王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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最高のリベロ登場します。


第31話

 

「っ……、次はぐんぐんヨーグル1週間分でどうだ!?」

「OKOK。なんならぐんぐんバーもつけない?」

「上等だ」

 

 

青葉城西との練習試合の翌日。

今は 学校の厳しく、険しく、そして苦しい授業(ごく一部に限り)を乗り越えた先の至福の部活動の時間帯。

 

その第2体育館では 部活開始前。

 

一足先にバレーボールの音が体育館内で響いていた。

その主は影山と火神である。

 

「んじゃ、俺からな。球種はジャンサーで。……ジャンフロは変化するからやっぱ無しにするよ。変化すんのは試合中だけで良いんだけど、そうもいかんからなぁ……」

「あのブレが最大の武器になんのに、今ブレ無いようにして変な癖付けんじゃねぇぞ」

「そんなのしないって」

 

 

 

2人は部活が始まる前に、サーブでの的あてゲームをしていた。

最初は、それぞれが自主練でサーブをしていただけだったんだが、数点ペットボトルを的にしてコートに配置。そこから緊張感を出す為? に影山が考案したのが賭け的あてである。

因みに、火神が隣で何回か当てたのを見て、競争心が芽生えたから! と言うのはまた別の話。……傍目から見れば歴然ではあるが。

 

賭けの対象が金銭ではないとはいえ……良い子の皆さんには 推奨しないのであしからず。

 

そして現在、3回目のサーブ。

 

1回目で火神がジャンプフローター、影山がジャンプサーブ。

 

勿論威力はある程度は持たせた上でのサーブだ。

そして、先ほどでもある様に火神は良いコースだったんだが、魔球とも呼ばれるサーブ故に ギリギリボールが的を躱してしまってアウトになった。

 

その2回目、ジャンプサーブに変えて仕切り直しで見事にHIT。

 

因みに影山は、2回とも寸前の所で外している。

 

 

つまり 火神の1勝中である。

 

 

 

火神は、6歩エンドラインから離れ いつも通りの集中力とルーティン。ボールトスの指の掛かり具合は問題ない。

助走からジャンプまで 流れる様に遂行。そして 空中でボールを捕え、打ち放つ。

 

ライト側隅に置いてあるペットボトルへ向かって一直線に伸びるサーブだ。

 

「ぐっ……!?」

 

影山も手に汗握ってみていた。

そして、火神はまだ宙に居る状態だったが、ボールの到達地点が予測出来た様で、表情を歪ませていた。

 

 

ぎゅんっ! と伸びたボールは、エンドライン上に着弾。ライン上に当たった見事なサーブ! と言っていい好サーブなんだけれど 今回のコレは的あて。当たらなかったら全て失敗。

 

 

「っ、ジャンプの踏込みは良い。全体も見えてた。……でも、ボールが少し流れたか?」

 

 

ばちんっ、と手を叩く火神。

確かに、的は外したが 見事と言う他の無いサーブを見て 影山は にやりと笑った。

見て吸収できる所は全て行う。ただただ貪欲に、そして向上心を持つ。それが影山だ。

 

「次は俺だな」

「おう。ナイッサー」

 

影山自身の前の2回のサーブ軌道を頭の中で再生、そして軌道修正を実施。

目を瞑り、ボールに念じる様に構える。その集中力は決して火神に負けずとも劣らない。一球一球 実際の試合でのサーブである様に。

 

目を開けて 打ち放った影山のジャンプサーブは見事にボールの芯を捉えた。

まさにイメージ通りで会心の当たり。

 

「(良い……! 当たるっ……!!)」

 

目を見開いてボールの行方を見守る火神。

 

「これはいったかな」

 

横で見ていた火神も判る程の会心の当たりだった。そして【ナイスっ!】と小さな声で称賛もしていた。賭け事等今はすっかり頭の中に無いかの様に。

 

 

ほんの後少しでボールが的に! と思ってたその矢先だった。

 

何処からともなく、ボールとペットボトルの間に割って入る影があった。明るい明るいオレンジの色の髪を靡かせる男―――日向だ。

 

 

「はぁっ!!?」

「貰った……、うぎっっ!!?」

 

 

ボールの軌道上に入れたのは凄い。

影山のジャンプサーブの威力なら、間に合わなくても不思議じゃないのに、そのスピードは称賛に値する。

……が、これは勝負だし 影山も火神も当たった!? と思う程のボールだし、そして 日向が割って入った為、ボールは 彼方へ跳んでいったし、……影山にとっては色々と最悪だった。

 

「おいボゲェ!!! 邪魔すんじゃねぇよ!! ボゲ日向ボゲェっ!! 今の当たってただろうが!! こんのボゲがぁ!!」

「どーどー、影山落ち着けって……。てかボゲ以外ないの? レパートリー」

 

今にも日向にとびかかりそうだった影山を取り合えず諫める火神。

でも頭の中ではちゃっかり、日向にグッジョブを送ってたりもする。……色々と賭け内容を追加したのを思い出したから。

 

「でも取ったぞ!? 影山のサーブ見切ったぁぁ! 次はせいやだっっ!!」

 

影山のサーブを受けてひっくり返ってた日向は跳び起きて、びしっ、と格好良く火神を指さしたんだけれど、火神は苦笑いをしながら 日向の様に指をさした。……さした場所は日向にではなく体育館の2階部分だが。

 

 

「何処がだボケぇ! ちゃんと目ん玉ついてんのか!? また(・・)ホームランだろうが、アホォ!!」

「なにっっ!?」

「翔陽……。サーブレシーブするのは良いけd「よくねぇよ!!」わかったわかった。今のノーカン。だからもっかいやろう」

 

間違いなく当たった! と確信してる影山は まだ納得がいってない様子。

でもとりあえず頭の中を切り替える様に、と火神に窘められていた。

 

「バレーは繋ぐ(・・)んだからさ。最後までボールの行方は目で追えよ?」

「ぐぅ……、判った……。取ってくる」

「そこまで肩落とさんでも良いと思うんだけど……反応は良かったし」

 

しゅん、と肩を落としながら2階へと向かう日向を見送る火神。

ひょっとしたら、取れなかった事より、ボールから目を離さない、と言ういわば基本的な事が出来てなかったので、ちょっぴり反省度合いが大きいのだろう。

 

「ってな訳で仕切り直しな。あ、勿論オレのはミスだから影山どーぞ」

「ったりめーだよ。……クッソ、今のイメージ、今のイメージだ」

 

 

同じ事を連続で出来てこその1流。たった1回のマグレではない事の証明にもなるし、集中力を鍛えられる事にもなり、結果が伴えば自信にもつながる。今は練習前の自主練だけれど、これが練習後で心拍数を上げた状態であるなら、尚有意義な練習となるだろう。……何かを賭けるのはあまり大っぴらにしない方が良いかもしれないが。武田先生は非常に真面目な先生だから。

 

 

 

そして―――今度こそ、と放たれた4球目のサーブ。

 

 

それもペットボトルを捕える事は叶わなかった。

そして、見事なサーブ! 試合ならサービスエースの手応え! ともならなかった。

 

何故なら、先ほど日向がしたように、もう1人乱入者が現れたからだ。

一瞬で現れたその男は、正確にボールの着弾点を読むと強烈な影山のサーブの威力を完全に殺しきった。日向が取った? 時の様な乾いた衝撃音ではなく、小さく低く、それでいて鈍いバレーボールの音。

先ほどの影山のサーブの威力が嘘の様に、完全に威力が無くなったボールはふわりと完璧にセッターの位置へと返球された。

 

 

「おおーーっ、すっげぇサーブじゃねぇか。すげぇヤツが入って来たな。そっちのヤツのも取ってみてぇから打ってくれねぇか?」

 

 

突如現れた男は、放り投げていた学ランを肩にかけると にっ、と笑ってこちら側を見ていた。

風のように現れたかと思えば、渾身の影山サーブを難なく取られ、堂々とした佇まい。

そして1年にとっては見覚えのない姿。

 

でも、あのレシーブだけで 影山と日向には はっきりと判った。

澤村が守護神と呼び、田中が天才と称した男なんだと言う事が。

 

火神は、あの影山のサーブを完璧に受けて取って見せた相手を見て、笑みが沸いて沸いて止まらないのがよく判る。自分は知っている。知っていても、実際に体感するのとはわけが違う。憧れであり尊敬であり、色んな感情が渦巻いていて収まらない。

 

気が付けば、ぎゅっ、とボールを握る力が強くなってるのが判る。

そして、そんな火神を見て悟ったのか、一度は肩にかけた学ランを再び放り投げて構えた。

 

一騎打ち! みたいな雰囲気が流れて、その雰囲気にのまれたのか 或いは単純に見てみたいのか、日向と影山も誰が来たのかを改めて聞く前に釘付けになる。

 

いざ―――サーブを、と思いトスを上げようとしたその時だ。

 

 

「うぉぉ~~ぃ、ノヤっさぁ~~んっっ!!」

 

 

大声と共に両手を振って田中が体育館へと入ってきた。

田中の姿をチラリと見た火神は、持ち上げかけたボールを左手で抑え、腰へと持っていく。それを見届けた後に、彼も同じく臨戦態勢を解除した。

 

「おーー龍――っ!」

 

田中に続き、菅原と澤村も入ってくる。

田中の声は十分に外にまで響いてるので、誰が体育館に居るのか2人もはっきりと判っていた。判っていたからこそ、笑みが自然と零れる。

 

「「西谷!!」」

「チワーーッス!!」

 

にっ、と歯を見せて笑う彼―――リベロの西谷。

西谷は、火神の方を見ると。

 

「後でお前のサーブ受けさせてくれよな! 今は一先ずお預けだ」

「……はいっ、よろしくおねがいしますっ!!」

 

同じく火神もにっ、と笑顔で答える。

その後、ばちんっ、と軽くボールを叩いて籠に入れると足早に皆がいる方へ。

影山や日向もそれに続いた。

 

 

簡単にではあるが、澤村が紹介をしてくれた。

2年生の西谷(にしのや) (ゆう)

 

勿論、ポジションは守備専門のリベロ。

 

天才である事、守護神である事、色んな事が日向の頭の中で駆け巡るが、日向にとって一番重要なのは 天才でも守護神でもなかった。

 

なんだか身体を震わせてる? 様な感じがする日向。菅原や澤村が気がついて声を掛けようとしたその時だ。

 

 

「お、おれより……小さい……!?」

 

 

控えめに言っても非常に失礼極まりない事を日向は言っていた。………が、確かに失礼。でも日向が言いたいことも少しは理解できる。日向の身長は162㎝。中学校の時も先頭。高校に入っても……学年でも前から数えた方が圧倒的に早い位置。

確かに小さな巨人に憧れを抱いてはいるが、それでも高さへの渇望、羨望は止める事はなかった。そんな自分よりも小柄な人を前に動揺を隠せられなかった様だ。

 

勿論、西谷が黙って聞いてる訳もない。

 

「あ゛あ゛!? ナンだテメェ!! 今なんつったァコラァ!!!」

「あっ、ごめんなさい……」

 

田中に負けずと劣らない迫力で怒鳴ってくる。……が、如何せん身長が自分よりも小さいと言う事もあって、多少圧されてはいても田中の時程では無かった。

そこに火神がやってきて日向の頭に一発チョップ。

 

「……初対面の相手に流石にそれは失礼だろ翔陽。それも先輩に」

「あ、いや、でも、そのっ……、え、えと わかってはいるんだけど止まんなくて……」

 

あうあう言ってて、ガクガク震えてて、人生の分岐点にでもたったのか? と思ってしまう瞬間だ。

 

どうしても聴きたい事が日向にはまだあった。確かに火神の言う通り失礼だ。でも、それでも聞きたい、と言う事で考えるより口が動いた。

 

「あ、あの…… 身長……何センチ、ですか……??」

「ア゛!? 159cmだ!! 文句あっかコラぁ!」

 

 

ばちこーーーんっっ!!!

 

影山の後頭部に全力サーブをぶち込んだ時と同じ様な衝撃音が日向の身体に響いてきた。

間違いなく、数字上でも自分より小さい事が確認できた。

 

「う、うぉぉぉぉ………」

「な、なんだよ……」

 

今度はふらふら、と身体を横に揺らしながら、ゆっくりと西谷へと近付く。

怒ってた西谷も流石に気味が悪いのだろうか、後退りした。

 

日向の目には次第に涙がたまりにたまって、軈て滴り落ちる。

 

「うっ うっ お、オレ、高校の部活に入って初めて人を見降ろしました……っっ。感激ですっ……」

「んだとコラぁぁ!! てめっ、たいして見下ろしてもねぇだろうが!! 泣いて喜ぶな!!」

「……ほんっっっっっと、スミマセン。ウチのアホが……」

 

 

いまだ泣き止まぬ日向の首根っこ捕まえて後ろへ。西谷に見られない様に火神の陰に隠した。

 

 

「ちっ!! まぁ良い!」

 

 

怒ってた西谷だったんだが、日向の気持ちも判るのだろう。同じような身長の相手だ。四捨五入したら自分と同じ160だ、と これ以上は言わず大目に見てくれた。器が大きいとはこの事だろう。

 

「お前ら1年だな?」

【オス!!】

「さっきのサーブのヤツ。ホラ、そっちのデカくて目つき悪い方だ! お前ドコ中だ!?」

「……北川第一です」

「おおお! マジか!! どうりであのサーブ! 中学ん時俺当たって負けたぞ! そん時もスゲェサーブ打つヤツが居てよぉ」

 

影山の話題で盛り上がってる所で、後ろに下げた日向を前に上げる火神。もう泣いてない様だ。大丈夫そうだ。

 

「おお、西谷さんも北一とやって負けたんだ。俺達と一緒だな? 翔陽」

「おう! ……って、あんまそれ嬉しくねー」

 

北川第一に負けた同士、一つ話の話題が見つかった事でも良いだろう。……と言っても西谷に対して 何か話題がないと話が出来ないと言う訳は無いだろうが。見ての通り聞いての通り、(身長は置いといて)色々と大きいから。

 

「んで、そっちのデケェヤツ! お前、1回サーブ打ってみろ! そっちのヤツと同じくらい出来んだろ?? 何となくわかるぞ」

 

西谷の第六感が発動。……と言うのは冗談であり、最初に打とうとしたときの構え、そして雰囲気。何よりも影山のサーブを難なく上げられたその直ぐ後に、少しも躊躇わず笑顔で打とうとした事。それらの少ない情報で西谷は強いサーブを打つ相手である、と判った様だった。

 

「え、えっと…… 澤村さん。部活開始の時間ですが、良いですか?」

「ん―――。良い、と言いたいが 規律はしっかりと守ってほしいからな。と言うよりまずは夫々の自己紹介からだろ。西谷も落ち着けって。火神のサーブを取りたいんなら後で幾らでも打ってくれる」

「あ、いや 幾らでもって限度はありますからね?」

 

苦笑いをする火神。

そして、西谷もとりあえず頷いた。頷いたのを見た澤村は、また にやっ、と笑う。

 

「コイツのサーブも凄い。それだけは教えとく」

「あー、大地。取ってみてのお楽しみ! って感じだったのに言っちゃってどーすんべ」

「それくらいは良いだろ? 俺だって結構楽しみだったんだし」

 

今年入った有望な1年達を紹介するのが楽しみだったようで澤村も笑っていた。そんな顔を見た菅原はやっぱり 保護者じゃん。自慢の子供紹介する保護者じゃん、とまた笑うのだった。

 

「ほー、お前んトコも北一に負けたのか。んでも雪ヶ丘ってトコは知らねーな」

「あー、それはそうですよ。俺と翔陽が3年の時に6~7年ぶりに正式な部活として復活したらしいんで」

「へー、それで1回戦であそこと当たったのか。勝負の世界は非情とはいえ、くじ運が悪かったなそりゃ」

 

話題は中学時代の話。雪ヶ丘については当然ながら西谷も知らない。なのである意味興味は尽きない様だ。色々と無礼な日向の事も、そして色々と未知数な火神の事も。

 

「それがさ。優勝候補vs出来たて中学って感じじゃなかったんだぞ、西谷」

「そうなんですか? 大地さん」

「そうそう。その辺は当事者の影山に聞いてみるとわかんべ」

 

菅原にも言われ、影山の方を見てみると……、何だか苦々しい顔をしていた。あまり思い出したくないのだろう。中学の時の事は。

 

「影山くんは、ウチのせいやにぼこぼこにやられましたー!」

「やられてねぇだろうが! 何でテメェが得意気だボゲ! 火神ありきだっただろうが! このドヘタクソ!!」

「うぐぐっっ!! ヒドイ事言うなよ! 俺だって頑張ったんだ!!」

「コイツみてーに 馬鹿みたいなノータッチ連発できんのか!? ひょろひょろサーブの癖に!」

 

 

何だかしれっと馬鹿呼ばわりされた気がしたのが、一先ず置いといて 火神は目の前で取っ組み合い? まではしないけれど言い合いを始めた日向と影山を見て呆れた。

 

とりあえず、うるさいので 澤村や田中達に怒られる前に、火神が間に入って制した。

 

「ほぉーー、すげーじゃん! 北一相手にそんなに粘れるなんてよぉ。俺も見てみたかった」

「あー、いや。あの時は皆が皆持てる力ってヤツを十全に発揮出来たおかげです。それに、影山以外のメンバーは俺達の事をナメてたみたいなんで、そこに付け入る事が出来たって感じですか。……まぁ、結果はストレート負けですけどね」

 

苦笑いする火神を見て、西谷は早くサーブを見てみたい、と言う願望に苛まれていた。北川第一の個々の能力は勿論の事、全体のチームバランスも優れている事は解っている。

そんなチームに何点もサーブで点を稼いだのだから、本当に大したものだ。

それも、初めての公式戦で。メンタル面も非常に高いのだろうと理解出来た。

 

「西谷さんは、何処の中学なんですか?」

「ああ? 俺は千鳥山だ!」

 

千鳥山中学の名に一番反応したのは、影山だった。

 

「! 強豪じゃないですか!」

「中学バレーでもよく聞く名ですね。対戦経験は……無いですが」

「………北一だけだもん。しょーがねーだろ……」

 

言ってて悲しくなってきそうなので、もう言うのは終わりにした。これから楽しい事がたくさん増えるんだから、と。

 

「強豪校の西谷さんがここに来たのはやっぱり鳥飼監督の復帰を聞いてですか!?」

「………いや、違う。俺が烏野に来たのは―――……」

 

 

 

西谷の表情が一気に険しくなった。

真面目に聞いてたらバカを見る回答を分かってた火神は、少し笑いを堪える体勢を取る。

 

そして、期待通りの答えが返ってきた。

 

「女子の制服が好みだったからだ!! 勿論女子自体も期待を裏切らなかった! なんつっても、男子が学ラン! それも黒!! かっけえだろ? 学ラン! 俺中学ん時はブレザーだったからすげぇ憧れてたんだよ~~~。真っ黒の学ランにな! まさに烏! 名前の通り!! そして、かっけぇ!!」

「わかるぞ! のやっさん!」

「な!? そんでもって、女子も可愛い! 何よりもバレー部に入って良かったのは、潔子さんの存在だぁ!」

 

 

ぐっ、と握り拳。その後 天へと突き上げんばかりに振り上げる。

 

「そしてーーーー! 俺は不埒で許せん噂を聞いて、この体育館へとやってきた、と言う訳があーーる! 本来なら明日から部活OKだったんだが、居ても立っても居られない理由がな!!」

 

 

このあたりから雲行きが怪しくなるのを感じ始めたのは火神だった。

その予感は、嬉しくない事に的中する。

 

 

「潔子さんに聖なる施しを受けた激運者(ラッキーボーイ)が居ると聞いてな!! おめーらなら知ってんだろって思って駆けつけた次第だ! って、龍なら知ってんだろ?? 潔子さんに、は、は、は、ハグ!! されたやろーがいるってよぉぉ!! 俺ならそんな事されたら死ねる自信がある!!! どこのどいつだこのやろーー!!!」

「…………………」

 

 

何だか誇張されてる。凄く。

そんな噂が上がってる事も知らなかった火神。そして 日向や影山も一体何のこと? と首を傾げてる。清水の下の名前を知らなかった事は火神に対して言えば僥倖かもしれない。日向がしれっと【あ、それせいやです】と言いださずに済んだからだ。

 

だけど、まだ最大の関門が残っているのも事実だった。

 

そう―――西谷の直ぐ隣にいる田中の存在だ。十中八九、噂の出どころは田中を中心に行われていたんだと思えるから。

 

火神はちらっ、と田中の顔を見た。そして目が合った。何とか話題逸らしをしてほしい。と念を送ったつもりの火神。でも、還ってきたのは笑顔のみ。

 

 

 

 

凄い笑顔。ニッコリ微笑み。菩薩の様な慈愛の表情。

 

 

 

 

―――……でも凄いホラーだと感じたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

「それ、ウチの火神君なんですよぉ、西谷さぁん」

「…………あ?」

 

 

 

 

 

その後 体育館が更にうるさくなったのは言うまでもない事、更にその中心人物の1人でもある清水が到着し、またうるさくなったのだった。

 


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