王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第51話

 

 

翌日 6月2日。

 

全国高等学校総合体育大会 通称――IH(インターハイ)

 

バレーボール競技 宮城県予選――1日目。

 

 

 

 

 

いつもの何気ない朝とはまた違った。

高校最後のIH。

1年、2年と負け続けて、飛べないと呼ばれ続けて、――とうとう3年目。

 

そんな3年生たちが、示し合わせたワケではなく、ただいつもの様に通学路を歩いていて―――意図せず、合流していた。

 

 

「「「あ、オース!」」」

 

 

いつも通り、何気ない朝の挨拶を交わし――そして3人は足並み揃えて集合場所である烏野第2体育館へ。

 

 

「「「…………」」」

 

 

3人とも、何も言わず ただただ前を見て歩いていて――、その均衡を変えようとしたのが東峰。

 

「……なぁ、いよいよ最「「しゃべるな」」!?? はぁ!?」

 

東峰は変えようとしたのだけれど、当然の様に却下された。

それにしても、【喋るな】は結構な暴言の様に聞こえるが、3人にとっては ……否 東峰に対する対応についてはいつも通りな感じともいえる。

 

何せ東峰が考えてる事なんて、澤村や菅原には 大体お見通しなのだから。

 

「お前、今絶対センチメンタルな事言うつもりだっただろ」

「!??」

 

間違いなく、実に的確なご指摘を受けた東峰。

続けて菅原の追い打ち。

 

「【いよいよ最後のIH(インターハイ)だな……】とかなんとか」

「!!?」

 

ぐうの音も出ない、とはこの事である。

東峰の脳裏では、今も思い描いていた場面が何度も再生されているのだから。

 

【いよいよ最後のIH(インターハイ)だな……】

【ああ】

【オレたち色々あったよな、そう、1年の時から―――】

 

と、どんどん止まる事なく―――以下略で再生されるのである。

 

「~~~~っっ」

 

再生されればされるほど、先ほどの一撃の一言が、身体の芯を貫いてくる思いだった。

恥ずかしくて恥ずかしくて顔から火が出る思いだった。指摘され、更に倍増しで。

 

「そういう会話ってのは、なんか死亡フラグっぽいから駄目です」

 

菅原が大きく両腕で、✖ を作って追い打ちの駄目だし。

 

「!? な、なんだよ! いいじゃんか!!」

 

恥ずかしかった東峰だったが、流石に全否定されてはたまらないので、言いたい事を言う。

幾ら恥ずかしくても。

 

「昨日だって最後のIH(インターハイ)を前に、3年で星空を見ながら静かに語らいつつ、士気を高める的な感じになると思ってたらあっさりと帰りやがって!!」

 

確かに、3年の最後の大会―――高校最後の大会―――ともなれば、東峰の様に感傷に浸りたい気持ちも判らなくもない。そのスポーツに賭ける想いが強ければ強い程。

 

でも、それでも東峰の案は却下された。

 

 

「士気は清水のサプライズで120%だろ?」

「……ああ、うん、まぁ、そうだけどさ!」

 

 

ずばっと一刀両断。

そう、皆にとって清水のあの激励以上のモノは存在しないのだ。アレを前にすれば、野郎同士の会話なんて 霞んで消えて消滅、である。

 

※ 因みに、火神と清水のやり取りは、今は皆知りません。後日学校で噂されて知る事になるのである。

 

 

「あのな、アサヒ。オレ達は今日、1回戦も2回戦も勝って2日目に進むんだから。今しんみりした話なんかしなくていいっ!」

「そうそう。かと言って、明日しんみりした話をするわけじゃないからな。明日だって勝つんだから」

「おう。スガの言う通り。目の前の試合、全部まとめて勝つ! ただそれだけ今は考えるんだ!」

 

 

まだまだ複雑だった東峰だったが、最後の澤村の【目の前の試合、全部まとめて勝つ!】にはやはり感銘を受けた。

複雑で、曲げられた? 意気込みはまた戻ってくる。

 

「………おお! そうだな」

「よし。お前にだって頼りにしてんだからな! エース!!」

「! ………お、おお……!!」

 

 

随分と久しぶりな感覚。

エースとして頼られる事。それは試合中では何度も体感した事ではあるが、こうやって言葉にされて澤村に言われるのは、本当に随分久しぶりだった。

日向や田中、西谷からは言われる事が多いのだが、やっぱり同級の澤村からは格別なものがある。

 

……でも、それ以上に感じる事もある。

 

「(……大地が優しいとなんか怖いな、逆に。なんか降るかも? それに、いつもこれだったら、火神も【怖い】って刷り込まれる事なかったんじゃない??)」

「(おいおい……。そんな事言ってると……。いや、でも まぁ、火神に関しては……)」

 

今は 考えなくても良い事を、言わなくても良い事を……菅原に耳打ちする東峰。

勿論、澤村に聞こえない様に努力したのだが、はっきり言って筒抜けだった。

 

主将、澤村の耳をなめてはいけない。

 

前を歩いていた澤村だったが、一瞬耳が動いたかと思えば、くるり、と振り返った。

 

「――じゃあ、厳しくしといた方が良いかな?」

「!!!」

 

澤村は、怒った顔より――無表情な顔の方が怖い。

一瞬でビビらされた東峰。菅原は、しれっ、とささっ、と回避。

 

「……と言うかスガ。昨日言ってた諦めろ(・・・)ってヤツ、火神絡みじゃないだろうな? オレの怒るキャラ的な」

「へ? あー、いやー……その―――……えーっと、その~」

 

しら~~っと何処か遠い目をしてる菅原を見て、澤村は確信。

薄々は感づいていた事ではある、……が、それで諦めていい訳ない。

勝とうとしなきゃ勝てないのと同じ? だ。と澤村は強く大きく決意をもって……。

 

「コッチ向けよスガ!! 最初っからずーっといってるだろ!? オレが怒んのは アサヒ(へなちょこ)だったり、行き過ぎやり過ぎの後輩たちのみ、だ!! なーんで 迷惑はおろか、めちゃくちゃ助けてくれる火神に怒るキャラだと恐れられなきゃならん!?」

「へなちょこって……ヒドイ」

「だまらっしゃい!」

「……ハイ」

 

ふがー! と今日一番の大きな声を出す澤村。

最後のIH、その最初の日、初戦。……3年となり場数を熟してきた。

それでも、やっぱり硬くなってしまう部分は当然ある。

だが、今の澤村は ある意味では良い具合に力が抜けてそうに思える。間接的に言えば火神のおかげだ。

 

 

 

――ありがとう、火神。

 

 

 

菅原はしみじみとそう考えてると。

 

「なんか変に話そらせようと思ってない!?」

 

澤村に図星を突かれた。

 

 

 

 

その後、【お父さんが逆に怒られるって思われるの何か嫌だ!】と澤村は憤慨する。……が、菅原はそれに対して【コツコツ行くしか無いべ】と諭して 締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり……同日同刻 烏野高校 第2体育館。

 

 

一体いつからかは忘れてしまったが、今日も勃発していたのは、早登校対決。

対戦するのは いつもきまって影山と日向の2人。

 

今日は日向がリードしていたのだが……、日向にリードされていると学校に入る直前で知った影山は、鬼のような形相で日向に迫り、ブッ飛ばす勢いで追いぬいた。

 

あまりの鬼気迫る表情、と言うより影山の顔が怖い事もあって、日向は吹き飛ばされてしまったのだが、そこは見事な身体能力。レースに復帰し、影山を追いかける。

 

体力配分を少々見誤った影山は後寸前で追いつかれる所だったのだが、ほんの一歩の差で日向に勝利していた。

 

 

「ゼ――ゼ――― これでっ ハ―っ オレのっ ゴホッ! 31勝30敗1引き分けだっ! ゲェッホオェッ!」

 

息も絶え絶え、せき込む影山。無尽蔵にあるとも思えてしまう影山でも、このデッドヒートはかなりしんどかった様だ。

 

「ぬ、うぐぬ~~……」

 

皆に体力お化け、と称されてる日向も、倒れ込んでいた。

息を整えて、整えて、しっかりと話せる様になった所で 日向は起き上がった。

 

「…………違う」

 

出てきたのは否定の言葉。当然影山は憤慨。

 

「違わねぇ!! オレの逆転だ!!」

 

と。

一体何の勝負だ? と周りから見れば呆れる事だろう。だが、この2人にとってとても重要で曲げれない負けれない、のである。

 

「……オレの30勝……32敗だ」

 

日向の口から発せられたのは、いつもの陽気でお馬鹿な言い方じゃない。いつもの様子からは、想像がしにくい程、重いモノだった。

影山と日向の戦績が違う理由。

そもそも、日向はいつも影山と張る程の負けん気が強く、負けず嫌いな性格なのに、はっきりと影山の戦績を否定するのではなく、自分の方が多く負けてる、と明言した。

 

その理由を話そうとしたその時だった。

 

 

「そうだよな。違う(・・)よな? うんうん。でも、オレに言わせれば翔陽も影山も2人とも揃って違う(・・)んだが」

 

 

そして、その勝負とは大体いつも日向と影山が競い合ってたもの。

60戦を超える戦いをしあったもの。

 

 

 

――だったのだが、今回だけは違った。

 

 

 

部室のある2階。

手摺から顔を出してる男がいた。その男に気付いた影山は思わず唖然とした。

 

「今回に限っては オレの勝ち。オレの1勝1敗だ」

「なっ!! いつの間に来てやがった!?」

「お前らが良い具合にデッドヒートしてたのこっから見てたよ。随分と速いウォーミングアップだな」

 

2階にいたのは火神。いつもよりもずっとずっと早く登校してきていた。

2人をじっと見降ろし、何処か陽気そうにも告げると、速足で1階へ。

 

「そんでもって、もう1つ違うのは翔陽。アレは オレ()の負けなんだからな。オレの(・・・)、じゃなくオレ達の(・・・・)が正解」

「っ……。ああ。そうだ」

「はあ??」

 

影山1人置いてけぼり状態だったので、日向が補足した。

 

「そうだ。せいやも、誠也も一緒だった。……去年の今頃、雪ヶ丘(オレ達)北川第一(お前)に負けたんだから。……1つもセットを取れなかった。あの時の事、今でもはっきり覚えてる」

 

日向は、起き上がると丁度火神の隣に立つ。

あの時の、あの別の学校同士の構図の様に。

 

 

「お前がコートに君臨する【王様】なんだったら、俺が、いつか絶対に倒してやる!! 俺が、コートに一番長く立ってやる……! もう、あんな風には絶対に言わせない!! 俺だって、強くなってやる!」

 

 

日向の言う通り。はっきりと覚えていた。

あの中学最後の公式戦で影山に言っていた事。

火神はあの日、助っ人に来てくれていた2人にお礼を言っていたので少し遅れたが、火神自身もはっきりと覚えている。

 

「オレ、あの時もオレが(・・・)って言ってたな。……あん時もオレ間違ってた!」

 

日向はそういうと、火神の腰辺りをバシッ! と叩きながら胸を張って答えた。

 

「お前を倒すのは、絶対オレ()!! 烏野じゃそれだけは出来ないから、高校じゃなくても、10年、20年後先に、オレ達が!」

 

日向はそういうとまるで背伸びでもしているかの様に、大きく身を翻し、胸を張った。

火神はただただ苦笑い。叩かれた自分の腰は痛いし、……重い(・・)ものだった。十分すぎる程、伝わってきた。

 

 

それを正面から受け止めるのは影山。まだ、火神は何にも言ってないのに、言おうとする前に影山が口を開いた。

 

「……てことは、この先、お前らはオレと同じ舞台に居るって事だな?」

「! おーよ!!」

「ははっ」

「って コラ!! 笑ってないで、せいやも言うの! ずっと一緒なの!!」

 

にっ、と笑顔で笑う火神の姿を見て、日向はちょっとした悪夢? を思い出していた。

 

ここ、烏野高校に来たと言うのに、バレーをやらないかも? な選択肢を残した火神。あの時の衝撃は今でも忘れられないようだから。まぁ……どんだけ!? って思うのが正直な所ではある、が かけがえのない仲間だから、共に目指したい、戦いたい、と思うのは仕方ないのだろう。その通りだ、きっと…………。

 

「火神がオレと同じ舞台まで来るのは、余裕な事で当たり前な事でもあるんだよボゲ。てめーの実力の方を心配してやがれ」

「ふぐっっ!! お、オレだってよゆーだ!! お前と同じトコくらい!!」

「おおぅ……、影山自身(自分)の事じゃないのに すげー自信。他人に此処までデカい事言われるのは初めてかもだ……」

 

影山は影山で、最早 決定事項にしちゃっている。

以前、火神が烏野に来た時 バレーに入らない~的な話をして、結局は目の前に火神は居るのに、バレー部に入ってるのに、1人で大騒ぎしていた影山。

 

影山も日向に負けずと劣らないちょっとした火神依存症だったりするかもしれない。

 

 

「オレらが居るであろう場所は、日本のてっぺん(・・・・・・・)。いや……世界(・・)だ! それでも居るって言えるのか?」

 

 

影山の未来はとてつもなく大きい様だ。

日向も、世界! と聞かされて 思わず地球を頭の中に描いていた。

あまりにも大き過ぎて大き過ぎて、バレーをやり始めた切っ掛けでもある【小さな巨人】が霞んでしまいそうだった。

 

それでも、怯むと言う言葉は知らない。

 

「セカイかぁ……、でっかく出たな~? 影山」

「たりめーだ。……お前もそんくらい、余裕で来るだろ?」

「《にやぁっ!》 って 良い笑みで見られても困るけど。ってか笑みが怖いし」

「あ゛あ゛!! 誰が怖いだコラ!!」

 

笑みが崩れて怒りの顔になる影山。

どっちも怖い、と言うのが結論である。置いてけぼりになりそうだった日向は、ぴょんぴょん跳びながら2人の間に割って入ってきた。

 

「あ、当たり前だろ!! オレだって、セカイくらい、よ、よゆーだ!! せ~かいは、せ~~まい~~…… だ!!」

 

置いてけぼりにされるのが嫌で強引に、それでいて駄々っ子の様に入ってくる日向。

そんな状態だと言うのに、日向の跳躍力に関しては舌を巻く。助走も無くただ割って入ってくるだけなのに、メチャクチャ跳んでいる。

 

その辺りは、影山も理解しているのだろう。今回に関しては【ヘタクソの癖に!】とか【てめぇじゃ無理だボゲ!】とかは言っていなかった。

 

そう言っていない その代わり―――。

 

 

「あと オレは【王様】じゃねぇ!」

 

 

今更ながら、最初の方に言われた王様(暴言)に怒り、日向の頭を鷲掴みにして握り上げた。ミリミリミリ……と悲鳴を上げる日向の頭部。ブチブチブチ~ と脱出する毛根たち。

 

「ギャアア!! わかってるよ!! わかってるってば!! ハゲるハゲる!!」

 

色々と喧しかったが、良い具合に試合当日の緊張感が解れたのを一応確認出来た所で、火神は2人に言う。

 

「はいはい。とりあえず、壮大な未来(さき)の話は今日は此処までにして、現在(いま)の話をしような? 烏養さんも言ってただろ??」

 

まずは、目の前の1戦1戦。

伊達工や青葉城西、果てに王者 白鳥沢の話までする前に――今日の初戦の相手に集中。油断しない様に、だ。

 

うっ、と今思い出したかの様に、ばつが悪そうにしてる影山と日向。

 

そんな時だ。

 

 

「お~~~、流石は火神(お父さん)! しっかりしてるね~。2人とも、ちゃんと背中見て育てよ? それに世界は狭くない狭くない。でっかいから」

 

 

ぞろぞろ、と笑顔でやって来たのは3年生たち3人。

 

「そのでっかい所に行く前に、まずはこの日本の、東北6県の、更にその中の1県の予選の1回戦。ちゃんと勝たないと話にならないよな~~?」

【はざまーす!】

 

 

とりあえず朝のご挨拶。

火神に関しては、もうツッコミは入れなくなっていた。

 

「お前らには期待してるからな! 変人コンビとそのおとーさん!」

「「!! オス!!」」

「一応、変人の枠に入れなかった事には感謝します……」

 

 

火神は、何も日向や影山だけじゃない。月島だっているし、果ては田中やら西谷やらの後フォロー(主に清水関係)があるので、変人の中に一括りにされてる余裕は無かったりするのだ。

 

と言うより、日向と影山の2人だけを集中して見れるのなら、その方が何倍か精神的負担が軽くなる気もするのだ。……2人がかなりのウエイトをしめてるから、一概には言えないかもしれないが。

 

「おお、ってか、火神はもう認めたんだな? お父さん(あれ)

「認めたっていうか……、色々とツッコミ入れるにもカロリー使うのが解って……ですかね? 今日は試合ですし、なるべく カロリー消費を抑える様にしてるだけです……」

「はははは! 流石だな~~。まさに【完全無欠】! だから前買ったあの文字T、次は完全無欠にするべ! う~~ん、でも 一騎当千も捨てがたい!」

「スガさん笑いすぎです……、後流石に そんな大仰な言い方しないで貰いたいです……。余計に絡んできそうなので」

 

どよよん、としてる火神の肩をばんばん叩く菅原。

 

良い具合に力が抜けた気もするが、余計に肩が重くなった気もする火神だった。

 

 

 

 

 

そして、集合時間となった。

全員遅れず出てきたのを確認すると、武田の号令で、皆でバスに乗り込む。

 

勿論、バスに乗る前に忘れ物が無い事の確認は重要だ。

 

そして――もう1つ重要なのが……。

 

 

「日向!! 今日はバッチリだからな! この間のよりデケーの持ってきてやったぞ! これなら、零さないだろ? 存分に出したまえよ!」

「………ぅぅ」

「流石田中さん! あの時は大変でしたからね……」

「………はぅぅ」

「うははは!」

 

 

エチケット袋―――ゲ〇袋である。

前科がある日向。

この間は袋を傾けたから、盛大に田中にかかってしまったのだが、正直、あの袋の大きさは心許なかったのも事実。田中が持参してくれたゲ〇袋は、家庭用で使うゴミ袋サイズ。これなら間違いなく大丈夫だろう。吐く位置を間違えさえしなければ。

※別にフラグではないのであしからず。

 

 

それにしても態々持参してでも持ってきてくれるとは、やっぱり器が大きな人だ、田中さん、と改めて火神は思うのだった。

 

 

――後々に、清水至高の撫でりこの噂を再度聞いた時、また大変になるのも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――会場へと到着。

舞台は 仙台市体育館。宮城県予選のA・B区画(ブロック)及び決勝戦の試合会場。

 

 

「烏野ってどんな奴らかなぁ~~ あんまりデカいの居ないと良いなぁ~~」

「大丈夫だって! 最近は大したことないって話じゃん!」

 

 

当然、初戦の相手 常波高校の選手達も到着していて、今日の試合に期待と不安を胸に抱かせていた。初戦初勝利! がかかる重要な初戦。相手は昨今目立った戦績を残せていない烏野高校。故に期待感の方が多く、士気も高そうだった。

 

ただ、自分達の試合よりも、他のチームの話題も出ている。

 

「もう白鳥沢のひとり勝ちだろうなぁ!」

「いやいや、今年は青葉城西がヤバイらしいよ! なんせ及川が3年になってから頭1つ抜けてるって話だし、他の1年の伸びがスゲーんだってさ青城!」

「いやいや、つっても伊達工のブロックには勝てないんじゃないの? ……なんでこの区画(ブロック)にその二校が居るんだよ。マジカンベンだわ……」

 

 

話題に上がるのはやはり優勝候補である高校の話。

 

王者 白鳥沢を中心に、彼らの対抗馬となるのは何処なのか、と話題と議論が尽きない。青葉城西や伊達工も番狂わせ、と思われるような戦力ではない。十分に対抗馬だ。去年敗れた高校ではある、が、決してぼろ負けだったというワケでは無いのだから。

 

 

そして、次に話題に上がるのは、その優勝候補である青葉城西、伊達工業の2校が集っている区画(ブロック)――Aの話。

 

 

「えーっと、あとの高校は……っと、このトリ……、鳥野(とりの)?」

「似てるけど漢字が違う。これは烏。烏野(カラスノ)

「へー、ってか烏野? 知ってる?」

「前まで強かったトコじゃん。前までは(・・・・)、だけど」

「あ、知ってる知ってる。今はパッとしないんだよな~」

「つか、それ以上にダッサい異名がついてんだよね」

 

 

強豪校の名前が飛び交う会話だった筈なのに、いつの間にか烏野高校の話題に変わってしまっていた。自分達よりも下である、所を見下したいのだろう。どうせ、さっきまで話題に上がっていた高校には負けるから、せめて勝てる所に、と。……随分後ろ向きな気もするが、そこはそこ、ウチはウチ、である。

 

 

そして……散々言われ放題な烏野高校がもう直ぐ後ろにまで迫っているというのに、暴言? も止まず続けていた。

 

 

「へー。どんな異名?」

「えっと確か―――【堕ちた強豪! 飛べないカラス!】」

 

 

最後まで言われた所で、丁度良いタイミングで後ろを振り向く大岬高校のバレー部の皆さん。

 

「(お、おいっ!ちょっ……やばい!)」

「え? ………あ」

 

――気付いた時にはもう遅かった。

最近の戦績は確かに思わしくないのは事実、ではあるが、彼らが纏う雰囲気のソレは決して弱小の類では無かった。

田中や東峰を筆頭に、あの眼で見られたら……、耐性が無い? 者にはたまったもんじゃない。

 

 

「へぇ~…… 飛べない?? 飛べない何ですって?? んん??」

「っっ!??」

 

 

東峰に次ぐ、No.2の強面である田中が迫る迫るアグレッシブ。ボーズ頭と言うのが更に迫力に拍車をかけてしまっていて、普通?に接しているだけで最早勝負あり、である。

 

でも、我々は高校生のバレーボーラー。

 

勝敗は試合で、と言うのが当然であり、当たり前。場外乱闘みたいなものは当然ながら認めていない。

 

 

「コラ! 行くぞ! ……どうもスミマセン」

「っっ!! あ、あの、その……いえ……」

 

 

澤村が田中を抑える。

謝っているが、澤村が身に纏っているオーラは、田中のそれとは何ら遜色ない。寧ろ、種類が少々違うが、田中よりも遥かに強大だ。

3年生たちは、皆よりも長く、その烏野の異名を聞き続けてきた。……誰よりも想いが強い。それが主将としてチームを率いている澤村だ。

 

「すぐにからまない! 行くぞ!」

「は、はい……」

 

さしもの田中も、澤村に言われては無理。

借りてきたネコの様に大人しくなった。

 

そんな澤村の姿を見たのは、常波高校の池尻。あまりの雰囲気に話しかけるタイミングを見失ってしまっていた。

もう数年ぶりの再会……だったのだが。

 

 

 

その烏野の登場は、周囲を騒然とさせる。

 

あの異名があり、戦績が乏しい筈なのに、話題沸騰になっていた。

勿論、田中や東峰と言った様に、ガラ悪そう、と言う原因が1つ。

そして 火神、影山、月島と言った様に180台の選手が揃っていると言う単純な体格差の威圧感と言うのが1つ。

 

そして、何よりも1番の原因が――東峰だった。

 

 

 

誰かが、彼の名を、【烏野のアズマネ】と言う名を口にした途端に場の空気が変わった。

 

勿論、全員が知ってる訳ではない、が伝達されるのはあまりに凶悪な事案。

 

曰く。

 

□ 北高の生徒を自らの手下を使ってぼこぼこにした。

【おら、お前らもやれよ】

【ひぃ!!】

 

 

曰く。

 

□路上で何かアブナイヤバイ物を売りつけようとしていた。

【5万で良いよ? 払えるだろ?】

【っ、っっ……!!】

 

 

とだ。

 

勿論、そんな事してたら、バレーとかの話ではない。あっという間に退学になっちゃうものばかりだ。

なので、真相をここで紹介すると……。

 

1つ目。

街で歩いてると他校の生徒たちの喧嘩を目撃。

 

【けんかだっ! けいさつ!! けいさつ呼びましょう!!】

 

慌てて止めようと警察を呼んだ。

 

2つ目。

 

前を歩いていた女性がハンカチを落としたので……。

 

【すみません。これ、落としましたよ?】

【っっ!! あ、す、スイマセン……】

 

 

 

 

これらが真相である。

その人相も相余って 噂は面白い様に広がり――最早止められなくなってしまっているのだ。

 

最近では【5年留年している】と言う噂まで広まっているとか。

一応、高校の大会には年齢制限の様なものも設けられているので、その時点で出場不可なのだが……、あまり噂と言うものを真剣に考えている者は少ないので、これまた広まってしまっている。

 

本人は……。

 

「っ~~~~~」

 

ガラスハートのピチピチ17歳なのに。

 

「まぁまぁ、いつもの事じゃん」

「見た目がそんなんだからだろ?」

 

なかなか、フォローになってないフォローをしてくれる同級生、同期の桜たち。

 

「ヒドイ!! お、オレはほら! なんかこう、外見からでもワイルドな感じになりたいと思って……!!」

「「口に出しちゃう時点で、ワイルドじゃないもん。そういう事」」

「~~~っっ!」

 

ぐうの音も出ないとはこの事であり、全て図星、自覚している事でもあるので、東峰は何も言い返せない。

 

「別にいいじゃないスか! どうみられるかなんて! 自分で格好いいと思ってれば!!」

 

そこににゅっ、と入ってくるのは、自他ともに認める1番格好いい2年生 西谷である。

 

「「こういうのをワイルドと言う!」」

「??」

「…………」

 

西谷を前に出されてしまったら、元々言い返せてなかったが、最後の気力さえも奪われてしまった様だ。

 

「何なら、お父さん呼ぶ?」

 

此処で菅原が保護者召喚を提案。

 

「ヤメテ!! 子供みたいに言うのヤメテ! それに幾ら 愛称お父さんでも1年に、そんなの話すの嫌!!」

 

なけなしのプライドを持って、東峰は火神召喚を拒否したのだった。

勿論――こんな傍で話しているので、火神には筒抜けだが。

 

 

そんな西谷も注目の的だったりする。

 

何せ、西谷は千鳥山中学と言う中学バレーの名門出身であり、中総体でベストリベロ賞を獲得した程の逸材だから。

 

でも、それ以上に注目されてしまうのは次の事情。

忘れてはならないのが烏野のアイドル清水潔子の存在があってこそだ。

彼女は、東峰たちとは別の意味で注目を集めていた。

 

「(うおー、かわいい!)」

「(声かけてみよっかな??)」

 

そう、体育会系男子たちにとっては、あまりの美しさ。高嶺の花っぽくて手が出ない者も居れば、出そうとする者も居る。

そんなの絶対許さないのが、田中&西谷。

 

清水の周囲をぐるぐる回りながら、シャーー! や ガルルルル! と唸り声をあげて威嚇していた。カラスなのに、犬なのか猫なのか……。

 

中総体リベロ賞! 千鳥山!! のインパクトより、清水親衛隊! みたいな立ち位置で目立ってしまっていた。勿論、本人も望むところなので、盛大に大きく、人間離れしたフットワークで清水を隠そう隠そうとブロックし続ける。

 

 

勿論、直ぐに清水に【止めなさい】と怒られ頭を叩かれ止められた。

 

だが、それは2人にとっては極上のご褒美である。

 

 

「「潔子さんに、はたかれた……! 今日もがんばれる……!」」

 

 

うっとりしている表情を見たら特に解る。

 

そんな中、西谷は びしっ!! と火神の方を指さして。

 

 

「わはははは!! どーだどーだ!! 誠也ぁぁぁ! これが潔子さんの【至高の頭叩き】だ!! 地上の楽園の1つだぁぁ!! 良~~いだろぉぉ??」

「そーだそーだ!! かぁぁがぁぁぁみぃぃぃ!!! オレ達はまたワンランク上に行ったのだ! 潔子さんの【至高の頭叩き】によって!!」

 

 

更に続けて、良いだろ良いだろ?? と田中と一緒に大きな声で。

 

突然の事だったので、火神もびくっ!! とビックリして振り返ってみた。

西谷が 何だか艶々させていたのと、肩たたきならぬ、頭叩き発言を聞いたので 清水が叩いたのだろう、と言う事は容易に想像がつく。

 

「いや、頭叩かれるのはちょっと……。それに頭って。肩たたきじゃあるまいし……」

「なにおう! 潔子さんの手は全てに勝る快感があるのだ! 何処叩かれても昇天なのだ!!」

「いや か、快感は止めません?? ちょっと卑猥ですよ」

「フル無視されるより……やっぱ叩かれた方が……良い! きもち、良い……」

「ちょ、ちょっと田中さん、何処行くんですか!? 戻ってきてください!」

 

あまりにも清水限定のド〇状態な2人を見て、判ってはいてもちょっと呆れてしまうのが止められなかった。……実をいうと、火神自身も清水絡みで沢山絡まれたり、お父さんお父さんと呼ばれたり、面倒極まりない1年生たちを見なければいけなかったりして、物凄く大変なのだが………やっぱり、色々と好き過ぎるので、2人の気持ちが解るかも……と思ってしまい、また頭を抱える。そんな性癖は無いつもりだから。

 

頭を抱える火神を見て、何故か勝ち誇る西谷&田中。

それは別に良いのだが、清水と目が合った時、右手を前に出して左右にに揺らし――まるで、頭を撫でる様な仕草をした。朗らかな笑顔で。

 

 

【また頭、撫でてあげようか?】

 

 

と言っている様に見える。

確かに頭を撫でられる――と言うのはちょっぴり癖になっちゃいそうな火神だった。それが清水と言う美女相手なら尚更。火神だって男の子なので。他の1年メンバーは際物揃いで一緒にされそうかもだけれど、思春期な感性はしっかりと持ち得ている。

 

だが、今は駄目だろう。

 

清水は、周囲にバレないくらいには気を使ってくれているが、流石に目の前にいる肉食獣たちの傍で餌を放り込むような事はしてほしくない。

だから

 

 

【勘弁してください……】

 

 

と、火神は頭に思い浮かべつつ……ふるふると首を左右に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――忘れてはならないのがもう1人いる。

 

 

 

それは、新たな小さな巨人の日向!! ……ではなく。

 

 

「……おい、アレって、アレ……だろ? 天才セッターって噂の――――」

 

注目を集めるのはもう1人。

1年生ながら威圧感、身に纏うオーラは2,3年生にも負けていない男。

 

 

「北川第一の【コート上の王様】……!?」

 

 

ざわつく周囲。

あまりにもラインナップが凄いのだ。少なくとも1回戦で話が出る様な相手じゃない、とも思えてしまった。

勿論、その後 【王様】と言うワードが一番嫌いな影山は、更に形相が増して悪くなるのだった。……月島はその横で笑っていた。

 

 

 

「うー、なんかさ。オレらの事なんも噂されないのって、悔しくね? 【王様を追い詰めた超新星! 雪ヶ丘中の!!】みたいな!」

「んん?? 翔陽なんだ? 周囲の声耳に入ってたの?? てっきり、体育館に感動してるんだって思ってた。ほら、エアーサロンパス~ってヤツ」

 

 

ヤバイ奴、アズマネ! 千鳥山の西谷!! コート上の王様 影山!!!

 

 

と、色々と注目を集められていた烏野。確かに日向はまだまだ小心者だし、注目されると冷や汗が出てしまいそうだが、こうも無視? みたいにされるのは悔しいらしい。

 

「ぶー! それは思ってますけど! エアーサロンパスのにおいっ! さっきからめっちゃしますけれども!」

「まぁ、そりゃね。周囲が見れる様になってんなら、及第点かもな? 良い具合に緊張抜けて」

「緊張忘れようとしてるだけです!! 思い出させちゃ駄目です せいやくん!!」

 

と、日向は冷や汗を搔きだした。

どうやら、火神はある意味地雷を踏んでしまったらしい。折角良い具合に忘れていた緊張を呼び戻してしまったのだから。

―――否。まだ試合まで時間はあるので、それまでに何とかしよう、と心に決めてもいた。

 

 

 

 

「エアーサロンパスって何言ってんだオマエ」

 

そして、その後やって来たのが影山。どうやら、日向の王様や緊張云々については聞いていなかった様だ。周囲の王様発言&月島の笑い声の方が先に起こっていたので 気を取られていたからだろう。

 

「何って、このニオイって大会って感じすんだよ! わかんねーか??」

「翔陽はこの匂いにも憧れてたもんな? 1階コートで嗅げれば大会に出場! って事だし」

「うんうん。……ふつーに保健室とかでしてもらうヤツとはわけが違った!!」

「…………」

 

何とも言えない表情になる影山。

何かツッコミを入れようとしたのだが、日向のバレー事情についてはある程度聞いているのと、火神自身が勘弁してやって、的な表情をしていたのと、そして何より――。

 

 

「(うわっ、こっちからも来た!)」

「(ゲッ! でっかっっ!)」

 

 

もう1チームが現れた事により、日向に構っていられなくなった。

 

 

「伊達工業だ……!」

 

 

 

威圧感は、烏野のそれと何ら遜色ない。不敵な笑みを浮かべてる所を見ても、東峰の強面程度なら鼻で笑って躱せる程の胆力が有りそうだ。

 

そして、何よりも先頭に立つ大柄な男――青根(あおね) 高信(たかのぶ)の存在が最も大きいだろう。

 

「(う、うわ…… 眉毛が、無い!? こえぇぇ……!!)」

 

眉毛が全くない、と言うワケではないのだが……、それでもその強面は東峰とはまた違った種類のモノだ。背丈も体格も、この場に居る誰よりも大きい。

 

 

青根は、ゆっくりと人差し指を持ち上げて、 ……その先を東峰に向けた。

 

「あ? なんだ てめー」

 

その無礼極まりない振舞に、西谷が突っかかるが、それを東峰が右手で押さえて制する。

人差し指を向けられた時は、一体何事!? と思ったが、意図が大体わかった。そして、西谷が前に出そうになった事も拍車をかけた。

 

 

決して視線を逸らさず、動かず……、受けて立つ構え。

 

 

全く微動だにしない漢2人。

 

一瞬、周囲のざわつきも消え去り――静寂に包まれたその時だ。

 

「ちょいちょいちょい! やめっ!! やめなさい!!!」

 

流石に伊達工側の主将 茂庭(もにわ) (かなめ)が止めに入った。

間違いなく、自分達が失礼極まりない事をしているからだ。

 

「すみませんすみません!! おい、二口!! お前も手伝えっ!!」

「は~~~~い」

 

 

青根の直ぐ横に居た男 二口(ふたくち) 堅治(けんじ)も加わる。何処となくチャラチャラしていて、飄々ともしている仕草は、及川に通じる物を感じられた。

 

「すみませ~~ん。コイツ、エースだってわかると、【ロックオン】する癖があって……。だから――今回も(・・・)覚悟しといてくださいね」

 

 

宣戦布告を仕掛けてきたのは伊達工からだった。

 

以前、2-0で負けた時の事を思い返してしまう烏野。完全に止められた記憶はまだ新しい。

 

1回戦の事を軽んじているワケではない、がそれでも今年3月の一戦の事がどうしても頭から離れない。――雪辱を果たす為に、と思わずにはいられなかった。

 

 

……と、東峰の心境を色々と推理した後に、菅原が東峰の肩を叩いた。

 

「旭! よく目え逸らさなかったな! 見直した―――っっ!!?」

 

 

数秒間のタイムラグ後。

東峰は、蛇口を捻ったのか? とも思える程の勢いで、冷や汗をだらだら流していた。

 

「きっ、緊張した―――、や、やばかった……」

 

どうやら、立ってるのもやっと、と言った具合にはヤられていたようだった。

 

 

「なんでコートの外だとそんなに弱いんですか! アサヒさん!」

「ノヤっさん! オブラート! オブラート覚えて!!」

 

 

 

最初から最後まで目を逸らさず、受け止め続けたのは立派。最後の最後まで覚悟をしっかり決めた立派な表情……、と思っていたのだが、やっぱり東峰は東峰だ、と澤村は苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――伊達工側。

 

「ったくお前らはほんとにもーーっ! 二口ももっと早く止めろよ!」

「えー、だって。センセンフコクってヤツは大事っスよ。前見たく、ボコボコ止めちゃうぞ! ってやってたら、妙に力入ってミスも狙えるかもしれないじゃないスかー」

「幾ら何でも性格悪過ぎだろ」

 

青根の行為は正直褒められたものじゃない、が。それでも闘志をむき出しにするという面においては見習う点もあるにはある。TPOを弁えろ! と常に言いたくはなるが。

 

「……でもまあ、向こうにも変なヤツ(・・・・)、居ましたけどね。最初に顔合わせ出来てよかったかも、っス」

「…………」

 

二口がそういうと、無口な青根は、言葉には出さず少しだけ頷いた。

 

「はぁ? 何言ってるんだ?」

「アレ? 気が付かなかったス?」

 

二口は、駄目っスね~~ と言わんばかりな態度。

やっぱり

 

【イラっ!! と来る生意気な後輩だ!】

 

と何人か思っているが、二口の言う事はウザいが的を射ている事が多いので、話の内容に注目した。

 

 

「1人だけ居たじゃないスか。……青根(コイツ)見て……と言うか、伊達工(オレたち)見て ず~~っと笑ってたヤツが」

 

 

 

伊達工。

その名は先ほど周囲がざわついたのを見た通り、かなり有名な高校だ。

烏養が言った様に、以前はベスト16で姿を消したが、相手が王者白鳥沢だったからこそであり、4強入りしていても何ら不思議じゃない実力を備えている。

選手達もそれは自覚しているし、打倒白鳥沢に燃えている。

 

そんなチームの醸し出している強者が持つような威圧感(オーラ)は、決して半端ではないだろう。

 

それが証拠に、あの場で注目を集めた時は、大体の選手達が圧されていた。先頭に立つ190を超える強面 青根が居たから、効果も倍増しだと言える。

 

そして烏野高校。

 

彼らは 屈したり、決して場の雰囲気だけに気圧されたり、負けたりする事は無かった。

負けじとにらみ返してきたり、表情を強張らせたりとしてきた。それが言わば普通の事だ。以前負けたから、今度こそ、と。

 

 

そんな中で、たった1人だけ――異質な雰囲気を纏った者が居たのだ。

 

 

言わば作りモノではない。

自然に、極自然に出る笑顔の者が。

 

 

「…………キモチワルイっス」

 

 

青根は何ら表情は変わらない。

だが、何かを感じ取ったのか、二口は今の今まで飄々としていたのに、表情を顰めるのだった。

 


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