王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第22話 青葉城西戦①

私立青葉城西高校へ到着。

 

途中で色々と寄り道をしたのだが、どうにか無事遅れる事なく到着した。勿論、武田先生は安全運転。

 

そしてそして、盛大にやらかしてしまった日向はと言うと全員に謝罪謝罪の大嵐。

中でも一番の被害を被った田中に対しては、何度も何度も頭を下げては上げを繰り返しながら謝罪をしていた。

 

「すみません田中さんすみません!!」

「はぁ、いいっつってんだろうが。そんなことよりおめーは大丈夫なのかよ。降りた後もヤってたんだろ?」

 

日向のモノを貰った田中。その中身は田中の股間部分に思いっきりブチまかれていた。

見ようによっては、田中が漏らした~~とも取られない程のモノであり、かなりの異臭もありのその他モロモロ大変だったのにも関わらず、田中は後輩を心配するという器の大きさを改めてみた気がした。

 

「ハイ……途中で休んだし、バス降りたら平気です……」

「平気って顔じゃないケドなそれ。ほら翔陽、水」

 

火神は日向にペットボトルを差し出した。

日向はそれを受け取ると軽く口に含み、ゴクッと飲み込む。

飲む事はどうやら出来る様子だ。

 

「いや、なんかほんと田中さんすみません、ウチのバカが……」

「わははは。だいじょーぶだって、おめーにも言ってるだろ? それよりさっきのもう一回だ、火神」

「器がほんとに大きいですねー、田中先輩って! 凄いです」

「うはははは! 当然当然。先輩だからな!」

 

腰に手を当てて胸を張る田中。別に乗せる為に言う事などではなく……、本当に凄いなぁ、と心からの賞賛である。

日向のを直撃されてそれでも尚 笑って許すとは。いや、本当に。

 

「今日は1年が半分出る試合だからな。火神も日向も頑張れ! 勿論オレもだ! 4強をへこませてやろうぜ」

「はいっ! 頑張りますよ!」

「うははは。元気で良し良し! んで、日向! 3対3の時みたく、俺にフリーで打たせてくれよ!?」

「は、はい! がんばります……!」

 

まだ、目が死んでるような感じは否めないが、それでも色々と出すもの出したので、スッキリ出来たのか、最初に比べると大分マシに見える。

 

「んん……、と、トイレ行ってきます……」

 

でも、以前の様に試合前の腹痛はどうにもならない様だった。

 

「はぁ、翔陽、トイレの場所とか判るか?」

「うぅ……、ここのがっこうのひとに、きく……」

 

よたよたとこの場を後にする日向。

 

「わはは。上の次は下か! 忙しいヤツだな!」

「うぅ~ん……まさかここまでとは。いや、アレが本来の翔陽なのかも。前の時はキャプテンだったし」

「うん? どういう事だ??」

「いえ。前の時は翔陽がキャプテンでしたし、後は助っ人で入ってくれた同級生の2人と1年生の3人。それに加えて初めてで念願の公式戦。……なのに、当の本人があんな風になったら大変ですから。試合どころじゃなくなるって感じで」

「はぁ、成程な。所謂 責任感っつーのもあったってことか」

「はい。今は頼りになる先輩方も多いですから、気がゆるんじゃったのかもしれませんね……」

「うはははは!」

 

今回の高校初の練習試合とはいえ、あの中学3年の時は初めてな上に学校の体育館ではなく市立体育館。中学総体、大きな大きな大会だ。どちらが緊張するか? と問われれば きっと後者だと客観的に見ても判る。

それなのに、日向は 便所の主になりかけてはいたものの、戻ってくる時は戻ってこれたし、しっかりと責任は果たせれたと思う。……今の日向とは比べるべくもない。

 

 

「んだと……? 甘えだ?」

 

 

そんな時、そういった妥協の類を一切許さない、もう一人の問題児が拳を握り締めながらやってきた。

 

「甘えなんざ許されると思ってんのかボゲが。一発気合入れてやる―――!!」

 

グーパンでもするのだろうか。今の日向に腹パンでもすれば、本当に色々と出したり出たりしそうなので、ここは是が非でも止めなければならない、前にいた火神と直ぐ隣にいた菅原も影山を止めた。

 

「何言ってんの!?お前!! バカじゃないの!? そういうのが効くタイプとそうじゃないのが居るでしょ!?」

「やってみないとわかりませんよ!」

「バカバカバカ。今の翔陽殴ったらまた見たくないモンでるかもしれんだろ! それに青城に迷惑かかる! ヤメロ!!」

「さっき買ってたビニール袋が余ってんだろ! 大丈夫だ!」

「いや、全然大丈夫じゃないからな! おい田中! この単細胞押さえろ!」

「オスッ!」

 

 

何とか、影山による日向闘魂注入は未遂に終わって難を逃れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は青葉城西高校 第3体育館裏。

 

青葉城西のバレー部員だろう2人が話をしていた。内容は今日の練習試合についてだ。

 

「なぁ、今日の練習烏野が来るってさ。1試合だけみたいだけど。んで、アレ(・・)が居るんだろ? 烏野って」

「ハイ??」

「ほら、コート上の王様。お前出身中学同じだろ? 金田一」

「ああ……影山の事っスか?」

 

烏野のバレー部の話。

中でも話題に上がるのは 有名な【コート上の王様】こと、影山飛雄の事だ。

 

注目している選手だから当然と言えば当然なのだが、長らく一緒にいた金田一は然程気にしてないようだった。

 

「別に大したことないっスよ? 確かに個人技では頭一つ抜けてましたけど、チームプレーっていうモンが根本的に向いてないんスよ。……影山(アイツ)自己チューだから」

 

金田一の表情。それは単に影山の事を客観的に評価しただけではなく、何処か苦々しく、もう過ぎた事だというのに、イラついているのがよく見て取れた。

それ程までに苦痛だったという事が

 

「へぇ~まぁ、行った先が烏野だしな。昔は強かったのか知らんけど……。烏野ったら、マネが美人てことくらいしか覚えてないし」

「マジっすか!?」

「そーなのそーなのよ。ちょっとエロイ感じでさ~~ 目の保養になんのよ~。あ、あとそういや、ガラの悪いヤツが居たな~~、ボーズで目つきが悪くてさ~~」

「マジすか……」

「マジマジ。ありゃ、絶対あったま悪いぞ~~」

 

 

影山憎し、はまだ判らなくもないが、流石に烏野については言いたい放題が過ぎる、と言ってやりたいものだ。容姿だけで頭が悪いだのエロイだの、失礼極まりない。……前者は限りなく正解に近いかもしれないが、それだとしてもだ。

 

 

そんな失礼な青葉城西の部員に天罰が下りる。

 

 

「……………」

 

「「!?」」

 

 

体育館の陰から、ひょこっと顔を出すのは 先ほどまで話題に上がっていたボーズ頭。ガラが悪そうで頭も悪そうな、そんな印象を受けてたその人そのものである。

 

 

勿論、その正体は田中先輩。

 

 

田中に従うかの様に、続いてぞろぞろとやってくるのは、黒のジャージに包まれた烏野のバレー部たち。

 

 

「あんまよぉ……、烏野(ウチ)をナメてっと…… 喰い散らかすぞ」

 

 

まるで、田中の迫力に反応した、とでも言うのだろうか。

いつの間にか木の上に集まっていたカラスたちが【ア゛―――ッ!!】と一斉に鳴きながら、夕日の空へと還っていった。

 

 

 

「「ッ――――!!!」」

 

 

 

これはあまりの迫力にびっくりしてしまっても不思議ではない。烏野と言うのはあくまで高校の名前。……カラスを操るような学校では無い筈だから。

 

そして、そんな田中に便乗するのは月島。

 

「そんな威嚇したら駄目ですよ~~ 田中さ~~ん」

「?」

 

傍から見れば田中を抑えようとしている様に見えなくもないが、その表情は明らかに蔑んでいるそのものだ。

影山の時もそうだが、月島は基本的に王様……ではなく、エリートと呼ぶ相手が気に入らない性質なのだ。

 

 

「ほぉら、【エリートの方々】がびっくりしちゃって、可哀想じゃないですかぁ」

「おう、そうだな。いじめんのは試合中だけにしてやんねーとなぁ」

「そうですよ~、僕たち、スポーツマンなんですから、平和的に行きましょうよ~。憐みを忘れないようにねぇ」

 

 

 

……言いたい放題なのは烏野も同じだったかもしれない。

 

 

「べ、別にビビってねぇよ!」

「(あのメガネだれだ? ……1年か? あんな身長のヤツいなかった筈)」

 

 

挑発に次ぐ挑発。まるでここで一戦やりかねない状況だったが、流石にそれは無かった。

 

「あっ、こら!! お前らちょっと目ぇ離した隙に何やってる!!」

「ッッ!!」

 

澤村が到着したからだ。

因みに菅原は日向の付き添い、火神はちょっとした荷物運び……をしてたら、清水に【自分の仕事だから、あっち宜しく】と取られていたりする。

こちらは 田中の様に狙ってではなく荷物持ちは 基本的に下級生の仕事だったから~ と言う習性だから、だったりする。

 

「月島――今逃げたふりしてもダメだからな。見てるからな??」

「ッ! チっ……」

「お前も毎度毎度舌打ちで誤魔化すな! 大人気ない!」

 

少しばかり遅れてやってきた火神も澤村と一緒に参戦。

 

「(アイツ……!? まさか、烏野に居たのか!?)」

 

後からやってきた澤村に――ではなく、火神に驚きを隠せないのは金田一。

 

それは当然だ。中学の1回戦の時の事を金田一は覚えているから。初戦の無名校。肩慣らし程度にしか考えてなかった相手からのよもやの大反撃。

チームプレイが重要のバレー、繋がなければ敗北のバレーで、個の強さを全面に出した男だったから。

 

それは 個人と言う点においては 天才と呼ばれても不思議じゃない影山と似ているようで、根本的に違ったプレイスタイル。天才でも横暴で独善なのが影山。火神はまさに正反対で周囲を活かす事を主とし、更には自分自身の個人技でも魅せる男。

 

どの高校に行ったのか少なからず気にしていた相手でもあった。

 

 

「どうも失礼しました! こいつら纏めとかないと直ぐどっか行くから、2人で引っ張ってくぞ、火神!」

「あ、はい。わかりました。ほら、影山も行くぞ」

「……おう」

「よし! 今の内だ! ほら、ウロウロすんなっ、整列していけ! 田中、その顔ヤメロ!」

 

 

問題児集団の引率がどれ程大変なのかが よーくわかる展開だった。イキナリの練習試合が組めたからこそであり、早々に体験しててある意味では良かったと思う火神だった。

―――これが、大きな遠征やら公式戦でだったらと思うと頭が痛くなりそうだから。

 

 

そして、一行は体育館の中へと向かおうとした時だ。

 

 

「……久しぶりじゃねーのお前ら(・・・)。あぁ後、王様よぉ。烏野(そっち)でどんな独裁政権を敷いてんのか、楽しみにしてるわ」

 

 

それは、あからさまな挑発だった。

もしも、3対3以前の影山だったら絶対に反応してたことだろう。

 

だが。

 

「…………ああ、そうだな。見せてやるよ」

 

 

影山は金田一の挑発には一切乗らず、ただそう言うと戻っていった。

火神は首をぐるっ、と回して金田一の方を見た。

 

「そっちこそ久しぶり。覚えてるよ。俺も楽しみにしてる。青城とイキナリやれるなんてほんとツイてる」

 

簡単に答えつつ、影山の背を押していった。

 

戻った先で、影山を待っていた皆は、背中を無言でバシっ、と叩いた。【よく言った!】と口には出していないが、そういっている様に後ろからついていった火神には見えた。

 

 

そして置いてきぼりを食らったのは金田一。

 

 

「………なんだアイツ。大人しいフリしやがって。だけど、あの男がいたらひょっとして………、いや ありえねぇか」

 

 

人間性と言うものはそう簡単に変わりはしない。

何度も何度もやろうとした。最低限やろうとした。監督にも伝えた。監督も何度も治すようにと指示した。それでも治らなかったんだから。

 

高校生になったとはいえものの数ヶ月で治るワケ無い。ただ、大人しいフリをしているだけだ、と金田一は一蹴。

 

 

「影山の隣のヤツは知り合い? 北一にはいなかったろ?」

「……ええ。矢巾先輩。アイツの顔覚えといてください。ある意味、烏野の中で一番厄介なヤツだと思います」

「ふーん……厄介、ね」

 

 

影山の時とは違って、緊張感のある顔をした金田一を見て、矢巾も記憶に火神の事を入れた。身長は影山と同じ程度、それでいて 雰囲気は何となくチームの纏め役ッポイ。

 

「試合やってみればわかるか。……一年生エースってヤツを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「整列! 挨拶!!!」

【お願いしあーーす!!!】

 

 

色々あって、漸く第3体育館へと入る事が出来た。

日向も何とか戻ってくる事が出来ていて、トイレの住人になり続けるのは防げたようだ。……今のところは、だが。

 

ただ、大きな体育館に、大きな人間に圧倒されているのは事実。

 

 

「で、でかい……、体育館もっ、人も……っ」

「翔陽? こっちにもデカいヤツ居るんだから、気にしない気にしない。ほらほら、月島だぞーデカいぞー」

「……ちょっと。日向(チビ)をあやすのに使わないでくれる?」

「ツッキーはもっともっとデカくなる男だからな」

「なんで山口が得意気なの? 黙れよ」

「ゴメンツッキー!」

 

 

月島の毒舌(チビ)発言にも日向は反応は見せない様だった。

それと山口の月島ヨイショも相変わらずブレない。

 

 

「……守備も攻撃も全員の能力が平均して高いのが青葉城西だ。他校行ったら何処ででもエースはれるようなヤツが揃ってるらしい」

「ひえーー……あ~あとブロック強力ってことでも有名だしなぁ……」

「まさに強豪校! って感じですね。流石青城!」

「ワクワクしてます、って顔に書いてあるぞ火神。大物だねー こんなの目の当たりにしてそんな顔できんだから」

 

 

興奮してる火神を見ると、自分たちの緊張が緩和されていくような気がしてならない澤村と菅原だった。ただ、問題なのは日向。

 

「翔陽? 落ち着けって。失敗(ミス)しても良いじゃん。……中学(あの時)と違って、これが最後って訳じゃないんだ。と言うか、ここから始まるんだぞ」

「お、おう! そうだよな!!」

「(お、持ち直しそうか??)」

「わははは! そりゃそうだ! 始まってばっかなのに終わってたまるかってんだよ。それにお前がへたっくそなのは よくわかってんだから、ちゃんとカバーしてやるよ!」

「た、田中先輩っ!!」

「(おお、良いぞ田中も! もう一息!!)」

 

日向緊張ゲージが徐々に下降を見せていたんだが……。

 

「でも、カバーできるトコと出来ないトコがあるデショ。サーブとか」

「(おいコラ月島!!)」

「(よけーな事言うな!!)」

 

月島の余計な一言が、日向の身体に突き刺さる。

どうにか澤村と菅原が 押しやる形で退場させたのだが、今度は田中だ。

 

「あー、サーブは確かに1人だし、孤独だよなぁ。即失点だし。ミスるなよ??」

「「(バカ!! お前もかっ!!)」」

「……………」

 

日向の身体が小刻みに震えるのがわかった。それと月島の辺りから息してないのも判った。

だから、火神は 後ろに立って両肩をバンッ! と叩いた。

 

「うひぃっっ!!」

「翔陽。まず、息しよう。空気あるトコで酸欠になるとか笑えないからほんと」

「うっ…… また、腹が………」

「はぁ……」

 

 

 

と言うわけで、日向はまたまたトイレタイムになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ほんとどうしたもんかな。緊張って適度な緊張なら良いけど、ここまではちょっと。……克服できるかできないかは自分自身次第だし……、なんか良い方法あるかなぁ」

 

日向がトイレに駆け込んだので今回は付き添いで火神も一緒に来た。要らぬ所でまた一悶着あっても問題だから、と言う理由もある。

 

 

「よぉ」

「ん? あっ」

 

 

不意に声を掛けられたので、振り返ってみると そこには金田一が立っていた。

 

「大人し気にしてたけど、影山はどうなんだ? ウチの王様は。相変わらず偉そうだったのは解ったけどよ」

「んー……」

 

火神はこの時単純な疑問が頭に浮かんでた。

確かに中学時代影山の横暴は我慢しかねる程だったんだろう。

そこからチームに不和が生まれ、そして亀裂が入り 全中の出場を逃してしまったという結果があるから尚更だ。だが、今は違うチームで戦う相手同士。終わった事を言っても何も始まらないと思うのが火神の率直な意見だ。

因みに 心情は判らなくもないんだけれど、もうここは自分のよく知っている世界じゃない。物凄く似てる世界だと解釈しているから、と言う理由もある。

 

 

「影山が何かすげぇ気になるみたいだけど、もう終わった事だし、そこまで気にする事なくないかなぁ、って思うけど。それに今は違うチームじゃん。ああ、影山の事 気にしてくれてる? ひょっとして」

「っ、そんなんじゃねぇよ! ただ、アイツは……オレん中で最高にムカつく奴で、ぶっ倒したい奴ってだけだ!」

 

金田一は純粋な火神の意見を聞いて、思わず大きな声を出していた。

嫌よ嫌よも好きのうち、みたいに聞こえたのかもしれない。

 

「影山を倒したいから、って事か。はははっ、なんかウチの翔陽みたいだな」

「何だよ しょうよう って?」

「……オレの事、だ……。かげやまは、俺が倒す……」

 

いいタイミングで ぎぃぃ、と日向は息も絶え絶えトイレから出てきた。

 

「それに、たしかに影山は偉そうだ! いや、偉そうなんてもんじゃねぇ! あの影山大王の独裁の元、オレと言う臣民は虐げられ、日々苦渋を味わっている! ちょっとうまいから調子にのってるだけだ!!」

「うわーー、すげーー元気になった。これ影山効果か?」

 

さっきまで満身創痍っぽかった日向が、影山悪口になると息を吹き返した。

確かに3対3に向けての練習の時もかなりしごかれていたし、【ボゲ、ヘタクソ、クズ……etc】は最早スタンダードだから 仕方ないと言えばそうかもしれないが。

 

「何だよ、アイツ 偉そうな上に メチャクチャ嫌われてんじゃねーか」

「あー…… 影山はコミュニケーション不足っていうか、オブラートに包む事を知らないっていうか……。良くも悪くもストレートなんだ。その辺は追々……って感じ?」

「……苦労してんだな、お前は。あの時もそんな感じだったし」

「同情どうもありがとねー」

 

余計でキツイ一言を言わないでくれ、と言う周囲の頼み。最後までどこが余計なのか、キツイ一言なのか判らなかった影山。火神は追々……と言っているが、どうやって改善したものかと頭を抱える件でもある。一応リーダーを任された責任ゆえにだろう。

 

「それは兎も角、影山は物事をストレート、とかじゃなく、嫌われる要因は間違いなくトスだろ。あの最悪なトス」 

「はぁ? トスが特にすげぇ、の間違いじゃないか?」

「ああ? お前実際にトス打った事ないんだろ? ヒドイの一言だよありゃ。自己チューってのもそっから来てて セッターのくせに、当然の事が出来てねぇんだ。スパイカーに打たせるっていう当然の事がな。影山にとって必要なのは自分の思い通りに動く駒なんだよ。自分が勝つために要らないモノは、ポイッ! って感じでな!」

 

散々な言われようだが、この金田一の言葉には心に来るものがあった。それだけ影山の事が嫌いで、そして思い詰めていたんだろう。

日向は日向でただ首を傾げていた。トスを打たせてもらっている(・・・・・・・・・・)日向だからこそ、金田一の言っている事が判らなかった様だ。

 

 

「……まぁ、中学の頃の事は 一緒にいなかったオレには判らない。当然だよな。ただ、判る事はあるよ」

 

日向の肩を叩いて、そして 金田一の顔を見た。

 

「影山がどんな感じになってるのか、聞くより見た方が早い。多分、君の頭ん中にいる影山とは違う筈だから」

「(要らないもんはポイ? 確かに、影山はせいやと一緒でポジション相談主将からされてたし……、発言権もあるっぽい? いやいや、でもそんな横暴な事されたら、せいやだって黙ってない筈っ!! ……たぶん?? みすてないよね……??)」

「……何チワワみたいな表情作ってんだよ。ほら いくぞ翔陽」

 

 

そのまま、火神に背を押されながら、日向は場を後にするのだった。

 

「………王様がどう変わったのか、見せてやるよ」

 

火神の言う事など信じられない。付き合ってきた時間の長さは圧倒的に自分が上だし、どういう人間か良く知っている。だからこそ変わるはずがない。と金田一は頭の中では言い聞かせつつ その場から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、漸く練習試合開始。

 

 

【烏野高校 対 青葉城西高校 の練習試合を始めます!】

【お願いしあーーす!!!】

 

 

 

 

 

先行サーブ権は烏野。

 

「澤村さん。イキナリ無理いってすみません」

「いや、俺も火神の意見聞いて試してみたかった。払拭できる機会かもしれないし、やってみる価値はあると思うよ」

 

火神はボールを手に取って、日向に渡した。

初っ端のサーブは日向。

 

 

それは試合開始より少し前の事。

 

どうにか腹痛は収まったものの、まだまだ緊張している様なので、最初のサーブを日向にしてもらうように配置変更をしてもらったのだ。ボールを一番長く持ってられるのはサーブの時だけ。与えられた時間をタップリ使って、それでいて思いっきりフルスイングをしてみろ、と提案した。

 

勿論、最初が即失点につながる可能性が一番高いが、景気よくボールを叩いた事で少しでも緊張緩和につながるかもしれない、と言うのが火神の意見だ。他のレシーブやスパイクでも良いが、やっぱり一番長く自分のペースで出来るのがサーブ。

孤独と田中は言っていたが、前には仲間たちが居る。1人じゃない。

 

【思い切っていけよ。ミスしたって皆で取り返すから】

 

火神の言葉に、大多数が笑顔で頷いた(月島と影山は論外)。

日向も頷いた。

 

 

そして―――日向のサーブ。

 

 

 

 

「(最初、本当の最初…… ミスはしたくない。でも、ミスする気でいけって……)」

 

 

緊張でなかなか動けれてない日向。でもずっとそれが続くワケもない。

主審の笛の音が響いて 本当の試合開始。

 

 

「思いっきりいけー、日向!」

「景気よく頼むぞー!」

 

 

「ッ……よしっ!!(時間タップリ使って……、思いっきり、思いっきり、スパイクする時みたいに。影山のトスを打つみたいに思いっきり―――!!)」

 

 

火神や田中の声に押される形で……、日向は 何故か ぎゅっ と目を閉じた。

 

それはまるで、あのトスを見ないスパイク、変人速攻のように。思いっきり行く為に、ボールを見ないでただただフルスイング。影山を思い浮かべたからだろうか。

 

 

――……いやいや、サーブトスは自分で上げるんだから、トスはちゃんと見ないといけないだろ? 見ないで打つのはあのあり得ない正確なトスがあってこそのものだろ?

 

 

 

と普通に考えたら、これは日向でもわかりそうな事実なんだけれど、今の日向は考えつかなかった様だ。勿論、全員前を向いてるので注意もできない。

 

 

本当に思いっきり、思いっきり振りかぶってフルスイング! 見事にボールの芯をとらえる事が出来た様だが、高さが全く足りず、そのまま真横に勢いよくボールが飛んでいき。

 

 

 

 

ばちこーーーーんっ!!

 

 

 

 

 

と、ボールは影山の後頭部を強打した。

 

 

まさかの展開。

 

日向のデビュー戦の一番最初の最初、初っ端のスタートは影山の後頭部への強打で始まった。

 

如何にまだまだ力の足りない日向とは言え、目をつむった上での全力フルスイングだったからか、それなりに威力があったらしく、倒れたりはしないが、影山はネットに頭から突っ込んでいたのだった。

 

 

 

 

 


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