王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第188話 最も未完成なチーム

 

【Mスタ みやぎ】

 

夕闇が空を覆い、もう時期に夜となる黄昏時。

烏野では残っていた在校生らも帰宅ラッシュに入り、徐々に校内人数も減ってきていたが、一極集中していた場所があった。

それは職員室である。

何故なら、一番近かったのが職員室だから。道宮の声に導かれる様に全員で職員室へと押しかけ、そしてテレビに集中する。

 

そう、【Mスタ みやぎ】を視聴する為に。

 

 

 

『こんにちばんは』

【こんにちばんは!!】

 

 

女子アナの独特な挨拶から始まる【Mスタ みやぎ】。

元々は放送の時間帯的にこんばんは、が近いがまだまだこんにちは、でも通じる為、二つをつなげた造語! と言われているが真偽のほどは最早定かではなく、いつから始まったスタートの挨拶なのかもわかっていない。今は普通に夕方でそろそろ暗くなってきているので、『こんばんは』が妥当だろう―――、等というツッコミの声はもうどこからも上がってなかったりする。

 

 

閑話休題。

 

 

『本日、富沢の仙台市立体育館では、全日本バレーボール高等学校選手権大会。【通称:春高バレー】の宮城県代表決定戦の準々決勝、準決勝が行われました』

 

 

バレーボールの内容に、皆が目を光らせる。

騒いでいた面々もピタリ、と止み軈ては画面一点に集中させた。

準々決勝、準決勝。限りある放送枠の中で、どこを強く、重きを置くのか―――それは言うまでもない。

間違いなく準決勝だ! と誰もが息を呑んで次の女子アナの次の声を待ち望む。

 

軈て、体育館内の試合の映像及び自分たちの高校名、そしてスコアが画面に表示された途端、おお! と小さく声があがる。

 

 

『第1試合は烏野高校が、強豪・青葉城西高校を破って久々の決勝進出です』

 

 

最後の1本を決め、全員が集まって勝鬨を挙げているシーン、そして青葉城西が敗北し、肩を落とし、涙を流すシーン。交互に流される。

 

 

『いやぁ、驚きましたね。まさかこのタイミングで青城が敗れるとは』

『ええ。私個人としては非常に残念な気持ちもあります』

 

 

その声に促される形で、ゲストとして呼ばれたのは元宮城県バレーボール協会の理事を務めていた宮根 淳史である。

 

 

『青葉城西は、及川くんを始め、非常にバランスの取れたチームだっただけに、決勝でその姿を見られないのは残念ですね』

『なるほど。確かに青城は敗れたことで公式戦、連続決勝進出記録も途絶えてしまいましたからね』

 

 

その言葉は正直、青葉城西側によりすぎではないか? とピクッ! と反応を見せたのは西谷である。

 

 

「青城ヒイキすんなーー!」

「「そーだそーだー!」」

「オレたちが勝ったんだぞーーっ!」

「「そーだそーだーー!!!」」

 

 

そして西谷に触発される形で、田中と日向が拳を声を上げた。

場は職員室。もう放課後とは言え先生たちもそれなりに集まっている。いつもなら注意の1つや2つ、説教の1つや2つでも~~というところだが、今日は決勝進出おめでとう、ということで大目に見て、生暖かい目でみていた。

 

 

「まーまー。青城(あっち)は文句なしの優勝候補で、特集だってされてたし―――」

「こんなのいつも通りデショ」

 

 

場所が場所な為、火神も注意。少なくとも日向は同級生なので止める。

そんな姿に、また変な笑い声と視線を火神は背中に感じていた。どうにも、先生たちの中でも、火神がおとーさん、と呼ばれている事は共有しているようで、弄られたこともあるから……慣れっこ、とは言いたくないが、大体どんな顔しているのかはわかるので、敢えてそちらは見ない様にした。

 

 

「そうだぞ。それに準決勝だし。こんなもんだろ―――」

「いや、ちょっとまって澤村」

 

 

道宮がテレビ画面に指をさして、画面を見てない澤村を制した。

烏野はほとんど語られない~という雰囲気だったが、テレビのテロップに【今大会のダークホース】と表示されたからだ。

その意図がこれから語られるのだろうことは明白で、見逃すのが勿体ない、と道宮は思ったのである。

 

そして、それに連動するかのように、女子アナは小さく笑みを浮かべた。

 

 

『ただ、今年の烏野は一味違う(・・・・・・・・・・)という情報も入手しております。以前より注目する選手がいる、と紹介をさせてもらった通りで―――』

 

 

言葉を発する度に、まるで幼子のように目をキラキラと輝かせる。最前線にいる日向は勿論、西谷、田中辺りも画面にくぎ付けになった。

あまりに近づいていたら後方に居るメンバーが見えないので、西谷&田中は縁下が、日向に対しては火神が前に出すぎないように努めた。

 

 

『名前までは明かしてくれませんでしたが、今回惜しくも敗れた青葉城西主将:及川選手がこう残していました。【烏野には自分が認める方の天才がいる】と』

 

 

その女子アナの言葉に、喧噪がピタリっ! と止む。

それが他よりも顕著に表れたのは他の誰でもない、日向の隣にいる男。

 

 

『あ~、それは私も覚えていますよ。いつも飄々としていた彼が明確に言い切るのは実に珍しいことでしたからね』

 

 

そういうと、ついこの間の及川のインタビュー映像が流れた。

最早説明するまでもないことだろう。本当についこの間、及川が盛大にやらかして? 及川にやられて?? ものすっごい不快感を試合直前に向けたのだから。

当の本人は悪気―――はあったのかもしれないが(因みに影山に対して)、そこまで拒絶されるとは思ってもいなかったようだが。

 

 

『烏野は若いチームです。私の見立てでは新しい戦力となった1年生たちが該当すると予想しますが――――』

 

 

ここまでの映像はスコアや一瞬程度の得点シーンのダイジェストをほんの少し見せていただけだったんだけど、ここで、初めて選手個人にスポットが当たってきた。

当然、そこには日向や影山、そして月島と言った、烏野の新戦力と言って良い1年生メンバーが主に映されていて……。

 

 

「…………」

 

 

目立つの嫌!! というつもりはない。

試合をして勝ち進んでいけば、必然的に名は売れる。当然の通過儀礼だ。むしろ誇るべきことなのだ。

 

でもでも、それをネタに弄られるのだけは早々馴れるものじゃないのである。

 

 

「まるで及川の置き土産……だな」

 

 

澤村は誇らしい、と言わんばかりに笑って見せる。

ぎぎぎぎ――――と露骨に視線を逸らす渦中の人物。

及川が認めて、そして世間にはまだその詳細が分かっていない本人であろう火神の事だ。

影山や日向、そして月島も映像に出されているが……明らかにその時間配分が違う。

テレビ側もわかっていたのか、或いは攻守ともに満遍なく高次元に活躍を続ける火神の映像が集まりやすかったのかはわからないが。

 

 

「「…………」」

「無言の笑顔やめてくださいよーー!」

 

 

にっこり、と擬音を口にしたくなるような笑顔を見せてくれる田中と西谷。

それに奇妙な悪寒と威圧を感じて抗議する火神。

 

 

「あっはっはっは~~。ほんっとすっごいんだねー、後輩くんたちは。烏野の未来は明るいぞ? って感じかな? 澤村」

「まぁ、な。心の底から誇らしいよ、まったく」

 

 

バレーの事であればごくごく自然と会話することが出来る! と無意識にガッツポーズをする道宮。

それに後輩が頼りになるのは女子側も同じこと。色んな意味で負けないように頑張ってもらいたいものだ、と笑顔を見せるのだった。

 

 

「お、清水も映ってるじゃん。めっちゃアップで」

「「な、なにぃぃ!」」

 

 

ここで助け舟、というわけではないが、菅原の一言で笑顔の恐怖(笑)から火神は解放された。

その場面は、清水自身にも覚えがある。

両の手を組み、少しだけ顔をうつ向かせ、そして僅かに見える口元。口元が動いているところまでテレビははっきりと映しているが、生憎音声までは拾えていない。

 

軈て、目を見開くと同時に、口を大きく動かし、何かを叫んでいるように見えた。

 

 

「うおおおおおお!!」

「潔子さぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

以前の『がんばれ』事件以上の大声援を、前方にいる田中と西谷には聞こえたようだ。頭の上から雷を受けたように痺れる。甘い甘い痺れを受けると同時に、うっほ、えっほ、と謎のダンスが沸き起こる。

 

 

「田中西谷騒ぐな!!」

 

 

で、当然ながら場所が場所。

ある程度は黙認してくれているとはいえ、限度というものもあるし、自重も当然ながらしなければならない。というわけで、澤村の一喝が落ちた、というわけである。

 

 

「…………(撮られてたんだ……)」

 

 

テレビ映りがどうこう言うつもりは清水自身には無かった。

当然だ。宮城県予選はレベルが高いと全国でも少なからず認知されている。ましてや地元のローカルニュース番組。取り上げられないわけがないし、これから先に進めば進むほどに、露出だって上がってくるのは必然。それ程までに勝ち進み、目立ってきたという証なのだから。

 

 

――が、それはそうと、このシーンだけは、無関心、完全無視。つまりはさらっと無視できない事情というものが清水の中であったりしている。

 

 

腹の底から、心の底から、……声援に混じった何か(・・)に自分も背を押されながら、めいっぱい声を上げた。

及川の凶悪無比なサーブ。見たこともないレベルのサーブ。鋭い弾丸のようなサーブが飛び込んできた刹那、無意識に背を押された清水は声を上げていたのだ。

 

 

―――負けるな、誠也! と。

 

 

 

「潔子さんの応援、さいっこうっス!!!」

「俺たちのハートも撃ち抜かれたっス!!」

 

「……………」

 

 

いつもなら、本当にいつもなら単なるガン無視なのだが……今に限っては少し違った。

澤村の制止もあったが、相応に職員室が揺れ、声が響いている。

そして清水とテレビに映った清水の目が合う。

ほんの少し、ほんの少しだけ表情に変化が現れ―――やがて、清水は少しだけ顔をそむけた。耳の先が僅かに赤くなり、長い髪が揺れて彼女の頬を隠す。

 

 

「「ふぉっ……」」

 

【ふぉーーーーーーー!!!!!】

 

 

そんな清水の挙動を見逃す程、清水親衛隊メンバーの洞察力は甘くない。

紛れもなく、清水は照れていて、顔をそむける等という激レア。超絶激レアシーンを降臨させてくれたのだ。騒がないわけがないのである。

 

 

もう一度、澤村の檄が飛ぶ。

そしてその後。

 

 

「こらこらお前ら。こっからなんだぞ? 真打の登場は……」

 

 

呆れつつ、それでいてこれからの重要性を説くように烏養は告げた。

騒いでいる間に 烏野vs青葉城西の話題から、次の話題へと変わったのだ。

 

 

――そう、王者 白鳥沢へ。

 

 

 

『この大会3年連続優勝。さらに今年は19歳以下の日本代表にも選ばれた―――』

 

 

 

ここまで言われて、五月蠅くする訳がない。

決勝で当たる相手の話なのだから。

 

 

 

『怪童:牛島若利くん率いる白鳥沢学園です』

 

 

 

準決勝でのカード、そしてスコアも表示された。

宮城県ベスト4に入るチームだ。決して弱い訳がない。これまで試合してきたその経験からも嫌という程わかる。どれ一つとして楽な試合なんか無かった、と言えるからだ。

 

 

―― 白鳥沢学園 vs 気仙池西高校 ――

2-0

25-20

25-21

 

 

正しく王者の貫禄。それを見せつけた試合だった。

 

 

『準決勝も危なげなくストレートで勝ったようですね』

『ええ。今年は悲願の全国制覇を狙えるメンバーが揃いましたからね。まさに満を持して全国へ。と言った感じでしょう。期待して良いと思いますよ』

 

 

その後は牛島の攻撃シーンを中心に、白鳥沢の試合風景の映像が流れる。

中でも、(ブロック)の上から叩きつける強烈な一撃(スパイク)は圧巻の一言だろう。

画面越しでも、その強さ、凄さは伝わってくる。

 

 

そして―――最後に女子アナは番組を締めにかかった。

 

 

『地力で勝る白鳥沢学園に対して烏野高校がどこまで追いすがるか。注目ですね。決勝のもようは御覧のチャンネルで、明日午前11時から生放送です』

 

 

その言葉と同時に、また沸々と湧き上がってくる。

この画面に映る相手と。……宮城県の頂点、王者と戦うのだと。

 

 

『宮城県の頂点を決める一戦! 是非お見逃しなく!』

 

 

宮城県の頂点を、明日決めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっし、お前ら! まず最初に言っとくぞ。――あの白鳥沢ってところは、これまで及川が入ってからの3年間で、青葉城西は1度たりとも白鳥沢に勝ったことが無ぇ。……前回のIH予選もあと一歩だったが、それでも敗れている」

 

 

IH予選の決勝は同じく【Mスタ みやぎ】でも紹介されている。

紛れもなくベストバウト。過去数年間の決勝戦と比較しても文句なしの名勝負に分類されるといって良い、と評価されていた。県内外問わずにだ。

全国ベスト8まで白鳥沢は進み、惜しくもそこで昨年の覇者:井闥山に敗れたが、そこでも全国大会での試合よりも県大会の試合内容が報道紹介された。

 

それ程までに好ゲームをしても……勝てなかった。その相手が白鳥沢なのだ。

 

 

「人呼んで―――絶対王者。そして牛島個人は全国じゃ、【東北のウシワカ】なんて呼ばれ方をしてる。全国高校3大エースの一角」

 

 

宮城県内バレーにおいて。

牛島が入学・入部してからは県内において公式戦無敗、連勝を記録している。だからこそ、宮城県の絶対王者。

 

 

「勿論牛島だけじゃ無ぇ。県でトップクラスのやつらがゴロゴロいる。色んな呼び方されてるが、その名はダテじゃ無ぇぞ。お前らが今想像してる以上の強さを持ってる、って考えとけよ」

 

 

試合前に驚かせるのもどうか? と烏養は思ったが、これは歴然たる事実。当日になって打ちのめされる可能性だって否定できない。それ程までに格上なのだから。

 

―――だが。

 

 

「………(だろうな)」

 

 

 

そっち方面の不安は無い。……同じく心配もしてない。

どんな相手だろうと、どれほどまで強敵だろうと。この顔を見れば後ろ向きに考えるだけ無駄だと思い知らされる。

 

 

―――今すぐにでも試合したい!

 

 

そういわんばかりのはちきれん笑顔だ。

それも1つだけじゃない。1つ、2つと伝わっていってるようにも見えるから、実に頼もしいこと極まれり、と言えるだろう。

 

 

「明日は、いや明日も(・・・)か。オレたちは挑戦者だ。思いっきりぶつかって大番狂わせをみせてやろうぜ!」

【はい!!】

 

 

烏養がそう告げ、皆が返事をし、そして武田が次に前に出た。

 

 

「【落ちた強豪 飛べないカラス】 君たちをそう呼ぶ人間は、もう何処にもいません。羽いっぱいに風を受けたカラスが、今、大空を舞っています。そして――君たちならいける筈です」

 

 

武田の一言、一言に呼応するように、座って聞いていたメンバーたちが立ち上がっていった。

 

 

「どこまでも高く、どこまでも遠く―――」

 

 

烏野高校排球部。

 

それは、決して折れぬ曲がらぬ信念を携え、何よりも高く飛ぶことに餓えた烏の群れ。

 

 

「さぁ皆さん! 時は来ました!! 明日も勝って全国へ行きましょう!!」

 

【おおっしゃあああああ!!!!】

 

 

 

気合は十分。

後は、明日の決戦に向けて帰って飯を食って寝るだけだ。

烏養は最後に【飯食って寝ろ!】を告げて、終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

 

―――が、まだ夜は終わらない。

 

 

 

 

「え? あれ?」

「何だ。お前も残ってたのか?」

 

 

解散! となった後。

人知れず、日向は影山に声を掛けていた。

抑えきれない激情を胸に、明日まで待ちきれない、と言わんばかりの炎を瞳に携えて……。

 

 

「残ってた、っていうか……先回り?」

 

 

そう、火神である。

火神は体育館に残っており、(ボール)を用意し、そしてネットを張っていたのだ。

 

 

「勿論、烏養コーチや武田先生に許可も貰ってる。……際限なくやるのはNGって念押しはされたけどな」

 

 

ぽんぽん、とバレーボールを叩いて、日向と影山を見た。

 

 

「どうせ翔陽の事だから、『このまま帰っても寝れない』『ムズムズする』『スッキリしたい』って思ってそうだったし。だから、飛雄にトス上げてくれ、って言ったって感じじゃない? ……まぁ、飛雄も似たようなモンだと思うけど」

 

 

火神は(ボール)をひょい、っと回転させて指の上で回す。

 

 

「でも、明日に響かない様にオレも一緒に残ります。そんでもって、一応烏養コーチと武田先生に体育館使用許可の条件は、『必ず家に帰すこと』。つまりオレが監視人兼練習相手ってこと」

 

 

そういうと、火神は回していた(ボール)を日向に投げた。

 

 

「ほら、時間は有限! ちゃっちゃと解消して飯食って寝るぞ!」

「!! うおっしゃあ!!」

「しゃあっっ!!!」

 

 

そして――3人の夜練習が始まった。

様々な音と声を体育館内で奏でるそれは、まるでオーケストラの様。

 

いつまでも聞いていたい―――と思ってしまうのは、彼らが本当にバレーボールが大好きで、何よりもひたむきに頑張る姿があまりにも眩しいから、だろう。

 

 

「あ、あの……やっぱり止めます? 清水先輩」

「……そうだね。身体を休めるのも練習の1つ。明日の備えの1つだから」

 

 

体育館のオーケストラに誘われて、見に来たのは谷内と清水である。

 

火神がついていれば大丈夫。とこれまでの事もあって深く信頼を寄せているのはよくわかる。武田も、烏養も。けど、念には念を入れて、武田は帰宅しようとしていた清水には知らせていたのだ。……彼女が一番よくわかっているから、まさに適任。

火神だって日向や影山と同じだ。何よりもバレーが大好き。

いつまででも、動いていたい。と思っているバレーバカ。

 

 

隠れて変なことをしでかす危うさも持ってる。

だから、しっかりと手綱は握りしめておかないといけないんだ。

 

 

しばらくの間、その音を楽しんだ後、清水と谷地の二人はうなずきあって二人同時に声を上げた。

 

 

 

――はい、練習はもう終了!! 身体を休めなさい!!

 

 

と。

 

 

 

 

「ぶーぶー! 誠也が居たのにオレも怒られた!」

「それは俺のセリフだ! ボゲェ!!」

「………キミたち、なんか怒る所、間違えてない? 誰かに依存し過ぎるの、良くない。……はぁ」

 

 

テンションに大分ギャップがある火神と日向&影山。

火神の場合は、一生の不覚! と大げさ気味だがやや気落ちしてしまっている。

 

しっかりと任されていた筈だし、明日に備えることの重要性も理解している筈なのに、ついつい一本、もう一本、と止まらなかった。

冗談抜きで、今日の試合で精魂使い果たした筈だったのに、身体の方はまだまだ渇き、餓えていたのを自覚すると同時に、理性の方もしっかりと鍛えなければならないな、と改めて認識したのである。

 

 

なので色々と反省を反芻するように清水と谷地の言葉を頭の中でリピートし続けるのだった。

 

 

そうこうしている内に、日向と影山の喧噪はいつの間にか消えていて―――夜の烏野高校の静けさが戻ってくる。

日向は烏野の門を出て、学校のある丘から見える街の光を眺めていた。

 

 

「小さな巨人ってさ」

 

 

街の光を眺めながら……不意に日向は声を出した。

その言葉に、火神は反芻を止めて、影山も日向の方を向いた。

 

 

「オレ、緊張してる。たぶん、ここ最近で一番緊張してる。――――でも」

 

 

身体の中、肺いっぱいに空気を吸い込むと、その空気を全て吐き出すように、大きな目を見開いて、笑顔で日向はいった。

 

 

「超わくわくするなぁ!!」

 

 

どびっきりの笑顔を見て、緊張のあまり力を出せず、暴走していたあの時がなんだか懐かしいな、と火神は思わず笑ってしまう。

ここで、影山の後頭部に思いっきりサーブをぶつけた時の記憶が浮かんだが……、胸の中へと押し殺した。

 

 

「―――翔陽のそれ(・・)が答えなのかもな」

「うん??」

「小さな巨人が決戦前日に考えてたことだよ」

 

 

日向だろうと誰だろうと、緊張が勝ってしまっては身体が固くなってしまい、満足なポテンシャルを発揮することが出来なくなるだろう。

程よい緊張の中でも笑顔で、そして期待を、自信を胸に、……何より自然体で。

 

 

「だと良いな!!」

 

 

日向は火神のその言葉が心底嬉しい、と言わんばかりに2割増しの笑顔を向けた。

 

 

「まだあると思うぞ」

「おん??」

「ん?」

 

 

そんな時、影山が声を上げた。

そういうと同時に、影山は両方の手を、拳を突き出す。丁度、日向と火神に合わせるように。

そして、その意図を組んだ火神は拳を上げる。日向も、それに続く。

3人は丁度輪になる形で、それぞれの拳を合わせた。

 

 

「明日―――絶対に勝つぞ」

「「おう!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って、走って、走って――――。

追いつけなかった、零れ落ちた、打ちのめされた。

何度も何度も飛んで、飛んで、飛んで―――飛んだその数だけ地に落とされてしまった。

 

 

それでも、走るのを止めなかった。飛ぶことを、諦められなかった。

 

 

ずっと暗闇の中をかけ続けて、諦めずに進み飛び続けて――――そして夜が明けた。

一筋の光が、点程の光が微かに灯ったかと思えば、それは大いなる夜明けとなり、進む世界を照らしてくれた。導いてくれた。

 

さぁ、ここから始まる。

どこまで飛べるのかは解らないけれど、進むべき先は……見えているのだから。

 

 

 

『目指せ!! 全国優勝だ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――決戦の朝。

 

澤村は烏野高校の門を潜る。

指定された集合時間より大分早いが、これで良い。これくらいが丁度良い、と決意を胸に秘める。

 

 

「おはよー、大地。今日は泣かなかったか?」

「朝一番がそれか! だから泣いてねぇって! はいそこーー! 2人も追撃いらないからな!」

 

 

そして菅原の朝一番の挨拶も撃退。

東峰、清水が菅原に乗っかって、昨日の涙弄りをしてこようとしていたのが分かったので、事前に阻止である。

 

そして周囲を見渡し……どうやら、自分が一番遅かったようだと小さく笑った。

これでも大分早く来たはずなのに、と。

 

 

「まぁ、丁度良かった。――お前らに言っとく事がある」

【???】

 

 

澤村は朝一番だというのに、異様にテンションが高く、決戦当日に申し分ない精神状態なのを確認しながら、はっきりと、腹から声を出すように盛大に宣言する。

 

 

 

「狙うのは! 全国大会優勝だ!!」

 

 

 

昔は……、ついこの間のように感じてしまう昔は、何度も何度も聞いたこの大きな大きな目標。あの大きな舞台で、オレンジ色のコートで全国の猛者相手に全戦全勝をし

 

 

―――深紅の優勝旗を烏野へ持ち帰る。

 

 

それこそが、烏野高校の伝統目標なのだ。

 

 

「え? それ以外に何かあんスか?」

 

 

そんな澤村の決意? に意思表明?? に関して首を傾げながら疑問をストレートにぶつけるのが影山である。

様々な思いを胸に抱いている事くらい、澤村を知らなくても、苦楽を共にした同級生じゃなくてもわかる―――と思うのだが、どうやらそういうのに乏しい影山には分らなかったようだ。バレーをする以上、試合に出る以上、すべて勝つ。結果、行きつく先、そのゴールが優勝なのだから、目標としては当たり前の事だと思っていたのだろう。

 

 

「まぁぁた、お前はそォ言う言い方ぁぁぁ!!!」

「あははは……」

 

 

影山らしいといえばらしい。と火神は思わず笑う。田中にいじくりまわされる影山を見て笑う。

でも影山はあれで良い、とも思えてしまうこともあるんだ。あの自然体さが良い。下手に考えるようにして鈍るよりは良い、と。……無論時と場合、だが。

 

 

「お前バカだな! キャプテンは改めて言っただけだろ」

 

 

で、日向の挑発もいつも通り。

 

 

「はいはい、2人ともステーーイ」

 

 

いつも通りなんだけど、試合前に余計な体力使わせやがって~~! となりたくないので、早々に影山と日向の攻防を止めた。

そしてそんな頼もしい後輩たちを見て、澤村は笑う。

 

 

「ははは! そういや『春高行く!』としか言ってなかったからな。タイミング的にも丁度良い」

 

 

全国優勝する。

即ち、今日も必ず勝つという強烈な意思表示だ。絶対王者と呼ばれるあの白鳥沢でさえ通過点である、と。

 

 

「とうッッ ぜん!!!」

「勿論。オレもそのつもりだ」

「さくっと蹴散らして全国行こうぜ大地!」

「あ、僕はなんでもいいです」

「ツッキー、そこは乗ってこようよ」

「僕が朝一乗るのは自転車だけなんで」

 

 

色んな1人ややクールなことを言う月島(やつ)がいるが、それもまた通常運転だろう。そして月島も当然ながら勝つ気でいる。負けるつもりは毛頭ないことくらい、その顔を見ればわかる。

 

 

「そりゃあ、全国行くからには!」

「いや、まだ行くって決まってねぇよ!?」

「木下はそのくらいのつもりだ、って事だろ成田」

「はぇぇ、西谷に負けないくらい心強いキャラになっちゃって」

 

 

無論、選手陣だけじゃない。

マネージャーズも気合が入ってる。……谷地は圧倒されてるが。

 

 

「ふおお……ぜ、ぜんこくゆーしょー……」

「んっ。……それくらい言ってもらわないと、ね」

 

 

そんな皆の姿を見たら、澤村はより思う。

 

 

――チャンスが来たら……掴めよ!!

 

 

あの言葉を胸に、走り続けて―――ここまで来たんだ。

 

 

――今こそ、チャンスが訪れている瞬間だ。

 

 

負けない。負ける気がしない。

澤村はそう強く思った。

 

そんな時だ。後ろから声が聞こえてきたのは。

 

 

「うっし、試合当日。お前らのモチベーションは申し分なし。コンディションは最高潮だな。―――って事で、まだバスが来るのに時間がある。改めて目の前の強敵、今日やりあう強敵の話をしておこうか」

 

 

それは烏養。頼もしすぎる選手らを見て、コーチ冥利に尽きる……と思いたくなるが、それは今日の勝利の時に、より堪能する為に、取っておこう、と考えない様にした。

因みに武田はバスでここまでくるので、少しあとになる。

 

 

「県内で最も完成されたチームを青葉城西とするなら、これからやり合う白鳥沢のオレの印象は――――」

 

 

烏養は一呼吸おいて、これからやり合う白鳥沢の面々を思い浮かべる。

これまで時間がある限り調べに調べ上げた選手らの面々。何よりその白鳥沢を育て上げている巨匠 鷲匠 鍛治 の姿を思い浮かべて……告げた。

 

 

 

 

 

 

「県内で最も未完成なチームだ」

 

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