王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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この話からいきなりゼッケン番号が出てきます。

澤村 1番
田中 2番
火神 3番
影山 4番
日向 5番
月島 6番

となってます。本文の中で描写出来てればベストでしたが、完全に忘れてました・・・。


第26話 青葉城西戦⑤

日向の変人速攻が決まった以降の烏野高校の勢いは止まらなかった。

 

 

常に本気で100%信じて跳び続けるからこそ、日向のジャンプに相手のブロックもつられて飛ぶ。その結果、日向が囮となり味方がどんどん攻撃しやすくなるのだ。

 

当の日向は、そこまで深く考えてなかった様で、2度目の囮辺りから顔を真っ赤にし始めた。

何故なら 金田一の煽り……ブロックで止めてやると言う煽りに日向も思いっきり乗ったのに、ボールが来なかったから。

 

「うわぁぁぁ、メチャクチャはずかしーーーっ! 俺、相手に対抗して打つ気満々で【なんだとコラぁぁ!】とか叫んじゃったよ!」

「それ100点のデキだぞ、翔陽」

「ふぇ……!?」

「だって、翔陽が思いっきりいったからこそ、あっちのミドルがつられて跳んだ。結果 点を決めたのは田中さんだけど、それに勝るとも劣らない仕事を翔陽はしたんだ。つまり満点」

 

背を二度三度と叩いて日向を鼓舞する火神。最強の囮の本質を完全に理解したとはまだ言えないんだろう。

 

「そういうモンなんか?」

「そういうモンだ。んで、影山が視野広げてつられた相手も見極めて、スパイカー選んでるから、尚決まりやすい。理想的だ」

 

そして、今度は影山の背を叩いて、日向の方へと向けた。にっ、と笑顔を見せて。

 

「頃合いが来たら、影山が またドンピシャを上げてくれるから、それまでのお楽しみに、だ。だろ? 影山」

「おう。……休ませるつもりはねぇからな。こっからもガンガン打たせるからそのつもりで入って来い」

「お、おうっ!!」

 

 

1年同士が盛り上がった所で、田中が混ざり……そして 金田一の方を見て誇らしくいった。

 

 

「どうだ!?? 影山は前とは一味も二味も違うだろ? らっきょう君!」

「…………くそっ」

 

 

認めたくはないものの、影山とのセットアップが合っている以上、現実は変わらない。

あの影山の無茶苦茶なトスを打てるスパイカーが居るなんて想像もしてなかった。良くて掠ってフェイントの様な攻撃だと思っていたのだが。

 

 

「おい、金田一焦んな。焦れば焦る程相手の思うつぼだ。……点差は少々あるが、それでもこっちの攻撃だって要所では決まってる。呑まれるなよ」

「お、オス!」

 

 

岩泉はチラリと点差を確認。18-14のスコアで烏野有利。

確かに楽観視は出来ない点差になりつつあるのだが、それでも焦れば良いってものでも熱くなれば良いってものでもない。心は熱く、頭は冷静にならなければならない。

岩泉はそれがよくわかっている。……劣勢の場、修羅場を幾度も無く経験してきたのだから。

 

 

 

その後は取られては取り返しを繰り返して 先に20点台に乗ったのは烏野高校。

 

20点取られた所で青葉城西が2回目のタイムアウトを取った。

 

 

 

「ふぅむ……、まさかの伏兵ってヤツだな。無警戒、とは言わないが火神と影山を特に注視していたのは否めない。……正直侮っていた」

 

青城のメンバーが集う前に、入畑監督は チラリと烏野側を見た。あの小さな5番の能力を見て驚いた。とんでもない男がまだあの烏野にはいたのか、と。

 

 

「俺らが何度もやられたトスだよな? アレ」

「……あぁ。影山のあんなムチャブリトスに合わせられるスパイカーがいるなんて思いもしなかった」

 

 

影山が王様と呼ばれる所以のトスを受けた事のある金田一と国見は驚きを隠せれなかった。

烏野が狙っていたビックリタイムとはまた違った驚き。……動揺。それが青城側にマイナスに働いてしまっているのは見て取れる。

主に守備の面では、動揺したままで あのトンデモナイ速攻を受け続けるのはリスクが高すぎる。

だからこそのタイムアウトだ。

 

 

「それは違うぞ。影山がスパイカーに合わせているんだ。中でもあの5番には完璧に、寸分の狂いも無くな。【打たせている】と言った方が合ってるかもしれんな」

「………?」

 

 

頭の中では金田一も理解出来ていた。

スパイカーが打てている以上……全く影山が妥協していない訳はない。一回や二回なら横暴なままの王様状態でも決まる事はあるだろうが、今の所ミスは最初の一球目だけだ。

 

……ただ、金田一は信じたくなかっただけかもしれない。

 

 

 

「外から見るとよくわかる。あの5番は1本目のレシーブが上がって以降、殆どボールを見ていない。見てるのは自陣のスパイカーの位置、相手側のブロックの位置、それだけだ。ブロックが居ない所へ全力で跳んで打っている。そこに影山が――振り下ろされる掌ピンポイントにボールを合わせているんだと思う。……あの5番がどこに跳ぼうとも」

 

 

 

衝撃的な事実。

ただ、スパイカーに合わせる……だけでなく、殆ど不可能だと思える攻撃。それを成立させるには どれだけの精度が必要となるか想像もつかない。人の掌の大きさなんてバレーボール一個分以下。そんな小さな的に狙って高速で上げる……。

 

「そんなこと、可能なのか……?」

「……やっぱ あの、影山が他人と合わせてる………」

 

 

それは色んな意味で、今日一番の動揺かもしれない。

 

 

 

 

 

「―――噂に聞いていた自己中心的でプライドが高く、何より勝利に対して頑なな影山。その影山が、彼の技術全部であの5番を活かす事に徹している。そうさせる程の能力があの5番にあるっていうことなんだろうな。……それと」

 

 

チラリと視線を向けるのは烏野側の火神。

チームをキャプテンである澤村とともに纏めようとしてるのがよく判る。見たところ今は1年生に限った話ではあるみたいだが。

 

 

「今度はあの5番の陰に入ってしまっているが、あの火神の影響も少なからずあるんだと思う。まぁこれも噂程度のものだが、聞いた話によると 影山はバレーで【全部1人で出来れば良い】とも考えてたようだが、背を安心して任せられる様な、相手が出来たんだろう。影山が認めた相手……とは言えないな。これも信頼の形だ。【自分があの5番に集中していても大丈夫。火神が居るから】って感じでだろう。本来ならそういうのはチーム全員で、補い合うのが望ましい事だ。でもそれは信頼関係があってこそ。……影山に限った話ではない。一朝一夕で出来るようなものではない」

 

 

入畑は 心底恐れ入っていた。

 

チーム力を向上させる。

そういったプレイヤーは見た事がない訳ではない。

 

 

仲間を鼓舞し、奮い立たせ、折れない様に務めるキャプテン。

何も言わずとも背で魅せ、信頼をさせる大エース。

幾度も攻撃を阻まれても、その度にボールを拾い続け 背を守る事で鼓舞するリベロ。

 

 

その他にも色んなプレイヤーを見てきた。

 

だが、そんな数多くのプレイヤー達と比べてみたら、火神は何かが違うと思えた。

 

単純に上手い、センスがある、高いバレースキルがある、コミュニケーション能力が高い。

それらだけでは片づける事が出来ない何かが。

 

それは長く苦楽を共にしてきた仲間であれば、積み重ねてきた信頼の厚い仲間であれば、可能であろう事を、高校の部活に入って間もない状態で それを成しているのだ。

 

 

 

昨今出来たチームである筈なのに まるで――ずっと共に在ったかの様に。

 

 

 

「―――本当に色々と驚かされる試合だが、心地良い刺激と受け取ろう。もうお前たちも相手が格下である、とは思っていないだろう?」

 

 

監督の言葉に無言で頷くメンバーを見て、入畑も同じく頷いた。

 

「勝ちたい、と言う気持ちだけは誰にも負けず、繋いでいけ。こちらも今出せる俺が選んだベストメンバーだ。プライドと自信を持っていけよ」

【はい!】

 

 

 

そして、タイムアウト終了の音が響く。

 

「ふぅ……」

「影山に火神……、2人の大型ルーキー。想像したくないような事が早速来ましたね」

「そうだな。うぅむ……これが青葉城西の監督としてではなく 一個人からの主観だったら、その2人の邂逅を歓迎する想いだ。広い視野で見れば日本バレー界を背負って立つ男たちと言っても過言ではないからな。……が、対戦相手とするなら話は別」

 

やや呆れ顔さえ見せる入畑は、烏野側を見た。

まだ、本当にまだ新チームで始まったばかりの時期。そして1年が半分以上を占める烏野。烏が一体ナニに化けたら ああなるんだ? と思わずにはいられない。

 

「高校生はまだまだ子供だ。………まだまだ成熟には程遠い血気盛んな奴ら。チームとしても個人としても、そこから様々な経験、そして挫折だって味わいながら、長く時間をかけて形を成していく。それが成長。なのに、あの男はその過程をザックリすっ飛ばした感じがしてならんよ」

 

一癖も二癖もある影山との信頼感は見てみて手に取るようにわかり、更に あの超速の速攻を成功させた日向も同じく、と言うより言わずもがな。

1年の纏め役なのであろう事は 傍から見ても明らか。

ベンチにまで気を回している様にも見える。

当然同じチームなんだから必ずいる2,3年とのやり取りも申し分なし。新入生特有の生意気さ等は皆無で、気を回し、気を使い……それでいて率先すべき所は率先し、常に上を見ている。その上であのパフォーマンス。

 

ここまで来たら化け物だと思っても仕方ない。

北川第一中学の監督陣が火神を【化け物】である、と称していたが その気持ちがよく判った。

 

 

「今年、そして来年以降も……一番厄介なのは烏野高校なのかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウト後も烏野ペースは変わらない。

日向の攻撃も機能し続ける。その素早く動く姿は、突然視界の中に入ってくる姿は、どうしてもつられてしまうものだ。

そして、相手に穴が出来た所で影山はその穴に……針の穴に糸を通すが如き精度でトスを上げる。

 

センターからの月島の攻撃に対してもそう。

 

 

「月島!!」

「っ!」

 

 

センターからの(普通の)速攻が見事に決まり追加点。

 

「ツッキーナイス!!」

 

山口の声も更に増す。月島が点を取ったら普段の倍増しと言った所か。

 

「ナイスだ月島!」

「…………」

 

そして点を決めた月島はと言うと、自分の掌をじっと見ていた。何とも言えない苦虫を噛み潰したような顔をして。

その顔のまま、影山に辛辣な感想を告げる。

 

 

「お前のトス、精密過ぎて逆に気持ち悪っ」

「ア゛ァ!!?」

 

 

普通に褒める事が出来ないのが月島である。

認める所は認めているんだけれど……どうしても影山相手には、普通な会話が出来てない様だ。反応を面白がってる節もあるんだけど、時と場合を選んでもらいたい、と思うのは火神。

何せ、影山もただ言われただけで終わるような男ではないから。

 

「テメーだけメガネ狙ってやろーか!? 何なら全力サーブ後頭部に打ち込んでも良いぞ!? ああ!?」

「ふーん。やってみなよ。また体育館出禁になるから」

「ばれない様にやってやんよ、ボゲ」

「へぇー、どうやってバレない様にするのか逆に教えてもらいたいもんだね。バカなの?」

 

 

延々とバチバチやってるので、間に火神が入る。

 

「はいお2人さん。その辺りにしとこう。相手は向こう向こう。力も怒りもぜぇぇぇんぶ、あっちの人たちが受け止めてくれるから。存分に胸貸してくれるから 向こうに力いれて」

 

ぐいっ、と間を割った後に青城の皆さんの方を指さした。

【ふざけんな】って睨まれた気がしたが気にしない気にしない。気にしたら余計に疲れるのをわかってるから。

間に入ったのは良いんだけど、ローテーション的には、火神・月島・影山の順になるので結果的にはまた隣同士になってしまうのでまた心配だ。

 

「はは……、ナイスフォローだ火神。……大地さんの笑顔が怖くなってたし」

「あー寧ろ……澤村さんに怒ってもらった方が効果ありですかね??」

 

田中の言葉にそう返す火神。火神は基本的に宥めて仲裁する事が基本。叱ったりもする事はあるが、何と言っても主将からの叱責の方が迫力が違うので効果はあると思う。

 

そう思って 火神は澤村の方をチラリと見たら、笑顔で頷いていた。

【わかってるよ】と優しく言っている様に見えるのだけれど……、軽く悪寒がしたのは気のせいではないだろう。

 

 

 

と言うワケで、こちら側のサーブ。後2点でセットポイント獲得。

 

 

 

 

烏野vs青葉城西

 

 

 

の筈なのに、危惧した通り、あれだけで収まる影山と月島な訳ない様で、火花が飛び散っていた。

 

 

青城側の高身長ブロックに負けずと劣らない迫力を兼ね備えてて、外で勉強しつつ見ていた武田もそう評していたんだけれど、如何せんケンカが絶えないのはどうかと思う。

 

「君はブロックも得意なんだっけ? でも、あんまり出しゃばらないでね。180しか無いクセに」

「てめーこそ吹っ飛ばされんじゃねーぞ。ヒョロヒョロしやがって。腕折れんじゃねぇのか?」

「あーーーったくもう! 始まったら間に入れないんだから、超メンドイ! お前ら前見ろ前!! 打ってくるぞ!!」

 

 

岩泉のスパイクがやってくる。青城側のエースだ。決して油断していい相手な筈がないのに、ブロック同士でケンカが絶えない。………でも、今回は それが功を奏した。

何故なら、互いに負けん気がぶつかり合ってる為、【俺が止める!】と主張し続けたからだ。その並々ならぬ気迫は、相手スパイカーを一瞬怖気づかせる程で、最終的に 火神・月島・影山の3枚ブロックでシャットアウトする事に成功した。

 

【ナイスブロック!!】

 

これで、セットポイント。盛り上がる所なんだけど……。また揉める。

 

「ちょっと。今止めたのボクなんですけど?」

「あ゛!? 俺の手にもあたった!」

「3人の中で一番到達点低かったくせになに偉そうにしてんの」

「殆ど変わらねぇだろうがボゲェ!!」

「もーいーかげんにしてーー……」

「っつーか、俺の方が跳んでたんじゃねぇのか!? 鯖読んでんじゃねぇぞ!」

「はぁ? ボクちゃんと目はついてるんで」

 

 

こんな感じだったんだが、更に矛先があろうことか火神に向いた。

 

 

「おいコラ火神! 俺の方が跳んでたよな!」

「そんなワケないデショ。公平な立場で宜しく火神」

「――――……」

 

幾ら大人な対応を心掛けていた火神とはいえ、もうそろそろキャパオーバーだった。リーダー……保護者? はとても大変です。

 

 

なので、そこにキャプテンがやってきてくれて。

 

 

 

 

「お前らいい加減にしろ!!!」

 

 

 

一喝してくれた。

火神とは迫力の違った怒声に流石の2人も委縮してしまい、それを横で見ていた日向は笑っていて……影山にシメられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ……、金田一に言っといて情けねぇが、俺も焦ってきたぞ」

 

ドシャット食らった事でより危機感が増した岩泉。あの3枚のブロックを抜くのは相当難しいんだと認識した。烏野はあの攻撃だけではないのだという事を。

 

 

そしてそれは外で見ていた入畑と溝口も同じく。

 

「ふ~~~~~むん………」

「これは、どうしたもんですかね。あの5番を止めないといけないのは重々承知なんですが、5番に動かれてる間に3番の火神がまたやってくる……。他のメンバーの攻撃力も決して低くない」

「まさに脅威の一言だ。上手く全員の歯車が噛み合うと此処までになるとは……。特筆した3人を除いても、冷静さは足りないがパワーと気概溢れるスパイカーの田中君。若干覇気に欠けるが、負けん気は影山と張る上にクレバーなブロッカーの月島君。高い守備力を持ち全員を広くカバーする澤村君。……正直、守備面はまだまだ素人まがいなのが居るし、穴も多数あることはある。……が、その素人紛いが思わぬ所で牙をむく。変幻自在の攻撃もあり、正統派(オーソドックス)な攻撃もする。切り替えの速さも申し分ない。それでいてまだまだ完成されていない。伸びしろがかなり高い。―――実に多彩な強さを持つ。これが烏野か。厄介極まりなく……それでいて面白いチームだ」

 

 

 

 

 

 

そう評したその瞬間、火神の1人時間差が金田一の上から決まり、カウント25-21。烏野のポイント。

 

「クソ……、またつられた……ッ」

 

中学の時の事を、火神に一人時間差で打ち抜かれた時の事も思い出したのだろう。悔しそうに歯を食いしばらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっしゃあああ!! このまま2-0で勝ちを掻っ攫うぞ! うぇぇぇい!!」

「あぐっ」

「たっっ」

 

田中は勢いにまかせて、日向と火神の背を叩いた。非常に痛い。

 

澤村は菅原と相手サーブの事と自分達のレシーブの事、それぞれの課題を話していた。

 

「向こうに影山や火神みたいなサーブを打つ奴が居なくて良かったな」

「あぁ。サーブで流れを変えられてたら、どうなってたか判らないしな。……個々の力量は高くてもトータルで見ればウチはまだレシーブは良いとは言えないから」

 

 

要所要所でカバーをするにしても限度がある。

日向は特にレシーブはまだまだ下手で、月島も苦手を公言している事もあってまだまだ課題は沢山ある、と言う事だ。

 

 

そして、もう一つ澤村には気になる事があった。

 

「なぁ、火神……。ちょっと気になる事があるんだが」

「いたた……。あ、はい。なんですか? 澤村さん」

「確か【チームキャプテンが居なくても】って言ってただろ? それは、どういう事なんだ? キャプテンは別のヤツがやってるって事なのか?」

 

 

キャプテンが必ずゲームに出なければならない、と言う決まりはない。スターティングメンバ―には入らず、要所で投入し流れを変える、流れを切る、落ち着かせる等の役割を持った場合も少なくない。

だが、火神の口ぶりだとそうは聞こえなかった。

 

 

全員でキャプテンが居ない穴埋め(・・・・・・・・・・・・)をしている、と聞こえたのだ。

 

 

 

「あ~……、え、えっと 青城のキャプテンは今日ちょっと故障してるらしくて……」

 

火神にしては歯切れの悪い返答だった。

そもそも何で故障云々を知っているのだろう? と新たな疑問を浮かべた澤村がそれを聞こうとしたその時だ。

 

 

 

「アララッ。1セット先取されちゃったんですか!」

 

 

【キャー――― 及川さ~~~んっっ!! やっと来たぁぁ~~っ!!】

 

 

 

さっきまで殆ど無かった黄色い声援と共に……やって来た。主役は遅れてやって来る、と言わんばかりの登場だった。

 

「おい女子の声だぞ日向! 何事だ!?」

「女子の声ですね! 田中さん!」

 

女性の声に反応し、最も早く振り向く日向と田中。

そして、遅れて他のメンバーが振り向く。

 

視線の先には―――青城バレー部のキャプテン 及川 徹が居た。

 

 

「おお、戻ったのか! 足はどうだった!」

「バッチリですよ。もう通常の練習もイケます! 軽い捻挫でしたしね」

「まったく気を付けろよ及川。向こうには【影山と火神出せ】なんて偉そうに言っといて、こっちには出てないヤツが居ます、じゃ頭上がらんだろうが! それもお前は正セッターだぞ!」

「スミマセ~ン。あははは………」

 

 

 

謝ってるのは謝ってるんだけど、何処となく軽い感じがする。何ならチャラく見える。

 

黄色い声援が及川に集中するから、田中の怒りゲージが増し増しで上がっていく。

そして、影山にとってはある意味で因縁の相手だから、影山の警戒心が増し増しになる。

 

更に、火神もそれは例外ではない。

 

「……火神、及川さんと面識あんのか? 故障してる事も知ってたし」

 

深くため息を吐いてる火神を見て、影山がそう聞いた。

火神は、それを聞いた後に軽く頭を掻きながら答える。知っている、と言えば火神は誰よりも知っているだろう。……そんなズルい事を抜きにしても、火神は及川と面識があるのだ。

 

 

「えっと……、スカウトに来たって話はしたと思うけど、そこに及川さんもいてね……。ああ、後 故障云々を知ってるのは、えー、その……うん。練習試合前に会ったからなんだ」

 

 

火神はまた言葉を濁す。

 

その濁すのにも理由は勿論あるのだ。

ただでさえ、女子の声援があってテンションが上がったかと思えば、及川に全て取られてテンションゲージが怒りに変わってしまってる田中がいる。

 

ある事実を田中に話してしまったら、更に悪い意味で盛り上がりそうなので、試合中は黙っておこうと言うのが真相。

 

 

 

 

そして、田中が悪い意味で盛り上がると言えば 当然 清水関係である。

 

 

 


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