王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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暑さと忙しいさが増していってます……。苦笑


徐々にサブタイトルを修正していきます。


第46話 音駒戦④

 

―――……一体誰がこんな試合展開を予想しただろうか。

 

 

取っては取り返し、拾えば拾い返し、止めれば止め返し、……延々と続くボールの流れ。まさにシーソーゲーム。

 

デュースは、点数が2点離れなければ延々と続く、と言うのは誰もが知る基本ルールの1つだ。……だが まさか 此処まで続くとは当初、誰も予想出来なかった事だろう。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ…… しつけぇ……」

「………っ、っっ……」

「……最後の1点が滅茶苦茶遠い………」

 

 

「………………………………」

「……けんま~、息はしとけよ……」

「こんじょう~……、こん、じょ~~……」

「いい加減落とせよ………」

 

 

最初にセットポイントを得て、取り返されて、デュースになって……まだ、第1セット目が終わっていなかった。

全員が肩で息をし、膝に手をつけ、流れ出る汗を拭っていた。

 

 

いったいいつまで続くのか。

現在 カウント39-38の音駒リード。

 

バレーは大体25点くらいで決着がつくスポーツなのにそれを忘れてしまいそうになる。

 

 

試合は まさに意地と意地のぶつかり合い。

烏野が攻撃をブロックで止めれば 音駒がきっちりと拾う。

続いて音駒がサービスエースでブレイクポイントを見せれば、烏野もサーブ権を取り返した後 負けじとサーブ&ブロックでブレイクポイントを取り返す。

 

延々と続けられて最早 殆ど全員疲労困憊気味だ。……だが、それでも集中力はまだまだ切らせていない様で、プレイが散漫、雑になっている者は殆ど(・・)居なかった。

 

「…………っっ」

「はぁはぁ、なにバテてんだよ! ちゃんと、メシくってきたのか? バテ島!」

「………ぼくを、君らみたいなのといっしょに、しないでくれる……? ばけもん、でも きかい、でもないんだから いつまでもとんだり、うごけたりするわけ、ないじゃない……」

()って一括りにされてるのは、なんだか釈然としないけど………、まぁ、日頃からもっともっと頑張って体力つければ、月島もいけるって……」

「……だから、げんど、あるから………、ぜったい……、げんどある」

 

中でもより疲労が顕著に表れていたのが月島である。

後衛時はリベロの西谷と交代するとはいえ、前衛では 何度も何度もブロックで跳躍を繰り返してきた。高揚していくチーム同士に月島も引っ張り上げられたのだ。そして半ば意地で付いてきて今に至っている。

 

そして、同学年では体力お化けの日向に加えて、機械精度の影山に加え、問題児(月島も含め)を纏め上げ、自身にはまだまだ余裕が少なからず見える火神。

 

月島が言うように、そんな連中と比べられたらたまったものじゃないのだろう。

でも、それでも頑張れよ、と月島に言っている火神もなかなか鬼である。

(日頃の鬱憤もあるかもしれないが……)

 

 

その月島曰く、バケモンたちの中でも人一倍動き回ってるのが日向。

一番元気だった。

 

 

犬岡との勝負で更に動き回っている筈なのに、間違いなく一番の運動量の筈なのに、まさに底なしの体力である。

 

そして、その評価は勿論 日向に延々とついていっている犬岡にも言える事だ。

 

 

「向こうもまだまだ元気みたいだな。……粘り負けるなよ、犬岡……」

「あ、アス!!」

 

 

大量の汗と疲労の色はしっかりと見えている、が、目は全く決して死んではいない。

 

日向と言う相手が、まだ元気がある様に 犬岡も負けてはいない。

あの後、何度か止めたが、止めれば止める程、躱す日向の速度が上がっていっている様な気がするから、尚更負けたくなかった。互いが更に高揚し高みへと上がっていっているのが判る。だからこそ、日向が止まるか若しくは試合が終わるまで犬岡は何処までも追いかけ続ける、と心に決めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向は何度か止められて、戦意を喪失するどころか、より集中力が増していってやがる」

 

烏養も何度も続くシーソーゲームを見ていて手に汗握っていた。

 

もう タイムアウトも使い切り、交代の回数も同じく使い切っている状態。後は単純に気力勝負だ。

そんな状態で、集中力を持続させるなんて事は並みじゃできない。ましてやブロックに捕まりだした事を考えれば尚更。

 

 

「日向君……、徐々に相手ブロックを躱すように打ちだして、成功もしてますね……」

「あぁ。人一倍動き回ってる癖に、体力切れどころか 少しずつでも上達していってやがる。元々がまだまだヘタクソだ、って事を考えても、こりゃ やべぇ って思っちまうよ。多分あの影山のストレート打ちを見て、見様見真似をやりはじめたんだろうな。……日向(あいつ)も大概バケモノっぽいんだが、バレーって言う方面の天才たちに囲まれて思う所が無かった訳じゃねーだろう。……ひょっとしたら、高さ以上の渇望がそこにあったのかもしれん」

 

 

中学の時、何度も阻まれた。その度に火神があげてくれた。

点を取れない時、火神が何度も点をとってチームを鼓舞してくれた。

火神は友達で、そしてバレー仲間。……そして、それは日向の中で目標に変わっていった。小さな巨人の様な男になれば、きっと追いつけると信じている。

 

 

――早く、追いつきたい。

 

 

日向の集中力の根幹。それは 烏養の言う通り 強烈な願望にもあったのだった。

中学時代、影山に負けて悔しいと思った事。

中学時代いつもいつも支えてくれた火神への憧れの気持ち。ヘタクソである事は自覚している。限られた環境下の中で努力もしてきたつもりだった。

だからこその高さへの憧れ以上に上手くなりたい、と言う気持ちもあったのだ。

 

 

 

 

そして、今はまた、もう1つの感情に日向は包まれている。

 

 

「翔陽。今の後ほんの数㎝。数度、ズラして打ててれば行けたかもしれないぞ。ブロックアウト出来てたかもだ」

「おう! ……あとちょっと、本当にあとちょっとで 出来そうなんだ。そんな感じがするんだ」

「……楽しんでるよな翔陽。すげぇわくわくしてるんじゃないか?」

 

火神の声掛けで 日向は大きく頷いた。目を見開いてそして表情は明らかに笑っている。

 

間違いなく わくわくしているから。心躍る気持ちだったから。疲れなど、日向の中には無いも同然だった。

 

「……勿論だ! 今までブロックは恐くて嫌なだけだったのに、あいつが目の前に来ると、わくわくする! それが止まんないんだ! だからもっと、もっとやりたい! 後、後ほんのちょっとで……!」

「……ふふ。確かに そんな顔してたな」

 

火神は、日向の背を軽く叩いて押した。

日向は、それに鼓舞された様で 勢いよく前に出て行って 自分の持ち場へと還っていった。

 

 

 

 

 

 

音駒のサーブミスにより、39-39の再びデュース。

 

 

「……日向に負けず劣らず体力お化けだな、火神は」

 

ふぅ、と一息つきつつ汗を拭うのは澤村。

1年や2年より、多く長く走ってきたつもりだったから、体力にはそれなりの自信があった澤村だったが、やはり1年達を見ると舌を巻き、脱帽する想いだ。

 

それに何よりも 火神は全体を見据えつつ、要所で的確な指示をしている所もある。

 

あの中学バレー大会を見にいった時、火神に感じていた感覚は間違いではなかったと強く思えた。もうコートキャプテンを務めてもらっても良い、と思える程だ。

……流石にそれはしないが。火神から全力で拒否されるのを判っているから。

 

 

火神は、それを聞いて軽く苦笑いした。

 

「まさかこんなに続くとは思ってませんでした。……限界を超えて頑張ってる、って感じですかね。大変です」

「……結構 余裕に見えるけどね」

「なるべく、顔に出さない様にしてるだけですよ。でも、オレも翔陽と一緒です。もっともっと出来そうで、もっともっと…… 上手くなっていきそうな感覚が楽しいです」

「ははは………」

 

 

しんどい、辛い、苦しい、もう止まってしまいたい。そう思った瞬間からの、一歩。

それをいつも実行しているのが日向なのであれば、火神は信条としている。勿論、度を越えるような事はしない様に見張ったり、弁えたりはなるべく(・・・・)しているが。

 

 

火神はボールを受け取った。

 

次のサーブは自分だから。二度、三度とボールを打ちつけながらエンドラインまで移動した。

 

 

 

「強いサーブ来るぞ! 一本で切る!」

【…………おう!】

 

音駒側も最大級の警戒態勢、である。

この試合でサービスエースは今の所 火神のみ。

警戒するのは当然だ。加えて……。

 

【……次はジャンフロか? いや…… どっちだ?】

 

巧みに球種を織り交ぜている面に関しても非常に凶悪極まりない。それは守備に定評がある音駒も同様だった。火神が今日初のサービスエースを取った時の相手は音駒の1年 犬岡。

まだまだ途上な所があったので、その守備面には付け入る隙があったのだが、日向が試合中に成長をしていっている様に、犬岡もそうだった。

 

音駒側のコートに立った以上、不甲斐ない所は見せられない。もう音駒の血を受け継いでいるのだから。

 

「…………」

 

じっ……と大きく身体を揺らせつつ、火神を見ているのは 孤爪。

球種を変えてくるサーブにも勿論 驚いた……が、それに関しては攻略の対象として挙げていた。

何度か観察をした結果、サーブを打つ時の距離に注目した。

ジャンプフローターの時とジャンプサーブの時ではエンドラインからの距離が違う事に注目した。

 

そして、明晰な観察眼は歩数の差に違いがある、と言う事を1セット目の終盤でもう見抜いていた。

 

火神がエンドラインから4歩で止まったのを確認して、孤爪は手招きをして 皆の守備位置をやや前気味に指定した。

 

勿論、火神自身も気付かれている事はわかっていた。

此処まで長くなったら仕方がないともいえるが。

 

「(判ってたつもり、だったけど、……やっぱり研磨さんの観察は凄い……。もうバレたみたいだ)」

 

外から見ている分であれば幾らか切っ掛けがあれば掴めるものだろう。だが、実際に対峙してみて見抜くのはやっぱり難しい。

相手の位置取りは気にしても、どれだけ離れていくかは流石に。何せどうしてもボールの方に注視してしまうから。試合中、ボールを無視して足元を見てみるなんてあまりしないと思うから。

 

だが、火神は例え 気付かれていたとしてもする事は変わらない。

 

どちらを打つか、それが事前にバレた所で別に問題はなかった。

手が何種類もあるのなら兎も角だ。

 

そして、球種がバレたとしても まだ(・・)問題はない。今度は打つタイミングを変えるだけだから。

 

 

「っっ!!」

「夜久!!」

 

 

それは 青葉城西の時にした主審の笛の音と同時に打つジャンプフローターサーブ。

慌てて打つようなものなので 無回転で打つのはやっぱり難しい。故に精度よりやや威力を重視して打った。

 

その結果、リベロの夜久 辺りに行ってしまったのは今後の課題だ。……だが、威力と精度は申し分なし。否、会心の一撃と言っていいくらい完璧の手応え。

 

 

そして音駒側……夜久にとってみれば、突然ボールが目の前に来たも同然だった。

その上取りにくいコースだった事もあり、更に言えば 孤爪の指示通り やや位置を前に持ってきていた為、威力が想像以上にある+変化により伸びるサーブには弱くなってしまったのだ。

 

気付いた時にはもう遅かった。

 

 

ジャンプフローターサーブをオーバーで捕えようとしたが、異常に変化したボールは、夜久の指先を掠める様にして、後方へと弾け飛んだ。

 

 

それは リベロの夜久 相手に、取ったサービスエース。

 

終盤で、疲れが出てきて集中力がやや落ちてしまっていたとはいえ、音駒相手に、それも夜久相手に取る事が出来たサービスエース。

 

 

 

一瞬呆気にとられたのは見事サービスエースを取った火神の方だった。

 

 

 

だが、沸々と湧き上がる気持ちに堪えきれなくなり、右手を握り締めて大きく振り上げた。

 

 

「ッッしゃあぁぁぁぁっ!!」

【うおおおお!!!】

 

 

憧れていた選手に、憧れていた音駒に、憧れていた守備のエースに取った1本。

前世から記憶を引き継いできて、そして今。 様々な気持ちが一気に溢れ出てきた。

 

 

それに呼応するかの様に、烏野のメンバー全員が声を上げて駆け寄ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇぇ……、今のはしょーがねぇな! 打つタイミングが鬼だし、コースもクソ取り辛ぇ! 夜久(やっく)んの反応の良さもすげー。でも相手はもっとすげーすげー。……だが、次取れば良い! 気ぃ引き締めなおせよ!」

 

外で見ていた黒尾は今のサーブは称賛に値する、と思いつつ気を取り戻させようと声を掛けた。サービスエースを許してしまった夜久は手をぐっ、と握り そして開いていた。

音駒のリベロとしてのプライドは人一倍高い。

そんな夜久に声を掛けたのは同級の海。

 

「今のは仕様がない。アレを頭に入れつつ 次切っていこう」

 

軽く肩を叩く。

その時に海は気付いた。悔しいのだろう、と最初は 思っていたのだが それはやや違うのだと。

 

「ははっ、何だろうな。確かに悔しい。すげー悔しい! そもそもサーブで点取られるって言うのは リベロにとっちゃ更に格別に悔しいんだ! でも、ほんっと何でだろうな! 悔しいってこと以上に ワクワクしてくる!」

 

目をギンッ! と見開く夜久。

ネコの様に鋭かった目が大きく見開かれた、と感じた。

 

 

「アイツはどんだけ引き出しがあるんだよ、って話だ! 球種に加えて打つタイミングか! レシーバー泣かせだな! どんだけ読んでみてもまだ底が見えねぇってこんな感覚か?? 初めてな感覚だよ! それに、はははっ 研磨がイラつく意味がよーくわかるってもんだな! でも、大丈夫だ皆。……次は捕る」

 

夜久の言葉を聞いて、一瞬でも心配していたメンバーたちは全員安心した。それは外で見ている者たちも同様にだった。

孤爪も夜久からのサービスエースには少なからず動揺していたが、他のメンバーと同じく、夜久の言葉を聞いて 少しだけ笑った。

 

リベロから点を取られた、ともなれば全体の士気に影響を及ぼすものだろう。

 

【リベロが捕れないボールを自分達が捕れるのか?】

 

と考えない訳がない。

それは如何に守備で定評のある音駒とて例外ではなく、少なからず夜久の事を心配した者も居たし、今コートにいる唯一の3年の海もだからこそ動いた。

 

でも、結果それは杞憂と言うものだった。

 

少なくとも、あの火神と言う男が齎してくるのは、強豪相手にありがちで、痛感させられた事が何度もある力の差による絶望ではない。

 

誰もが疲れている筈なのに、笑顔が増えている様な気がした。それも敵味方問わず。

もれなく全員の士気を高めてくれる、そんな感覚があった。

 

「(誠也。……皆(特に自分)が疲れてきてるこの局面で、(自分以外の)全員にもれなく バフを掛けるとか……、ますますチートっぽい。……それも縛りプレイ用の)」

 

何だか呆れた様と疲れた顔、1:9のブレンドの表情を見せる孤爪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、非常に長かった第1セットは終わりを告げた。

 

 

結果―――41—43で音駒のポイント。

 

 

第1セットから非常に疲れる展開で、思わず試合終了! と思ってしまった両チームだった。……何人か突っ伏してしまっていたりもしている。

 

勿論、1試合の1セットで終わる訳はない。時間もかなりを要したがまだ大丈夫だ。気を引き締める為に夫々の主将が声を掛けてとりあえず夫々のベンチへ。

 

 

 

「よく我慢して拾い続けた。……本当に最高の相手だな烏野は。……此処まで高揚したのは久しぶりじゃないか?」

 

戻ってきた選手達に笑顔で労いつつそう言う猫又。

全員が疲れているのは判る、が 目は全く死んでいない。イキイキとしているのが判る。

 

「こんな試合そうそうできるもんじゃない。……だから、研磨ももっと頑張れ」

「ぅ………」

 

そろそろ交代でも……、と思ってた矢先の猫又監督からの鼓舞は、孤爪にはそれなりに効いた様だった。……まだまだやらせられる、と言う絶望感が襲ってきていた。

 

「あの長ぇ1セット取ったからって、油断してねぇな?」

【ハイ!!】

「ならいい。次もしっかり繋ぎきりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野側も音駒と同じ気持ちだ。高揚している。どんどん高みへと昇って行っている様なそんな感覚。その雰囲気に置いて行かれたくないが為に、ガムシャラに付いていくだけだ。

 

「今のセット、ミスの類は全部悔め。でも 相手もお前らも称賛に値する。初っ端からこんな粘り合いなんて早々あるもんじゃねぇからな」

 

ガムシャラな中でも、特に悔やみを見せていたのは日向だった。

 

最後のセットポイント……、犬岡にブロックで止められたからだ。

ブロックされたボールは、日向に当たってそのまま軌道が変わってコートに落ちた。……勿論、幾ら守備が優秀でも時速約100kmで殆ど至近距離に迫ってくるボールを常にキープしつづけるなんて不可能だ。

 

今のブロックも拾ってくるぞ!? と身構えていた音駒だったが、ちゃんと地面に落ちたので 少し力が抜けてしまったりもしていた。

 

「そんでもって日向。絶対止められないスパイクなんか無いんだ。迷うなよ。お前もどんどん避ける事が出来ていってるんだ」

「……はい!」

「後、火神はやや日向のフォローで、出過ぎてる感じがしてきているぞ。前に出過ぎてるから、奥へのプッシュに注意しろ。……じっくり見られてたからな。次辺りあるかもしれん。頭ん中に入れとけ。勿論、周りもフォローを忘れるな」

【はい!】

 

 

 

 

そして、始まる第2セット直前。

 

「影山。翔陽へのトスなんだけど、1発目チャンスがあればオレがあげても良いか?」

「!」

 

火神の申し出に影山は少なからず眉を上げた。

セッターの役割を代われ、と言われているも同然だから。

 

「あんな無茶な速攻のトスは無理だけど、今やってる軟めのトスなら オレの方が翔陽に上げてきた。翔陽が打ちやすい位置も大体把握してる。……影山なら、一度あげて見たら 大体理解するだろ? この辺りだ、って。それも寸分違わず」

「……おう」

「タイミングは 2セットの序盤が好ましいかな。影山じゃなくてオレがセッター役やれば、相手への奇襲にもなるかもだし。とりあえず1本だけ見てみてくれ。変な癖がつきでもすれば本末転倒だし、納得できなかったらそれまでで終わらせても良い。翔陽も1回だけそれをやってみても良いか?」

「っせいやのトス!? ぅおう!!」

 

日向もガッツポーズを見せながらの了承。

 

そして、影山だけでなく 場の全員が意図を把握した。

長く培ってきた信頼のトス。それは、相手の打ちやすい位置、高さ、それらを把握できているかどうか、だ。それは一朝一夕で出来る様なモノではなく、長年共に練習してきた間柄だからこそ、出来る事でもある。

その点、影山は その時間をあっという間に飛び越してしまうだけのスキルを持ち合わせているのだ。それは、菅原の様なセッターには複雑かもしれないが、お手本のような1本を一度見せてみる事で、それを影山がインプットする事で、後の微調整の幅をより狭めようというのだろう。

 

「っとと、勝手に決めちゃいましたが、皆もそれで良いですか?」

 

火神は、影山と日向以外のメンバーに了承を得てない状態での策だったことを思い出し、慌てて烏養を含めた全員の方を見た。

誰もが頷いていた。

 

「よくよく考えてみりゃ、それが一番手っ取り早い方法だったかもしれねぇな。日向も影山のストレート打ちを見様見真似でやってたし、影山にも手本みたいなトスが1つでもあればすぐにモノに出来たかもしれねぇ。こっちこそ頼む、だ。火神。影山もそれで良いか?」

「はい!」

「……ウス」

 

火神の技量の高さも判る。言っている事は判るし、試す価値が大いにあるのも判る。更に日向の技量がまだまだ不足である、と言う原因系がはっきりしているのも判る。……が、それらを踏まえても、自分自身ではまだ合わす事が出来ていないのに対しては納得し兼ねていた。いや、ただただ火神に対しての対抗意識からか、只管悔しいだけである。

 

「あははは。王様が王座取られそうになってすっごく悔しがってる~?」

「ア゛ア゛!!?」

「月島。どんな疲れても煽りを忘れないのはほんっと大したもんだけど、今は煽らないって。……ってか、そもそもそんなのオレ欲しくない」

 

月島に痛い所をつかれてしまった影山は、ただ吠えるだけに留まってしまっていた。月島は月島で、どれだけ疲れていても 相手の弱みを見たら色々と茶々入れなきゃ気が済まない所はほんと相変わらずである。

 

 

「よし。まぁ、無理にやってみろとは言わないが、狙える時は狙っていこう。火神が言う通りだ、影山も攻撃に入れば更に囮として機能する。まさに奇襲だな。リズムを変えるってのも良いだろう。(かーーー、しくった!! そっちを全然考えてなかった! もっと早く指示出来てたかもしんねーのにー!)」

「!?」

 

烏養は、ぐっぁぁー と頭を抱えていた。

その横にいた武田は何かを感じ取ったのか、思わず一瞬身体を震わせ烏養を見ていた。

 

 

烏野のセッターは、菅原と影山の2人……と何故決めつけていたのか、と。試合中でも、影山がレシーブに参加して、セッター不在だった時、何度か火神が見事なトスを上げて見せたではないか。東峰、澤村、影山、そして 途中出場した田中に対しても、文句なしの2段トス。

上げにくいボールを上げきったのだから、普通のレシーブからのトスであればどうか。……考えてみれば当たり前だったかもしれない。

 

 

「ふほほほ……、烏養孫は青すぎるなぁ。何話してるか判んねぇけど、色々と焦りまくってるのは よーくわかる」

 

 

そんな時、ちらっ、と視界の端に猫又が映った。メチャクチャ笑われてるのが判ったのでより恥ずかしい想いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそー。オレ、どんなトスでも打てる様になるって言っといてミスばっかり……」

 

話は大体判った日向。

勿論了承もしたし、火神がトスを上げる事も同じく。寧ろ久しぶりなのでとても嬉しかったりもする。……が、それ以上になかなか決まらないスパイクにやきもきしていた。

 

犬岡との1対1の戦い。

 

確かにワクワクしている。

犬岡も余裕で止めてる訳ではなくギリギリで付いてきているのも判る。ブロックは恐くて嫌なものだと思っていたが、犬岡は違った。

上手くなっていっているのも判るし、何度か抜ける事が出来ている達成感も沸きつつある。

 

……だが、やっぱりそれ以上に自分の失点でセットを取られた事が簡単には拭いきれなかった様だった。

 

「日向。失点は気にするなって。点はオレ達が取り返すから。どんどんやっていけよ」

「っ! あ、アサヒさん! アスっ!!」

「そうそう旭さんの言う通り。翔陽が打てる様になるのに加えて、あのスゲェ動きが効いてるから他の皆がフリーで打ててる事が多いんだ。失点してても貢献はかなりしてるって事自覚しときなさいって。あ、あと変な邪念はカットして目の前に集中していけよ? 元々色んな事考えられる様な器用な頭じゃないんだし」

「おう!! ……って、うぐぅっ。最後に一言ヒドイこと言われた気がするけど……りょーかいだ!! せいや!!」

「あんま やらかし過ぎると代えられちゃうカモだけどねぇ……」

「ふぐぅっ。(月島! へばってる癖に!!)」

 

色々と言われて 上がったり下がったりな日向だった。

 

「ははは。大丈夫大丈夫。何か掴めそうだっていうんならトコトンやってみな。それに、跳んでるときは独りでも、後ろにはちゃんとオレ達が居るんだ。まっ、フォロー数じゃ火神に負けちゃってて、オレも頑張んないといけないんだけどな」

 

はっはっは、と笑う澤村。それを聞いて、火神は否定する。

 

「いや、飛んできてる場所がオレが守ってる位置ばっかりでしたし、仕方ないんじゃないです??」

「いや、ほら。お父さん頑張ってるね~ って背中を見てそう思うっていうか」

「……なんですか、それ。澤村さんの背中の方がよっぽど大きく見えるんスけど」

 

流石にフォローの回数を競うのは無茶がある。

サービスエースとか、得点数とか、ブロック数、等々を競うのはまだいけるにしても、相手がどこに攻撃してくるか次第ではっきりと回数が変わるのは目に見えているし、何より 狙う場所はどうしても穴を狙おうとするのが心情だ。澤村の守備力の高さはチームでもトップクラス。あんまり狙いたくない場所の1つの筈だから。

 

そして、火神が言う通り 澤村の背は何だか大きく感じる。

 

体格はどちらかと言えば火神や影山の方が大きい。でも、身にまとう雰囲気はどうしても大きく、強く感じられる。これが3年生の風格! と言えるのかもしれない。

 

因みに、田中や西谷も火神の意見に賛同だった。より長くその背を見てきているからそう思うのだろう。

 

「はっはっは。ま、点はエースがビシバシ取り返してくれるらしいしな! 頼もしいなぁ、オイ!」

「いたっっ!」

 

誤魔化した? かの様に澤村は話題を東峰に戻してその背をばしんっ!と強く叩いた。結構威力があった様で、東峰は表情を歪ませている。闘魂注入! みたいにはならなかった。

 

「大地! 旭にプレッシャーかけんなよ! 傷ついちゃったらどうするんだ!」

「………………」

 

澤村と同じく同級生の菅原にもなかなか辛辣なコメントを頂いた。少しサボってしまったとはいっても、苦難を共にしてきた間柄な筈……なのに、と少し沈む東峰。

 

そんな中で更に追い打ちがきた。

 

「そうですよ! ガラスのハートなんだからアサヒさんは!! ガラス過ぎて、この間割れちゃって、最近漸く くっ付いたのに!!」

「…………………………」

「っ! も、もうやめてあげて!! 旭さん物凄く影薄くなっていってる!!」

 

 

西谷の追い打ちを食らって、どんよりと暗くさせてた東峰。その顔を正面から見ていた田中が慌ててフォローするが、効果はいまひとつのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第2セットが始まった。

 

音駒のサーブが影山の方へと飛んできた。

 

この時点でセッターからの攻撃起点を封じる事が出来た、と狙い通りの音駒だったのだが、全く動じる様子もなく淡々と影山はサーブをレシーブし、そして素早く落下点に入ってきたのは火神だった。

 

これまで二段トス等で火神が入って他の選手に上げる事はあっても、完璧なAパスからのセットアップは初めてな為音駒側も一気に気を引き締めなおした。

そもそも 初めてだろうが何だろうが、火神が何をしてきても最早不思議じゃないので、実の所 集中力Maxな為 奇襲にはあんまりならなかったりもする。

 

 

火神は、素早くハンドサインを送った。

 

それは以前菅原からもらったサイン表の内のひとつ。暗記系が苦手な者が数名コート内に居るが、殊バレーにおいての記憶力は相当高いので、全く問題は無い。

 

そのサインの相手は当然日向。Aクイックに思いっきり入ってくる。今度は犬岡を躱したりはしていない。火神の正面側のスペースに走り込んでくるだけだ。他のメンバーも自分が打つ! と言わんばかりに入ってくる。

 

集中力はMaxでも 犬岡は、9番の影山からの10番日向の超高速連携にのみ注視しすぎていた。

そのため 完全に出遅れてしまったのだ。ある意味では これも奇襲の効果ともいえるかもしれない。火神と言う大きなカラスを意識しすぎた為、小さなカラスを見失ってしまったと言う事だろう。

 

 

火神は、これまで上げてきたトスを思い出していた。

確かに人数は少なかったし、コートを使用できる時間も少なかった。出来たとしてもまずはオープントスからの攻撃ばかりだった。

それでも、日向がどの位置で打っていたか、高さは? そして、ミスはどんな時にしていたか。何度も何度も見てきた。そして、烏野に入った今。影山と言うトンデモナイ逸材のセッターにより飛躍的向上しつつある日向の身体能力も考慮しつつ、火神はボールを上げた。

 

そして 日向もこれまで何度も何度も強請って強請ってあげてもらってきたトスを思い返していた。最初はふわっ、と山なりのトスからのスパイクの練習。軈てテレビで見たスパイクを教えてもらったり、ママさんバレーや女子バレーを見ていた際のスパイクを教えてもらったりして、何度も何度も練習し続けてきた。

そして烏野に入った今。……影山と言うトンデモナイ元敵のスゲートスを完璧に打てる様になった! とは決して言えないが、少なくとも追い縋り、追いかけて、そして少しずつ捕える事が出来る様になった今なら。

何より、これまでずっと信頼し続けてきた火神のトスが打ちにくい訳がない。

 

日向は、今日一番かもしれない跳躍を見せた。

 

 

 

 

この位置、頃合い、この角度―――どんぴしゃり!

 

 

 

それは 影山の様な超速速攻ではなく、普通の(・・・)速攻。

影山と日向の超速速攻に比べたらどうしても見劣りはする……が、それ以上に濃密な何かを音駒の選手達は見た気がした。

やや遅れて犬岡が飛び込んだ。

 

遅れた分は日向より大きな身長と手の長さでカバーする。ギリギリ間に合うタイミングで飛びついた右手をしっかりと日向は見ていて、それを躱すように打ちつけた。

 

犬岡のブロックは通常の両手のブロックではない。飛びついてくる為、片手ブロックばかり。つまり、ブロックの面積が狭いのだ。だから、後ほんの少し、ほんの少しで抜く事が出来る。

影山と火神のトス。通常の速攻に限った場合に限り 2人の差は大してないと言える。

 

差があるとするなら……。

 

 

「影山よりも長く、共にボールを触り続けてきた経験による信頼……か」

 

 

烏養がそう呟く。

呟いたのとほぼ同時。日向は犬岡のブロックを躱して、コートにボールを叩きつけた。

 

【!!!】

「ぐっっ!!」

 

音駒の面子が少なからず驚きを見せ、影山がやっぱり悔しそうに表情を歪ませるのだった。

 

 

 

 

 

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