王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第34話

「先生?」

「~~~よしっ! よしよしよし!!!」

「あの~、武田先生??」

「やった!! とうとう僕はやったんだ!!!」

 

 

場所は職員室。

そこにいるのは大勢の先生方に加えて火神。

 

何で火神が此処にいるのかと言うと……、武田先生に呼ばれたからだ。職員室に呼ばれるのは何だか悪い事をしたのか? と言うイメージが付きやすいが、生憎 火神は学力面でも問題ない。学力が疎かになって部活出来なかった、何て事にならない様に務めているからだ。……つまり、某部員たちの様な ベタな展開にはならないとだけ言っておこう。

 

そして話を戻す。

 

武田は火神を呼んだまでは良かった。

武田と一緒に職員室に入ってきて、その時に電話が鳴った。なので、終わるまで待っていて、終わったと思ったのに――――何だか夢中になってて存在を忘れられてしまったみたいだ。

 

「うるさいですよ、武田先生。後、生徒も待たせてますよ」

「っ、あっ スミマセン。火神君もゴメン…… あまりの成果に思いっきり舞い上がってしまって……」

 

頭を掻きながら謝る武田。燥ぐ姿から謝る姿まで、一連の光景を見ていたら、何だか自分より歳下なんじゃないかな? と思う所はあったりするので、火神は苦笑いをしながら 問題ない、と伝える。

全力で烏野バレー部の為に行動をしてくれる先生なんだから、勿論 尊敬しているし、物凄く頼りにもしていた。

 

「えっとですね。火神君に頼みたいのは、清水君の所にこの書類を届けてもらいたいんだ。後発注していた用具も届いたから、合わせて頼みたいんだけどいいかな?」

「ええっ!? 3年生のトコに俺が!? 澤村さんとかじゃなくて?? ……あ、いえ 別に嫌だと言ってる訳ではないんですが……、その……」

「あははは。ゴメンゴメン。でも清水君とは仲が良さそうで、僕が見ていてもとても微笑ましいからね。だから君が適任だと思ったんだ」

「えぇぇ……、先生も何だか誤解してません? 田中さんや西谷さんたちが騒いでたの聞いてたんでしょ?」

「ふふっ、それはどうかな~。ま、健全な関係までだったら僕は歓迎するからね。何だか青春って感じで良いじゃない」

「はあ……」

 

教師なのに何言ってるの、この人……、とどんよりと肩を落とす火神。

別に、本気で届けるのが嫌だとは思ってないし、清水もマネージャーとしてかもしれないが、バレー部員としてお世話になってるのは間違いないから、このくらいのお使いは寧ろ歓迎するんだけれど、如何せん 田中&西谷 辺りから 事件が勃発しそうなので、げんなりとしてしまうのだ。……清水の事は、昔から知っているし、そのクールさは画面越しでも十二分に伝わってきていたから、色々と思う所はあるんだけれど、どちらかと言えば凄く憧れてる、以前にも伝えたが最高に格好良いと思っている、と言う感情が今は強いと言うのが本音だ。

 

そう正直に伝えたらそれはそれでうるさくなりそうなので、深く言わず口を閉じてるが。

 

 

「こほんっ、えっと 先生。それで電話の内容は 何だったんですか? 猫又先生って名前が聞けましたが、……ひょっとして東京の音駒との練習試合が組めたり? なーんて」

 

ワザとらしく火神は話題逸らし。

こういう時に使えるのは彼の知る知識だ。全てが同じ、と言う訳ではないし 画面上の光景を見るのと実際に体感してみるのとでは情報量の桁が文字通り違うので知識全て100%必中する訳ではないが、要所要所は間違いないので助かる。

 

そして、武田もまんまと火神の策に乗ってくれた。

がばっ、と起き上がって火神の両手を握る。……握られても嬉しく無いけれど、されるがままになって、ぶんぶんと上下に振られた。

 

「そう! その通り! そうなんだよ!! よく聞いてくれたね!! と言うか、名だけで判るとは火神君、君は音駒の事知ってたんだね?」

「はい。噂……程度ですが聞いてますよ。烏と猫のゴミ捨て場の決戦、と言う話を幾つか。音駒の監督と烏野の監督、えっと、烏養さんが顔なじみで……でしたっけ?」

「そうなんだ! どうにか口説く事が出来てね!! 流石に電話越しで土下座は出来ないから、精一杯の誠意を伝えるだけだったんだけど、何とかなって良かったよ!」

 

土下座を得意と自負する武田。

澤村が土下座は止めてほしい、と思う気持ちがよく判った。ここまでやってくれるのは本当に嬉しいんだけれど、自分達バレー部の為に土下座とは、流石に恐縮しきってしまうから。

 

「これは大きなチャンスなんだ! きっと、きっと、ここから何かが変わる! こんな最高の相手。こっちも最高の状態で臨まないと失礼だ」

「武田先生。静かに話をしてくださいよ?」

「あ、スミマセン……」

 

本日二度目の注意を教頭から受けた武田は、とりあえず興奮を収めた。

 

そして、火神に言う。

 

「細かな詳細と日程は後日、皆の前で伝えるからもう少し待っててくれないかな? 火神君」

「あ、はい。判りました。よろしくお願いします」

「うん! っ………」

 

武田は、火神の顔を見て、一瞬ゾクっ、とした。普段の表情。日向や影山がギラギラした闘争心剥き出しな夏の表情だとするなら、火神はどちらかと言えば穏やかで爽やかな春の表情、って感じだった。

でも、今は何かが違った。緩やかに流れる川、潺が聞こえてきそうな穏やかな風景がまるで津波でも迫ってきて大河に変わったかの様な感覚。それは色々とポエミーな武田だからこその情景。

 

 

「……音駒…………、楽しみにしてます。先生。本当にありがとうございます」

 

 

静かで、それでいて誰よりも熱い心を感じた。

 

その後、武田は火神を見送る。

その大きな背を見ていて、こんな少年が、こんな逸材が居るんだから、大人として最大限に、100%を超えて仕事をしないと、応えてあげないと、と武田は改めて胸に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、火神は休み時間を利用して 清水に荷物を届けに行こう、と1年の教室前廊下歩いてた所、ばったりと出くわした。

 

「あっ、せいや! 探してたんだぞ」

「んん? 翔陽に影山。どうしたんだ? こんなとこで」

 

日向は良い笑顔。影山は何処か呆れ気味だった。

 

「この馬鹿はビビリの癖にエース見たいって言いだしてよ」

「あぁ……なるほど」

「んな! べ、べつにビビってねーし! それに影山だってあってみたいって言ってましたーー!」

 

日向はぷんぷん怒っているんだけれど、ビビってないと言われても どうしても説得力に欠けた。影山は 近い将来自分がトスを上げる相手だから、ある程度は本気で思っていたんだろうとも推察できる。

 

「それでどうだ?? せいやも行かないか?? 皆で行けばへっちゃらだ! 大丈夫だ!」

「あれ? ビビってないんじゃなかったっけ??」

「うっ……」

 

図星さされた所で、火神は自分が手に持ってる荷物を前に出して説明開始した。

 

「オレも3年の階に用があるから、その後で良いんなら付き合うよ」

「用ってなんだ?」

「ああ、清水先輩にコレ渡してくれって武田先生に頼まれた」

「いよっしゃ! せいやゲット! んじゃ 行くベ行くべ!」

「こらこらこら、背中押さない。ちゃんとついてくから」

「ガキかお前は。このボゲが!」

 

 

と、色々と騒ぎながら 3人揃って3年生のフロアへと向かっていったのだった。

最初こそは好調気味だったんだけれど、階段を上がって、曲がり角曲がって……その先にある3年生の教室を横切っていくと……段々と委縮していった。火神と影山の背に隠れる様になった。

 

「言い出しっぺが一番腰ひけてんじゃねぇか」

「だ、だってなんか怖いじゃんか!!」

「おぉ、早くも もう認めたか……」

 

 

ビビってないビビってない、と何回か発言していたんだけれど、いざ教室を前にしたら もう認めざるを得なかったんだろう。

 

ちらほらと見える3年生たちは、ここに何しに来たのかな? と少数は興味ある様で ちらちらと視線を感じる。そして日向の恐怖心? も増していく。別に無法地帯に来たわけじゃないんだから、と言っても前に出ようとしなかったから。

 

「……あれ? 3人とも 此処で何してるの」

 

 

そんな時、丁度良い具合に目的の人物に会えた。

そう、清水先輩である。火神は手に持った荷物を前に差し出した。

 

「清水先輩。武田先生から預かりものがありまして 持ってきました。……あ、この2人は例の【旭さん】に会いたくて此処に来たみたいです」

「そう。ありがとう。……今ならたぶん教室にいたと思う。さっき菅原と話してるの見たから。3組」

 

それを聞いた日向は【アザース!!】と良い返事をしつつ、顔を赤くさせながらぴゅーっと離れていった。……影山の制服はしっかりと握って。火神じゃなかったのは、まだ火神は荷物を持っていたし、清水との用事も終わってないから、だったりする。慌てていても それなりには考えている様だ。ある程度 迷惑かけない方向に。

 

「おいコラ離せボゲ!!」

「お前が先に行くんだからついて来いよ!」

「先に行くのについて来いってどういう事だよボゲ! 最初っから言ってるだろうが! お前がエースみたいみたい言い出したから始まったんだろうがって!」

 

 

2人はあっという間に、清水と火神から離れていった。本当に落ち着きのない子供みたいだった。

そんな2人を見て軽く……ではなく、深くため息を吐いたのは火神。

 

 

「何だかすみません……」

「ふふ。良い。恒例になってきてる」

「ええ恒例!? もうですか!?」

「息ぴったりとはまだまだ言えないかもしれないけど。バレー以外でも相性が良いんじゃない? 3人とも」

「とてもスゴク疲れそうな評価をありがとうございます………」

「ふふ」

 

傍から見たら、清水が1年生と楽しそうに話してる様に見えなくもなかった。

普段からクールに話をしている清水はあまり笑ったり、楽しそうな表情になったりはしてないから。なので、自然と……視線が集まってきた気がした。3人でいた時よりもずっと。

 

そして―――田中や西谷には遠く及ばないまでも、3年の男子たちのとても熱くて、寒くて、鋭くて、鈍くて…… そんな色んな意味で矛盾してそうな視線を 火神は一斉に集めてしまっていた。非常に頭が痛くなる案件発生である。

 

 

「はぁ……、どこからともなく田中さんや西谷さんがいらっしゃったら更に大変になるので、今日はこれでお暇しますね、清水先輩……」

「……ふふっ ご苦労様」

 

今日一番の笑顔だったかもしれない、と火神は錯覚した。そして、周りの視線も一気に鋭くなったので、それが間違いじゃない事も実感した。

 

清水が今後からかうような仕草をしないように祈る他無かったのだった。

 

 

 

 

 

「清水ー、今の誰だよ」

「バレー部の1年?? ……田中と西谷は一体何やってんだよ」

「オレも気になる~~!!」

 

 

離れていった後に、誰だ誰だ と清水に寄ってくる男たち。バレー部なら 田中や西谷が教育(・・)をしっかりしてる筈なのに、とも勝手に思っていた。

 

それはそれは悲しき男の性である。田中や西谷程アグレッシブじゃないのがせめてもの救いと言えなくはないが、清水にとってすれば どっちもどっち、的な所もあった。―――バレーを頑張ってる事は間違いないので、やや身内びいきが合ったりするが。

 

 

「………期待の(・・・)大型新人(ルーキー)、かな」

「「っ!?」」

 

 

いつもの清水なら、素っ気なく返して終わりなモノだった筈だ。……そう、騒がしさにかけては学校で1,2を争う田中と西谷の事を聞いた時と全然違う返しだった。

 

一体あの1年と他の男子たちと、何が違うんだ!? と一斉に脳内で考えを張り巡らせつつ、悶え上がっていた時だ。

状況を見てた一部の女子が呆れ気味に答えてくれた。

 

 

「そうやって がっついたりしないトコでしょうが」

「うんうん。何だか誠実って感じな所もポイント高め」

「それに高身長だしね。イケメン~ っていうよりは爽やか系? 癒し系?? 可愛い系??」

 

 

【!!!】

 

 

と、女子たちの意見を聞いて、ずがーーんっ、と雷が脳天直撃する感覚に男子一同は見舞われていた。

よくよく考えたらそうだ。清水に迫るような男たちは基本的に体育会系部活に入ってる野郎どもばかりだ。だから 普段とは一味違う男の子、みたいな感覚が清水にとっては新鮮で心地良いんだ、と男たちは結論付いて勝手に意気消沈してしまった様だ。

今までの自分達を鑑みると、田中や西谷までとは言わなくとも、どう贔屓目に見ても女子たちが言う様に がっついてるのだから。

 

勝手に落ち込んでる男子たちを放置して、清水は颯爽と、何処か晴れやかさも兼ねて この場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日向達はと言うと。

 

「お前ら こんなトコで何してんの? あー、旭。この前に入った1年なんだよ。日向と影山」

「「ちわっス!!」」

「なるほどね。おース! 今年何人?」

「ああ、5人だよ。多いとは言えないけど、もれなく全員有望株」

「そうかぁ。良かったな。部員不足気味だったし、入ってくれたのがスガの言う有望株なら間違いないだろうし」

 

日向は ビビりながらも何とか3年生でエーススパイカー 東峰(あずまね) (あさひ) に接触する事に成功していた。

最初こそビクビクしていたんだけれど、東峰の顔は兎も角、人成りは優しそうで安心しきっていたのだが、……同じバレー部な筈なのに 何処か他人事の様に言っていて違和感があった。

 

その違和感を決定付けたのは、東峰の激励。【頑張れよ】と背を押してくれた事だ。

相手が烏野OBとかなら とても嬉しい事なんだけれど。

 

「あ、東峰さんも一緒にがんばらないんですかっ? オレ、エースになりたいから、憧れてるから、本物のエースをナマで見たいんです!」

「! …………」

 

日向の真っ直ぐな視線。それは 東峰を決して逸らす事無かった。

思わず東峰は気圧されそうになってしまったが、どうにか踏みとどまる。そして、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。進路指導の話だ。……学生には大事な話だから行かなければならない、と言い訳を自分に課す。その上で見に来てくれたと言う1年の日向に対し、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 

「………悪い。オレはエースじゃないよ。ナマのエース……見せられなくてごめんな」

 

そうとだけ告げると、東峰は去っていった。

その背中が小さくなった所で、火神が合流。

 

「あ、菅原さん。ちわース」

「………そっか、お前ら3人で此処(3年)に来てたんだな。ビビっちゃってる日向じゃ影山1人だったら、尻込みしそうだし」

「スガさん!? おれ、び、ビビってないっスよ!」

「何処からどうみてもビビってるだろうが、ボゲ」

 

何とか気丈に明るく話そうとしている菅原の姿勢。それは最初から居なかった火神にもよく判る。ある程度の結果を知る火神でも、よく判った。

何となく、あまり話したくない雰囲気だったんだけれど、そこは影山。空気は読むのを得意としてない為、直球で切り込んだ。

 

「菅原さん。オレ、よくわかんないスけど、あのあず……あずねさん?「東峰だろ?」……おう、東峰さんって怪我とかですか? それで長期休養中とかですか?」

 

聞かれたからには、もう答えないといけないだろう。特に日向には伝えなければならないと菅原は思っていた。此処まで来てくれた事に感謝もある。ちょっとしたきっかけで、何かが変わるかもしれないから。

 

「いや、身体は大丈夫。元気。……外部的な要因があるとかじゃないからな。…………その、アイツがバレーを嫌いになっちゃったかもしれないのが、問題なんだ。精神面ってのが一番厄介な相手って事なんだろう」

「ええええ!? あんなにおっきくてエースって呼ばれてて、なのに?? 何で??」

 

菅原はグッと飲み込んだ。

日向の言う事も判る。でも、原因を作った1人としてはそう軽はずみに口に出来ないんだ。

 

「ふぅ。それにしても 火神はよく旭の名前知ってたな? さっき居なかっただろ?」

 

一息つこうとする菅原。別に話題をそらせようとしてる訳ではない。ただ……一呼吸欲しかっただけだ。

そんな何気ない疑問が火神にとって ほんの少しだけある意味プレッシャーの様に感じたのはまた別な話。影山が名前間違えた時 深く考えず思わず反射的にツッコんでしまったから。

勿論、ほんの少しだけなので特に問題はなし。

 

「廊下で聞こえてましたからね。東峰さんの名前。進路がどう、って。まぁ オレが間違えてたら赤っ恥モノでしたけど」

「せいやは、影山の様に間違えたりしないだろ? 何言ってんだ??」

「うるせぇボゲ日向!!」

 

そぉらぁぁ、と日向をぶん投げる影山。そして上手く着地する日向。体育館じゃないし、狭い廊下なんだから、アクロバティックな事しないで貰いたい、と火神は深くため息。

 

「ふふ、火神が居るとなんか安心できるよなぁ。ほんっと3年の立つ瀬ナシって感じ?」

「いやいや、そんな事無いですって。……それにコイツら限定だって思ってくださいね? ただでさえキャパオーバー気味なんで」

「ははは。そうだな」

 

廊下で暴れてて、教師にでも見られたら(特に教頭)厄介極まりないので早々に日向と影山(問題児たち)をひっ捕まえた火神。そんな姿を見て菅原は思わず笑ってしまう。

もし――と言う仮定は無意味だとはわかっている。でも、この男がもしも2年生で 指揮をしてくれたなら……と思わずにはいられなかった。それは自分の力量の無さを認めてしまっている様で情けなくも感じてしまうんだ。

 

 

「……旭はな。烏野(ウチ)では一番デカかったし、一番のパワーで 苦しい場面でも難しいボールでも決めてくれてた。だから、俺も皆もあいつをエースって思ってて…… それで、アイツに頼り過ぎたんだ(・・・・・・・)

 

 

いつも優しい菅原の悲痛な表情。それを見たら如何に鈍感朴念仁な影山でも察する。

 

「……相手に潰されたんですか? 試合で」

 

影山の問いに対して菅原は無言で頷いて返答。

 

「敵ブロッカーにマークされるのは、エースの宿命だよ。選手達は勿論 監督だってそう指示したんだろう。勝つための常套手段の1つ。―――それで、東峰さんは」

「ああ。お前らの言う通りだ。ある試合で旭のスパイクは徹底的にブロックに止められてさ。完膚なきまで、っていうのはああいう事なんだと思う」

「……えっと、それで東峰さんは。ええ、それだ……っっ」

 

思わず日向は本音を言ってしまいそうだった。でもどうにか口を噤んだ。

元々日向や火神は試合する以前に出来るかどうか判らず、それでもしがみ付いてどうにか実現させる事が出来た中学時代の経験がある。バレーが好きだから出来た事だ。人数が居なかったら、試合に出られなかったら、ブロックに止められるとか、スパイクを決められないとかの以前の問題だから。あの時の苦労やバレーが出来ない絶望に比べたら、申し訳ないが非常に軽く感じてしまった。

 

その事情を勿論菅原も知っている為、笑って答えてくれた。

 

「それだけ、って思うだろうな。俺らからしたら、勝ち負けは一先ず度外視したとしても、試合が出来る。その当たり前の事を、ずっと出来てたんだし。日向や火神は違うもんなぁ」

「あっ、いや ブロックされるのはスゴクスゴクスゴク嫌なのは判ります!」

「自分が挙げたボールを止められるのもキツイと思いますよ。な? 影山」

「――――――……それ 自分が止められるより100倍はムカつく」

「はは。影山もこの通りです」

 

 

笑って聞いててくれた菅原だったが、徐々に表情がこわばっていった。

 

 

「でもエースである旭が、サーブでもブロックでも狙われて、マークされてっていうのは、火神が言う通り普通な事なんだ。普通で当たり前、いつもの事なんだ。……でも、あの試合(・・・・)では それがとにかく徹底的で、烏野(こっち)は何も出来なかった。……旭は人一倍責任を感じちゃう性格だから………………」

 

 

性格云々はどうしようもない。

日向や影山に突然繊細になれ、と言った所で出来る訳がないのと同じだ。……どうにか乗り越えてもらいたい気持ちが強く出る。でも、手段がわからない―――、と悩んでいた時。はっ、と菅原は時計を見た。

 

「! ていうかお前ら急がないと部活始まるぞ! 大地にどやされる! オレもすぐ行くから!」

「「「! ウス!!」」」

 

 

半分は話を終わらせたかったと言う理由もあるのだろう。

菅原は部活の時間、と言う理由で3人の背を押し、話を一時終わらせたのだった。

 

 

 

廊下を走って―――行くと怒られるので速足で体育館へ直行する3人。

そんな中で話題に上がるのはやっぱり東峰の事だ。

 

「う~ん……、バレーってそれで嫌いになっちゃうもんなのかなぁ。せいやはどう思う?」

「人それぞれ。自分の物差しじゃ測れない事だってあるだろ? それに、俺だって最初バレー部入らないって匂わせた事あるじゃん。でも、俺はバレー部に入った。東峰さんだってまだまだ分からないって」

「おお! そうだな!!」

 

日向は励まされて? 元気いっぱいに。

その横で黙って聞いていた影山は、とある単語を聞いて一気に覚醒。

 

「……はぁっ!? ちょっと待て! 前に言ってたのは冗談とかじゃなかったのか!? お前がバレーしねぇとかどういう事だ! バレー部入らないとか、んな事あったのかよ!? 何でだボゲぇ!! 何でだボゲ火神!!」

「お、おおぅ…… 影山に初めてボゲ言われた」

 

 

 

 

その後―――火神がバレーしないなんてあり得ない!! と散々影山に熱弁+原因追及を受け続けた火神だったが、終わったことだし、今は入ってるから、と何とか宥める事が出来た。

 

日向に関しては、何だか珍しい光景だったので 暫く傍観をしてるのだった。

 

 


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