王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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漸く音駒戦終わりました。
次はIHですね。頑張ります。


第48話

 

強いサーブや強いスパイク。

 

それらを打てる方が勝つのではない。打てる選手がいる方が勝つのではない。

ただ、ボールを落とした方が負けるのだ。

 

それは、バレーボールにおける最も基本的なルールの1つ。

 

例えどれだけ強烈なスパイクを相手コートに叩きつける事が出来たとしても。

例えどれだけ強烈なサーブを触らせもせず相手コートに叩きつける事が出来たとしても。

 

 

最後の最後―――点を取られた方が負ける。

 

 

 

 

35-37.

試合終了。

セットカウント

2-0. 勝者:音駒高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の点が決まった。

場には、ボールがコート内を跳ねる音しか聞こえない。

 

それはほんの一瞬に過ぎないが、先ほどまで熱狂が渦巻いていた筈なのに、最後の1点が決まった途端に、静けさが場に広がっていた。

 

 

 

「あ……っ、お、終わりですか?」

 

試合が終わった事さえ一瞬判らなかったのは武田だった。

 

デュースで2点差をつけられてしまえば当然負けになる。……が、普通にまたサーブから始まるのでは? と錯覚してしまったのだ。

 

延々と続く様に見えたラリー。

何度コートを行き来したか判らない程流れたボール。

 

それを見てしまえば そう錯覚しても不思議ではない。現に、コートに入っている選手達でさえ、何人か点数を気にせずに再スタートをしようとしたほどだから。

 

「ああ、こっちの負けだ。……完敗、とは言えねぇし、言ってやりたくねぇ。限りなく勝者に近い敗者。惜敗だ。運も実力の内、とは言ったもんだが…… 今回は音駒側に追い風が吹いた。最後のアレ(・・)はどっち側であってもおかしくなかった。……お前ら。手ぇ貸してやれ」

 

烏養は静かに、それでいて自然と拍手を送りつつ……、コート中心にいる男に手を貸す様に指示をした。

 

それが切っ掛けになったのか、ゴミ捨て場の決戦。練習試合ver を見に来ていた観客たちも一斉に拍手が沸き起こった。

 

 

結末は、ミラクルが起きたワケでも、ス―パープレイで点を取ったワケでもない。

 

云わば必然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コートの中心にいるのは、火神。

火神は倒れていた。……それは、他の選手達のように疲れて突っ伏した、とかではない。

 

「いてて…………」

 

痛みは感じるものの、いつまでも倒れていられない、と言う事で ひょい、と立ち上がった。

そこに澤村の手が伸びているのが判る。

 

「大丈夫か……? 火神」

「あ、はい……。大丈夫、です。すみません、オレ 最後の最後で……」

 

ぐっ、と足や腕を確認する。

多分、問題ないと判断した火神。

 

でも、その手のひら、指、肘、膝と血が出ているのが判ったので、しっかりと止血、そして消毒はしておかなければならない。

出血している箇所は多いが見た目はそこまでひどく無さそうなので、それも幸いだ。

 

「せいや大丈夫か!!」

「ん? ああ、大丈夫大丈夫。……っいててて……、けっこう派手にコケた……。なんか恥ずかしい……。最後の点だったって事を考えても……」

「これは仕方ない。……寧ろお前に大きな怪我が無さそうで本当に良かったよ」

 

 

そう、長い長いラリーの際に蓄積され、溜まりに溜まった六人分の大量の汗。

 

ワイピングは合間合間には入ってくれていたが……、それでもあまりにもラリーが長すぎた。

 

特に最後の1点。

それは丁度、相手側のスパイクを火神がコース取りをしてレシーブしようとした時、汗によって軸足を取られてしまって、やや派手にコケてしまったのだ。

 

苦笑いしている火神。どうやら 幸いにも火神には怪我は無さそうだ。

 

コケる寸前、身体を無理矢理に動かして手を伸ばし、どうにかボールに当てていたが……、大きく弾かれてしまった後フォローも叶わないまま、烏野コートにボールは落ちた。

極限まで集中していた……と言えるが、それでも緊張の糸と言うのはほんの些細な事で切れてしまう。

火神はコケつつも、ボールに食らいついたのだが……、色々と気を取られた事もあり、最後の返球が叶わなかった。この時のメンバーでなら、誰であっても追いつきそうな距離だったが……、一瞬に気を取られてしまったからだろうか。最早結果論ではあるが。

 

 

音駒側も暫く呆気に取られてしまっていた。

 

 

確かに勝ちは勝ちなのだが、何だか釈然とはしない様子で、手放しで喜べなかった。……と言うより、終わったと言う実感が非常に遅かったのだろう。

 

………勿論、終わったのだ、と理解する頃には 身体が疲労を一気に思い出した様で、べしゃっ! と何人もコートに仰向けに倒れて天井を見上げていたりする。

 

 

田中が、膝を付いてる火神に手を貸して起き上がらせた。

 

 

「ははは。ま、半分は日向のせいもあるんじゃねぇか?」

「……んええっ!? オレっ!?」

「馬鹿みてーに はしゃぎまわって汗周囲にぶちまいた、って事だボゲ」

「なんでオレだけが悪いって感じになってるっ!?? 一生懸命追っただけだし! それに皆の汗も絶対あるしっ!?」

「跳んだり跳ねたり動いたりは やっぱ一番は翔陽だしな。ま、しっかり誠也を支えてやれって事だよ!」

「あぅ!! りょ、りょーかいス!! せいやごめんっっ!!」

「うわ、翔陽! わかったから、誰のせいでもないって、飛び付いてくるなって!」

 

田中の指摘に、日向は思わず背筋に電流が走り、そして影山の追い打ちに憤慨した。

幾ら何でもそりゃないだろ、と。

でも、西谷に色々と状況証拠? 的な事も言われてしまって罪悪感が発生。その後は火神を支えろとも言われたので、それは勿論、と言わんばかりに、両手を ばっ! と上げて火神に飛び付いてきそうになった。

……勿論、澤村がどうにか止めてくれたが。

 

 

東峰も澤村も西谷も、田中も、そして外で試合を終えたメンバーたちも、身体の芯から力が抜けていくのを感じられた。

 

一体何回試合をしたのだろうか? と頭の中で何度も何度も考えてしまう。

そして、まだ2セットしかしていない、1試合分しかしていない、と言う事実を心の底から否定したい気分だ。

 

実は5試合くらいしたのではないか? と思ってしまう程だった。

 

試合経過の時間が長い、と言うのも理由の1つだが、何よりも 疲れを溜めて溜めて溜めて―――、貯金して貯金して貯金して―――、それらを一気に どんっ! と豪快に引き下ろしたかの様な感じだ。

押し寄せる感覚はまさに津波。そんな疲労感に抗うのは本当に至難の業だった。

 

途中出場の選手達も試合の熱に当てられた様で、アクセル全開! フルスロットル!! な状態で臨んでいた。 それ程までに熱が入る試合だったからだ。

だから、フルで出ている選手程、とまではいかないが、もれなく全員がかなり疲れている。

短距離全力疾走をただただ只管続けた、と言う表現が一番近いだろうか。

 

 

音駒側もそれは例外ではなく、疲労困憊 満身創痍。

孤爪に至っては俯せに倒れたまま動かないので、控えの1年生が安否確認に走った程だった。

 

そんな両チームともノックアウト寸前な中でも例外はいた。

 

いまだ元気いっぱいなのが日向だ。

ベンチに戻るなり【もう一回】と大声で宣言。

あの超高密度でそれも中でも間違いなくトップクラスに動き回った日向からのアンコール発言には、思わず猫又も笑ってしまっていた。

勿論、答えは【OK】一択。時間の許す限りやると。

もう一回があり得るのが練習試合だと。

 

選手の中には、【……マジで?】みたいな顔していた者もいたが、結局やると決まった以上出来る範囲で頑張ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

第1試合に非常に時間がかかった事もあって、試合が出来たのはもう1試合のみ。

 

 

 

2試合目のスコア

29—31 30—32 音駒の勝利。

 

 

2試合目も1試合目程ではないが、スコアを見れば白熱していたのだと言う事が一目でわかる。疲れてはいても意地と意地のぶつかり合い。当てられた熱は冷めず、どちらもなかなか譲らないままに試合は続いて、最後は音駒側の軍配で決着はついた。

 

因みに 2試合目は、火神は2セットの中盤以降までベンチに下げられていた。

 

コケた時の怪我の事もあるが、少々派手にコケたので、その辺り色々と放心気味だった武田の目にも留まっていて、大事を取っていたのである。

 

 

負け越してしまった……、と言う気持ち以上に、とんでもない疲労感。

互いのチーム半数近くがコートに突っ伏してしまっていて、最早声を上げる気力も削がれてしまっている。

そんな中でも、やっぱりまだまだ元気なのは日向だ。

 

 

「もう一回!!!」

 

 

勝つまで! と言わんばかりに大きく声を上げた。

その日向に ほぼ全員がぎょっ、とする。

 

【まだやるのかよ!? 勘弁しろよ!!】

 

と言うよりも、日向は両チームの中でブッちぎりで一番動いている選手だ。

普通のクイックも火神のトスから、影山が正確無比にトレースして まだ失敗する事はあるが確実に打てる様になってきている。

普通のクイックと超速攻を織り交ぜる、本気で打つ気で毎回スパイクに囮で入ってくる。

コートの端から端まで駆け回る。

 

そんな無茶苦茶動く姿を見ていたら……。

 

 

「うぬぬっ!? なんなんだ! 最初っから最後までメチャクチャ動いてるだろ!? 体力底なしか!!」

 

 

と猫又が声を思わず上げていた。

沢山の人達の代弁をしてくれたのである。

 

「コラコラコラ! ダメだ! 新幹線の時間があるんだからな!」

「っ~~~!!」

 

烏養に止められて漸く日向は大人しくなった。

でも 直ぐ横で………。

 

火神(お前)もやりたそうにしても ダメなもんはダメだからな!! ちょっと休んで まだ体力余ってんのかもしんねぇけど! ダメ。タイムアップだ!」

「っ!! わ、わかってますわかってます! 迷惑掛かっちゃうのもわかってます!」

 

ウズウズしている火神をチラッ、と一目見て烏養は釘刺した。

2試合目の最後しか出てなくて、最後の方は不完全燃焼気味だった。それに加えて、試合は負けてしまった。でももう少しで勝てる、と言う手応えは十二分にある。日向も速攻の成功率がどんどん増してきていて、不安要素があるとするなら、音駒側だろう、と思っている。(……正直 烏養の負け惜しみ、烏野びいきな所はあるが)力の差は烏養は殆ど感じていなかった。

 

なので、烏養も火神や日向の気持ちは分からなくもないが、新幹線に乗り遅れる様になったらどうすんだよ、と言う事で勿論却下である。

 

 

何だか、お預けを食らってしょんぼりしてる小動物みたいな反応をしている火神。

 

日向は、その容姿や体躯から 十分あり得そうな反応、してもおかしくない反応なのだが。ある意味正反対なしっかりしている火神。

この反応は結構意外だったので、横で見ていた清水は思わず笑ってしまったり、それを更に横で見ていた田中&西谷に色々と絡まれたり、したのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、音駒(うち)とやりたいなら、――公式戦だ」

 

 

まだやりたくてやりたくて、仕方ない様子を見せるカラスたちに向かって、猫又は笑いながら言った。

 

「公式戦――全国の舞台。沢山の観客の前で、数多の感情渦巻く場所で、……ピカッピカ、キラッキラのでっかい体育館で」

 

これは、先ほどの試合中に夢想した事でもある。……そして 幻視した事でもあった。

 

猫又は きっと実現する。そう頭に思い描きながらとびっきりの笑顔で言った。

 

 

「【ゴミ捨て場の決戦】――最高の勝負。やろうや」

【―――!! ハイっっ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~、見てるこっちもめっちゃ疲れた~~~」

「マジでな。ってか 40点台って初めて見たぞ。リアルで。テレビゲームとかの点じゃねーの??」

「こっちまで疲れるワケだ……。おっ! 集合かかった。おつかれーー!」

【おつかれーー!】

 

 

観客たちももれなく手に汗握った様子。

観客側にも熱気が伝わった様で、もれなく全員が汗まみれ、である。どっちに対しても大きな声で応援を繰り返していたので当然の結果だ。……しっかりと熱中症対策をしておこう、とスポーツドリンクを一気に飲み干していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、選手達は夫々の監督のもとへと集合していた。

 

 

【お願いしアス!!】

【しアース!!】

 

 

猫又は、改めて烏野の選手達を一瞥。

新たな世代を、劇的に復活を果たすであろう選手達をその細い目に焼き付ける様に見ていた。

 

 

「正直、今も驚いている。烏野が予想以上の実力だったのは勿論の事だが、それ以上に。―――試合ってのは、練習で出来ない事、練習でサボってた事は試合では当然出来ねぇもんなんだが……、試合中にどんどん互いに成長していってるなんてな。長年選手達を見てきたが、これは稀も稀だ」

【!!】

 

東京の強豪の監督に、真剣な顔持ちでそう言われて、選手達も喜びを顕わにしていた。

 

「……まずは攻撃面。9番と10番のあの速い速攻を止められるヤツはそうそう出てこないだろう。そんでもって 例え止められたとしても、直ぐに11番が補填する姿勢も見事の一言。ははは。何せ あっちを抑えても、こっちがいる、こっちを抑え直しても次はそっち。……なーんて 実に臨機応変で、随分監督泣かせなプレイヤーだと思った。それらを支えてる周りもな。……そして、それは守備面でもそうだ。例えリベロの4番が居なくとも、地上でも、空中でも満遍なく補填する。そして――周囲を巻き込む。負けん気が盛んなカラスを巻き込みながらな。……チームの最大値をより上げ、そしてより高く高く翔ぶ為にな」

 

 

最大級の賛辞の言葉がとんだ。

目を輝かせている選手達全員を再び一瞥すると。また笑った。

 

「だが、まだまだ粗削りな所があるのは確かだ。折角ブレイクとっても、イージーミスが目立っちまって、こっちが思わず力抜けた場面が幾つもあったぞ? あれがなけりゃ、ウチが取られてたって思う場面も幾つもだ」

【うっ……】

 

 

実に的確な指摘をしてくれた。

スーパープレイ! が結構目立った試合だったが、どんなプレイも1点は1点。サーブでミスれば1点取られるし、スパイクでミスをしても1点取られる。落ち着きを取り戻し、熱くなり過ぎず、如何に平常心で居られるかも重要なのだ。

 

 

「んでも、ミスはミスで仕方ねぇ。反省して次に活かす。……それも全て、プレーとして繋がっていくんだ。……だからこそ、繋ぎを忘れない事、だな」

【ハイ!!】

 

最後に、猫又は笑みを消した。

その表情には……少なからず畏怖の念も出ていた。入ってきたばかりの1年が半数以上を締めるチームとは思えない程の出来だったからだ。

 

「――まだまだ、粗削りで練習不足だって事も判るんだが、それ以上に圧倒的な潜在能力(ポテンシャル)がある。今日は ソレが全面に出た、と思えた。……それを常に出す為には練習だ。自身の100%、チームの100%。もしくはそれ以上。それを出すには とにかく練習次第。……各々が自在に潜在能力(ポテンシャル)を使いこなせるようになれば、更に強くなるだろう。って、こりゃ自分で言っといて恐ろしくなっちまったよ」

 

真剣な顔をしながらも、笑みを浮かべて最後に一言。

 

 

「―――全国で会おう」

「あざス!!」

【あザーース!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合も終了し、片付けタイム。

皆で手分けして、汗やら何やらで汚れた体育館を掃除しつつ、バレーのネット・ポールの片づけを行っていた。

 

「研磨さんお疲れ様です」

「……お疲れ。誠也」

 

丁度、孤爪と火神が一緒でネットを片付けていた。その横では日向と犬岡が燥いでいる。

 

「……ねぇ、誠也」

「はい?」

「………さっきからなんか、オレ めちゃくちゃ見られてるみたいなんだけど……」

「? ……あっ」

 

火神の影に隠れる様にする孤爪。一体何が? と振り返った先には、物凄い形相の影山が居た。じぃぃぃ、と擬音まで聞こえてくるかの様に、穴が開くかのように見ている。

間違いなく見ている相手は、孤爪の事だ。火神の影に隠れているので、丁度火神にガン飛ばしてるような形になってしまっている。

 

 

「あー……、あれはですね。訳しますと、【バレーいつからやってるんですか? セッター誰に教わったんですか? いつからセッターのポジションに?? 色々と他にももっともっと教えてください】って言ってるんですよ。……目だけで」

「……………誠也、読心術のチート発動中?」

「いや、そんな大層なの使ってない、と言うか使えませんって。さっきも言いましたけど、そんな変なトコに使うんなら、研磨さんに使ってあげたいですね。ほら、今使って影山と話させますよ。両方にとってもそれが良さそうですし」

「……それはイヤダ(翔陽が言ってた【ガ―ッ!】って感じ。そのまんまだし……)」

 

 

孤爪と影山を引き合わそう……とするのは、ほぼ初対面である事とタイプがあまりにも違いすぎる事、どっちも社交的じゃないと言う事もあって、現時点では実現不可である。

そもそも、問題は影山の方に大いにある。

 

「影山。会話したいなら話しかけないと」

「……………………………………………」

 

菅原の見事なツッコミが影山に向けられたが、中々上手くいかない。その手の事が苦手である、と言う事は自覚しているからだ。

 

孤爪は しっかりと隠れてしまっていて もう表に出てこなさそうだった。

 

 

 

「ショーヨー! お前凄かったな!! ぎゅぎゅんっ! ぶわわっ!! つって!」

「お前もデカいのにズバッ! つって! ぎゅんっ! つって!」

「デカいのにズバッ! はどっちかと言えば、ホラ! アイツアイツ!」

「あ、せいやな! せいやもスゲーーぞ! ぎゅんっ、どごっ! バスっ! って! たまに、ひゅんっ、ふわっ! バシっ! つって!」

「夜久さん相手にあのサービスエースはマジ凄かった! オレも、びびっ、と痺れた!! ぶわーーっとなった」

「へっへ~~! オレもアレくらいぶわっ! どかっ!! と出来る様になってやる!」

「オレも負けないぞ!! あのフワッ! ってなるサーブより、どがんっ! ってくるサーブの方! 打てる様になる!!」

 

段々日向と犬岡の会話が大きくなり、擬音中心になっていっている。傍で聞いても正直何言ってるか判らない程だ。

話題が自分の事になっている火神は、ただただ横で苦笑いをするに留めるのだった。

 

 

そんなやり取りをやや遠めで見ていた月島は、更に呆れていた。

日向と似た様なのが居る事にもげんなりしつつある。……今日の試合がいつも以上に、歴代一に疲れたから、あの妙な会話を聞いて更に疲れてしまう感覚だった。

 

「(何? あの会話)」

「高校生の会話じゃねぇなあ?」

「!」

 

ぼそっ、と横から入ってくるのは黒尾。

 

「でも、君はもう少し高校生らしくハシャいでも良いんじゃないの?」

「………そういうの苦手なんで」

「ふーん。若者だねぇ」

 

黒尾は、去っていく月島をニヤニヤ笑いながら見送った後、孤爪の隣にいる火神の所へ。

孤爪とまだ話をしていたのだが、間に割って入る様に頭を入れてきた。

 

「火神誠也君、だよね?」

「! アス!! えっと、黒尾さん!」

「おおっと、名前覚えてくれてありがとね。ってか、そんなかしこまらなくても良いよぉ。ウチの脳と、もうオトモダチみたいだし。研磨がここまで懐くなんてめんずらしいんだ。良いもん見れて良かったって逆に思ってるし」

「……誠也、クロの事 無視しても良いからね」

「無視って何気にヒドくない!? 目の前にいるのに!」

「あ、あはは……」

 

突然入ってきた事に驚く以上に、火神は嬉しかったりもしたりする。何せ、音駒には まだまだ話してみたい人が沢山いるから。黒尾も当然ながらそのうちの一人だ。

 

「オレ達の必殺技見事にシャットしてくれちゃったじゃん。その辺に関してのやり取りとかもしてるもんだ~、って思ったんだけど?」

「ひっさつ……あっ、あの一人時間差。1試合目のヤツですね」

「誠也。律儀。別にマトモに取り合わないで良いのに……」

 

黒尾には孤爪もげんなりと呆れている節がある様だ。

でも、そうは言いつつもあの黒尾との一人時間差を止められたのは思う所が無いわけではないので、そこまで話を切り上げようとはしていなかった。

 

「一人時間差は、オレも使ったりするんですよ。なので、入ってくる時の姿勢とか、助走の位置とか、正面にマークが居るのに入ってきた事とか、色々と総合して止めれました。あはは……、もうちょっとで釣られそうになったってのはこっちの話なんですけどね。研磨さんのツーも警戒してましたし」

「へぇ……(視野もクソ広ぇってワケかな。あのレシーブから考えてみりゃ納得もんだ。……まぁ、最初っから判ってた事でもあるけど)。ま、次は止められない様にもっと頑張りますかな、研磨。それに火神君も使うっていうなら、次はオレ達が止めようかな~っと」

「……流石に、さっきの試合でもリードブロックを基本徹底してる黒尾さんに時間差攻撃はしないですよ? そんなの止められちゃうじゃないですか」

「こっちは止められちゃったんだから、そこは男の子として 乗ってきてくれても良いじゃん!?」

 

黒尾と火神が楽しそうに話している。その間で孤爪がウロウロとしている。

何だか、初めての組み合わせな筈なのに、何処となく堂に入っているのが面白い。

 

 

「彼は、誰とでも仲良くなれそうな人ですね。クロに研磨……随分と馴染んでいる様に見える」

「ああ、ウチの火神ですか。何と言っても ウチのお父さん(・・・・)ですからね。……そちらの1年生を怖がらせるどっかのヒゲちょこ3年とは違います」

「あはは。オレは親子に見えますよ?」

「そうですか? オレは誘拐犯にしか見えないんですが」

 

澤村と海は、火神と黒尾、孤爪のやり取りを見つつ―――、後片付けをどうにか手伝おうと奮戦している東峰の方も見ていた。

音駒の1年生がせっせと片づけをしてくれていて、自分も何かしなければ! と声を掛けるのだが……、その人相やらガタイやらで、完全に委縮させてしまっているのである。

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

そして、更に別の所にて。

影山とはまた違った形で、無言のオーラを放っているのは西谷。

その視線の先にいるのは、音駒のリベロ 夜久。

 

そのじっ、とみられている視線は背中越しでもはっきりと伝わってくる。ビシビシ、ヒシヒシ、と伝わってくる。でも、どうすれば良いか決めかねていた。と言うより、結構な圧力を感じるので、中々切り返しにくい、と言うのが正解である。

丁度、菅原と話をしていたので、何とか助け船を出そうとするのだが……、西谷は日向と同じような熱血な猪突猛進型。先行き不透明なので難しいのだ。

 

「あ、あのー……スゲー 見られてんスけど……」

「い、いや、ほんと スンマセン………。目、合わせないようにして貰えれば大丈夫だと……」

 

何だか猛獣対策の様な助言しか出せず、そろそろ止めな、と言おうとおもってる菅原。別にそこまで悪い事をしている訳でもないし、西谷は猪突猛進型だとしても、意味のない行動をとるとは考えにくい。――――火神&清水関連は省く。

何か意味がある? とその辺りをそれとなく自然に聞こうと思っていたその時だ。

 

 

「3番さん! レシーブ凄かったっス」

「!!!(いつの間に背後!?)」

 

菅原が動くよりもかなり素早く、西谷は夜久の直ぐ後ろにいた。背後を取られたネコ、危うし、である。

 

そんな2人に構わず、西谷はさらに続けた。自分の思っている事を全て口に出そうと。

 

 

「うちのエースのスパイク、あんなにちゃんと拾える人初めて見ました。あんだけ全員レシーブのレベルが高いチームでリベロの座にいる実力、やっぱスゲーと思いました」

「…………」

「オレも負けないっス! 失礼します!!」

 

言うだけ言って、満足したのか、西谷は颯爽と離れていった。

 

「あ、おいコラ! そんな一方的に……!」

 

と、菅原が必死に追い縋ろうとするが……、最早遠くの彼方、である。

ウチのメンバーはやっぱり色々と癖があり過ぎる、と頭を掻きながら 菅原は、夜久の方に向きなおっていった。

 

「な、なんかスミマセン。言いたい事いって満足するって、ほんっとガキで……」

「……いえ、ヤバイっスね」

「え?」

「試合 やってみて良く判ったっス。……彼も相当レベルが高いリベロなのに、慢心するどころか ひたすら上だけを見てる。……烏野って、本当に怖いって思うっスよ。……それにもう1人(・・・・)

 

夜久が西谷の他に、名を上げようとしたその時だ。

 

 

 

【うおぉぉい! かぁーーがぁーーみぃぃぃーーー!!! さっきの2試合目んときの説明がまだだったぞぉぉぉぉ!】

【潔子さんの抱擁を再び受けたとは本当かぁぁぁぁぁ!!!】

【あんな美女の抱擁!? 清水潔子さんに直接的介抱をして頂けたぁぁぁぁぁ!? 話しかける勇気がないオレにとっては うらやまけしからんんんんン!!!】

 

【うわわっ!? な、なんか増えた!!??】

 

【……何してんの、トラ……】

【あー、なんか烏野に美人マネが居る事で号泣してたよなー。……ふ~ん、誠也君はモテるんだね。うらやまけしからん、ってのはちょっぴり同感かな?】

 

 

 

三位一体!

で迫ってくるのは、龍・虎、そしてそれらを従える太陽()

波長でも合ったのか、最初こそ 同族嫌悪、因縁の相手、犬猿の仲、宿命のライバル、っぽく火花をバチバチと散らせていた筈なのに、いつの間にか仲良くなっていた田中とトラ。

 

そこに、いつの間にか戻ってきていた西谷が加わって更に暑苦しく大変な事になってしまっている。……最終的に火神は捕まって揉みくちゃにされていた。

 

そして、渦中の人物の一人である清水は、ドリンク類を片付ける為、この場にはおらず。

 

でも、何かを察したのか 人知れずクシャミをして 朗らかに笑っていたのだった。

 

 

 

「あ、あははは……、なんかスミマセンほんと。ウチの騒がしいのが」

「いやいや。その中にウチのバカも居るので、こちらこそです」

 

あはは、と笑う夜久と菅原。

夜久は、一頻り笑うと 逃げ回ってる火神の方をじっ、と見ていた。

 

「相当レベルが高いのは彼も同じ。サーブ、スパイク、レシーブ、コートビジョン。……全ての面が満遍なく高いレベルで水準している。……あれでまだ1年。ついこの間は中学生だった筈なのに。……末恐ろしいっス。周囲を色々と巻き込んでプレイする所もそう」

「あー、火神ですか。ですよね? 味方ながらオレもそう思うよ。何せ、アイツにはオレ達もれなく全員お世話になっちゃってたりしてるんで。烏野のお父さんかな? お父さんに思いっきり反抗してるのが何人かいるけど、その辺はご愛敬で」

 

 

夜久は、菅原の説明を聞いて、【音駒の脳】みたいな感じだろう、と思いながら更に笑うのだった。

 

 

 

 

 

因みに後日。

 

【音駒の脳 孤爪 研磨】

 

に対抗して。

 

【烏野の父 火神 誠也】

 

と命名しよう! と菅原が悪ノリをしていた。勿論―――火神が大大大大々反対する、と言ったひと騒動があったりしたのだった。

そもそも、何だか 名前負けしている気もするので、結局お蔵入りになって話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野と音駒の選手同士が交流? している間。

武田は猫又に頭を下げていた。

 

何度も何度も無理を言って無理を言って、東京からこの宮城まで遠征に来てくれたのだ。それも嘗てのライバルの烏養一繋が不在である烏野に。因縁は途切れたと言っていいかもしれない烏野に。来てくれた事が何よりも嬉しかったのだ。

 

「猫又先生。今日は遠い所をありがとうございました!」

 

そんな武田の想いも判っているかの様に、猫又は笑っていた。

 

「いやいや、こちらこそ。……人脈の無い状態で、練習試合を取り付けるのは大変でしょう」

「………!」

 

他校との絡みと言うのは、思いの他薄いものなのだ。それが学業ではなく部活動と言う区分においては尚更である。そこで力を発揮するのは、他校とのコネクションの有無。

何も知らない、素人に見向きしてくれるかどうかは非常に怪しい。

それが、近年落ち目である、とされている部なら尚更だった。

 

烏養も、武田が何度も何度も自分の所に足を運んできているのを知っている。何度も何度も断ってきたから。足を棒にして、時間の合間合間で。……教師としての仕事もある筈なのに。

 

「正直に言おう。烏養のジジイが復帰してぶっ倒れたって聞いて、……もう烏野の復活は無理かも知らんと思ってた」

「……………」

「でも、あんたから何回も電話貰って、終いには【直接お願いに行く!】なんて言い出して」

「っっ!! す、スミマセン……」

 

にしし、と子供の様に笑う猫又。

一頻り笑った後、目を瞑り――今日の試合を頭の中で思い浮かべた。

楽しそうにコートを駆け回る烏野の選手(カラス)たちを、そして負けじと駆け回る音駒の選手(ネコ)たちを。

 

今日は本当に有意義な練習試合だった。練習だった事が勿体ないと思ってしまう程に。

もっともっと大きな舞台で――ともう一度はっきりと夢想した後、目を開いて、はっきりと武田の目を見据えて答えた。

 

 

「今日の試合見て、思ったよ。【ああ、烏野はまだ大丈夫だ】って。いや、まだ(・・)どころじゃないな。烏養のジジイのヤツ、実は ぶっ倒れたって嘘ついて、あっためてたスゲェ選手たちを今日出してきたんじゃねぇか? てか、最初から隠してたんじゃねぇか? とも思ったな」

 

笑って笑って、そして武田の方を改めてみる。

 

「……違うな。烏養のジジイじゃない。……彼らはあんた(・・・)が拵えた。熱意をもって接し、熱意をもってかえされた今の烏野はまさにダイアモンドの原石だ。――それが今の烏野。……あんたが不格好でも頑張ってれば生徒たちはちゃんとついてくる。これからも頑張って」

 

烏野で半ば伝説になりつつあるのが、烏養前監督。

そして、今目の前にいるのは その烏養が永遠のライバルと称する音駒高校の監督 猫又 育史。そんな人から受ける最大級の賛辞の言葉に目頭が熱くなる武田。

凄い人に褒められて嬉しい! だけではない。

 

自分は 下手なりに、素人なりに―――これまで頑張ってきたつもりだった。

学生と社会人は違う。努力だけでは駄目。結果を伴ってこそ。

勿論、目的までの過程や努力は当然大切な事だ。無駄には決してならない、と言う事も教師として生徒たちに教えてきていた。……だが、自分の場合は直ぐにでも結果が求められる。

 

何故なら、目的地に行くまでに要する時間は、生徒たち、選手たちの貴重な時間なのだから。

 

たった3年間しかない高校バレー。一秒たりとも無駄にしたくない。

 

その武田の信念、熱意が猫又にも伝わっていたのだ。

だからこその賛辞の言葉であり、報われた想いだった。

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

目から涙が出そうなのを誤魔化す為に、急いで頭を下げる武田だった。

 

 

選手だけではない。若い先生も必死になって頑張っている姿を見るのは、実に心地良い―――と感じる猫又だった……が、此処にいるもう1人の男は例外だ。

 

「お前もしっかりやれよ。繋心」

「!!」

 

武田の頑張りを一応近くで見ていた身とすれば……、思う所が無いわけではなかったので、暫く無言で武田の姿を見ていた烏養。

そんな折に、声を掛けられた。ほぼ不意打ちに近い形で。

 

「2試合やって1セットも獲れないとかなぁ? 素人の先生がこぉぉんなに頑張ってんのになァ?? なぁんだったら、試合中の選手達の方がよっぽど的確に指示出来てたんじゃないかぁ?? タイムアウトん時もさぁ? お飾り監督になっちまってんじゃねぇか???」

「~~~~~ッッ!!」

 

嫌み度抜群な表情と、実に触れられたくもない程的確に痛い所を突いて煽ってくる。

確かに対応が後手に回ってしまった事は否めない。何せ、指示をしようにもそれ以上先に選手達が行ってしまっている感が満載だったからだ。最後は精神論に頼ってしまった負い目もある。――――非常に触れてほしくなかったが、触れられてしまったので仕方ない。

 

 

「う、烏養君は ついこの間来たばかりでっ!」

 

 

思わず武田がフォローに入るが、最早関係なかった。

 

 

「なら、次は絶対ストレート勝ちしてみせますよ」

「ほほほう!? 口ばっかじゃないと良いけどなぁ??」

 

 

若いカラスと老獪なネコのにらみ合い。

世代を跨いだ因縁が此処に勃発。……もし、烏養前監督がこの場にいたのなら、きっと似た様な光景になっていたのだろう、と感じる。

 

でも、あんまり煽ったりはしない。ちゃんと止めるべき所は止めるのがコーチの直井。

 

「先生、そんなにつっかからないで……」

 

煽ってるのが見え見えなので、止めようとするが、猫又はこれ以上ないくらい元気になっていった。

 

「コイツが、ジジイそっくりの顔してやがるのが悪い!! 若い頃の血を騒がせるのが悪い!!」

「ええ!? そんな大人げない!!」

 

名だけでなく、顔の造形までに因縁をつけられてはたまったモノではないのだが、尚更気合が入る烏養。

 

図らずも、直接ではないが 祖父のバトンを受け取った気分になったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、軽く挨拶を済ませて、ずんずん、と引き返していく烏養を追いかける武田。

 

「う、烏養君!? コーチやるのは今日の音駒戦までだって―――」

「ああ!? あんなこと言われて黙ってられるかよ!! でっかい舞台で……ぜってぇ リベンジだ……!!」

「――――!!! よ、宜しくお願いします!!!」

 

 

図らずも、理想的な展開になった。

武田の思い描いていた理想的な環境。

 

追い求めていたまず最初の大きな歯車。

 

それが噛み合ったのを感じ、再び武田は頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――。

 

体育館の片づけも終了し、後は帰るだけ、となった外にて。

 

 

「「友よ!! また会おう!!」」

 

 

美しい夕日をバックに、田中とトラががっちりと握手を交わしていた。何だか号泣しながら。

 

「はぁ……、何だろう。何だか肩が重く感じる……。今後も続いてくみたい……」

「………お疲れ、誠也」

「研磨さんの同級生なんですよね? トラさんって。……ちゃんと抑えておいてくださいよ?」

「いや~ 戦術的に、山本効果も期待できるかもだから、その辺は ご了承しかねるかなぁ」

「バレーと全く関係ないトコの戦術を練らないでくださいよ! 黒尾さん!!」

 

 

 

龍虎夕 その三位一体の攻撃? は、結構暫く続いていた。

あれだけハードな試合をした筈なのに……、田中も 後半は大分出て 皆より体力が余ってる分、全力疾走し続けていた筈なのに……、一体どこにそんな体力を残していたのやら、3人揃って飛び掛かってきていたのだ。

 

懸命に逃げる火神だったが、とうとう捕まって揉みくちゃ地獄。

 

暫くして、清水が帰ってきて……、緩和して何とか事なきを得たが……、いつも通り 微笑みスルーしてくれたので、今度、(無理かもだけど)色々と清水に対応策を考えてもらおう、と思う火神だった。

 

 

「と言うより、あんまあれを見たくないって思ってるのが本音」

「……やっぱり。そうじゃないか、って思ってました」

 

因みに、戦術云々、ではなく 黒尾の本音としては、めんどくさい後輩トラを変に刺激しない事、だったりするのである。

 

 

「おーい、研磨ぁっ!」

「!」

 

日向が、そんな時 孤爪に駆け出した。

 

「あのさ。ほら、道で会った時 特別バレー好きな訳じゃないって言ったよな?」

「……あ、うん」

「今日は?? 今日は勝ってどう……思った?」

「…………」

 

 

日向の言葉に、自然と注目が集まる。

火神と黒尾の2人の視線が集まる。

 

孤爪は、少し――考えた後に答えた。

 

「……うーん……、別に、普通、……じゃないかな。…………すごく、すごく疲れた。多分熱でる……」

「!」

 

【別に】と言う単語は、以前にも孤爪から聞いた。

暇つぶしでやってるゲームを見て、楽しいか? と聞いた時の返答がそれだ。

 

日向は、何だか疲れさせるくらい追い詰めた事に 何故だか判らないけれど、少なからず達成感に似た何かを感じていたが、直ぐにそれは振り払う。

 

「……次は、次はもっともっと必死にさせて、次はオレ達が勝って! そんで―― もっともっと【楽しかった】とか【悔しかった】とか言わせるからな! 【別に】とか【疲れる】以外の事、云わせるからな!! 熱でたって知らねー!!」

「!! …………疲れるのは正直嫌なんだけど………」

 

 

日向の突然の大声に、やや驚く孤爪。

でも、少しだけ―――考えてみた。あまり 深く考えていなかった事だったけれど、少しだけ。

 

バレーに対して思っていた事は、日向の言う通りだ。間違いない。

でも、……楽しいって思ったり感じたりする事は嫌いではない。……狙って悔しい、と感じるのは正直それも嫌だが、不思議とそこまで不快には感じなかった。

 

 

「疲れるのは我慢してくださいね? オレももっともっと頑張って、研磨さんを疲れさせますんで。なんて言ったって、研磨さんは音駒の脳ですから。烏野(ウチ)とやるときは楽なんかさせませんよ?? みーんなもれなく」

 

にゅっ、と日向と孤爪の間に入って笑う火神。

一瞬ぎょっ、とした孤爪だったが……。

 

「……疲れるのは嫌だけど、……楽しい、っていうのは 一応期待しとくよ」

 

孤爪の返答を聞いて、日向はまだちょっぴり憤慨。

 

「一応じゃねーー! 覚悟しとけよ~~!! オレだってせいやよりもっともっと上手くなって、更にやってやる!!」

「1000年はええよ。ドヘタクソ」

「ぶっ! なんだとーー!!」

 

……いつの間にか、人知れずやってきていたのは影山。

何でも、火神よりも上手くなる宣言が、何か知らないが影山のプライドを刺激したらしい。何か知らない、と言うよりは、何故か判らない、かもしれないが。

 

 

突然盛り上がってる烏野の3人を見て、孤爪は暫く目を白黒させているのだった。

 

 

その後は、澤村vs黒尾、烏養vs直井の威圧感剥き出しの握手でシメとして、本当の本当に終わりを告げる。

 

 

「「挨拶!!」」

【ありがとうございました――――っ!!!】

 

 

名残惜しいが、去っていく音駒の後ろ姿を暫く眺めながら、その場を烏野のメンバーも後にする。

 

「……後ちょっと、あとちょっとで勝てた。あとちょっと」

 

その帰り道、日向は何度も呟いていた。

点差を見ればわかる。確かに負けたが、ほんの僅か、何かの切っ掛けがあれば 勝ちはこちらに傾いていたかもしれない。……だが。

 

「例えあとちょっとだったとしても、例え100点まで続いたとしても、最後の最後、102点目を相手に取られたら、負けるんだ。……出直しだな、翔陽」

「っ……。わかってる。負けは負けなんだから。次は、勝つ」

 

火神の言葉に、気合を更に入れ直す日向。

そして、影山もついてきた。

 

「だが―――今日やった試合が、もしも 公式戦だったら、あの1試合目。負けたあの瞬間に、全てが終わる。……やってきた事が終わるんだ」

「…………、それも判ってる」

「右に同じ」

 

日向や火神が思い浮かべるのは、やっぱり中学最後の試合。

横にいる影山がいる北川第一に敗れた最初で最後の公式戦の事。

 

今日ほどではないが、確かに善戦した。優勝候補筆頭に膝を突かせた場面だってある。点差も詰められた。……でも、セットカウント2-0で負けた。惜敗、惜しかった、と何度か言ってくれたが、それでも負けは負け。……あれで、中学でのバレーは終わったんだ。

 

影山も、判っている。

色々とあったが あと一歩、あと一勝で全国の舞台。その決勝で敗れ――終わったのだから。

終わった事は幾ら悔やんでも戻らない。なら、―――先を見るしかない。

 

 

「――その通りだ。わかってんじゃねーか。お前ら。そんでもって、その公式戦は直ぐ目の前にあるIH予選だ」

 

 

烏養が、かき分ける様に前に出て、選手達の先頭に立った。

その姿を見ただけで判る。音駒戦だけで終わり、と聞いていたが 今後も指導してくれるんだと言う事が。

 

嬉しい、と思うと同時に、烏養の言葉に身が引き締まる。

 

 

「さっさと戻って今日の練習試合の反省と分析だ。……そんでもって後は練習あるのみ!」

【あス!!!】

 

 

 

 

 


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