王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第28話 青葉城西戦⑦

及川が月島のことを指さしてるのは、コート内からでは やや判りにくい。

でも、外から見てみたらよく解った。

 

試合に出られない分、今後の為にも全てのプレイを見逃すまいとしている菅原には特に。

 

「(なんだ……? 月島を指さしてる……?)」

 

ただ、その理由はまだわからない。

そして月島本人にも指をさされた事は解ったのだが、その行為が何を意味するかは理解できていなかった。

 

 

 

そして数秒後――その理由を理解する事になる。

 

 

 

高く上げられたサーブトスは、ジャンプサーブの初動。

助走よく跳躍し、完璧に芯を捉えたジャンプサーブは一直線に月島を狙って放たれた。

 

 

その威力はまさに弾丸。影山の師であると言うことがよくわかる。

 

 

相手側にあったボールは小さく見えていたのに、ほんのコンマ数秒後には大きな弾となって迫ってきた。

 

「!!? うっ!」

 

咄嗟に構え、レシーブする腕に当てる事は出来た月島だったが、捉えきる事が出来ず、ボールは外へと弾き出された。月島の腕に当たっても尚、そのボールの勢いは収まらず 2階の手摺部分に当たり、そのまま2階の壁に激突。場を黙らすには申し分のない威力のあるサーブだった。

 

 

「な、なんつー威力……、影山や火神と同じ…… それ以上!?」

 

 

体感してみないと判らない事ではあるが、菅原の第一印象、評価はそれだった。

 

月島も表情を歪ませる。レシーブは不得手ではあるが、強力なサーブを受けた事はある。忌々しくも思うが 火神や影山のサーブは十分強力そのもの。故に今回の試合でも それ以上のサーブはなかったからある程度の心構えの様なモノは出来ていたのだが、それを嘲笑うかの様な、そんな一撃だった。

 

 

「……うん。やっぱりそうだ。OKOK」

 

 

及川は、サーブを打ち点差が縮まったのを確認し、一呼吸をした後 確信していた。

そしてにこやかな表情を浮かべつつ、相手側の方を見ながら言った。

 

「途中、外から見てたけど 6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ? 1年生かな? もうちょっと頑張らないと取れないよ~」

「!!」

「ううっ!!」

 

 

図星を突かれた事、そして 軽く煽られた事もあって 日向も月島も解りやすく反応していた。(特に日向)

月島も冷めた態度を取る事もあるにはあるが、負けず嫌いな所もある。ここまで直接的に攻撃され、狙われたら涼しい顔をしていられない様だ。

 

 

「(やっぱり、アイツら以上の威力。それに加えて宣言通りのコースに打つコントロール……、これが青城の主将か……!)」

 

 

たった1人で戦況を覆す、それを可能にするのが強烈なサーブ。

バレーボールにおいてサーブとは、ブロックと言う守備の壁に阻まれない究極の攻撃。

 

及川クラスのサーブともなれば、それは究極に加えて凶悪だ。

 

 

「じゃあ、もう一本いくから 頑張ってね?」

「――――……ッ!」

 

 

嫌味たらしいとはこの事だ。

冷静な月島も歯を食いしばり、攻撃に備えるがレシーブが苦手である事実は変わらない。

以前、月島が日向に言った事がそのまま自分に跳ね返ってくる。

 

【気合では明確な差は埋まらない】

 

現時点でのレシーブ技術とあの及川が放つ攻撃には圧倒的に差がある。練習すれば上達するだろうが、今あのサーブを完璧に捉える様になるのは無理だ。

 

 

「ッ!!」

 

 

放たれた2本目。

威力・精度共に変わらず月島へと迫った。

2度目もそのボールを捉える事が出来ずに、外へと弾き出された。追いかけても無意味。2階へこそ飛んでいく事はなかったが、体育館壁に激突して跳ね返ってきたから。

 

「ツッキィィィィ!!!」

 

山口の悲痛な叫びが耳に届くが一切月島の頭には入らない。

 

月島は解っている。レシーブの技術が周りより劣っている事、そして相手は県内でも恐らくはトップクラスのサーバーであるという事。つまり、自分では敵わないという事。

 

それらが頭ではわかっているが、それでも感情を完全に殺しきるなんて出来なかった。

 

「くそっ………」

 

悔しいものは悔しい。狙われる事に、そしてボールを取る事が出来ない自分に。

 

 

「(月島ザマァ!! ………なんて思えないし、言えない。いつも意地悪だし、性格悪いし、ノッポだし、ムカつくし! ………でも、なんか、なんか腹立ってきた!!) おいコラ!! 大王様!! 俺も狙え! 俺も狙え!! 取ってやるから狙えよ!!」

「(大王様ってなに……?)」

 

 

ジタバタしだして狙えアピールする日向。

大王様という単語に困惑する及川。

 

そして、色々と葛藤している月島だったが、日向に同情されるのはそれ以上に嫌だ。

 

「子供じゃないんだ。 みっともなく喚くなよ!」

「なんだとっ!?」

 

仲間意識を持って庇う仕草を見せたのに! と日向はご立腹。

だが、この時日向の中ではある名言が頭の中によみがえっていた。

レシーブが上手くできなくて、ヘタクソでも構わないんだ。

 

何故なら――。

 

「(ピンチの癖に! でも、そんな事よりも!) お前なぁ! バレーボールはネットの【こっちっ側】に居る全員!! もれなく【味方】なんだぞ!!」

「~~~~~ッ」

 

 

仲間であり、1人の失敗は皆で補う。

もう少し格好良く名台詞を決めてもらいたかったが、ジタバタしてるので 何だか様にはなってないが兎に角セリフは決まった。

 

田中から受け継がれたモノを早速使っていて、田中も何だか嬉しいのか喜んでいた。

そこへ火神が間に入って両手を数度叩いた。

 

「よしよし! 田中さんの名言がいい感じで 堅さを解してくれたって事で、対策タイムだ。時間あんまりないけど」

 

 

そして、火神は及川の方をじっと見る。その視線に及川も気付いたんだろう、不敵に笑っていた。その笑みを受けて火神も同じく笑う。

 

「……及川さんのサーブは凄い。こんなサーブ滅多に受けれるもんじゃないし、この機会を逃したくない。つまり何が言いたいかというと、俺も体感してみたい!」

 

あっけらかんと言う火神を見て、思わず笑ってしまうのは田中。

 

「やっぱおめーは大モノだべなーー。あんなの見て受けてみてぇって思っちまってるし。俺はなぁ……」

「何言ってるんですか。田中さんは及川さんを擂り潰すんでしょ? なら、受けないといけないじゃないですか。やっちゃいましょう!」

「お、おおよ!! 勿論だぜ!!」

「俺も俺も!! と言うかオレがとーーる!!」

「ヘタクソのオマエに取れるかボゲ。ホームラン連発するだけだろ」

「むっっ!!」

 

 

うおお、と無理矢理感はあるが、火神に発破をかけられた田中は気合の雄たけびを上げる。

日向も便乗して自分があげる宣言をして……影山に一蹴される。

 

 

及川の強烈なサーブ連発で落ちていた士気が戻っていくのを感じた。固くなった身体が柔らかくなるのを。

 

 

それをみていた見た澤村も ふっ、と笑みを浮かべつつ肩の力を抜いた。

精神的な支柱はキャプテンの役割の1つ。後れを取った事は反省しつつ、対策を練る。

 

「よし。……火神の言う通りこんな機会はあまりない。平等に全員で取ってやるって事にするか。全体的に守備位置を下げるぞ。月島は少しサイドラインに寄り気味だ。火神はその前。田中はレフト側を頼む。―――次は取るぞ」

 

 

澤村の指示で全員が配置に動く。

陣形的には 澤村を中心に添え、そのサイドを田中と火神が守り、まだ不得手の日向がアタックラインのやや内側、月島をコートの角に配置。

 

 

「ふーん……成程。全体的に下がって守ってるみたいだけど、狙いは主将君とせいちゃんが守備範囲を広げるって事か。確かにあの2人は守備力高そうみたいだしね。……まぁ、次はチビちゃんを狙っても良いんだけど、せいちゃんの好戦的な目が気になるなぁ」

 

 

及川は、【こっちに来い】と言わんばかりに構えている火神を視界にとらえていた。

先ほどの会話も勿論聞こえている。サーブを体感したい。

 

……つまり、自分と勝負がしたい。

 

そう目で言っているのが判る。好戦的なのが目を通してよくわかる。

及川もサーブに関しては磨きに磨き上げたという自負がある。研ぎ澄ませ、力を蓄えて完成させたサーブだ。だからこそ、自分自身の最高の武器の1つであると自信を持っている。

 

 

歳下に挑戦状を叩きつけられた。ならばどうするか。

 

 

「ふっふっふー。よし乗ってやろう!! ―――っていう訳にはいかないんだよ。悪いねせいちゃん。これがこんな場面じゃなかったら 勢いよくやってあげる! 打ってやる! って言っても良かったんだけど、ウチは今ピンチなんだよね~~。確実に点を稼がないと負けになっちゃうんだ。監督が言うには1試合のみの練習試合だし」

 

 

今回のその挑戦は受けない、と不敵な笑みを浮かべる及川。

 

見る人によっては逃げと捉える者もいるかもしれない。だけれど、個人の事情を優先させて チームが敗北でもすればそれは本末転倒だ。如何に練習試合とはいえ。

 

 

「狙うのはメガネ君。ごめんね~ せいちゃん」

 

 

ウインクしてるのが遠目からでも判る火神。

練習試合とはいっても勝負なんだから、相手にかける情けなんか必要ない。だから、謝罪もいらないし。

 

などなどが頭の中を巡りつつも、火神は及川という人がどんな人だかわかっているから、それをも楽しんでいた。

……そして、影山はそれを見て、……自分が苦手な相手に笑って受けている火神を見て身震いをするのだった。

 

 

「さっ、まだまだ稼がないと……ねっ!!」

 

 

及川が放ったジャンプサーブは今回は威力がやや落ちていた。

 

それは正確に月島を狙う為、パワーを落として精度を高める為の様だ。

これも言うは易く行うは難し。コート隅に居る小さな目標に向かって放つのは非常に難しい。少しでも加減を間違えるとアウトになってしまうだろう。その上終盤の劣勢、後2点で敗北が決まるこの場面で。如何にピンチサーバーで、出てきたばかりとは言え、かなり強い心臓を持っているのは見てわかる。

 

「チっ……!(完全に月島の真正面!)」

「月島!」

 

澤村も火神もカバーに回ろうと備えているが、ここまでピンポイントに狙われたら無理だ。月島をエンドラインギリギリに立たせ、サーブレシーブから外す陣形も考えていたんだが、そこまであからさまにしていたら、まずレシーブの薄い日向・田中の周囲を狙われる。 

レシーブが苦手な月島と日向であれば、月島の方が成功率が高い為 ここまで狙われたら月島が自力で獲るしかない。

 

「あんな端っこに居るのにピンポイントで……!」

「でも、コントロール重視の分、威力はさっきより弱いです。……これ、取れなきゃどうしようもないぞ、月島!!」

「ツッキッィィッ!!!」

 

 

「ッ!!!」

 

外野からも声援? の様なものがとぶ。

それに圧される様に……と言うワケではないが、菅原の言う通り、威力は先ほどよりも明らかに弱くなっている。そして、これまでの屈辱。それらを全て総動員して月島はレシーブ。

バァンッ! と月島の腕に当たり、ボールはけたたましい音を響かせながら、相手コートへと飛んでいった。

 

 

「っ! 兎も角上がった!! ナイスだ月島!」

「ヅッギーぃぃぃ、ないすぅぅぅ!!」

 

 

「おっ、取ったね。えら~~い。ちょっと取り易すぎたかな? でも―――こっちのチャンスボールなんだよね」

「くそっ……!!」

 

バレーはボールをコートに落とさなければ点にならない。落とさなければ負けない。だから、例え相手コートに戻ってしまったとしても、例えチャンスボールを与えてしまったとしても、点を取られる訳ではない。……攻撃をされるのなら、守れば良いだけだ。

 

 

「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。きっちり決めろよ? お前ら」

 

戻ったボールは、丁度後衛の及川の元へ。幸か不幸かセッターである及川にボールを取らせた為、及川のセットアップではない。

 

「翔陽。ちょっと良いか」

「おう!? どーした!?」

 

前衛に上がってる火神は、隣の日向に耳打ちをしていた。

一体何を話してる? と及川は一瞬疑問に思ったが、考えている暇も、指示を出すような暇もない。

Aパスで戻ったボールを矢巾が金田一に上げていたから。Cクイックでの攻撃。高さと速さで攻撃を仕掛ける金田一。

 

「くっそっ……!?(ついてきやがった……!!)」

 

振り切るつもりだった金田一。だが、マッチアップの相手は火神だ。

火神はセッターに注視。ツーアタックの可能性は位置と視線・構え的にほぼ無いと判断。後は金田一か岩泉か、それとも及川を含めた後方からのバックアタックか。攻撃手段は多いが、それでも火神の頭の中ではある程度予測は出来ていた。

 

取らなければならない場面、青葉城西の中でも最も高身長の金田一、岩泉に続いて2番目に得点を重ねている男。そして――ちょっぴり卑怯ではあるが、火神の知識。

 

勿論 全てが同じな訳ないので、確実・100%とは言わないが……、一番確率が高いのも事実だ。加えてコミットブロックではなく、リードブロックを意識して身構えていた為。直ぐ動く事が出来た。

 

火神は、金田一に的を絞ってブロックに跳ぶ。

 

「(クロス……無理。ストレート、打ち抜く!!)」

 

火神の両手とアンテナの間目掛けて、金田一は腕を振るった。ボール2個分程は出来ていた空間の為、問題なく打てる……筈、だったのだが。

 

「うおおおおっっ!!」

「っっ、くッ!」

「はぁっ!?」

 

 

金田一の脳裏では、打ち抜ける筈だった。レシーブで上げられるかもしれないが、それでもブロックは躱せた筈だった。なのに、火神の腕が突如横にズレた。ボール2個分あったスペースは潰され、火神の手に当たって、ボールは高く烏野側のコートに。

金田一は一体何が起きたのか直ぐには理解できなかったが、少し遅れて理解出来た。

 

「こ、の…… チビっ!!」

 

そう――日向が火神の身体に横っ飛び体当たりをぶちかましていたのだ。

いわば、半開きになっていた火神の扉が 日向の一押しで閉じてしまった状態。空中でぶつかられて堪える火神にも驚きだが、少なくとも火神以外は振り切って1対1の状態にした筈なのに、日向が突如現れた事に驚きを隠せなかった様だ。

 

 

「よしっ!」

「ナイスだ! 日向! 火神!! チャンスボール!!」

 

 

日向は、火神に思いっきりぶつかった為、それとなく謝罪意識を持っていた様だが、火神は日向の顔を見てなくても 大体理解していた。

なので、着地した所で指をさした。

 

「走れ翔陽!!」

 

そしてそう伝えた。

 

それに身体が反応した日向は、すぐさま走りだす。コートの端から端への移動攻撃。

普通ならそんな奔放な上に空気を切り裂くような動きで回られたら合わせられるモノじゃないんだが、こちら側には影山が居る。余りあるセンス・技術を総動員した影山のトスは、今やどんなスパイカーにも合わせられる。

 

そして、一瞬・一歩。ほんの少しでも遅れてしまえば、日向に追いつくことは出来ない。追いつく事が出来るのは 影山の正確無比なトス、ボールだけだ。

 

 

日向のブロード攻撃は、上がった影山のトスを空振る事なく正確に打ち抜き、及川の真横に打ち込んだ。

 

「!!」

 

外で日向の移動攻撃は見ていたつもりだった。あのあり得ない速攻を見ていたつもりだった。

だが、見るのと実際に体感するのとではワケが違う。それに、日向の気迫あふれる攻撃に一瞬だけ気圧されてしまい、手を出す事さえできずに、ボールを地につけてしまった。

 

 

カウント24-21。

 

 

 

一瞬唖然とする体育館内。何度かあった変人速攻だが、今回のそれはまた一段と別格だったからだ。

 

 

「……なに今の?」

「コートの端っこから端っこまで、一瞬で……」

「スパイカーの手に吸い込まれるみたいなトスも……」

「ていうか、最初のブロックも……」

「思いっきりぶつかられたよな? どんな体幹してるんだよ、アイツ……」

 

 

徐々にざわついていく体育館内。

 

だが、忘れてほしくないのはまだ決着がついていないという所。

 

 

「……っとと、はいはーーい。今のは正直俺もビックリしたけど、まだ試合は終わってないよ? 次は凄いヤツのサーブだけど……プライド見せてこうぜ。こっから追いつくぞ、お前ら」

 

 

日向に魅入っていた及川だったが、直ぐに気持ちを切り替える。

 

そうしなければならない明確な理由がある。次のサーブ相手が火神だから。

 

 

「(翔陽が決めて終わったー、って感じに一瞬なっちゃったけど……まだ終わってない)」

 

ふぅ、と息を吐く火神。

まるで あの攻撃は敵味方問わず、惹きつけてしまう様だった。

 

だが、攻撃をきめた当の本人たちはそんなこと考えてない。

 

「せいやナイッサー!!」

「決めろよ」

 

次の攻撃を、そしてボールに備えている。どんな攻撃が来ても対応できるように。

影山は、日向に先ほどのブロックの継続を指示。急に視界に入られたらどんな鈍感な男でも気にならない訳がない。当たらなくとも日向のブロックは相手にプレッシャーを与える事が出来ているから。

 

 

そして、気を取り直して火神のサーブ。

 

 

大事な場面、後1点で勝利する場面。だが、それだけに難しくもある。

それに及川が入った事で青城が変わるのは言うまでも無い事だ。

 

確かに点差はあるが……火神はこれを無いものとする。

 

次の攻撃で決める、と意識を高く、強く持つ。

 

 

「(何か及川さんに見られてるな……)」

 

 

火神は視線を感じていた。勿論、相手プレイヤー達はサーブを打つ選手から目を離す訳ないので、サーブを打つ場面では必然的に視線が集中するのは当たり前なんだけれど、及川のそれは何処か違った。挑発してる様にも見える。手をくいっ、くいっ、と手招きしながら。

 

 

「(打ってこい! って事かな? よーし、って)いやいやいや、確かに最初は打とうかなとは思ってたけど、及川さん打ってくれなかったし」

「……ちっ。そりゃそーだ」

 

 

及川は動かす手を止めた。

自分は避けたのに相手には求めるのは、ちょっと情けない気もするから。勝負だからそういうのはあまり気にしなくても良いと思うが……。

 

 

火神は気を取り直してボールを手に持った。

 

そして、エンドラインから4歩の位置。

 

 

「(……さて、気付いてるか、気付かれてないか……。今日の試合、俺はジャンフロ1回も打ってない事に)」

 

 

ジャンプサーブとジャンプフローターの二種を武器とする火神の事は相手も知っているだろう。

だが、今日は火神が言う様にジャンプフローターサーブは一度も打ってない。

勿論、ジャンプサーブだけでも十分強力。十分すぎるくらい強力な武器だし、失敗する可能性も高いが、一番強力で得点し易いサーブでもある。さらに言えば、今日どちらが調子が良いか、調子が良い方のサーブを選ぶ、と言うのも本人次第なのでその辺りの読み合いもゲームプレイの1つではある。

 

どちらを選択するか、それは 火神がルーティンとして行ってる4歩6歩をわかっていない相手にとっては迷惑で凶悪極まりない事だろう。

 

 

「(さて、少し いやらしい事させて貰う。月島を何度も狙ってくれた礼も兼ねて)」

 

 

月島がサーブで狙われた事。日向の様に少なからず ザマァ! と思わなかったか? と問われれば、ちょっぴり迷ってしまうけれど、それでもチームはチーム。

 

自分たちはネットのこっち側(・・・・)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神。

 

 

それは最早、青葉城西の全員が最大限に警戒するプレイヤーの1人になっている。

 

1年? 無名中学出身?? 戦績は0? 全てが関係ない。

 

火神のバレーは十分高校でも通用しているどころか、警戒に値する。

ルーツが気になる所ではあるが、それは今は関係無い。この男をどう止めるのか、このマッチポイントをどう防ぐのか。ただそれだけを頭に入れていた。

 

火神のジャンプサーブは強烈。及川よりも上ではないか? と岩泉がそう言っていた、認めたくはないがそれをも想定しつつ頭に入れる。及川のサーブはこのチームなら誰もが受けた事があるからだ。つまり最高の練習相手が居るからこそ、対応できる。心構えが出来る。

 

そして、勿論 監督が言っていたもう1つのサーブ、ジャンプフローターも忘れてはいなかった。

 

どちらが来ても対応できる様に、全員が意識を集中したその時だ。

 

 

 

 

「うっッ おォォっっ!?」

 

 

 

 

金田一が目を見開き、唸るような声を上げた。

突如、眼前にボールが迫ってきたのだ。

勿論、反則をしたとかそういった類ではない。でも、思わず動転し何とかオーバーでボールに触る事が出来たが、後方へと弾き出されてしまった。

 

 

「(なんてえげつない。笛と殆ど同時に打つとか!? それもこの威力で)」

 

 

火神は、主審が開始の笛を吹いたと同時にサーブを放ったのだ。

 

ジャンプフローターは回転を如何に殺し、無回転で放つかどうかに掛かっていると言っていい。ボールが全く回転しないからこそ、最大限にボールがブレる。そして魔球と呼ばれるボールを生み出すのだ。笛とほぼ同時に打つともなれば、慌てて打った球も同然になったとしてもおかしくないし、ボールの回転が乱れ、逆にとり易くなる事だってある。

 

だが、火神は殆ど同時である事と威力・精度共に殆ど落とさない離れ業をやってのけた。

 

構える余裕を与えないジャンプフローター。体感してみるとボールがいきなり目の前に現れた、と錯覚してしまうだろう。

 

攻めの姿勢を決して忘れない。如何にリードしていようが関係なく、そして常に新しく攻めてくる火神に及川は寒気がしていた。日向に感じたモノと同質のモノだ。得体のしれない何かを感じた。

 

 

「こ、のッッッ!!!」

 

 

弾き出されたボールに何とか追いついたのは及川だ。ボールに飛び付いて何とか繋げる……が、そのボールはネットを超えてしまう。

 

「全然爽やかなサーブじゃないなぁッ!! くっそっっ!」

 

 

()きながらも、何とか体勢を立て直し、相手の攻撃に備える。

ボールは緩やかな山なりで、ネットを超えたがダイレクトで打たれてしまう位置。

 

 

「日向!! ダイレクトだ!! 打て!!」

「へぁっっ!?」

 

 

影山の声に反応して、日向も身体を震わせた。

 

「(あ、翔陽はダイレクト打った事無かったっけ……)」

 

火神はテンパってるのが見てわかる日向を見て ダイレクトアタックの練習をしたことがないのを思い出していた。

 

あのテンパる感じでは、相手がブロックに来たら捕まる可能性が高い。

何より、日向は高く跳ぶ事が出来るが、それは相手ブロックより速く、高い位置へと到達するだけなので、ヨーイ・ドン! でジャンプをしたら、当然背の高い相手側の絶対的な有利になってしまう。

 

 

そんな事を冷静に分析した火神は、ブロックフォローへと回った。

 

 

 

そして―――幸運にも つい先ほどの日向の強烈なブロードからのスパイクを目の当たりにしたばかりの青城側は、日向のスパイクを過剰過ぎる程の警戒してしまった。

 

身構えすぎてしまった。

 

故に――練習してないからか、タイミングが合わず空振りしかけた日向のダイレクトスパイクは、スパイク……と言うよりはフェイント気味になってしまいブロックを越えてコートに落下。

 

 

「ん、だ、そりゃあ!!?」

「くっそぉぉっっ!!」

 

 

後衛の2人が飛び込むが、身構えすぎた故に届く事無く、ボールはコートに落ちてしまった。

 

カウント 25-21。

セットカウント 2-0。

 

 

烏野高校vs青葉城西高校

 

 

 

 

この練習試合は、影山の【このドヘタクソが!!!】と言う怒号と共に、烏野の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 


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