王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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IH予選編
第52話 常波戦①


高総体バレーボール宮城県予選 第1試合――開始直前。

 

 

 

「くっそ……、またアイツ呑まれてやがる。……日向の緊張を早いことなんとかしないと」

「翔陽は 場数もまだまだだから、高校初の公式戦って事もあって、ああなっちゃうのは仕方ないって言うか……。でも寧ろ、前よりは良くなってるって思うけどね」

「いや アレでかよ!? アレで良くなってんのかよ!!」

 

 

先ほどの伊達工との一連のやり取り後、特に顕著に日向の身体は小刻みに揺れていた。

本人は 武者震いだ! との事だったが、どこからどう見ても普通に震えているだけ。

否定すればするほど、ドツボに嵌っていってるので、直ぐに全開となるのは難しそうだ。

 

因みに、影山若しくは月島以外のメンバーがこの会話のやり取りをしていたとしたら……。

 

【場数まだまだって、日向と火神(おまえ)一緒じゃん!! 同中、同級じゃん!!】

 

と、声には出さないが心の中でツッコミ満載だった事だろう。

当然の事ながら 影山はちっとも疑問に思ってないので、そのまま自然な流れで会話が成立しているのである。影山とは違った意味ではあるが、月島も言わずもがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、また景気よく影山の後頭部にボール当てたら、通常運転に直ぐなれるかもだけど。あの時(・・・)みたいに」

 

火神が思い返すシーンは、やっぱり青葉城西との練習試合での一幕だ。

 

日向は、あの時もガチガチに緊張していた為、それを解す為にも最初の一球、最初のサーブは景気よく思いっきり打つ、アウトでも良いから思いっきり、とアドバイスした結果……、盛大に影山の後頭部強打と言う結果に終わった。

 

 

 

あの後―――日向がどうなったのかは、此処で言うまでもない。(第23話 青葉城西戦②より)

 

 

 

「……次アレ(・・)やったら、ブットバス!! いや、思い出したぞ! 今後一切する必要ないっつって言った筈だ!!」

言った(・・・)じゃなくて、言わせた(・・・・)が正しいと思うぞ……? あん時の影山は最早ホラーだったし……。影山に ぎゃふんっ! って言わせるのはオレも良いって思ってるけど、流石に物理的に言わせるのはなー」

「うっせぇ!! だから、どんな時だろーが んな事言ってねぇ!!」

 

一番手っ取り早い荒療治、と提案してみたが、影山が許すはずもなく、寧ろ あの時もう二度と緊張する必要ない、と伝え、それに頷いてたから 次はヤキを入れると影山は再燃しだしてしまった。

 

 

 

因みに、日向はと言うと―――。

 

 

 

「………………」

 

 

 

丁度、影山の後ろに居て聞いていた。

 

後ろに居て、火神と影山のやり取りを聞いてしまっていた。

耳に入ってしまっていた。

そして、強制的に記憶の蓋が開いて、思い出してしまった。

 

 

―――あの時の恐怖を……。

 

 

 

一瞬、ぶわっ! と冷や汗が出たが 直ぐに止まって 今度は放心。

 

「おいコラ日向!! ちょっとこっち向……ん??」

「穏便にな? 穏便に………って あれ?」

 

腕捲って日向に迫ろうとしたのは影山。

それとなくフォローに回ろうとしたのが火神。

2人揃って日向の顔を見た。見たと同時に、頭に浮かぶのは疑問符。ついさっきまでは生まれたての小鹿の様に震えてたのに、顔面蒼白で直立不動になっていた。

 

 

 

「あっ、お2人さん。……ボクはもう大丈夫です。だいじょうぶです。ダイジョウブデス」

 

 

 

宛ら菩薩の様な面持ち。

遠く、遠くを見つめてる様な焦点のあってない瞳。

 

「(あ……、翔陽 さっきのやり取り 聞いてたかな?)」

 

この様子を見て大体察する火神。ちらっ、と右側の方を見てみると、東峰が居た。

 

「あー……日向? オレなりに 緊張を紛らわすコツがあるんだけど……、もういらんかな?」

「ハイ。ダイジョウブ デス」

「だ、大丈夫なのか? 何か壊れたロボットみたいになってんぞ???」

 

東峰がとっておきの対策を披露するまでも無かった。

 

「因みに、東峰さんの対処法(コツ)って、どんな感じなんですか? 今後のご参考までに聞いてみたいです」

「うん?」

 

そこで、火神は東峰に対策法を聞いてみた。

それは、考えてる通りなのかどうか……を確かめる為だけのちょっとした出来心だったりする。

 

「ああ、オレは今までに最凶に恐かったことを思い出す、かなぁ。だって、それが恐ければ恐い程、【これから起こる事がそれより恐い筈がない! 平気!!】ってなるだろ? ……日向は もう何か(・・)恐い事 思い出してるみたいだけど」

 

東峰は、日向の表情、そして小刻みに震えていて、心なしか冷や汗も出てる様子を見て そう結論。大正解。

そして、東峰のコツを聞いて ふんふん、と頷く火神。

やっぱりな、と思わずにはいられなかった。

 

「と言うか、火神って緊張とかするのか? とても日向と同じには見えないって言うか、そもそもが大物感満載、って感じだから、 どんな時でも緊張する姿なんて全く想像出来ないんだけど……」

「………東峰さん。大物は、ちょっと言い過ぎですって。だってオレは 今んところ、成績とか残せてませんし。……あ、あとオレだって人並みにしますよ? でも、バレーに関しては 緊張より 今を思う存分楽しみたい、って言うのが勝ってるみたいなので」

「……大物だよ。いや、十分過ぎ。その境地は大物のそれ。絶対」

 

 

火神の緊張しない為のコツ。

 

 

【バレーを思う存分楽しむ】

 

 

との事だった。

確かにそれが出来るのなら、一番の理想だろう。……簡単に出来たら苦労はしない。

 

東峰は、以前色々とトラブルがあったが、当然バレーは好きだ。……好きなんだけれど。

 

 

「絶対 火神の真似はできないよなぁ……。はぁ……」

 

 

とため息を大きく吐くのだった。

それを横で聞いていたのは西谷と田中。

 

「出来ないなんてカッコワルイ事言わないでくださいよ! あ、でも、アサヒさんはアサヒさんで対処できるんでしょ? そんな沈む必要ないじゃないスか!」

「う、ウス!」

「そうス! 胸張って! ……ん?? あれ? 自己流対処法があるんなら、なんで伊達工と戦った時、あんなに凹んだんですか?」

「う゛……」

「またノヤっさんは そうやって傷口に塩コショウを!? 傷口が開くから止めなさいって!」

 

途中までは、横で うんうん 頷いてた田中だったが、後半部分…… 東峰のハートに一撃喰らわせてるのがわかった部分で、西谷を止めていた。……はっきりと、東峰の身体がくの字に折れちゃってるのが見て取れたから。

 

「そ、そういう妄想する余裕が無くて……、妄想するにも時間とか集中力とかいろいろと必要なんだって!」

「……めんどくさ! 日向。アサヒのより 火神のを採用しなさいよ。これからは」

 

菅原も聞いた当初は、良い対処法だと思ったのだが、西谷に言われて疑問が浮かび―――東峰の答えを聞いて苦言を呈す。

出来ない者が大多数な気もするが、どうせ目指すのなら火神法を、と

 

「………アス」

「別に無理に合わせる必要無いからな? 翔陽。後、アップする時はしっかり元通りに戻せよ。怖い怖いモードになっちゃってるぞ」

「………アス」

 

なかなか戻りそうに無かった……が。

 

 

 

「よし、そろそろだ。準備良いか?」

 

 

 

澤村の一声から始まる。

本当に公式戦がスタートする。

 

 

「第1試合だ。そろそろアップとるぞ」

【オス!!】

 

 

此処からが、本番だ。

 

「―――オレ達にとって二度目(・・・)の公式戦だ。翔陽」

「…………」

 

日向は、火神に言われたことを頭に入れた。

中学の時、頑張っても頑張っても……出る事が叶わなかった。 最後の最後で漸く1試合出る事が出来た。

 

 

そして、今。

 

 

「……行けるな?」

「おおっっ!!」

 

 

澤村の一声(きっかけ)から、火神の一声(けっていだ)

日向はいつも通りを取り戻す事が出来たのだった。

 

 

その後――澤村は中学時代のチームメイト、池尻と再会を果たした。

彼の方から声を掛けた形で、それに澤村が応えた形だ。

 

 

2人の中。2人の思い出やバレーに対する決意、そこから生まれる名言。

色々とあるのだが、流石に、そこに付いていこうとはしなかった。

 

あまりにも無粋だから。かつての仲間と今度はネットを挟んでの対面。……紙の上での事ではあるが、一言一句思い返せる火神。

 

 

無粋だ、無粋……と感じてても、澤村と池尻の邂逅……一目でも! と思ってしまう火神。

 

 

あーでもない、こーでもない、みたいな感じで ソワソワしだした火神を見て。

 

「……少し、遅れてやってきた緊張?」

「っ!!」

 

清水がボソッ、と声を掛けた。

いきなりでビックリした火神だったが、直ぐに首を横に振った。

 

「あ、いや、違いますよ?? その、緊張してないってワケじゃないんですけど……。その、これは 武者震いと言うか……、今は別の事考えてまして」

「そう。……私は ちょっとだけしてる、かな」

「ええっ??」

 

清水が緊張? 

普段の凛とした佇まいから考えたら、自分よりも清水にこそ、緊張とは無縁なのではないか? と思ってしまう火神。そもそも、顔に全然出てないから疑うレベルだ。

 

……それが、火神の顔に出ていただろうか、ちょっぴりジト目になる清水。

 

 

「……私だって人並みにするから」

 

 

心外です、と言わんばかりにツッコミを入れる。

火神は【デスヨネ】と、思いながら コクコク、と頷いた。

 

ちょっと失礼だったな、と。……何せ、ついさっき東峰に言われた事をまんま清水に言ってるのだから。(厳密に言えば口に出してはいないが)

 

 

 

 

 

その後は、清水とほんの少しだけ話していただけなのに、チラっと見られてた。

西谷に。なので、西谷は 田中(仲間)を引き連れて飛び掛かってきた。

………試合前に体力奪われるのは非情にナンセンス、と言う事で、火神は頑張って躱し、澤村の傍へとそそくさと離れていったのだった。

清水関係であったとしても、流石に主将・澤村を前に、無視して暴れる~なんて真似は西谷にも田中にも出来ないようだった。

 

 

 

 

火神が編み出した? 処世術を見て清水はまた笑った。澤村達とも何だか楽しそうにからんでいる様に見えて、それも笑った。

 

 

 

そして、清水は 笑いながら、これまでの事を思い出していた。

マネージャーを始めた時の事を。

 

 

清水は澤村に誘われる形で、バレー部のマネージャーになった。

当時のバレー部にはマネージャーは暫く在籍しておらず、物凄く歓迎されていたのを清水は今でも覚えている。素人で、ルール等は全くわからなかったが、独学自己流で色々な事を知った。

 

色々と学び、自分なりに頑張ってきたが…… 清水は始め何処か他人事だと思えていた。

 

マネージャーはあくまでもマネージャー。精神論とかで コートの外だとしても 共に戦っている、と言う事はよく聞くか、それでも本当にバレーをしているワケではないから、と。

 

 

でも――徐々にチームは他人ではなくなっていった。

 

 

 

【堕ちた強豪 飛べない烏】

 

 

 

その異名は、バレーの公式戦を初めて体験した時に、耳にした。

 

チームメイトたちが、他人じゃなくなった頃に……、その異名が自分自身が心から悔しい、と思い始めていた。

 

現3年は皆、たまに笑っていたが、……目の奥は全く笑っていない。その気持ちはよく判る。一緒にコートの中でバレーをしていなくても、判る。

 

今年こそは、今年こそは、と力の限り、出来る限りの中で皆 練習をして、清水自身も懸命に働いて…… 気付いたらもう高校3年。最後のIH予選になってしまっていた。

 

 

「…………これは、あの時(・・・)、からかな。きっと」

 

 

清水は、笑うのを止め、試合のコートに向かっている皆の背を見ながら、思い返す。

 

 

思い返したのは、高校2年の時。……中総体宮城県予選を見にいったあの日。

少しだけ、皆より遅れて試合会場に入って……たまたま()を目撃したあの日。

 

 

彼は飛びぬけた力を、才能を持っていた。

殆ど無名校の選手だったのに、バレーに関してはまだまだな所がある自分でもはっきりと判る程の実力を持っていた。

優勝候補で更に天才と称された対戦相手にも、決して引けを取らない程に。

 

そして、それ以上に 例えどれだけ相手が強くても、例えどれだけ劣勢だったとしても、仲間と共に最後まで戦う姿勢を魅入っていた。

 

 

仲間と最後まで戦う。

 

 

―――時には皆を支え。

―――時には皆を引っ張り。

―――時には皆を鼓舞し。

―――時には自らが前に出て決める。

 

 

言葉にして説明するとすれば、彼は味方の100%を引き出そうとしているのがわかった。

……そして、成功し 仲間の皆が持てる全てを出せてるんだという事もわかった。

 

何より 皆も負けじと、そして応えようとしているから、力が足りなくてもガムシャラに進んで、そしてそれぞれが相乗していってるのがわかった。

 

 

あの日、澤村は 烏野に来る事は無いだろうな、と言っていたが、何処か清水は期待していた。

 

あの日に初めて出会った時に。――目が合ったあの瞬間から。

 

 

清水は、確かに実際にコート内でプレーをする選手ではない。

直接的に勝敗に絡むワケではない。

 

だが、チームが他人じゃなくなったその時から、勝つ事の喜びも、負けた時の辛さも、全て知ってる。

 

でも、知らない事はまだまだある。……そして 知りたい事もある。

 

 

【烏野が、かつて春高で全国大会に出た。東京のでっかい体育館で全国の猛者たちと戦ってる姿を見た。……鳥肌が立った。――――もう一度、あそこへ行く】

【もう―――飛べない烏なんて呼ばせない】

 

 

 

 

目標を大きく掲げ、そして頑張って頑張って頑張って―――結果。

 

その努力が報われない事なんて、当然ある。……自分自身も経験してきたのだから、幾らでもある。

呆気なく崩れ去る事を清水は知っている。

 

 

それに 全国と言う先に行けるのは……その努力を重ね続けた猛者たちの中で、まさに選ばれた猛者たちだけしか立てない舞台だ。

 

 

そこの景色は、一体どんなだろう?

そこでは、どんな事を感じるのだろう?

そこでは、一体どんな事が待っているのだろう?

 

 

 

彼を見て そして、烏野のメンバー皆の姿を見て、より強く思う。

沢山の仲間たちが集まって、より大きく見えたカラス達。

 

 

 

―――期待せずには、いられない。

 

 

 

清水は、小さく頷くと、真っすぐに前を見据えた。

仲間たちの背を見るのではなく、その先――光が見えている先を見据えながら、戦いの場へと歩を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ、仙台の体育館も日向にとっては広くデカく、エアーサロンパスの匂いだ。

 

それに感動した様で、先ほどのガチガチ、顔面蒼白からは比べ物にならない程の表情で周囲をきょろきょろと見まわしていた。

 

「うおおおお!! 凄い広い!! でかいっっ!!」

 

ぴょんぴょん飛び回る日向。

 

「よっしゃ、もう完全に吹っ切れたな?」

「ぅおうっ!!」

 

燥ぎまわる子供か! と思われるかもしれないが、これが日向である。

燥ぎ過ぎて、体力無くなる……みたいな軟な身体はしてないので大丈夫だ。身体が固い方が何倍も駄目。

 

そんな日向に横から影山。

 

「空回りして、早々にヘマしたりすんじゃねーぞ」

「ぬっ!!? おめーだよっ!」

「どう見てもおめーだろうがよっ!!」

「そっ、そんなに怒んなよっ……」

 

こちらも通常運転。

いや、元々緊張は無縁、と一番言えるのは影山だ。もしも、コレが決勝戦だったとしても、全国の舞台だったとしても、普段通りの自分で居られるだろう、と思うから。

 

「お前ら声だせーー! 行くぞ!!」

【オオーース!!】

 

 

烏野高校は、コート内へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一回戦 烏野高校 vs 常波高校。

 

正直に言うならば、烏野高校は近年落ち目であり 異名通りの戦績しか残せておらず、常波高校も同じくずっと1回戦止まりのチームだ。

故に、ただ単に次の試合までの時間調整で見る程度で そこまで注目は集まらないだろう……と言うのが普通な考えだが。

 

「……もう一回、見ておかないとな。烏野の1年達を」

 

決して奢らず油断せず、彼らを注視している者も居る。

それは、強烈な印象を練習試合の時に植え付けられた青葉城西高校だ。

その中でも、バレースキルは勿論の事、分析力、観察眼も持ち合わせているオールラウンダーな男、及川が特にプレー外だったとしても、脅威の一言――――なのだが、この場に居なかった。

 

 

「及川はどうした?」

 

 

当然、まだ試合は先とはいえ、しっかりと視ておかないといけないチームなので、監督が確認を取る……のだが、その問いに対し答えは【外で他校の女子に捕まってる】だ。

正直、ばつが悪いが事実は事実なので、そう答えるしかない。

 

 

無論、その後 鬼の形相をした岩泉に連れ戻される(強引に)事になった。頭に思いっきりボールぶつけられて。

 

 

 

 

 

 

青葉城西と言うチームは当然目立つ。シード権を持つチームだから、と言う点もあるが、平均して選手達は大きいし、強豪校だからか人数も他より多い。

だから、コートからでも見つけるのは難しくなかった。

 

 

「あっっ!! らっきょヘッド!!」

 

真っ先に見つけたのは日向だ。

なかなか失礼なあだ名をつけているので、それとなく火神がチョップして訂正。

 

「金田一、な。まぁ、確かに……らっきょっぽいけど」

 

火神もなかなか失礼だった。

 

「うわ、大王様もいるっ!!」

「そりゃ、青城だし。及川さんも居るよ。油断して~とかはもう無いだろうし」

 

ふと、火神も視線の先を金田一から及川へと向けた。

及川自身も、こちらに気付いたのだろう。大きくVサインをこちら側に向けてくる。

 

 

「やっほ~~。せいちゃん! 変人コンビのお守りお疲れ様~~! やつれてなーい? まー、こっちとしては それはそれで ありがたいかもだけどね~」

 

 

及川も日向に負けずと劣らない声量で、知ってる者にしか分からないワードを入れて声援?? を送ってくれた。

 

「「!!」」

 

勿論、コンビと名指しされた2人もそれに気づき――。

火神はと言うと。

 

 

「やっ、全く……」

 

 

及川に同意する様に頭を掻いた。

日向や影山に【お守りって、なんだよ!】と詰められたが、澤村の一声で沈静化するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして―――アップの時間も済み、とうとう試合開始4分前。

主審が時間を確認して笛を鳴らした。

 

それは、公式WU(ウォームアップ)終了の知らせだ。

 

その音と同時に、澤村は【集合!】と声を掛け、【整列】の流れで――互いに向き合う。

 

 

1回戦のスタートのタイミングは、シード権を持ち、1回戦をパスしているチーム以外は、全てが同じタイミングだ。

 

故に、整列したその時――先ほどまで様々な音で埋め尽くされていた体育館が静寂に包まれた。自分達の鼓動の音の方が大きく感じる程の静寂。

 

一際大きな鼓動を感じ取ったその瞬間に、主審の笛の音が響き――参加全チームの。

 

【お願いしアース!!】

 

の声の元、宮城県予選が本格スタートを告げる。

それと同時に、体育館内は再び大声援に包まれた。

1回戦の中で一際大きく聞こえてくるのは、やはり強豪であり優勝候補とも上げられる【伊達工】だろう。

応援席からは、ベンチ入り出来なかった選手達も多いので、まるで伊達工一色、ともいえるかもしれない程の応援だった。

 

だが、そんな事は気にしてられない。

今は目の前の相手を倒す事だけを考える。

 

 

「よし! いいか!! 開幕1戦目は誰だって緊張なり高揚なりで普段通りじゃない! そこから如何に一歩速く抜け出るか、だ!! まずは1本、ドカッ! と決めて流れをつかめ!」

【ぅオス!!】

 

 

気合は十分。最早誰にも負けるつもりは無い精神で臨む面々。

そこに烏養の横に控えていた武田が、次に声を出した。

 

 

「これは、決してお世辞でも身内びいきでも、親ばかでもないです。……君たちは皆強いです! 烏野は強いです!! 【飛べない烏】がまた飛ぶところを会場中に見せてあげましょう!」

 

 

武田の一言で、武田の名台詞で――改めて思い返す。

何度も何度も聞いた。あの不名誉極まりない異名を。【堕ちた強豪、飛べない烏】を。

 

それを選手達は皆判っている。……そして、原動力にもしている。

 

 

「そして、言ってやるのです! 【見よっ! 古兵 烏野の復活だ!!】と!」

 

 

覚えている。

耳だこであり、何度も何度も目にしたあの名台詞。

火神は、日向ばりに喜びを爆発しかけたが、どうにか体を抑えた。抑えて抑えて……早く円陣を! と思ってしまっていた。

そんな火神の感動を他所に、武田は顔を真っ赤にさせる。

 

 

「う、わわわっ、ポエミーだったっ!? ひいた!?」

「大丈夫です! 大丈夫です!!」

 

 

臭い台詞~だと自分でも思っていた様だが、武田の言葉は何よりも嬉しい。

烏野は決して堕ちていない。そして、今日……今、復活を遂げるのだと強く思えたから。

 

「なーなー、ふるつわもの、って何だ?」

「古いに兵士(へいし)の兵、でつわもの。老練な武士、とかだけど。今は昔強かったチームがまた復活を、みたいな流れだな」

「へー……か、かっけぇぇ……!」

「ほうほう……」

 

国語が苦手―――ではなく、勉強全般苦手な日向は 言葉の響きは良かったんだけれど、意味が分からず、いつも通り火神に聞く。

火神は色々と我慢していたが、日向のいつも通りさを見て、ある意味でクールダウンを出来ていた。はっちゃけ過ぎない様に、と。

その横では影山も少しは気になっていたのだろう、意味を知って、ふんふんと頷き……、日向程ではないが、響きが、そして意味が気に入ったのか、にやっ、と笑みを浮かべていた。

 

「……流石おとーさん。ここでもいつも通り」

「おいおい、もう行くぞ!」

 

講座は此処まで。

後はプレイで魅せるのみだ。プレイで古兵を見せるのみ。

 

 

「烏野ファイッ!」

【オォーーッス!!!】

 

 

澤村の号令の下、円陣を組んで大きく大きく声を出した。

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

烏野高校

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

Li(リベロ) 2年 西谷

S(セッター) 1年 影山

 

常波高校。

 

WS(ウィングスパイカー)3年 池尻

WS(ウィングスパイカー) 3年 玉川

WS(ウィングスパイカー) 3年 駒木

MB(ミドルブロッカー) 3年 茶屋

MB(ミドルブロッカー) 2年 渋谷

Li(リベロ) 3年 桜井

S(セッター) 2年 芳賀

 

 

 

烏野高校 vs 常波高校―――試合開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハ!  そりゃ、戸惑うはなぁ。そりゃMB(ミドルブロッカー)にあの大きさの選手が居るんだから戸惑うってもんだ!」

 

試合開始前、常波高校の面々が唖然としているのがはっきりと上からでもわかった岩泉。

日向の事を考えてるのだろう、と。明らかに他にも大きな選手がベンチには揃っているというのに、160㎝そこそこであろう大きさの日向を起用するの? と。

烏野の試合を見ている者たち、現烏野を知らない者たちは、皆 夫々が似た様な考えを持っていた。

あの10番日向は【リベロ】ではないのか? と。

 

 

その考えをまるで払拭するかの様に、次に声を出したのは岩泉の横に居て真剣なまなざしを送っている金田一。

 

「……アイツを舐めたヤツは痛い目を見ます。そもそも、烏野って言うチーム自身にも言える事、スが。【飛べない】とかなんとか言ってる奴ら、もれなく全員痛い目見ます」

「わはは! 経験者は語る、だな! 中学ん時の事連想させたか?」

「……ウス。確かにあの時も、一番目立つのは日向(アイツ)っス。でも、それだけじゃないんで。だけじゃなかったんで」

 

自然と金田一の視線が伸びるのは日向から影山―――――ではなく、火神だった。

公式戦、と言う舞台。そして、日向と共にいるあの11番火神の事。それらが金田一にあの中学の時の苦しかった1回戦を思い返させていた。

 

 

「次は、絶対に捻じ伏せます。……高さでも、技術でも!」

「おう! ……ま、金田一1人に言わせるワケにゃいかんよな。オレも結構いいの、貰ったし」

 

岩泉も笑っていたが、直ぐに真剣になって試合を見た。

 

 

 

 

丁度、常波高校のサーブが東峰に向かって放たれた瞬間だった。

 

 

「旭!」

「オーライ!!」

「ナイスレシーブ!」

 

正面できっちりボールを捕え、影山に対しAパスで返す事ができた。本当の初球である程度の硬さもあるだろう事も考慮すると理想的な展開だと言えるだろう。

 

時間にして、それは本当に一瞬。

東峰がボールを上げ、そして影山に届くまでの刹那の時。頭が高速回転し、圧縮された意識の中で影山は考える。

 

 

「(一発目、一体誰に使う……? 相手をビビらして、尚かつこっちの士気を上げる。……エースの東峰さんを敢えて、使う。いや、位置的には澤村さんが……っっ!!)」

 

ぎゅっ、と凝縮された時の中。影山の思考の中に強引に入ってくるナニカがあった。

思わずトスのモーションに入っていたのに目を向けてしまい兼ねない程のナニカ。

 

 

 

―――オレに、くれ!

 

 

 

抑えられないナニカを内包させているのは、ライト側に居る火神だった。

普段、火神がここまで自己主張するのは殆ど無い。バレーにおいても常に最善。最善を選んで動く。自分が打つつもりで入る。だからこそ、ボールが来ても打てるし、来なくとも、直ぐに次の行動に入れる。常に全体を考えている。

 

そんな男が、身に纏う雰囲気だけで、打つ意思をはっきり感じさせた。感じさせられた。

影山は、気づかされるのは初めてだった。

 

 

刹那の時ではあったが、迷いは一瞬で掻き消える。

否、最初から迷う余地など無かったかの様に。

 

 

「火神!!」

 

 

上げられたオープントスを見た瞬間、歓喜……そして更に、絶対に決めるという強い意思。……殺気にも似たナニカを発した。

助走から踏み込み、空中姿勢……自分の身体が自分の言う事を完璧に聞いてくれるのが自分でもわかる。

 

ブロックは――2枚。

 

相手にも固さがあるのだろう。

確かにブロックは2枚来ているが、きっちり締めれてなかった。2人の間が空いているのだ。

勿論、その間を打たせる為 ワザと離していて、そして打つ直前に閉める可能性も無くはない、が。

 

 

――ブロッカーは……見てない!

 

 

かなりの確率で、間に合ってないだけだろう、と判断した。この間僅か0.5秒程。

 

 

「ッッッ!!」

 

 

火神は、ブロック2枚の間。腕と腕のボール1つ分程の間を打ち抜いた。

そのままボールは、レシーバーに触れられる事もなく、コートに着弾。ワンバウンドして体育館壁に激突。

 

烏野高校1点リード。

 

 

「おおおおっ!!!」

「よっしゃああ!! せいやーー!!」

「ナイス火神!!!」

「ナイススパイク! 良い出だしだ! ナイス!!」

 

点が決まったのを見届けると、弾かれた様に皆が火神に集まってきた。

地に降りた後は軽く腕を振りつつ、力の入り具合も確認し――皆とハイタッチした。

 

烏野高校は、狙い通り。スタートダッシュを決める事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほあぁ……、めっっちゃくっちゃ気合入った一発だったな、今の。……オレん時にやってたサーブみてえに」

「あー、岩ちゃんが盛大に吹っ飛ばされたっていうせいちゃんのサーブ??」

「………………」

「いたいいたいいたい!! じ、事実ジャン! 八つ当たりは醜いぞ? 岩ちゃん!」

「うっせぇぇ! 怪我して最後にちょこっとしか出れなかったヤツが偉そうに言うんじゃねぇよ! 良いようにやられたのはおめーもだろうが! ボゲェ!」

 

火神の初っ端のスパイク。

2階席から見ていた青葉城西のメンバーも注視していた。

烏野高校の要注意人物の1人が、あの11番を背負った 火神だから。プレイの1つ1つに注目が集まる、と言うのは半ば必然だともいえる。

 

「ブロックとブロックの間。……そんなに開いてたか?」

「んー、こっからじゃ何とも言えないケド、抜けた以上は空いてるんじゃね?」

「……………」

 

MB(ミドルブロッカー)として、あの火神のスパイクと対面した事を想定して見ていた金田一が着目したのは、やはり常波のブロック。火神は難なく抜けていた……が、あのブロックの締めが甘かったのか、若しくは火神のスパイクが威力だけでなく針の穴を通す程の精度だったのではないか? と注視していたのだ。

じっ、と火神を目で追う金田一を他所に、国見は軽く頭を小突く。

 

「って、何すんだよ」

「気ぃ入れてみるのは否定しないけどよ。視野もっと広くしとけよ」

「わ、わかってるわ! ……烏野にはまだぶっ倒したいヤツも居るんだからよ」

 

文句を言いつつも、金田一は暫く火神のプレイを目で追い続けるのだった。

 

 

 

「さって……、次はせいちゃんのサーブか」

「……おう」

 

及川は いつも通りな軽い口調ではある、が……、集中してみているのが解る。隣に居る岩泉にも伝わってくる程に。

 

「せいちゃんは、強烈なサーブとかなり変化するサーブ、厄介な2つのサーブを選んで打ってくるからね。最初はどっちからくるんだろ?」

「……そりゃ、1発目だ。さっきみたいに景気よくジャンサーで来るんじゃないか? ジャンフロは 疲れた時とか、ジャンサーを警戒してる時とかに織り交ぜられたら、この上なくウザく感じるし。だから オレは後半辺りに来るんじゃねーかってオレは思ってる」

「岩ちゃんもそう思う? オレもそうだよ。最初のサーブは さっきのスパイク、最初の1点と同じ。……ある程度の調子を確認したり、何よりスタートしたばっかりだから、思い切って打てる。そっから徐々に調整していく。……せいちゃんはその辺しっかりしてそうだから」

 

視線を鋭くさせながら、及川は火神の背を見続ける。

それを見た岩泉は、ため息を1つした。

 

 

「ほんっと、火神に対しては 影山とは比べ物になんねー。対応つーか、評価が全く違うよな。お前って」

「えー、だってせいちゃんは、良い子だしー。だから 飛雄と違って、生意気でも許せちゃうんだよねー」

「オレは、お前が生意気であっても生意気でなくても、変な事やらかしたら、もれなく全部許せねぇわ」

「ひどっっ!! 慈悲をちょっとくらい頂戴よ! 岩ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神の1本で、試合の流れをまず最初に引き寄せたといって良いだろう。

 

そして、次のサーブは火神。

 

 

「ナイッサー! 火神!」

「思いっきりで良いぞ」

「アス!」

 

ボールを受け取って、エンドラインまで向かおうとした時、澤村、東峰から声を掛けられる。

 

「いっけー! せいや! 必殺サーブ!!」

「バシっと頼むぜ!」

 

日向と西谷も大きく背を押してくれる。

 

そして、影山は―――無言。

ただ、顔には【負けねぇ!】って言ってる感じだった。

 

影山らしい、と火神は含み笑いをみせ――エンドラインに立って6歩下がった。

 

【常波高校―――、思いっきり行かせてもらいます】

 

これも、一番初めにサーブ打つ前行うルーティンの様なもの。

此処で初めて戦う相手には、火神は これ以上ない程の敬意と尊敬をボールに込める。

 

それは強さ弱さは一切関係ない。全てが憧れだと思っている火神にとっては。

 

目を瞑り――ボールに額をつけて数秒。

主審の笛の音を確認したのと同時に、目を開いた。

 

確かに 周囲は自分達の試合よりも 伊達工ばかりの声援だが……、今この瞬間は、雑念とし 一切耳に入ってきていない。

 

8秒間タップリ使って、火神は大きくボールを上にあげる。

助走からの踏み込み、そして跳躍、空中姿勢、全て申し分なし。加えて 相手コートもはっきりと俯瞰して見えた。何処に打てば良いのか、打つ前にそのボールの軌跡が見える。そのイメージのまま火神は打ち放った。

 

サーブは 一切相手にボールを触らせる事なく、ライト側のエンドラインギリギリに着弾。

そして、数秒遅れて 誰が声を上げたのか分からないが、【ノータッチエース!!】の声援が響き渡る。ほんの一瞬ではあるが、意図的に無視していたのではなく、完全に伊達工の声援をもかき消す程の声援が起こった。

 

 

【よっしゃあああ!!】

 

 

烏野コート中心で大盛り上がり。

 

対照的に、常波側は突然の強烈なサーブに唖然としていた。

 

「っっ、だ、大丈夫だ! とにかく上げていくぞ! どんだけ不格好でも良い。とにかくボールを上に上げていこう!」

「落ち着いて、落ち着いて! とにかく始まったばかりだ。一本返していこう!」

 

 

それを支えたのが3年生組。リベロの桜井とキャプテンの駒木だ。

まだ1,2年は動揺したままではあったが、何とかその声に落ち着きを少しずつではあるが取り戻しつつあった。

何より、先日まで―――いや、今日もずっと烏野の事を【堕ちた強豪】と言ってきたし、聞いてきた筈だった。

落ち目であるのなら、勝てるかもしれない! と初戦突破を狙って士気も高めてきた。

 

その思いを、思いっきり慢心していた自分達の横っ面を、思いっきりぶん殴られて吹き飛ばされた気分だった。

 

 

続いて2本目、3本目……連続サービスエース。

カウントは4-0。

 

烏野はそのまま大盛り上がりを見せる反面、常波はなかなか立て直す事が出来ない。

 

 

「見たか! ウチのサーブは全国にだって通用するぜ!」

 

烏養も大盛り上がり。

 

「こ、このままサーブだけで25点取れれば……」

 

武田も目を輝かせていた。

火神のサーブが凄い事も判っているんだが、公式戦に入った事による普段より倍増しの気合になったのか、今まで見てきた中で一番強いサーブの様な気がしていた。

 

「そりゃ流石に無茶ってもんだぜ先生。そんな気をさせちまいそうな強烈なサーブだがよ」

 

ハハハ、と笑いながら言う烏養。

 

「相手だってプライドがある。同じ高校生なんだ! ってな。……火神がこの後ずっと、あんだけの強烈なサーブの精度、パワーをキープしつつ、受けた相手の心もへし折れちまったとするなら、可能性はあるかもしれんが、そうはならねぇさ。……相手を見てみりゃ解る」

 

ちらり、と烏養は常波側の選手達を見た。

その一人一人の顔を。

最初は驚き、唖然としていたが 3年を中心に徐々に修正出来ている。何より、その顔に見せる目の力が、表情が【このまま終わってたまるか】と言っている。

 

そして、案の定だった。

 

 

「桜井!!」

「ッッッ!!!」

 

 

リベロの桜井がボールをどうにか上げた。

 

「っ……(リベロに行ったか。……ちょっとボールが流れた)」

 

火神は僅かにズレたボール位置をどうにか空中で立て直そうとして、やや不安定な体勢で打ってしまったのだ。

その結果、軌道は思っていた方向とズレて、リベロが構えている所へと着弾。

桜井は乱れこそはしたものの、ボールを上げて見せた。

 

そして、乱れたままチャンスボールで帰ってきた。

 

 

 

「ウチの強みは、強烈な飛び道具(サーブ)だけじゃねぇぜ!! 先生!!」

「は、はい!!」

 

 

綺麗にチャンスボールで帰ってきたのを見た烏養は、更に興奮し、声を上げる。武田も気圧されつつも期待に胸を抱き、皆のプレイを目に焼き付ける。

 

ボールは、西谷から影山へと綺麗に返り―――。

 

 

「頼むぜ! エース!!」

 

 

レフト側に控えている東峰が助走し、跳躍。

常波は烏野のエースの事は、大体把握していた。様々な噂があるのは一先ず置いといて……あの強面3番がエースなのだと。故に、付くブロックは3枚。

 

「レフト来るぞ!!」

「脇締めろ! 絶対間抜かせるな!!」

「3枚行くぞ!!」

 

今回は、最初の1発目……火神の時とは違う。

今はサーブでボコボコにされているが、点を取られても諦めず、そして球数を重ねていく事で、身体の硬さが取れた。無駄な動きを完全に省いて、最適な動き、そして数で烏野のエース 東峰を止める! と気合十分でブロックに跳んだ――が。

 

ブロックに跳んだ刹那、時の狭間とでも言うべきか……、その一瞬の時間で、相手の力を理解した。

ネットを挟んだ先に居る男が、一際大きく見えた。身長差は 東峰より高い選手が居ないから、最初からあるのは判っていたが……それ以上大きく感じた。

ネットを超えてくる事は出来ない筈なのに、迫って迫って―――圧倒される先を視た気がした。

 

その予測は的中する。

 

3枚揃えたブロックは、今回は隙間なく高さも申し分なかったが、東峰の一撃はそれを物ともしない。

強烈に打ち付けたスパイクは、相手のブロックを跳ね飛ばし、そしてコートにボールは叩きつけられる。

 

 

「うおっっ! スゲー威力!!」

「あんなヤツ、烏野に居たんだ……」

 

観客席側からでも十分伝わってくる程の威力。ブロック3枚あっても関係ない、と言わんばかりのエースの一撃。

 

 

「「旭さーーんっ!!」」

「!!」

 

 

強烈なスパイクを決めた東峰に、大喜び! 群がる日向と西谷。

他にもナイス! の声が集まって来たので、東峰も手を上げて応えようとしたのだが……。

 

 

 

 

「すげぇー! 流石成人!」

「烏野に5年留年の人が居るんだってよーー!」

「うぇっ!? マジ?? それ反則じゃん! ってか、どれどれ? 何番??」

「ほら、あれだって3番! ヒゲ生やしてる!」

 

 

 

観客からの心無い言葉(笑)が、東峰身体を何本もの矢になって貫いた。

ガラスハートな東峰は、ごふっ!! っと 吐血騒ぎ。

 

 

「旭ッ!! 気を確かに持ちなさい!!」

「旭さんだいじょーぶスよ! だいじょーぶ!! ノヤっさんの言葉思い出して! 旭さん!!」

「あ……、う、うん………」

 

 

外から菅原、田中の声を聴いて何とか持ち直したのだった。

 

 

 

「ククク……、これがウチのエース。レフトのパワーだぜ! 先生!!」

「は、はい!! 凄いのが決まりましたね!?」

「ああ! あのパワーで、更に様々な打ち分け、精度、やる事は山積みだが、そいつらが身に付いた日にゃ、もっともっと強力な武器になるぞ!」

「おおおおっ!!」

 

烏養はそういうと、今度は目を瞑って――そして開いた。

 

 

「そんでもって、もっと度胆を抜かせる武器が、烏野(ウチ)にはあるんだぜ………!」

 

 

視線の先に居るのは……かつて、小さな巨人と呼ばれた春高出場時のエースの背番号を背負った男、日向。

 

火神がスパイクとサーブで活躍し、更に東峰が相手の3枚を吹き飛ばす程の力を見せつけた。日向にはもう完全に固さはなくなっていて、ただただ只管に……。

 

 

 

 

【うずうずうずうず、そわそわそわそわ、トストストストストス! くれくれくれくれ!!】

 

 

 

 

と我慢できないような視線で影山を見ていた。

宛ら、腹をすかせた子犬状態、である。

 

「うるせぇ!! わかってんだよ!!」

「落ち着け影山。……翔陽喋ってないから、うるさくはないぞ?」

「それもわかってるよ! 面見てたら何かムカついただけだ!」

「……なかなかに酷いな、ソレ」

「そ、そーだヒドイヒドイ!! そして、トス オレにもくれっ!! 早くくれ!!」

「わかってるつってんだろっ!!」

「あーもー……。オレサーブいかなきゃだし、怒られても知らんからな……」

 

 

 

ギャーギャー騒いでるのを見て火神は軽くため息。

ボールが返球されてきたので、後の騒ぎを鎮めるのは主将に任せてサーブ位置へと戻っていった。

 

 

 

 

その後、火神の強烈なサーブはまだまだ健在だったが、常波は全プライドをかけて、身体そのものを使ってレシーブしてみせた。

 

いざ、一本切る! と不安定のままスパイクまで打ちこんで来る。

 

だが、烏野は今でこそ、サーブやスパイクに目を奪われがちだが、決して攻撃面だけに特化しているワケではない。相手のスパイクを見て瞬時にコースを見極め、飛び付くスーパーレシーブ。

 

烏野には守護神(西谷)が居る。そう簡単には崩せない。

 

 

そして―――烏野を象徴する、とも言えるプレイヤーは、満場一致で日向だ。

 

 

【飛べない烏】を払拭する事が出来る。一目みただけでも、目に焼き付けさせる事が出来る。

その小さな身体からは、考えられないようなバネ、跳躍を見せて、会場中を沸かせた。

 

 

【―――飛んだ……!】

 

 

誰が口にしたのか最早判らない……。

いや、誰が(・・)、ではなく、全員が(・・・)だ。

 

日向の跳躍を目の当たりにした者たち全てが、自然と口に出していた。

 

 

高い高い跳躍は、相手のブロッカーを唖然とさせる。

東峰の様な姿からも色んな意味で強烈な男が、打ってくるのなら心構えの1つでも出来ようものだ。……だが、この小さな選手は、160程の選手が突然、目の前で大きく大きく跳んだともなれば……、一瞬何が起こったのかわからない、と。

 

恐らく、日向は今大会最小のMB(ミドルブロッカー)

誰よりも小さな男が、今ここで誰よりも高い場所に居る。

 

小さな烏が大きく羽ばたき―――そして、ボールを相手に叩きつけた。

 

見ていた者たちの視線を釘付けにし、そして その脳裏に刻まれる程の衝撃。

会場中の視線が日向に集まった様な感覚がした。

その視線を、火神は感じ取り――、そして笑った。

 

 

 

 

【そう、この場面、この場面だ。……この場面から復活が始まったんだ】

 

 

 

その一翼を担う事が出来た事への喜びをかみしめる火神。

そして――。

 

 

 

 

―――見よ。 古兵、烏野高校の復活だ。

 

 

 

 

武田が言っていた通りに、火神自身も心の中で会場中に轟くかの様に、大きくそう叫んだのだった。

 

 

 


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