王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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オリ分不足気味です。


第49話

 

 

5月中旬―――。

 

とうとうやって来た。

全国高等学校総合体育大会の予選……の組み合わせ発表の日である。

 

当たり前だが 何処の高校であっても等しく周知されるものなので、此処 【常波高等学校】でもそれは同じだ。

 

 

「うぉ~い。出たぞ~。高総体の組み合わせ~~」

「おーっ! キターーっ!」

 

高総体とは 3大全国大会の1つ。

それは 総当たり戦で、真の実力が試されると言っても良い大会。

 

IH(インターハイ)県予選である。

 

 

「どら! どこ!? 一回戦!!」

「え~っと……」

 

何処の高校であっても、その種目で全国を目指そうとしているのであれば、誰もが高揚する大会だ。そして、入り始めの一回戦が特に重要である、と言う事は例え優勝候補であっても、弱小と呼ばれる高校であっても同じこと。

 

「トリ……、鳥野(とりの)?? かな?」

「トリノ? えっ、イギリスのチーム!? まさかの外国勢参戦!?」

 

盛り上がりを見せているが……、早速ズッコケを見せている常波高校メンズ。

でも、勿論そんな人(おバカ)たちだけではありません。

しっかりとしている部員もいる。

 

「【烏野】だよバカ! 後、トリノはイギリス(・・・・)じゃなく イタリア(・・・・)だから」

「おっ! そう言えばその高校聞いたことあるな? えーっと確か………」

 

常波とて無名と言っていい高校。1回戦で負ける事が多いので悪く言えば弱小の高校だ。

それでも 同じ高校生同士が行う競技だから、此処から上がるか下がるかは、選手たち、引いては教師・監督と言った大人たち次第。

 

……そんなまだまだこれからな高校にも―――烏野の異名は届いていた。

 

 

「【堕ちた強豪 飛べない烏】」

 

 

脚光を浴び、そして堕ちていった烏野。

それは歴史を見れば間違いない事であり、歴然とした事実。

 

だからこそ、辛酸をなめ続けていた選手達は歯を食いしばって耐え続けてきたのだ。

 

 

そして、それは今年――実を結ぶ。それは常波の選手達は知る由もない事ではあるが。

 

 

 

 

「おおっ、なんかカッケーな! ソレ! 異名的な!?」

「カッコ良くはねーだろ。なんせ、【堕ちた】とか【飛べない】だぞ? メチャ ネガティブじゃん。もっとこう……かっけーのは無かったのかなぁ」

「負けてるから仕方ねぇって。負けたのにカッケー異名とか、スゲェ惨めになりそう。……んでも、昔は確か強かったんだよな。いつか忘れたけど、烏野一回全国にも行った筈だし」

「ん~、でも最近はもう大したことないって聞いたけど……」

 

烏野の近年の情報(今は大したことない)を聞いて、いっきに盛り上がりを見せる。

 

「おおお! かつて全国レベルだったそのチームに勝てちゃったりとかして!?」

「万年1回戦負けのオレ達も行けるかも!?」

 

大いに盛り上がりを見せる部員たち。

大きな大会が近づけば大体テンションが上がっていくものである。

 

勿論、しっかりと大会に向けて練習をしなければならない。

 

 

「その為にはまず練習な」

「げげっ!! 主将(キャプテン)!!」

 

後ろからしれっと見ていたのは常波の主将(キャプテン)

士気向上するのは歓迎ものだが、空回りしすぎて、気になり過ぎて練習に身が入らないようでは本末転倒。

と言うワケで、練習再開だ。

 

「ほれ、ランニングだお前ら!」

【うぉ~~す!】

 

 

烏野――と言う名を聞いて、殆どの部員たちが知らない中、とある事を思い出していた選手が居た。

 

 

 

その選手の名は池尻 隼人。 常波高校3年生。

 

 

 

「オレさ。中学一緒だった奴が1人、烏野に行ってるんだよ」

「へーっ! じゃあ久々の再会!? 今まで烏野とは当たらなかったもんな」

「うん。……そいつ、TVで見た【春高バレー】の烏野が忘れられないつってさあ。まぁ、元々烏野に近いっつーのもあったろうけど……、元気にやってっかなぁ……?」

 

 

ランニングしながらも、懐かしさゆえにかどうしても考えてしまう。

 

 

「澤村」

 

 

それは、袂を分かった元チームメイト。共に汗を流し、ボールを追った仲間。

今度はネットを挟んだ向こう側に居る。

その後、池尻は 練習はしつつも 暫く澤村と共に戦った中学時代に想いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同日 烏野高校。

 

一際気合の入っているのが体育館外にも伝わる程の声量がいつまでも響いていた。

 

「大地さん! ナイスレシーブ!!」

「ナイス!!」

 

その中には勿論澤村も居る。

判っては居た事だが、インターハイ予選がもう直ぐそこまで近づいた事で、これまで以上に練習に気合を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度練習の最中、教員としての仕事の傍らで、武田はインターハイ予選の組み合わせ表と日程表が届いたのを確認していた。

 

烏養からも、以前 宮城県は地区予選が無く、直ぐに県予選である事を改めて説明されている。

そして全国大会へと駒を進める事ができるのは県内約60チームある内のたった1チームのみ。

武田は言うまでも無く 気合が入っていた。

 

 

音駒にリベンジを誓っている以上、約束を交わした以上、この宮城で1位にならなければそれは叶わない。音駒も東京都と言う激戦区を勝ち抜かなければならない為、厳しいのはお互い様ではあるが……、それでも、交わした約束は果たす思いだ。それらを間近で見ていたのだ。もう、過去の因縁ではない。現在進行形。……武田も猫又に背を押してもらえた。

 

「皆、もっともっと気を引き締めなおすだろうな! よっし、さっさと残り終わらせて体育館に行かないと……!」

 

きっと、それらが気合、となって もっともっと練習に現れる。……そして選手達だけではなく、彼らを指導するコーチ。烏養にも言える事だろう。

チームを見続ける、教え続ける、音駒にリベンジを。そう宣言した以上 力の限り務めるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブロックフォローだ! ちゃんと入れ! 見てんじゃねーぞ!」

 

常に周囲に目を張り巡らし、コート全体を見渡しながら指摘を続ける。

 

「【これが最後の一球!】常にそう思って喰らいつけ!! そうじゃなきゃ! 今疎かにした一球が! 試合で泣く一球になるぞ!!」

 

 

西谷が打たれたボールに飛び付く。

日向が弾かれたボールフォローに思いっきり飛び込む。

火神がブロックフォローで、ボールを手の甲で拾う。

田中が身体に当てる勢いでボールを上げようとする。

 

これらはほんの一部だ。例え明らかにボールには届かないであろう距離でも、諦めずにコートに飛び込み続ける。

 

そんな中で淡々と練習を熟す月島は、気合、熱とは 少しばかり程遠い位置にいるようだが、それでも今の所は練習にはしっかりとついてきている。

 

誰もが、もう一回音駒と戦いたい、リベンジしたい、と思いながら、兎に角1にも2にも3にも、練習練習練習三昧だった。

 

 

 

 

 

 

日も落ち……薄っすらと夜の空がやってくる頃に、本日の練習は終了を告げる。

 

 

「お疲れした!」

【シターっ!!】

 

 

練習を終えた後はしっかりと入念なストレッチタイム。怪我に繋がらない様にしっかり筋肉を解すクールダウンの時間。

そんな時間に話題に上がっているのは、バレー雑誌【月間 バリボー】の記事についてだ。

 

「ほれほれ、お前らこれ見てみ?」

「? なんスか!?どしたんスか!?」

 

田中に勧められ、日向は勿論、その後から影山や火神も集まってきた。

 

「【高校注目選手ピックアップ】…?」

「おうよ。今年の注目選手の中でも、【特に注目!】ってなってる全国3人の中に、白鳥沢の【ウシワカ】が入ってんだよ」

「あー……牛島さんか。そりゃ注目されるよなー……威圧感とかも凄かったし」

「なぬっ!? 火神あのウシワカと会ってんのか!?」

 

バサッ、と雑誌を見せられて、そこにはデカデカとウシワカなる高校選手がピックアップされている一面があり、火神は思わずそう呟いた。その呟きを聞いていた田中も前に出していた雑誌を引っ込めて火神を見る。

 

勿論、ウシワカを知らない訳がない。知らない筈がない。

宮城県で高校バレーをやっていたら大体知ってる人が多い、と言う理由もあるが、火神はそれ以上に知っている。―――この場にいる誰よりも彼の事を知っているかもしれない、と言う自負が火神にはある。白鳥沢戦……遠い過去、何度繰り返し見たのか最早判らないから。

事細かな詳細までは難しいが、それでも何度も何度も連想し夢想し、妄想してきた。

 

 

 

そして、現在。

 

 

 

中学時代に火神はウシワカに会う切っ掛けがあった。ウシワカに対するイメージ。それら全て、間違いなかった、とその時思えたのは言うまでもない。

 

「はい。以前、中学時代に及川さんに会った、って話はしたと思いますけど、それと同じ流れですね。有難い事に白鳥沢からも誘いが来てくれてたので」

「か―――!!! やっぱこの子は!! コイツは!!!」

「いたた、いたいいたい!!」

 

スカウトの類であろう事は、田中自身も最初から判っていた。

……そもそも、青葉城西だけじゃなく白鳥沢からスカウトが来ていた事も聞いているのだから。

やっぱり、田中は、火神本人の口から聴くと…… こう、無茶苦茶に? してやりたい気分になってくるので、頭をワチャワチャ、とかき乱していた。

 

「そーいや、白鳥沢って、影山が落ちた高校(トコ)でもあるじゃん!!」

「うるせぇ!!!!」

「プスーーッ!」

「キシシッ!」

 

スカウト云々の話をしていた時、それとなく影山から嫉妬……ではなく、明らかな対抗心? の様なものを感じられていた。視線が痛く突き刺さっていた時、影山は日向から図星の一撃を背後から貰ったのだ。

 

当然、その横で聞いていた月島や山口も思いっきり笑っていた。……影山は火神と日向に集中しすぎていて気づいていない様だが。

 

「やっぱ王様は、勇者様には勝てないって事だねぇ。あ、おとーさんかな? 父親を超えるなんて、100年早い、ってヤツ??」

「るせぇボゲェ!!! 誰が勝てねぇだ!! つーか、それよりもだ!! テメェはどーなんだよボゲ日向!! 同中の火神が呼ばれて、テメーは何してやがったんだ! って話だろうが!」

「うぐっっ!!! しょ、しょーがねーーだろーーー!! せいやが色々とおかしいだけなんだーー!!」

「そりゃ 目に入らなかったんじゃない? だって ほら、色々と条件が……アレ(・・)だし?」

条件が色々とアレ(・・・・・・・・)、ってなんだーーー!!!」

「プスーー―っっ!!」

 

月島の毒舌も際立っている。要所要所で影山は勿論、日向、ひいては火神の事もしれっと巻き込んでるので、ここまでくれば匠の粋だ。山口も巻き込まれない位置ギリギリで盛大に笑っているから、人との距離をある意味では一番測れていたりしていた。

 

火神は田中にぐりぐりされているので、【もうそっちはそっちで済ませて】と言わんばかりに、1年の間のいざこざはスルーしていた。

 

そして、思わずしっぺ返しを受けた日向。

 

確かに、青葉城西の話も白鳥沢の話も、……日向にとっては胸中複雑なのである。一緒に頑張ってきたつもりではいるが、実力的に物凄く負けていたので、受け入れつつも―――受け入れられない? って感じだ。影山じゃなく火神だったから許せる! と言った感情なのかもしれない。

 

それはそれとして、話題は【ウシワカ】になった。

雑誌にデカデカと一面を飾っている相手だから、当然の流れと言えばそうだ。

 

 

「牛島さんは確かに物凄かったです。何ていうか、別に一緒に練習した、とかじゃなくって、お誘いに来た時に次の主将だから一緒に監督の鷲匠さんと来て……」

「おー、確かにこんな凄いヤツが来たら、火神でもビックリするべ?」

 

菅原は、ウシワカの記事を見ながらニヤニヤ笑っていた。

 

【圧倒的パワーと高さ!! 超高校級エース!! 狙うはもちろん全国制覇!!】

 

と見出しにある。

直接見たり、対戦したりせずとも、それだけでも十分圧倒されそうなインパクトはあった。

だが、火神はちょっと違った感性があったりする。知っているのは知っているんだけれど……、どうにもとある人物(・・・・・)と比べてしまっていたのだ。

出会った時期がほぼ一緒だったから、仕方ないと言えるが。

 

 

「えっとですね。その…… あまりにも及川さんとは違いすぎて、そのギャップに圧倒されちゃってましたね。話し方と言うか接し方と言うか。寡黙な人と賑やかな人って感じで」

 

火神の説明で、聞いていた皆が【あぁ……】と声を上げていた。

及川の事は、この間の練習試合もあってこの場に居るほぼ全員が知っている。

 

第一印象 チャラ男! がこれ以上似合う人は居ないだろう。

 

「寒暖差が激しい! みたいな感じか……」

「うはっ、見てる分には面白そうだな、そりゃ!」

 

異なるチームの主将同士の新人の引き抜き合い! みたいなのがあれば、それはもう場外乱闘も良い所だ。

 

及川はあれよこれよ、と口八丁に口説いてきそう。

そして牛島は ただ一言【ついて来い】みたいに、迫力だけで有無を言わさぬ対応をしてきそうだ。

 

想像してみると、田中が言う様に見てる分には問題なく楽しめそうだが、実際の当事者になった、と考えてみれば………、確かに間には挟まれたくないな、と思ってしまう。例え それが強豪からのお誘いであったとしても。

 

「さ、さすがに同時に来たりはしてませんよ? 夫々別々の日に会いましたって」

「それで火神は青城も白鳥沢も蹴って、烏野に来た、と。か―――! 強豪まとめて一蹴すんのかよ。か―――! しかも、白鳥沢は王者! 県No.1のチームだよ! か―――ッ! 青葉城西だってNo.2って言っても良いチームだよ! か―――ッ!!」

「……田中さんは、オレに烏野に来ない方が良かった、っていうんですか?」

 

ぐちゃぐちゃ、としてくる田中。

カーカーとまさにカラスの様に言ってくる田中にジト目で火神はポツリ。

うはは! そんなワケあるかい! と田中は一蹴。

 

そして、そんな火神のセリフに【それは、とんでもない!】と言わんばかりに入ってきたのは澤村と菅原。

 

「烏野のお父さんが来なければ良かった、なんてとんでもない!」

「そうそう。田中だって、かわいくてかわいくて仕方ねーってやってんでしょ? それにほら、他の皆さん、色々と曲者揃いだし」

「えぇ……。それって、面倒見が欲しかっただけみたいな感じなんですけど……。あ、あとお父さんはそろそろ止めて下さいって」

 

皆してカラカラと笑っている。

 

 

火神が来なきゃよかった、と思ってる様な部員は恐らく1人も居ないだろう。

月島に至っても、影山(王様)をいじれるこの上ないネタキャラなのが火神。色々と面倒臭い事を引き受けてくれる(結果的に)のが火神。―――色々と引っかかる点がある月島だが、それらを考慮すると、お釣りがくる程の利点があるのだ。

 

 

「うっがーーー!! オレはもー烏野の小さな巨人になる男だーー! しらとり~じゃなく からすのだ~~っっ!!」

 

発端は自分だったのに、最終的に月島やら影山に色々と反撃を食らった日向。火神もフォローしてくれないので、無理矢理話題を変えようと頑張っていた。

 

勿論、影山や月島から倍返しがやってきたのは言うまでもない。

【小さな巨人】じゃなく【小さくてヘタクソ】みたいな感じで。

 

 

「はっはっは。お前らもそろそろいい加減にしとけよ?」

 

そこに割って入ってきたのは我らが主将澤村。

いつもは、火神がそれとなく纏めてくれてるのだけれど、今回に限っては田中が色々と火神をブレーキしちゃっているので、満を持して止めに来てくれた。怒られるイメージをある程度は払拭したいので、笑顔で。……その笑顔も怖いが。

 

「でもま、ウシワカについては、オレも思う所はあるな。……なんせ、これぞまさに【エース!】って感じだしなぁ! ………なぁ?」

 

くるっ、と反対を向く澤村。その視線の先に居るのは―――勿論、烏野のエース(・・・・・・)

 

「お、オイ!なんでこっち見てる!?」

「いいやぁ、別に~」

「言葉に棘ある!! ヤメテ!」

「まーまー、アサヒさん! ウシワカなんかやっつけちゃえば良いって事っス」

「う、うぅ…………」

 

自他ともに認めるガラスハートな東峰。澤村に見られ、西谷に慰められたが、それでもウシワカを打倒するイメージ等露も湧かず、ただただ肩を落としていた。

 

 

「いやぁ、ま! こんなトコに呼ばれる火神もすげーケド、行こうとする影山もやっぱスゲーべ? こんなヤベェのと一緒とか、それだけで色々と疲れるわ」

「そんでアレだろ? 超高校級エースに向かって【ヘタクソ! もっと速く動け!!】とか言っちゃうんだろ??」

「やー、それは無いかもよ? 田中。何せ、火神にはそういった類は言ってないし」

「でも判んねぇっスよ? スガさん。火神のは あくまで影山が中学ん時に認めた(・・・)ってトコがでっけーんじゃねぇっスかね? ウシワカの場合は ほぼ初対面。十分あり得そうス」

「あぁー、そう言われれば確かに」

 

結構好き勝手考察されている影山。流石にウシワカの様な 超高校級プレイヤーに関しては影山もリサーチが入っているし、技術等を盗んだとしても、日向の様な扱いをする訳はない。………多分。

 

「多分じゃねーー! そんなの言いませんよ!!」

 

 

影山は必死に否定したが……、IFやパラレルがもしも あるとするなら……やっぱり色々とあり得そうな事なので、田中も菅原も苦笑いし続けるのだった。

 

そんな中、頑張って話題逸らしをしようとしていた日向だが、別に自分がするまでもなく置いてけぼりにされている。ポツン……となるのは、アレなので、床に落ちている月間バリボーを日向は掬い上げた。

やっぱり注目すべき此処宮城の選手を目に焼き付ける。

 

「………これを倒さないと、音駒とは戦えないのか……」

「出場枠は1つだし。全国の舞台で戦うんならその通りだ。……でも翔陽。忘れてないか? 宮城県内で バレー部は60くらいあるんだぞ? 音駒を考える前に、する事があるだろ?」

 

 

日向は、昔から猪突猛進。

そう、あのまだ自分が幼い頃……【小さな巨人】の頃からだ。

 

 

小さな巨人がテレビに映り、目に焼き付け、そこからはそればかりになってしまっていた。一応、言うならばあの春高で烏野は、……記憶が正しければ2回戦で敗北していた筈。

日向に言えば怒られるかもしれないが、やっぱり全国には猛者と呼ばれる者が限りなく多い。小さな巨人よりも凄いプレイヤーは沢山居た。あの体躯で空中を戦う姿勢は凄い、と思えるが、その技術を持つ高い選手も何人も居た。

それらを日向は見る事なく、ただただ小さな巨人一直線。……本人の名前は憶えてないのに、ただただ【小さい】と言うワードと【巨人】と言うワードに釘付け。

 

 

一度、コレと見定めた時の日向の集中力は昔から凄い、脅威の一言だが、今は まだ先の相手(・・・・・・)をロックオンする訳にはいかないだろう。

 

 

「おーーっ、わかってんじゃねーか」

「! コーチ」

 

そんな時、やって来たのは それとなく後ろで話を、やり取りを聞いていた烏養。

 

「火神の言う通りだぞ、日向。ウシワカが今現時点で上に居るのは間違いねぇ。……そんな上ばっか見てると足掬われる事になる。何せ、白鳥沢だけが強敵じゃねーんだからな」

 

烏養の言葉で、皆の視線が集まり、次第に傍へと寄ってきた。

他のチームについて、色々調べてくれてるのでは? と思ったからだ。

 

「他は……、去年のベスト4とかスか……?」

「ああ、勿論4強(それ)もだが、今年は他にも強敵が居る。……そうだな、まずは―――」

 

 

 

ここから烏養がきっちり調べた他校の情報を公開してくれた。

 

 

まずは【和久谷南】

守りと連携に優れたチームであり、突出した高さやパワーは見遅れするが、チーム全体のレベルの高いレシーブで兎に角拾って繋ぐ。云わば 宮城の音駒と言っていい粘りを持つチームだ。 

去年の主力だった 【中島(なかしま) (たける)】がチームの軸となり、完成度が更に増している。

 

 

 

そして次に【伊達工業】

一言で表すのなら、鉄壁。

和久谷とは別のタイプで強い守りを持つチーム。何処よりも高いブロックを誇るチームだ。

――烏野とは因縁がある相手でもある。

 

 

「……伊達工業には確か、今年の3月の県民大で2-0で負けてるな」

【…………】

 

烏養の一言で、チームの……、特に2,3年の空気が一段と重くなった。

そう、東峰が徹底的に止められてしまったチームが伊達工業なのだ。

 

「本来なら伊達工業は4強の一角に入っててもおかしくねぇ。……だが、去年は3回戦で優勝校の白鳥沢に当たってベスト16止まりだ。だから、今年はシード校じゃない。つまり――組み合わせによっては1回戦で当たる事も無きにしも非ずだ。この伊達工の入る区画(ブロック)は強豪2校が入る事になる。間違いなく、そこは激戦区だな。……そんで次々」

 

伊達工業の説明を聞く間に、暗く、重く沈んでいったが、烏養は続けて、間髪入れずに次のチーム説明に入った。

 

 

それは勿論、【青葉城西】

セッターながら、攻撃力でもチーム1。セッターとしての司令塔も言わずもがな優秀の一言。

 

「オレ式評価にはなるが、恐らく総合力では県内トップの選手。及川徹率いる青葉城西。ここは去年のベスト4だな。お前ら、勝ってるかもしれねぇが、それはあくまで練習(・・)だ。本番で負けちまったら意味がねぇ。肝に銘じろよ」

【…………】

 

及川の話になると、やっぱり表情が変わるのは影山筆頭。

そして、日向もあのサーブを、火神よりも強烈だったかもしれないサーブを思い返して、ゾッとし、月島は狙われた屈辱があるので、顔を顰め、月島派である山口も嫌な顔をする。

元々、優男と言う事で大嫌いな田中は言うまでもなく舌打ちしている。

 

「あぁ、後は言わずもがなだ」

 

ここで、漸く説明に入るのは、王者のチーム。

 

超高校級エース【牛島(うしじま) 若利(わかとし)】擁する【王者 白鳥沢】。

 

 

 

 

「―――っと、こんな感じか。詳しい事はまたそのウチな。目の前の事にまずは集中だ」

 

烏養の説明は実に的確。要所要所を抑えつつ、何処に注目するのか、そして それ以外にも決して侮るな、と言う姿勢をしっかりと教えてくれている。

 

それに感動したのは澤村と菅原。

 

【烏養さんって、ズボラっぽいのに、ちゃんと調べてくれてる……、ほんとズボラっぽいのに……最初、てっきり此処でも烏野のお父さんが説明してくれるんじゃね? と思ったケド】

「……お前らなんか失礼なこと考えてねぇか?」

 

大分失礼な事を考えてる菅原と澤村。

その空気を読んだ烏養。

そもそも、相手チームに関して1年である火神が率先して調べる状況って、結構3年としてヤバくね? と思う。……が、何となく色々と認めてしまってる節があるので、そうは思いつつも、納得しちゃっていたりするのだ。―――勿論、それに甘んじて胡坐をかくワケではないが。

 

「そう言えば、コーチも言ってたし、前から聞いてたけど、オレと西谷が戻る前に、青葉城西に勝ったんだよな? どんな感じだったんだ? 手応え的に」

 

東峰が聴きたいのも無理はない。4強の一角を下した、と言うのは とてつもないニュースだ。烏養が練習、と称したが、それでも、例え練習であったとしても、知りたい、聞いてみたいのが常。

……東峰が引きこもっちゃっていた時期だったので、あまり聞けなかったと言う裏事情もある。これを期にちゃっかりと聞いてみたのだ。

 

「ああ。あの時は肝心の及川徹がほぼ居ない状態だったんだよ。それに入った時はピンサー。セッターとして機能はしてない状態だった」

「それに、入ってきてスゲェ追い詰められた。変人コンビと火神が最後、決めてくれなかったら 一気に、って ヤバかったかもな」

 

菅原と澤村の説明を聞いて、身が引き締まる思い。

確かに、日向・影山の超速攻は凄い。火神個人のスキルの高さも周囲を常に見てる視野の広さも凄い。それらを考慮した上での澤村と菅原の反応だ。西谷も東峰も気を引き締める思いだ。

 

「……それは、あくまで去年の(・・・)データを元に、考察した事……ですよね? コーチ」

「ん? ……ああ。勿論だ。これは、【オレ的今年の4強】だな。勝負ってのはやってみねぇと判んねぇ事もあるし。……さっきも言ったが、上ばっか見てると、足からバクッ! だ。喰われて飛べないカラス、なんてゴメンだろ?」

 

烏養は火神の言っている言葉の意図を感じ、付け加える形で全員へと周知する。

 

「大会に出る以上、負けに来るチームなんか居ねぇ。全員が勝ちに来るんだ。オレ達が必死こいて練習している間は、当然ほかの連中も必死こいて練習している。例え弱小と呼ばれる高校だろうが、強豪だろうがそれは関係ねぇ。勝つつもりの奴らはな。お前ら―――それを忘れんなよ」

【オス!】

 

烏養は一呼吸おいて――続けた。

 

「―――そんで、だ。さっきも言ったが、オレ個人としても……、いや オレだけじゃねぇ。烏野(ここ)出身。烏野(ここ)で戦った事があるヤツらもれなく全員が今の異名(・・・・)を好んじゃいねぇ筈だ。んでもって、それを今、払拭できるのは、……お前らしか居ねぇ」

 

目を大きく開き、そして、にやりと笑っていった。

 

 

「頼むぜ。誰にももう【飛べない烏】なんて呼ばせんな」

【あス!!】

 

 

それは――殆ど皆が今日一番。

身が引き締まる一言。とても重い一言だった。

 

 

そして、もしかしたら烏養の言葉よりも、もっともっと重く感じている言葉があった。

それは、西谷が感じている言葉。―――そう、今年3月の対戦相手の事。

 

「……烏養さんの言う事は尤もです。……オレは負けるつもりは無いです。勝つ事だけを考えてます」

「……うん」

「伊達工。勝ち続けるなら、……絶対必ず当たる。オレはそう思ってます」

「……ああ。そうだな」

 

組み合わせ次第じゃ、伊達工業とは当たらないかもしれない。去年の様にまた伊達工業が何処かに敗れたりするかもしれない。……可能性の考えれば、絶対(・・)とは、なかなか言えない言葉だ。だが、西谷は全く疑ってなかった。

 

必ず―――また、あの鉄壁と相まみえる。

 

そしてそれは、あの悪夢を振り払い、雪辱を果たすチャンスでもある。

 

 

西谷はその後は、何も言わず、そして相槌を打った東峰も同様だった。

あの3月の敗戦の内容、それをきっと頭の中で何度も何度も描いている事だろう。 

2人を横目で見ていた火神にもそれは伝わってきた。まるで先を知っているかの様な西谷の言葉に少し驚きながら、それでいて何も口をはさむ事なく2人を見ていた。

 

 

僅かな沈黙が流れた体育館。

 

偶然なのか必然なのか、丁度生まれた間に 武田が飛び込んできた。

 

 

「皆! まだ居る―――ッ!? 遅くなっちゃってごめん!! 会議が長引いちゃって……、それで、出ました!! IH予選の組み合わせ!!」

 

 

 

偶然なのか、必然なのか。

組み合わせは そのまま(・・・・)だった。

 

 

初戦は常波高校。そして2回戦で―――。

 

「……伊達工。勝ち上がってくれば当たりますね」

 

西谷は手に力が入る。

今度こそ、全て拾ってやると言う強い意志をその手に込めて。

 

「……ソレだけじゃないですよね」

 

冷静に、横で見ていた月島は伊達工業よりもシード権のチームを見ていた。

 

「ウチの区画(ブロック)に居るの、青葉城西ですよ」

 

そう、常波、伊達工、……最後は青葉城西。

 

烏養の言っていた激戦区へと誘われたのだ。……これはそう、必然だ。

 

「げっ、マジかーー」

「うわ…… コーチが言ってた激戦区丸当たりじゃん……」

 

「「…………!」」

 

 

冷静な者、思わず絶句する者、そして――武者震いをする者。

夫々の反応を他所に、火神はそのどれでもない。

 

ただただ、笑っていた。判っていても、頬が緩むのが止められない。

 

「……何笑ってんだ?」

 

その笑みに気付いたのだろう。

鉄壁の伊達工業、及川徹の率いる青葉城西。

それらを思い浮かべながら、決して臆したのではなく、武者震いをしていた影山。何故か判らないが、不意に影山は火神の反応が気になった様だ。

 

「いや、どうせ戦うんなら、……強いトコとやれた方が良い、って思ったら。と言うより、1つずつ勝ち上がっていけば、必ず強いトコと当たるんだ。遅いか早いかの差だな。でも、コーチが言ってた通り。まずは目の前の常波高校から。一歩ずつ前進」

「…………!」

 

影山はその返答よりも、火神の覇気の様なオーラに当てられ、にやっ と笑って返した。強い相手の方が良い、とは影山とて思っていた事ではある、が、心の底から楽しめている様な、無邪気さを感じつつも、何処か、絶対的なオーラを見た気もした。

 

日向もここ一番に他人にも魅せる、感じさせる程の集中力を見せる事がある。今もそうだ。……雪ヶ丘中学は、そんな妙な力でも教えてるんじゃないか? と影山は割と本気でそう考えたりもしたのだった。

 

 

そして、火神の言葉を聞いていた菅原は 一瞬きょとんとしたが、直ぐに笑った。

 

「激戦ブロックを見て 大物だねぇ~ 火神はやっぱ。田中。ゲッ、マジかーー! なんて言ってる暇無いべ無いべ」

「……そっスね。全部勝つ! ただそれだけ頭に入れるス」

 

にっ、と2人は笑って次に澤村を見た。まるでバトンでも渡すかのように。

 

澤村は静かに頷くと……かつてのチームメイトが常波高校に入ったのを思い出していた。

もし、バレーを続けているのであれば、いつかは戦う事があるかも、と中学時代に話していた。

手は抜かず、全力でけちょんけちょんにする、と互いに言い合っていた。

 

 

「――まずは、目の前の1戦だ。………絶対に獲るぞ」

【おう!!】

 

 

 

 

 

選手達の意気込みを横で見ていた烏養。

伊達工業や青葉城西の話ばかりで、最初に言った足を掬われる、と言った事をすっかり忘れてるのではないか? と活を入れてやる気もあったが、杞憂に終わる。ただ、目の前の相手を全力で倒す事だけを考えているのが判ったからだ。

少なくとも、精神面は問題ないと判断したから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校にて。

 

IH予選2週間前。

 

一日一日近付く度に、緊張を隠せない自分たちが居るのが判る。

 

チームの主将として、皆を引っ張っていかなければならない澤村も同じだった。

そんな時 女子バレー部で、同じ主将である 道宮(みちみや) (ゆい)と、IH予選について話す切っ掛けがあった。

 

【勝とうとしなきゃ、勝てない。例え絶対敵わないような強敵が相手でも】

 

烏野女子バレー部は弱いから負けるだろう、と言った弱気な道宮に、澤村は一言。

説教をするつもりは無かったとはいえ、ついつい言ってしまった。

主将である立場の重み、言葉の重み、心構え。それらを誰よりも一番知っているから。

 

「ごめん!! 大会前に弱気になるの、私の悪い癖なんだァぁぁ!!!」

 

これは、道宮は中学時代にも澤村から言われた事でもあった。

例え周りが無理、と言っても主将である自分達だけはそれを言ったらダメだ、と。

 

「……はは。自分で言っといてアレだけどさ。まぁ、主将同士だし、わからんワケじゃない。だから、おれには何言っても聞かなかった事にしてやるよ」

「!! な、なはは! 甘やかすなよもーー!」

「ウっ!!」

 

厳しくとも優しい澤村の事は、中学の頃からよく知っている道宮。淡い気持ちも、その頃から持ち出しているんだから。そんな男からの言葉だ。甘えてしまいたい自分も間違いなく居る。

でも、自分は皆を引っ張っていく立場。甘えは厳禁。

と言うワケで、澤村にお礼? のパンチ一発を返すと、思いっきり両頬を叩いた。

 

「よし! 大丈夫!! 私たちも相手には勿論。男子(さわむら)たちに負けない様に、ただ頑張る。……ありがとう」

「そうか。……オレも同じだ。負けないよ」

 

澤村にとって、これが良い具合にガス抜きとなってくれたようだった。力がふっ、と抜けて力みが取れた気がした。

 

「(道宮には感謝、だな)」

 

澤村はそう思いながら、去っていく道宮の背中を見えなくなるまで見続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、影山。

 

自販機の前でじーっ、とあくどい顔で睨みを利かせながら【ぐんぐんヨーグル】か【フレッシュアップル】の二択で迷っていた。

 

最後は決められなかったので、思いっきりデカい音が鳴る勢いで2つのボタンを同時にプッシュ。

そして 周囲をビビらせる程の威圧。

威圧に圧されたかの様に、がらっ! と出てきたのは、【ぐんぐんヨーグル】。

 

今度は、じっ、とぐんぐんヨーグルと睨めっこ。

一体何がしたいのか……、周囲には意味不明だろう。飲み物に睨みを利かせてる男なんてそうそう居ないから。

 

そんな時だ。

 

誰も寄せ付けない影山恐オーラが発生していると言うのに、影山に近づいていく者がいたのは。

 

「【――クソかわいい後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからさ!】」

「!!!」

 

影山は突然、後ろから声が聞こえてきて驚いて振り向く。

そこに居たのは―――。

 

「よっ。自販機との格闘、お疲れさん」

「……なんだ。火神か。つーか、そんなもんしてねぇよ!」

 

火神がいつの間にか後ろにいたのだ。

別に忍び足で近付いてきたわけでもないのに、影山は全く気付かなかったが、別に問題にするような事でもないので、特に考えたりせず、ぐんぐんヨーグルにストローをつけて、ぐっ、と飲みだす。

 

「おい、さっきのは 一体なんなんだよ」

「ん? この間の青城戦後の及川さんが言ってた事。……影山、今青城の事ばっか、考えてるだろ? コーチや澤村さんにも言われてんのに」

「うぐ……っ」

 

実に的確に読まれてしまい、思わず影山は飲んでいたぐんぐんヨーグルを変なトコに入れてしまってむせていた。確かに、火神の言う通りだったから。 及川の事、金田一の事……中学時代の事を思い返していた。だからこそ、いつもより表情が強張り、周囲を知らず知らずのうちに威圧してしまっていたのだ。

 

「ははっ。翔陽程じゃねーけど、影山も解りやすい時はめっちゃ解りやすいな。そんな簡単に読まれちゃセッターとして致命的にならないか?」

「るせーっ!」

 

カラカラと笑った後、火神は表情を戻した。

 

「……ま、オレはあんま心配してないケド、まずは常波。んでもって、伊達工。……思考ん中に及川さん達を登場させるのは、その後でも遅くないだろ? てなワケでだ、さっさと部活行くか」

「………わかってる。ん? 日向はどーしたんだ?」

「オレは翔陽とクラス違うからな。流石に判らんよ。変な事してなけりゃ、直ぐ来ると思う」

 

何だかんだで結構一緒に居る事が多いので、影山は不自然に感じた様子。

……だが、火神が言う通り、日向と火神の組は違うので よく考えてみたら当然と言えば当然だ。

 

 

「オレもさ。全力の及川さんが居る青葉城西と戦ってみたいし、勝ちたい。だからこそ目の前の一戦に集中するんだ」

「……おう」

 

そして、2人は体育館へと向かっていったのだった。

影山を大人しくさせた?? 的なシーンを目撃した1年生たち。

 

【火神ってマジやべーな】

 

と口々に言い、それが噂になって1年中に回ったとか回らなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、部室にて。

田中と縁下が着替えていた。

 

「……………もう直ぐ大会だな」

「? ああ。難しい顔して何考えてんのかな、って思ったら大会の事だったか」

 

田中に難しい顔は似合わない、と縁下は思える。それに色々と考えて考えて悩むタイプじゃない事もよく判っているから。

 

「……大会ってさ。何かこう、【出陣】って感じで燃えてくるんだ」

「うん、まぁ、うん。そうだな」

「でさ、そこにさ。かわいい彼女とか来てさ。【明日は頑張って……!】とか言ってお守りなんかくれちゃったりしたらさ。……もっともっと燃えるのに。もっともっと強くなって、明日にもレギュラー返り咲きもしてやれるのに」

「真顔で何アホな事言ってんの」

 

やはり、難しい顔は似合わない田中。と言うより、難しく考えて居る時は、決まって馬鹿でアホな事を考えてるんだろうな、と考えなおした方が良いとも思えた。

 

「んな事言ってるうちに、レギュラーから遠のいても知らねーぞ。つか、オレの方が先に入るし」

「!?? ま、負けねぇぞ!! 縁下ぁぁぁ!!」

「バレーに関しちゃ バカな事言うんじゃなくて ただ只管突っ走る方が田中には似合ってるよ」

 

同じ2年だからこそ、縁下は田中の事がよく見えている、と言える。と言うより 2年の誰よりも縁下が一番しっかりしてるので、そう成らざるを得なかった、と言う方が正しいかもしれない。

 

そして 縁下は、更に追い打ちをかける会心の一言発動。

 

「あ、後 清水先輩絡みでも、現在 火神にコールド負け中だから。客観的に見たら」

「!!!! ぬぁぁぁぁにぃぃぃぃぃ、いっっっっっっってんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

会心の一言故に、これまで以上に反応を見せる田中。折角着替えていたのにまた脱ぎ散らかして、上半身裸で縁下に迫る。

 

「だってほら 清水先輩、最近よく笑うじゃん? 何か見てるオレもほんわか~ってしちゃうって言うか なんて言うか」

「潔子さんの微笑み、抱擁は万国共通じゃーーー!!!」

「万国共通って何だよそれ……。ま、火神が来てからだと思うんだよね。……うんうん。何となく似合ってると言うか、収まる所に収まった、っていうか」

「収まってねぇよ!! ぜんっっっぜん!! まだまだ!! 試合中だぁぁぁ!!」

「あ、試合と言えば前の音駒との試合の後だってなー。火神、清水先輩に介抱してもらってさぁ~(普通に手当てしたり、肩貸したりしてただけだけど。抱擁に見えるかなぁ? あれ。まぁ、バランス崩した所を支えてあげてたし、見えなくもない? ……ちょっと難しいな)」

「ぬぐああああああ!! 負けるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

田中を煽って煽って煽って……、此処に西谷が居ないのが良かったのか悪かったのか……。

 

「そう、それ。その(面白)パワー出してバレーしてけって。んでも、清水先輩絡みは別。火神のおとーさんは、バレーがすげー上手いのは勿論だけど、それ以上に誠実極まってるんだよね~。あの1年を何だかんだ言いつつも纏めてるんだからさぁ。その辺も考えて、勝負を挑まないと少なくとも高校の間じゃ勝てないかもなぁ。いつも押せ押せ作戦じゃ無理だと思うよ。ちったぁ抑える事を知った方が良い。引き出しが無さ過ぎてオレ達でも飽きる」

「はふぐぅぅぅぅぅっっ!! す、すきを抑えると言うのか!!! どういうことなんだぁぁぁそれぇぇぇ!!?」

「どういうことって。ほら 押して駄目なら引いてみる。とか、そんなもんだよ。西谷もそうだけど、毎回単純過ぎ」

「!!!」

 

いつの間にか始まった田中への恋愛講座。

田中の面白パワーをバレーに活かす事が出来たら、とか考えたりしていた事があった。

無論、そんな上手くいくものじゃないとは思う。

縁下も、別に彼女が居ると言うワケじゃないのだが……、色々と言いだした手前、最後まで言い切ろうと頑張っていたのだった。

 

 

 

 

因みに当の西谷はと言うと。

 

以前宣言した通り、東峰を迎えに3年の教室までいっていた。

 

【GO! 部活!!】

 

と、まるで犬の躾みたいなノリで。

 

 

「……西谷。オレ、大丈夫だってば。もう逃げないから。……それにさ。後ろには皆が居るって事がよく判ってる。前は、視野が狭すぎた。もっともっと見ればコートは考えてる以上に広いって事が判った」

「!」

「だからさ。今度こそ胸張って【オレが烏野のエースだ!】って言ってやる!」

「……アサヒさん!!」

 

東峰の決意を聞いて、西谷は完全に安心―――はする事はなく。

 

「でもオレ、1ヵ月は迎えを続けるつもりなんで!」

「えぇぇ……、ヤメテ恥ずかしい……」

 

その後。宣言通りぴったり登校日月末まで。

西谷は東峰を迎えにいき続けるのだった。

 


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