王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりましたが、何とか投稿します!
少し長めですが、白鳥沢戦はまだで……

次くらいに、次くらいには試合をーーー………


第187話 夢の続き

 

激戦を制し、終えたバスの中――。

 

天井の蛍光灯は薄暗く、窓の外は夕暮れと夜の境目を走り抜けていた。

武田の安全運転が、心地良く身体を揺らし、決して眠りやすい環境じゃないのにも関わらず睡魔を誘う。

試合での疲れも相まって全身が鉛のように重くなる。

 

試合後の、それも勝利と言う何物にも代えがたい甘美が演出させる心地良い疲労感、そして次はいよいよ―――と言う燃えてくる興奮が同時に内包している。

 

 

故に澤村は、一周回って正直眠れないのではないか? と内心思っていたのだが、それは誤りだったと今気付く。

誰もが泥のように眠り、自身も引き込まれている。

 

 

「(―――春高、……あと、すこし、あと、少しで……)」

 

 

そんな中でも高揚させる。

その事実が己を高揚させる。さっきまでいたコートの光景が、体育館全体の熱気がまだ体にくすぶっているかのように、熱く、熱く感じる。

 

 

 

 

――あぁ……、ほんとうに、ここまで……。

 

 

 

 

澤村がそう思った時。ふっと身体が何か柔らかいものに沈む感覚に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気付けば、澤村はあの日に……全ての始まりの日に居た。

 

 

 

 

 

 

何の違和感も無く、当たり前のように体育館の扉を開き。

 

 

「願いシアーーース!!!」

 

 

コートに入る前に頭を下げ、腹の底から大きく挨拶の声を上げる。

とうとう、自分はここへ―――【烏野高校】へ来たんだと胸を熱くさせた。

 

 

――あの日から憧れていた。

 

 

烏野高校が春高出場を決めたあの瞬間。

その瞬間をテレビで見た時から、自分の中の真路は完全に決まった。真っ黒なユニフォームに、鮮やかなオレンジが映えるその姿に、自分を重ねて思いを募らせたのだ。

 

 

「――3人かぁ」

「まあ、入っただけましだな。よし、じゃあ1年生! 自己紹介!」

 

 

そう言った先輩たちの表情には、どこか寂しさと、少しの諦めがあった気がする。

けれどそれでも、自分は不思議と後悔していなかった。

ここから始めよう。そう思えたからに他ならない。

 

 

「な、長虫中出身! 菅原孝支です! セッターやってました!! よろしくお願いします!!」

 

 

3人の同志たちと共に――この烏野で高く大きく羽ばたいてやろう! と胸を高鳴らせながら、想っていたんだ。

 

 

「せっ、西光台中出身! 東峰旭です!! レフトでした!! よろしくお願いしゃふすふっス!!」

「ブフッッ!!!!」

 

 

盛大にかんでくれた東峰にはある種の感謝をしていた。上手いこと、緊張を和らげてくれたからだ。最初に自己紹介を終えた菅原は、ある程度の緊張は終えた事で解れていたのだろう。盛大に吹いてしまっていた。……少しくらい、隠そうとしても良い、と思ったんだが、解れたが故に我慢する力がもう無かったのだろう。

 

 

「でかいな……」

東峰(あいつ)知ってますよ。中学ん時から高校生みたいなスパイク打ってて覚えてます」

「マジか。スゲーじゃん」

 

 

特に目立つのはやはり東峰だろうか。180に迫る高身長は立っているだけで一番目立つ。更に西光台中の東峰は相応に有名だったから猶更だろう。

だが、だからと言って澤村は負けてられない。先輩たちが東峰に注目しているかもしれないが、自分の番。上手く緊張も解れた。だからこそ腹に力を込めて声を上げた。

 

 

「泉館中学校出身! 澤村大地です!! レフトでした!! 烏野が全国に行った試合を見てから烏野に来るって決めてました!! よろしくお願いします!!」

 

 

2人が言ってない事まで、言ってやろう! と腹に決めて志望動機も伝えた。

無論、これは緊張が解れていようが無かろうが、前の2人が先に何を言おうが、必ず入部時に伝えようと心に決めていた事でもある。

勢いよく言い切った直後、澤村の胸の内には高揚と、ほんのわずかな不安が入り混じっていた。語尾までしっかりと言いきったはずなのに、自分の声がやけに大きく体育館に響いた気がして、少しだけ居心地の悪さが残る。だが、後悔はない。心からの本音だった。

 

 

 

――全国で羽ばたく烏野の姿を見て心に決めた。

 

 

 

 

その言葉が、過去の栄光にすがるようにも、あるいは夢見がちな理想論のようにも聞こえたのかもしれない。故の一瞬の沈黙。所々で談笑していた先輩方全ての時間が一瞬止まったかのように感じた。

 

それは現実を知っている(・・・・・・・・)からこその、現象と言えるだろう。

 

 

周囲の空気が、わずかに張り詰める。

先輩たちの何人かが、顔を見合わせた。

中には、視線をそっと逸らす者もいた。表情には出さずとも、その目に宿るわずかな影がすべてを物語っていた。だが、1人だけは違う。

 

 

「おおーーー! そうなのか! いいぞいいぞ!!」

 

 

沈黙を吹き飛ばすかのように、自分達の誰よりも大きく声を上げたのが現主将の田代だった。飛び込んできた新人の、まっすぐな憧、真っ白な想いを受け止めるかのように、大きく朗らかで、そして力強い声で更に続ける。

 

 

「目指せ!! 全国優勝だ!!」

「「「!! ハイッ!!」」」

 

 

長く重たい空気を、まるで風のように吹き飛ばすその明るさは、どこか救いだった。いや、それだけではない。彼の言葉には、ちゃんと「本気」があった。

だから――見えない所を、少しでも隠してくれたんだろうと思えた。

まだ何にも解ってなかった自分達に、烏野と言う現実を。

 

 

手始めに見せられた現実。

 

 

「それじゃあ終わる頃、また来るから」

「ハイ!」

 

 

練習開始からまだ間もない。準備運動が終わり、各自が自主的にメニューに移ろうとしていた時だった。そう告げて、この場唯一の大人である中川が体育館から去っていくのを菅原は見た。

練習メニューも自主的に進めているのを見て……疑問に思った事を直ぐそばに居る2年の先輩に聞く。

 

 

「あの……今の先生、えっと、河合先生、でしたよね? バレー部の顧問の。他に練習を見てくれる監督的な人って―――」

 

 

菅原に訊かれた2年の黒川は、特に表情を変えることもなく、淡々と事実のみを答える。

 

 

「居ないぞ」

 

 

その言葉は、まるで打ちつけるように、菅原に、それでいて直ぐ近くで聞いていた澤村たちの胸に響いた。……けれど、まだこの時は良かったのだ。

 

 

「今のって、久中の黒川君だよな!?」

「え? 知り合い?」

「中学で当たって、攻撃も守備もすげぇ上手くて俺、覚えてる!」

「マジか!! すげーー!!」

 

 

明らかなる格上だった黒川が、この場に……烏野にいたから。

 

 

久中の黒川広樹――澤村の中学時代、何度も苦しめられた、攻守に優れた選手。

 

 

あの強かった黒川が烏野にいた。

たった一人でも、名のある選手がここにいる。それは事実だった。だからこそ、澤村も菅原も東峰も、心を躍らせる。期待に胸がいっぱいになる。

 

 

【来たんだ、あの烏野に!】

 

 

現実から目を背けて(・・・・・・・・・)―――そう胸を張る理由が、まだ残っていたんだ。

 

 

だが―――

日を追うごとに、少しずつ、ゆっくりと、その誤魔化しは効かなくなっていく。

何よりも【監督不在】と言うの誤魔化しが効かなくなった理由として大きかった。

 

たとえば、練習。

 

指導する者がいない今、メニューは選手たちが自分で考えるしかない。何が正しくて、何が効果的なのか、誰も判断できない。スポーツ参考書や中学時代から積み上げてきたモノがあるとはいえ……指導者がいるのといないのとではまさに雲泥の差だった。

 

 

だから、頼れるのは自然と“実力者”――黒川になってくる。

 

 

練習中、田代はサーブレシーブを何度かミスをしてしまう。

だから、一番の実力者である黒川に聞く。黒川は後輩かもしれないが、そういった垣根、蟠りは特に持ち合わせていない大らかな性格だった、と言うのが上手く作用したと言えるだろう。

 

 

「なぁ黒川。サーブレシーブのコツとか教えて!」

「オレは相手が撃った瞬間にガッ! っていく感じです」

「…………………そう」

 

 

言っていることは本気だし、実際、黒川は抜群の精度でプレーしてみせる。けれど、その“感覚の言語”は、他の選手には掴みきれない。伝わらない。

だからこそ、我武者羅に練習を、反復に練習を続けるしかない。黒川が上手いのであれば、そのプレー姿を目に焼き付けて、兎に角身体に覚えこませるしかない。そう、(ボール)を追い続けた。

 

 

それが―――今の烏野に出来る練習の限界だった。

 

 

また翌日も、誰も見ない中で練習が繰り返される。

 

 

「……中学の監督ってさ、すげー怖かったし、嫌だったんだけど……それでも、あの時の方が恵まれてたんだって思う事がよくあるよ」

 

 

それは ある日、田代が黒川にぽつりと漏らした初めての弱音だった。

 

 

「だって、あの時はさ、間違ってても、ちゃんと【怒ってくれる人】がいたんだ。……正解に近い方へ導いてくれる人が居ないっていうのは、けっこうしんどいよなぁ」

 

 

田代の愚痴に、黒川は黙って聞く事しか出来なかった。

否定もなにも出来なかった。

 

聞かれたら出来る範囲で黒川も答えているし、プレイで示してみせたりもした。だが、それがチームの糧になっているのか? と問われれば……どうしても解らない。こういう時こその、導いてくれる監督と言う存在のありがたみを知るんだ。

 

 

そんな姿を、澤村たちは見ていた。

 

 

優秀な先輩、信頼する上級生が、迷い、苦しみ、愚痴をこぼす。

それは、澤村たちにとっても、他人事ではなかった。

最初に気づいた違和感。次に直面した事実。そして、少しずつ、ひたひたと忍び寄ってくる“現実”。

かつての栄光は、誰も語らない。

誰も、それに触れようとしない。

まるで、その話題にすら、触れるのが“痛い”と感じるかのように。

 

 

――憧れの烏野へ来た!

 

 

と言う高揚感で全てを覆い隠そうとしていた自分達の殻が剝がれていくように思えた。

 

それでも、練習は続く。

それでも、彼らは今日もここに立つ。

“強くなりたい”という気持ちだけを支えに。

それがどれほど脆いものであっても―――。

 

 

そして――明くる日。

いつも通り練習を続けていて―――もう1つの違和感もあった。

その違和感に澤村の眉がわずかにひそむ。

 

 

「……大会も近いのに、練習試合少ないよな……?」

 

 

実戦練習程身に付くものは無い。他校との練習試合は必要不可欠なモノだと言う事は自分でも解る。そんなポツリと漏れた言葉に、隣の東峰がうなずいた。

 

 

「烏養監督が居なくなってから、他校とのつながりもスゲェ減ったって言うもんな……」

 

 

その声は、小さく、だが確かに寂しげだった。

烏養監督。

烏野とは彼の名を指す―――と言っても過言ではない半ば伝説の監督だった。

彼は病に伏してしまった事は、事前に聞いている。烏野に憧れたからこそ、その指導者である烏養に教えを請いたい、と言う想いもあった。

 

でも、烏野へ来たのだ、と言う想いだけで、また見て見ぬふりをしていたのだ。

 

そんな時だ。丁度菅原が(ボール)を拾いに近づいてきていたので、話の内容を聞き、更なる事実。……耳を疑いたくなるような事実を2人に告げた。

 

 

「最近まで定期的にやってた練習試合の相手にも、直近の試合で断られたって聞いた……」

「「えっ……」」

 

澤村と東峰は、同時に顔を上げ、空気がぴたりと止まった。

そして2人は思わず顔を見合わせた後、菅原の方を向き。

 

 

「「! なんで―――」」

 

 

と聞こうとしたが、その言葉の続きを飲み込んだのは、突然口を挟んだ2年の黒川だった。

 

 

「オレ達に貴重な時間を割く価値がないって事だ」

 

 

バッサリと告げられたその現実。

笑い飛ばせるような冗談ではなかった。

黒川はいつも通りただ淡々と事実を告げる。

―――表情にこそださない。声色こそ変えない。だが、そこには確かな負の気持ちが籠っている様に見えてならなかった。

 

 

澤村の胸の奥に、冷たいものが落ちていく。

 

 

――烏野が前と違うってのは解っていたけど、練習を頑張ってさえいれば、また盛り上げていけると思ってた。

 

 

無力感。焦燥。それらがじわじわと迫ってくる。

彼の手の中にあるはずの(ボール)が、妙に重くも感じられてくる。

 

 

だが、それすらもまだ「現実」の序章に過ぎなかったんだ。

 

 

更に時間が経ち……公式戦に向けての追い込みの時期だと言うのに、信じられない事を顧問の中川の口から告げられた。

 

 

「!! 体育館を貸せってどういう事ですか!!?」

 

 

田代の声が体育館に響く。

練習の準備をしていた手が、身体が、時が停止したかのように止まり……その声の方へと視線を向けた。信じがたい言葉だったからだ。練習どころではなく、居場所まで無くなると言うのか、と。

でも、何を言っても変わる事は無かった。

 

 

「女子バスケは烏野(ウチ)で全国出場最有力だし、合同練習試合は今日だけって事だから……。申し訳ない……午前中だけだから……」

 

 

顧問の中川の言葉は、どこか申し訳なさそうではあった。けれど、その目には情熱も悔しさも無かった。

ただ“仕方ないよね”とでも言いたげな、どこか冷めた色を帯びている様にも見えたんだ。

 

 

それを聞いて澤村は、思わず笑っていた。

東峰も、無理やり口角を上げた。

菅原も、それを止めなかった。

 

 

「……っしゃ、片付けるか」

「すぐ終わらせよう」

「ネットと支柱、俺が外す」

 

 

身体を動かす事。力をつける事。バレーにしろ何にしろ、身体が基本なのだ。だから、どんなものでも、どんなことで、変える事が出来ないのなら、全てバレーに向ける、と言わんばかりに、片付けの1つをとってもトレーニングだと、3人は思う様にしたのだ。

 

だが、それは明らかなる空元気そのもの。

無理にでも、明るく声を掛け合う。そうしないと……重く重くのしかかるそれを振り払う事が出来ないからだ。

 

女子バスケ部の部員たちが体育館へ入り、シューティングの準備を始める。合同試合をするだけあって……有力な部活だけあって、そこには活気があった。……今のバレー部には無いものだった。

 

その傍らで、澤村、菅原、東峰の3人は1年として黙々とネットを畳み、支柱を外し、ボールをカゴに戻していく。

床に残った足跡や汗の跡さえ、モップで消されていくのが、なぜだかとても悲しかった。

言葉も、音も、鼓動も、全てが小さくなっていくようだった。

そして、それは軈ていつも通りと言う名の日常の中へと静かに紛れ込む。

 

 

 

――何か大きな波乱や絶望的な出来事がある訳じゃない。……なのに。

 

 

 

まさにいつも通り、本当にいつも通りの時間を過ごしていく最中、澤村は足元を気にする日が増えた。

 

 

 

――じわじわと道がわからなくなっていくような恐怖が……離れない。

 

 

 

足が、重い。

日を増すごとに、何かが絡まっているのか、何かが引っ張っているのではないか、と思ってしまう程に………じわじわと感じてくる。

その行く道を阻み、足を止めさせようと絡みつくなにか……。

絡みつき、締め付けられ、軈て立ち上がる力さえ、気力さえも奪われるのか?

 

そう感じた瞬間、澤村は思いきり足を前に踏み出した。

 

ダンッッ!! と一際大きな音が体育館に響いた。

 

そして――練習も終わり、片付けに入ろうとしている上級生たちに向かって、澤村はナニカを……不安(ナニカ)を振り払うように声を上げた。

 

 

「あの! 残って練習していってもいいですか! ちゃんと締めますので!」

「!! おっ、オレもいいっスか!!?」

「オレ、少し残るって許可貰ってくるんで! 先生にも言っておきます!!」

 

 

その声に、その声に続く更なる声に、周囲の空気が少し揺れた。

澤村たちが吐いた言葉は、弱音ではなかった。

逃げでも、諦めでもなかった。

ただ、前へ進むための―――小さな一歩だった。

 

 

その日から――意識的に変わったと澤村は自覚している。

ただ漫然と、漠然と毎日を過ごすのではなく、寝てもバレー、起きてもバレー。その勢いで、その精神で日々を過ごそうと決心。覚悟を決めたのだ。

 

 

 

 

無論、あの日 共に声を上げた他の2人にも澤村は声をかけた。

 

 

 

 

 

学校の休み時間に3人でおちあって、話をする。

 

 

「このままじゃダメだ! 時間はあるようで無いんだ!」

 

 

澤村の力強く、腹にも響く様な決意に思わず菅原と東峰は気圧される。

でも、芯に来るこの感覚は決して嫌いじゃない。何かが変わると思わせられる言葉だったからだ。

 

 

「なんか、先生っぽい……!」

「うん。……澤村君て、本当にオレ達とタメ?」

 

 

でも、菅原や東峰は、取り合えず年齢詐称(そう)言わずにはいられないのは……ある種仕方がない。

それ程までに、この時の澤村は一回りも二回りも大きく見え、年齢でさえも上だと思えてしまったからだ。他の誰よりも先生らしい事を言ってくれたからだ。……東峰はある意味安堵していたりする。実年齢以上に視られた事なんて何度も何度もあるからだ。中学生の時は特に……。

 

それはそうと、澤村は声を更に上げた。

 

 

「タメに決まってるだろ! それより練習のこと! 例え、(ボール)拾い中でも、出来る事はある! 考える必要性はある! ……って、本で読んだ!!」

「おお……!」

「本の知識かい。……でもまぁ、そのとーりだよな。今でこそ、出来る事が限られている今でこそ、知識で勝負だ」

 

 

その日から、3人は意識的に変わっていったと思う。

何をして良いのかあやふやだった頃とは違う。ただ漫然と同じ事を繰り返していただけの練習ではなく、1つ1つを考える様になってきた。

ただの繰り返しだけじゃない。他の2人に言い出したのは自分だからこそ、澤村はそれを、身をもって証明しようとしていたのだ。

 

その1つが澤村のいう(ボール)拾い。

 

一球一球を、目に焼きつける。誰がどこからどんなトスを上げ、どんな軌道でスパイクが決まるのか―――。

それは、彼にとっての“勉強”であり、“観察”だった。

 

 

「(……黒川さんのは……トスがこう入った時に、肘がほんの少し下がる……)」

 

 

小さな違和感、傾き、重心の乗せ方。

地味で面倒な作業。でも、その“違い”の積み重ねが、澤村の中で確かな確信になっていく。

 

 

「(右斜め後ろ……いや、やっぱりセンター寄り―――ッ!)」

 

 

幾度となく目に焼き付け、繰り返して(・・・・・)、そして―――その時が来た。

 

 

 

「――スパイクのフォームから、コースを読む!!」

 

 

バンッッ!!

 

 

 

頭で考えただけではない。咄嗟の判断、反射、そして予測で。

気づけば身体が、勝手に動いていた。動かせれる様になっていた。これこそが、練習なんだ。……積み重ねて積み重ねて、培ってきて―――烏野の現エースのスパイクを完全に掌握してみせたのだ。

 

 

「!」

 

 

一瞬、時が止まったような静けさ。

次の瞬間、それを破ったのは―――黒川だった。

 

 

「おい! 何で取った!?」

 

 

驚き、呆れ、そして少しだけ―――感心。

澤村の腕に収まったボールを見て、バレーでは出来ない、してはいけない(ボール)をキャッチした澤村を咎めつつも黒川は目を丸くしていた。

今の練習では、ブロッカーはいない、絶好のタイミングで様々な選択肢のある中での最高の一発を打ったはずだった。

誰にも止められないと信じていた、完璧なはずの一撃。

それを―――完全に拾われたのだから。

 

 

「おいおい、バレーでキャッチは駄目だろーが!」

「!! す、スミマセン!!」

 

高揚感故に、澤村は反応が、返答の反応が、謝罪が遅れてしまったが、それはそれで構わない、と思ってしまっていた。何も出来ない。前が見えない。闇の中。そんな中で、僅かだが何かを掴み、走りだせるような感覚がしたからだ。

 

 

その感覚を胸に、この烏野での生活は全てバレーに費やす勢いで日々を過ごす事を決めた。

そんな澤村に触発されるようになるのは、半ば必然だと言えるだろう。

 

 

バレーの試合の映像。

有るだけかき集めてきては、それぞれの家でその試合を研究。少しでも吸収出来る様に、と。

自分達で考えて、行動する。それを続ける。出来る事を精一杯。

 

 

「清水さんて、もう部活決まった?」

「―――??」

「ああ、ごめんごめん。オレ、バレー部なんだけど、マネージャーがいなくてさ?」

 

 

雑務だって多い。

当然だ。運動部なのだから。その全てを賄うのはやはり厳しい所がある。貴重な練習の時間が削れてしまうのだから。

マネージャーはもう大分入っていなかったそうだけれど、ここで清水がマネージャーとして加入してくれれば、入部してくれたなら、きっと部活にも活気が沸く。澤村はそう信じて声をかけてみた。

聞く前から、先生に確認して清水が何処にも所属していないのは確認済み!

ちょっぴりストーカー……とは言わない! そこまでは言えない!! 清水は美しいから、男子にも人気があるから、そういう気配はあるかもしれないが、そっち系の下心は澤村には無い! と何故か自分に言い聞かせながら。

 

 

「………」

 

 

少しの沈黙の後……。

 

 

「……いいけど」

「!!」

 

 

誘った側の澤村が大いに驚くと言う事態に、思わず気圧される清水だったが、その後のバレー部の歓迎っぷりに、お祭り騒ぎに更に驚いてしまうのは別の話だ。

 

 

マネージャーも入ってくれた。

烏野OBの先輩方も、自分達に力を貸してくれている。

盤石とはまだ言えないのかもしれないが……着実に前へ進めている感覚は、手応えはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――更に時間は流れ。

 

 

 

 

 

 

 

「明日からいよいよIH予選です。悔いの残らない様に頑張りましょう」

【ハイ!!】

 

 

 

とうとう、IH予選前日。

やれるだけの事はした。出来た。

今出来る限りの事が出来た。そう自負していた。

 

そんな中で、また響くのは田代主将のあの宣言。

 

 

「目指せ!! 全国優勝!!」

 

 

それは田代主将の、もはや恒例の掛け声だった。

普段なら、「はいはい」なんて苦笑いで受け流されて終わる。

しかし、今日だけは違った。

 

 

なにせ――明日を境に、俺たちの“いつも”は、もう戻らないのだから。

 

 

「……前から思ってたけど、もう少し達成できそうな目標にしねぇ? 高すぎる目標は自信喪失につながって良くないって言うじゃん?」

 

 

そして、ふいにこぼれたのは、意地の悪さではなく、素直な“本音”。

これでもある程度は真剣に考えた素直な“本音”。

 

 

「でもそれって、次もある場合じゃないの?」

「じゃあ、お前本気で優勝できると思ってんのかよ?」

「可能性が低いから目指さないのは違うだろ?」

 

 

それは繋がっていく。バレーの様に繋がり、広がっていく。

誰かが口を開けば、連鎖する様に広がり、決して落としてはいけない(ボール)の様に追いかけては拾い続ける。

 

いや、拾い続ける、と言うよりぶつかり続けると言った方が良いかもしれない。

衝突であり―――共鳴だ。

 

 

「―――――!!」

「! な、なんだよ?」

 

 

突然、田代の肩がピクリと震えた。あまりにも大きく痙攣する様に動いたので、思わずぎょっとしてしまうのも無理はない。

それはそうと、田代は目を見開いて、次の瞬間には感情が堰を切ったようにあふれ出してきた。

 

 

「今までオレが全国優勝!!って言うたびに、苦笑いスルーしてたくせに、とうとう反論きやがって!!」

 

 

怒ってるのか驚いているのか、笑っているのか、その感情がよく解らない顔をしている。兎に角、目を大きく、顔を大きく歪ませて、笑うでもなく泣くでもなく、兎に角大きく騒ぎ始めた。

 

 

「なんだよ、何だか嬉しいの何でだよチクショウ!!」

「はぁ!? 知るかよ!!」

 

 

それはそうだ、と口々に言う。

田代のよく解らない気持ちなんか――――いや、わからなくもない。何だかんだで長い付き合いなのだから、少しくらいは、解る。解るつもりだ。

そんな小っ恥ずかしい気持ちを掬い取られでもしたのか、田代は続けざまに言った。

 

 

「目標を共有出来た気はしねぇけど、今の俺たちは前より絶対イイカンジだ!!」

 

 

『なんだそれ!』と口々に合いの手の様に入れる。

上手い具合にボルテージも上がっていく。

 

 

「それに目の前の試合に勝ちたいのは揺るがず同じ!!」

 

 

田代は大きく、大きく息を吸い込んだ。

肺の奥から声を絞り上げるようにして――その場で一番の声量で、吠えるように叫んだ。

 

 

「絶対勝つぞオオオオオオ!!」

 

 

その声が、体育館の天井を突き抜ける勢いで響き渡る。

直後、全員の拳が、まるで反射のように突き上げられた。

 

 

【オオオオオ!!】

 

 

誰が先に声を上げたのかもわからない。

ただ、熱が――思いが――全員の体を突き動かした。主将1人だけにする訳がないのだ。

 

そんな3年生たちの背中は、とてつもなく大きく、誇らしかった。

その姿に、1年の澤村たちは、自然と胸を張った。

 

 

そして思った。

この先へ、一緒に行きたいと。

この先も、この人たちと戦いたいと。

 

希望と、信頼と、覚悟を胸に。

烏野高校バレー部は、満を持してIH予選へと挑んだ。

 

 

 

 

 

 

だけど―――現実は非情だった。

 

 

 

 

――結果は、2回戦敗退。

 

 

 

 

 

 

 

3年生たちは、その日をもって引退した。

 

 

声の限り応援をし続けた。

最後の最後25点獲られるまで、終了の笛の音が鳴り響くまで―――諦めなかった。

声を上げて、声を上げて、間違いなく先輩たちは全てを出し切って―――届かなかった。

試合が終わり、泣き崩れる3年生たちは、肩を寄せ合いながらもなんとか立ち上がり、静かにコートを後にしていった。

その背中を、澤村、菅原、東峰――1年生の3人が、観客席から黙って見つめていた。彼らはまだベンチに立つことすら叶わなかった身。

その責任がないと分かっていても、どこか胸をえぐるような痛みがあった。

 

 

――今、自分たちは何をしている? 

――何をしなければならない?

 

 

そう、まだしなければならない事はあるのだ。

まだ片付けが残っている。道具を持ち、それぞれの備品をしまう。けれど、手は止まりがちで、心だけがざわついていた。

 

 

その時だった。

 

 

耳に、会話が入ってきた。

聞きたくなかった言葉が、観客席から風に乗って流れてくる。

 

 

「烏野って強豪だったイメージがあるんですが、正直当たってラッキーでしたね!」

「でも次は青葉城西ですから! 気を引き締めないと!!」

 

 

明るく弾むような声。

勝者側の余裕ある会話が、勝者だけの特権の声が、まるで異なる場所の、別の世界からの音のように遠く、そして鋭利な何かで、鋭く胸を突き刺されてしまうように感じられた。

 

 

だが――更なる追い打ちは、トドメは次だった。

それは何の前触れもなく、ただただどこかから流れてくるように……聞こえてくる。

呆れたような声だった。

 

 

 

 

 

「ハァーーーーー……地に落ちたなあ、烏野も」

 

 

 

 

 

過去の栄光を知る者の1人……なのだろう。

烏野は、空高く飛んでいた。飛んでいた筈だったんだ。

 

 

地に―――??

 

 

認めたくなかった。

頑張れば、頑張れば……いつかは。

練習は嘘をつかない。

信じて、信じて、前を走り続けてきたつもり、だったんだ。

 

 

【落ちた強豪、飛べないカラス】

 

 

それは後々に呼ばれる事になる不名誉な渾名。

 

 

まるでその言葉が、自分たちをそのまま定義づけてしまうようだった。

何も言い返せなかった。

だが、悔しさだけは、確かにここにある。

誰も、声を上げない。

ただ、歯を食いしばり、声を殺して泣く。

こみ上げてくる感情は、もう抑えきれなかった。

 

 

 

 

そして―――全てが終わった後、田代主将の残した言葉だけは、ハッキリと覚えている。

 

 

 

「……オレ達は、団結が遅すぎたなぁ」

 

 

3年と言う短く儚い時の中で……あまりにも時間を贅沢に使い続けてしまったと言う後悔がそこにあった。

 

 

「【チャンスは、準備された心に降り立つ】って言うだろ」

 

 

頑張ったつもりだった。

でも……失念していたんだ。

対戦相手だって―――頑張ってる筈なんだから。

誰一人、頑張ってないヤツなんか、居ない筈だから。上に行けばそれは当然の事で、当たり前で――――。

 

 

「この先、烏野が強くなることなんてないのかもしれない。なっても何年も先の事かもしれない」

 

 

止める事が出来ない。

ただ、その姿だけは―――その背中だけは、後輩に……これからの烏野を紡いでいく3人に伝えなければならない。

 

 

「それでも、チャンスが来たら――――掴めよ……!!」

 

 

掴めるチャンス。

準備すると言う事。

 

一体、どうやれば良い?

これ以上ない程に、やってきたつもりだった。

解らない、解らない、解らない。

 

ただ、先輩たちの言葉だけは胸に秘め、後はただ只管に、我武者羅に、走り続ける。どれだけ暗闇だろうと、どれだけ―――足を取られようとも。

 

 

 

 

一筋の光りに向かって走り続ければ―――。

 

 

 

 

 

そんな時、だった。

光りが見えた気がしたのは。

その開いた扉の先に―――まるで道しるべの様に、光の中に居る(・・)のは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーーーっはっはっは!! これで火神もゲロひっかけられ仲間だな!」

「不名誉な仲間入り呼び、しないでくださいよ!! それにゲロじゃなくてヨダレで……うわっっ、こっちにも付いてる!? きったなっっ!!」

「き、汚くねぇし! オレのヨダレ、汚くねぇし!!」

「十分汚ねぇだろ、ボゲ」

 

 

騒がしい声と共に、澤村の意識が覚醒する。

どうやら、長い長い―――夢を見ていた様だ。

 

 

「アレ? 大地泣いてた??」

「ハァ!? な、泣いてねぇし! あくびしただけだし!」

 

 

頬に伝っていた涙の跡。

中々誤魔化しがきくものじゃないが……、欠伸のせいだ、と澤村は弁明するが中々聞き入れてくれない同期の桜。

 

 

「泣いて起きる事あるよなぁ……、昔飼ってた犬の夢見た時とか」

「私文鳥」

「だから泣いてねぇっつってんだろ!!」

 

 

盛大に弄られる。

ひょっとしたら……この3人も、あの時の苦楽を共にした3人も、解っていたのかもしれない。澤村が何を考えていたのかを……。

 

 

そんな時だった。

 

 

 

「あ!! 帰ってきた!!」

 

 

 

眠気を一発で覚ましてくれるような、元気ハツラツとした声が響いてきたのは。

そして、声の方を向くと数人の女子生徒たちが駆け寄ってきた。

 

 

「決勝進出おめでとう!!」

 

 

手を振り、駆け足でやってくるのは烏野女子バレー部 前主将 道宮。

そして左右に同じく部員の相原、佐々木、やや遅れて北山の計4人。

 

 

「おお、道宮。何で知ってんの?」

「だってさっき校内放送で言ってたもん! 凄いよ、凄い!! あの青城を倒して決勝なんて―――もうっ、もうっっ!!」

 

 

道宮は、ぐっっ、と身体に力を込めて、溜めて溜めて、大きく手を上へと広げながら。

 

 

「すごいよ!! やばいよ!!!」

「アンタのボキャブラリーがやばいって」

 

 

散々溜めててそれか! と思わず道宮の頭に突っ込みを入れる相原。

そして、佐々木はその間、一歩後ろに下がると同時に、やや後ろに控えめに見ていたこの場に居る唯一の1年である北山を引っ張り上げて。

 

 

「ほらほら、麗奈も。なんかあんでしょ?」

「あ、や、そ、それは――――」

 

 

モジモジしていて、要領を得ない。

北山は目を伏せて、両手を胸の前でもじもじと動かす。声はか細く、語尾が消え入りそうだった。だけど、その顔にはほんのりと赤みが差していている。練習中は男顔負けな声を上げて鬼気迫る勢いで続けていると言うのに、これがギャップ萌えと言うヤツか、と割とどうでも良い事を考えたりしていた。

 

 

「え、えと、みなさん、……お、お疲れ様でした。すごく……かっこよかったです……っ」

「いや、なんでやねん! 結果知っただけで、試合見てないでしょアンタ」

 

 

すぱんっ!

と頭を叩く相原。

いきなり始まったコント? に目を丸くさせるが、次第に笑みの方が多くなってくる。

 

田中や西谷に至っては、飛び跳ねてる。リアルに飛び跳ねてる。

 

 

「「1年女子から格好いい――――」」

「「頂きました!!!」」

 

 

そして、飛び跳ねた後、突然険しいも慈愛? な表情。菩薩の様な表情をして合掌し、拝み続けるのだった。

 

 

そんなこんなで、色々と混沌とし始めた所で、北山は火神の方を向いて、意を決したように手を小さく振った。

 

 

それに、火神は気づく。

夕日が、赤く地上を照らし―――丁度、麗奈の顔も赤く赤く染め上げてくれた。これが良かったのか、悪かったのかは、解らないが。

 

 

兎に角、笑顔を意識すると同時に、拳を握って、グっ! と火神に【やったね!】 と言わんばかりのポージングをしてみせた。それが意図する意味は当然ながら火神にも伝わる。

 

だから、混沌とした現場の中でも意思が通じる様に、ニッ!っと笑顔と拳の返礼として突き出す火神だった。

 

 

北山とは同じクラスだし、同じバレー部所属。それなりに話す事はあるし、知らない間柄ではないから、ただただ純粋に喜んでくれたのだろう、と火神は判断していた。

傍から見れば―――道宮の反応が丸わかりだと言うのに、自分事としてはあまり解らないものなのだ、と弁解しておこう。

……誰に対してか、は言わないが。

 

 

 

 

「―――はいはい。そろそろミーティング。早く終わらせて明日に備えなさい」

 

 

 

 

そんな場を収めたのは、意外にも――いや、もしかすると誰よりも【らしい】かもしれない清水だった。

武田や烏養、そして澤村よりも先に、誰よりも先に―――皆を導く様に手を叩いた。その声はいつもと変わらぬ淡々とした調子。

けれど、それがかえって有無を言わせない圧力が感じられる。

 

まるで、何もかも見透かしていたかのようだ、と感じたのが当然ながら北山。

 

そして何より一瞬。ほんの一瞬だけ視線が交錯した。

その時思わず【ひゃぅっ】と声を出してしまい、そして、そんな彼女をたきつけた相原も、当然気付いて【へぇー……】と小さく短く、口笛を吹いていた。

 

 

 

こんなの見たことがない。

遥か高い高い壁を―――そこに視た気がした。

 

 

 

 

―――因みにこれは烏野男子排球部の皆さん誰も、気づいていないのは言うまでもない。

 

 

 

 

この一言に、どれだけの「想い」が滲んでいたのかを。

 

 

 

 

 

「「潔子さんの言葉は何よりも優先しなければならない!!」」

 

 

 

 

それはそれとして、北山からの格好いい! の台詞から、有頂天だった田中&西谷は清水の言葉に正気? を取り戻すと、騒ぐのを止めた。

 

 

清水の号令により、従順になっていく面々。見事な統率性に武田は感心と尊敬の念を持ち、烏養は半ば呆れつつも素直に助かってるのである程度は武田に倣って歩を進める。

 

 

「……凄いね、清水先輩」

「まぁ、あの2人を抑えるとなったら、おとーさんよりもセンパイしかいないでしょ」

 

 

そして苦笑いをしながら、山口は月島も後についていく。

 

 

 

それが合図だったかの様に、今度は校舎の窓という窓が、まるで季節外れの花が咲いたかのように開き始めた。

 

 

 

そこから顔を覗かせたのは、烏野高校の生徒たちだった。

青葉城西を破った烏野バレー部の帰還を、待っていたのは道宮たち女子バレー部のメンバーだけじゃない。

烏野高校の皆が、祝福をしてくれた。大きな声援をくれたのだ。

 

 

【すげーーぞ! お前らーーー!!】

【おめでとーーーー!!】

【明日絶対応援にいくからなーーーー!!】

 

 

歓声と拍手が、あちこちの窓から降ってくる。

その声に、誰かが帽子を振って応え、誰かが背を伸ばし、手を振る。

残っていてくれた事が嬉しい。こんなに多くの生徒たちが、帰らずに残っていてくれた事が。

 

 

「日向――! 影山―――!! よくやったなぁ!!」

「!! 先生!!」

「あざっすっっ!!」

 

 

そして、それは生徒だけじゃなく、教師も同様だった。

小野にとって基本的に日向や影山は学業と言う意味では結構な問題児ではある。赤点は取るし、座ったまま器用に眠るし。

でも、問題児だからこそ……手にかかるからこそ……面倒だからこそ、思う所は多々ある、と言うものだから。だから、惜しみない言葉を2人に送ったのである。

 

 

「火神もお疲れだったなーーー! 大変だったろーー? ……いろいろ(・・・・)とーー!」

「はい!! ほんっと、大変でした!!」

 

 

火神のクラスの教師、中村も声をあげる。

中村の大変だっただろ? の言葉の中にものすごーーく濃い内容が入っている事くらい、火神は瞬時に理解した。そう、大変だったのだ。小野と中村はそれなりに共有している様で、顔を見合わせて笑っていた。

問題児たちをまとめ上げてる係、を仰せつかっているのは教師の間では周知の事実なのである。

そしてそれを傍から見ていた月島や山口も色々と察する。俯瞰してみると言うのは本当に数多の事を理解できる。視野が広くなると、こうまで物事を深くまで捕らえる事が出来るのだ、とよくわかった。

 

 

「絶対あれって……」

「ま、バレーの事以外。寧ろ大半がそっち、でしょ」

 

 

それが今後に活かせる類のものかどうかは……別の話だが。

 

 

沢山の声援に推されて、決戦を終えた選手たちは、祝福の雨のような声に最後まで背を押されながら、静かに、けれど誇らしく校舎へと戻っていった。

 

 

澤村は胸に来るものがある。

夢を見ていたからか、余計に思ってしまう。

あの時は(・・・・)―――後回しにされていたバレー部がここまで来たのだと。

 

 

また、涙が出そうになる。そうなると、菅原や東峰、そして清水までもがまた色々弄ってくる可能性が大いにあるため、澤村は歩を進めていった。

 

 

そんな時だった。

 

 

「あっ!!」

 

 

道宮が声をあげたのは。

 

 

「【Mスタ みやぎ】始まっちゃう!!」

 

 

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