王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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めちゃくちゃ遅れてすみません……年末に向けて、もう忙しすぎて死んじゃってました………


でも、何とか何とか投稿できてよかったです!

そして、もう一つすみません…… タイトルは、白鳥沢戦とありますが、まだウォームアップ練習までしか行けませんでした……年内年内!! をめちゃ意識して書いて、投稿! ってなったらそこまでしか行けませんでした…… なので、① ではなく ⓪と表記しました。他いサブタイトル浮かばなかったから、と言う理由もあります!!


2025年も、王様ぎゃふん! をありがとうございます!! ほんっと、ぜんぜんぜんぜん進んでません!! が、兎にも角にも、白鳥沢戦!!!
来年こそは、春高目指して頑張ります!!


第190話 白鳥沢戦⓪

 

―――息を呑む。

 

 

嶋田は頼りになる烏野のお父さん事火神を上から縋り、祈り、この変な流れ? 空気? を変えてくれと思いながら見て……、思わず息を呑んだ。

 

普段の火神であれば、嶋田らからすれば一年らしからぬ姿で皆の世話を率先と熟し、1年だろうが2年だろうが、3年だろうが、分け隔てなく接し導く、正しく【お父さん】の称号が何よりも似合う(本人は物凄く不本意)のだが、今の火神は違った。

 

何だろうか、これだけ明るく、照明がコート全体を照らし、決勝の舞台を彩っているというのに、まるで火神1人にだけスポットライトを浴びせているかの様な感覚に見舞われたのだ。

あそこだけ、火神が居る場所だけまるで違う場所に立っているかの様な。他の皆の事が一切見えてない……様な。

 

 

「……いや、らしくなくない?? どーしたかがみん」

 

 

滝ノ上も思わず声を上げる。嶋田の考えてる事が滝ノ上にもまるで以心伝心、伝わったかの様に、嶋田の考えが滝ノ上の口から発せられた。普段らしからぬ姿を見て……少しだけ、ある意味納得する面もある。

 

何故なら、ここは春高出場をかけた決勝戦の舞台。

 

如何に火神が大人びていたとしても、お父さん扱いをされていたとしても、火神だって高校生。人並な緊張だってしたって不思議じゃない。寧ろ今までが凄すぎた。

 

IH予選では届かなかった初の決勝の舞台。

そして相手は全国に名を馳せる王者:白鳥沢。

 

始まる前から、重圧を受けていても不思議じゃない。

 

 

 

「ぷはっ!!」

 

 

 

だが、そんな嶋田や滝ノ上とは違う感想を抱いたのは烏養である。同じ同期でありながら、2人とは全く違う考えが烏養の中にめぐっていた。

 

それも当然。

 

滝ノ上も嶋田も長らく烏野を見守ってくれていた。このチームが出来てからずっと、支えて、支え続けてきてくれた烏野OBの2人だ。

だが、事烏養と比べると、その関わりの密度と言うものが違う。当たり前だが、烏養は烏野のコーチとしてOBの中では誰よりも責任を持ち、誰よりも選手らと関わり、誰よりも同じ元で戦い続けてきたのだ。

 

だからこそ、火神の事が解る。

……と言うより、見覚えがあった。

 

 

「――――決勝戦(この場面)に来ても、尚それ(・・)かよ」

 

 

ぷはっ、と笑みを浮かべた後に額に一筋流れるは汗、そしてにやりと口角を吊り上げる。

 

 

「……本当に心強いですね」

「お、先生も落ち着いた&気づいたかよ」

「いや、大人的には情けない気持ちになりますが、気付けをしていただきまして……」

 

 

選手らの慌てっぷりが、落ち着きの無さが伝染してしまっていた武田も皆から少し離れた位置に居る火神の姿に気付いたようだ。そしてかつての事を思い返し―――落ち着く事が出来たのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――白鳥沢、白鳥沢、白鳥沢……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼそり、ぼそり、と呟くは火神の独り言。

 

それが他の誰かには聞こえない、火神だけのもの。

だけど、ある意味聞こえていた。……あの時(・・・)の火神を見ている者なら、外から見ていた者は特に。

 

 

合宿の時(・・・・)と、同じ―――」

 

 

当然清水も気付いた。

合宿の時。そう、初めての東京合宿の時。

 

全国を知り全国を戦う強豪である梟谷を筆頭に集まった4つの強豪校。

 

 

 

梟谷、音駒、森然、生川。

 

 

 

彼らと相対する直前もああやって佇んでいたのを覚えている。

 

だけど、その時は他の皆も言っていた様に、日向や影山が遅れてくる、来てなかった事で、重責から解放されて思う存分燥げるが故に、普段は見せない幼い部分が前面に出てきたんだろう、と清水自身も解釈していた。

 

 

【普段のストレスから解放された】

【漸く子供に戻れたかのよう】

【これまでにないくらい燥いでる】

 

 

口々に火神の様子を見ながら皆が言っていた。誰よりも動いている筈なのに、他の誰よりも楽しそうで、目をキラキラと輝かせて、その影響は他人をも巻き込んで、全体が活気づいているかの様。

梟谷のマネ達も、【あの木兎がしょぼくれ無しの最初から最後までテンションMaxなんて早々無いんだよね】と驚いていて、その原因はたぶん火神に充てられたからだろう、とも言っていた。

何だか梟谷に欲しいとか言っていたような気がするが、そこだけは否定をしっかりしたのも覚えている。

 

 

「…………」

 

 

でも、何かが違う? とも清水は感じていた。解放されたが故に、と思っていたのは誤りだったと。今は日向も影山も、何なら現在進行形でしっかりと面倒を見なければならないようないつも通りな烏合の衆な烏野に、グダグダなスタートになってしまっている。面倒―――とは火神の性格上無いかもしれないが、大変だと多少なりともげんなりしていてもおかしくないし、澤村と一緒に対処するだろうとも踏んでいたが。

 

 

珍しくも、周りが―――味方までもが視えていないかの様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だ。

この決勝の舞台では色んな“音”が入り混じっていた。

観客席・コート内のざわめき、そして当然(ボール)を扱う時に出る乾いた音。それは絶え間ない波の様に、満ち溢れていた。

 

だが、その波は突如として音もなく飲み込まれる。

 

 

『ワァァァァァ!!!』

 

 

そして大きな波が、大きな声援によって現れ、軈て入口に熱い熱い視線が吸い寄せられた。空気が変わり、まるで会場が一色に染まったかのよう。

 

王者の登場である。

 

 

『白鳥沢』

『白鳥沢』

『白鳥沢』

 

 

会場の空気が、音を立てて揺れた。

入場口から歩み出た紫の軍勢を率いる男。

 

 

真正面ど真ん中に立つのは怪童――牛島若利。

 

 

まさに王者の風格と言えば良いだろう。

1歩、また1歩踏み出すたびに視線は集められ、鳴り響く声援とメガホンをうち荒らす音は、まるで地鳴りのように会場を支配する。白鳥沢一色である、と陣地を支配していく様に。

 

全ての期待を一心にその背に浴び、悠然と真っ直ぐに歩を進め、前を突き進む。

本当の高校生か? と疑いの目を持つ者だって決して少なくないだろう。

 

牛島達が見据えるは、今日の相手。……決勝で相対する烏野である。

鋭く気圧されんばかりの圧力をかけ、自然と先ほどまでの様相だった烏野側も本当の意味でのいつも通りの姿に戻る。

誰もうだうだしていない。誰も腹を抱えていない。

王者の圧に屈しないだけの面構えを以て、『来たな』と相手を見据えるだけだ。 

 

 

 

そんな緊迫した空気だったのだが。

 

 

「待てコラぁ!!」

「ちょっっ!! 怪しい者じゃないですってば!!」

 

 

物騒ながらも、緊張感が抜けてしまうような声が、烏野観客席側に響く。

その中心に居たのは烏野の応援の要。負けん気最強、田中姉、冴子である。そして、その腕には男が捕まっている。

乱暴に腕を捕まえて、皆の前に突き出そうとしている。

 

確かに致し方ないかもしれない。

室内競技なのに、深い帽子にサングラス。何処向けファッションだ? と思われるような容姿。怪しさ満点な男がそこにいたのだ。

 

 

「不審なヤツがうろうろしてて、見てたら逃げたから捕まえた!! 白鳥沢側のスパイかと思って!!」

「何!!!」

 

 

王者がそーんなみみっちい真似するか!? と思ったりもするが、サインなどの伝達、情報戦も重要。その分野においても決して気を抜かないし、何よりダークホースで未知感のある烏野であっても決して手を抜かない! と言う意味では王者とも言えなくもない? と嶋田や滝ノ上が訝しみながらその男を見ていると……流石にやばい! と思ったのか、慌てて帽子とサングラスをとった。

 

 

「ま、待って待って! オレは関係者です!! 月島蛍の―――兄です!!」

 

 

バンッ! とその素顔が明らかになった。

確かに面影はあるし、何なら月島兄もOB。烏野バレー部に関してはそれとなくチェックしていたので、覚えがある顔立ち。

と言うより、確かに月島弟に似ているので思わず。

 

 

「月島の兄貴ィっ!??」

「あーーー、確かに、似てる!!」

「ちょっっ!!しっ、シーーーッッ!!!」

 

 

滝ノ上、嶋田が声を上げると同時に、月島兄は人差し指を口元にもっていって口を閉じて!! とジェスチャーする。

これには理由があるのだ。

 

 

「試合には来るなって言われてるんですよ!!」

 

 

恥ずかしがり屋? 照れ屋?? な月島弟だ。

兄貴が絶対に応援に行く! と言えば、ノータイムで、来なくても良いよ。と返答するだろう。

そんな姿が目に映る様だ。

 

でも、これだけの会場で、これだけの熱気と歓声に包まれているんだ。

そうそうコートに居る月島にバレたりする訳が――――。

 

 

 

『……………………………』

「うああああ……!!」

 

 

 

無くなかった。

第六感なのか、この環境下でも月島弟の耳には届いており、中々の形相とオーラを背負って、月島兄を見上げている。

で、思わず月島兄は悲鳴を上げて慌てて隠れた。

 

 

「他所ん家の兄弟で、こうも違いがあるもんなのかねぇ。……田中姉(こっち)と違って似てねぇな。主に雰囲気が」

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り合えず色々とあったが、とうとう白鳥沢も入場した。あとは試合を待つだけだ。

会場のボルテージも更に上がり続け―――どうしても烏野の劣勢が否めない。試合ではないにしろ、勝負前からの劣勢なんて縁起でもない、と言う訳で、今日の為に立ち上がった烏野応援団! その先頭に立つ1人の男が一歩前に乗り出していた。

 

 

「いいかね! 諸君!!」

 

 

胸を張り、くるりと後方に控える烏野高校有志、各学年の1クラスずつ連れてきた! と言えるくらいの生徒たちを見渡して声を上げた。

マイクを持っている訳でもないのに、やたらと声が響き、届くのは烏野高校のあの教頭(・・・・)である。

 

目の敵にしていた? 時代もあったかもしれないが、そんなのどこ吹く風。己の絶対的な(自称)秘密が暴かれるかもしれぬという圧力、熱気に包まれた会場にて、誰よりも声を張り上げていた。

 

 

「我々の応援が選手たちの力になる!! 皆! 精一杯声を出すように!!」

『はぁーーーい』

 

 

人数だけで言えば結構集まっている。故に束ねれば相応な声量になるだろうが、如何せんバラバラ感がぬぐえない。ここにも烏野の色―――烏合の衆、と言う言葉が似合うと言えるのかもしれない。

それでも気にせず、教頭は声を張り上げた。

 

 

「行け行け烏野!! 押せ押せ烏野!!」

 

 

それに合わせて、生徒たちも続く。

 

 

『イケイケ烏野』

「押せ押せ烏野」

 

 

……が、どうにもテンポが合わない。

早まる者、遅い者、そもそもタイミングを見失っていて慌てて合流しようとする者、むしろ途中下車の様に止まってしまう者。

その応援コールは大きな波にならず、そのまま白鳥沢の大波にかき消されて藻屑へと消えゆく。

 

 

「こりゃダメだ……」

「即席感、即興感が拭えねぇ……」

 

 

誰が口にしたのか、正しくその通りであろう声がぽつりぽつり。

そもそも烏野の試合は結果こそ見て、凄いと思ったし、学校を上げて応援したい! と言う気持ちも当然持っている。嫌々連れてこられた、と言うメンバーは実はこの中にはいないのだが、それだけ白鳥沢の圧に、熱に充てられて、やややり合う前から気圧されている状態なのだ。

 

 

「こりゃーーーーー!! 昨日練習したじゃないかーーーー!!!」

 

 

教頭が半ば悲鳴の様に叫ぶ。

はぁはぁ、と息を切らせて、その自慢の頭頂部が……ちょっぴりやばい事になりかねない。こんなところで騒いでまた士気が下がるのも、選手たちに申し訳ないので、引率の教師の1人である日向のクラス担任、小野が教頭に声を掛けた。

 

 

「教頭先生教頭先生。落ち着いてください。練習したって言っても、昨日放課後に残ってちょこっと練習しただけなんで。徐々に合わせていければ~って」

「ぐむむ~~~」

 

 

小野の声に周囲の生徒たちが失笑する。

そしてそれと同時に、やや疑問点も今更だが見つかった。

 

 

「教頭、ここぞとばかりにすげー張り切ってるよな?」

「あー……。そもそもあんなキャラだったっけ?」

 

 

日向・影山による。

バレー部によるズラすっ飛ばし事件は実な所結構有名なのだ。

人の口には戸が立てられない、とは言ったモノで、そもそも面白ポイントを色々と餓えている高校生らに秘密にし続けるのなんて無理がありすぎるから。

 

でも、教頭は今日と言う日を学校関係者の中では誰よりも熱心になっている。

色々やらかしてくれた連中だからこそ―――可愛い。応援したくなった、と思ったのかもしれないが。

 

 

「う、うーん」

「大援軍! って期待はできる数だったから……、期待してたけど……」

 

 

あまりにもバラバラなので、声は届かず。

白鳥沢の声に埋もれる感覚がはっきりわかるので、口には出したくないのだが思わず『ダメかもしんない……』と誰かは不明だが、言葉にしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、大丈夫なのだ。

烏野は、大丈夫。積み重ねてきたから。今日と言う日を、誰よりも待ち望み、全国の舞台で羽ばたく為に、走り続けてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客側、観客席同士では、気圧されて萎縮してしまったかもしれない。

だが、王者白鳥沢を前にして、臆する者など、コート上には誰ひとりとしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、誰もが反芻するのが先日烏養の口から語られた《白鳥沢》と言うチームについての説明だ。

 

 

『最も未完成なチーム……ですか?』

 

 

澤村が烏養に言われた言葉が耳に引っ掛かる。

白鳥沢と言えば、宮城の絶対王者として長く君臨しており、近年では全国制覇も狙える程の強豪に仕上がっているチームだ。

だからこそ、寧ろ最も似合わない言葉として感じてしまったが故に。

烏養の言葉をなぞる様に聞き返したのである。

 

 

そして烏養自身もそう反応してくる事は織り込み済みだったようで、小さく頷くと詳しく説明を始めた。

 

 

『俺達や他多くのチームがやろうとしている攻撃が《掛け算》だとするなら、白鳥沢は《足し算》。―――個々の強い力の足し算だ』

 

 

説明を始めてくれても、中々に頭に入ってこないのは、足し算やら掛け算やらの【算数】のワードになったから、だろう。日向も分かりやすく首を傾げてる。影山は思う所があるのか、日向よりはわかっていると言わんばかりだ。

この辺りは、及川や岩泉の賜物、と言えるのかもしれない。

 

 

『俺達は、早さで、位置差で、時間差で、相手のブロックを掻い潜る工夫をする』

 

 

これまでに手に入れ研ぎ澄まさしてきた武器の数々を脳裏に思い浮かべた。

マイナス・テンポ、位置差(シンクロ)攻撃、時間差。烏養の言う通りだ。高い高い(ブロック)の先の景色が見たくて、何度も何度も跳んで跳んで……続けてきた日向も、理解する事が出来た。理解できるだろうとわかっていたからこそ、火神も何のフォローも入れない。勉強とはまた違うのだから。

 

 

『勿論、全く使わねぇ訳じゃねぇ。白鳥沢も時間差攻撃を使ったりする。……が、レシーブが多少乱れたり、確実に点を獲りたい場面ではほぼWS(ウイングスパイカー)……特に牛島に高いトスを集める』

 

 

日向の直ぐ横に居る火神が、付け加える様にポツリと呟いた。

【サードテンポ】と。

そのおかげで、日向も簡単にイメージする。

高い高い山なりの(トス)

日向にとっても一番最初に始めた軌道の(ボール)であり、馴染み深いとも言える………が、高い高い壁に幾度となく叩き落されてしまったので、良い思い出と言うものはあまりない。

 

でも白鳥沢はそれを多用すると言っている。

そして、その理由も直ぐに烏養が説明してくれた。

 

 

『理由は単純だ。―――それで点が獲れるから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――時間軸は元に戻る。

 

 

 

 

 

 

白鳥沢のコート内練習。

 

高く山なりな、打ちやすい美しい軌道の(トス)

故に(ブロック)も簡単に間に合うし、リード・ブロックの良いカモだ。と思えたりもするが、そんなものは関係ない。とすぐさま現実を突きつけられる。

大地(コート)を踏みしめ、跳ぶ。

大きく上がった(ボール)に対して、迷うことなく振り下ろされたは白鳥沢伝家の宝刀、牛島の左腕。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドン!!!!

 

 

 

 

 

 

刹那、轟音が会場に轟いた。

打ち放たれた牛島の一撃(スパイク)は、今まで見たことの無い程のものだった。

東京合宿で、様々な相手(チーム)と練習を重ねてきた。

決勝の舞台に立つ為に、数多の好敵手(ライバル)たちを凌いで、この場へと降り立つ権利を獲得した。

経験は積んできた―――と思っていたのに、それらさえも一笑するかのような一撃(スパイク)

 

 

(コート)(ボール)を打ち付ける馴染みあるものではない。低く、重たく、胸の奥まで殴りつけてくるような音。それは一度だけ高くバウンドすると―――そのまま2階席にまで飛び込んだ。

 

まるで導かれた様に、1人の観客が伸ばした手の中に納まる。

 

納まったからこそ、その異常性が解る。

2階と言うめちゃくちゃ離れた場所だというのに―――届いたのだ。

 

 

それをまざまざと見せつけられて、最後に烏養のニヤリと笑う脅し声が脳裏に響いた。

 

 

『こっちのガードなんかお構いなしにブン殴ってくる。―――今まで経験したことの無い力でな。だから――――』

 

 

 

【覚悟しとけ】

 

 

 

白鳥沢側はいつも通りなのだろう。

だからこそ、対して驚きもせず淡々と声援を送り続けているが烏野側はそうはいかなかった。

 

 

「いや……、ワンバンで離れた2階席まで……!」

「打点高ッ……!!」

 

 

パワーと高さ。

2つを極限値にまで引き延ばせば成立する攻撃手段。

 

だからこそ、烏養は最後に白鳥沢のスタイルを

 

 

『決して新しいスタイルとは言えないし、比較的解りやすいともいえる』

 

 

と付け加えた。

覚悟しろ、と言った後にわかりやすいとは、何とも混ざらない言葉だ。

 

 

『わかりやすいイコール戦いやすい、と言う訳じゃ全くない』

『ああ。その通り。最強の一本の鉾でただ単純にぶっ壊す。そういうチームが白鳥沢だ』

 

 

だからこそ、足し算で十分。

掛けなくても、十分の威力を出せるから。相手の防御をぶち抜き、壊せるだけの破壊力を生み出せるから。

 

そして、忘れてはならないのが牛島だけに注目し過ぎるのも良くない、と言う事。

 

 

「―――この辺りは翔陽と同じ、だな」

「………え?」

 

 

火神がそういい、日向もどういういう意味か? と声を出した。

影山は相手の1人1人を見据えながら、はっきりと告げる。

 

 

「お前に気を取らせて、これまで何本点獲ってきたと思ってんだボゲ」

 

 

最後にボゲを入れるのは相変わらずだが、そこに対して日向は何の抗議の声も上げない。

そう、目立ちに目立つ牛島の攻撃はある種日向にも通じる面がある。強烈過ぎる光は、閃光の様に周囲を一瞬で塗りつぶす威力のある攻撃は……目を眩ませるどころか、視界を遮ってしまう。

そんな状態で他の選手たちの、決して凡庸な訳がなく、全国で戦えるチームの攻撃力を、受けれる訳がないのだ。

 

 

牛島に続き、大平、五色と言ったレギュラーWS(ウイングスパイカー)陣も練習に入る。

牛島程の派手さはない。

だが、それは牛島と言う光で霞んで見えているだけだ。

間近で接し、見てみるとそれがはっきりと解る。牛島だけを見ていたら……殺られる、と。

 

 

「ひぇ………」

 

 

誰よりもそういう系統の圧力に敏感な谷地は思わず小さく悲鳴を上げた。

 

 

「ゆったり打ってる感じなのに……、当たったら腕がもげそう……」

「ッ………」

 

 

すぐそばで清水も谷地を守る様に控えている。

今までも何度かあったが、流れ弾がこちら側に来ないとも限らないからだ。

だが、これまでのどのレベルとも違う威力に、さしもの清水も初体験。故に緊張した面持ちになるのも無理はない事なのだ。

 

 

「牛島―――スゲェな」

 

 

ぽつり、と零した日向。

だが、次の瞬間には。

 

 

「わくわくするなぁ!!」

 

 

その顔には笑顔が張り付いていた。

光り輝く太陽のような笑顔。

そこには恐れは何もない。

早く、早く、直ぐにでもやりたいという欲だけ。

 

 

「じゃあ――――」

 

 

直ぐ後ろ。僅か半歩後ろにいた火神は左拳で日向の右肩を、そしてその右隣に居る影山の左肩に右拳を軽く入れて。

 

 

最高(さいっこう)の時間の――――始まりだな」

 

 

日向にも負けない笑顔の火神がそこに居た。

楽しくて、楽しくて、楽しくて仕方がない。

そこにはブレーキ役に徹している火神誠也と言う男は居なかった。面倒見の良い男の素顔ではない。

ただ純然たる欲を前面に出した、ただ一人のバレー馬鹿として、日向影山の間に立った。

 

 

そして、影山も。

頼りになる姿を前にして、けれども決して置いて行かれる事はなく、力強く短く

 

 

「おう!」

 

 

と一言だけ添える。

後は言葉はいらない。全てを(ボール)に込めるだけだから。

 

 

「じゃあ、お前ら。景気づけにやったれ!!」

「「「アス!!」」」

 

 

後輩を支えてこその先輩。

頼りないと思われても、今出来る事を全力でする。

田中は、前に出たくてウズウズしている頼りになる後輩たちの背を、ブーストをかけるかの様に、思いっきり押した。

西谷のセリフではないが、前に進まずにはいられないこの男たちを見ていると、自分も並走したい!! と思うが、それ以上に背を守ってやりたいと思えてしまうから。

 

 

「(―――ぜってぇ、負けねぇ)」

 

 

それでも、試合に出る。オレこそが打つ! と言う気迫と気概だけは決して失わずに、田中は前を、先を見据え続けるのだった。

 

 

白鳥沢と烏野。

 

 

コート練習交代する。

特に目立つのは やはり日向だろう。この場でリベロでもないのに背丈が一回りも違う。1人だけ小さな選手、と言うのがしっくり来る。日向の事を知らない層からすれば……。

 

 

「見てみて! あんなちっちゃい子がいる!! 補欠かな??」

「なんか、可哀想になるねぇ……」

「うん。どうしても弱い方(・・・)を応援したくなっちゃうもんね~~……」

 

 

悪意がある訳じゃない。自然界的に考えたら駆逐されてしまう程体躯の劣る選手が居たら、思わず感情移入してしまうのもまた自然な事だ。言われた側からすれば、余計なお世話だ!! になるのだが、生憎今の日向にはそんな小さな言葉は全く届かない。

 

 

ただただひたすらに、前を見続けるだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

『これだけは絶対忘れるな。んでもって、絶対の自信をもって望め』

 

 

 

 

 

 

 

烏養の言葉が、コート練習に変わった烏野全体の頭に響く。

 

 

 

 

 

 

『【点を獲る力】では、お前らは絶対(・・)負けてない。―――だから、先ずする事は一つだ』

 

 

 

 

 

 

日向が駆け出した。

その小さい、と言われた身体をめいっぱい使って、全力で跳び―――そして。

 

 

 

 

 

 

 

【殴り合いを制せ】

 

 

 

 

 

 

 

日向―影山への(ボール)の流れ。

(トス)が上がった……と認識した時にはもう遅い。

その(トス)は白鳥沢のそれと違って、弧を描かない。影山の指先へ伝わり、速球で返されたそれは一本の矢の様なセッティングを魅せる。視線も何もかも置き去りにして。

そして、かつてまでは、スパイカーでさえも置き去りにする(トス)だったが、それは遠い遠い過去の事。

 

信じて跳ぶ日向の身体が宙を舞った。

軽い、羽の様に軽い筈なのに、その跳躍の瞬間だけはまるで空気を割いたかのようだ。あっという間に最高到達点、そして影山の矢の様な(トス)に完璧なタイミングを以て合わせる一撃。

 

 

 

 

 

 

ドッ―――――!!

 

 

 

 

 

 

それは、先ほどの牛島の一撃に比べたら小さく消え入りそうな程の力でしかないだろう。だが、全てを置き去りに、凄まじく鋭く鋭角に切り込む一撃には、誰もが違う意味で反応できなかった。気づけば(ボール)(コート)に突き刺さっている。

それも、リベロでは決してたどり着けない位置。まさに真下へと叩き落す一撃。

 

 

一瞬の出来事に、本当に世界は一瞬音を失ったかの様だった。

牛島の一撃(スパイク)が【重さ】で【圧する】なら、日向と影山のそれは【速さ】で【視界を奪う】。

 

バレーとは(ボール)(コート)に落としてはならない球技。どれほど重かろうとどれほど早かろうと、その絶対的なルールだけは等しく平等だ。

故に――――殴り合いなら、負けていない。

 

 

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 

日向を小さい、と判断した者。

可哀想だ、と思った者。

……そして、烏野を少しでも見くびっていた者。

 

 

等しく全員が息を呑む。思考の時間すら奪われる。

力に頼らない電光石火炸裂。

 

 

「真下に打ちやがった!!!??」

「つーか早ッッ!?? つか、今セッター触った!!??」

 

 

様々などよめきを見せるのは、白鳥沢とて変わらない。

 

ただ、彼らにとっては種類が違う。

いわば―――まるで新しい玩具を見つけた喜びに近い。これだけ小柄で、それでいて主力ともなるチームは全国でも稀だからだ。

 

 

「今回青城が来なくて驚いたけど―――面白いじゃん? 烏野」

「そうだな。……まぁ、予感ってやつはあったんだけど」

 

 

山形、そして大平の会話。

順当にいけば、青葉城西が上がってくるのはこれまでの戦績を見ればわかる事だった。

何より、IH予選で非常に競った相手。白鳥沢を県内で最も追い詰めたチームなのだから当然だろう。

 

 

「へ~~~、獅音(レオン)、気になるとこ、あったんだ?」

「ああ、覚ほどの直観って訳じゃないけど――――」

 

 

大平が視線を向ける先に居るのは、あの烏野の日向の後に続く男の姿。

火神誠也。

 

確かにIH予選では青葉城西に敗れたが、あの男が最後まで残っていたらどうなっていたのか? 青葉城西を確認するという意味で、青葉城西vs烏野戦を見た者であれば、誰もが注目する選手。

 

青葉城西を、あの及川を破った以上、今大会No.1のオールラウンダーと言っても良い注目選手。

 

 

 

 

 

日向の超高速真下打ち(スパイク)が決まった余韻がまだ残っている直ぐ後に、続く火神の練習(ターン)。烏野は只者じゃない、と改めて知ら占めた直ぐ後に打たなければならないのは、牛若に続いて打つ様な、変なプレッシャーを感じる事だろう。冷まさない様にしなければならないし、自分のコンディションも整えなければならない。故に打ちづらい? と思われるかもしれない。

 

が、それは一般的な考え方である。

 

 

そんな期待と不安が入り混じった視線が、注目される中で、影山へ(ボール)を送った。

 

その次の瞬間、影山の視線が鋭くなる。

 

火神の助走、そして跳躍、最高地点。全ての情報が脳裏にインプットされている。

それらの情報と己の身体を操るスキルを活かして―――影山は(トス)を上げた。

 

 

この時、影山を知る者、そして今し方のトンデモナイ攻撃を見た者、更に言えば同じ位置で、コート内で見ていた者は特に、違和感に気付くだろう。

精密機械の様な正確さ。あの攻撃を成立させるだけの技量は、あの1発だけで十分知ら占めている……が、その火神に上げられたモノは、完成(・・)とは程遠いモノと感じたからだ。

 

一言でいえば、【打ちにくい(ボール)】明らかに大きく流れている。芯を捉えにくい。遠距離(ロングレンジ)で見ていた観客たち、烏野側の影山を知っている嶋田や滝ノ上でさえも、あの影山がミス? と一瞬脳裏に過る程だった。

日向と影山の超高速(パフォーマンス)を魅せられたが故に、注目されたが故に、細部にまで目が行きがちだったのだ。

 

 

『そういう事もある』

『引きずる事はするなよ』

 

 

と心の中でエールを送っていたその刹那。

 

 

 

 

 

 

 

ドカンッ!!

 

 

 

 

 

 

先ほどの日向のそれとはまた違う種類の一撃(スパイク)(コート)に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

【ん―――――んんんっ!?】

 

 

 

 

 

 

注目したが故に、その異質さに、異様さに、気が付く。

 

 

 

 

『―――左!?』

 

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