王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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月末月初は凄く大変…。

今回も書いたり消したりを繰り返してしまいました。
なかなか進みませんが、頑張ります。


第44話 音駒戦②

――笑ってる。

 

 

烏養は サーブをする為 ボールを持って下がっていく火神を見て一瞬戦慄が走った。

戦慄が走ると同時に 自身の祖父が頭の中に浮かんできた。

 

頭の中の祖父は、自分に。

 

 

【勝負事で本当に楽しむ為には強さが要る】

 

 

そう言ってきた。

にやり、とあくどい笑顔のままでそういってきた。

 

祖父が浮かんできて、言われた……と言うよりは、昔を思い出した、と言うべきか。

 

 

 

そして、その言葉の意味は理解できる。

生半可な事ではなく、勝つか負けるかの本気の(・・・)勝負の世界。

 

その場で 心の底から楽しむ為には、相応の技のスキルや身体を動かすスキル、様々な強さが要る。楽しむ為に絶対に必要となる土台そのものが。

 

 

そして、火神は現在その楽しむ為の強さと言うものをかなり高いレベルで間違いなく持っているだろう。

 

 

短い時間ではあるが、烏養も練習を、練習形式の試合を見ていた限りでは そう評価した。

間違いなく、伸びしろが見えないうえに、全部員中トップクラスの総合力である、と。

 

 

 

だが、何故だろうか……、あの火神から見れる笑顔は、何だか違う感じもした。

 

 

ただの勘ではある、……が、祖父の言葉のそれとは根本的に何かが違うーーと一瞬ではあるが感じられた。

その何かが、自分を戦慄させたのだろうか、と烏養は思った。

 

だが、今は戦慄を感じる以上に心強さも感じられる。

 

仲間たちからの信頼は元よりあるが、コートの外から見ている自分自身が、まだ教えだしてほんの数日しかたっていない筈の自分自身が、全信頼を寄せても良いとも思えてしまっているのだ。信頼とは積み重ねていくもの―――の筈なのに。

 

「こえぇな……」

「??」

 

ぼそっ、と呟く烏養。

火神が【お父さん】と呼ばれる所以がひょっとしたら此処に在るかも? と苦笑いもしていた。

そんな烏養の横にいた武田は、火神に声掛けをしていた為 烏養のつぶやきを聞く事は無かった。

 

ただ、苦笑いの後の にやっ、と笑っているのははっきりわかった。口元を見てみると一目瞭然だった。

なので 心配事ではないとも判断し、改めて火神の方を見た。

火神も抑えきれない、と言わんばかりの笑みがその表情に現れている。

 

 

「さぁ、どうなるかな。……やって見せてくれよ。お前の言うわがまま(・・・・)をよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――別に、翔陽の言ってた事をそこまで真剣に考えてたワケでもなかった筈、だったんだけど……。

 

 

孤爪は、影山・日向の超速攻を見せられた時は確かに驚いていた。

そのトンデモナイ技をやってのけた日向の口から【スゲー】と言う言葉を聞いて、それなりには警戒をしようと思ったけれど、何だか火神の後ろ姿を見て、今は一体どんな表情なのかが無性に気になってる自分がいて、そちら方がよっぽど驚きだった。

 

 

孤爪研磨と言う男は、昔からインドア派。

他人は苦手で関りを嫌うと言うのに他人の目は物凄く気になる性格だった。

 

そして ゲーム大好き人間だから……色々な問題や改善策を模索する時、ゲームに当てはめて考える事が多かったりもする。

 

今まさに初めてプレイするゲームをする時の様な感覚だった。

 

事前情報が全くわかってないのなら、中身が判らなくて当然だし、初見でやられてしまうトラップ的なギミックがあるのもありきたりな設定だ。

だから、最初はしっかりと観る方に、観察する方に回る。他人の目を気にしながら。

 

そして今見ているのは火神の後ろ姿。

 

――別にそれ自体を観察する意味はあまりない。どういう人間かは短い時間ではあったが、大体判る気はしているし、今の所 プレイに直接関係性は薄いものだから。

 

他人が苦手、人とのコミュニケーションをとる事も苦手。そんな孤爪でも取る事を別に苦痛に思わない人種なのが 孤爪の中の火神と言う男に対する印象だった。

 

だからこそ、火神の事は観察はしやすい。

 

観察中、仮に目が合ったとしても、相手からペコっと笑顔でお辞儀されてしまうと思えるから。……想像したら逆に自分が恐縮してしまったりもしそうだった。

それはそれで何だか新しい気分にもなる。

 

 

――此処まで気になったのは初めて。さっきまでは普通に見ててそこまで思わなかったのに。

 

 

孤爪は、ずっと火神を見てても判らないので ゆっくりと皆の方を振り返った。

 

 

「……集中して。誠也のサーブは 凄いらしいから」

【!!】

 

 

ただ、ぼそっ、と一言程度いっただけ。表情は殆ど変わらず。

でも 音駒の皆がぎょっ、としてたのは無理もない話だ。

 

何故なら孤爪が自分から自発的に、それもはじまっても無い相手に対してこんな事を言うなんて、警戒心を伝えるなんて思いもしなかったからだ。夫々が今までの記憶を幾ら遡っても……こんな事は今までに無かった。

 

【警戒する】

 

とは口に出したとしても、それは ただただ試合中に冷静に物事を見て、出来るか出来ないか、可能か不可能かを分析し、それを淡々に伝える事が常だった。

 

烏野との練習試合は 確かに驚く事に以前【楽しみ】と口にしていたが、今まで試合に然程興味が無い様子だったし、発する言葉にはチームスポーツ特有の熱と言うものが無いほぼ平常運転。

 

だが、この時 ほんの僅かな熱。……熱と言っていいのか、熱に失礼? ではないか、と思える程の消え去りそうな程の僅かなものだが、間違いなく孤爪研磨の中にある、と皆が感じるのと同時に、小さく視線は鋭く、それでいて しなやかに、構える。

孤爪はこの音駒のセッター。司令塔であり、音駒の脳。

 

脳が正常に働く為に、滞りなく流れる血液の如く、ボールを上げる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、孤爪が言った通りの事が、否 それ以上の事が起きた。

 

 

先ほどまで、小さな10番がトンデモナイ攻撃をしていて大いに騒がしかった筈なのに、まるで突然音が消えたかの様な感覚が走った。

 

嵐の前の静けさ――とはこの事を言うのだろう。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

猫又、烏養、そして コーチ陣や武田。見守ってる観客たち。

場の全てを巻き込むほどのモノ。

 

ぴん――っと空気が張りつめるのが判る。

 

 

【緊張感をもって試合をしろ】

 

 

とはよくコーチから聴く言葉ではあるが、云われるまでも無く緊張感に包まれてしまっている。

試合は本当に始まったばかりで、それも相手側最初の初球のサーブでこんな緊迫感に見舞われるのなんて一体誰が想像出来ただろうか。

誰かが生唾を飲み込む音さえ聞こえてくる感覚がする程にだ。

 

 

「……こんな感覚久しぶりだ。まるで烏養のジジイとやってる時みてぇに」

 

 

猫又は 静かに、ゆっくりと細い目を開いて 自然とそうつぶやいた。

もう何十年も昔の話だが、中学の時の地区予選、そして練習試合。烏養と何度も何度もボールを交え、ライバル関係となり互いに切磋琢磨、高揚し合った。

バレーがどんどん上達していっているのがよく判った。……何よりバレーが楽しかった。心沸き立った。

 

そして現在。

 

烏養は寄る年波は超えられないのか病によって倒れ、縁が切れたかと思っていた烏野との練習試合で本当に色々と驚いた。

 

緊張感も緊迫感もある……が、それ以上に何処か心地良いそんな感覚が鮮明に蘇ってきたのだ。

驚くべきことに火神と言う男は、敵味方もれなく全員を巻き込んでいる様な感じがするのだ。

正直、始まったばかりで、それもたったワンプレーでそこまで言えるワケはない、と客観的には思うが、何だか直感した。

 

「言葉が無いとはこの事か。……随分 凄い子がいたもんだ」

 

 

直感に身を委ね、ただただ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あの……試合前に、すみません】

 

 

 

―――想いを、ボールに込める。想いを、掌に乗せる。想いを……打ち込む。

 

 

高く上げられたボールは緩やかな回転が掛かる。

イメージ通りのトスの高さ、回転の具合も申し分なし。

 

それと同時に踏み出した左足、そして右足、……踏み込み、振り上げる両手、空中姿勢。

全てが完璧だった。心と身体が一致した時、自分の持てる全てを出す事が出来る。

 

完璧なイメージのままに跳躍した火神。空中で、まるで時間が止まったかの様な感覚だった。それに相手のコートもよく見えている感覚。ボールから一瞬も目を離していないのにも関わらずに。

思いの丈の全てを込めて――自身が狙った箇所寸分も違わずに打ち放った。

 

 

ボールは轟音を纏って音駒コート側へ打ち放たれる。

 

 

 

火神が最初から狙った箇所とは、音駒の守護神(リベロ)

 

 

【西谷 夕】に続く、火神がこの世界で特に 心底尊敬する選手の1人【夜久 衛輔】。

ハイキュー‼ リベロの象徴の1人。

 

彼に対して周りの評価は言わずもがなであり、それは火神自身も星5つ《最高値》である。

夜久関係で 鮮明に印象に残っている言葉があった。

 

 

【ボールを触らずしてスパイカーを殺す男】

 

 

それが火神は最高に格好いいと思った。最高に痺れた。

舞台はもう遠い過去。殆ど薄れてきているっていうのに 鮮明に思い出せる。

憧れであり、心の中のレシーブの師みたいなものだから。

 

 

 

勿論意図して夜久を狙ったのは言うまでもない事だ。

 

 

【……この音駒戦で、ですけど……、少しだけわがまま(・・・・)を言っていいですか?】

 

 

火神はこの練習試合が始まる前に 皆に承認を得ようとしていた。

それが 烏養が言っていた火神のわがままである。

 

普通に考えたら、守備の要であるリベロを狙うような事はしないだろう。

 

当然ながら、リベロを任されている選手の守備力はチーム1。

取られる可能性が圧倒的に高いのがリベロなのだから。

それも、護りの音駒のリベロともなれば尚更だ。

皆が え? と言った顔をしているのがわかった火神は、そのまま流れに身を任すかの様に自分の気持ちを打ち明けた。

 

 

 

【オレ、音駒のリベロの人と、守備のエースと対決してみたいんです】

 

 

 

その火神のわがままは、二つ返事でOKを出された。

あの町内会チームとの練習試合で、一番初めに西谷を狙った事を覚えているから 今回もそんな感じなのだろう、と思えた。それに加えて 同じく及川の凶悪強烈なサーブを嬉々として受けてみたい、と言った男なんだから よくよく考えたら普通な事だ、とも。

 

【火神お父さんには皆満遍なく結構お世話になっちゃってるからな。たまにはわがままの1つや2つ聞かないと罰が当たるってもんだ。まぁ、流石に公式戦、本番でリベロ狙いたい! っていうのは止めるかもだけどな。―――ていうか、わがまま言ってくれて嬉しいって思っちゃったよ】

【……だから、おとーさんはヤメテくださいよ】

 

澤村はカラカラと笑っていた。

そして、火神に拳を当てた。

 

 

――思う存分やってきなさい。

 

 

とでも言わんばかりに。

 

その後、日向が【オレも!】と立候補したが、影山に一蹴された。

月島は 時折でる火神の無邪気さを見て気味が悪いような視線を向けてくる。

(勿論、火神は抗議の声を上げた)

 

そして菅原は まるで澤村は火神の試合を見てるコーチか監督か、保護者か、って視点になってたっぽいので、【自分達も試合するんだべ?】 と実に的確なツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。

 

「夜久!」

「ッ!!」

 

緊迫した空気が一変。轟音交じりの大砲を打たれた気分だった。

ボールが来た場所は、リベロの夜久の位置だったのだが、誰一人として安心したりはしていない。

あの緊張の後のサーブだ。云われるまでも無く100%の集中力で迎えうつ構えだったから。

 

鋭いドライブでボールの軌道が変わるが、それにどうにか腕を入れ直す事が出来た夜久は、ボールを完全に殺す事こそ叶わなかったが、サービスエース献上だけは見事に阻止して見せた。

 

「おおおっ!!」

 

火神はサーブを取られたのを見て 思わず目を輝かせた。

当たりは会心の出来だと言って良かった。イメージ通りの体勢からイメージ通りの位置へと着弾。脳内では文句なしのサービスエースだったのだが、その完璧だったイメージの中を縫って動く影があった。それが夜久の影だ。レシーブは完璧とは程遠いので、夜久本人は満足しているワケはないだろう。本人の顔を見ればそれはよく判る。

表情を歪ませていたから。

 

後方、エンドラインを僅かに超えた位置で 高く、高く打ち上げられたボールは天井ギリギリの位置にまで到達し、それは 各選手達に色々と驚いたり考える猶予を、そして観客たちには感激するだけの猶予を与えた。

 

 

 

「うおおおお!! なんっじゃ、ありゃ!?」

「わはは、すげーすげーー!! サーブ打つ方もあんなん取る方もどっちもやべーー!」

「ナイスサーブ! ナイスレシーブ!!」

「火神っち また威力上がったんじゃね?? ありゃ とんでもねーよ!」

「そのとんでもねーのを一発で上げた音駒もやべーな。流石! THE・音駒レシーブ!」

 

 

両者を、両チームを称える声が体育館に響き渡る。

 

 

「い、いやぁ、いつ見ても火神君のサーブは凄いですね。僕、殆どスパイクかな? って思っちゃいましたよ」

「そりゃ、オレもだぜ先生。知ってたつもりだったが、よりわかった。我を通す(・・・・)、ってのはチームプレイにおいてあんま褒めれるもんじゃない事が多い……が、それを通すだけの力は十分に備わってるって十分見せてもらった」

 

烏養は軽く汗を拭いつつ、火神の方を見た。

サーブを取られた事に対して 悔しい、の【く】の字でさえその顔には無かった。

ただただ喜ぶ子供そのものだった。……が、それも直ぐに消えて 即座に守備姿勢に戻っていた。

 

 

 

「……よく獲ったな、夜久。ナイスレシーブ」

「ハハハハ……、いやあの子、ほんと。期待を裏切らないっつーか、感覚を裏切らないっつーか。いや スゲーな。ありゃ 拾えなくてもしょうがねぇか、って思っちまったよ。ナイスレシーブ、じゃなくてナイススーパーレシーブだ」

 

猫又と烏養の同期であり音駒コーチの直井は、火神の事もそうだが、アレを拾った夜久に正直脱帽する想いだった。

 

 

「福永! フォロー!」

「ッ!」

 

福永からの2段トス。位置が悪い事もあった為、打つ事は出来ず 最後は福永からのボールを無難にトラが返球した。

勿論、ただ単に返球したワケではなく、セッターを狙って返した

……が。

 

「影山ッ!」

 

火神がそれを見越したかの様に、影山の代わりにレシーブ。

 

「なぬっ!」

 

狙った場所は良かった筈なのに、咄嗟の判断で影山とスイッチした火神を見てトラは苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

そのまま、綺麗に流れるようにボールを追いかけ、影山はトス体勢に入る。

 

「(また速攻……!!)」

 

そして もう既に日向が飛び出していた為、また先ほどの超速攻が来る! とブロッカー陣が思った……が。影山はそれを見越していたかの様に、ブロッカーを欺いた。

 

「ア゛!!?」

 

一度振られたらもう追いつけない。上げた先はレフト位置でスパイカーは東峰だ。

ブロック0枚。東峰は思い切りボールを打ち抜き、音駒コートへと叩きつけ、そのまま着弾した。

 

 

「「うおーーー! 旭さーーーんっ!」」

「ナイスです!」

 

 

騒がしいトップ2の日向&西谷に囲まれてぎょっとする東峰だったが、軽くガッツポーズを決める。

 

 

「火神もナイスサーブだ」

「あざっス!」

「火神お父さんはスゲーー頑張ってるよなぁ。これはオレも負けられないって感じだ」

「……え、えーと、流石に東峰さんにお父さん発言されるのはちょっと……」

「自分の顔見てモノ言えよ? アサヒ。後お前はもっともっと頑張れ」

「うげっ! なんか反撃食らった!?」

 

「……ナイスサーブ(ぜってー負けねぇ……)」

「ぷっ。 こっちの点なのになんか悔しさ滲ませてるよこの王様」

「ア゛ア゛!?」

「月島もあり得そうなんだけどな、それ。翔陽がブロックしたり、欺いたり色々した日には そんな顔になってそう」

「はぁ? そんな顔になんかならないし。コイツらみたいに単純じゃないんで」

 

 

最後の方には色々と衝突が起きそうだったので、そこは迅速に澤村が入って鎮める。

今回に限っては火神も月島を煽っちゃってるので、連帯と言って良かったんだが、日頃の行いの差と言うワケで、特にお咎めは無かった。

 

 

「ハハハ……、フリーのスパイク。あれは拾えなくてもしょうがねぇよ……。ていうか、アレ高校生? 社会人じゃないの?? あの顔」

「中々きつい事言いますね。……猫又先生」

「はっはっは。色々と詐称してそうなのが揃ってるじゃないか。……その中で とんでもねぇのは やっぱあの11番かな? 顔とかは年相応なんだけど、中身が別モンじゃないのかなぁ?」

 

東峰の顔と実年齢。火神の纏う雰囲気と実年齢。ある意味似た感じだ、と笑っていた。

……結構猫又先生は失礼であった。

 

「いやしかし、今のプレイ内容で言えば、あの9番のセッターの最初のセットがとんでもなかったですね。あれを見せられたあとはやっぱりつられますか」

「おう。ありゃ間違いなく天才の部類だろうな。……んでも、やっぱ目が行くのはあの11番なんだよな。さっきの感覚が忘れられねぇわ」

 

人知れず、大層気に入られた火神。

烏養の祖父がいない今で、昔を思い出させてくれたのだから それは必然だったのかもしれない。

 

 

 

「………………」

 

 

そんな火神の姿をじっ、と見ている孤爪。

日向が言う程のサーブを持っていると言う事はよく判った。ただ、あの一発がリベロの夜久の所に行ったから、まだ精度面ははっきりと判らないが、それでも威力はとんでもない分類に入るだろう。

 

「夜久ナイスレシーブ」

「ナイスとは程遠いけどな。いてて……。サーブ受けていてぇって思ったのも随分久しぶりな気がする。……とんでもねぇよ、あの11番のサーブ。……でも、もう一回受けてみたい。次は―――取る」

 

苦笑いし、腕を振っていた夜久だったが、直ぐに表情を鋭くさせて、火神を見据えた。

不思議と綺麗に取れなかった事に対しての悔しさは無かった。それ以上に、もっともっと打ってこい、と思う気持ちが強かったのだ。

 

「………オレは あんなの受けたくないけど、受ける人 しっかり上げてね」

「でたーー、研磨のヘタレ発言! 根性無し発言!」

「………トラ うるさい」

「つーか研磨ー。お前んトコにきたら、お前も上げなきゃいけねーんだから、怖がんなよー。腕もげたりしねーから」

「………………………………」

「嫌そうな顔しても駄目」

 

 

音駒側も中から外からと中々に賑やかだ。

脳である孤爪が正常に働く様に 血液たる他メンバーが滞りなく回すのが音駒スタイルなのだが、脳だからと言って100%何もしない訳にはいかない。孤爪の方にボールが飛んで来たら避けるワケにはいかないから。……アウトなら別だけども。

孤爪の発言は 護りの音駒を背負って立つレギュラー陣全員に発破をかける言葉でもある。

 

【しっかり上げる】

 

それは当然の事だから。

 

 

「とりあえず、一本拾おう」

【おう!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びボールを手に、エンドラインへと向かう火神。

そして、また6歩離れた位置で止まって、相手コートを見た。完全に音駒の雰囲気が変わったのを肌で感じとれた。

 

 

「ナイッサー!」

「火神もういっぽーーん!」

「決めろよ! せーや! さいきょーサーブ!」

「………(負けねぇ!)」

 

 

仲間たちが 鼓舞してくれるが、そう甘いものではないと言う事をよく知っている。

音駒に対してそう何度もサーブで崩せるなんて考えていない。

 

最初は確かにリベロの夜久を狙い、そして狙い通りの所にボールを打ち込めた。

その一発だけで今日の調子が良いのがわかった。

相手が最高であって自分自身も最高中の最高。

 

でも。

 

「(そうさ。音駒はこんなもんじゃない。……無かった!)」

 

 

 

ぎらっ、と目を再び輝かせながら、火神は狙いどころを見据えた。

思い浮かべるのは、全国の舞台で戦うカラスとネコの戦いの光景。何度も何度も見た。何度も何度も拾う音駒の姿を目に焼き付けた。心が何度も沸き立った。

 

 

――さて、脳内での思い出はここまでにしよう。

 

 

 

 

「(狙わせて貰います。……研磨さん!)」

 

目に、心に焼き付けたその相手が、目の前にいる。

もう目の前に存在しているんだから。

 

火神は今度は先ほどまで少なからず堪えていた笑顔を緩めて、そのままの顔で、笑顔のままでジャンプサーブを放った。

 

セッターにサーブを取らせる事は、確かに音駒の脳を機能させない、と言う点を考えたら最善の手だと思える。……が、火神はあまりに露骨に表情に出し過ぎていたからか、孤爪の事を狙っていたのはバレてしまっていたようだった。

 

「福永!」

「ッ!(いたいいたい……、もう であいたくない(・・・・・)サーブ)」

 

福永がどうにか上げる事に成功。

ボールは アタックラインよりエンド側ではあるが、コート内に高く上がった。

 

そのまま、孤爪が落下地点に入り、冷静にトラに上げる。

 

「ナイスレシーブ、トース! ……ダッーシャイ!!」

 

乱れたトスだったが、その悪条件の中でも的確で、正確に、尚且つ 強力なスパイクを放った。

 

「っ!!」

 

東峰が良い位置には入っていたが、取りきる事が出来ず、そのままボールは吹き飛んで着弾。

 

 

 

「おーしっ!」

「ナイスナイスー!」

「11番のサーブヤバいっすね。結構早めにキレて良かった!」

「………ほっ」

「あからさまに安心すんじゃないの研磨。……しかし、むぅ、オレのトコに来てほしかったけどな」

「夜久は、1本目綺麗に上げれなかったからな」

「うぐっ……、最初だし あんなもん しょーがねーだろ! 海!」

「うん。上げただけでも凄いって思うよ。1発目からあんな強打がくるなんて思わないし」

 

 

何とか切る事が出来て安堵するメンバー。

それを見ていた黒尾は、軽くアップをしつつ 身体をウズウズさせていた。

 

 

 

「(中盤から終盤なら兎も角、こんな初っ端から ほっとするなんて初めてだなこりゃ。あの11番。外から見ても 1本目とはいえ あの夜久が捕えきれなかったのも とんでもねーわ。それに多分 夜久を狙ったのはミスじゃなくてワザと。夜久(リベロ)から点を取ったとなれば、盛り上がるもんな………)」

 

 

自身がサーブカットするのなら、どうするか。あの威力で精度も高いとなれば厄介極まりない。あのトンデモナイ速攻に加えて 飛び道具を持っている烏野。強豪と呼ばれたのがもう過去の話と言う話の信憑性が黒尾の中でもう揺らいでいた。

 

でも、自分達は護りを主とする音駒高校。

 

如何に強力なサーブだろうと何だろうと、……整えて、慣れてみせる。

 

 

その決意を胸に、夜久と交代で入っていくのだった。

 

 

 

 

 

その後は一進一退。

最初のリードこそは守っているので烏野リードで14点目。カウント14-11。

 

 

 

 

じっ、と細い目で戦況を見定めていた猫又が動いた。

 

「ふむ……、あの10番今んとこ何本決めた?」

「14点中5本です。それに10番の囮のお陰で他のWS(ウイングスパイカー)の決定率も高いです」

「なるほど。……とんでもねぇな」

 

 

猫又は次に試合が切れたと同時に、副審にタイムアウトを要求。

 

駆け足で戻ってくる選手たちを迎え入れて開口一番。

 

 

「……ありゃあ、だめだ」

【え?】

 

 

半分苦笑いしながら答える猫又。

選手達も誰の事か? と聞く事は無かった。大体想像がついていたからだ。

 

「とんでもねぇバケモンだ」

「10番ですか?」

「いや、オレは11番の方も……」

「オレも11番に1票っス」

「う~~ん、色々驚くポイントあるけど、10番かなぁ」

 

特に派手な動きをする日向。最初の強烈なサーブのインパクトがまだまだ抜けていない火神の名が夫々に上がった。

それを聞いた猫又は一頻り頷いた。

 

「確かに。10番の動きも変人染みてるな。勿論11番もだ。……最初の11番の雰囲気と言うか、オーラと言っていいか。それが超人染みてる。今時 あんな感覚味わわせてくれるのってプロ選手でもそうそういるもんじゃないぞ」

 

首を横に振って呆れ半ばに答えていた。

 

プロ?? 大袈裟な、と誰もが思った事だろう。

確かにサーブは強烈だし、他のスキルも高い事はこれまでのプレイで判っているが、全日本代表選手とかと見比べようとしたら、当然ながら見劣りする。そこまで一足飛び足で飛び級出来っこない。

 

東京の高校である音駒だから、それなりに有名選手を見た事はあるからだ。

 

それらの考えを大体読んだ所で、猫又は 笑いながら答えた。

 

「言いたい事は判るし、正直 言ってみたオレも大袈裟だって思ってるよ。んでも、名がある程度売れてなきゃ、いきなりあんな空気になるようなもんじゃねぇんだ。ウチ絡みじゃ梟谷や井闥山とかか。優勝候補の相手、それも木兎や佐久早がサーブ打ってくるってんなら、あんな空気になったかもしれねぇ。でも、オレ達はあの11番を知らねぇんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

そこまで聴いた所で、確かに……と選手たちは思えた。

初対面の相手(孤爪は除く)で、更に本当の初めてのサーブ。

 

なのに、あの緊迫感だ。今から思い返してみても、やっぱり普通じゃない。その後すぐに超強烈なサーブが来たからこそ、【凄いサーブの男】と情報更新されたが、身にまとってた空気が、10番とはまた違った意味でヤバイ。

 

「昔から色々と因縁のあった烏野(あいて)だが、お前たちは名前だけで殆ど知らない筈だ。……なのに、1つのサーブだけであんなに注目させた。ひょっとしたらサーブ打つ前からか? 色々と説明がつかない相手なのがあの11番だな」

 

うんうん、と結論付いたと同時に にかっ、と笑った。

 

「それで、オレが最初にバケモン、って言った相手は9番。セッターの事だ。あっちは色々と説明が出来る」

 

ちらっ、と烏野側を見てみると……、まさにバケモンな目つきをしている影山がそこにはいた。横から見ただけでほんと目つきが悪いのがよく判る。まさに化け物。(酷い)

 

「あのスパイカーの最高打点への最速のトス。それは針の穴を通すコントロールだ。……ただ、誰にでも通用するトスって訳じゃない。トスに絶対的な信頼をもって飛び込んでくるスパイカーにしか上げられないトスだな。……いや、言ってはみたが、しょうがねぇよ。アレは。バケモンで天才だ。片や色々と説明が出来ない監督、コーチ泣かせな男。……ほんと凄いのが集まったもんだ。……だが、だからと言って 勝てないって訳じゃない。じっくり ひとつひとつ攻略していけば良い」

 

そこまで言うと、猫又はちらっ、と孤爪を見た。

孤爪は、窺いつつ ゆっくりと猫又から渡されたバトンを引き継ぐ様に答える。

 

「……まず、攻略の1つとして。今の攻撃の軸が翔陽……なら、止めちゃえばいい……」

 

孤爪の言葉を聞いて、疑問を浮かべるのはトラ。

 

「翔陽? 誰??」

「あのすばしっこい10番のこと」

「ああ!」

 

孤爪が名前を憶えてる事もそれなりに驚く事ではあるが、今は脳の意見を聞くのが先決、と言う事で、それ以上は何も聞かず、続きを待った。

 

「翔陽が縦横無尽に動いてるから、なかなか捕まえられなくてやられてる。……なら、その動く範囲を狭くしちゃえばいい。そんで、あとはひたすら追っかける……犬岡」

「ハイっス!!」

「ウチで一番すばしこいのお前だよね?」

「あざっす! ハイっス!」

 

次に孤爪は日向の方を見た。

 

「先ずは、翔陽の攻撃を【ふうじる】。それで翔陽から攻略していって、……攻略が出来たら裏ボス(・・・)が出てくるって思ってる」

【うらぼす??】

 

何言ってるか判らないです、って顔をしていたが、直ぐにその言葉の意味を理解した。

 

「誠也。……翔陽が ビックリ攻撃してる間、あの凄いサーブの時とはうって変わって、今は凄く大人しくて静かになってるって感じがする。翔陽の囮で他がいきてるように 誠也が今隠れてるって印象……。……それに サーブだけで、あれだけ驚かせてくるんだから、他にも何かある、って思っておかないといけない、かな……」

「誠也って?」

「いや、そこは空気読もうよ。あの11番だろ?」

 

今は、火神は 音駒側からしたら、背を向けているので どんな顔をしているのか確認が出来ない。

その感覚は、まるで あの一番最初のサーブに向かう時の後ろ姿のそれによく似ていた。

 

 

「ステージの全容がわかってないのに、クリア出来るゲームなんかない。……だから、全部確認したあと、その後 攻略していく。繰り返して繰り返して…… 慣れる(・・・)。今はそれしかない、かな」

 

 

孤爪がそう結論付けた所で、猫又が付け加える様に答えた。

 

 

「まだまだ何が出てくるか判らない。でも、そんな中で はっきりと見えてるのがあの9番10番。鬼と金棒……と言った所か。まずは鬼から、金棒を奪い……、奥に鎮座している大鬼を引っ張り出そうか」

 

 

 


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