王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第20話

「じぃぃぃぃぃ……」

「えーっと……田中さん。睨まないでくれると嬉しいんですが」

「ナニを言ってるんだい? ボク、睨んでないよ? 火神クン。気のせいじゃないのかな?」

「いや、怖いっす……色々と」

 

 

 

清水とマンツーマン、になる様な展開は 田中がいる時点でまずあり得ず、他の澤村やら菅原も田中程ではないにしろ興味津々な様子だった。

清水自身は、別に聞かれて困る事を話す訳ではないので 場所を変えようとかは考えてなかったんだが、流石に話の妨害になるような事は頂けない。

 

「田中」

「ッッ」

 

名だけ呼んで 後はただ見るだけに留める清水。ガン無視興奮する、と常々と宣言してる田中だが 流石に【邪魔をしないで】と言わんばかりの視線には堪えた様子だ。他人の感情はやたら察する、と称されていたのは間違いない模様。

 

しゅん、と肩を落として去ろうとする田中を見て、火神は。

 

「あ、ちょっ…… 田中せんぱいっ!? 何処行くんですか!?」

「……旅に出る」

「いやいや、何で旅!? 迫力あって田中さんに睨まれたらちょっと委縮しちゃうので、普通にしてくれるだけで良いだけですって! いかないでくださいって!」

 

 

別に悪いことはしていないのに、悪いことをした気分になってしまう火神。だから必死に説得を試みるがあまり応じず しょぼん、とする田中。

 

だけど、その後【清水が火神に何話すか気にならない?】 と菅原に言われたので、どうにか旅立つのは防ぐ事が出来た。今田中に ネタとはいえ本当にいなくなられたら、青葉城西との練習試合でかなりキツイものになっちゃうのは目に見えているから菅原ファインプレイである。

 

 

清水は軽くため息を吐いた後に、そっと目に掛ってる前髪を梳きつつ火神に視線を合わせた。

 

「中学で会った時、それに入部する前もそう。気になってた。火神は何で私の事を知ってるのかって」

「……え??」

「特にあの中学の大会の時、通路で会った時。知ってる風だったけど。何だか気になって」

「あー……えーー、っと」

 

 

火神は清水に聞かれた事が最初は理解が追いついていなかったのだが、落ち着いて冷静に考えてみたら直に分かった。田中の事が頭にあったから 少し遅れてしまっただけなのかもしれない。

 

「潔子さんの美しさに見惚れたんスよ。だろぉー、かぁがみぃ!! 色気づきやがってぇ!!」

「いたたたた、いたいですってッ」

「……………」

 

 

清水の無言の圧力を受けた田中は、即座にパっと手を離した。コクコクと首を縦に振って【もうしません】の意思表示。随分飼いならしたというか躾られた関係が見えて、火神は痛いよりも笑えてしまったりしていた。寧ろ清水が一番最強だとも思ってまた笑いそうになった。

 

 

 

 

そのあと、頭の髪の毛が無事なのを確認した所で 火神はそのまま頭を少し掻きながら答える。

 

「えっと、あそこで会った時驚いてしまったから、ですかね……」

「どうして?」

「清水先輩は 春日中央中学の出身……ですよね?」

「……ええ。そうよ」

「俺が1年の時……だから清水先輩が中3の時ですか。その時に見かけたんです。陸上総体の会場になってた宮城総合運動公園で清水先輩の姿」

 

 

 

雪ヶ丘中での陸上部は、バレー部程ではないものの部員不足で困っていた。そこに体育の授業で一際目立っていた火神が打診された。

一応日向とバレー愛好会に入っているので、断ったら 助っ人でも良いから、と懇願されて出場する事になったのだ。

後に バスケ部、サッカー部の助っ人を得て試合に臨む事になるので 他人には頼むけど自分はゴメン被るのは性格が悪いと考えていたりもしていた。

 

因みに日向には声が掛かってなかった様子。

 

 

「へぇ、清水って陸上やってたんだな。知らなかった。と言うか火神も陸上やってたってのも意外だ。だって日向とずっとバレーって思ってたから」

「はい。それに出る代わりに融通とか色々して貰いましたからね。コート貸してもらえる様に取り図らってもらったりとか、練習一緒に参加させてもらうようにとかも」

「ははは、流石。しっかりしてるな」

 

 

菅原と火神はそういうと少しだけ笑い、そして火神は続けた。

 

 

「清水先輩が丁度ハードルの競技をしてる所で、何だか凄く格好良かったなぁ、って印象に残ってたんです。だからあの時……あ、あははは。言われてみれば確かに不審な行動でしたよね? お騒がせしましてすみません」

「……いや、謝らなくても大丈夫」

「後清水先輩の名は、あの大会の時、それに入部の時 名札を見て知りました。覚えててよかったと思ってますよ」

「そうだったの。……私の方こそ今更な事聞いちゃったね。呼び止めてまでしてごめん」

「い、いやいやいやいや、清水先輩が謝る事なんてないですよ!」

 

自分自身が謝るのならまだしも、清水に謝られるのは想定外だったので、思わず両手を前に出して激しく横に振る火神。それを見た清水は くすっ、と笑う。

 

清水が謝った事より笑った事に大注目が集まったのは言うまでも無い。

 

 

「お互い様。私も同じ気分」

「あっ……そうですか。そうですよね」

 

 

火神にしろ清水にしろ、謝るような案件? ではない。ただ気になったから聞いてみただけの話だったから。解消してくれてありがとうとも言いたい気分だったのは清水。

 

 

そして、清水は あの中学の頃を少しだけ思い返していた。時間にしてほんの数秒間。

特に思い入れが強かった訳でもない。でも、練習は沢山してきたつもりではあった。

清水の中学の陸上部は大所帯で雪ヶ丘に比べたらより判る。大所帯の中のたった1人である自分を見かけて、今も尚覚えてもらえているというのは、何だか恥ずかしい気もするが、それ以上に何処か心地よい物があった。

 

 

「かっこいい、か」

「あ……、す、すみませんっっ。女の人に言う事じゃないっすよねっ!? 格好いいって」

「また謝ってる。謝らなくていい」

 

 

清水はそっと、人差し指を火神の口付近に持っていき、そして仄かな笑みを浮かべたまま。

 

「何だか良いね、それ」

 

火神に向かって笑いかける清水。

 

 

 

誰かに向かって笑う、なんて…こんなの初めて!! 

 

 

 

とざわつく周囲、雷が落ちる周囲。もの凄い大惨事だ。発生源は主に田中。凡そ9割分である。勿論 そんな災害何処吹く風。清水があっさりと収めてしまったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、清水は 澤村に 肉まんの奢りと火神の件の礼を言って帰宅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~成程。清水先輩って 美しいとか華憐とか美人とか アホ程聞いてるから 【格好いい】っていうのが新鮮だったんだなぁ」

「あ、俺も縁下と同じ意見。新鮮だったんだな。田中が使いすぎてて、最早ネタッぽいし」

「そして更に言えば火神は良い子だ。これ以上なく。………だから、悔しくなんかない」

「大地…… 言い方がなんか……」

 

 

ワイワイと騒いでる間に、解き放たれた田中は、火神と対峙していた。

 

「潔子さんの視線をよこせ~~」

「視線よこせってどーすればいいんですか!」

「向けられた眼差し寄越せ~~! 見られた顔寄越せ~~!!」

「ファっ!? 顔寄越せって、田中さんは妖怪ですか!?」

「せいやって中学の頃も結構女の子たちに人気でさー」

「ふーん」

「興味なしか」

 

「しょうよーー!! 余計な事言わんでくれ!! 田中さんの力が増し増しになるから!!」

 

 

こんな感じで騒いでいたら、坂之下商店の店主が来襲。

 

 

「ゴラぁァ! お前らなんど言わせんだよ! 店の前で騒ぐなっつたろうが!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後 どうにか澤村が店主に頭を下げて 店のスペースを使わせてもらえる事になった。勿論、速攻で騒ぎを終息させることと、3,4人までと言う制約は頂いたが、残ったのが丁度4人だったので良かった。

 

清水がまだ現場に残っていたら まだ騒いでいただろうからその辺りもある意味では僥倖。……と言うか 清水が残って、注意していた方がまだ静かだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、練習試合のポジションだけど、これで行こうと思う」

 

 

タクティクスボードとマグネットが用意されていて、マグネットには名前が付けられているので一目瞭然。

左上から順に 田中・日向・澤村。左下から順に 影山・月島・火神の構成。

田中と澤村と火神がWS(ウィングスパイカー)、日向と月島がMB(ミドルブロッカー)、そして影山が言わずと知れたS(セッター)だ。

 

「火神と影山は指名された上で考えた。日向は影山とのセットで使いたいし、月島は烏野(ウチ)では数少ない長身選手だ。青城相手にどこまで戦えるか見たい」

 

唯一の1年レギュラーハズレの山口は、やや落ち込んでいたが、このメンツの中で押しのけて入るのは正直無理がある、と何処か自分でも納得している部分があった。

あの3対3の時の事を思い返せば返すほど、悔しいがそう思ってしまうのだ。

 

 

「ていうか、デカさが重要なポジションに日向スか!?」

「ミドルブロッカーって、ノッポヤロー月島と同じポジション!?」

「あっ、ちょっと待って。僕も確認、と言うかおさらいしておきたい。ポジションについてだけど……」

 

 

各々の意見はあるだろう。でもまず武田先生への説明が先である、と澤村は判断し、セッター、ウイングスパイカー、ミドルブロッカーについての説明をした。

 

各々の役割と重要性等をルールブックと澤村の説明を照らし合わせて再確認。

 

 

「ポジション関係は大体こんな感じでOKかな?」

「他に守備専門のリベロとかあるんですが、今回はいないのでそれでOKです」

 

 

とても勉強熱心なのは 使い古されている武田のルールブックを見てみればよく分かる。単純にお古を貰っただけなのかもしれないが、ちらちらと見える付箋紙の数を見れば尚更判る。

 

「なぁなぁ、せいや。俺、ミドルブロッカーできんのかなぁ……?」

「ん? ああ、翔陽にぴったりなポジションだと思うぞ」

「なんでだ? だって、月島みたいなデカノッポがやるポジションなんだろ……?」

 

日向は先ほどの武田先生がおさらいするために受けた澤村の説明を聞いてなかったのだろうか……、いや そもそも日向の真骨頂を自分では分かってなかったからかもしれない。

 

「おい、良いか日向」

 

そんな中、影山が一肌脱いでくれた。

 

「お前は最強の囮だ!!!」

「ナニっ!! さいきょー!! 俺、最強!! 最強の、おとり? おと……り??」

 

 

最強の二文字でテンションが上がったかと思えば、囮の一文字でテンションが下がる。随分と忙しそうである。

 

「なんかパッとしねぇよ……」

「パッとしないか? 影山の言う通りだぞ。昨日の試合で何度かオレも翔陽につられたし。メチャクチャしんどかったんだぞ??」

「えっ!? せいやがオレにっ!?」

「おう。それに6人でアレやられたら、更に頭がキツくなりそうだ……」

「うぉぉぉぉぉぉ!! さいきょーのせいやをぎゃふんっ! と言わせたのか、俺は!!」

「あっはっはっは!! そうかもな! アレは相当しんどい」

「つまり、影山より上って事か!?」

「んな訳あるかボゲェ!!」

 

 

日向のあの気迫溢れる動きは、かなりしんどいと思えるが、全てが本気で本物であるからこそ、一級の囮となってつられてしまうのだ。囮とわかっていてもこれが難しい。意識しまいとするのもある意味では間違いだから、疲れた終盤でそれをやられると、自棄を起こしてしまいそうな気分になるのだ。

 

 

「兎も角だ! クイックでお前がガンガン点を稼いだら、当然敵のブロッカーはお前の方を向く。お前みたいなチビでドヘタクソが、メチャクチャ動いて跳んで、更に点稼いだとなれば、【なんだ、アイツやべーぞ!】っていう風になるもんなんだ。そうなったら更に他のスパイカーが活きる」

「一言二言余計だが、何となく頭に浮かんできたぞ!」

「火神には 上げられちまった印象が頭ん中に残ってるかもしれねぇが、それはまだお前が下手だったからだ。あの攻撃を軸に、色んなバリエーションを混ぜれば、更に進化する。……それに月島みたいなデカいヤツが何人もお前の動きにアホみたいに引っかかったら、気分良いだろ?」

 

日向の頭の中で昨日の試合の光景がよみがえっていた。

確かに火神には何本も取られてしまったが、それ以上に月島は何本も翻弄してやったのを覚えている。余裕で煽りを忘れなかったあの月島が、嫌みで嫌な月島が ムキになって止めようとしてくる姿、覚えている。

 

「おおおおお!! 確かに!! 気持ちいいぞ!」

「オイ!! アホってツッキーの事じゃないだろうな!!」

「なんで山口が怒んの。黙れよ」

「ゴメンツッキー!」

 

月島も相当悔しかったのだろうか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

「だが、100%上手くいく攻撃なんて存在しねぇ。まして、お前の技量は下の下」

「上げて落とすの様になってるよな……、影山」

「だから一言以上余計だよ!!」

「余計でもなんでも頭に入れとけボゲ。お前が機能しなきゃ他の攻撃も総崩れになるとも思え。波に乗りきれず、崩れるってのもよくある事だ」

「そう……ぇえ!!?」

 

 

さっきまで余計な一言に怒っていた日向だが、あり得そうな現実を突きつけられて、青ざめた。まだまだ自分が下手なのは勿論わかっている。わかってるからこそ、練習を頑張ってするんだ、と決めているんだ。

 

だが、練習試合まではもう日がない。この短期間で……。

 

「総崩れ……そう、くずれ…… SO KUZURE……YO。YO、Yo……」

 

単語が頭の中を何度も何度もよぎる。

そして、試合の光景が目に浮かび……、自分のスパイクは決まらない。自分が走って仲間の妨害。更に顔面でまた受けてしまってノックアウトでその光景は日向脳 映画館上映終了。

 

「うわぁぁ、せいやっ、俺をつよくしてくれーーー!! パワー、おれにくれぇぇぇ!!」

「ぉふぁぅっ!?」

 

 

突然、日向はジェットスタート。見事に火神の鳩尾当たりに頭突きを炸裂させて、そのまま倒れこんだ。

 

「影山、あんまプレッシャーかけんなよ! ほら見なさい。日向が火神もろとも道づれに沈没しようと自棄になってしまったぞ!」

「???」

 

 

火神は日向に腹の上に乗られ挙句に息が詰まりそうな一撃を貰って悶絶。手を伸ばして必死に浮上しようとしてる風にも見える。日向は日向で、火神にマウントとって、その頭をぐらぐら揺らしていた。【みすてないでーー】と火神馴染みの絶叫とともに。

 

 

「遊んでるトコ悪いけどよ、肝心のブロックはどうすんだ? いくら日向が高く跳べるからって、もともとデカいヤツと比べたら、ジャンプのMAXに到達するまでの時間がかかるだろ? その分ブロックの完成が遅くなるぞ」

 

 

ブロックの要でもあるミドルブロッカーのポジションは当然ながら背が高い方が断然有利。田中の言う通り、日向は大きく跳ぶ事が出来るが、それでも指標が低いのでどうしても到達するまでに時間がかかり、そのまま上から打たれてしまう可能性が高くなるのだ。

勿論、そこは影山・火神・澤村・菅原のミーティングで確認済みである。

 

「……はい。だから日向が前衛、ブロックする時、重点を置くのは何よりも相手の攻撃に触る事。バカみたいな反射速度を生かして、敵の攻撃に兎に角 触って勢いを弱める事。そうすれば、レシーブ出来る難易度が下がります。そこからカウンターを狙える」

「うぅ~ん、理屈は判るが、そんないきなり上手いこといくか?」

「いやいや、いかないだろう。寧ろいったらラッキーくらいに思ってた方が良い。……少なくとも最初はな。上手くいくかの確証なんてある訳ないし、相手は4強。こっちはまだまだ格下。バカにされたりするかもしれない。……でも、やってみれば、何かしら判る事があるよ」

 

「いててて……。翔陽いい加減のいてくれって……」

「あうぅ……、せいや……たすけてぇ……」

「いやなんで俺の上で溺れてんの?? ほら、まだミーティングの途中だからのいてって」

 

いつまでも上に乗ってる日向をのけて身体を火神は起こした。

火神が復帰したのを見て軽く笑うと澤村は同意を求める様に聞く。

 

「な? 火神もそう思うだろ? 最初から上手くいく事なんて基本ないんだしさ」

「あ、はい。そうですね。……ただ、北一とオレ達 雪ヶ丘がやった時と似たような展開にしてやりたい、とは思います。……いや、相手を驚かせてやりますよ。な、翔陽」

「うぇい!! や、やってやるさ! そーくずれがどーだ! こーだ!! さいきょーだ!!」

 

 

火神が思うのは、中学時代の事。圧倒的不利な状況で試合を沸かせ、あっと言わせた。それをまた実現したいというのだから、相応の気合が入っている事だろう。澤村をはじめ、先輩たちは負けじと力を入れ、そして日向のテンパり具合はなかなか解消されない様だが、とりあえず 火神に任せよう、と言う事にしたのだった。

影山は 火神ら雪ヶ丘と戦った北一だからか、少なからず思うところはあるけれど、火神のやる気に満ちた顔を見て払拭。そして触発されるのだった。

 

 

「翔陽の素早さ、反射に加えて あの跳躍なら 初見じゃ絶対喰らってしまいます。勿論 衝撃を与えますし、同時に点にもつながります。後 影山のゲーム組み立てにも期待ですね。翔陽の動きにつられる、だけでなく 慣れられたら厄介だと思うんで」

「使いどころと使う頻度って事……。ま、ふつーあんな無茶苦茶な速攻は止めれる筈ねーべ? って思う所なんだけど、火神が言ったら聞こえ方違うよなぁ。2セット目にはしっかり拾ってたし」

「ま、まぁ まだまだ不完全でしたけどね。翔陽と影山も慣れてないぶっつけ本番プレイですから、多少動揺に付け込めた成果だと思ってます」

 

 

そう、日向と影山の神業的な速攻は、その日の内にある程度取られてしまっているのだ。3対3の時でさえ、拾われたのだから 6人に増えたならより拾われる可能性が高くなる。更に言えば相手は4強の一角。総合レベルが並みの選手じゃない筈だから。

 

 

「相手や味方のスパイカーの調子を見るのもセッターの仕事。頼んだぞ、影山」

「おう」

 

 

にこやかに締まった所で、澤村が声を掛ける。

 

 

「色々試し、やる事を全部やってやろうじゃないか。練習(・・)試合なんだ。全員、明日は自信をもっていこう。んでもって―――」

 

 

澤村は、一呼吸置いた後。

 

 

「勝つぞ」

 

 

練習の試合とは言いつつも、勝利を見据えて皆へ伝えた。

 

その熱意が伝わったのだろう。

 

【オス!】と言う皆合わせての一声は、今までで一番の声量だった。

 

 


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