。でも、出来る事はある。狙った場所(・・・・・)……、必ず狙った場所(・・・・・・・)に撃つ。

 

ほんの少しでも、相手が嫌がる事をする為に。

 

 

ドッ……。

 

 

狙いを定めに定めて打った(ボール)は、相手コートのライト側。牽制すべきはライト側にローテで配置されている岩泉(エース)

 

それも際どい位置。直ぐ後ろにはリベロの渡が居る。岩泉は守備を任せて攻撃に専念しても良い……どっちを取っても構わないレベルの位置。

 

 

「(——INかOUTか!? オレか岩泉さんか!?)」

 

 

ただ、迷いが生じたのは渡。

守備のスペシャリストであるリベロでさえも迷ってしまう程の絶妙な場所に狙いを定め、打つ事が出来た菅原の技アリサーブだと言って良し、だ。

声をかけるタイミングが遅くなった。INともOUTとも言ってない。

だからこそ、岩泉が我さきにと動いたのである。

 

 

「フッッ!!」

 

 

比較的緩やかなサーブだったから、捕えるのはさして難しくない。ただ、INかOUTか悩むレベルには高さと伸びが有り、その(ボール)をオーバーで拾った岩泉は大きく後方へとよろけてしまった。

 

 

 

一瞬にも満たない時だが、誰もがこう思った事だろう。

 

 

【青城の岩泉(エース)を牽制した!!】

 

 

これで、青葉城西の攻撃力を削ぐ事が出来た。

止める・拾うチャンスも出てきた、と。

 

 

でも同時に、そんな簡単な訳もない———と言う感情も生まれる。

前衛に居る高さのある金田一……そして、爆発力のある京谷の存在だった。

 

高く・早い速攻(Aクイック)を狙う金田一とその背後から獰猛に狙う京谷。

岩泉(エース)が駄目なら、真ん中(センター)で中央突破がベター。及川が考えそうな事であり、事実、京谷と言う強烈な囮も機能し出している事もあって何度も何度も受けてきた。数字を言うなら決定率も高かった。

 

 

———が、及川が使うのは京谷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどの交代の短い時間で———及川は皆に話していた事が有る。

 

 

『綺麗にオレに返球出来て、金田一か狂犬ちゃんか、って場面が来た時、狂犬ちゃんにオレは上げるからね』

 

 

別に態々言う程の事じゃないのでは? と皆が思った。その場面は今まで何度も来ているし、何なら言われるまでもなくどちら側に来ても対応できる自信がある。京谷の圧に押されて怖気づいてしまって、日向にさえ見抜かれた金田一も居たが、今はもう無い。自分が打つのだ、と言う気概は100%。

 

 

『そこでだ狂犬ちゃん。……ひとつ、仕掛けていこうよ(・・・・・・・・)。決まれば———ハマるよ』

『???』

 

 

及川は、嫌らしい笑みを浮かべて京谷に言った。

誰もがその凶悪な笑みにイラッ……ではなく、ゾクッと背筋に悪寒がする程の気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

金田一を囮に、京谷に上げる。

で、当然烏野の(ブロック)はそれだけで分散できる程甘くはない、と言うのは非常に憎たらしいがもう試合を介して嫌と言う程解っている。

例え、厄介な月島が去ったとしても、今はひょっとしたらより厄介かもしれない2人が前衛に来ているのだから。

 

火神・影山のコンビは本当に厄介。

更に言うなら影山は上を目指そう目指そうと躍起になっていて、引っ張られる形で物凄い速さで向上していっている所も厄介。

 

つまり、烏野の防御壁はどのローテでも隙が無くなりつつある、と言う事だ。今の内に……進化しきる前に止める。止めるのには今しかない———と及川はそう考えていた。

 

 

そして今。

多少時間を稼げたとしても、2人は間違いなく捕えてくる。

レフト側に走った京谷を補足し、2枚壁に揃えてくる。

正面突破を心情とし、力づくで点をもぎ取ろうとする京谷にとって高い技術で対応対抗してくる影山と火神は相性が悪すぎる。だからこそ————効くのだ。

 

 

「(身体の向き、位置的にほぼストレートの可能性は無い)」

「(オレが飛雄ならクロス(こっち)一択。勿論、ストレートも閉めた上で)」

 

 

短い空中の攻防の中、十以上の考えを張り巡らせる2人。

クロス側なら火神が相手だから、影山は十全の信用と信頼を以て任す、託す事が出来る。火神も影山の考えを大体把握・理解し京谷を仕留めようと手を伸ばしたその時だった。

 

 

———!!

 

 

京谷と眼が合った。

その眼は獰猛で、今にも噛みつきそうな狂犬のモノ————ではない。

策を弄する、何か(・・)を狙う者の眼だ。たった一瞬、されどその一瞬で十分。これまで幾度となく交わしてきた攻防の経験から解る。

 

 

『まさか———!!?』

 

 

この一瞬で京谷は強引に、本当に強引にスパイクの軌道を変えてきた。肩を、肘を限界まで可動させて、下手をすれば肩を痛めるのではないか? と思える程に強引に、そしてその眼は絶対の自信を持っていた。

絶対決めてやる、と言う強い決意も。

 

 

その京谷が見ている方向は影山でもなければ、火神でもない。見ているのは更に内側(・・・・)

 

つまり———。

 

 

 

『ここへきて……超インナークロス!?』

 

 

 

これまでこの手の攻撃をする際、京谷は真横に助走から始めていた。

日向の様なブロードなら兎も角、普通の攻撃でさえも真横からネット際々からの助走からだった為、非常に拾いにくいコースと言えども大体の軌道を把握する事が出来たし、澤村や西谷、火神が対応する事が出来た。

ただ、今回のソレは全くの別物だった。言うなら梟谷の木兎と同じ。パワー型である事を考慮すれば、木兎のソレと威力は遜色ない分類。初めて見せるスパイクだからミスも起こるのでは? と思えた者もいたが、今の京谷がミスをするとは思えなかった。

 

敵味方問わずに……。

 

 

『凄い。そう、凄いんだ。いつもいつも想像を超えてくる』

 

 

この極限まで時が凝縮された濃厚で濃密な時間の狭間で笑みを浮かべる。時の矛盾を存分に堪能しつつ、相手に対して最大級以上の称賛を、尊敬の念を送りたい気持ちでいっぱいになる。……が。

 

 

『オレと飛雄だけ(・・)だったら……抜かれた。でも————それは駄目なんだよ。そこ(・・)は』

 

 

口角が吊り上がる。

だって、見なくても解る。……知っているから。

 

 

 

居るから(・・・・)

 

 

 

次の瞬間、空気に圧されるかの様な圧を左半身に感じた。

何かが瞬時に動くのを、空気の流れを感じ取れた。

 

そして、それが気のせいなどではなく、本当に居る。来たのだと言う事は次の瞬間には身を持って知る事になる。

 

 

ドスンッっ!!

 

 

火神の左半身に衝撃が走る。

空中で受けたのだから、往なす事も堪える事も難しい。体幹だけで止める必要が出てくるから。死角から飛び込んでくる一発の威力は思いの他強い。

 

でも居ると信じていたから。来ると信じていたから。

 

 

だから大丈夫だった。

 

飛び込んできたのは日向。

あの位置から、このタイミングで、京谷を止めんと跳び付いてきたのだ。

 

 

『当たっても構わない』

 

 

よく火神が言っていた言葉だ。

だから、日向は一切躊躇しなかった。火神なら……絶対受け止めてくれることを知っているから。

 

 

でも……少しズレるのだけはどうしようもない。

 

 

「うぐっっ!!?」

 

 

日向が火神に当たり、そして火神が直ぐ横に居る影山に当たった。

しっかりとブロックの隙間を埋める様に連携して跳んだから……どうしても当たってしまう。

本当、それだけは仕方ない。

 

 

でも、影山は堪える。

飛ばされる事なく、ズレる事も無く、堪えてコースを守った。

そして、日向が現れた事で、2枚ブロックだった筈が急遽3枚ブロックへと変化。

抜ける筈だった超インナーのコースにも壁が出来た。日向の手が京谷を捕えた。

 

バチッッ!! と跳ね返されてしまったのである。

 

 

 

山なり(ボール)となって、青葉城西のコート後方へと飛んでいく。

 

 

「(止めにいった————じゃない。とにかく(ボール)に跳び付いてきたか……)」

 

 

こういう時、本当に嫌になってくる……と感じるのは入畑。

 

普通に考えたら、そんなに考えてる時間も無い筈なのに……ほんの一瞬の刹那の時間な筈なのに、体感時間が嫌に長く感じてしまう。あまりにも衝撃的な光景は……人の体感時間をぎゅっ、と圧縮してしまう。長く考えれてしまう。

入畑はコートの外に居るからこそ、あの日向の恐ろしい身体能力を、反応の速さを改めて視認してしまった。

 

 

「(毎度毎度あのチビちゃんの反応速度は——————!!)」

 

 

それはプレイをしている及川も同様だった。

これは絶対に虚を突いた筈だった。決まると確信に近いモノを間近で感じていた。今日初めての難しいコース打ち(超インナークロス)。ミスの可能性だって高かったが、上げてきている京谷であれば十分過ぎる程の勝機はあった。事実、成功した。影山よりも火神よりも更に内側のアタックライン前のコース。

 

あの空間に日向さえ飛んでこなければ……。日向を軽視していた訳じゃないにしても、それにしても何度も何度も思い知らされる。

そのバケモノ染みた身体能力を。

自分の想定を、想像を超えられていくのがどうしてこうも腹立たしく———悔しいのか。

此処へきて日向のブロックで止められるなんて—————と、殆ど諦めかけたその瞬間、及川の視界の中に、横切る影があった。

 

 

「っらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

いつの間に戻ったのか。

いつの間に下がったと言うのか。

 

リベロの渡よりも早く反応し、後方へと跳び付いた男が居た。

 

 

「(まさか———なんて言わねぇよ)」

 

 

腕を伸ばす。

 

 

「(嫌な予感はあったんだ)」

 

 

執念で手を伸ばし、自陣コートに落ちるのを阻む。

 

 

「予想外じゃねぇぇんだよぉ!!」

 

 

岩泉、渾身のワンハンドレシーブで拾い上げた。

 

 

「ナイスレシィィブ!!!!」

「うおおおお!!? 岩泉!!!」

 

 

上げて見せた男は岩泉。

火神が、影山が、その他にも皆が感じた日向の圧。それに注視していた男の1人がここへきて魅せた。

 

 

「流石岩ちゃん!!」

 

 

多少乱れるのは仕方がない。

寧ろ、あそこで獲られてしまったらそこで点は向こうだ。

落とさなかった事だけに最大級の賛辞を思い、及川は走った。

 

アタックライン外側かもしれないが、それでも執念で上げて見せる。

 

 

花巻(マッキー)!!」

「おおおおッッ!!」

 

 

影山の様な超精密なトスは出来ないかもしれない。

でも、その状況を十二分に使い、最善にして最適の手を導き……実現する事は出来る。

長く共にプレイしてきた信頼関係も十分。花巻は、岩泉に触発されたと言うのもあるが、自分に上がるモノだと。及川ならあの位置からなら自分に上げるのだ、と理解し走り込んできたのだ。

 

日向のブロックに一瞬湧き立った烏野だが、最悪な形のカウンターとなってしまう———事は無い。

 

 

「飛雄!!」

「ああ!!」

 

 

青葉城西ならやってくる。

(ボール)がコートに落ちない限り点にはならない。

一瞬足りとも油断はしない。

 

その心情があれば、揺さぶられる事は無い。更に言えば終盤にして集中力を上げてきている日向を見ているのだ。触発されない訳がないし、油断する訳もないのだ。

 

 

「(この場面できっちり2枚揃えて来やがった!?)」

「(なめるな……打ち抜く!!)」

 

 

厄介な壁、厄介な相手である事は嫌も承知。

 

だが、信頼し託された(ボール)

 

例え、岩泉(エース)じゃなくとも、例え京谷(狂犬)じゃなくとも……打ち抜いて見せる。

この試合初めて強引に、技アリではなくパワー重視で花巻は振り抜いた。

その気概が————運を呼び寄せる。

 

 

びぃぃぃんっっ!!

 

 

2枚の壁に当たる事なく、花巻が打ち振り切った(スパイク)は、白帯に当たった。

勢い良く白帯に当たったせいか、そのまま山なり(ボール)となって弧を描く様に火神・影山を超えていく。

 

 

「(クソッ、白帯っっ!!)」

「(これは———届かない(無理))」

 

 

触れる事が出来ない高さ。それも結果が偶然のフェイントの様な攻撃。強

打が来る、と構えていてもおかしくない気概と気迫だった事。

 

 

「「前!! 前前ッッ!!」」

 

 

下がってしまっていたら、反応が少しでも遅れてしまったら……———ブロックだけでなく、レシーブも届かない。

そうはさせない為に、火神と影山は示し合わせた様に、息を合わせた様に、《前》を連呼した。

 

少しでも身体を反応させてくれれば。少しでも足しになれば、と。

 

 

そして、そんな中真っ先に、我さきにと動き始めた者もいる。

 

 

「オレ————が!!」

 

 

殆ど試合に出られてない。悔しい。でも、それを最大限に利用する。

試合終盤でも、余裕で身体は動く。頭も働く。疲れは殆ど無い。体力は誰よりも残されている。

 

声をあげ、飛び出したのは菅原だ。

 

まだサーブ権を持っていたい。渡したくない。あの時の山口の気持ちが痛いくらい解る。そんな想いも背に……。

 

 

「とーーーーーる!!!!」

 

 

菅原は追いついた。

見事、拾い上げて見せた。

 

 

「よし!! よしよしよし!!!」

「カウンタぁぁぁぁぁ!!! カウンタぁぁぁかえしぃぃぃ!!!」

 

 

日向のブロックからまさかの岩泉のスーパーレシーブ。カウンター花巻のバックアタック。それを更に返す。

まさに超ラリーの応酬だ。

 

 

「行けェ!!!」

 

 

完璧に近い形で、影山に返球。

 

最高の形で、烏野は攻撃に転じる事が出来る。

前衛には日向が、火神が。

後ろのエース東峰も黙っていないし、澤村も守備を捨てて走り込んでくる。

ブロックのフォローに入れるのは、最早菅原だけの4人のシンクロ攻撃。

 

 

「(厄介。……でも、ファーストタッチは爽やか君だ)」

 

 

もう何度《厄介》と言ったか……、それは兎も角として現状を可能な限り分析して、可能な限り最善で迎え撃ってみせる———と頭を回転させる及川。

 

虚を突く攻撃、と言えばこの4人攻撃(シンクロ)もそうだが、何より試合中に1度しか見せてないセッターである菅原を使った影山の攻撃が来ない。

影山のストレート打ち。菅原が入った時点で警戒していた攻撃手段の1つだ。

現行、火神もセッターポジションの仕事をする事は出来るかもしれないが、殆どが二段トス要因。

 

 

頭を回し、可能性を紡ぎ———最善を導き出せ!

例え、止められなくても(ボール)に触れ!

 

 

勝つために、この攻撃を止める為に。

 

 

 

そんな息も詰まりそうな刹那の時間の中で———。

まるで、全ての思考、全ての可能性、全ての思い。それらを嘲笑うかのように……(ボール)をひと叩き。

 

あまりにも緩やかで、あまりにも想定外で……、あまりにも鮮やか。

誰が来ても止めてやる。触ってやる。拾ってやる。そんな思いの頭上を意図も容易く超えた。

 

 

【!!!】

 

 

あの日向のブロックにさえ反応出来たのに……、その驕りが油断となってしまった、と言うのだろうか。頭に入れ直していた及川や岩泉、そして全員が一瞬思考停止をしてしまう。

 

あまりにも鮮やかに、敵味方問わずに置き去りにする様な————影山のツーアタック。

 

 

誰も追いつけない。

今までのラリーの中でも特に濃かった攻防。結果は青葉城西のコートに落ちた。

 

 

烏野高校マッチポイント

 

25-24

 

 

「―――――かっっ」

 

【かげやまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!】

 

 

 

うおおおお!!!!

 

大歓声が湧き起こる。

影山の見事な意識外からの攻撃により、いよいよ烏野が王手(マッチポイント)をかけた。

 

 

「マジかよ烏野9番! この場面で、あのタイミングでツーかましてくるとか!!?」

「どんだけ強心臓!!? 普通エースとかに頼っちまう場面だよなぁ!!?」

 

 

常人では凡そ立ち寄らない、近寄らない場所へ躊躇わずアクセル全開で進んでいく男が影山なのだ。その異常性……とも言える強心臓に誰もが舌を巻く。

でも、これはある意味当然で必然なのかもしれない。

及川が思う様に、及川に限らず影山を知る青葉城西の面々が思う様に……、1人暴走している独裁な王様じゃなくなった影山なら。自身よりも前を行く馬鹿が現れたのなら。それらを導ける様な存在に出会えたのなら。……影山ならば行く。

 

解ってる。

解ってるからこそ————。

 

 

「クッソガキ共が…………!!!?」

 

 

あまりにも腹が立つ。

何より、この光景を、あの選択を、頭の片隅にすら想定出来てなかった自分自身に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、あと1点! 1点です!!」

「おおおおっっ!! 戦術的ワンポイントツーセッターでいっちまええええ!!」

 

 

谷地、田中組が大いに盛り上がる。

凄まじいラリーだった。まだまだド素人……殆ど知らず、解説おじさんズ『お兄さんだ!

』に解説して貰わないと全然分からない田中冴子でも肌で伝わる攻防だった。

 

それを乗り切ったのだ。声も必然的に上がるし盛り上がる。

 

 

「―――及川のあの気持ち……わかるよ。いや、オレだって一緒だし」

「だな……。手に取る様に解るって結構珍しいかも」

 

 

悔しそうに睨みを利かせている及川の姿を上から見ていた滝ノ上と嶋田は、苦笑いをした。

 

 

「さっきの攻防……菅原がファーストタッチ。つまり菅原を起点(セッター)とした影山の攻撃(スパイク)は無い……になるよな。よくよく考えてみりゃ、火神からの影山へのセットなんて、狙ってやってるヤツ1回も見てねぇし、そもそもあの場面は火神も攻撃転じてた。つまり【火神セッターパターン】も最初から除外されてる。だから余計に【影山の攻撃は無い】って思っちゃう」

「そうそう。……それに菅原の場合、何かを【やらかす】って印象が強いってトコもあるか……。元々菅原(アイツ)は搦め手を得意としてる~~って訳じゃないけど、今できる力で、今できる攻撃方法で相手を攪乱する感じだしな」

 

「おお~~~」

「なるほど……」

 

 

解説コンビが、青葉城西側の心情まで代弁して語ってくれるので余計に解りやすい。

田中も谷地もうんうん頷きながら聴き入っていた。

 

 

そうこうしてる内に、主審の笛の音が鳴り響く。

青葉城西の最後のタイムアウトだ。

 

 

 

 

「くっそ!! メチャクチャ腹立つ!!」

「渾身レシーブの後だもんなぁ……。イラつきが半端ない」

「ああそうだよ! 上限突破だ!!!」

 

 

うっがーーー! と吼えるのは岩泉だ。

レシーブの快感を知っている。相手渾身の一撃を拾って魅せる快感を知っている。

だからこそ、その快感が反転する時どうなってしまうのか……、それをより濃く知ってしまったのだ。心の底から思う。心底ムカつく、と。

 

あれだけ完璧に返して見せた。此処こそ決めなければならない。最高の風が吹く場面だ———とより強く思っていたからこそ、その反動がとてつもない。

 

 

「流石及川の後輩、ってトコか」

「そこが更にイラつかせる!! あーーーもう! やべぇよ!! めっちゃやべぇ!!」

「壊れるな岩泉。語彙力低下してってるぞ」

「うっせぇ!!」

 

 

岩泉の気持ちは痛い程解る。

守備専門にしている渡はよりよくわかる。……でも、それ以上に同意してしまう事が有った。

それは、同じポジションで1つ上である矢巾がボソリ、と呟いた事だ。

 

 

「あの土壇場でも強気の姿勢……、アレもセッターの資質ってヤツなんだよな」

「……まぁ、確かに」

 

 

セッターはチームの司令塔。

でも、点を獲れない訳じゃない。セッターだって攻撃が出来る。でも、この土壇場で……エースやポイントゲッターらに任せても良い場面で自らがいく。強気も天井知らずだ。

 

 

 

そんなチームがある意味乱れている最中……及川だけは違う事を考えていた。

 

 

確かにムカつく。腹立たしい。妬ましい。……自分が持っていないモノを、トンデモナイ技量を持っている事が、兎に角腹が立ち、羨ましくも思う。でもそれは自身では手が届かないと自分自身で認めている他ない事だ。

 

 

【自分の力の上限をも悟ったって言うのか?】

 

 

その気持ちを、その迷いを————真っ向から否定してくれる人が居た。

 

 

 

【技も身体も精神も何一つ出来上がっていないのに?】

 

 

 

思いを打ち明けたかった。

年下で、完成された精神と技術、力……全てを兼ね備えた男が突然出てきたから……、打ち明けたくなったのかもしれない。いや、多分間違いない。口に出したくないだけで。

 

 

【自分より優れた何かを持っている人間は生まれた時点で自分とは違う】

 

 

頭の中に流れる言葉。

下から烏野(脅威)が、上には白鳥沢(絶対的な壁)が———それらが頭の中で駆け巡る。

 

 

【それを覆す事など、どんな努力・工夫・仲間をもってしても不可能だと嘆くのは————全ての正しい努力を尽くしてからでも遅くない】

 

 

高校3年になった。上には跳ね返され、下には背を掴まれる。そんな状況。……袋小路だと思えてしまっている自分が居た。

 

でも、そこで終わりじゃないんだ。先はまだまだ続いている。高校生はまだ子供だ、と言い聞かせてくれる。

 

そして、次の言葉で……ここで目を思わず見開いたんだ。

 

 

 

【『自分の力はこんなものではない(・・・・・・・・・・・・・・)』そう信じて只管まっすぐに道を進んでいく事は―――『自分は天才と違うから』と嘆き諦める事より、辛く苦しい道であるかもしれないけれど】

 

 

 

 

 

その言葉に……、何だか既視感(デジャヴ)を感じた。

誰が言った? こんなものではない、と誰が言ってくれた? ……いや、言葉ではない。心に、魂に訴えかけきたヤツが居なかったか?

 

 

だから————より先に行けるようになったのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……才能開花のチャンス、か。それを掴むのは今日かもしれない」

「「??」」

 

 

不意に、及川は声を出した。

考えに耽っていたかと思えば突然の声。他の面子は怒っているのが多かったのに、……影山からの1点と言うだけでも一番ヘイトが溜まっているであろう及川の第一声には驚く者もいる。

 

 

「若しくは明日か明後日か来年か……30歳になってからかも? ……まぁ、体格に恵まれない……って言うのはどうしようもないけど」

 

 

羨ましいと思った。

妬ましいと思った。

でも、持っていないのに……強烈に、強烈に、多分自分以上に羨ましく妬ましく思っている筈なのに、それでも前を向き、上へと跳び続ける男が居る。

 

 

そして何より…………。

 

 

「そうだよ。無いって自分で思ってたら一生無いんだ。多分ね。……この状況下で、無い~なんて普通言ってられないんだけどね。ほんの一瞬でもそう思っちゃったら……ダメだ」

 

 

及川はそう言うと前へと進んだ。

矢巾はそんな及川の背を見送る。

何かが違う……何か変わった? と思わずにはいられなかった。

 

 

ただ悪い方には変わっていない。それだけは間違いない、と断言出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野側では、影山のツーアタックに称賛の雨である。

 

 

「よくあそこで打ったなぁ! 性格悪いぞ、影山!!」

「それ、褒めてます?」

「大丈夫だよ! ツッキー!! ツッキーも凄いから!!」

「それ、褒めてないよね?」

「ゴメンツッキー!!」

 

 

皆がイケイケで出迎えてもみくちゃだ。……勿論、此処から先油断はしない。まだまだ気合を入れていく。

 

 

「それにしても飛雄、よくぞ堪えてくれた! 翔陽の一撃、何とかオレ堪える事出来たけど、流石に飛雄に当たるのは避けれなかったし」

「ああ、大丈夫だ。日向程度のチビに当たって生まれた勢い程度でどうにかなる程、弱くねぇし」

「あんだと!!? 一言余計なんだよ!!!」

 

 

キェェ!! と怒る日向。

オラァァ!! とそれを迎え撃つ影山。

ある程度発散した所で火神が間に入って止める。

怪我のリスク等もある空中での接触。本来なら避けるべき事なのだが……アレは仕方ない。

 

 

「翔陽もナイス。オレが口酸っぱく言ってた事、ちゃんと実戦してくれたな」

「ぶつかってきても良い!!! 寧ろぶつかれ!! だな。当然! あ~あ。影山に当たってたら絶対ぶっ飛んでたなぁ~~。誠也で良かったぁ~~」

「誰がぶっとぶかボゲェ!!!」

 

 

頼りになり過ぎる後輩らを後目に、東峰は菅原に声をかける。

 

 

「スガも思いっきりいけよ。際狙い。際っ際だ」

「わかってるよ。中途半端やったら速攻で失点だ。……それに、あいつら見てて、弱気になる訳ねーべ」

「耳が痛いよ」

「耳痛くなんな!」

「うげっ!!」

 

 

3年生トリオも気合十分。

ここで決めきる。獲りきる、と決意。

 

 

 

そして、烏野・青葉城西それぞれが最終確認に入った。

 

 

 

「さっきの影山のヤツ……アレくらい前に落とされたらもうオレが獲る。だから後ろは任せた」

「ハイ!!」

「油断すんなよ。京谷に落として来る可能性だって否定できないからな」

「……っス」

「マッチポイントでピンチかもしれんが。気にすんな。まずできるのは目の前の1点だ」

「ハイッッ!!」

 

 

 

 

 

「ブロック、兎に角触る事!」

「ドシャットしてくれても良いべ?」

「変に欲張らない様にしてます。……意地になったら、変に力が入ったら、そこを狙われるかもしれないんで」

「青城だもんな~~。それでも頼もしいべ」

「お前らぁ!! レシーブも忘れんなよ!!」

「アス!!」

「レシーブも身体に当てろ。体当たりしてでも拾えば誰かが繋いでくれる!」

「おお、山口の得意技だな??」

「……思い出したくない」

 

 

 

 

 

そして、最後にかける言葉は1つだけ。

双方、全く一緒。共通する言葉だ。

 

 

 

【ここ獲るぞ!!!】

 

 

 

 

 

烏野と青葉城西。

殆ど縁が無かった関係から———突如、始まった因縁。

 

その宿命の最後の戦い。

 

 

いざ、決着の刻。

 

 

 

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