王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第189話 宮城県代表決定戦・決勝

 

 

「……翔陽たち、決勝進出だって」

 

 

場面は音駒高校バレー部の部室。

練習を終えて、一息ついた所に弧爪の元へ1通のメールが届いていた。

 

 

そこにはただ短く『決勝進出!!』のみ書かれていた。

 

 

日向からのいつもの文面を考えれば大分短く簡素だと言えるが、それでも弧爪の頭には、やたらと騒がしい日向の姿がありありと浮かんでしまう。

 

絶対に眼前に居たとしたら、超ハイテンションで飛びついてきて、試合が終わったばかりだと言うのに、動きたい練習したい、研磨練習付き合ってくれ、と言ってきそうで、こんな短い文面からでも疲れてしまうのは何故だろうか。

 

 

「おおおお!! マジっすか!?」

 

 

弧爪の言葉に、いの一番に食いついたのはリエーフである。音駒の中では一番属性的に、日向のそれに近いのはリエーフ、そして犬岡だろうか。だからこそその喜びも一塩。

 

 

「やるなぁー……! 確か準決の相手って青城だったっけ?」

「うん、流石だ。青城も宮城で注目されてたチームで、前に『最も王者に近い』って紹介されてたし。IHであと一歩だったらしいし」

「海くんも、夜っ久んも詳しすぎでしょ~~。他所様の事情なのに」

 

 

音駒3年3人組も各々のやり方で烏野を祝福? をしている様だ。

烏野が一足先に春高出場へ王手をかけたのだ。全国の舞台で会おうと約束をしている以上自分たちもこれに続かなければならない。自然と士気が上がり、気合も入る事だろう。

ただ、黒尾はここでマイナスな方向性発言をする。

 

 

「んでも、あいつら こっからウシワカと戦んでしょ? かーわいそーー」

 

 

高校バレー三大エースが一角の《ウシワカ》こと、《牛島若利》。

超高校級が率いる白鳥沢を相手にするのだ。自然と両の手が合わさるのを止められない黒尾が居た……が、夜久は違う様だ。

 

 

「何言ってんだ黒尾。いや そもそもお前わかってねーな。………やれやれ、烏野(あの連中)のこと、まったくわかってない」

「……なんか、夜っ久んが急に語りだした」

 

 

まるで自分事の様に胸を張る夜久。

烏野について、その性質を黒尾が知らないわけがないのだが、夜久の方が気になったので、特に茶々を入れる事なく静観する。

 

そして夜久はやや大げさな抑揚がつく声でつづけた。

 

 

「相手が強ければ強い程、心の底から楽しむ。普段は面倒見抜群なくせに、ここぞって時には周りの子供(・・)以上に。置いてけぼりにする勢いで、はしゃいじゃうあいつらの保護者(・・・)がいるだろ? 県内最強の相手なら猶更最高潮。最高の遊び場。烏野にゃ。そもそもな話、黒尾の【可哀想】なんて発想、貧困ってもんだ」

「まーた、改まって何を言い出すかと思いきや、そんな誰でも思い付きそーな事を……」

 

 

一通り、夜久の言葉を黙って聞いていたが、黒尾そんなの解ってないわけがない。思わない訳がない。

烏野とはあの練習試合を皮切りに、合宿と言う密度の濃い時間を共にし続けてきたのだから。

試合では何度も何度も頭の中で、実際に口に出して、色々と愚痴り続けた。

烏野の体力無尽蔵に加えて精神力もなんか可笑しいあの1年コンビ……と言うか体力お化けトリオ。

3人の内の1人、まとめあげる男の事を、保護者と呼んで差し支えない男の事を知らないわけがないだろう。

 

 

「オレの方にもバッチリ報告きてたしな」

 

 

夜久はそのまま、自身のスマホを皆に向けていた。

そこにあるメッセージは、先ほど弧爪の方へ日向から届いたメッセージと何ら遜色はない。ただ丁寧語な事以外はほぼ一緒の内容だ。

 

 

「って待て待て。夜っ久ん、いつの間に火神のケータイ知ったん? いつの間にオトモダチに??」

「他校の1年と……か。まぁ、相手が火神なら理由としてはそれで十分だけど」

 

 

黒尾と海は一瞬目が点になった……が、何となく納得する海。そして黒尾も聞きはしたのだが、そこまでおかしい事でもないか、と内心では思ったりしている。

 

 

「研磨さん研磨さん。夜久さんと火神ってそんな仲良かったでしたっけ??」

「ん? まぁ、烏野の1年の中では、って限定すればアレだけど……」

 

 

弧爪はリエーフにスマホの画面を見せた。

そこには差出人の項目で火神の名がある。

つまり、夜久以外にも、弧爪にも連絡しているということだ。

 

 

「誠也、律儀に知ってる人全員に誠也は送ってるっぽいから。だから向こうは夜久くんが特別~ってわけじゃないと思う」

 

 

ぽちぽち、と弧爪はスマホの画面を操作して、別の画面(ゲーム)に切り替えながら更につづけた。夜久が火神の事を気に入っているのは事実だろう。そしてその理由も孤爪は何となくだが解る。

 

 

「誠也はあの合宿で唯一全ポジ個人練参加してたし。セッターもウイングも、ミドルも。……勿論リベロも。だから夜久くんみたいに気に入った人、他に何人もいそう。クロもああいってるけど、間違いなくその1人。後はボクトさんとか特に。梟谷で言えば多分赤葦もとか………」

 

 

弧爪は合宿の風景を思い返しながらゲームを続ける。いつになく饒舌気味な孤爪。

仲が良い、と言う中に自分の名を入れてない様だが、きっと本人も入っている事だろう。

 

 

それはそうと、孤爪は色々思い出す過程で、合宿中の光景が頭の中を巡っていた。

梟谷や森然、生川……厳しい練習の記憶。あの中で、火神が何をしていたのかを。

それを横目に、物凄い顔をしてるぞ、と黒尾に突っ込まれた事も記憶に残っている。

 

 

「練習の後にウイングもミドルも、セッターもリベロも、全部なんて、ありえない……。………考えられない」

「わわ!! なんか研磨さんが突然青ざめた!??」

 

 

合同合宿の時に、火神がありとあらゆる所に出没していたのは有名な話で、あの合宿に参加していたチームなら全員が知ってる所だろう。只管に1つの事を長い時間かけて、体育館が閉まるまで練習しまくる体力無尽蔵お化けな日向や影山とはまた違う異質さ。

 

セッターとしてのトスワークの精度や視野をも培い、ウイングでは打つべきコースの読み合いも続け、ブロック相手へのコースの内訳も考え、やがて攻守交替でブロックする時も読み合い果し合いに興じ、リベロとのレシーブ練習ではコートすれすれのレシーブ連発。

 

身体だけでなく、頭、瞬発、判断、それぞれの場所でチェーンナップでもしているかの様に切り替えては最善を導き出し、効率良く仕上げて続けていく。

しかも、並以上の練習量のあの合同合宿練習を終えた後。何試合、何十試合を終えた後にこれらをやるのだ。更に言えば、あの木兎の無尽蔵(エンドレス)な練習に付き合った上でのこの行動。

 

 

正気の沙汰じゃない―――と言うのが弧爪の脳内結論である。

 

 

アレを見た時は、心の底から烏野じゃなくて良かった―――と割と本気で思ったりしていたりした。引き摺られてしまうIFな未来が見える様だから。

 

 

「なんか研磨、合宿思い出して戦々恐々してら~~」

「もう結構前の事なのにな」

 

 

弧爪の言わんとする事、考えてる事はわからなくもないが、取り合えずもう色々と納得させているのは黒尾と海である。

そう、火神だから、と。それで十分なのだと。

 

ただ、弧爪の場合は火神の事を不正(チート)は許すまじ! と思っている面があるので、色々と納得できかねる事情においては、深く考えてしまって利する癖があるのだ。特に日向や火神と関わってからと言うもの、より顕著になっていると言えるだろう。

 

 

そんなこんなで、烏野勝利の報告は音駒にとっては間違いなくプラスに働く情報。

まだ最大の山が残っているが、それでも約束した全国の舞台で【ゴミ捨て場の決戦】

 

気合が入らない訳がないのだ。

 

 

そしてその後は、その気合を一身に、身体全体で表現しよう! と山本が突如服を脱ぎだした。

そして気合の入った雄叫びをして―――最終的には黒尾に咎められるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月27日

 

 

 

――朝から冷たい風が仙台の街を吹き抜けていた。

街路樹の葉が色づき始めるこの季節、空はどこか澄み渡っていて、まるで今日という一日が特別なものになることを知っているかのようだ。

 

 

 

――全日本バレーボール高等学校選手権大会――

通称:春の高校バレー

宮城県代表決定戦

 

 

その決勝戦が、ついに幕を開けようとしていた。

 

会場である仙台市体育館は、朝早くから多くの観客で賑わっている。

入り口に多数集まっており、関係者らが一同に会している。

応援団であろうその声は大きく響いていて、試合開始前から気合が入っているのが解る。

体育館の扉をくぐれば、そこには既に熱気が立ちこめ、冬の始まりを告げる冷たい空気さえも押し返してしまうような熱狂が渦巻いている。

ここで勝つか、敗れるか――それが、これからの三年間を象徴するような運命の日。

10月27日。この日を忘れることは、誰にもできないだろう。

 

そう烏の様な真っ黒のジャージに身を包んだ烏野高校排球部も例外ではない。

とうとうこの舞台までやってきた。その感慨深さはどう形容して良いのか解らない。

だからなのか、少しだけ皆より遅く……大地を踏みしめる様に前へと進む。

高鳴る鼓動のままに―――主将・澤村は体育館内へと入ろうとしたその時だ。

 

 

 

 

「澤村――――っ!!」

 

 

 

 

甲高い声に呼び止められ、澤村が振り返った。

その視線の先に立っていたのは、烏野女子バレー部を率いた元主将・道宮だった。

引退した今はもう、コートに立つことはない彼女だが、その笑顔は現役の頃と変わらず、いや、それ以上に生き生きとしていた。

 

 

「約束通り、応援に来たよ!」

 

 

あの青葉城西との激戦を制した後―――学校に最後まで残ってくれていた時に、道宮は澤村に言っていたのだ。

決勝戦は、絶対に現地で応援する!! と。

 

 

「―――で、あらためて~~~なんだけど……」

 

 

道宮は二度、三度と深呼吸をした後に……目をぱっ、と見開いて拳をぎゅっ、と胸元で握りしめて、顔も赤くさせて思いの丈を叫ぶ。

 

 

「やっぱりすごいよ、決勝なんて、もう、もう!! やばいよ!! やばいよ!! 実感半端ないよ!!!」

「いやもう少し……色々と仕込んでこれそーだけど、やっぱあんたのボギャブラリーはそんなもんよね」

 

 

道宮と共に応援に来てる相原も、ついこの間から色々と仕込んでいけば? と道宮に提言したのだが……残念ながら成長出来てないな、と。

だが、そんな道宮に苦言を呈しながらも、実は同じくらいは興奮していたりする。

対戦相手はあの白鳥沢。宮城男子高校バレーの絶対王者。そんな相手に烏野が挑むのだから、バレーに携わっていた者からすれば、血沸く肉躍ると言うものだろう。

 

 

「せ、先輩たち! 頑張ってくださいね!!」

 

 

そして勿論、道宮同様に見に来る約束をしていた北山も道宮に迫りつつある。

 

 

「(あ、1年の……。これって火神呼んだ方が良くない? 寧ろ、大地の隣に立たせた方が?)」

「(んーでも、先に入った田中西谷に気付かれたら暴走しそうだし。逆に悪い気がするし―――)」

 

 

菅原と東峰も、鈍感ではない。

と言うか、解らないヤツなんてきっと当事者以外いない、と断言できる。寧ろどこぞのラブコメ系主人公くらいだろう。こんな解りやすいの気付かないなんて。

 

で、そんな属性持ちが生憎、此処には沢山いるのだ。文字通りバレーしか興味ないのか? と思える程の。……頼もしい連中が。

やきもきするかもしれないが、取り合えずバレーが終わるまでは我慢してくれ~と、菅原と東峰は、内心両手を合わせるのだった。

 

 

「……火神」

「っ! はい? どうしました?」

 

 

清水に背を軽く押されたのは火神である。

清水は無言のまま、指をさした。その先に居る、北山の方を見て、火神も理解した様で、入り口の方へと戻っていく。

 

 

以心伝心―――とまではいかないが、清水も流石に空気を呼んだのだろう。

 

 

何より、Mスタ みやぎのあのシーンを見て、外から見たら結構あからさまな態度が出ている(清水視点では)から自重した――と言う理由と、後は流石に今何かをするのは違うと思うから。

 

 

「1年代表! 北山麗奈!! 皆を全力で応援しますっっ!!」

 

 

色んな意味が含まれているかもしれない。

でも、間違いないと言えるのは、全力で。全力中の全力でこの場へ駆けつけてくれたのだから、敬意を払わなければならないだろう……とも、思ったりしたのだ。

 

 

清水に背中を押された火神が前に来た事で、いよいよ北山も道宮と何ら遜色ない程になった。

勢いなのか、道宮もびしっ! と敬礼。

 

 

「麗奈が1年! えと! わ、私は引退組代表!! って事で!! 勝てよーー澤村!! 勝てよーー烏野!!!!」

 

 

「私らも居るんだけどなー。いつの間に代表になった?」

「まぁ、それは言わない方向で」

 

 

相原はニヤニヤ、佐々木もニヤニヤ、と笑みを浮かべつつ……下手な事は突っ込まない様にした。

 

 

「せ、センパイ!! あれ! あれ渡さないと!!」

「お、おおー! そーだった!!」

 

 

北山に言われ、道宮が急に真っ赤になった顔を隠すように、バッグの中から取り出したのは小さな布製のお守りだった。

 

 

「べ、別に! 個人的とかじゃなくてね!? なんか、私たち2人~~って感じだけど、そーじゃなくてね!? この1個でみんな分っていうか、その、私たち女子の分も、みたいな……! いや、あの! 別に、そういうんじゃなくて!」

 

 

早口でまくし立てながら、必死に何かをごまかそうとする道宮。

その姿に澤村は目を細め、いつもの穏やかな笑みを浮かべてお守りを受け取った。

 

実は事前にこの部分に関しては道宮と北山は打ち合わせていたりする。

流石に、流石に2人が別々に渡す―――と言うのは不自然極まりない。

北山も……物凄く渡したかったんだけれど、道宮主将には物凄くお世話になったし、何より最後だし……それ以上に本人に直接渡すのだ。

だからこそ、一歩引いたのである。

自分にはきっと―――まだ、チャンスはあるって思うから。

 

 

 

「ありがとな。みんなの気持ち、しっかりベンチに置いておくよ。……じゃあ、応援頼む!」

 

 

 

何の含みも無く、澤村はそれを受け取ると4人に向かって拳を握りしめる。

道宮はそれを見て、全てやりきった~~と、力を抜く前に、しっかりと敬礼をする。やや遅れて、北山も同じく敬礼をする。

息がぴったり合った師弟関係の様に見えなくない光景だ。

 

 

「まっかせて!」

「勿論です!! センパイ!!」

 

 

烏野の男子を代表して、澤村へ渡したのだ。

ここに意味深なものを、火神へと向けるのにはハードルが高い……、と少なからず思った北山だが、意を決して火神の方を見た。

そして、敬礼を解き、ぐっ!! と拳を前に突き出した。

口には決して出さない。出さないが、意味は通じる筈だ。

 

それを見た火神は、同じく笑顔で拳を前に出し、そのまま流れに身を任せる様に―ー体育館の中へ。

 

 

背中を見送った道宮は――次の瞬間。

 

 

 

 

「ぐうアァァァ……!!」

 

 

 

 

と奇声を上げながら、隣の相原に飛びつこうとしたが、軽く片手でいなされる。

 

 

「はいはい。あんたにしては、渡せただけで及第点ね。麗奈の手前、よく頑張ったほうじゃん」

「元主将の意地、見せれた見せれた」

 

 

その言葉に、道宮はますます顔を真っ赤にさせて、両手で頬を押さえた。

 

 

 

 

「は、はふぅ………」

 

 

 

 

そんな道宮とは少し違い、北山は身体中の力が抜けたのか、へたり込んでしまいそうなところを、佐々木に抱えられる。

 

 

「麗奈も頑張った頑張った。花を持たせてもらった点(・・・・・・・・・・・)があれだけどーーー。それでもあの圧(・・・)受けて、実際実行まで出来たのは及第点超えてるね。元主将より頼りになるかもよ」

「は、はぃ………」

 

 

にしし、と笑いながら頭を撫でる。

色々と決意をして、この場に立って、無事目標達成をした訳だ。

先輩からもお褒めの言葉を頂き、恐悦至極と言いたいところだったのだが……、試合はまだこれからだと言うのに、応援を任されたと言うのに……少しインターバルが欲しい、と北山は言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなバレー以外の戦い? があった事なんて当然の様に露知らず。当事者な火神も、実は1年代表! 程度の考えしかなかった様子。

 

 

 

「翔陽? トイレ行っといたほうが良いんじゃない? もう戦場にならないでしょ」

 

 

火神は日向のトイレ事情を慮っていた。

日向がトイレを戦場戦場言う理由は、当然ながら選手が使うトイレには当然様々な選手が現れる。つまり遭遇する確率が、エンカウント率が向上するのだ。あんな狭い空間に、凄い圧を放つ? 選手が集うのだ。だからこそ、戦場と表現していたのだが……、決勝までやってきたら、遭遇率も下がる事だろう。

もう、白鳥沢か自分達烏野しかいないのだから。

 

 

「だ、だいじょうぶだし!! さっき行ってきたばっかだし!! 何なら、家から数えて5回は行ってるし!!」

「や、回数で胸張られても困るんだけど……」

 

 

出すもの出し過ぎて、干からびたりしないだろうな? この10月の気候で……と、割とどうでも良い事を考えていたその時だ。

 

 

「翔ちゃん! せいちゃん!!」

 

 

聞き覚えのある声が、後ろから聞こえてきた。

もう大分懐かしい……とも思えてしまう声。

そうだ。烏野に入って―――毎日の様にバレー漬けになって、近況報告等でメールのやり取りはしているが、実際に会うとなると難しい。当然互いに会える頻度は少ないどころか無くなったと言って良いのだから。

 

でも、それでも今日ここへ駆けつけてくれたんだ。

友達で、嘗ての仲間たちが。

 

 

「イズミン!! コージー!!」

「ゆきに、こうじ!! ひっさしぶりーーー!」

 

 

日向と火神の嘗ての戦友。

雪ヶ丘中学のイズミンこと、泉行高。

そしてコージーこと、関向幸治。

 

 

「お? 見ない顔だな。知り合い?」

「はい! 中学時代の時のーーー」

 

 

火神が田中に説明している時、日向もあまりにも感激したからか、火神にかぶせる形で日向も説明をする。

 

 

「中学時代のバレー部!! じゃないっ、愛好会だけど! 試合に出たくて出たくて、それで、助けてくれた2人です!!」

「へ~~、それってーと、あん時(・・・)のメンツか」

 

 

日向と火神の中学時代の試合は1試合だけだが、田中も見た事がある。

優勝候補だった影山の居る北川第一にあそこまで食い下がったチームだ。

 

 

「はい! 自分、当時はバスケ部でした!」

「サッカー部でした!」

「寄せ集めなメンバーでよくぞあの北川第一をあそこまで―――って、あれか! やっぱサッカー部だったか! どうりで足技上手いな! って思ってたわ!!」

 

 

日向と泉のブロックに当たって、大きく弾かれた(ボール)を見事キックレシーブで追いついてみせたのがこの関向。しかも、上手くコート内高くに上げて、そのまま火神がスパイクを決めていたから余計に覚えている。連携技なのか!? と疑ったレベルだったから。

 

 

「ですね! こうじがあのまま続けていければ、北川第一に1セット獲れてたかも、です」

「いやだからあんなの何回も出来るようなもんじゃね――――って」

 

 

関向が、火神の無茶ぶりに呆れながら抗議しようとしたその時だ。

視界の中に―――1人の男の姿を捕らえたのは。

 

 

 

「あ、アイツは!!?」

 

 

 

そう……雪ヶ丘中の仇敵、怨敵! ……は、言い過ぎだが、あの日。最初で最後の試合で敗れた相手チームのセッター 影山である。

 

 

「何で影山(アイツ)が居る!?」

「それ、オレも初日に同じこと言った」

「烏野って、バレーじゃ有名だから。飛雄が居ても不思議じゃないよ、こうじ。その辺、翔陽は解ってなかったみたいだけど」

「あははは。そーゆー考える役目は、せいちゃんの仕事だったじゃん」

 

 

旧友に花を咲かせるのも悪く無い―――が、生憎今から大事な大事な試合がある。

あまり時間をかけてられないのだ。

だけど、ここぞとばかりに日向は弄ろうとする。

 

 

影山(アイツ)も、まぁ色々諸事情がありまして―――ね? 希望校の入試おっこちちゃった、とか~~?」

「勉強ネタで翔陽が他人の事とやかく言えると思ってる?」

「いたっ!!」

 

 

すぱんっ、とツッコミ代わりに日向の頭をひと叩き。

そして気付けば、大多数の皆はもう体育館内の奥へと入っていってる。置いて行かれる訳にはいかないだろう。

 

 

「こうじにゆき! 今日は来てくれてありがとう! ……思い切り暴れてくるから、見ててよ」

 

 

にっ、と笑って拳を突き出した。

それに応える形で、泉と関向も拳を前へと出した。

 

 

 

 

「うん! がんばって!!」

「がんばれよーー!!」

 

「!! おおよーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗ての戦友の声援を胸に、日向は前へと駆け出した。そして、その後ろから日向に続く形で、火神も向かう。

 

 

「メールじゃ、こっちの話ばっかであっちの詳細聞いてなかったから……」

「うん。まさかの再会だね。……でも」

 

 

泉は嘗ての日々を思い返す。

何度も何度も2人で(ボール)をパスしあっていた光景。

たった2人故に、出来る事は限られる。片隅を貸してもらい、時には女子バレー部に混ざり、時には見返りに色んな部の助っ人を熟しながら……決して諦めず、あのバレーボールを追いかけ続けていた2人の姿が映る。

 

そんな2人が、新しい仲間を得て……物凄い舞台で戦おうとしているんだ。

 

 

「全力で応援、だな」

「うん!」

 

 

心の底から、尊敬する。

そんな想いを、日向と火神の背に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館内へ、それもコートに近づくにつれて、会場内を包む熱気が一段と熱くなるような気がした。ここから先こそが決勝の舞台。

黒いジャージ姿の烏野メンバーたちは、荷物を抱えながらぞろぞろと歩を進める。

その表情には緊張もあれば昂ぶりもある。

だが、誰ひとりとして足取りは乱れない。

 

これまで積み重ねてきた時間が、その背中をまっすぐ前へと押していた。

 

そんなこの舞台でも揺らがぬ頼もしい仲間たちを先導しながら、澤村は一度振り返る。

 

 

「――よし、上に荷物置いたら直ぐ―――」

 

 

言いかけたその時、ふと澤村の視界の端に何かが引っかかった。

 

 

―――……ッ!

 

 

そして澤村の足が、不意に止まる。

 

 

「ぶつっ……!? あだっ!?」

 

 

そして、直ぐ後ろからついていた菅原が急に止まった澤村を避けることができず、思いきり肩口に顔をぶつけた。じんじん、と鼻の奥に響く鈍い痛みを感じ、澤村に抗議をする菅原。

 

 

「な、なんだよ大地、急に止まんなって……」

 

 

文句を言いかけたその瞬間、菅原も同じものを見て言葉を失った。そして同時に、澤村が何故歩を止めたのか。その理由もはっきりした。

観客席の一角、帽子を目深にかぶり、特徴的なモミアゲの中年の男。

口元に浮かぶのは、皮肉な笑み。

 

 

「かー、随分久しぶりの決勝か。決勝進出がマグレじゃなきゃいいけどなぁ」

 

 

それは、その姿は――忘れもしない。

2年前、まだ自分たちが1年だった頃。ただただ我武者羅に突き進んでいたあの頃。

 

烏野は2回戦で無残に敗れ、誰もがうつむき、唇を噛み、涙を流した。

 

 

 

その時、あの男は確かに言ったのだ。

 

 

 

『はぁぁぁ~~。地に落ちたなぁ、烏野も』

 

 

 

その一言が、後に彼らを苦しめる“不名誉な烙印”へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

――落ちた強豪。飛べないカラス――

 

 

 

 

 

東峰も2人同様に男の姿を見て嘗ての記憶が蘇ってきたのか、その怖い顔が更に倍増しの威圧感を纏っている。

 

だが、あの男の言葉は……悔しいが間違いではないのだ。

嘗ては、優勝争いを何度もし、そして春高の舞台へまで駆け上がり、空を自由に舞っていた烏野。

 

もう、見る影もないのは……正しい認識だと言えるから。

 

 

「……あのモミアゲのオッサン、まだ来てたのか」

 

 

不意に聞こえてくる烏養の声。

それに一早く気付いた澤村は声を上げる。

 

 

「知り合いなんですか!?」

 

 

と。

あの人が一体誰なのか、それは少なからず澤村は勿論、菅原や東峰だって気になっていた事だから。烏野に何か関係性のある人物なのか? と。

 

 

「いいや、知り合いってほどじゃねぇよ。昔からたまに顔出しててな。父兄でもない、ただの高校バレー好き。どっちかっつったら、烏野贔屓だな。良いプレーには歓声、そうじゃなけりゃ容赦なく罵声。――昔から、わかりやすいオッサンだったよ」

 

 

烏養の言葉に、澤村は一瞬だけ目を伏せる。関係性らしい関係性は無いに等しかった。ただ、烏野贔屓、と言うのには少なからず驚いたが―――もう関係ない。

澤村と共に、菅原と東峰が黙って肩を並べた

 

 

――……そして。

 

 

顔を上げた澤村の目は、もう迷ってはいなかった。

過去の悔しさも、苦い記憶も、今はただ――勝つための燃料だ。

 

 

 

 

「……二度と、“地に落ちた”なんて言わせねぇ」

 

 

 

 

それは低く、しかし力強い声。

その言葉は、まるで号令のように仲間の胸に響き渡った。

3年分の想いの全てを、今日この場でぶつけてやる、と。

 

 

 

 

そして。

 

 

 

「―――――」

 

 

 

 

見逃さなかった。

あのオッサンの声が大きいから、気付くのは必然だった、と言えなくもない。

その声を、その姿を見た瞬間、身体の内から何かが湧き上がってくる。

自然と口角が吊り上がり、自分自身が笑っている事に気付いていない。

 

 

「どした? 誠也」

 

 

日向が火神の肩を肘でつつく。

2度、3度つついた事で、火神は日向に気付いて、なんでもない、と首を横に振った。……もう、笑顔はそこには無い。ただ決意だけがそこに張り付いている。

 

 

直に見るのは、当然初めてだ。

でもあの人の顔は……決勝まで来たのだから、ある程度の《期待》はあるのだろう事はわかる。そして、殆どは《退屈》と言う言葉が似合う様な顔をしている事も。

 

 

期待をし過ぎると―――その期待が裏切られたその分だけ失望してしまう事くらい、火神も知っている。

 

 

 

だからこそ、こう思うのだ。

 

 

 

 

 

「……退屈は、させませんよ」

 

 

 

 

 

静かなる闘志が、その内に宿る瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、試合開始まであと少し。

 

 

観客席へと続く扉が、ぎぃ、と音を立てて開いた。

先頭に立つ嶋田と滝ノ上の肩には、真新しいハチマキ。胸には「大売出し」と大きく染め抜かれた嶋田マートの法被。

その後ろには、商店街の面々やOBたち、そして女子バレー部の道宮らの姿。

総勢21名。

今日と言う日の為に皆を呼び、集めに集めた【烏野応援団】である。

 

 

「よっしゃああ!! 集めに集めた烏野商店街&OB応援団! 総勢21人!! まずは応援から白鳥沢に勝ァぁつ!!」

 

 

滝ノ上が勢いよく叫び、嶋田も『おうよ!!』と応じる。

 

 

 

 

その声には確かな気合がこもっていた。

 

 

 

 

――だが。

 

 

 

次の瞬間、烏野応援団余す事なく全員そろって足が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

【白鳥沢! 白鳥沢!! 白鳥沢!!!】

 

 

 

 

 

 

扉の向こうに広がっていた光景に、息を呑んだのだ。

そこはもう、別世界だった。

視界いっぱいに押し寄せてくるのは、紫白奔流の大応援団が、向かい側の観客席を埋め尽くしていた。

 

 

太鼓の低い振動が床を伝い、胸の奥を叩きつける。

華やかに舞うチアガールたちのリズムある掛け声が、場内を鮮やかに染めている。

そして、ベンチ入りできなかった白鳥沢部員たちが最前列で声を張り上げ、まるで波濤のような歓声が、途切れることなく押し寄せてくる。

 

 

 

 

 

「……な、なにこれ……!?」

 

 

 

 

 

知っていた筈、だった。

でも、それは知ったかぶりに過ぎなかったと思い知らされるのは道宮。

 

全国常連校。

 

優勝も狙える位置に居る白鳥沢。テレビの中の白鳥沢と実際に相対する白鳥沢とでは全く違う。

 

道宮の声は確かに発せられたはずだったが、轟々と響く応援の嵐に、一瞬でかき消される。最早直ぐ隣に居る佐々木達には聞こえていないだろう。だけど気持ちは皆同じ。特にやや邪な考えを持っていた北山は思いっきり頬を叩かれた様に感じた程だ。

 

 

「えぇ……イミワカラン……」

 

 

気合十分! 我こそが応援団長! と言わんばかりに、先陣を切って入ってきた筈の滝ノ上は現実逃避をしかける。それも仕方がない。ここまで『格』が違ったのか、と。声に、圧に、全てが下位互換どころか有象無象ではないか? と思い知らされる。

 

 

――敵は白鳥沢学園。3大エースをウシワカ率いる全国屈指の強豪。春高優勝を明確な目標として掲げる超高校級。

応援すら、すでに戦いの一部だった。

 

 

「待て待て待て!! オレ達が狼狽えてどーする!!?」

 

 

そして、呑まれかけた滝ノ上を叱咤する様に、嶋田が声を上げた。

そう、確かに戦いを感じた。戦争を感じた。そして圧倒的に劣っているのを感じた。

 

だけど、自分達はあくまで後方支援なのだ。……前線で、最前線で戦うのは眼下のアイツらなのだ。

 

 

「見てみろよ! アイツらを。堂々としたモンじゃねーか」

 

 

くぃっ、と親指で指し示す先に、我らが誇る後輩。

烏野高校のスタメンたちが居るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もっかい便所……」

 

 

 

先ずは日向。

腹でも下したのか、手で腹を押さえながらうろうろし、身もだえている。

 

 

「いぐすり、胃薬を……」

 

 

そんな日向の直ぐ横に居るのは山口だ。

手には救急セットが握られている。確かにあれがあれば安心だろう。右往左往しているのが多少? 気になるが。

 

 

「おれも、おれも腹が……」

 

 

烏野が誇る大砲、東峰。

気合が入り過ぎたのか? 山口に同じ薬を求めようとよろよろと寄りかかる。

 

 

「センターコート……!!」 

 

 

烏野の天才その①

影山はただただ子供の様に瞳を輝かせ、声に熱を帯びさせていた。

決勝の舞台、初めて自分たちの力を試すコートに立つという、興奮と高揚が交錯している様だ。

 

 

そして真打はここから。

そして、田中と西谷。田中は何やら西谷に言い聞かせ、そしてある方向へ指を突きだす。

 

 

 

 

「ノヤっさん! チアだ!! チアだぞ!!」

 

 

 

 

それを聞いた西谷。

いや、聞くまでも無いだろう。彼らもまた視覚で既に捕らえているのだから。

膝から崩れ落ちる西谷。頭を抱える西谷。烏野ではどう足掻いても集める事が出来ない夢が、そこにはある。だが、その夢は――――高い高い壁に隔たれた向こう側。桃源郷には手が届かない。

 

 

 

 

「うらやましぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 

と、ただただ慟哭を零した。

 

 

これこそが烏野!! ―――と、認めたくない。

 

 

「田中西谷!! お前らまず騒ぐな!!」

 

 

取り合えず一番問題行動を起こしそうな2人組を止める事を優先させるのは彼らを率いる澤村。

色々と頼りにならない東峰への一括も後回し。先ずは2人を止めるのが先決、と彼らの方へと向かい。

この場で2人しかいない烏野の大人の1人、武田も皆の為にと声を上げる。

 

 

「おち、おち、おちつっ、みんな、おっつ!!」

 

 

が、生憎言葉にならない。

何度も何度も舌を噛んでしまって、最早自分が何を言ってるのか、何を考えているのかまで解らないレベルで緊張していた。

 

 

「わっはっは! いつも通り!!」

 

 

大人その②

烏養は何にも心配ない。これがウチだ、と言わんばかりに声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? これが、烏野高校??」

「…………」

 

 

想像していたものと違う。

と思わず声にするのは観客席、烏野応援団の直ぐ横で座っていた泉である。

当然烏野の事は日向は勿論、火神からも聞いていて活躍も聞いていて、あまり詳しくはないが、今日は期待していたし、優勝だって出来る! と信じていたのだが……あまりにも対比が凄くて、ただただ放心してしまいそうになる。

実際、関向は何にも云えずただただ沈黙していた。

 

 

そんな地獄みたいな光景に同じく放心しかけていたが、何とか持ち直した嶋田が再び口を開く。

 

 

「いや! まだだ!! まだ終わってない!! こーゆー時、あいつらをまとめ上げてくれる役目! 皆のおとーーさん!! 澤村と一緒に一喝を―――」

 

 

と、縋る想いで、嶋田は視線を変えた。

そして、想定外の感覚に見舞われる。

 

 

 

 

 

 

 

そこに居た彼の姿を見て――――違う意味で思わず息を呑むのだった。

 

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