王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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大変おそくなり、申し訳ありません………。長期出張してまひた………、環境かわると、こうも大変なのかぁ〜と、毎日毎日ヒーヒーしてました…………苦笑

兎に角、何とか帰ってきて、傷?も回復(笑)したので頑張りました!!

これにて、青葉城西戦終了です!!
な、長かったです………………涙


第184話 青葉城西戦Ⅱ⑳

 

TO(タイムアウト)終了。

菅原は(ボール)を受け取り深く深呼吸をした。

 

 

「ふぅ――――……」

 

 

【スガも思いっきりいけよ】

 

菅原は心の中で澤村の言葉を反芻する。

そう、ここを獲って終わらせれば良いだけの話だ。まだ烏野が1点リードしていると言う余裕はあるかもしれない。

でも、そんな後ろ向き精神は今完全に封印する。

 

兎に角このローテで、自身のサーブからでケリをつければ良い。

自分にはサービスエースを狙えるだけの力量は無い。

でも、小細工で搦め手で、相手が嫌がる事をする事は出来る。それで繋ぎ切ってみせる。

 

 

 

 

―――何より、前回の敗北を超えて見せる。

 

 

 

ピーーー!!

 

 

 

主審の笛の音で本当の意味で試合は再開される。

 

 

「いくぞぉぉぉァァァ!!」

 

 

渾身の雄叫びを上げ、自身を奮い立たせ、鼓舞し、想いの全てを(ボール)に込める。

だが、頭の中は冷静沈着。及川が称した様に全然爽やかじゃない爽やか君の異名の様に、力ではなく技で、際っ際を狙った。その狙いは当然岩泉(相手の主力)を出鼻で潰す為に。

 

 

――ドッッ!

 

 

この一発に吼えただけの威力は無い。

でも文句なしの狙い通りの場所へと(サーブ)を打つ事が出来た。

 

やや低空の少しの山なり、但し白帯はしっかりと超える。落ちてくる場所はアタックラインより遥か内側。

 

 

「前だ!!」

「岩泉さん!!」

 

 

狙いは主力の岩泉。

青葉城西No.1の攻撃力を持つ主砲の出鼻を挫く。それだけを考えて菅原は打ったのだ。

 

 

「オレが、獲る!!」

 

 

そして、打ち合わせの通り前に来たものは全て拾うと言っていた岩泉が迷う事なくアンダーレシーブで(ボール)を拾い上げた。

 

確かに、自身の攻撃はある程度封じられたかもしれない。これ程際を狙われたら、助走距離を確保する為の時間が削られるし、何より攻撃のリズムが狂う。決して良いテンポとは言えない。

自身の身長がもう少し……もう少し高く、自身の跳躍力があの烏野の日向(チビ)程あれば……とほんの一瞬だけ邪念をしてしまったが、それも直ぐに払拭した。

 

ただただ、仲間を信じて、あの小憎たらしく、何よりも信頼に足る及川(キャプテン)をただ信じて最善の(ボール)を繋いだ。

 

 

 

「よし……!!」

 

 

 

岩泉に拾わせた。

菅原の持つ武器を鑑みれば100点満点の出来だ、と烏養は考える。

 

ただ、問題は此処から。例え岩泉(エース)の出鼻を挫いたとしても、相手には及川が居る。

影山とはまた違う嫌な感じがする青葉城西一番の男がどう捌くのか、それが、その不安感、その圧が、自身の心臓を握らんとしてくる。

 

 

「ナイス岩ちゃん」

 

 

及川が次に考える事。それは限界ギリギリまで――――――引き寄せる! という事。

 

 

岩泉から託された球を及川は凝視しつつ視界の中に確かに居る烏野のブロッカー陣にも意識を向けた。

6:4の割合。今の烏野の前衛(ローテ)は、あの月島や東峰と言った高く固く、何より月島のねちっこい壁とはまた違った意味で厄介なタイプ。(ボール)の匂い、それを嗅ぎ分ける天性の反射を持つ日向が前衛だ。止められる事は無いかもしれないが、ワンタッチを高確率で取ってくる。跳びついてくるこれまでに無いタイプの壁。

 

だからこそそんな壁は……絶対に機能させない。分散させる、と及川は意気込んだ。

 

精神を集中させる。影山の様に神業速攻は出す事は出来ないかもしれない。

それでも何千、何万と繰り返し繰り返し続けてきたのだ。基本に忠実に、精錬し続けてきた。

ただ相手に読ませない。悟らせない。フォームの1つ1つを完璧にする。基本に忠実。

 

 

―――それが出来ない訳がない。

 

 

「(————何1つ、読ませてもらえない!)」

 

 

その厄介さは、ネットを挟んでも伝ってくる。

一糸乱れない空中姿勢。この終盤で尚この姿勢に寒気すら感じるのは影山。

ただ、その見えない圧力に押される訳にはいかない、と集中させる。

 

 

アンダーで返球した岩泉もそう。

エースを牽制した事で、攻撃の選択肢が無いと思われるのは心外だ。

濃密な試合に加えて終盤も終盤。精神的にも肉体的にも疲労は襲ってきているだろう。

……足ももう悲鳴を上げている。限界に近いのかもしれない。……だが、まだ動ける。限界に近い、と言う事はまだ余裕があると言う事。限界の先に極限と言うモノがある事を知っているから。

 

 

「ライトぉぉ!!」

 

 

助走距離を確保、そして及川を呼んだ。

 

あの一瞬で、あそこまでの瞬発力。周囲に度肝を抜かせると言うのはまさにそれ。

 

ほんの一瞬。岩泉の攻撃は無い、と端から捨てていた選択肢が突然現れると言う不快感。急に情報量を増やされ、左右に意識を分散させざるを得ない場面。

 

ライトに岩泉。

レフトに京谷。

 

まさに前門の虎後門の狼、と言うことわざが似合う場面。

青葉城西にとって最高の場面だと言えるだろう。

 

 

だが―――そんな誰もが焦りを隠せれない場面で、1人だけ冷めている者が居た。

 

出来る事なら……、いや、何としても逃げ切りたい場面。捕り返されれば嫌な風を生むきっかけになるのかもしれない。

だからこそ、焦りを生む筈の場面で、ただ一点……及川の動きだけを観ていた者が居たんだ。

 

 

「(まるで突き刺すような視線――――か)」

 

 

跳躍して、その(ボール)を手に捕える瞬間。一瞬にも満たない刹那の時間。

及川はそんなに考える余裕がある訳でも、そんな時間がある訳でもないのに、そう感じていた。

 

その視線が一体誰なのか……、そんなものは考えるまでも無い。視界の中に入れるまでも無い。見るまでもない。

 

壁としてではなく、今は地を守る堅牢な盾として日向(最強の囮)よりも遥かに自身を主張しているかの様に異質な圧力を放つ男、火神。

 

(ブロッカー)としては間に合わないかもしれない。移動し跳躍し、手を伸ばしコースを読み合う。……間に合わない可能性の方が高い。けれども、ただ迫りくる(ボール)に飛びつくだけ。宙から地へと迫るほんの僅かな猶予がある。地を守る(レシーバー)であれば、この局面でも守れると言う自信がそこには漲っているのかもしれない。絶対的な自信、そして信頼。全てが兼ね備わっている。

 

 

だが、だからと言って及川は止まる訳がない。それを感じているのは、想っているのは他の誰でもない。自分自身も同じだから。

 

 

 

「京谷!!」

「おおおお!!!!」

 

 

岩泉と言う最高の囮を使って、最高の攻撃力を誇る京谷を使う。

贅沢にして最高。岩泉は文句を言うかもしれないが、これが最善である、と信じて。

 

漸く(ボール)から目を離し、及川は烏野側を見る。

位置的に影山は何とか京谷に追いつく事が出来た様だ。ストレート側を護ろうと手を伸ばしている。……が、日向はどうやら間に合わなかったようだ。岩泉の圧に反応してしまった。強烈過ぎる反射が、あの岩泉を無視する事が出来ず、最後の最後までマークを外す事が出来なかった。

 

だからこそ、これまで見せていた味方にさえも体当たりする勢いで迫る強固な壁が機能しなかったのだ。

 

 

 

――――おかしい。

 

 

 

そして、ここで及川は、この刹那のタイミングで1つの疑問が頭を過ぎる。

 

それは、あの反応の鬼、反射神経の鬼の日向が、このセットに跳ぶ事すらできなかった事に対する疑念である。

 

自らの読ませないトスワークを自画自賛しても良い。それくらいの精度だと自負があったから。でも、どうしても違和感がぬぐえないのだ。

 

これまで日向は何に特に反応していた? と言う疑問も生まれる。

(ボール)? 否。

勿論、(ボール)にも超人的な勢いで反応する男である事も知っている。だが、それ以上に反応する事が―――あった筈。

 

 

 

「(せいちゃん(・・・・・)―――か)」

 

 

 

そう、日向がこれまでで一番反応していたのは、火神誠也の存在が一番だ。

彼が、声を発する。止まれと言われれば日向は反射を、本能をも押し殺して止まるし、来いと言われれば例えぶつかったとしても躊躇いなく跳びつく。手綱を握っている犬と飼い主かよ! と言いたくなるが、そんな馬鹿にしたような関係性じゃない事くらい嫌と言う程解っている。

 

そして及川は火神であれば、あの場面においても何処に(ボール)を上げるか、見抜いていたとしても不思議じゃない。

 

 

――なのにも拘わらず、何故何も言わない??

 

 

視線の先に、及川の視線の先に居る火神の存在。

その圧倒される存在感は……この短い攻防でもう既に二度体感している。

 

一度目は当然、あの今日最高のサーブを打った時だ。

 

ああも鮮やかに拾いあげられる事なんてこれまでにあったか? と言いたくなる。

あの瞬間は、忘れようがない。

 

そんなギアが最高峰に上がったかの様な集中力が、ゾーンに入った瞬間をまた見せつけられるなんて……。

 

 

「くそっ……!!」

 

 

見せつけられると同時に、及川は苦虫をかみつぶした様に表情を歪めた。

一瞬先、一寸先の未来をそこに視た気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

及川の予感、悪寒はまさに的中した。

 

集中力極限に達するモード【ゾーン】。

全ての世界が俯瞰して見せるのに加えて、その筋肉の動き、機微が手に取る様に解る。

この疲労がピークに来る試合終盤で及川の一糸乱れぬトスワークは確かに圧巻ではある……が。

 

 

 

 

【負けるな、誠也!!】

『負けない』

 

 

 

 

矛と盾。

今回もまた矛盾は起らず、盾の勝利。

 

 

「クソがッッ!!」

 

 

京谷は歯を食いしばる。

及川の最高のトスと最高のタイミング、ブロックも切り裂き、気持ちよく打てる筈の一撃(スパイク)だった筈なのに、一体いつの間にそこに居たのか、と言いたくなるくらいにタイミングよく現れる。空間を切り裂いた様に着弾点にいつの間にか割り込んできた影があったんだ。

 

最高の一撃の筈なのに、拾われる未来を幻視し()てしまったんだ。

だからこそ出てきた言葉である。

 

 

―――ドッッ……。

 

 

 

「(ちっ……、完璧かよ。完璧だよ!!)」

 

 

宙で振り返る影山は思わず苦笑いをする。

レシーブの完成系がそこにはあった。

全てが高いレベルで完成させられている事は理解していたが、それらを超えている。自分が見ていた評していたラインを更に超えている。

試合中に進化していくのを感じた。

 

 

 

【ナイスレシィィィィブ!!!】

【うおああああああああ!!!】

 

 

 

レシーブの音さえ静かで鮮やか、一瞬静寂に包まれた? と思った途端に爆発するかの様な歓声に包まれた。

 

 

「ナイスだせいやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

自分こそが烏野の守護神である、と自他ともに自負する西谷も大興奮だ。

(ブロック)に阻まれない一撃(スパイク)をああも完璧に上げて見せた火神を、あの場面に立ち会えた火神を羨ましくさえ思う。

 

そして、此処こそが唯一無二、にして最大のチャンス。

 

 

緩やかな山なりの(ボール)、相手にもある程度の時間を与える結果になるかもしれないが、それらを補って余りある程のアドバンテージをこちらにも齎す。

 

 

烏野の全員が、コートの内外問わず全員が思う。

 

 

 

【ここで決める!!!】

 

 

 

 

烏野が更に仕掛ける。

 

 

菅原が前に出る。

そして、影山が攻撃に下がる。

 

 

「(最高だよ、火神!)」

 

 

緩やかな時間は菅原にとって最もやりやすい(ボール)

影山ほどのスキルは無くても、これならば最大限に活かせる。

 

 

 

 

同時多発位置(シンクロ)攻撃 5人(オール) 菅原ver】

 

 

 

前衛に影山・日向、そしてレシーブをしたばかりの火神。

後衛に東峰・澤村。

 

 

それは守備の一切を捨て、攻撃に全てを賭ける烏野最大にして最強の攻撃。

 

 

この場面で、最終場面で最終兵器と言って良い攻撃法を選択してきた烏野に思わず絶句するのは青葉城西側だ。

 

 

あまりにも攻撃人数が多すぎる。

及川の様に一糸乱れず、全く読ませないトスワークじゃなくて、影山の様な超高精度のトスワークじゃなくても、これは読めない。

 

ただ、本能で身体を動かすしかない、と即座に判断した。

ただ我武者羅に、ただ負けたくないと言う意地と誇り(プライド)で、地を跳び、地で構える。

 

 

菅原がここで選ぶのは――――当然。

 

 

 

「旭!!!」

 

 

最も信頼し、最もトスを上げ続けた烏野のエース東峰だ。

 

そして幸か不幸か……その可能性(東峰)を選択し、その可能性に身を委ねた者たちが居た。

 

京谷と花巻の2人だ。

 

「シィッッ!!!」

「!!!」

 

日向と言う囮、直前で拾われた火神と言う存在、それらを無視して東峰を狙ったのはまさに野生の嗅覚と言えるだろう。

東峰のコースの範囲を絞るだけでなく、一瞬の躊躇いを生む。

 

 

「だッッ!! しゃあああ!!」

 

 

そして花巻が見せたのはこれまでの経験と情報である。

ここぞと言うタイミングで菅原は誰を使うのか。……そして決定打的にも威力的にもかなり確率が高いと言えるのが東峰だ、と。

 

ほんの少しでも攻撃力を削ぐ事が出来たなら十分! と言わんばかりに上げて見せたのだ。

派手な攻撃力も無ければ、皆を魅せる防御力も備わってない。高いレベルである、と言う事は常々言われる事ではあるが、もう1歩足りない。あの領域(・・・・)に行く事は出来ない。

 

それは自覚している。だからこそ、出来うる事を全力で全うするだけだと腹をくくっているのだ。

 

 

 

このタイミングで、この嫌な風が吹いている場面で最適解を導き出せるのは流石の一言。

火神のあのレシーブにも一切気圧され無いのも流石の精神力だ。

 

 

「うお!! 拾いやがった!!?」

 

「花巻さああああああァァァッッ!!!!」

 

 

ほんの一瞬、ほんの少し、威力を削いだとはいえ、烏野のエース東峰の一撃(スパイク)だ。

上げた時点で大歓声だ。

 

でも、まだ青葉城西の劣勢は続く。

 

 

「(上げたのはスゲェ。……でも)」

「(まあ、あの東峰のだ。上げただけで十分過ぎる。……これはしゃあねぇよ)」

 

 

嶋田や滝ノ上は互いにそう思う。

拾っただけでも及第点。……まともに上げる事が出来たなら、それはあの西谷や先ほどの火神の様なスペシャリストがするスーパーレシーブの分類だ。

 

 

【乱れた!!!】

 

 

そう、(ボール)が大きく乱れても仕方がない。これでも十分過ぎる程凄いのだ。

 

 

だが、だからと言って諦める者なんて青葉城西側には1人も居ない。

何故なら、(ボール)は落ちていない。床に着いていない。それだけで動く理由に十分。

 

 

大きくサイドに飛んでいった(ボール)を追いかけるのは及川。

 

 

「すまん及川! 頼む!!!」

 

 

「「「チャンスボォォォル!!!」」」

 

 

コートの内外で次こそは決めろ、チャンスボールだ、と声を張り上げる……が。

 

 

 

 

ステイ(・・・)!!!」

 

 

 

 

火神がより大きく、腹の底から響く様な大声を上げた。

その瞬間、攻撃に備えて盛り上げる、となる筈だった場面で、烏野からの音がピタリ止んだ。

 

その声に真っ先に反応するのは当然ながら日向。

チャンスボールの声を上げた直後だったが、直ぐ隣に居たからか、思考を切り替えた。

 

そして影山や澤村、東峰、菅原―――全員がチャンスボール、と言う認識を一度捨てた。

 

野生の勘、独特の読む力の凄さを日向程ではないが知っているからだ。

 

 

 

―――ああ、ったく。背中越しにも感じるよ。何度目だよ全く!

 

 

 

 

(ボール)を追い続ける及川は、その視線を、その圧力を一身に浴びながらも思う。

 

 

 

―――及川さんなら、やる!

 

 

 

敵に味方と同等以上に期待されていると言う圧倒的な矛盾を、感じる。

 

 

 

―――なるほど、信じられちゃあ仕方ない。……魅せないとね。……今日一、今まで見せた事無いセット。

 

 

 

敵味方問わずの期待を受け、それに応える様に……そして、応えさせる様に、及川は指を指した。

その視線に、その所作を受ける、受け取るのは岩泉。

 

 

及川は、(ボール)の落下地点を瞬時に見極めると同時に追いかける身体の向きを変える。

後ろに跳躍しながらのセット。

 

 

【コート外からの、タイミングの速い超ロングセットアップ……!!?】

 

 

後ろに跳びながらのセット。

これは想像以上に難しい。狙った場所に素早く(ボール)を上げる事も当然難しいが、何よりも厄介なのが後ろに跳ぶ(・・・・・)事である。

後ろに跳ぶ、と言う事は当然ながら力も後方へと逃げる。想像以上に力が逃げてしまうのだ。疲れのある終盤で、集中力を意地するのも大変だと言うのに、全ての力を籠める様に完璧なタイミングで、完璧な場所へと上げて見せた。

 

 

そして、それに呼応するように、否、共鳴する様に最初から動き出していた者も居た。

(ボール)が来てから動いたのでは絶対に間に合わない。

攻撃とすら呼べないミスボールとなって相手にチャンスを与えるだけになるだろう。

 

最初から及川が何処に上げるのか、何をするのかを解っていたかの様に、既に――――。

 

 

岩泉(4番)が入ってきてる!!?】

 

 

信じている、信じられている。

その全てに応える。

 

 

「(オレは……まだまだこいつらを見くびっていたのかもしれない)」

 

 

身体の芯が震える入畑。

及川の初めて見せるセットに対し、何の迷いも無く飛び込んでくる岩泉。その2人を見て、身体が震えているのだ。

 

 

「(高評価はしてきたつもりだった。影山よりも、及川だと思い続けた。攻撃力が無い、と言われて京谷を入れたが、それでも岩泉が間違いなくエースだと思い続けた。……でも、あいつらは満足する訳が無かった)」

 

 

その一瞬一瞬で己を高め続けているのが解る。高め合っているのが解る。

そして、此処まで高め合う事が出来たのは、戦ってる相手にも言える事だろう。

 

 

――才能は、開花させるもの。

 

 

元々持って生まれたモノは決して悪くない。潜在する力は誰しもがあるもの。それを出せるか否かは、本人次第。

 

 

――センスは磨くもの!!

 

 

弛まぬ努力の果てに、この域にまで到達出来た。

長く互いに磨き上げ高め合ってきた結果のこの攻撃。

 

 

本日、初めて見せる攻撃方法。

 

 

 

 

「―――くそっ!」

 

 

烏養は思わず歯を食いしばった。

ジャストなあのレフト位置へ、申し分のない速さと軌道。コートの広さ、ネットの高さとその距離感。そして何よりこれまで何千、何万と上げ続けた事によって培わされ、染み付けてきた空間認識力。

 

 

それが合わさったが故の、超高等技術だ。この瞬間だけは、あの影山の変人速攻にも何ら見劣りしない代物。

しかも、その攻撃パターンは本日初めて見せられたもの。相手も間違いなく最高の形で攻撃に移る事が出来たら、流れは嫌なモノへと傾いてしまうだろう。

 

 

烏養は思わずそう思ってしまっていたんだ。

 

 

そして―――それは見縊りすぎである、と言う事に気付くのはもう直ぐ後の事だった。

入畑、烏養。互いの監督、コーチらはそれぞれの選手らを見くびってしまっていた。

 

次の瞬間には、想像を超えてくるその選手らの高まりを。

 

 

 

ドンピシャ!!!

 

 

最高の一撃を最高の形で放つ岩泉……だったが、彼もまたこの場面で【ゾーン】に入る事が出来た。

視野が、極端に広くなる。コート全体が俯瞰して見える。どこにどう打てば、どうなるのかが、解る気がする。

 

 

そしてそれが解るからこそ、心底腹立たしいし、何よりもワクワクしてしまう自分も居た。

 

 

 

【ここまで、引き上げられた】

 

 

 

その域にまで引っ張られる感覚はどうしても拭えない。

でも、それでも良いと思った。引き上げる~なんて抽象的だし、何より明確に解る様なモノではなく、単なる感想で感覚で、当てにならないもの。

 

ただ、選ばれた者にしか開ける事が出来ない様な世界に踏み入れる事が出来た事に対する感謝。……そして、何より。

 

 

「絶対―――決める!!」

 

 

決めて見せる!! と力を籠める。

 

 

岩泉はほんの僅か、刹那の滞空時間でコート全体を視る。

東峰の一撃で(ボール)が大きく外に弾かれた。間に合うかもしれないが、あの軌道だったらチャンスボールが来る! と思うだろう。……あのまま判断していたのであれば、烏野は油断していた事だろう。

 

でも、あの火神の一声で全ては変わった。忌々しくも思ってしまうが、それを軽く凌駕する程に凄い男だと改めて思う。この試合で何度も改めなおしたのかが解らない程に。

 

烏野は、攻撃に備えるのではなく、相手最大の攻撃を最大の防御で迎え撃つスタイルに変わってしまった。

あの伊達工の鉄壁とはまた違った種類での鉄壁の守備。これに西谷が混ざってしまっていたら最早どこを打っていいのか解らない、と嘆きたくなる気分だが。

 

 

「(ここ―――か!)」

 

 

ゾーンに入れた。だからこそ唯一の穴が視えた。

 

 

影山が追いかけてきている。同じく、日向も。

火神の声に反応した、と言うのもあるが、元々(ボール)を追いかけるその嗅覚はこの2人ともが異常値だ。

 

だが、それでもほんの一瞬、(ボール)1つ分くらい自分の方が早い。

日向が影山に全力でぶつかっていって、空中でブーストが掛かったとしても、こちら側が早い。

 

 

クロス側には澤村と火神の地の鉄壁。ブロックアウトのフォローに回っているであろう東峰が、その隙間を埋める様に配置。

 

そして、ねらい目はストレート側。菅原だ。

 

 

「(……だよな。この陣形じゃ、オレを狙うのは必然)」

 

 

体感時間がぎゅっっっ、と圧縮されたかの様な世界に、菅原は思考をぐるぐると巡らせる。

 

このメンバーの中で唯一持っているとしたら、残された体力だけだろう。

 

守備力も攻撃力も、確実に劣っている。

如何に3年であったとしても、どうしようもない力の差と言うものは絶対にあると思っているから。

同じポジションの影山を見ると。

超人的な身体能力を有し、スポンジの様に吸収して、日々進化し続ける日向を見ると。

そんな2人を纏めて管理、導ける父親的な存在、火神を見ると。

 

他のメンバーもそうだが、見れば見る程……狂おしい程に、妬ましい。と負の感情が沸き起こってしまう。

 

そんなとんでもない妖怪(バケモノ)が居るチームに所属してしまった事は……本当に……。

 

 

「幸運だったよ!!」

 

 

菅原はスタートを切った。

ぴくりっ! と眉が動いた岩泉の表情を見る。どうやら、予想外の行動だった。と言う事だろうか。

 

レシーブの技術は無い。だが、それでも良い。道は、同じく苦悩し前へと進もうとしている後輩が、山口が示してくれた。

 

1年が出来て、3年である自分が出来ないなんてそんな情けない事は無い。

 

 

そう―――体当たりだ(・・・・・)

 

 

身体のどこに当たっても良い。顔面だろうと何だろうと良い。……コートに落ちなければ、それで良い。

 

 

「どらぁぁぁぁあぁああああ!!」

 

 

岩泉の攻撃を、菅原は身体を張って拾いに行った。

近づきすぎたかもしれないが、身体の最も広い面積部分で受ける。胸元で、丁度サッカーの胸トラップの様に。

 

 

「ぐぇ……ッッ!!(い、息ができね―――――っっ)」

「!!!(ぶつかりに来やがった!!?)」

 

 

渾身の一撃を、渾身の体当たりで防いで見せた。不格好極まれり。……でも、その守備は今までみたどの守備よりも……岩泉の癇に障るモノだった。

 

 

――穴だと、見縊ってしまった。

――3年の集大成の全てを、そこに視た気がした。

 

 

菅原は同じ3年だ。

キツイ1年らに囲まれて、今日この日まで、研鑽をし続けてきた筈、なんだ。

 

 

「(馬鹿野郎が! 力づくだけじゃなくて、やりようがあっただろ!!?)」

 

 

見えていたのに、強引にパワーだけの勝負に出てしまった。

それが悪い、とは到底言えない。豪快に叩きつける1発は、流れを引き寄せると言うモノだ。そして、そんな一撃は早々拾えるモノじゃない。10回やって1回拾えるか否か、その位のものだ。………岩泉にとっての不幸は、10回中の1回が最初の1回目で来てしまった事、だろう。

 

 

【乱した!!】

 

 

そんな葛藤を他所に、場は盛り上がりを見せる。

岩泉の攻撃は確かに拾われたかもしれないが、得点になる! と思わせる程のモノだった。サイドラインを割り、外へと飛んでいったからだ。

 

 

だが。

 

 

【!!!】

 

 

どうして? と言いたくなる。

最初から、そこに(ボール)がいくと解っていたのか? 未来視でも出来るのか? と言いたくなる。

ほんの僅かでも起動が遅れたら確実に間に合わないであろう場所に飛ぶ(ボール)に、追いついてきた。

 

 

「ふっっっ!!!」

 

 

 

跳びついて間に合う限界ギリギリの距離までコートを蹴って走る。

そして跳びついて伸ばした拳に(ボール)が触れる。

手首のスナップと腕の振り上げの力で、(ボール)の行先を決める。

 

 

「ラストぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

そして、吼えた。

 

 

火神誠也。

 

 

一体どうすればこの男を止める事が出来ると言うのか。

 

いや、それは違う。その考え方は誤りだ。

 

 

 

「「6人で強い方が―――強い!!」」

 

 

 

烏野は火神1人じゃない。ぎらついた目が、貪欲な眼が、その視線が突き刺さってくる。

そう、バレーは6人でやるモノだから。

1人止めただけで、1人で勝敗が決する訳じゃない。

 

 

【繋げェェェェェェ!!!】

 

【チャンスボォォォルッッ!!!】

 

 

火神が拾い上げた(ボール)は、烏野のコート内に返ってきた。

返ってきただけだ。

 

これはチャンスボール、と青葉城西は思った事だろう。

 

 

でも、東峰は違う。

緩い回転が掛かった、程よい高さの(ボール)。あの超人的な反射は自分には出来ないが、このくらいなら絶対出来る。……何より。

 

 

「チャンスにさせて、たまるかよ!!」

 

 

菅原が、そして後輩たちが、やってきたのだ。

自分が出来ない、なんて言える訳がない。絶対に、出来るのだ。

 

 

振り向きざまに跳躍すると、そのままバックアタックの様に打ち付けた。

力があまり伝わらない打ち方ではあるが、見事に打ち切って見せた。それでも東峰の力だ。ただの返球の10倍は強力で取りにくい。

 

 

「らぁっっ!!」

 

 

でも、そこで次に魅せるのは青葉城西の守護神、渡。絶対に拾う。チャンスボールじゃない、といち早く察知した渡は全力で跳び、全力で拾って見せた。……そう、渡も引っ張り上げられた(・・・・・・・・・)。絶対に、置いて行かれたくなかったから。

 

 

「ふっっ!!」

 

 

そして、渡のレシーブを京谷が更に繋げる。

渡のレシーブ(ボール)は、鋭角に飛んできてネットに突き刺さり、一瞬空中に留まった時間を利用して、追いつけた。

 

ただ、拾い上げた(ボール)は丁度ネットの真上。……否、やや烏野側。

「とめろ金田一!!」

「叩け影山!!」

 

 

同期対決。

 

呼応する様に影山が跳躍し、金田一も目をぎらつかせて跳びつく。

意地と意地のぶつかり合い。

ここでも、矛と盾のぶつかり合い。

今回もまた、矛盾は起こらず、盾の勝利。

 

影山の一撃は、金田一の右腕に当たって跳ね返された。

 

 

「ぬんっっ!!!」

 

 

跳ね返された―――が、そこに澤村がすかさず入り込んだ。

バンッ!! と目の前で両手を握り、真上に跳ね返した。

 

 

 

「―――さぁ、次でもう決めちまうぞぉぉ!!」

 

 

澤村が吼える。

完璧のブロックカバー。

 

 

烏野全員が起動する。

 

拾ったばかりだと言うのに、澤村まで攻撃態勢に入る。

守備を全て捨てて、攻撃に移る。

 

 

同時多発位置(シンクロ)攻撃 5人(オール)影山ver】

 

 

最強の囮を要する布陣。

 

先程同様、西谷が居ない今、全員が攻撃参加できる攻撃法。

菅原ではなく、影山がセットする攻撃。その威力は………精密な捌きが出来る影山の方に軍配が上がる。菅原のシンクロ攻撃の時よりも恐らく高い。

どこだろうと、どの位置だろうと、完璧に上げられる影山の攻撃範囲は先程の比ではないから。

 

 

 

――ああ、良いよ。

 

 

何度打っても跳ね返ってくる。

何度拾ってもあきらめない。

 

互いに、一切引かない。

 

 

 

―――さぁ、来い。全部まとめて、相手してやろうじゃないか。今度こそ。

 

 

 

これは、IH予選(あの時)出来なかった続きだ。

 

最後の最後、不幸な事故で最後まで出られなかったが、今は違う。間違いなくあの日の続きが今なんだと、想った。

 

 

 

 

―――お前の、お前たちの最強の武器で、来い! 飛雄!!

 

 

 

 

日向、火神。

後方では東峰、菅原、澤村。

 

ここへ来て、圧力が増してきた。

 

 

 

【オレが打つ!!】

【寄越せ!!】

【こっちも居るぞ!!】

【烏野のエースは、オレだ!!】

【絶対、決める!!】

 

 

 

誰が囮なのか、ここまで来たらもう解らない。

 

 

 

「ッ」

 

 

 

 

ただ、本能に身を任せる他無い。

 

でも、憎たらしくも、あの影山はここでも魅せてくる。

攻撃者であるスパイカーたちに集中する場面で、ここでもあの天才その①の技量が遺憾なく発揮されてしまう。

 

この場面にきて、焦りの1つも感じさせないかの様に、何一つ読ませてくれない(・・・・・・・・・・・)セットを魅せてきたのだ。

そう、まるで先ほどの及川に対抗する様に。

 

 

 

 

そして―――雌雄は決した。

 

 

 

 

 

 

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