王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

30 / 182
第30話

 

「先生、今日は本当にありがとうございました! 先生のおかげです」

「いやいや、皆お疲れ様だよ。僕、今日はビックリの連続だったね。なんて言ったってあの青葉城西高校に勝っちゃうんだからさ。強い強いって言うのは聞いてたんだけど、それでも凄い衝撃だった。向こうの選手達も監督さんたちも皆を見てビックリしてて、僕は勝手に鼻が高かったよ」

 

 

名ばかりではあるが、顧問の位置に居る武田。生徒たちの頑張りが嬉しいと思うのは教師の性ではあるが、その生徒たちが認められる。更に言えば凄いといい意味で驚かれる事が何よりも誇らしく、自分の事の様に嬉しい。武田はそう感じていた。

 

澤村は、武田と言う新しい顧問先生に多大なる感謝の意を向けつつも、現実問題を口にしていた。

 

 

「………確かに、勝ちました。ですが、まだ正直足りないんです。今日の試合は火神が最初に言った様に、所謂【ビックリタイム】がいい具合に継続した成果だと俺は思ってます。火神からの奇襲に加えて、チームを支えつつも個人の強さを見せました。火神と影山は最初から注目されていたのですが、そこに日向って言う存在が加わって、更に青城は混乱して更に乱れたと思ってます。……なのでこれから先、対策が進んで火神を徹底マークされたり、日向がブロックに捕まったり、今日みたいな強いサーブでレシーブ崩されたりしたら、術が無くなってしまいます」

 

 

点差を考えてみたら危ないのがよく判る。

スコアで言えば2-0の完封。

だが、どのセットも接戦の末の勝利だ。それに直ぐ後ろに居る威圧感も感じていた。及川と言う正セッターの存在もあっての事だ。それに加えて後何処かで綻びがあれば、亀裂が入れば脆く崩れてしまう。

 

烏野ではまだ土台がしっかり出来ていない、と澤村は感じていた。

火神や影山といった超高校級の選手達におんぶにだっこ状態では絶対にある程度上にいけば勝てなくなる。こちらも支えていくだけの力が必要なのだと感じた。

 

 

「俺も偉そうには言えないんですよ……今日の出来を考えたら。結構色々と頼っちゃった部分も多いですし、今後そういう事にならない為にも監督やコーチと言った指導者が居れば、とも思ってしまうんです……」

「むむむ、成程。その通りだね……」

「あっ、スミマセン! 先生が力不足、とかじゃなくてですね……」

 

まだ就任したばかりの武田には十分すぎる程の事をしてもらっている。

バレー部の練習場所の確保に始まり、更に今日のイキナリの4強との練習試合をセッティングしてくれた事もそうだ。

でも、得手不得手と言うものがあり、バレーの指導ともなれば 経験と言うものはどうしても必要になってしまうから、それ以上武田に求めるのは酷だろう。

 

でも、武田はそんな澤村の思いをわかったのか、笑顔で首を横に振っていた。

 

「あははは。大丈夫わかってるわかってる。指導者の方は僕にアテがあるんだ。何度かお願いしてて、まだ了解はして貰えてないんだけど……、きっと何とかして見せる。今日のキミ達の頑張りに応えないといけないからね」

「!」

「じゃ、後 体育館は任せていいかな? 僕これから用事があるから」

「あ、ハイ。大丈夫です」

「うん。じゃ、みんなお疲れ!」

 

笑顔で飛び出していく武田の背を見たのは直ぐ傍にいた田中。

 

「……な、なんか武ちゃんがすげぇ頼もしい」

「うん……」

 

先生にちゃん付けはどうかと思うが……、それはこの際おいておこう。

 

 

 

「おーい、しょーよーー! そんな器用に寝ながら掃除するくらいなら後はやっとくから先帰れって」

 

そんな時、背後から火神の声が体育館に響いていた。

よくよく見てみると、火神が言う様に日向はモップを手に持ってうつらうつらと頭を揺らせている。モップが杖替わりだろうか。なかなかの器用な寝方だ。

 

「日向っ!? 火神の言う通りだって! 帰んな帰んな。ってか、そんなんで道中大丈夫か?? 帰る時に事故んなよ!?」

「アレ見てツッキー。日向立ったまま寝てる!」

「わー、すげーー(笑)」

 

 

 

日向を心配している者、笑う者、驚く者、と多種多様で色々と世話を焼かせそうな1年生たちではあるが、心底誇らしいし、心強くも思う澤村たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後は恒例の坂之下商店で買い食い。

今のバレーボール部のブームは、何と言っても【中華まん】だ。

 

部活でヘロヘロになった身体には有難い食料。

今直ぐにでも頬張りたい一行は、颯爽と帰りに坂之下商店に乗り込んで注文を付けるが……、その希望は叶わなかった。

 

 

「あ? 中華まん? あぁ、さっきサッカー部の奴らが買ったのが最後だ! そんで今日はもう終了!! ってなわけで早く帰れ」

 

 

あっさりとその帰宅時の楽しみが無くなってしまった。

今日は青葉城西までの遠征があった為、いつもよりも終わるのが遅かったから仕方ないと言えばそうなのだが……、それで簡単に納得できないのが育ちざかりな高校生たち。

 

 

「えぇぇ、ハラへったぁぁ~~」

「ショクムタイマンだーーっっ」

「なんか食わせてーーっ」

「あ、このアミノサプリドリンクのお会計良いですか?」

 

【ブーーっ! ブーーっ!】

 

 

ブーイングが店内に響き渡る。(約1名はただ普通にお買い物をしているだけだが)

 

売り手である以上、お客さんの要望にはそれなりには応えたい気は少しくらいはあるんだが、生憎このメンツにはそれはなかった様だ。ちゃんと残ってる商品については会計しつつ、普段より倍増しでガラが悪そうな表情で一喝。

 

 

「ウルセェ!!! いっつもいっつも買い占めやがって、たまには我慢しろってんだ! さっさと帰ってちゃんとした飯を食え! そうじゃねぇと筋肉付かねぇぞ!!」

 

【うぅ~~………】

 

 

かなりの図星を突かれた事により、帰宅するほか無かった。

この店番の兄ちゃんの言う通り、ここ最近は 新入生歓迎! と言うのもあり、結構な割合でバレー部が独占しているのに自覚があったから。

 

腹が鳴るのは止めれないが、今日の所は貴重な中華まんは諦めて帰ろうとしてた時だ。

 

「おらっ、お前ら!」

 

ぽいぽいぽいっ、とたくさんのお菓子をプレゼントされた。見てみると、

高たんぱく&低脂肪のぐんぐんバー。健康食品の1つだ。

 

「それ食って寄り道しないで帰れ! そんでもってちゃんと飯を食え! そんだけだ」

【アザーース!!】

 

 

ガラは悪いが何だかんだと面倒見の良い兄ちゃんだった。

 

 

その兄ちゃんの正体? を1人だけ知ってる火神は、ただただニコニコと笑みを浮かべながら、一番長くお辞儀をするのだった。後々にお世話になるであろう事を頭に思い浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その帰りの道中。

話題に上がるのは当然今日の青葉城西戦。

 

「それにしてもよ~~。あの優男のサーブマジでヤバかったなぁ~。勝つには勝ったんだけど、アレ最初からやられてたらたまったもんじゃねぇぜ……。どっかの誰かさんは、受けたくてたまんねーらしーけどぉ~? この俺様も煽ってきたしなぁ~?」

「誰の事ですか? ソレ」

「って、ワザとらしくとぼけんなよな! このスーパールーキーが!!」

「いたたたた、痛いですって!」

 

田中のヘッドロックを食らってるのは火神。

そして、眠たそうにしてた筈の日向は、田中のスーパールーキーと言う単語を聞いて、【……スーパールーキー、かっけぇぇ!!】と目を輝かせていた。確かに日向が気に入りそうなワードだな、と思いつつ苦笑いする火神、そして目を輝かせていた日向も、火神とは同じ1年なんだから、自分も負けられない! と新たに闘志を燃やした。

 

「うぅん……、次はあの大王様のサーブぜってー取ってやるし!」

「てめーはレシーブ下の下なんだから、明日もビシバシやんねぇと及川さんのサーブ取るの夢のまた夢だぞ」

「ぶーーー!! だから一言余計なんですーーー!! そ、それにヘタクソだから練習すんじゃん!!」

 

いつも通り、影山は日向に対しては当たりが強い。日向も負けじと返す。

やっぱり火神辺りと比べられてる感があるから、ちょっぴり切なくも思ってしまう。同じ期間一緒に頑張ってきた筈なのに、差があるなぁ……と。

でも、日向にも反省点は沢山あったのでただ嫉妬の様なのを向けてる訳ではない。

いつ、どんな時でも、練習できる時は真剣にやる。それが女子相手だったとしてもママさんバレーであったとしても。そして、常にイメージトレーニング。小さな巨人の事は何度も目に焼き付けてきた。

だから、跳べるようになったんだと思ってる。……つまり、それだけだ。他にもバレーはやる事がたくさんあるのに、ジャンプとスパイクの事ばかりだったから……。

 

 

「やれやれ、ほんっとお前らはケンカのネタが尽きねぇよなー」

「ケンカする程仲が良いって感じになってくれれば良いんですけど……、色々と忙しさが倍増するんで、ほどほどにしてもらいたいトコですよ。俺からすれば」

「だははは! 火神はそーだろーな。大地さんに任命された1年リーダーだし??」

「……大丈夫です。心強い田中先輩が一緒に頑張ってくれるそうですから。何にも心配してませんよ! 何せ 田中・先輩! ですからね!」

 

 

火神の渾身の先輩コールに田中は耳を大きくして、更にテンションが上がったのは言うまでも無い事だった。火神の肩を思いっきり抱き寄せているから。

 

何にせよ、一癖も二癖もある1年生を纏めるのは相当なスタミナが要ることはたった数日で理解しているので、田中が加わってくれたら本当にありがたいの一言。……無論、その田中自身も色々とあるのは 火神は十分すぎる程知っているが、今天秤に乗せればどちらに傾くのかは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば聞くの忘れてたんだが」

「うぁぃ? あ、なにかきくなら、おれのこと かいほーしてくれてからにしてほしいです……」

「かっかっか!」

 

田中は一頻り笑うと腕を回してた火神を解放。

火神は首辺りをクキクキ、と鳴らしながら田中の方を見た。

 

 

「日向は まぁ 小さな巨人一直線だってのは判るし、火神も似た様なモンだって思ってっけど、影山は何で烏野にいるんだっけ? こっちに来た動機とかあんの? 強ぇトコって別に白鳥沢や青葉城西以外にも結構あるじゃん?」

「ああ、俺は引退した 烏養監督が戻ってくるって聞いたからですね」

 

影山が烏野を選んだ動機を聞いてなかった。白鳥沢には落ちたという話を聞いたが、だから100%烏野に来る、と言った事にはならないだろう。強豪と呼ばれる高校は他にもあるのだから。

 

「ほぉー 成程ね~。納得だわ」

「うかい監督って誰ですか??」

「あん? 日向は知らねぇのかよ。烏養監督はスゲー人なんだぜ!」

 

日向の動機は小さな巨人ただ1人。 目を奪われたのもその選手のみ。それが証拠にあの代の他選手の事は全然覚えてなかったから間違いない。

 

「無名校だった烏野を春高の全国大会まで導いた名将! ……だった筈だ」

「へぇ~~」

「ってお前、なんで小さな巨人は知ってんのに烏養監督知らないんだよ。そのころは監督目当てで有望選手が集まってきてたし、地元でも結構有名なんだぞ?」

「あーー、そんな事言ってもダメダメ。だって翔陽はあの春高の小さな巨人以外正直眼中になかったから。傍で見てた俺が保証する。その他別の細かいトコ覚えるのは俺だったし」

「なんでだよ。しっかり教えねぇとダメだろうが」

「いや、別に教える必要性は……。それに俺翔陽の保護者とかじゃないんで」

 

ぶんぶん、と手を横に振って拒否の姿勢を取る火神。何だか子ども扱いされた様で憤慨気味なのが日向だが、知らない事実には変わりないので、口にチャック出来た。

 

 

「知らねぇってんならこの機会だ。教えてやろう、日向」

「おお! 宜しくお願いします! 田中先輩!!」

「うはははは!」

 

 

機嫌が最高となった田中が烏養監督について説明をしてくれた。

 

 

人呼んで【烏野の烏養】。

凶暴な烏を飼ってる監督である。

 

 

―――物凄く判りにくい説明ではあるが、何となく凄そうなのは理解出来た。

そこに菅原も入ってきて補足をしてくれた。

 

 

「あぁ……今の2・3年は去年少しだけ指導受けたんだけど、すげぇスパルタだったぞ……、今思い出しても震えるくらい」

 

「おおぉ!!」

「っ、っ!!」

「……………」

 

 

菅原に向けられる3人の眼差し。それを見た菅原は 心底おかしいだろ? と思いながら言った。

 

「……なんで羨ましそうにしてんだ? ほんとやばかったんだって。……でも、本格的な復帰が決まってたんだけど、復帰後少しして倒れちゃったんだよ。歳が歳だし、若いころ無茶したらしいし。今の所 復帰の予定は無いんだよな……。羨ましそうにしてて申し訳ないけど」

 

名将といっても良い指導者の元でバレーが出来たら……と期待したり羨ましがったりしても不思議じゃないのが、この1年のメンツだ。日向に関しては技術はさておき、スタミナが半端ではないから、どんな厳しい練習にもついていける事だろう。……技術が身につくかどうかはさておき。

 

でもやっぱり全国へ連れて行った監督の元で、と言うのは強い憧れがあった。

 

 

 

「影山に関しては、何処に入ったとしても 今のスタンスで行ってると思うけどな。俺は」

「?? どういう事だ?」

 

菅原の話を聞いてて、火神はただ笑いながら言っていた。

影山は烏養の名を聞いて烏野へ入ってきたようだが、例えその名前を聞いてなかったとしても変わらないだろう、と。

 

「だって 勝ちに対してどこまでも貪欲なんだからさ。負けなんか考えず突き進む、みたいな? 良くも悪くも」

「やる以上は当たり前だろ。勝てない理由なんかねぇんだし、お前だってそうだろうが。……つーか、良くも悪くもってなんだよ」

「――……それは 自分の胸に手を当てて考えれば自ずと答えは出ると思うよ。改めて聞くまでも無く」

「あーー、成程! わかった! 【レシーブもトスもスパイクも全部オレ1人で】ってヤツ辺りじゃない?? 悪い方は絶対それだろ!? って言うか、俺の中ではアレ名言の1つになってるからな!」

「ッ!?」

 

日向が大笑いしながら指摘すると、火神も親指を立てて正解! と一声。

影山は影山で、過去の事とは言っても言った事は事実だからいたたまれなくなったようだが、日向にだけは言われたくない様で。

 

「ウルセェぇぇぇ!! ボゲ日向ァぁぁ!!」

「ぁぁぁーー!」

 

そぉぉらぁぁぁ! と、掛け声と共に影山は思いっきり日向をぶん投げていた。

疲れてる筈なのに大した男である。

 

「ぷっ、はははは!! ってか、影山がそれ言ったら負け惜しみに聞こえるな。そんなん止せ止せ、カッコつけていっても無駄だって。いいトコぜーーんぶ、横の火神(優等生)君に取られちゃってるって」

「んなっ、ちがいますよ! カッコもつけてません! それに実際今日4強に勝ったじゃないですか!」

「まぁな! あの青城に2-0のストレート勝ち! いやー、俺も何点かフリーで決められたし、何と言っても最初の火神からのセットだよなぁ、アレはさいっこうに気持ち良かったぜー! また頼むわ、火神!」

「いや、狙ってアレをするのは結構難しいと思いますよ?? 条件が合わないといけませんし」

 

 

S(セッター)影山⇒WS(ウイングスパイカー)火神⇒WS(ウイングスパイカー)田中のトリッキープレイ。

 

確かにインパクトがあると言えるだろう。

だが、日向と影山の変人速攻と比べたら そこまでのものではないと思う。それに加えて如何せん条件が影山がファーストコンタクトからのセットアップの姿勢になってないと難しく、更に言えばツーアタックでも十分奇襲になるので無理にアレをする必要性も無いのだから。

 

「と言うより、俺はやっぱり翔陽と影山のコンビプレイが一番の要因だと思います。まず間違いなくアレ見せられたらビックリしない訳がありませんし。あんなの見せられた後じゃ釣られない筈無いと思います」

「はっはっは! 確かにな! 日向の囮もすげーよかったぞ! 何度かフリーで打たせてもらえたしな!」

「あ、アザーース!! めっちゃせいやの陰に霞んじゃった感があったんで嬉しいっすー!」

「……そんな訳ないだろうに。絶対あの速攻の方が映えるって、それこそめっちゃ」

 

 

やれやれ、と首を横に振った火神。

そして、田中は更に続けざまに日向の肩をバシバシ叩きながら聞いた。

 

「本人的にはどうだったよ? デビュー戦での大勝利は!?」

「!?」

 

 

それを聞かれて、日向の中では鮮明にあの青葉城西の試合の事が頭の中で蘇る。

何度も何度もボールを叩きつけ、その感触はまだ忘れてないと言わんばかりに掌に残っている。そして―――勝利も出来た。

 

日向は、小さくそれでいて何処となく大きさもあるガッツポーズをした。

 

その隣では、気持ち的にも境遇的にも同じ(筈である)火神もいて、空いている方の日向の肩を叩いて、労った。

田中は一瞬だけきょとん、としていたが、直ぐに思い出した様に大笑い。

 

 

「はっはっはっはっは! そーいやー、火神も日向と同じデビュー戦な上に勝利だったよな!? 色々とおかしいから忘れてた」

「おかしいってなんですか、って もうツッコまないですから」

「しょうがねぇって。だって なぁ??」

 

 

田中は他のメンバーに同意を求める様に周りを見た。

この場にいる誰もかれもが、同じ意見だったようで、タイミングを計ったかの様に【うんうん】と頷いていた。

火神は、わかってはいるものの、ただただ苦笑いするしかできなかったのだった。

 

 

そして、事日向に関しては全然満足していないのは影山だった。

 

 

「得点と同じくらい日向んトコで失点してんだから満足なんざすんなよ。クソションベンレシーブなんだからよ。火神(コイツ)を見習え」

「……うぐっ」

「わーーっはっはっは。大なのかしら? 小なのかしら?? だーーっはっはっは!」

 

 

皆して日向をイジリだした。

確かに 及川が言う様に日向の攻撃力は凄まじいモノがある。初見であれば必ず急所に当たるクリティカルヒットみたいなモノだ。対策され、慣れられたらなかなか厳しいモノがあるかもしれないが、少なくとも試合中に立て直すのは至難の業である。……何処かの誰かさんは あっさり上げたが、それはまだ日向がコースの使い分け等が出来てない所謂Lv.1の状態だからだ。練習すればするほど、何処まで化けるのか……。

 

などなど、色々と火神が考えていた時、日向は固まってしまっててフォローに回る人が居なかったので、とりあえず菅原が来た。

 

「なんでお前らはそういう事言うんだよ。勝利の余韻ってヤツがあるだろ?? 日向()初勝利なんだから!」

 

菅原も何だかんだフォローしている様で、遠回しに火神をイジってきてる様だ。何故なら、何だか日向【は】と強調している様だから。火神も同じなのに。

 

「あのぉ、一応俺も初勝利、なんですけど菅原さん」

 

と、一応抗議をするんだが、菅原は笑顔でスルーしてくれた。

 

確かに判る。

日向と火神は同じ中学校出。そこではバレー部は無かったと言っても差し支えの無い。そんな環境で育った2人。両方とも素材は超一級。だけど、何をどうすれば技術面に差が開くというのだろうか。……そこには出生に関わってくる非常に非現実的で超常現象的で、説明がつかないし、信じられないだろう。

でも、正直自分は色々とズルをしているという自覚は今でも少なからずある、やっぱり解せない、と火神は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の話題は澤村が言っていた【守護神】について。

 

 

烏野(ウチ)は強豪じゃないけど、特別弱くも無い。今までだって優秀な人材はいたはずなのに、繋ぎが命でもあるバレーで、その力をちゃんと繋ぐ事が出来てなかったんだ。でも、また(・・)皆がそろってそこに新1年制の新戦力も加わって――、その戦力を全部繋ぐことが出来たなら」

「……ああ。夏のインターハイ。【全国】がただの【遠くの目標】ではなく、【現実につかめるもの】にきっとなる」

「うおおお! 夏のインターハイ! 聞いたことあるっ!!」

 

全国の名、そして それが決してただの夢である事、ただの目標である事ではなく、現実につかめるものだと澤村が断言した事で、テンションが割り増しになっていく。4強の一角である青葉城西に勝てた事も拍車をかけている事だろう。

 

そこで次の疑問だ。

 

守護神と呼ばれるような男が居るのであれば、なぜ今まで居なかったのか、と言う矛盾、と疑問。

 

「そのこれから戻ってくる人は今までどうしてたんですか? どっか怪我してたとか?」

「あ――…… いや、まぁ その怪我って訳じゃないんだ。ただ、一週間の自宅謹慎と約1か月の部活禁止ってだけで」

 

その内容はそれなりに重いものだった。つまり停学だと言う事だから。普通に通ってる学生には程遠いものだと思えるから。

 

「えええっ、ふ、不良ですか!?」

「ちげぇって。アイツはただちょっとアツすぎるだけなんだよな。イイヤツってのは保証する。マジで」

「おぉ……、田中さんがアツい、ですか……。田中さんとどっちがアツいですかね?」

 

疑問その2。

 

田中は 人一倍アツい男だと大体皆が認識している。火神は当然ながら、他の入ったばかりの1年生たちももれなく皆同じ気持ちだろう。

だからか、直接聞いてみたかった。

 

「わっはっはっは! 俺の次に!! とは言えねぇよなぁ……。ま、俺よか上だ上」

「「「すげ……っ」」」

 

 

田中がはっきりと上だと言うのは初めてだった。

それ程までの男なんだと言うことを改めて認識。頭に入れた。

 

 

「それにアツいだけじゃないぞ。アイツはな、この烏野で唯一天才と呼べる選手だ! あ、でも今はバランスの取れた2人が入ってるから唯一じゃなくなったけどな」

「てんさい! ふぉぉぉぉ!! ……ん??? バランスの取れた2人って、どういう意味ですか? ソレ」

 

 

今度は天才と言う単語を聞いて、目をまたまた輝かせた日向。それと同時にまた疑問が浮かぶ。【バランスの取れた】と言う部分にだ。

 

それを聞いた田中は、にやっと笑って答えてくれた。大した事ではない。

 

 

「クソ生意気で問題児な影山とクソ可愛気のある優等生な火神。2人足して2で割ったら丁度良いだろ?」

「…………………」

「あー………ははは……」

 

 

影山は色々と思う所があるのか、何も言い返せずただただ黙ったままだったが、火神は違った。

何処か困った様な、もしくは苦手意識? があるような顔をしていたから。それは、照れ隠しとかそういった類ではない、と言う事が横で見ていた澤村や菅原には特に分かった。

 

 

「どうした?」

「そこ喜ぶとこだべ。天才なんか言ってくれるヤツそうは居ないからなぁー」

 

からから、と笑う澤村と菅原に対し、火神は苦笑いをしていた。

 

「いや、その…… 苦手と言うかあまり好ましくないと言うか、だから顔に出ちゃったみたいですね」

「あん? 苦手?? 何がだ??」

「その―――、てんさいってヤツです」

 

 

火神の表情。

そこには謙遜している様子も無く……、ただ、苦笑いをした先の表情は真剣そのものだった。

 

「へぇ……どうしてなんだ?」

 

その真意を聞いてみたい、と思った先頭を歩いてた澤村と菅原は足を止めて完全に向き直っていた。

長くなりそうなので、火神は少し渋ったんだけれど、聴きたい、聴いてみたい、と目で訴えられてる様な雰囲気になってしまったので、観念した。同じく天才と呼ばれた影山に至ってもそうだ。

同じ立場でそう呼ばれたのに、完全に聞き手に回られてる。

 

 

 

「えっとですね。俺の中での 天才 って呼ばれる人達は――……」

 

 

 

火神は続ける。

 

彼の中での天才の定義。

 

 

それは【特に何もしていないのに出来る人。努力しないで才能の全てを本番で発揮できる人】であった。

 

 

世界には稀にそういう人達が居る事を知っている。

だから、そういう人達は文句などあるワケも無く天才と呼んでいいだろう。更に付け加えるとすればまだ小さな子供が大人同等、打ち負かす程までにやれるような事。 子供は大人と違って少ない時間しかないのに、一足飛び足で飛び越して上がっていくのでそれも天才と呼べる。

 

でも、と火神は続けて言う。

 

【自分は努力をし続けてきたから】だと。

 

努力を重ね、嘗ての仲間たちと……そう、血と汗と涙を流してきた結果、今の自分が居る。故に【天才】の二文字で火神は終わらせてほしくなかった。何でもそれだけで片付けられそうな気がするから。

 

彼の前の人生については説明のしようがないから、中々伝えるのに四苦八苦したが、それでも自分の思いは最後まで言えたと思えた。

 

 

そして全部話し終えた所で、火神は皆の顔色を窺った。ついつい話し込んでしまったから。また、新人らしくなく。なかなか自分の素と言うモノを隠すのは難しいものだから これも仕方ない。

 

 

そんな火神の事は他所に、澤村と菅原は、田中の両肩をぽんっ、と叩いた。

 

 

「「ここ、見習えよ?」」

 

 

丁度2人してハモった。

その時の田中は如何とも形容しがたい表情をしていた。

 

 

「んんっ……。かっけーなぁ……」

「はぁ、変な眼差しで見てくるなっての」

「いてっ!」

 

 

火神は、まるで少年の様に目を輝かせつつも、羨ましい、悔しい、等の様々な感情を入り混じらせた表情? をしてた日向にチョップをかました。

 

 

「……俺は翔陽を待つつもりはない。待つ必要もないと思うし」

「うぐっ……。お、オレだってすぐに誠也くらい上手くなってやる!」

「はいはいわかったから、さっさと行くぞボゲ」

「おいコラ! てきとーな流し方すんなよなっ!!!」

 

 

その後、痺れを切らせた坂之下商店の兄ちゃんに再び怒られながら、皆本当に解散するのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。