王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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コロナのせいで、非常に忙しくて遅れました。
すみません。

でも私は幸運な方ですね。忙しいくらいがいいんだとこの時ほど思ったことはありません。


第33話

「よーし もう一本だ。火神! さっきのは無しな!」

「はい! と言うか いきなりミスってすみません! んー、いい感じだと思ったんだけど 、トスがちょっと流れたかな?」

 

 

西谷は大手を振ってもう1本、と叫ぶ。そして 火神は手をぐっ、と握った後に開く筋弛緩法を何度か再び繰り返していた。

 

 

 

最初の1本目。

 

サーブトスからの助走、そして踏み込みと空中姿勢。全ての面で良い! と火神は感じその感覚のまま思い切り打ち込んだ。

 

だが、結果はアウト。

そのサーブは僅かにエンドラインを超えていた。

 

寸前で西谷は火神のサーブを躱すと、エンドラインのボール1つ分後方に着弾してしまった。

 

因みに火神は初っ端から100%の力でサーブを放った。

 

その日の自分自身の身体に調子を聞きつつ、徐々に精度と威力を上げていくのが火神のやり方で 終盤に合わせて 威力・精度共に上げていき疲労が見え始めた時に自分の100%を持っていく。

今回は あの西谷が相手をしてくれるともあって、火神は全力全開で打って見たかったのである。

 

 

そして、一本目のサーブ。外したとはいえそれを見た西谷にピリッ、と戦慄が走ったのは言うまでもない。

 

強力なサーブは何本も見た事があるし、経験した事があるが過去一番のサーブと天秤で量ったとしても何ら遜色はない。寧ろ 中学時代は西谷自身も今に比べたら未熟だった事を踏まえても過去No.1かもしれなかったからだ。

だが、西谷は決して驚きはしなかった。……わかっていたから。

 

ただの直感だった。火神(コイツ)には何か(・・)がある、と、西谷は直感していた。

 

 

西谷は再び構えた。

その先に携えているのは火神。

 

あの影山のサーブは、この体育館に入る前に実は見ている。

日向が思いっきりホームランをした時に一度だけ見ている。――……ただ、火神のサーブだけは見てなかった。

 

一緒にサーブの練習をしているだけかもしれない。ただ、影山の個人練習に付き添ってるだけかもしれない。一緒にいる理由なんて 同じバレー部であればどうとでも予想がつくだろう。

ただ、西谷の中に、野性的直観とでも言うべきだろうか……、火神にある何か得体のしれないものを肌で感じた。

(勿論、その何かの中には清水関係のも燻っているが、それは今は置いておく)

 

頭に過るのは レシーブ。ただ只管繋ぐ事。守備の要であるリベロの誇り。

 

 

ただ、サーブを見る事、受ける事、つまり個人練習に付き合う事だけだった筈なのに、ピリッとした緊張感が沸いて出る。

 

 

「さぁ、もっかい来い!」

「うっす!」

 

 

グッ、と西谷も力を入れ、そして脱力をして態勢を整えなおした。

視界をクリアに、どんな球も逃さない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

――バレーは繋ぎが命。ボールが床にさえ落ちなければ負けはない。

 

このセリフを何度口に出したか判らない。

 

 

火神は 目の前の男から学んだ事だった。

 

バレーは高さ勝負だと言う事も否定しない。だが、目の前の男の言葉には力があった。自分を成長させてくれるようなそんな力があった。攻守共に出来るのなら、それが一番良い。点を取り、そして守る事が出来るのなら、それは最強だ。負けはない。……勝ちしかないんだ。

 

 

「……行きます」

 

 

火神は念をボールに込める様に額を付けた。

 

 

西谷と出会えた。本当に喜びの連続だ。

例え、わかってた事であっても止まることはない。止めるつもりもない。

 

田中と西谷ではないが 正直火神も抱きしめたい相手が沢山い過ぎていた。……本当にそんなことをするワケではないが、その分ボールに想いを込める。

憧れの人たちにみてもらえる喜びも、込める。

 

 

サーブトスからスパイクまで、淀みなく行われる一連動作。

もう一度外してしまったら正直勿体ない。かと言って、入れるだけサーブはもっともっと勿体ない。

なので、最初の一本目を、そして影山と一緒にやってた時のサーブも思い出して、身体の筋肉の各部位、必要な場所の情報を頭の中に入れて修正し続けた。

限界の威力と精度ギリギリを見極めてサーブを放つ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放たれたサーブは弾丸の様にうねりを上げて西谷に迫る。

 

 

 

「(スゲェ早い、それにドライブもやべぇ。……俺に打ってみたいって気持ちがこんな伝わってくるって初めてだな。真正面じゃねぇか。……いや)」

 

 

如何に鋭く、そして速いサーブでも正面からくるものであれば、ある程度のスキルを持った者なら、それもリベロなら取るのは決して難しくはない。それに加えて、一本目の火神のサーブの軌道を見ているのだから尚更だ。

 

だが、極限まで集中させた西谷の目には、先ほどのサーブと僅かに違う事に気付けた。ボールの回転の仕方、迫る圧迫感の様なものが僅か右頬辺りを通過した様に感じた。

 

つまり―――。

 

 

「(正面じゃねぇ! 曲がる!!)」

 

身体全体が反応した。

正面からくるかと思いきや、ボールは曲がった。もうほんの一瞬、刹那……その些細な違いを見分ける事が出来なければ、ボールは後方彼方へとんで行ってしまった事だろう。

 

西谷の腕に当たったボールはコート真上に飛び上がり……、アタックラインよりも外側に落下した。

 

とん、とん、とん……、とバウンドするボールを見送った後、放っていた学ランを再び肩に担ぐ西谷。にっ、と最大限の笑みを浮かべ。

 

 

「すげぇな! 火神!! めっちゃビックリしたぜ」

「あ、ははは……。ありがとうございます!」

 

 

火神は完全に上げられた事に対して 全く悔しくないと言う訳ではないが、それ以上に西谷に褒めてもらえた事に感激を覚えて こちらも最大限の笑みを浮かべて頭を下げていた。

 

「いやー、すげーすげー。今年の1年やべぇっスね、大地さん」

 

外で見ていた澤村の方へと上機嫌で戻る西谷。先ほどの【戻らねぇ】発言から、多少なりともまだ不安は残っていたが、今で払拭出来た。

 

「そのやべぇ1年のサーブをあっさり取っちまう所を見ると、西谷もやっぱ頼りになる。まさに守護神だな」

「っっっ、あざーーす!!」

 

澤村の口から改めて、【守護神】の言葉を貰った西谷。

照れくさそうに笑みを浮かべながら礼をしていた。

 

「……うはー、ほんと全然鈍ってないよなぁ。イキナリで影山や火神のサーブ取るとか。俺からしたら  西谷こそがスゲーだよ」

「スガさんも、アザ――ス! ……でも、手放しで喜べないっス。影山のサーブは 文句なしのできだったんスけど、火神のはちゃんとセッター位置に返球出来てませんし。アイツ1球目ミスってたんで、次のは力抑えてたっぽいんですよね。でも全然コントロールは悪く無かった。全力のサーブだと捉えきれなかったかもしれません。……何より1球目は 俺は半分逃げたって思ってます」

 

ちらっ、と西谷は 火神達を見ながら言った。

火神は日向や影山に囲まれてる。サーブやレシーブの話題が中心だろう。特に影山は、西谷が言う様に自分のサーブは完璧に取られたが、火神は違う! と判った様で 更に気合が入った表情をしていた。

 

「は? 逃げた?」

「はい。一投目なんですけど、アレは 正直アウトかセーフか判ってなかったんスよ。結果を言えばアウトだったっスけど、最後の最後まで確信は持てなかった。ノータッチエースやられたって一瞬思ってしまって、負けた気分になって 次のはかなり気合入りましたけどね。いやぁ、やばいっスよ」

「ほぇ~…… ぜーんぜんそんな風に見えなかったけど、西谷がそういうなら、やっぱそうなんだろうな。レシーブに関して言えば特に。つまり影山はすげーが、火神の方は やべー、か」

「っスね。今年は良い年になるっスよ」

 

西谷がスゲー的な空気だったが、やっぱり火神もスゲーと改めて思い直し、空気も変わっていった。

 

そんな時だ。

 

「西谷さーーーんっ!! 次っ、次っっ! 俺に教えてくださいっっ!! レシーブ教えてくださーーいっ!」

 

日向が大手を振って西谷を呼んでいた。

 

「おー、待ってろよー」

 

西谷もそれに応え、駆け足で日向の方へ。

 

 

 

 

その後―――西谷の教え方は、擬音説明が非常に多くて(サッ、スッ、ポンッ。と口に出した) 大多数が理解する事が出来なかったのだった。

本能で動く系の人間の説明は、普通の人にはよく判らない。と言う事がわかったのだった。

 

 

 

 

そして、レシーブ練に精を出していた時だ。不意に日向が西谷に聞いたのは。

 

「旭さんって誰ですか?」

 

一瞬、場が騒然となったのは言うまでもない。西谷の先ほどの激怒を見ていれば、大体察する所があるんだけれど、日向はその辺りは空気を読んでなかった様だ。……と言うよりは、空気を読むより好奇心が勝った。烏野の【守護神】が前に居る。……即ちもう一人は何なのか。

 

それは十中八九【エース】だと日向の中では思っていたからだ。

 

 

そしてその予感は的中する。西谷は 表情を顰めつつも教えてくれたから。

 

「……烏野のエースだ。……一応(・・)だがな」

「エース……っ!」

「目変わったな、翔陽」

 

目を見開いて興奮している日向を見て、火神は苦笑いをしつつ、肩に手を添えた。どうしようもなく飢えているのを知っているから。小さな巨人に憧れた。あの選手は間違いなくあの時代の烏野のエースだったから。

 

そんな2人のやり取りがよく判ってなかった西谷はただただ首を傾げる。

 

「それがどうしたんだよ。エースがどうした?」

「あ、いや…… オレ、エースになりたいって思ってます!」

「あ?」

「あいつ、まだそんなこと言ってやがんのかよ」

 

日向の役割を十分に理解し、十全に発揮できるよう努めてる影山にとって、日向のエース宣言は好ましいとは思っていなかった。と言うより、身の丈を考えろ、ボゲ。とも思っている。エースと呼ばれる選手は数多く見てきたが、攻守揃ってこそのエースだ。一時期スーパーエースと呼ばれる事はあったが、日向は攻撃面は出来てもその他がまだまだダメダメなので、影山は看過できなかった様子。

力づく? で訂正させようと腕をまくった所で火神に止められた。

 

「はい、ストップ。影山の言いたい事もスゲェ判るけど翔陽の話、改めて聞いてみよう。西谷さんも気になってるみたいだし」

「……チっ。あめーんだよ、お前は」

「これでも結構頭引っぱたいてきたつもりなんだけどな。それでも、翔陽の中の熱ってヤツは冷めないんだ。……それに、後ろ向きになるのに比べたら断然こっちが良い」

「…………」

 

影山は火神に諭されてどうにか止まって傍観してくれた。

その間に日向が言う。

 

 

「俺、何年か前の春高で 烏野のエース……【小さな巨人】を見てから絶対ああいう風になる! って思って烏野に来ました!!」

「ほぉー。……その身長で、エース?」

 

 

西谷は、ぐっと声を飲み込んでため込んで、そして大きく吐き出した。

 

 

「いいな! お前!! だよな! カッコイイからやりてぇんだよな!! いいぞいいぞ、なれなれ! 烏野のエースになれ!! 少なくとも、今のエースより断然頼もしーしな!」

「っ、っっ!?」

 

如何とも形容しがたい顔になってる日向。

気持ちはわからなくも無かった。今まで影山に何度も【ボゲボゲ】言われ、月島にも【後ほんの30㎝あれば~】的な事も言われ、色々と尾を引いていてここまで歓迎してくれたのは高校に入って初めてだったから。

 

西谷は純粋に日向の気概に、そして 自分と似た様な身長の男が頑張ろうとする姿を見るのが好きだった様だ。でも、少し残念な所もある。

 

「んでも、やっぱ憧れはエースかぁ、そもそも響きがカッコイイもんなぁ、エースって。ちくしょう!」

「ハイ!! すっごくカッコイイです!!」

「う~ん、エーススパイカーっていう花形に比べたら、リベロやセッターはぱっと見地味だもんなぁ」

 

西谷の一言は影山の闘志にも火をつける。セッターが地味と言われれば黙ってる訳にはいかないのだろう。……勿論、周りに落ち着かされた様だが。

 

「俺はそうは思わないですよ? 勿論、エースっていう肩書と言うか響きが目立つっていうのは頷きますけど」

「あん??」

 

そんな中で火神は異論を口にした。

周りも 少々興味がそそられた様で火神に注目が集まる。

 

「オレの個人的な意見になっちゃいますけど、世界バレーの試合とかでも、リベロが凄いレシーブしたら、敵味方問わず会場が凄く盛り上がりますし、裏を、意表をつくセッターのセットも同じく盛り上がる要因です。う~ん…… なんで 地味って思うトコはオレん中じゃあんまり無いですよね」

 

苦笑いする火神。

西谷は目を見開いていて、次には顔を俯かせながら火神にゆっくりと迫ってくる。何だか恐怖を感じたその次の瞬間だった。顔を勢いよく上げて、背中をバンバンと叩かれた。

 

 

「お前っっ!! か、火神か!!? 火神はいいヤツだな!? 潔子さんの素晴らしさとリベロの良さを分かってるヤツに悪いヤツはいねぇ!!」

 

 

うおおおおっ! と盛り上がってくれた。西谷の中ではリベロ関係が 盛り上がる要因の様だ。勿論清水の事も同様に。

 

 

「だよなだよな!! スゲースパイクは 周りを黙らす! って感じだけど、盛り上がんのはそのスゲースパイクを拾った時だよな!! つまりスーパーレシーブが出た時だよな!」

「う、うぉっす!!?」

「リベロは確かにちっちぇえ選手が生き残る唯一のポジションかもしんねぇけどよ、オレは例え身長が2mあったとしてもリベロって決めてんだよ! 負けないプレイ(・・・・・・・)が一番出来るのがリベロなんだからな!!」

「……ですね! ボールが床に落ちなきゃ得点にならない。まぁ、例外で吹き飛ばされて壁に激突っていうのもありますが、ゲームでは殆ど床に落ちて点が、試合の流れが動きます。………ボールを落とさなかったら、流れも渡さず、そして負けにもなりません」

 

 

火神ははっきりと西谷の目を見ていった。

感激と感動でいっぱいだった。心の師の1人でもあった彼にこの言葉を言える日が来るとは………、と。この世界に来て日が浅かったら確実にハグをしている事だろう、と苦笑いしかけたのはまた別な話。

 

「うぉぉぉぉ!! はっきり言ってくれやがってコンチクショーー!!」

「……りべろ、すーぱーれしーぶ……… 負けにならない………」

 

日向の頭の中では今 エースの事ばかり渦巻いていた様だが、ここへきて脳内の状況が変わる。バレーの試合はテレビでも何度も見た事がある。やっぱりエースが格好いいと言うのは変わらないし、変えられない自分の中の事実の1つ。渇望する1つではあるが、西谷や火神が言う通りだった。

 

そんな日向の姿が火神の視界の中に映ったので、火神も思い出す様に日向に言った。

 

 

「翔陽。中学ん時のコージのキックレシーブを思い出してみ。ほれ あれなんか狙って出来るもんじゃないスーパーレシーブだっただろ??」

「うん……、うん、うん!」

 

 

確かに会場がこれでもか!! と盛り上がったと記憶してる。

火神がサービスエースを決めた時も盛り上がったけれど、決してそれに劣ってたとかは思わない。結果としては 負けてしまったけれど、あの時の会場の盛り上がり方は 確かに凄かったんだ。日向は 火神に色々とフォローをされてなければ負けたショックで何も覚えていなかったかもしれないが。

 

それは兎も角、リベロが盛り上がる事も自分自身は最初から知っていたんだ、と確信した日向は改めて言った。

 

 

「リベロ、かっこいい……ッ!!」

 

 

やや小さめの声だったのだが、それが逆に功を成した様子。

ぴくっ、と耳を大きくさせた西谷。

 

【つい】【うっかり】【気付けば】

 

これらが原因で口に出す言葉は、心底本心である事を西谷は知っているからだ。だからこそ、毎日顔を合わせていても清水にかける言葉は変わらないのだ!(本人談)

 

「ほんとお前らはお前らは!! ガリガリ君2本ずつ喰え!! 勿論ソーダとナシ味だ!!」

「「オス!」」

 

 

 

―――今日この日、アイス2本奢ってもらう約束が出来た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、話題は日向。

西谷は日向の事が大なり小なり気にかかる。自分と同じくらいの身長でエースを目指そうとしている後輩を見て思う所が沢山あるから。

 

【エースを目指すと言うのなら、何か特技があるだろう? レシーブは下手だったけど】

 

と西谷に聞かれ、日向は細々と自信なさげに答えた。

自分は【囮】である、と。

 

 

「見た感じ、火神。お前が教育係なんだろ? 何で自信なさげにさせてるんだ?? せっかくのエース志望の有望な1年を」

「いやいやいや、一応1年のまとめ係を澤村さんにご指名されましたが、間違っても教育係じゃありません!」

「………おれ、有望な1年……っ」

「身体に反比例して、おっきい事言うからじゃない??」

「う、うるせーー、月島うるせーーっっ! 言わなくてもわかってますーーーー!!」

 

 

日向が自信なさそうに俯いていた事以外、これが平常運転な烏野バレー部である。

ただ日向の自信なさそうな言い方には活を入れないと、と西谷は胸を張っていった。

 

「確かにお前の言う囮ってのは、パッとしないが、呼び方なんて関係無ぇだろ? お前の囮のお陰で誰かのスパイクが決まるんなら、お前のポジションだって重要さは変わらなねぇ。【エース】とも【守護神】とも【司令塔】ともな」

「………はい」

「はぁ、もっと背筋伸ばせって。言い方によってはオレなんか器用貧乏って取られるかもしれないし、翔陽のあの囮は真似なんか出来ない最強の武器になるんだぞ??」

 

 

と、色々と日向を励ます会になっていった。(内2名は 別の様だが)

 

 

そんなやり取りを見てた菅原達は、思わずツッコんだ。

 

「いや、今でもスゲーヤベーなのに、どんだけ贅沢なんだよ火神 ソレ。今以上に求めるとか器用過ぎる貧乏人だな ソレ。飽くなき向上心爆発中かよ。もっともっと上目指すってか??」

「ふふ、周りも触発されて、より良くなっていく事を期待するよ。勿論オレ達も負けない様にな。……それに武田先生の言ってた化学変化。俺達はもっと変われる気がするよ」

「間違いねーべ。……後は 旭が帰ってきたら。日向と影山、そいつらを支える火神。今の1年が合わさればきっとどんな強敵にも立ち向かえる。……勝てる!」

「おう! きっとな。あいつもきっと………。てか、求めすぎてないよな? オレ達」

「おいおい、大地。弱気ヤメロよ! なんか心配しちゃうだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、今日 烏野に守護神が戻った(仮)

 

だが、まだエースが残っている。……そして、彼らを導ける指導者も。

今後、どう風が吹くか、どう烏が飛び立つかは判らない。

 

だが、どんな風が吹いても、きっと烏は貪欲に進むだろう。どんな環境でも生き残るだろう。

 

 

それこそが烏野排球部なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同刻某場所。

 

 

 

「監督やってたのはオレのじいさんであって、オレは人に教えるなんてガラじゃねぇんだ。それによ。……あんたが欲しいのは技術指導者もだが、何よりも、【名将・烏養】の名前だろ?」

 

 

 

2人の男が、とある場所で議論を交わしていた。

いや、交渉だろう。

 

「正直に言えば……そうです。全て僕の力量不足です。烏養監督が退かれてから、だんだんと他校とは疎遠となりました。穴埋めで今年入った僕程度では、練習試合さえなかなか取り付けてもらえないんです。……悔しい、ですが」

「名将って名前があればそれなりに変わるかも、……ってか? 気持ちはわからんでもないが、オレはクソめんどくさい高校生のお守りなんかごめんだ。毎日毎日店先で騒いでる奴らを纏める? ………いやいやいや、想像できねーって。頭痛くて」

「…………。また、改めて来ます」

「いや、だからやんねぇってんのに」

「……しつこくてすみません。……でも、あの子たちの試合を見てもらえたら、こんな素人な僕が此処まで通い詰める理由も判ってもらえると思うんです。………失礼します」

 

 

場を後にする男―――武田先生。

その背中を眺めていた男―――坂之下商店の店番。烏養(うかい) 繋心(けいしん)

 

武田の求める技術を教えられる指導者は、文字通り、見た通り、目と鼻の先に居たのだった。

 


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