王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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読んでくれてる皆様、ありがとうございます。

この作品を書き始めの頃。
中学時代の試合で、影山(王様)にぎゃふん! と言わせようと頑張って 【ぎゃふん、なんて言ってねぇ!】 みたいな感じに影山(王様)に言わせて、中学時代のみと短いですが幕引きしようと思ってたんですが、いつの間やら もう50話目。
でも、原作で言えば5巻の最初の方。節目、とは言いにくいです。苦笑

まだ先は長いな、と思いつつ これからも頑張っていこうと思います。
よろしくお願いします。


第50話 がんばれ

IH予選まで後―――1週間。

 

その日が近付くにつれて、気合も更に増していき、そして集中力をも増していってるのが目に見えて解る。

気合十分、士気も勿論上等。……なので後は、選手達がオーバーワークにならない様にしっかりと見定め、見極めなければならない。コーチとして、選手達の事を選手達以上に見てやらなければならない。

 

 

――烏養は 運動部に所属する高校生と言うのは、その部に賭ける想いが強い者程、自分を限界以上に追い込もうとするのをよく判ってる。

 

 

その結果まだまだ発展途上な身体を壊してしまえば元も子も無い。

サボりと休息は違う。しっかりと身体を休める事、ちゃんとした飯を食べる事、それらをしっかりと伝えてきたつもりだ。

 

そしてそれを続けてきて、烏養自身もバレーのコーチ以外にも働いてるので、そろそろ烏養自身の身体が疲れてきた様子だった。

 

人目も憚らず、大きな大きな欠伸をしていたから。

丁度それを目撃したのが武田。

 

「烏養君。お疲れですね……。最近は毎日部活スタート時間から来てもらってますけど、お仕事の方は大丈夫ですか?」

「ん? ああ、オレ今まで店番だったけど、最近は早朝に畑もやってるからその分店は夕方までで良いって言ってくれてんだ。ま、実家だからってわがままばっか言ってられないケドな」

「!! あ、ありがとうございます!! 今度、お酒でも持っていきますっ!!」

「おおっ!? マジで!!? 是非よろしく!」

 

酒は大人にとって(勿論、人それぞれ十人十色) 癒しであり、そして明日への活力であり―――何より! 人体を動かすガソリン! と豪語する程の酒好きも居たりする。

どうやら烏養は結構な酒好きな様だった。武田からの申し出に目を輝かせていたから。

 

 

そしてその後、しっかりと酒を貰う約束を交わして――バレーの話になる。

ホワイトボードに書かれている攻撃パターンの多さに、武田は目を丸くしていた。

 

「確かに僕も何試合か見てきまして、バレーの攻撃パターンが多い事は判ってきたつもりですが……、これを見たらもっともっとあるんだって、改めて思いますね。これ、全部使うんですか?」

 

ざっと見てもホワイトボード全体を使っていてその数10はある。

書ききれない物もあったかもしれないので、それを考慮すると――少なくとも10以上。覚えるのが大変そうだ、と武田は思えていた。

 

「……いや、場合によるよ。何せアイツらには、目の前の一戦に集中してもらわなくちゃ困る。……でも、オレ達まで目の前の試合にいっぱいいっぱいになる訳にはいかないからな。各試合、対戦相手に応じて、その都度 有効な手を考える、まずは 教えるべき事の優先順位をつけるんだ。……考える事が山積みだな」

 

選手達は目の前の試合に集中する様に言い聞かせた。

 

油断するな、とは言っても 順当にいけば―――1回戦はどう贔屓目に見ても突破するだろう事は烏養は思っている。

 

常波高校は、ここ何年も初戦敗退が目立っていて、烏野は飛べない、堕ちた、と言われ続けていても、2回戦、3回戦までは駒を進められているのだ。

更に今年の烏野の布陣は、練習試合で万全ではないとはいえ、4強の一角である青葉城西を下し、東京の古豪 音駒高校と五分の勝負をしているのだ。

そして 常波高校に、目立った新人選手が入ったと言う話も聞いてない。

 

それらを考えてみれば、当然の予想。

無論、油断する訳にはいかないのも事実だが。 

 

「ちょこまか試合前に小細工を考えるのもコーチ陣の仕事、ってな」

 

烏養はそういうと、練習の方へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、通常練習が終わり、各々が残って居残り練習をしていた。

 

菅原と火神のAクイックが綺麗に決まる。

 

「ナイスコース! 火神!」

「ナイストスです! 菅原さん! 今の位置と高さが、オレが一番打ちやすい場所ですね!」

「OKOK! 頭に入れとくべー!」

 

流れるようなセットアップで、影山との速攻と比べても何ら見劣りしない。

菅原も、ぎこちなかったのは 本当に最初の方だけで、今は着実に 1年達に合わせてきていた。

 

「スガさん! ねがいしアーーす!」

「よっしゃ!」

 

次に並んでたのは日向。

スパイクの練習こそ日向にとっては活力剤そのものであり、通常練習の疲れなんて一切感じてない。跳べば跳ぶほど、嬉しくてたまらない! と言わんばかりに動きまわってる。

 

……故に、一番 オーバーワークしやすいともいえるので、その辺りはコーチの烏養は勿論、澤村や火神まで、しっかりと視ているので大丈夫。

 

 

「おお~~、日向と菅原の速攻もサマになってるな! 十分実戦で行けるレベルじゃねぇか!」

「おお!! そうですか!?」

「おう」

 

烏養がそう評価しつつあるが―――、そのくらいで満足してもらってはまだまだ困る、と言わんばかりに、火神がネットの反対側へと立った。

 

「翔陽。次、オレがブロック付くからな~? しっかり躱せる様に打ち分けろよ?」

「むむ!! よっしゃあ!!」

 

日向と火神の勝負! 

 

まだまだ、ブロックを躱す様に打ったり、ブロックとの駆け引きだったりは 苦手な部類に入る。そして 夫々のブロッカーたちの癖や跳び方、傾向などは実際に対面してみないと判らない部分があったりするが、それでも繰り返し練習する事で打ち方の引き出しを、選択肢を増やす事は可能だ。つまり、反復練習あるのみ! である。

 

火神もブロックの練習になるので一石二鳥。

日向と言うスパイカーは、これまで一緒に練習してきたから解る、と言う部分も当然あるが、対面してみればより判る。

通常のある程度の高身長のスパイカーたちと比べて、一癖も二癖もある、と言う事が。

 

その体躯から考えられないくらい高く跳んでる。

高く跳ぶ、それはつまり空中で長く留まれると言う事なので、それを考慮しつつタイミングが重要だ。

日向の視線や打つ体勢、宙に居る滞空時間、それらを十分に見極めて跳び、何本かブロックでスパイクを阻み続ける。

 

「よっしゃ! 勝ち!」

「くっそーー!!」

「日向。今のはネットに近かったな、ゴメン。次はもうちょい離して高めに上げるよ」

「オレも今のはもうちょっとこう――工夫で行けた感じがします!! 次、決めます!!」

 

 

 

 

反復練習を続け―――軈て、日向も火神のブロックを抜き始める。

2本、3本と連続で決めて決めて、重ねていき……、日向は大きくガッツポーズ!

 

 

 

 

「日向、ナイス!」

「よっしゃあ!! せいやから点とったーーー!!」

 

大喜び! 喜び爆発! 抜かれた火神だが、見ていて悔しい、と言うより逆だ。やっぱりいつだって微笑ましい。【出来る様になった事】を全力で喜び、楽しむ姿は。 

 

でも、そんな感性持ってない直ぐ横にいる月島がボソッと日向に対して一言。

 

「ブロック1枚相手で そこまで喜ぶ?」

「!!」

 

それはそれは痛い一言だった。

日向は大喜びだったんだが……、月島の声は十分に届いていて、現実に引き戻される。

 

そう――ブロックは最大で3枚まで付かれる。フリーを省けば 1枚ブロックは一番決め易いと言える。日向が憧れているエース! と言うものは、例え3枚ブロックだったとしてもしっかり勝負出来るのだから。

 

「寧ろ、ずっと止められ続けられた事を恥じなよ~?」

「はふぐっ……!!」

 

理解して言ってる日向を、これまた月島も理解出来てるので、続く追い打ち。職人芸。

でも、まだまだ練習中なので ある程度の所で火神が止めた。

 

「はいはい ステイステイ。月島も混ざりたいんなら 入るか? 今から2枚でやる?」

「……遠慮します。大体いつまで跳んでんの、って話でもあるよ。僕は体力お化けじゃないんで」

「そんだけ疲れてる癖に、毒だけは吐かずにいられないのな」

「ははははは……」

 

 

 

【火神のブロックを見ていた】

 

と、月島は高いプライドから言う事はないだろう。

あの月島が 練習後に残ってる時点で、結構驚きモノではあるが IH予選も近いし、色々と思う事があるんだろう、と残ってる皆は納得していた。と言うより此処も火神お父さん大活躍! とも思ったりしてる。

 

因みに、今回珍しいのは 月島は残っているのに 山口はこの場におらず帰っていると言う点だ。月島が残る意思を示した時、山口は何やら行く所がある、と断って体育館から出ていった。

 

――勿論、火神は行先を知っている。

 

山口に関しては時々 サーブ練習の時ジャンプフローターサーブのコツ等を教えたりしていた。山口は月島と違ってプライドが高いから! と言った点はないのだが、如何せん 火神自身のサーブ練の時間を削る事になるのは許容できなかった。

 

火神のアドバイスを聞きつつ――練習してみても、中々上手くいかないのが現状。

プレイが出来る事と、同等クラスのモノを教える事が出来るのは必ずしも イコール で結ばれない。名選手と名監督は違う、みたいなものだ。

 

通常の練習だけでは足りない、と感じた山口はとある場所へと向かっていったのだ。

 

そう―――以前、町内会チームとの練習試合で 火神の様にジャンプフローターを打ってきたある人の所へ。

 

「……………ふん」

 

それとなく山口の様子については見てきている月島。

なので、色々と察し 自分が残る事や山口が帰っていったりする事等、何も言わずただただ見送っていた。

 

 

そして今、火神のブロックに集中して見ている。

 

 

日向には、止められ続けたことを~ と得意気に言っていたが、たった1枚で止め続けた事も十分凄い事だ。癖のあるスパイカーである事は、月島自身も判っている事だ。

ブロックに関しては、元々得意だったこと、チーム1の長身と最高ブロック到達点を持ってること等も有る為、影山や日向ほど表立って言ったり乗ったりは決してしてこないが、月島もかなり貪欲で負けず嫌いだ。

 

「(…………くそっ。なんでこんな………!)」

 

心の何処かでまだ葛藤はある。……だが、日向や影山……ではなく、火神を見ていると、何かしなければならない気になってしまっている自分も居た。 そんな自分が嫌になったりもするが、その後も続く練習を集中して見続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、それにしても影山が今向こうで集中しててある意味良かった……。今の聞いてたなら 絶~対っ、便乗してきただろうし」

「だべだべ~」

 

火神はちらっ、と影山の方を見た。

日向が火神に対してスパイクで打ち抜ける様になって大喜びしてたら、結構な勢いで月島の何倍もキツイ口調&声量で大批判してくるだろう。

事実だし、間違った事は言ってないのだが 如何せん口が悪いし、周囲にも色々と迷惑をかける事が多いので 後始末屋的な火神にとっては結構面倒くさい、のである。

 

そんな影山は、東峰相手にトスの練習を熱心に行っているので、その心配はなかった。

 

 

低くないか、高くないか、あげる位置はどうなのか、どんな事でも良いから全部言ってくれ、修正する、何かあれば、何かあれば、と兎に角 相手の返答待たず間髪入れずにぐいぐいと。それは東峰に限らず、2年だろうが3年だろうが、ただ只管貪欲に。

 

 

顔は兎も角(失礼!) ガラスハートの東峰は、あまりの影山の剣幕に引き気味だったが 何とか自分の打ちやすい位置を伝える事が出来ていた。

 

影山と東峰のやり取りを見てて――火神も気になったので、恐らく一番 エース東峰の事を判っているであろう菅原に確認を取っていた。

 

「えっと、東峰さんの打ちやすい所って、ネットからやや離した高めのトス、でしたっけ?」

「そうそう。あ、そう言えば火神もトスもすげー上手かったし、トス練もするか?」

「いえ。今日はこっち側を重点的に確認しておきたいので。んー……どちらかと言えば時間があれば、サーブも打ちたいんですが………」

 

ちらっ、と火神が時計と、そして入り口の方を見た。

丁度、図ったかの様に―――澤村が体育館に戻ってきていた。

 

 

「こらーー! お前ら! もう居残り終われーー! 身体休めるのも練習の内、っつったろーが!」

 

 

その一言で、本日の練習は完全終了。

 

「ははは。大地に言われちゃ、サーブ打ってないで帰らないと、だな」

「はい。無視してやって 澤村さんに怒られちゃうのはカンベンなので」

「だべ~! んん、火神ん中じゃ大地はやっぱ 怒るキャラなんだなぁー……、そういや、そう定着したのっていつだったりすんの?」

 

菅原は普通に最早ネタになってきてる火神の澤村に対する認識についてツッコんで聞いてみていた。火神も、少し――ほんの少しだけ考えた後に答える。

 

「入部したての頃から、ですかね?」

「うはっ! そんな早くかよ!? なーんでまた?」

 

まさかの初対面時に、澤村の印象がそう固まっているとは、菅原も思っても無かったのだろう。思わず笑ってしまっていた。でも、火神の次の言葉を聞いて笑みは露と消える。

 

「……入部する時の 翔陽と影山の問題(・・・・・・・・)があったから、ですかね。何せあの時の澤村さんのインパクトが物凄かったんで」

「……あー」

 

最初は笑ってた菅原だったのだが……聞いてから笑えない。全くをもって笑えなくなってしまった菅原。

あの場に居た目撃者の1人である菅原。

今でも思い返せば スローモーション再生で当時のシーンを思い浮かべる事が出来る。

 

突如勃発した 主将澤村の注意を無視してでの 影山vs日向のサーブ&レシーブ対決。

 

影山の強烈なサーブが日向に向かい……、日向は何とかボールに触る事が出来たが、まだまだレシーブの技術は伴ってないのと影山の新人離れした強烈サーブに勢いを殺す事が出来ず、そのままボールを弾き出してしまったのだ。

 

問題は此処から。

 

……その、弾かれた先に居たのが教頭。

 

見事に、教頭の側頭部にボールが直撃。この時点で、脳震盪の類の心配をするのが普通なのだが、そのボールは教頭の頭頂部に存在するモノ……カツラを綺麗にすっ飛ばしてしまったのだ。

周囲には正直バレバレだったのだが、教頭自身はその頭頂部に光る秘密…… それを絶対の秘密にしてた。なので、何かと目の敵にしてたバレー部であったとしても、その行為以上に目撃された事を何よりももみ消したかったようだ。

 

そこで呼ばれたのが当然バレー部主将の澤村。

 

主将として、謝罪は勿論の事、教頭に気を使い、周囲にも気を使い、更に色々と重圧がかかる事を言われ―――散々だったのを覚えている。

 

 

火神が畏怖すると言う澤村 大地の姿、しっかりと菅原も見ている。

 

 

 

【オレはさ、影山と日向(お前ら)にオトモダチになれって言ってんじゃないのね。中学の時にネット挟んだ敵同士だったとしても、今はネットのこっち側同士だってことを自覚しなさいって………… 言 っ て ん の ね 】

 

 

 

言い終えた後の澤村の顔は、今思い出しても恐怖そのものだ。

まだ、火神はその場に居なかったので、あの顔までは見てないと思うのだが……、少なくとも教頭の話題を出した時の澤村を纏うオーラは暫く何ら遜色ない程の怒気を纏っていたのは間違いない。

 

あれを間近で感じたと言うのなら……、そう印象したって不思議じゃない。

 

 

 

「おーいスガ―! 帰りだけど、久しぶりに肉まん奢るから残ってる奴集めといてくれー」

 

 

色々と思い返していた時、菅原は澤村の言葉を聞いて、我に返り ゆっくりと頷く。奢っていただけるのは非常にありがたい事ではある、が…… 火神の澤村に対する【怒る印象】は当分抜けそうにないな、と思えると 何だか澤村が哀愁漂ってる様にも見えてきた。

 

そして 澤村の肩にぽんっ、と手をやる。

 

 

「大地。……まぁ、暫くは無理だ。諦めろ」

「……って、いきなりなに言ってんの? 諦めるってなに??」

 

 

その後、澤村は暫く菅原の言葉の真意を聞こうとするが、菅原は乾いた笑みを残すばかり。バレーの試合、IHに関して諦めろ~の類じゃない事は確認できたが、それ以上は答えてもらえず、火神も菅原と同じ対応をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、切り上げの際。

菅原は、今帰ろうとしてる清水に声を掛ける。

 

「あ、清水~~。大地が肉まん奢ってくれるっていうんだけど、烏養さん(コーチ)の店にいかないか?」

 

菅原の提案。変な事じゃなければ、清水も付き合う所は付き合うのだが……、今回はどうやら違う様子。首を横に振っていた。

 

「ゴメン。私、やることあるから……」

 

用事があるなら仕方ない、と言うワケでまた別の機会に、となった。

お疲れ、と互いに交わし、丁度、帰る時――火神と目が合う。

 

清水は 火神と目が合って、火神も気が付いてるのを確認した後、清水は右手の人差し指を口元へ近づけた。僅かにだが【シーっ】と言葉も添えて。

何も知らなければ、コート外でハンドサインみたいなのを決めてる訳ではないので、通じないやり取りではある、が 火神はしっかり認識している。

なので、手早く頭を少し下げて軽く敬礼した。

清水は、火神がしっかりと約束を守ってくれるだろう、と確信しつつ にこやかに微笑み返しをして足早に体育館から去っていくのだった。

 

 

……勿論、こんなやり取りを見られたら、途端に騒ぎになる。

清水が隠したがってる事が顕わになってしまう可能性もある。

なので、火神は返答をする前に しっかりと周囲に誰も居ない、誰も気づいていないのは確認していた。勿論菅原にも。

――中でも西谷や田中は要注意人物なので、いの一番に確認。流石に視界外からの乱入・感知と言った超常的な能力は持っていないので、とりあえず一安心である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――夫々が毎日の練習を積み重ね続け IH予選を明日に控えた前日練習。

それも終わり、烏養からの最終確認も終了。今日は居残り練習はダメ、と言う事で必ず解散する様にも付け加えた。

 

「んじゃ、オレからは以上だ。さっきも言ったが今日は帰れよ? 家帰って飯食って身体を休めろ」

【ハイ!】

 

これでもう後は明日からの試合の結果を残すのみ――、と言う事で澤村が最後に締めようとした時だ。

 

「あっ、ちょっと待って待って! もうひとつ良いかな!?」

 

慌てて帰ろうとする皆を止めに入るのは武田だった。

全員が何かあるかな? と疑問を浮かべつつ 武田の方を向くと。

 

「ああ、僕じゃないんだ。清水さんから!」

「……………」

「??」

【!!!】

 

清水、の名前を聞いて ぴんっ!! と反応を極端に示すのは通常運転、どんな時も、どんな時でも、どんだけ緊張してても同じ行動をとる 田中&西谷。

 

清水は、呼ばれて少しだけ顔を俯かせつつ、ゆっくりと口を開く。

 

「……激励…とか、そういうの……、得意じゃないので……」

 

そう告げると、体育館隅に持ってきていた大きめのLLサイズの紙袋の中身をガサゴソ、と取り出した。それなりに大きく、重たそうな大きな……布?

 

「先生、お願いします」

「よし来た! 任せて!!」

【??】

 

中身を取り出すと、武田がそれを担ぎ上げて、体育館2階に通じる梯子を上っていく。

下から見ていてなかなか危なっかしい。……運動苦手! っていうのがよく判る。

 

「あ、あの 先生。運ぶのは私が……」

「よっ、ほっ! あ、いいのいいの! 清水さんは、コレ、用意してくれたんだから。これくらいはさせて」

 

何とか2人が2階まで登ってきた辺りで、全員がざわつき始める。

いったいなんだ? 何が始まるんだ? 

 

それを他所に、2人は2階の手摺に備え付けられてるロープを括りつけ、一気に広げて皆に見せた。

 

それは――真っ黒な横断幕。 

 

烏野のイメージカラーである黒を強調したデザインで、そこに【飛べ】と一言、横断幕の全てを使って書かれていた。……左下隅に、【烏野高校男子バレーボール部OB会】と書かれている。この横断幕は、烏野高校で戦ってきた先輩たちが残してくれたものだった。

 

 

【!!!】

 

 

当然、皆が目を奪われた。

近年、部員も少なくなってきて、……この手の応援は無くなってきていて、3年達も存在を知らなかったのだ。

 

「こんなの、あったんだ……!!」

「……うん。掃除してたら見つけたから綺麗にした」

 

菅原のつぶやきに、清水は頷きながら説明した。

清水は 備品室を整理整頓していた時、この横断幕を発見し、用意してくれたのだ。

 

 

「うおおお!! 燃えてきたァァ!!」

「さすが潔子さん!! 良い仕事するっス!!」

 

 

横断幕の方に目を奪われていた田中と西谷だったが、清水の説明を聞いた事、此処までしてくれた事、何より清水関係だったから、一気に元気爆発&感謝感激な様子。

 

 

【よっしゃああ!! じゃあ気合入れてーー!】

 

 

と、田中と西谷が勢いそのままに、本来なら主将である澤村が再度〆る所を勢い任せで言い切ろうとしたその時だ。

 

「(……まだだっ! 多分――まだ、終わってない)」

「「??」」

 

2人に手を伸ばし、声を小さくしつつ制して止めたのは澤村。

この先に、まだ何かが(・・・)起こる、と澤村は直感していた。

 

その澤村の声は小さくとも、何だか説得力と迫力があったからなのか、或いは――澤村だけでなく、他のメンバーたちも同様に何かを感じ取ったからなのか。

 

 

理由は定かではない―――が、先ほどまで、横断幕を見せられて騒がしかった筈の体育館が静寂で包まれた。

 

 

自然と、まだ上に居る清水に視線が集中する。

何が起こる? と目が離せない。

 

 

「…………が、」

 

 

ぽつっ、と一文字分の声を発する清水。

つっかえた様だが、そうは聞こえず、ただただ【が】とは? と首を傾げそうになったその時だった。

 

 

普段の凛々しく、才色兼備で、常に冷静沈着な彼女が――表情を思いっきり赤くさせ、緊張からか少し汗ばみながら、振り絞る様に―――。

 

 

 

「がんばれ」

 

 

 

と一言を添えた。

 

 

たった一言。

 

 

時間にすれば、ほんの僅か、数秒間。

ぎゅっっ、と極限まで時間が圧縮されていくのが判る。

 

【が】と【ん】と【ば】と【れ】。

 

清水が紡いだその音を繋げれば――自分達に対しての清水からの短くとも最大級の声援(エール)の言葉となる。

 

それを理解した瞬間、硬直した時が再び流れ出した。

 

先頭に並んでいた上級生たち、物凄く頼りになる先輩方。

大粒の涙……ではなく、蛇口をひねったかの様な流れる涙をぶわわっ! と流し始めたのだ。

 

「し、清水っ…… こんなの、ハジメテ……ッ」

「あうあうあう………」

「ふぉぉぉ…………」

 

「「っ……!! っっ……!!! っ、っっ!!」」

 

嗚咽が止まらない。それが似合う場面はここ以外ない! と思えるような絵図だ。

清水との関係性もまだ浅く、……そもそも、異性にそこまで興味を持っている者も居ない1年以外は絶賛大号泣。

 

「「しゅ、主将まで……!?」」

 

まず普段からかけ離れてる澤村に驚き。

 

「「(この人達、声すら出てない……。普段はあんなに煩いのに)」」

 

真っ先に飛び付くだろう田中&西谷。体育館2階であろうと面白パワーで空跳んで清水に飛び付くであろう田中&西谷。……絶対に人一倍喧しくなるであろう2人が、声にならない声を上げて、ただただ涙を流し続けた。

 

 

【うおおおおんっ!!】

【うわああんっっ!!】

 

 

「ちょっと何これ!? 収拾つかないんだけど!!! ちょっと、お父さん何とかしなよ」

「月島まで。一体誰が誰のお父さんか!」

 

声が漸く出る様になったころには、泣き声を盛大に体育館に響かせていた。

 

勢いそのままに――本日のシメ。

 

「1回戦絶対勝つぞ!!」

【うおおおおス!!!】

 

と告げた。

 

 

 

まだまだ騒がしい体育館。

その騒がしさは、外にまで響いていて――中を覗きに来てた他の部活動の方々は、逆の意味で涙していた。……女子マネージャーのいない運動部の皆さん。羨ましい事極まれり。

 

そんな騒がしさ極まっている体育館の中。

そっと目が合うのは火神と清水。

 

まだ恥ずかしそうにしている清水を見た火神は、とびっきりの笑顔を向けた後、小さく、そして清水以外の誰にも見られない様にさり気なく、Vサインを送った。

 

それを受け取った清水。やっぱり恥ずかしいから、少しだけ苦笑いで誤魔化しつつ、横おじぎ。

 

 

このちょっとしたやり取りには勿論理由がある。

 

 

 

 

 

 

 

少し、時を遡り――2日前の備品室。

 

「え、っと……、確かボールとテーピング、作戦盤に練習試合用のベスト……」

 

火神は、丁度、部活が始まる少し前の時間に 武田に頼まれていたバレー用品を備品室へと運びに来ていた。

 

備品室へと到着したが、両手が塞がってるので 開けるのにちょっぴり苦労したが、どうにか肘と荷物で扉を開ける事に成功。

そして、中へと入っていくと――そこには先客が居た。

 

「あ、お疲れ様です。清水先輩」

「ん。火神。……ああ、運んでくれたんだ。武田先生には後で行くって言ってたのに」

「あはは。まぁ、オレも暇でしたし。(あれ? 武田先生……そんな事言ってなかったけど、また何か画策?)って、わっ!!」

 

そこには先客――清水が居た。

その床には 件の横断幕を広げられていた。

 

もうちょっと近い位置で広げてたら、思わず踏んずけてしまった事だろう。……烏野を象徴するこの漆黒の横断幕。《飛べ》とシンプルイズベストをこれでもか、と表している横断幕を踏んずけた日には、火神にとって死活問題。

 

思わず飛びのいてどうにか大惨事は免れて安堵する火神。

 

「ごめんごめん。見つけたから、ちょっと今掃除中だったんだ」

「あ、いえ。……こんなの、あったんですね。いや、あるに決まってる、かな。……烏野高校だから」

 

ぽー、っとその深い黒色に吸い込まれる様に見続けている火神。

その姿を見て、ふっ、と笑みをこぼした後、清水は立ち上がって火神から荷物を受け取った。

 

「ありがと。此処はもう大丈夫だから」

「はい! あと よろしくお願いします」

 

火神は、【飛べ】の横断幕に感動しつつ――後は清水に任せよう、と言う事で促されるまま退散しようとした時だ。

 

「あ、ごめん。ちょっと待って」

 

清水に引き留められたのは。

また、振り返ってみた時、清水は何だか表情を赤くさせていた。

 

「……これ、まだ秘密にしておいて欲しいんだけど」

「これ。横断幕の事ですか?」

「うん。……その、…皆への激励に、使えそう、だから」

 

勿論、火神は清水激励(それ)については知っている。

超有名? なワンシーンだから。目に浮かびすぎる。

 

「あはは! それ、最大の激励ですね!」

「…………ん。得意じゃないから、こういうの見つけた時に、ちょっと考えてて」

 

清水も3年。最後のIHだ。

だからこそ、共にプレイはせずとも、共に戦うつもりでコートに臨みたいし、皆の背をもう一押ししたいのだろう。……特に今年は期待せずにはいられない年になるであろう事は、予想し、想像しているから。

 

そんな清水を見た火神は また笑った。

 

「清水先輩から、激励(それ)を貰ったら……きっと皆、感涙大号泣ですよ? うん絶対間違いないです」

「いや、流石にそれは………」

「いやいや、ぜーーったいですって。何なら賭けても良いです。間違いなく、澤村さんを筆頭に、大絶賛&大号泣です。田中さんや西谷さん達は逆に静かになっちゃいそうですね。嬉しすぎて」

「…………」

 

火神が言う賭けが成立するのであれば、これはある意味では少々卑怯な賭けだ。

云わば結果をもう知った上での賭けているのだから。火神は 見返り等は求めてない様だが。

 

「そう。……なら、乗ってみようかな?」

「え?」

「その賭け」

 

まさかの清水の乗り気に、少し面食らう火神。此処まで来たら、ちょっと罪悪感。

何せ答えを知っている身だから。

 

「(い、いやでも……、普段の清水先輩に対する皆の扱いのモロモロを見てみれば、大体予想は付く筈だと思うんだけど……、清水先輩、頭良いし)」

 

聡明な清水。いつも田中やら西谷にばかり纏わりつかれてるが、例え心底興味なくても、自分自身がどんな立ち位置に立っちゃってるかは、大体わかってる筈だろう、と思う。廊下で話せば同級生たちには羨望の眼差し、上級生の先輩方からは、嫉妬の嵐。……火神としては、困ってる分類に入るのだけど……、それは兎も角、それに気づいていないとか、どんだけ鈍感か! 小説等でよくあるモテモテ主人公か! と思ってしまったりする。

 

「皆大絶賛……は、まぁ、その……、嬉しいから外して……、大号泣? の部分。流石に無いんじゃないかな、って思うから」

「あ、ははは……。オレは絶対あり得そうですけどね。うん。良いですよ。負けたら何でも言う事聞きましょう!」

「ん。なら火神が勝ったら……そうね。田中達から何回か助けても、良いかも」

「!! それは嬉しいですね!」

 

火神は目を輝かせた。

最初こそは何もかもが楽しい楽しい! だったんだが、そろそろ色々と疲れが見え始めてきているので、加減をしてもらいたい、と思っていた所なのだ。

 

ちょっぴり卑怯な気がするけど―――大丈夫でしょう、と無理矢理に自分を納得させる火神。

 

それに、夫々が賭けに勝った後の相手にやらせる事を言うのではなく、負けた時の自分がやる条件を出してるんだから、別にダメージがあったり、嫌な事が起きたりはしない筈だ。清水にとって田中や西谷を止めるのなんて、朝飯前の筈だろうから。

 

「……IH予選の前日。体育館でお披露目する。それまでしっかりと綺麗にしておくから。この事は秘密で」

「了解です! 是非よろしくお願いします!」

 

 

こうして、大きなイベントである清水大激励シーンに、新たな楽しみが1つ追加された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は元に戻り――現在 第2体育館。

 

 

 

こういう出来事があったからこその、火神の笑顔とVサインであり、清水の照れた苦笑いだ。

未だ静まる事の無い体育館の中で、1年の皆さんも同じく。

 

……あの基本的冷静沈着な(日向や影山案件を除く)月島でさえ、まだまだ混乱困惑の渦中である。

 

 

そんな中で、人知れず ちょっとした別に悪くない賭け事の結果発表が2人の間で交わされた。

 

 

「言った通り、だったデショ?」

 

にこっ、と笑う火神。Vサインを決めながら。

 

それを見た清水は、此処までの笑みを見せる火神も初めて見たかも、と思う。

何だがまた違う幼さが見られる一面を見れて、面白かったり、色々と想う所があったりと…… 考えてる内に、清水は徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。

 

「ええ。……まだちょっとビックリしてる。……と言うより 皆いつ落ち着いてくれるのか心配になってきた。もう時間も時間なのに」

「あ、あははは……ですね。でも最後は烏養コーチが何とかしてくれそうです」

 

 

武田はまだちょっとだけビックリしている。そして呆れてる烏養を視界の中で見た火神は、このままさっさと帰って休息しなければならない時に、まだ騒ぐんならきっと一喝するだろう、と思えた。そして、澤村も主将なんだからいつまでも、このネタで喜びに浸る事はしないだろう、と言うワケで、清水の様な心配は別段そこまでしてなかったりする。

 

そんな火神を横目で見た後、丁度火神の正面に回り込んだ。

 

そして―――次の清水の言葉は、火神にとって想定外。

 

 

「賭けなんだけど、私の勝ちね」

「……へ?」

 

 

 

まだまだ笑ってた筈の火神だったが、それを聞いてぽかんっ、とちょっと放心気味になってしまった。

この状況で、どうして清水の勝ちなのだろうか? と思えたからだ。皆大絶賛している。……と言うより,賭けの対象である大号泣はいまだ健在だ。目の前の光景がその答え。

 

「え、えっと……、ほら、この光景ですよ? 収拾つかない感じ。それに田中さんと西谷さんも、今は騒いでますけど、声になってなかったですよね??」

 

流石の火神も抗議案件! 物言い! と清水に訴える。

しかし、そんな火神の訴えは、笑顔で華麗に躱された。

 

 

「火神は言ったよね? 【きっと皆、感涙大号泣です。絶対間違いないです】って」

「あ、はい。………ぁ」

「気付いた? 今も、……その、さっきも。感涙も号泣もしていない人が何人かいた。……火神(あなた)も含めて、ね?」

 

 

実に、物凄いケアレスミス。

 

「あ……、あ゛ッ!」

 

確かにそうだ。その通りだ。

日向や影山、そして月島、山口。……彼らは泣いてなかった。知っていた筈なのに、すっぽ抜けてしまっていた。……否、違う。清水の激励の件に関して、1年生以外の皆は~ とは何処かで言いたくなかったのかもしれない。

 

【まだ入ったばかりである1年組は、別にそんな風に思わないですよ?】

 

みたいな感じになってしまうと何処かで思ったのかもしれない。……ちょこっと言葉遊びを付け加えれば容易に言い直せる筈なのに。

影山や日向、月島のキャラクターを強調すれば物凄く簡単に。

 

「くわーーー! そうじゃんそうじゃん!! オレ、付け加えとけばよかった!! 注意事項、但し書き忘れてたっっ!」

「ふふ」

 

皆の騒ぎに紛れつつ、周りにはバレない程の声量で 火神は慌てふためいていた。

 

今回のこれは清水は一切間違ってない。

火神のケアレスミス、ポカミス、単純なミス、である。読みに読み込み、穴が開く程見続けた故に生まれ、隙をつかれた! と言う事だ。

 

……そんな大袈裟に言わなくても良いかもしれないが。

 

 

ぐわー、っと頭を抱えてた火神を見て、クスクスと笑うと、清水はまた一歩近づいた。

 

頭の位置が大分下がってるので、清水にとって丁度程よい高さにある頭。

前にもした事がある。……本人は汗で汚い、と言っていたが、清水自身は気にしてないし、寧ろ心地良い感触だ、とも思えていた。初めての感覚。

 

あの時の様に、丁度下がってる頭に手を乗せ、二度三度優しく叩いた後に、さわさわと撫でた。やっぱり心地いい。髪は女の命、と言うが 火神の髪も負けてないかもしれない。男の髪は皆こうなのだろうか? とも思ってしまう。

 

 

そもそも……男の子を撫でるのは初めての経験だったから、火神のしか知らないが。

 

 

「え? ええ???」

「賭けのご褒美はこれで良い。期待してるよ。……注目の大型新人(ルーキー)君」

 

 

火神は色々とついていけず、驚いていたが、振り払ったりはせず、顔をゆっくり上げて清水をみた。

 

清水は笑ってる。……仄かに赤く染まる顔。そして何処となく、悪戯っ子っぽい表情も浮かべていた。

 

 

 

この以前もあった【至高の撫でりこ】騒動また勃発か!? っと一瞬慌てた火神だったが、まだまだ体育館は喧噪に包まれていて、2人のやり取りは見ていなかった。

 

それとなく、皆にバレない位置でやり取りしていて、心底安堵していた火神だったのだが――――――。

 

 

体育館の騒動を聞き、うらやまけしからん! と見ていた外部の何人かの男子の皆さんにはしーーーっかり見られてしまっていた。

 

 

 

なので後日……、瞬く間に広まってしまって疲れる羽目になる火神だった。

 

 

 

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