王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第27話 青葉城西戦⑥

【えー君が火神誠也君かな? どうも~! 宮城の高校No.1セッター 及川で~す! 君に会うために遥々やって来たよ~!】

 

 

 

彼との最初の出会いは、本当に予想はしてなかった。

していなかった、と言うよりそう簡単に予想出来るものでもないと言える。

 

 

青葉城西の及川 徹。

 

 

火神が知らない筈がない。

全国大会には白鳥沢に阻まれているので、全国的に見れば知名度は皆無だが、その実力の高さはこの宮城でバレーに携わっていて及川を知る者なら誰もが知っている。

それに県大会のテレビ中継ででも何度か紹介されている。

 

 

―――勿論、火神が知らない筈はない。よく知っているつもりだ。

 

 

だけど まさか高校ではなく中学で出会う事になるとは流石に思っても無かった。

 

 

 

及川は青葉城西の監督陣と共に来た。

因みに通算すると青葉城西は火神の所に2回 スカウトに来ている。

 

 

2回目に及川が一緒にやってきて物凄く驚いていた。

 

 

そして、火神の前でダブルピースしてる及川。

 

突然だったので火神は驚いてしまって反応が遅れてしまった。

なので及川は【あれ? スベっちゃったかな??】と思ってしまった様で変な間が生まれたのは、今では良い思い出だ。

 

 

 

火神は勿論その後、無名校の自分にスカウト、とは非常に光栄で有難い話ではあったのだが慎んで辞退させてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――時は流れる。

 

高校の青葉城西との練習試合前。

 

火神は試合の少し前に掌に違和感があった。

手を見てみると……血が流れていたのだ。どうやら、いつの間にか血豆かなにかが出来ていて潰れてしまった様だった。幼い頃からボールに触ったり、色々と運動をしてきた為 それは日常茶飯事な出来事の1つ。

だから、気にしない――……訳にもいかない。バレーボールが血で汚れてしまうし、そもそも試合で出血が起きてしまえば、止まるまで交代させられてしまう。今回の練習試合の条件の1つに火神の出場があるので、血の付いたまま、と言うのは頂けない。

 

【澤村さん。すみません。ちょっと血が出ちゃったみたいなので―――】

 

だから、火神は澤村にそう伝えて血の部分を洗い流す為にトイレへ向かった。

 

【清水。火神を頼む。救急セット持ってるよな? 後、外れない様にテーピングも】

【ん。了解】

 

もう直ぐに試合が始まるから、多少なりとも火神は慌てていたのだろう。いつもなら、応急措置をする為に洗い流すだけでなく、しっかり絆創膏なりテーピングなりを備えていくだろう、と想像できるんだが。

清水は常備している救急箱を肩に担いで、火神の後を追った。

 

【火神も人の子だって事だよ、大地。まーーーったく緊張してないって訳じゃなさそうだ】

【ああ。それにさ、スガ。世話をやかせてくれるのが新鮮でどっか嬉しいって思ったの初めてだわ】

【ははっ、何だよそれ!】

 

何だか微笑ましいものを見る様に、慈愛に満ちた視線を送る3年生たち。

親戚か? とツッコミたい気分とはまさにこの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、色んな扱いを受けてた当の本人の火神は、男子トイレで用を足しつつ、血もしっかり洗い流していた。

 

その後外に出てみると……、彼――及川と再会したのだ。

 

 

【やっほー、君烏野のマネちゃんデショ? すっごく美人だし、よく覚えてるよ~】

【………………】

【どこ行くの? ガッコ―案内しようか?? あ、体育館の場所わかんないとか??】

【………………………………】

 

 

厳密に言えば、清水をナンパしようとしてる及川にばったり。向こうはナンパに夢中で気が付いてない様だ。

 

華麗にスルーされてる様だが、なかなか諦めが悪い。

田中とどっこいどっこいだった。清水はそういうのに慣れている様なので、まるで最初から存在などしてないかの様に。

華麗で優雅、まさに才色兼備。

 

【……はぁ、何してるんですか? 及川さん】

 

見てしまったのは仕方ないので、火神は声を掛ける事にした。清水も内心では困ってる筈だと思う。田中や今はいない烏野の某リベロの人(・・・・・)なら兎も角、他校の生徒に強気拒否はなかなか難しいのかも、と思うから。

 

【おっ!?】

 

そして、及川はその声に反応。

清水の事ばっかり見てて、周囲を疎かにしているのでは? とも思えたがどうやらそうでもないらしい。

 

【せいちゃんじゃ~ん。元気にやってる?? トビオの扱い頑張ってる?? 【及川さんとおんなじ高校にしといた方がヨカッタ~】って後悔してない??】

 

両手を広げてハグでもするの? と思う体勢だったが 生憎男に抱き着かれて喜ぶ様な趣味はない火神。勿論、こっちで出会う人はもれなく全員好きなのは好きなんだけれど、及川とは初めてではないので、感動はそこまではしていない。

 

【あはは……。影山の事は兎も角、後悔云々を聞くのまだ早計だと思うんですけど……、でも結論は変わらない自信はあります。俺が自分で選んだんですから。それが間違いだとは思いませんし、思った事も今のところはないです】

【ふ~~ん。そっかー】

【はい。……及川さんだってそうでしょう? 物凄い選手で有名ですし……】

 

火神がそういうと及川は【いや~そうでもあるけど?】と言いながら照れたように頭を掻くんだけれど、途中でその手が止まる。

 

【優勝を狙うんだったら、十中八九 白鳥沢を選ぶと思うんです。ここ数年連覇し続けているのは白鳥沢ですから。それで及川さんは白鳥沢ではなく青葉城西を選びました。白鳥沢でバレー、ではなく白鳥沢を倒す為に。……後悔なんて微塵もしてないんでしょう?】

 

火神が自分の何を知っている? と及川は思えた。

 

そもそも出身校も違う。

出会いは中学の時に一度だけ。

出会うまで名前とか顔も全く知らない赤の他人。

 

なのに、火神の表情には云わば自信の様なモノが見えたんだ。

 

或いは、知っているのではなく信じている。【及川は自分で選んだ事に後悔をする様な人では無いだろう】と信じている様なそんな感覚だ。

 

【及川さんとバレーをするのはとても魅力的で面白そうです。……が、俺は烏野を選びました。その事で後悔したりはしませんよ】

【ふ……ん。前と違って結構生意気なこと言ってくれるね。高校生になって一皮むけたって感じかな】

【はいっ。生意気になっちゃってすみませんっ!】

 

にっ、と白い歯を見せながら笑う火神を見て、流石の及川も毒気抜かれた様だ。

生意気な後輩は今までいなかった訳じゃない。その影響で色んな感情が入り乱れて精神崩しそうになった時だってある。

でも、目の前の男の生意気さには、何処か心地よい物もあった。不思議な感覚だ。

 

 

【……そんな爽やかな顔で言われたら、毒気抜かれるってもんだよ】

【あはは。いつもこんな顔なんで許してください】

【……火神、ちょっといい?】

 

笑ってる所で、清水が入ってきた。

差し出されたのはタオルと絆創膏、テーピング。

 

【しっかり血を止めて。後固定もしておきなさい】

【あ、忘れてたんです。わざわざありがとうございます。清水先輩】

【うん。だと思ってた。火神もたまにそういうところあるし】

 

軽く笑う清水を見て、及川の身体に電流が……否、雷が落ちてきた。

ガーーン!!と言う擬音を発声しつつ状態を逸らせ、後ろへ後退り。

 

 

【せ、せいちゃん、高校に入って直ぐにそんな歳上美人マネちゃんと付き合ってるなんて……うらやまけしからん……!!】

【違いますよ】

【違います】

 

 

ほぼ同時に否定する清水と火神。お互い思わず見てしまって、更に笑った。

 

否定されても、そんな息が合ってる様にも見えて且つ自分は完全に無視されたのに微笑み合ってる様にも見えるので、更に及川にダメージを与える結果になった。

 

 

その後、及川の現状をそれとなく聞いた。

脚を捻挫しているとの事だ。そして、それは軽いものだと思っているが、しっかりとした判断は医者が下してくれるので、その結果待ちだと。

 

 

お互いにこんな所で油売ってる暇ないでしょ? と言う事でそれぞれ戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

色々と問題ありな所もあるが、実力は相当高い青葉城西のキャプテンが満を持して登場。

 

女子の声援も絶えず体育館に響いて響いて、その度に田中の表情が怖くなる。

 

「……火神君。あの優男と面識あるんですか? ひょっとして火神くんは裏切りもんなんですか??」

「いやいや、裏切り者ってなんですか……。スカウトに来てくれた人の1人ってだけですって」

「そうなんですか。ボク、物凄く不愉快です。ええ、ほんとに」

 

田中が丁寧な口調で話す時は、ある意味怒ってる時より恐ろしく思う。……不気味っていう意味で。真顔で迫ってくる様はまさにホラーだ。

 

「そういえば、及川さんは影山の先輩だったっけ?」

「ああ。……中学時代のな」

「(王様の先輩ってことは……つまり【大王様】!?)」

 

影山の先輩であり、王様の先輩なので大先輩だ、と日向も盛り上がる。

 

「火神くん、影山くん、あの優男、バレーの実力はどれ程なんですか?? ボク、全身全霊で捻り潰してやりたいのですが」

「捻り潰すって そんなオーバーな……」

 

物騒なことを言ってくれる田中は置いといて、取り敢えず説明をする。田中以外の皆も聞きたい、と言う顔をしてるから。

 

「及川さんですが県内でNo.1って呼び声も高い超攻撃型のセッターなので実力はかなり高いと思いますよ。県内バレー記事の特集で、白鳥沢と一緒に紹介されてましたし」

「………俺も同じ様な感じで説明します。火神に付け加えるとしたら、サーブとブロックはあの人を見て覚えました。更にその上性格がものすごく悪い」

「えええ!! 殺人サーブの!? ってか、性格って、お前が言う程に!?」

「……あぁ。月島以上かも」

「なんだと!? それはひどいな!!」

 

 

火神はちゃんと及川の事を説明しているし、しっかりとその実力の高さを伝えているんだが、他の影山は一言余計。性格が悪い、と事実ではあっても直接声に出して伝えるのは如何なものだろうか。……日向は日向で影山に失礼な事言ってる気がするが、そこはいつも通りなのでスルーだ。影山もしれっと月島をディスってるので、皆お互い様。

 

火神だけ生意気でも許せる、みたいに感じた及川の感覚はある意味正しかったと言えるかもしれない。

 

 

 

「やっほ~~、トビオちゃん! 元気に王様やってる~? あ、それにせいちゃんも! さっきブリだね~~」

 

 

手をヒラヒラと振ってくる及川。火神は頭を下げて答えるけれど、影山はあからさまに視線を逸らせていた。

 

 

「けど、今は試合に集中だ。このセットも取って勝つ」

「お、おうよっ」

「はは……影山は及川さんの事苦手なんだなぁ」

「に、苦手って訳じゃねぇし!」

「説得力ないって。普段の影山なら、誰が来ても勝つ!! って言いそうだけど それじゃ及川さん来る前に勝つ! みたいになってる。どうせなら強い青葉城西と、じゃないか?」

「っ………」

 

図星を刺された様で、影山は言葉に詰まらせていた。

影山の勝利に貪欲、負けん気の強さも相当に高い、プライドも同じく高い。……だが、やはり影山とて苦手な相手と言う者はいるのが改めて理解出来た。

 

今回ばかりは火神に同調出来なかった。だが、いずれは……。

 

「ともかーく! 誰が来ても擂り潰――す! 優男擦り潰ーーーす!」

「って、田中さんは威嚇しないで下さい……」

「そうです止めて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

及川が登場した事で緊張が走る。でも、当然イキナリ出場する訳ではなかった。

 

「とにかく、お前はアップとってこい! いつもより念入りにだぞ!! また怪我なんかしたら承知せんからな!!」

「はぁ~~~い」

 

 

脚の捻挫の事を考えて 念入りにウォームアップ後に出る、と言う言質を頂いた。間違いなく及川は出てくる。

より―――影山に緊張が走る瞬間だった。

 

 

 

その後、一進一退の攻防が続く。

及川が戻ってくる、と知ってからの青城の選手達は何処か気合の入り方が違って見えた。ビックリタイムが続いている様だが、それでも 及川の前で負ける訳にはいかない、と強く思えたからだろう。

 

特に3年達は 虫の居所が悪くなる、と言う個人的な感情があったりもするが。

 

 

「ね~~、及川さんまだ出ないのかなぁ?」

「バカ! ちゃんとウォーミングアップしないとまた怪我しちゃうんだから!」

「ええーーっ、それはダメーーっ!!」

 

 

「………………チィっ!!」

 

その後も及川エールの黄色い声は続く。

どんなに小さな声でも聞き逃さないのが田中だ。女子からの声援が耳に入る度に、イライラゲージが増し増しで上がり、力も入りまくる。

 

スパイク一発の重さが強く、ブロックを抜けたらそう拾えるものではない。

 

……余計な力が入って雑な~と言った感じには田中はならないのだろう。こういった劣等感&嫉妬パワーを全てボールに込めるので単純に攻撃力が増していく様だ。

 

 

日向の速攻も決まり、火神のブロード攻撃も決まり、更には月島のブロック。守備面も澤村がカバーに回り、良いリズムのまま先に烏野は20点台に突入した。

 

 

「及川さん効果、田中さんに効果覿面だ。……威嚇させたままの方が良かった?」

「いや、下手に挑発するのは賛成出来ない。及川さんの実力は俺も解ってるからな。……主将も後ろで睨んでたし、結局の所は出来ないとは思うが」

「それもそうか……」

 

 

 

その後、田中の怒りのスパイクが23点目を叩き出して、カウント23-18の優勢。

 

「こ、の……! 調子に乗るな!!」

 

金田一が意地のスパイクで取り返すが、烏野のペースはまだまだ継続されているだろう。

このままだと敗色濃厚。入畑監督の表情が険しくなったところで及川が戻ってきた。

 

 

「アララ~。ピンチじゃないですか」

「……アップは大丈夫だろうな?」

「はい。バッチリだいじょーぶです」

 

 

まさにヒーローは遅れてやってくる状態。本当に分かりやすく場に表れている。

青葉城西の体育館だし、完全ホームだからか より多く、大きく歓声があがっていたから。

 

主に女子からなので、より多く、大きく田中の頭に怒筋が……。

 

 

 

 

「お、及川出るんだ。国見とチェンジだし、ツーセッターでいくのかな?」

「いや、と言うよりはピンチサーバーじゃない?」

「あ、そっか。まさに状況はピンチそのものだし。アイツのサーブなら流れ簡単に変えそう」

「そうだよね。それにここ最近の及川、サーブに力めちゃ入れてたみたいだし。点差はまだまだあるけど…追い付けない差じゃない」

 

 

ピンチサーバーとは、サーブをきっちりと決めたい場面やピンチの時に流れを変える目的などで投入されるサーブが得意な選手だ。

 

観戦している女子バレー部たちが言っている通り。狙いはサーブで崩す事。

そしてまさに及川にはそれが適任。

 

 

「攻撃力が凄いのは解ったよ。……でも、その攻撃にまで繋げなきゃ意味ないよね?」

 

 

影山が彼から学んだと言っていた。同じバレー部所属の人たちも言っていた。

及川のサーブが如何に強力なのか、そこから容易に想像ができる。

 

 

「さぁて、悪いね。点差もあるし、狙わせてもらうよ」

 

 

及川はそう呟きながら指をさした。

 

その先にいるのは月島。

今から始まるのは、強力極まりない王様の先輩、大王様のサーブ。

 


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