王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第21話

月曜の放課後。

 

これまで、着替えは体育館の空きスペースで行って部活をしていたんだけれど、菅原が部室へ案内してくれた。

 

 

「ええっ! 1年も部室使って良いんスか?」

「北一は大所帯だったし、下級生は部室使えてなかったっぽいよな。こっちは悲しいかな、人数がそこまでいないんだけど、強かったころの名残で今も広い部室使わせてもらってるんだ。だから、1年が入ったくらいじゃ問題ないよ。てな訳で、ここが部室な」

 

 

がらっ、と開けた先に広がる光景は やはり何処ででも変わらない。

この汗臭さ、ボールの臭い、用具入れはあるんだけどいろいろ乱雑してる。必要なのはしっかりマネージャーが管理していると思われるが、部室っていうのはどこでも、どんな世界でも大体は同じなんだ、と認識。

 

「おース」

「「「ちース」」」

「「「失礼シマース!」」」

 

 

挨拶もそこそこに、火神は日向の方を向いた。

 

「念願の部室だぞ? 感動してないか、翔陽」

「お、おお。そうだな、そうだよなっ! 俺たちにそんなの無かったもんな!!」

「新1年が、今は2年か。アイツらが頑張ってくれたら何とかなるかもしれないから、その辺は期待しとこう。OBとして。んで、そろそろ緊張も少なくなってくる頃だろ? ほんの少しでも」

 

火神は日向の顔をじっと見た。

昨日の件(影山の発言)もあり、日向はまた持病? を発病してたりする。幾らか火神のフォローもあって、持ち直す事は多々あったのだけれど、どうしても 初っ端ともなったら その不安感は あの初めての公式戦の時程まで及んだようで、日向は 勢いでごまかしつつも、時折能面みたいな顔立ちになったりしていたのだ。

 

「うははは。そーか、日向まだ緊張してたか。デビュー戦だもんな。高校デビュー! ま、練習試合だけど、青葉城西の体育館は、滅茶デカいし、選手もデカいからビビんなよ!」

「ひゅぃ!?」

「あ、田中さん それ逆効果です……。ちょっとずつが重要で」

 

日向は肺にでも穴が開いたのか? と思えるようなヒューヒューと息をしてて、何も知らない人が見たら心配になりそうだった。

 

でも、しっかりと否定。

 

 

「び、ビビるワケないじゃないですか! オレ、中学ん時もせいやと様々な荒波を超えてきた男なんですっっ! バレー部無いとか、練習できないとか、女子に混ざってとか、公式戦は3年目にして漸くとか! そ、それに比べたらこんなの全然ですよっ!!」

 

 

威勢よく言い切ってるのは良い事だ。自信に繋がっているのであれば更に。

苦境を経験してきた事は決して無駄にはならない。いつか必ず何かの実を結ぶんだと思ってるから。ただ、今の恰好は様にならない。

 

「日向。今お前が穿こうとしてるソレ、ジャージの上着だぞ? ギャハハハハ!! どーした!? 新手のオシャレか!?」

「~~~~~~ッッ!!!」

 

 

上着の腕の部分にすっぽり足が収まっているが、履き心地は悪そうだ。気付かないという事はやっぱりまだまだ緊張しているのだろう。

 

 

「……火神。日向は明日の練習試合、大丈夫かな?」

「うぅ~ん……、基本ビビリなんですけど、切っ掛けさえあれば吹っ切れるんですけどね、翔陽って」

「切っ掛け? 例えばどんな?」

 

日向の様子は傍から見ればよく分かる。可哀想だと思うくらいガチガチになっているのが。経緯を考えたら判らなくも無いんだが、その相棒でもある火神とのギャップがここまであったら、違和感があり過ぎる。

 

だが、片方が大丈夫なのであれば、今までの解決策の様なのも備えているかもしれないので、澤村は火神に聞いたのだ。そして 切っ掛けがあれば吹っ切れると言質も取れた。……問題はその内容だ。

 

 

「えっと、中学の時は影山と会った時に吹っ切れたッぽいんですよ。ずっとトイレの住人だったんですけど、翔陽にもプライドはしっかりあるんで、影山のキツイ一言で吹っ切れたのかなって。俺が意図的にそれを刺激してやるっていうのは今のところ成功した試しがなくて……、千里の道も一歩って感じで徐々に慣れてもらったりはしてました」

「ほー。影山は日向になんて言ったんだ?」

 

澤村は影山こそがキーなのか? と期待を僅かに込めつつ影山の方を見たが、当の影山は首を傾げるだけ。

 

「キツイ事なんか言ったつもりないんスけど」

「無自覚かよ……。思った事がそのまま息を吐くように出てるから判らないんだな……」

 

火神は ため息。それを見た影山はとりあえず頑張って思い出そうとしているんだけれど、どうしてもわからない様だ。

なので、代わりに火神が代弁。

 

「えーっと、俺は途中からの合流だったんで、全部は聞けてないんですけど、【一体何しに来た? 思い出作りしに来ただけか?】みたいな感じから始まってたと思います。後は持ち前の強面威圧ですかね?」

 

火神は当時の事を思い出しつつセリフを繋いだ。やや違いはあるものの、大体はあってるだろう。

 

「うわー、初対面の日向に直球だったんだな。でも日向そこで委縮しなかったんだな」

「あ、はい。大きな試合には慣れてないんですけど、跳ぶ事に自信は凄く持ってまして。絶対打ち抜いてやる! って奮起した感じでした。それがいい具合にハマって最初から全開で行けたんだと思います」

「んで、火神は日向と影山を見守ってたって訳か? やっぱポジション保護者?」

「……違いますって。翔陽側に加わろうにも、もう殆ど終わってたんです。だから、影山と試合前はあんまり言葉は殆ど交わして無かったです。なのに、最初から妙に警戒されてて ほんとやりづらかったですよ……」

 

なつかしき中学時代を思い返す火神。

清水に聞かれた事もあった為 思い出す機会が増えた気もする。色々と大変だったけどやりがいがあった中学時代を。

 

因みに影山との試合前の絡みは日向に比べたら殆ど無かったって言っていい。

 

「ははは。ま、影山の警戒はバッチリ当たったって事だ。悪いけど、やっぱ初戦だからって無名校相手に警戒はあまりしなさそうだからな」

「(……日向とは違った異質さを覚えたから。言えばただの直感だ)……そっちは覚えている。でも、日向にキツイ事言った覚えはやっぱない」

「も、それで良いって。問題は翔陽の緊張の事だったし。確かに硬いままじゃ 色々と問題ありそうですね。最悪怪我にも繋がりかねませんし……」

「う~ん……オレが何言ってもプレッシャーになるみたいでさ。火神が言う通り、ちょこちょこ試合まで上げていくしかないか」

「最初のうちは仕方ないんじゃないスか。ヘタにイジんない方が良いとも思ってます。付き合い長い火神辺りのフォローで通常運転にまで出来るようになるのが一番じゃないスか」

「影山。それはつまり訳したら【翔陽の事、全部オレに任せとけば良い】って事でOKか?」

 

火神の指摘に遠い目をする影山。澤村や菅原も うんうん、と頷いて影山サイドにいる。

 

「まぁ、なんだかんだで日向が一番信頼してるのは火神だしな。それが今一番と言えばそうなんだ。でも依存っぽくなるのは頂けないから、後々には日向に克服してもらわないといけない、って考えてるよ」

「うぅ~~ん………」

「影山も、それに火神だってあんま判んないだろ? 小心者の緊張ってヤツ。ナメちゃいけねぇべ?」

 

影山は兎も角、火神は解ってるつもりだが、100%か? と言えばそれは嘘。

無理だけど 日向自身になって初めて本当の意味で解る事になんだから。公式戦でベストパフォーマンスを見せたり、自分より皆に気を配れたりする火神や、色々とチームに不和を齎したとは言っても もうベテランの領域にいる影山。

菅原に判らないだろ、と言われても無理はなかった。

 

「とまぁ、日向の緊張解す役は火神。そんでもって 影山はいつもの余計でキツイ一言を発動すんな、って事。無駄な圧力になるから。(ヘタクソとかチビとか総崩れとか)」

「……ウス(何度考えても判らん。余計な上、キツイ一言なんてオレ言ってるか?)」

 

 

 

日向会議をしている最中。

 

 

「何やってんのよ、田中!! ヘンタイ!!」

「うぇぇっ!?」

 

 

と、部室の外が賑やかになってた。

日向の話題だった筈なのに いつの間にか田中が罵倒されているようだ。それも女の人の声だから、女子に。

 

何事か? と外を見てみると 田中……ジャージ穿いてなくパンツ丸出しだった。その場面を女子テニス部の皆さんに見られちゃったようだ。

 

「田中さん……、セクハラですよ? ソレ」

「ちが、ちがうんだ!! 日向がオレのジャージ穿いてったから!!」

「へ? あ……」

 

 

本当にいつの間にやら、日向は部室の外、更に校庭までいってるみたいだ。別にまだ解散と言うわけでもないし、それに向こうは玄関と真反対。更に言えば日向の荷物はまだ部室に残ってるので、一体どこへ向かおうとしてたのやら。

 

「どーなってんの? 日向(あのチビ)。ちゃんと引率しないとヤバイかもよ?」

「それにすっごい顔してフラフラしてたよ?」

 

月島と山口も合流して、日向の惨状を報告。

 

火神は頭を更に悩ませた。

バレーに関しては 何度も一緒に練習を重ねていたから、まだまだなのは違いないが、所謂 【火神がいない時の日向】よりは絶対に上達していると確信出来ている。

だが、それとこれとは話が全然違う様だ。小心者レベルを上げてその分野を向上させるには、やっぱり場数が不可欠だったみたいだから……。

 

「……あれ、だいじょーぶ?」

「試合まで、様子……見ましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――火曜日の放課後。

 

 

 

とうとうやってきた青葉城西との練習試合の日。

学校のマイクロバスを借りて、いざ出陣。勿論、しっかりと顧問の武田先生には挨拶をしてバスに乗り込んだ。

 

「翔陽。……絶対寝てないだろ? その顔」

「………ね、寝たし。グッスリだし……」

「なんで直ぐ判る嘘つく? 目の下凄い事になってるぞ」

 

顔に【ボク寝不足です】って書いてる様に見えたのは初めてだ。わかり易い目の下のクマに加えて、何だかゲッソリしてるようにも見える。それに目のハイライトが何だかおかしい。

 

「はぁ……、そんな状態でバス乗ったら大惨事だな」

 

火神は待ってました、ではなく持ってましたとエチケット袋を日向に渡す。

 

「は、吐いたりはしないって………。しっかり飯食ってきたんだから…………」

「食ってきたからこそだろ。それにカツ丼だろ? ……寝不足な上にそれじゃ、幾らゲン担ぎで気合入れたからって言っても逆効果だから。場慣れするまで止めといた方が良いぞ……」

 

幾ら火神が このまま放置したらどうなるか知っているから、と言っても そのままリバースされて、やられたら心が痛む。笑いながら見れたのは画面越し、紙の上での話だから実際に目の前で起こると思えばどうにか止めたいものだ。酔い止めも必要かな、と思ったが 日向は基本的に乗り物酔いはしない。原因は極度の緊張だから意味ないと判断して、とりあえず吐くこと前提で事前の備えを持ってきたのだ。

 

 

日向は、よろよろと年寄りみたいな動きでその袋を受け取るとトボトボとバスの中へと入っていった。

 

 

「とりあえず、備えあれば憂いなし」

「やっぱ保護者ジャン。凄いねぇ、とても面倒見が良いねぇ」

「あぁ~ 羨ましいなら変わろうか? スキルアップのチャンスだよ? 月島クン」

「いやいや、ボクが取得するには荷が重すぎるスキルだから遠慮しておくよ、火神クン」

 

 

月島と一戦交わした後に火神もバスの中へ。

 

 

 

色々と備えたつもりだったんだけど……、結局歴史は繰り返す。

 

 

 

「おえ―――――っぷ!!」

「おいおいおい、ほんと大丈夫かよ日向」

「うぇ……、貰いそう……」

 

 

日向はちゃんと火神から渡されたエチケット袋の中へ イン。

 

「大丈夫か? 日向。ほれティッシュ」

「ぁ……、たなか、さん。ありがとうございました……」

「おう。いいってことよ。何せオレは先輩だからな! ……って、おいぃぃぃ!! 日向日向ひなた!!! 中身、中身こぼれるぅぅぅ! こぼれてるぅぅぅぅ!!!」

「……え?」

「ばっっ、ちがっっ! 上に……」

 

 

日向はくるり、と隣に振り返って田中に頭を下げる。

両手にエチケット袋を持ったまま、頭を下げる。

 

昨夜は、頑張るぞ!! と意気込みそのままに、日向母にカツ丼を作ってもらって、思いっきり掻きこんだ。朝食も同じく勝つ為に、カツ丼一色。

 

日向の小さな身体の中には、まだまだ消化しきれてないカツ丼やその他モロモロが滞在しており……、エチケット袋いっぱい、とまでは言わないが それなりの量が入っちゃってる(何が入ってるかは割愛)。

 

 

状態最悪の中で、ぼーっとしたままで 身体全体を傾けたらどうなるのか……。

 

 

 

 

「ぎゃあああああああぁぁァッ!!!!」

 

 

 

 

どうなったかの結果。

田中の悲鳴がバス内に響き渡ったのだった。

 

「あれ……これって……」

「予想以上にヤバイ?」

「……備えあれば憂いなしを見事に覆してくれたね……」

「と、兎も角、武田先生!! 一旦何処かに止まってくれませんか!!」

 

 

 

ただ、変わる事なく歴史は繰り返しただけだ。

ただ、世界の意思には抗えなかっただけだ。

 

 

 

火神は妙な無力感を感じつつも、せめてバレーだけは、色々と頑張ろうと力なく手を握りしめた。3対3で影山達のチームに勝てたのだし、と。

 

澤村は慌ててバスを止める様に伝え、影山はただただ慌てつつも呆れて……、菅原は対応策が思い浮かばず、更に田中の惨状をガン見してしまって白目を向くのだった。

 


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