王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

29 / 182
第29話

 

「このドヘタクソが!!」

「しょ、しょーがねーーだろーー!! 練習したことねーもんっ!!」

 

 

 

セットカウント2-0で青葉城西に勝ったというのに、喜ぶ前にまだケンカしてる2人。

でもまだ整列・挨拶が残ってる。

仕様がないので、火神が2人の頭をがっちりキャッチして、前を向かせた。

 

 

「とりあえず整列しよう。……な?」

「「う、ウス」」

 

 

あんまり問題起こすなよ? と良い笑顔で火神に言われてる感じだ。

 

この種類の火神笑顔(スマイル)には何だか逆らえないモノ、と2人は思っている様子。……因みに 笑顔は笑顔でも、月島の笑顔はただ単純にムカつくだけだというのは周知の事実である。

 

澤村も怒りそうだったんだけれど、火神が対処してくれたので 軽くため息を吐いて【整列――っ!!】と号令。

 

その後、互いに挨拶を交わし これで本当に終了。

礼に始まり礼に終わるのがスポーツ。なので、喧嘩は全部終わってからしろ、と影山と日向、そしてついでに月島にもくぎを刺すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ~~……」

 

 

烏野のベンチでは、勝利の瞬間。思わず立ち上がった武田が力なく すとんっ と椅子に崩れ落ちた。それを横目で見てたのは菅原。

 

「どうしたんですか先生?」

「……………」

 

その問いに暫く答えが返ってこなかったが、溜めに溜めた後に、言葉を絞り出す様に武田は呟いた。

 

「……………すんごい」

 

幼稚かもしれない。だけど、ただただその言葉だけが頭の中を駆け回っていた。それ以上の言葉を見つける事が出来なかった。国語教師だというのに情けない気もするが、それでも尚だ。

 

「あ、そうか。先生は3対3の時を見てなかったんでしたね。影山と日向、火神。ほんともー、この3人は凄いっつーか、恐いっつーか、ほんと色んな意味でどーなってんだ?? って思いますよねー。他にも個人技でも群を抜いてて、連携に至っても見ての通り。影山は超精密だし、火神は良い意味で1年っぽくなくて全員と合わせるし、まさになんでも屋! 日向も将来性が凄くあって楽しみですよほんと」

 

菅原も興奮気味に伝える。あの青葉城西に勝てた事に興奮を隠せないようだった。

そして、そうこうしている内にチーム同士の挨拶が終わったので、全員武田の元へとダッシュで戻ってきた。

 

【お願いしアーース!!】

「ふぇっ!?」

「せんせい、せんせい、なんか講評とか……」

「あっ、そっ、そうか! そうだよね!!」

 

まだまだ形だけの顧問である事を自覚しているが、それでも感じた事はしっかりと伝えなければならない。この子たちを育てるのは大人の役目。技術指導は出来ないけれども、それ以外を全力でやると武田は予々(かねがね)心に誓っていたんだ。だから、必死に言葉を紡ぐ。

 

「え、えーと、ボクはまだバレーボールに関しては素人なんだけど。……素人でも判った。なにか、なにか凄い事が起こってるんだって事は判った」

 

武田はこれまでの経緯を振り返る。

烏野はバレー部が確かに強かった時代はあったが、年々それは廃れてしまっていて、今では部員数も少なく、練習試合も中々組めない状態だ。

 

「……新年度になって、凄い1年生たちが入ってきて、それでも一筋縄ではいかなくて……だけど、澤村君がそんな風に言ってて、その時はボクはよく判らなかったけれど、今日――わかった気がする」

 

澤村に言われた事。

それは日向と影山の事、そして 問題児が多い中でそれを纏めるに足る大役を担えるスキルも精神も持っている火神が来たこと。

 

思い出せば直ぐに頭に浮かぶ。笑顔でそう告げてくれる澤村の事が。

 

 

「皆がバラバラだったら、なんてことない。何にも起きない。だけど、1人、1人、また1人……出会い、噛み合う事で そこで化学変化を起こす」

 

 

単体では難しくとも共に有る事で2倍にも3倍にもなる。こんな場面を見せられたらそう思わずにはいられなかった。

……武田は教師である事もあって【化学変化】と言う表現を取ったのだ。

全く別物に生まれ変わる。烏野と言うチームが、また生まれ変わり、より高く羽ばたく。そんな光景を頭に浮かべながら、言葉を更に紡いだ。

 

 

「今も、この瞬間も 何処か別の場所で後の世界を変えるような出会いが生まれていて……、でも、それは遠い遠い国かもしれない。地球の裏側かもしれない。もしかしたら、東の小さな島国。……更に北の片田舎。ごく普通の高校の、ごく普通のバレーボール部かもしれない。……そんな希少で、貴重で、歴史的で、……そんな出会いが烏野であったんだと、僕は思った」

 

 

自分で言ってても中々理解が追いつくのが難しい。それ程までに突拍子もない事を言っている自覚はある。バレーの試合の講評をするのが普通な場面なのに。でも、止めなかった。

 

 

「他人には 大袈裟とか、オメデタイとか言われるかもしれない。でも、信じないよりはずっといい。ボクの言葉に何の根拠もないけれど、それでも信じて断言する。―――君らは、強く、強くなる。きっと、大きく大きく そして空高くに羽ばたくんだろうって」

【…………………】

 

 

武田の講評の言葉の後は……ちょっぴり長い沈黙。

前で聞いていた日向と影山に至っては、首を傾げていて 【何言ってるか判らないです】と表情で言っている様だった。

それを見て、顔を真っ赤にさせた武田は慌てた。

 

「ご、ごめんっ!! ちょっとポエミーだった!? 引いた!?」

「いやいやいや、そんなことないです!! あざす!!」

【アザ―――――――ス!!】

 

正直、武田の言葉を完全に理解できた者など殆どいないだろう。引くまではいかずとも。

でも、そんな中で少数でも確実に心に響いた者たちはいた。

 

 

【大きく空高く羽ばたくんだろう】

 

 

この言葉に強く共鳴したのは 3年の澤村と菅原。

烏野の異名を初めて耳にした時から、そして今までも何度も耳にした時から、ずっと 思っていた事を、武田に言ってもらえたのだから。

 

でも、やっぱり理解できなかった者もいる。最前線で首を傾げていた日向や影山は言わずもがな。

 

まだ首を傾げて頭に【?】を沢山浮かべているようなので、火神が簡単に説明に入る。

 

「つまり、皆で揃って頑張れば、俺たちはもっともっと強くなる、って事じゃん。……出る試合には全部勝つ! って言えるくらいまでにな」

「お、おおお!! そうか! そうだよなーー!! 全部勝つ! だよな!?」

「……ったりめーだ」

 

 

単純明快な日向は飛び上がって喜び、影山も内なる闘志に更に火をつけた。

そして、1年生の中でも特に冷めた様子の月島は。

 

「幾ら何でも全部は無茶デショ。一体何処まで想定してんの」

 

とボソリと一言。

それに反応した日向は、またびょーんっ! と持ち前のジャンプ力で飛び上がって月島に突っかかる。

 

「はいそこ―――!! 盛り下がるような事禁止! 心意気の問題なんです――――ッ!」

「うわっっ!?」

「ツッキー!」

 

 

暴れだした1年達を見て、今度こそ澤村が一喝した。

 

 

「お前ら集合!」

【お、オス……】

 

 

 

 

「―――この子らがもっともっと強くなるためにも、早く技術を教えられる指導者を見つけないとな……」

 

 

そんな騒がしくも、頼もしい皆を見て武田はある事を心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――練習試合の全てが終了した後。

 

 

「………金田一」

「!」

 

 

中学時代の確執がある2人が手洗い場にて会っていた。

これは決してたまたまではない。意図して会ったのだ。……影山が。

 

自分がどれだけ横暴だったのか、そして王様と呼ばれても仕方のなかった事。それだけの事をしてしまった事。本当は影山にもそれは解っていた。

同世代とは頭一つ抜きんでていた男が、空回りし続けていた男が、力の使い方を学び、そして才能を発揮できる行き場を見つける事が出来た。

そして切磋琢磨出来るであろう相手が、同年代で目標と定めるに値する男がいた事が、影山を変える切っ掛けになったのだ。

 

本当に生まれ変わる為に、過去に決着をつける為に、影山はこの場所へと来ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンフンフ~~ン♪ べんべんじょーーべんじょーべんべんべん♪ お~れはぁ~ だぁれぇ~♪ お~れはぁ~ エースになる男だぁ~~♪ って、ッ!?」

 

 

そしてほぼ同時刻。

日向もその場へたまたま向かっていた。自作の歌をうたいながら……トイレに行く為に。

 

 

そして、金田一と影山に鉢合ってしまった。

 

 

 

「(や、やべー、アレ絶対因縁的なアレだ! 入っちゃダメな場所だ!)」

 

トイレの陰に隠れる日向。バレてるんだけれど、バレてないと思ってほっとする。

そんな日向の背後にいるのは火神だ。日向の肩を軽く叩いてみると……。

 

 

「翔陽?」

「☆×〇△♨㍑㈱~~~ッッ!!」

 

 

言葉にならない悲鳴を上げそうになるが、どうにか声としてに発する事なく飲み込めた。……見事に身体は宙に浮いたが。

 

「何してんの? 翔陽」

「せ、せいやっ!? シー! シーッ! 今絶対ダメなヤツなんだって!!」

 

大きな声を出してる時点で最早隠れてるとは到底言えないのだが、それは置いとく。

火神は、そんな日向を見て軽く笑うと その先の廊下を見た。自分が思った通りそこには影山と金田一の2人が居た。

 

 

「……ま、あの2人なら中学の時もやったし、因縁っていったら俺たちもだろ? 最初で最後の試合で負けたんだし。ほら、今も当事者だ。そんな隠れることはないだろ(と言うか隠れられてないけど)」

「へ? わぁぁー!」

 

ぽいっ、と日向を無理矢理出した。

そして、火神も一緒に来た。

 

丁度、金田一から見たら影山を挟むような位置取りになる。

 

それを見た影山は少し。ほんの少しだけ頬を緩ませた。

 

「!!」

 

金田一はそれを見て、思わずたじろぐ。そして影山は続けざまに言った。

 

 

 

 

「金田一。……次戦う時も、勝つのは俺()だ」

 

 

 

そう告げると、影山は金田一に背を向けた。

そして火神はそんな影山の肩を笑いながら軽く叩く。その後、金田一の方を見て火神も告げる。

 

 

「俺達にとってはこれで1勝1敗だ。……次はインターハイ予選でまた()ろう。どっちが先に勝ち越せるかだな」

「ッ……。同じ相手に2回連続で負けてたまるか! 次は今回の借りを返す!! 次は勝ってやる!!」

「こっちも、負けないぜ。な? 翔陽」

 

火神は日向の方を見てみると……、なぜか日向は影山に絡んでた。

 

【影山くん、ひょっとして泣いた? 泣いた??】

【誰が泣くかボゲ!! 早く便所でもどこでも行けよ!!】

 

と。

火神は、一応中学時代の件もあって 日向に見せ場をとも思ってたんだけれど、乗ってきてくれなかったので、ばつが悪いがここまでにして、金田一に手を上げて【じゃあまた】と一言添えて、影山と日向を連れてこの場を離れたのだった。

 

 

 

 

金田一は、暫く離れてく3人を見ていた。

そこに国見がやって来た。彼もあの中学の時の事を知ってる当事者の1人だ。

 

「………何話してたの?」

「………ああ、色々とな」

「あっそ。何を色々と話してたら、そんな哀愁漂うような背になんの?? 全然似合ってねぇよ」

「うっせーな」

 

金田一は頭をガリガリと掻きむしる。

 

 

 

「俺もあん時、結構頑張ったつもりだった。……でも、なんか悔しい」

「あ?」

影山(あいつ)が俺()って言った事も、……独裁で横暴で王様で自己中で、……そんな心底うぜぇ影山(あいつ)をこんな短時間で変えちまった火神(あの男)も、…………くそっ。すげぇ悔しいな」

 

 

悔しい、と言いつつも金田一の顔には何処か晴れやかささえあった。まるで憑き物でも落ちたかのように。

 

 

中学のあの時。

 

 

自分の中では最善の事をしたつもりだった。チームの為に、影山を除く皆の為に。

それは間違いない。

 

だが、結果だけを見ればあと一歩で優勝を逃してしまったのも事実。そして影山との確執も然り、それらが平然としていた金田一の中にしこりとして残っていたのかもしれない。

 

そして 横で聞いていた国見は、金田一の事、大体の事を察すると同時に肩を力強く引っぱたくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後の挨拶。体育館前に集合・整列しての挨拶も終了し、後は帰宅するだけとなった時の事。

 

「………スガ。武田先生はああいってくれたけど、幾ら優秀な1年が入ったからと言っても周りを固めるのが俺達じゃまだ弱い。……バレーはコートに6人いるんだ。全員が強くならないといけない。それに対策を立てられでもすれば、柔軟に対応する為にはやっぱり周りが重要だ。相応のスキルも求められる。……悔しいが、弱い今の俺達じゃキツい」

「……………」

 

澤村は今日の試合の事を振り返っていた。

火神の個人技(サーブ)、そして影山と日向のコンビプレイは言うまでもなく相手にとっての脅威となった。試合前に火神が言っていた様に【ビックリタイム】が長く続いたおかげもあり、有利に試合運びが出来た。

だが、勿論一度見せた以上 相手も対策をしてくるだろう。そして対策された時 何がモノを言うのかは。……勿論 チームとしての強さ。土台の強さだ。

小兵がどれだけ土俵際で粘ろうとも、横綱にはそれ以上の力で圧されてしまうのと同じ。

 

そこまで力の差は無い、と思いたいが……青葉城西の基礎能力の高さはしっかりと目に焼き付いているから、よりそう思ってしまうのだ。練習試合と公式戦でそれが明らかになりそうで、澤村は警戒心と危機感を募らせていた。

 

 

「おお~~、さすが主将(キャプテン)!! ちゃんとわかってるね~~」

 

 

そんな時、まるで図ったかのように正門前に現れたのは 及川だった。

 

「出たな、大王様!」

 

身構える日向。……勿論、前に出たりせず人影で、後ろの方で。

 

そして 一番負けん気の強い田中が先頭に立って威嚇開始した。

試合中では威嚇禁止!となっていたから、その鬱憤も晴らす勢いだ。

 

「なんだコラ」「なんの用だっ!」

「やんのかコラ」「やんのかぁコラぁっ!」

 

 

田中の後ろに隠れている日向。

少々見苦しくないかな? とも思ったが、及川はさして気にする事なくただただ笑っていた。

 

「そんな邪険にしないでよ~~アイサツに来ただけじゃ~~ん。ほらほら、そこのちっちゃい君。最後のブロード攻撃、それにあのブロックも凄かったよ? 思いっきり当たりに行ってたけどアレはせいちゃんの指示かな?? 半分開いてた せいちゃんの(ブロック)が打った瞬間にガーンっ! って閉まってく感じ? アレは止められちゃうよね~凄いよね~~」

「えっ、あ、いや、えへへへ……それほどでも……」

 

急に照れだす日向。誰が見てもチョロいヤツ、と思ってしまう事間違いなし! である。

 

「今日は最後の数点しか戦えなかったけどさ。次は最初から全開で()ろうね。勿論、サーブもバリバリ磨いておくし、俺からのセットも楽しみにしててね~」

 

及川の宣告にはなかなかきつい物があった様だ。

特に月島と日向の表情が変わった。

あの強烈なサーブを更に仕上げてくるとなるとどうなるか分かったものじゃない。

 

何より及川のポジションはセッター。

 

影山が言う様にセッターとはチームの司令塔。そこが変わるだけでチームがどうなるのか、及川がセッターとして機能する青葉城西は まったく未知数。今日の青葉城西は、烏野で言えば影山抜きで戦っていた様なもの。

 

それに加えて烏野側は 今日、今、できる全てをぶつけた。

切り札は隠しておく、公式戦まで取っておく、みたいな事はせず(やろうにも出来ないが正しい)全力で全てをぶつけた。

 

結果勝つ事が出来たが、手の内がわかった今 頭も切れる及川が束ねるチームと戦えばどうなるのか……。日向・影山の超速連携、変人速攻を想定した練習は少々難しいかもしれないが、今日その次に活躍してたと言っていい火神のサーブは 及川が仮想火神となり鍛え上げたサーブで練習する様に回せば……更に守備力も増す事だろう。烏野側にもそれは言える事なのだが、基本的なスキルが高い青葉城西相手ではやはり分が悪い。

 

 

 

「君たちの攻撃力は凄かったよ。それに個々の能力も高いや。これはほんと。……けどさ。全ての始まりのレシーブで崩されちゃ始まんないよ? 皆で繋ぐのがバレーなんだし、ただ個人が凄いだけじゃダメ。……だから直ぐに限界が来るんじゃないかな。強烈なサーブ打ってくるヤツは俺だけじゃないし、それにインハイ予選までもう時間がない。……ちゃんと生き残ってよ? 俺はこの―――クソかわいい後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからさ!」

 

 

思いっきり指さされるのは影山。及川の中ではぶっ倒したい男のベスト3には影山が入るのだろう。

でも、少しばかり残念なのは火神。影山の直ぐ隣にいたのに 注目してくれなかった事が。

 

「でも とりあえず、烏野の1勝って事で良いですよね? 及川さん。それに及川さんこそ こんな大事な時期に怪我なんかしちゃ駄目ですよ? 入畑監督に自業自得だって聞きましたけど。……俺、次に全開でやるのすげぇ楽しみにしてますんで」

 

影山から聞いていた通り、及川はなかなか良い性格をしているんだと皆が自覚、そして警戒していた時に、大らかで無邪気な顔を見せてる火神を見た烏野の皆からすれば、物凄く頼りになるの一言だった。

 

そして、及川からすれば、思いっきり影山にさした指をへし曲げられた気分なのでしてやられた感満載である。笑うしかない。

 

「あっはっはっは! ほんっと生意気に育っちゃったね~? ほんと及川さんは悲しいよ。たった数ヶ月の間にさ。せいちゃん」

「あはは。もともとこんなですって。でもやっぱし生意気ですみません!」

 

ニッコリと笑う火神。

及川も苦虫を噛み潰したような顔をしていた様だが、笑顔に戻っていた。

 

「なんだコラ。ウチの1年に文句かコラ。俺を通していけコラ」

 

そして、田中が庇う様に前にやってくる。

 

「あははは。そーんな邪険にしないでってば。それにせいちゃんとは一応知らない間柄でもないんだし? まぁ 俺の後輩って訳じゃないけど」

 

その笑みには本当に得体が知れず身震いする。敵側としては厄介極まりない相手、嫌な相手だから そんな相手が笑ってたら、腹が立つ事間違いないと思うんだけれど、何処か憧れや尊敬の類の眼差しも籠ってる様にも感じるのだ。

コレが自分の後輩だったら……と何度かたら、れば、を考えてしまう程だ。

 

 

「末恐ろしい子が居て怖~い~って思うけど、次はバッチリ対策してきっちり止めてやるよ。せいちゃん、っていうプレイヤーが居る事、それはウチの皆も目に焼き付けたと思うしさ? 飛雄同様に覚悟しときなよ? 他の子たちもちゃぁんと頑張んないと、負担が増える一方かもよ~~?」

「あ、あんまり煽らないで貰いたいんですケド……。俺をダシにして」

「良いじゃん良いじゃん♪ 事実なんだしぃ~ 生意気になっちゃったけどまだまぁ可愛いせいちゃんへの細やかな反撃ってヤツだよ♪」

 

 

ちらっ、と及川は火神から視線を外して他のメンバーを。特に日向や月島を中心に見ていた。

その視線に勿論気付いた日向は、月島のジャージを引っ張りながら前に。

 

「お、おい! こっちっ側はみ――んなもれなく味方で仲間なんだっ! それにせいやに負担なんかかけないぞっ! レシーブがヘタクソなら特訓するっ!」

「!!? おい、引っ張るな離せ!」

 

 

日向の言葉を聞き、及川は今度は涼しい顔をしていた。

 

「さっきも言ったケド、攻撃力はほんと大したもんだけど、キミタチじゃ守備面が正直ガタガタだよ。高威力でコントロールの良いサーブ打つのも他に居るし、狙われ続けたらたまったもんじゃないよ? 何処かをカバーしようとしたら、何処かを犠牲にしなきゃいけないんだから。コートは6人いるワケだしね~。あぁ、レシーブを特訓するって言ってたケド」

 

及川は、一呼吸置いた後、鼻で笑いつつ続けた。

 

 

「一朝一夕で上達するモンじゃないよ? 長く時間をかけて身体に覚えこませるのがレシーブ。インハイ予選までじゃ、時間は少なすぎるかなぁ~。でもまっ、天才ってヤツは別かもだけどね。その辺は主将君がよく判ってるみたいだと思うけどね~。だから、どうするのか楽しみにしてるよ。烏野の諸君」

 

 

 

言いたいこと全部言えたのか、それとも途中でもう満足してしまったのかわからないが、後ろ手に此処から離れていった。

 

残された皆には何とも言えない空気が流れる。

 

 

 

「あ、いや、気にしないでください。ああやって人を掻きまわすのが好きなんです。あの人」

「確かに好きだね、きっと。だって俺が中学で初めて会った時もこんな感じだったし……」

 

 

影山が慌ててフォローに入ってくれる。

何だか珍しい一面を見た気分だった。及川の事が心底苦手なんだという事も一連のやり取りでよく判った。

……影山は殆ど口を挟まず間に割って入らなかったトコを見ても。

 

 

「………ふふっ」

「!?」

 

 

そんな中でも、澤村は不敵に笑みを浮かべる。

自分達は弱い、と断言したのにも関わらず、及川に一方的に言われ続けたのにも関わらず。

思わず心配して他の皆が声を掛けるが、澤村は首を横に振った。

 

「確かにインターハイ予選までは時間がない。日向が言う様に練習するって言っても時間的に限界ってもんがある。……けどな、相手に及川が居なかった様に、こっちにも今日居なかったヤツがいるんだ。………そいつも、そろそろ戻ってくる」

「あっ!」

「??? 何が戻ってくるんですか?」

 

 

 

 

「……レシーブの要。烏野の守護神」

 

 

 

それは、日向にとってはかなりそそられる称号の様なモノであり、影山が聞いてみればリベロであろう事も想像が出来、火神に至っては非常に楽しみにしている1人でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は青葉城西側。

練習も終わって皆で片付けの最中に岩泉と及川は今日の試合について話をしていた。

 

「火神の事は最初に聞いてただけだがスゲェヤツって元々分かってたし、そこまでは驚かなかったんだが……。問題は影山だな。中学(むかし)に比べたら凄く変わったってヤツか?」

「うん。そうだね。トビオに関して言えば 中学じゃ合わせれる相手が居なくて 色々と見失ってた天才が見つけちゃったみたいだからさ、行き場に加えて 同じくらい凄い相手を。……だから、もう凡人は敵わないんじゃない?」

「へぇ、お前でも敵わないのかよ」

「トスは……だけどね。トス回しで飛雄に敵うヤツ県内にはいないんじゃない? でもま、サーブもブロックもスパイクも負けないけどね~」

「オイ! トスも負けないって言えよクソ及川! テメェがウチのセッターだろうが!」

 

今日の反省会、と言うよりは注目していた新人についての話し合いの様なモノだった。

そんな中で、岩泉は弱腰な及川に活を入れる様にボールをぶち当てる。

なかなかに攻撃的である。

 

「イタタタ……、でもだってほんとの事だもん! それに、トビオだけだったら、レシーブをめっちゃくちゃに崩して、乱して、マトモにトス回しさせない状態にして、【1人だけ上手くたって勝てないんだよ? ドンマイ!】って言う気まんまんだったんだけどさぁ…… っていうか、今でも言いたいんだけどさぁ。……問題は せいちゃんの方なんだよねぇ」

 

大きく肩を落とす及川。

 

「中学ん時に聞いてた、たった1人で戦況を変える選手、ってヤツ? そんなの、オオゲサでしょ? サーブがちょっと他より群を抜いてるだけじゃない? って思ってたんだけど、実際に見てみたらどれもこれも満遍なく上手い上に 1年の癖に皆としっかりコミュニケーションとっててチームを活かす力(・・・・・・・・)ってのが凄いんだよね~。カントク達が言ってたのが本当の意味で分かったっていうかなんというか……。ほんっと生意気なんだ。留年してんじゃない? って言いたいよ」

 

首をぶんぶん、と振った後に岩泉に向き直って力強く言った。

 

「だから せいちゃん対策を思いっきりした上で、トビオに言いたいこと言いまくってやりたいから、頑張ろうね!」

「…………頑張るのは良いんだが、その姿勢には引くわ」

「? だってさ 天才とかムカつかない?」

「火神とは楽しそうに話してるの見たが?」

「せいちゃんは 何かさ~、変なんだよ。素直にムカつけないって言うか何と言うか」

「俺はお前の方が変だと思うわ。ムカつき加減も群を抜いてるのはお前だけ」

「えええ!! 何でさ! 中学の頃から頑張ってきた間柄じゃない!」

「女にキャーキャー言われてるヤツにムカつく権利なんぞ端から無い」

「って、それ僻みじゃん! みっともないぞ岩ちゃん!!」

 

 

最後は及川と岩泉の(一方的な)ケンカで締めとするのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。