王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第35話

学校の授業が終わり、その後 待ちに待った部活の時間。

色んな事があり、まだまだ解決出来てない問題もあるけれど とりあえず 烏野のリベロ 西谷は【旭がいないと戻らない】宣言をしていたんだが、日向や火神のお陰で殆ど復帰してくれた。でも、当の本人は 本格的な復帰は否定しているつもりみたいだ。

 

 

【日向にレシーブを教えてやる】

【火神のサーブ練に付き合ってやる】

 

 

と言う条件を出していたんだが、今ではそんな事は忘れて皆と一緒に声を出し、ボールを追いかけ、コートの上で泳ぐように飛び込み、そして汗を流している。

バレーボールが心底好きなんだから、一部の練習だけに付き合う、なんて器用な真似 西谷には出来ないんだろうな、と傍から見てた火神は笑っていた。

 

 

西谷のその動きはやっぱり参考になるので、一瞬一秒逃さずに観察できる所は観察し、その技術を少しでも学ぶ。

 

西谷の射貫くような鋭い眼光。そして 良い具合に脱力して 即座に動ける自然体の構え。

そして、やっぱり参考になるのはボールが打たれた刹那のタイミングで両足を地面から離し、自分の動きをリセット。そして次のステップに着地の反動を利用して行うスプリット・ステップの動きが非常に滑らかだった。対峙しているモノから見たら異様な反射神経に驚くだろうが、その全てが理にかなった行動となっているんだ。だから、未来の話にはなるがあのウシワカの強烈なスパイクやサーブに慣れる事が出来たんだろう。

 

だからこそ、傍で見ていて物凄く勉強になるし、何より一緒に練習出来て嬉しい……と、改めて火神が頬を緩ませたその時だ。

 

 

「ん、ロ―――リングっっ! サンダァァァァ!!」

 

 

見事な動きの最中、あの技が発動した。

 

よく漫画では自分の技名を叫びながら攻撃したり、防御したりするんだけれど……、アレは非常に大変な行為だと言う事は小学生の時に思い知っていた火神。

 

常に全力で動き、周りとの声かけは勿論行いながらプレイしてる為、所謂 カッコイイ技名を叫ぶ暇なんて無かったからだ。技を叫ぼう! と一瞬考えてしまっただけで、遅れてしまう事だって多々ある。

だから考えずに反射的に声に出さないとパフォーマンスを落としてしまうのだ。今思えば恥ずかしい記憶にはなるが、泣く泣く技叫を断念した記憶が頭の片隅に有った。

 

そして今現在。

 

西谷は見事なパフォーマンスで見事(笑)な技を叫んで両立してた。ボールはセッター位置に良い具合の回転と高さで戻り、文句なしのレシーブだろう。

満足そうにドヤ顔していた西谷だったが……、周りから飛ぶ意見は実に冷ややかだったり、からかったり、笑われたり、注意されたり、だった。

 

 

「……あ、うん。ナイスレシー……ブ? いや、ナイスはナイスだな。ちゃんと返球出来てる」

「コラコラ。変な事叫びながら動くんじゃないよ。危ないよー!」

「ぶあっはっは! 普通の回転レシーブじゃねーかノヤ。サンダー何処行った?? 後でカミナリでも振ってくんのか??」

「……そもそもなんで叫んだんですか?」

「ぷっ、ナニ……?? 今の……」

「ぶふぉっっ!!」

「あ、あははは………(うん。スゴク懐かしいかも)」

 

最高にイケてた! と本人は思ってたので、いたたまれなくなったのだろう。僅かに頬を紅潮させつつ、失礼なことを言う1年にはお仕置きだ。

 

「おうコラ!! 影山・月島・山口の3人! まとめて説教してやる! 屈め!! いや座れ!! オレの目線より下に来い!!!」

「えーー、なーんで火神君は良いんですかー? すごく笑ってましたよ? 呆れ気味な顔で」

「火神の笑い方はオレん中の怒りラインをまだ超えてねぇからだ! まだ許せるんだよ!」

「ブーブー。贔屓反対―」

「……月島。いい加減 事あるごとに俺巻き込もうとする癖止めてくれって……」

 

くわっ! と大きな口を開けて叫ぶ。

そんな西谷にも支持者はいた。

 

「かっけぇぇ! 教えてーー! ローリングサンダー教えてぇぇぇ!!」

 

日向にはドストライクだった様で、ただただ目を輝かせながら教えを乞うのだった。 

 

 

そんな騒がしい中で、もう1つの事件? が起きる。更に騒がしくなる事件が。勿論、良い意味で。

 

がらっ、と勢いよく体育館に入ってくるのは武田だった。手にはA4用紙の紙が握られていて、強く握っていたからか、所々が皺くちゃになってしまっていた。

 

「お疲れ様――! おーっと、相変わらず騒いでるね、キミタチは」

「……すみません」

「あははは。良いって良いって。活気があって何より! うんうん。部員不足解消って良いよね~、 っとと、それどころじゃないんだ。澤村君。ちょっと皆を集めてくれないかな?」

「わかりました」

 

澤村は、【集合――――ッ!】と号令をかけて、全員を集めた。

騒がしかった西谷達も流石に今はちゃんとしている。

 

 

「えっと、皆さんに伝えたい事があります! っと、その前に確認ですが、今年も皆、やれるんだよね? 5月の大型連休、烏野名物GW合宿!!」

「ハイ(名物??)。勿論です」

 

 

武田の質問に間髪入れずに頷くのは澤村。いつもこの時期に行ってる恒例の合宿ではある……が、名物になった記憶はないので、少し首を傾げそうだったのは別の話。

 

「ふっふっふ。皆の顔見てたらわかるよ。此処にいる皆の中で不参加者はいない、って」

「えー……合宿ぅ……? メンド……」

「合宿っっ……!!」

「………………うん。全員参加だね」

 

 

過剰気味に反応するのが約1名、そして 表情を極端に歪ませてるのが約1名。

勿論、日向と月島だ。とりあえず、日向は置いといて、軽く月島の頭をチョップするのは火神。

面倒なのは別に良いけれど、それを先生の前で言うのはちょっとどうかと思うからだ。

 

 

そんな一連の流れをこれまた微笑ましそうに一頻り見た後、武田は更に笑っていった。

 

 

「それでですね。今ここで発表します。GW最終日!! 練習試合が組めました!!」

 

 

武田のその宣言で驚きを隠せれないのが2,3年のメンバーたち。1年も大体が目を輝かせて武田の方を見ていた。

 

「合宿中の練習試合って初めてじゃん! 頼もしいな! 武ちゃん!! どうした!?」

「あ、あの相手は……!?」

 

中々先生相手に失礼な事言ってる田中は兎も角、とりあえず 何処と練習試合をするのかが一番気になるので、そこに皆が集中した。何せ、ついこの間4強の一角である青葉城西と練習試合を組んでくれた実績も有り、半端なトコではないんじゃ? と期待していたからだ。

 

そんな中、火神は違う意味で目を輝かせていた。知っているんだ。知っているんだけれど、正式に宣言してくれる事もまた格別に嬉しかったから。

 

 

「相手は、東京の古豪【音駒高校】です」

 

 

天変地異でも起きない限り、もうこの決定は覆らない。

だからこそ、嬉しいし、燃えるんだ。

 

「んん? 東京?? ねこま??」

「音駒って言うと、あの、ずーーっと烏野と因縁のライバル関係だったっていう、あの音駒……ですか?」

 

勿論、音駒の名を知る者は、はいったばかりの1年じゃ知らないのは無理ないことだ。

それと、知ってるとはいっても実際に交流が途絶えてしまったから、他の2,3年生たちもやや困惑気味だった。県内ではなく県外のチームとだから尚更。

 

そんな全ての疑問に答える様に、武田は続ける。バレーは未経験でもありとあらゆる情報は仕入れたつもりだから。生徒の疑問に答えるのが先生、と言うものだから。

 

 

「うん! その音駒であってる。音駒、その名の通り、通称――ネコ、と呼ばれてる古豪高校だよ」

 

 

通称を聞いた所でやっぱり判らないのは仕方ない。ただネコと聞いただけで判るのは予習済みな者だけだ。なので、知ってる頼りになる先輩が日向に教えてあげていた。

 

「えっとな。俺らも話だけはよく聞いててよ。前の監督同士がずーーっと昔からライバル関係で、その絡みもあってお互い遠征で練習し合ってたんだと」

「ほーーっ」

「うん。それに実力も伯仲してて相性も良かったから遠出する価値は十分あるくらいの良い練習試合が出来たって聞くよ。それに面白いのが此処から。練習試合があると近所の人は皆見にいったらしい。東京側ですれば東京の地元の人が。コッチでやればコッチの地元の人が。名勝負! 【猫対烏! ゴミ捨て場の決戦!!】つって」

 

 

ネーミングが中々斬新な名の決戦名だったので月島は否定的なイメージを持った。

 

 

「……それ、本当に名勝負だったんですか?」

「猫と烏の生存をかけた命懸けの戦いなんだし。名勝負で間違いないと思うぞ。月島」

「………いやいや それって、本物の動物同士だったらの話じゃん」

「うおおーー、凄そう!!」

「そっちはうるさい」

 

 

実際に餌場の取り合いだから、火神が言う様に負けた方は餌に有りつけず、危うくなってしまうので、傍から見たら大したこと無くても本人たちにとっては壮絶な戦いだったかもしれない。それに因んで名づけられたとするなら、やっぱり名勝負だ、と火神は納得して、日向もそれに乗っかる形に。そして月島は懐疑的なままだった。

 

そんな中で感慨深いのは3年生の菅原と澤村だろう。話は聞いてても、丁度烏養監督が離れてしまったので、実現した所は体験していなから。

 

「あっはっは。でもま、監督同士が長年のライバルなんだし。俺たちもいつかは戦ってみたいね、ってたまに皆で話してたんだ」

「だな。……でも烏養監督が居なくなってからここしばらく接点が無かったのに、どうして今?」

 

 

気になったのはその点だった。確かに嬉しい事ではあるが気になった。……何せこれまで何度も武田にはお世話になってるし、聞いておかないといけない気も色々としているからだ。……大の大人に土下座させてしまった事への贖罪? のつもりではないが、それでも全力を尽くしてくれてるからには全て知っておきたい、と言うのが澤村の考えである。

 

「うん。詳しいことはまた後で話すけど、音駒高校っていう好敵手の存在を聞いてどうしても【因縁の再戦】をやりたかったんだ。監督たちから始まった因縁。それは長く続けば続く程、その関係はきっと皆に受け継がれていく筈だからね」

「??」

「ふふ。期待してて良いよ。……相手が音駒なら、きっと【彼】も動く筈だから」

 

 

武田の笑み。

そして、同時刻 某商店では 人知れず大きな大きなクシャミをする男が1名いたのはまた別の話。

 

 

 

 

因縁で、そしてある意味 憧れでもあった相手との練習試合は青葉城西との時にも負けずと劣らない盛り上がりを見せた。

 

だが、そんな中で 西谷の表情だけは他のメンバーとは違っていた。思い詰めた表情をし、少し考えた後に、澤村の元へ。

 

「……大地さん。すみません。俺、音駒との練習試合出ません」

 

断腸の思い、かもしれない。

西谷はバレーボールが好きだ。例え謹慎で練習に来られなくても、部活に出られなくとも、他の場所を見つけて只管練習を重ねる程、バレーボールが好きだ。

だけど その気持ちを押し殺す程の事が、西谷の中にはあったんだ。

 

「……旭が戻ってこないから、か?」

「――――――……」

 

その理由は澤村には一目でわかる。いや、澤村でなくとも西谷を知っているバレー部員ならもう大体は解ってる筈だろう。

 

「お前が旭が【逃げた】って思って腹立ってるのかもしれないけど、西谷は西谷なんだし―――……」

「いや、そうじゃないっス。……翔陽は良いヤツだ。それに火神もそう。アイツら纏めてるトコ見ると俺なんかよりずっと大人って感じもします。……他のメンバーも曲者揃いだけど、面白そうなヤツばっかりだって直ぐわかりました。俺もここで思いっきり練習したい。自分がもっともっと上達していくのが目に浮かびます。……けど」

 

西谷の表情は再び沈む。

上達するのは楽しい。皆と一緒にバレーをするのも楽しい。そんな先が良く見える。

でも―――今のままじゃ見えない事もある。

 

 

「……試合に俺も出て、勝ったら………、旭さんが居なくても勝てるって証明になるみたいで。……今まで一緒に戦ってきたのに、旭さんが居なくても勝てる。そんな風になるの、嫌なんです」

 

 

見えてる先に、ずっと一緒にいた筈の仲間が居ない。西谷にとってはそれが何よりも嫌だった。烏野を支えてきた自負がある。大きなエースを支えてきた。そんな男がもういなくなるのは、何よりも嫌だった。自分の心の内からも。

それでも、これは我がままである事も理解している。

 

「スミマセン」

 

だからこそ、直ぐに謝った。誰よりも3年生の2人に、主将と副将に迷惑をかけてしまっているから。

そんな西谷を見た澤村は、想いを汲むと同時に軽くため息。

 

「……わかった。でも、合宿には参加してくれよ? エースだけでなく、守護神にも憧れてるヤツは居るんだからな」

 

澤村の視線が日向たちの方に向いた。偶然なのか必然なのか、丁度日向が振り向いたタイミングで、西谷と日向が目が合う形になり、また飛び付く勢いで日向がやって来た。

 

「ノヤさん!! もっかい!! ローリングサンダーもっかい!!」

 

手に持ったボールを差し出す日向。その日向のまっすぐな視線を受けて、断れる筈もない。

 

「あ、西谷さん。俺もまた自主練でサーブしますんで、付き合って貰えませんか?? 音駒は守備力が凄いって評判なんで もっともっと練習しときたいんです」

 

日向に便乗する形で火神もやって来た。

純粋にバレーを教えてもらいたい日向と、事情を知っていて打算的な部分はあるものの、それ以上に嘘偽りのない 乾く事の無いバレーへの貪欲な姿勢を持つ火神。

2人の後輩に頼られる先輩の西谷。

 

「な? ……西谷を必要としてるヤツはこんなにいる。……それに旭だってきっと気付く。必要とされてるって何だかむずがゆいけど、良いもんじゃないか」

「……………そっスね。わかりました」

 

西谷は頷くと、難しい顔をしていたのをとりあえず止めて、表情を戻した。

まずは先着順。日向のリクエストでもある回転レシーブの指導をしてからスタートだ。

 

「よっしゃ。ササっと覚えろよ翔陽! んでもって、火神! 思う存分打ち込んでみろ! いつでも付き合ってやるからよ!!」

「「願いしアーース!!」」

 

 

そんな感じで纏まった。

 

その後、何だかやる気なオーラ? を影山が感じ取ったのだろう。疎外されない様に影山も混ざって濃密な練習を続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――……因みに、日向の回転レシーブ練習の結果はと言うと。

 

 

「んローリングッ……サンダァァァァ!!!」

 

 

と、見事な掛け声と共に飛び出して一回転。……そして見事に回って着地。

 

前転(・・)上手いな? 翔陽!」

「前の時も言ったけど、翔陽。ちゃんとボール見て動こうな? 出来ないのは仕方ないけど、ボール完全無視してたぞ、今の」

「ボゲェ!! 日向ボゲェ!!!」

 

 

前転が更に上手になっただけなのだった。

 

 

 

 

 

 


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