王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第61話 青葉城西戦①

 

 

 

青葉城西にて。

 

 

彼らも試合終了後、学校へと戻った後のミーティング・そして片付けも全て終了し、後は明日の一戦に備える。

万全の態勢で明日を迎える為に 身体を休息させるだけだ。

 

でも及川と岩泉の2人は まだ帰らず残っていた。

 

残っていた、と言っても今はもう更衣室で帰宅準備は行っている。

 

「フンヌフーンっ!」

 

何やら及川は上機嫌だった。

その手には、今日のミーティングの際に皆で見た映像。

 

【烏野vs常波】

【烏野vs伊達工】

 

これらが収められているDVD、溝口から借りたDVDが握られていた。

 

及川の様子をちらりと見た岩泉は、改めて及川に釘をさす。

 

「オイ。くれぐれも夜更かしなんかすんじゃねーぞ? 明日、【寝不足で力でません】なんてヌかしたらブッ飛ばすからな」

「も~ いつも乱暴なんだから。それに夜更かしするな~って、お母ちゃんか何かですか? 岩ちゃんは?」

「………ああ?」

「っっ! ご、ごめんごめんごめん! そんなのしないから! ちゃんと万全、万全のコンディションで行くってば! ……そんな簡単な相手じゃないって事くらい身に染みてるんだからサ」

 

いつもの調子で、軽口で粋なジョークの1つを出したつもりだったんだが、生憎、岩泉にその手のモノは通用した試しが無い。

そして 岩泉からどんな返答が来るかくらい、長い付き合いだから及川もよーくわかっている筈だったんだが……、如何せん 及川はいろいろとかき回したくてたまらない性格。だからこそ、いつもやった後に後悔するのがパターンだ。

 

岩泉の鉄拳制裁が無いだけマシだと受け取ろう。

 

 

でも、今回は鉄拳制裁は無かったが 岩泉の圧力は健在である。

故に、これ以上踏み込んだら更なる地雷だと言うことを、及川は半ば強制的に思いださせられるのである。

 

 

「だったら、くだんねぇ事言ってんじゃねぇ! クソ及川! やべー相手だってわかってんなら尚更だ、クソボケ及川! オラ! 部室閉めんだから ちんたらすんな! クソボケクズ及川!」

「悪口足さないで!! 何か 悪口で名前ものすっごく長くなってってるよ!」

「なら、クズ川! それで充分だ!」

「略すのもヤメテ!」

 

 

色々と毒を吐いた岩泉だが、明日の相手である烏野高校が 決して油断して良い様な相手ではない事など身に染みて判っている。

 

及川が考えているように岩泉も考えている。

 

対策として 色々と確認しなければならない事がチームのミーティング内でも上がっていた。

 

正直時間が足りない。でも出来るギリギリまで確認する、確認したい事をコーチ陣に頼み、及川は了承してもらった。

だからこそ、このDVDを預かっているのだ。

明日に備えて身体を休めるのを優先させるべき所ではあるが。

 

 

軽くチャラい性格が目立つ、そんな及川だが、その根っこにある決して負けたくないと言う強い気持ちは、誰よりも岩泉が解っている。だからこそ、軽く注意する程度に留めているのだ。

 

行き過ぎ、やり過ぎ無いように目は光らせながら。

 

 

 

「(現時点での総合力が青葉城西(オレ達)がぜーーったい上! ……でも、今の烏野に無視していい選手は決していない。時間も少ないけど……少なくとも2つ。バケモノ速攻(・・・・・・)2種のサーブ(・・・・・・)、ちょっとでも裸にしないとオチオチ眠れないからね)」

 

及川は岩泉の忠告を受け入れつつも、限界ギリギリまでは確認するつもりだった。

明日に支障をきたさない限界ギリギリまで見極めて探りを入れたい。

 

皆の前では口には出さないが、烏野は強敵であると認めている。

その相手に勝つ為には 出来る範囲の全力は尽くさなければならないとも思っている。

 

今まで縁のなかった烏野高校。

 

……決して格下だとはもう思ってもいない。

 

 

「(はぁ~、烏野にいったのが、トビオだけだったら、ここまで神経質になってなかったかも。せいちゃんまで行っちゃったのがなぁ……。――どんだけ時間がかかっても、あのトビオとチビちゃん(2人)は勿論、特にせいちゃんは要チェックしとかないと)」

「オイ」

「わ、わかってるってば、岩ちゃん! さ、帰るべ帰るべ」

 

及川は、考えを見透かされてそうで怖かったので そそくさと移動。

岩泉も呆れつつも、気を引き締めなおした。

 

岩泉自身も、烏野が強敵である事は判っている。

練習試合で負けているからある意味及川以上に判っている。

 

練習試合の時もそうだが、ミーティングの時に見た今日の試合。常波戦と伊達工戦。

 

正直な感想、圧巻の一言。

 

ほぼ無名な常波は兎も角、伊達工は文句なしの強豪校だ。

 

あの練習試合からまだ殆ど時間はたっていないと言うのに、伊達工をストレートで下した。

特に今年警戒していたチームの1つにストレート勝ちしたのだ。

 

それは決してまぐれでも偶然でもない。

 

 

「……だが、俺らだってそうだ。ぜってぇ勝つ。それだけ頭ん中に叩き込んでる。……オレはそれだけで十分だ」

「…………! 勿論、頭使うの苦手な岩ちゃんにかわって、この聡明、明晰な及川さんが頑張るトコデショ!」

「……………」

「な、なんで怖い顔してるのさーー!! その顔もヤメテーー! 夢にでちゃう!」

「うっせーーー!! とっとと帰れ!!」

 

 

 

及川を蹴り出した後、岩泉は部室の鍵をしっかりと施錠し、帰宅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり―――火神家。

 

 

夕食・風呂を手早く済ませた後に、父に使用理由を添え、許可をもらってノートパソコンを手に部屋に籠っていた。

勿論、使用理由は青葉城西のDVDの再生である。ヘッドフォンも持ってきて準備は万端。きっと、烏養も今頃青葉城西の試合を見て色々と対策を練っている事だろう、と思いつつ、後ワンクリックで再生! と言った場面で、それらの考えは全て頭から消失。

 

 

火神は目を輝かせながら、画面を見つめていた。

 

 

「……おぉ。青葉城西−大岬戦を全部見られる日が来るなんて……。当たり前で、当然な事なんだけど、やっぱり感動する。……物凄い感動! 見れないトコが、見れなかった場面が こうも見れるなんて……! 烏養さんに、森さんに感謝感激!」

 

 

それは普通なら決して見るコトが出来ない裏側。……表舞台の裏側。

 

それがここでは当たり前の様に起こる。これも火神にとっては最大の醍醐味の1つであり、何よりの楽しみでもあった。

 

日常のちょっとしたことがあまりにも楽しいから、ついつい顔がにやけてしまって、傍から見たら破顔してる? みたいな事も多々あった。

 

両親にその辺りを見られて恥ずかしい想いもした。

更に言えば 烏野でも 一度、百面相したり、七転八倒したりしている場面、奇行を目撃された事もあった。

家だけなら兎も角、学校まで―――……ともあって、それ以来ではなるべく表に出さない様に皆の前では努力してる。

 

変に思われない様に。……一応、バレてない様子なのは確認済みだ。

 

因みに、両親以外。約1名(・・・)、時折バレてたりしているのは言うまでもない。

 

普段のしっかり者なイメージである火神からは、正直連想しにくい程、年相応とも取れる幼さ。昔から抑えてそうだった幼さが、年月を跨いで、出てきてる所をしっかり見て、楽しんでいる者がいた。……勿論、気付かれてる事に 火神は気付いていないのである。

 

 

 

 

それはそうと、早速試合を視聴する火神。

 

 

 

試合内容は、やはり青葉城西の強さが際立つ。

大岬も頑張っては居るが残念な事に現時点での実力差が開きすぎているので青葉城西にとっては殆ど消化試合になっている。更に、切り札は見せない、とでもいうべきか まだまだ見せてない部分、手の内を隠している風にも見てとれた。

 

それと青葉城西は 全体的にレベルが高く、多少崩した所でも、各々のレベルが高いが故に補填してくるのも脅威だ。

 

――皆は 青葉城西の試合を見た時、確かに烏養に言われた様に萎縮していただろう。相手が凄い、強いと、必要以上に狼狽え、怯んでいたと思う。

 

でも、自分達 烏野高校も十分すぎる程脅威に相手は思っている筈なので、その辺りはお互い様だと言えるだろう。隣の芝は青い、とはよくいったものだ。

 

 

「うん。……確かに、レベルは高いけど 守備面ではやっぱり音駒高校の方が上、かな」

 

火神は試合を見ながら音駒高校の事を思い描いていた。

 

青葉城西は確かに大岬相手に大差で勝利している……が、所々での大岬の攻撃が決まった場面もあった。

 

一概にそうだとは言えないが、自分が連想させるその場面で、音駒に置き換えて想像してみると……、やっぱり音駒高校なら、と思えてしまう。

 

「今のボール、元セッターでリベロの渡さんは取れなかったみたいだけど。……夜久さんなら、きっと取れてるかな。ほんと凄かったし。実際も凄かったし」

 

頭の中に色濃く出現したのは 数多くいる憧れの選手の中でもトップに君臨する音駒のリベロ夜久だった。

 

音駒高校の守備のエース。

 

彼ならば、この試合 自分の所に来るボールは100%全て処理してしまいそうな気さえする。

 

バレーボールの試合において無失点で勝つ事は限りなく不可能に近い事ではあるが、ボールが全部夜久の所へと行けばもしかしたら―――……。

 

「あははは。100パーは無茶だけど。リベロなんて一番外すべき所だし。でもなんだか、あり得そうな気がしてならないんだよなぁ。……ん? あれ?」

 

と、考えて居た所で 火神に1つ疑問符が浮かんだ。

 

 

 

――何故、音駒高校の事がこの場面で、こんなにも頭を過るのか? だ。

 

 

 

音駒高校と対戦するには、正直まだまだ先の事。

現段階でIHで戦う為には、様々な困難を乗り越えなければならない。

 

烏野で言えば宮城県代表になる事。青葉城西も白鳥沢にも勝利して進む。

音駒で言えば東京都代表になる事。こちらはより難易度が高いと言えるだろう。組み合わせ次第になるだろうが、最悪 全国常連の梟谷も、優勝候補筆頭である井闥山も全て倒して全国大会に出場、となる可能性だってあるのだ。

 

 

火神自身が知る範囲内では、音駒はこの予選では去年の優勝校―――つまり井闥山に敗北し、ベスト8だったと記憶している。

 

 

彼らと再び相まみえるのはまだまだ先の事だ。知る範囲内では あの合宿(・・・・)の時。

 

なのに、何故だろうか?

 

 

「(……気にしても仕方ないか。そもそも、夜久さんが西谷先輩同様オレの憧れだっていうのも紛れもない事実だし、そこからかな、きっと)」

 

 

火神はそれ以上深く考える事はせず、再び試合に目を通す。

 

 

鑑賞タイム、それは母に【そろそろ寝なさい、明日試合でしょ?】と注意されるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌 IH予選 2日目。

 

 

第3回戦 烏野高校 vs 青葉城西高校 開戦。

 

 

 

 

2日目、3回戦も2回戦の時に勝るとも劣らない程の声援が体育館中に響き渡っていた。

優勝候補である青葉城西は部員数も県内トップクラス。コート内に入れなかった部員たちが、次は我こそが、と言う勢いも声量にのせて、ただただ声を上げ続ける。

 

【コートを制す】

 

青葉城西のその横断幕が声援に合わせて、はためいている様にも見える。

 

 

「無事2日目進出だな、烏野。オレ、当分休み取れねーよ……」

「あ、それオレも同じ」

 

今日も駆けつけてくれた烏野のOB滝ノ上と嶋田。

伊達工以上の強敵相手ともなれば、可愛い後輩、愛弟子の為には幾らでも駆けつける所存だ。―――勿論、仕事業務に差し支えの無い範囲内ではあるが。後々自分達が痛い目を見てしまうので。

 

 

 

「よろしくお願いします!」

「お願いしま~~す」

 

 

 

眼下では、今まさに両雄相まみえる、と言った状態だ。

何処か緊張しがちな、澤村と笑顔さえ見えて余裕のある及川が主将同士、互いに握手を交わしていた。

 

 

「う~ん、伊達工も結構な応援の量だったけどさ。こっちの場合は……」

 

嶋田が、ちらっ、と青葉城西の応援サイドを見てみると……。

 

 

「「「「おいかわくんっ! がんばってーーっ♡」」」」

 

 

とても力が入りそうな、とても色鮮やかな、とても黄色い声援が飛んでいた。

及川はルックスも良しバレーのキャプテン、月刊バリボーにも乗る所謂イケてるメンズな訳であり、必然的に女子の応援の数も声の大きさも大きくなっていってるのである。

 

「……コレですよ」

「コレにゃ、烏野勝てないよなぁ……。女子はあのマネージャーだけだし。ま、あの子はあの子で十分美人だし、ケツしっかり叩かれりゃ、男どもは申し分ないくらいには気合入ると思うけど」

 

 

と、嶋田と滝ノ上は烏野側を見た。

 

女子たちの黄色い声援を耳にし、血涙まで流しそうな勢いで よりデカくデカく声を荒げる田中や西谷を筆頭に、自然と皆の声も高まっていくのが見える。

 

 

「声出せ声出せ! もっと出せ! このコート青葉城西しかいないみたいだぞーー!!!」

 

 

菅原からの激も飛び、全員が 青葉城西の声援をかき消す勢いで

 

 

【烏野ォ!! ファイ、オオオオッ!!】

 

 

と声を、力のあらん限り張り上げ続けた。

これは伊達工戦の時と一緒だ。相手の雰囲気に、相手高校一色に飲み込まれる訳にはいかない。

 

因みに伊達工の時と違って、女子の声援もあるので……ある意味それに助かってる部分があるかもしれない。昨日の倍増しと大袈裟に言えない程の声が出てるから。……翌日声ガラガラコースだと思うが、今日勝てればそれで良いのである。

 

 

 

「気合十分だねぇ……。うんうん、固さっぽいのも今ん所無さそうだ」

「お! サーブ練になったな。そういや、お前の【弟子】は、サーブの方は上手くなったか?」

「なんだよ弟子って……」

「誇って良いじゃん。ジャンフロをメチャ使える火神んトコじゃなくって、お前さんのトコに来たんだし?」

「誇るってのも何だよ……。つーか、忠いわく火神は火神で練習あるんだし、サーブだけじゃなくてその他モロモロ忙し大忙しってな訳で 見て盗むくらいしか出来なかったんだと。直接いろいろ教えて貰えば? って言ったんだけどそれもいろいろ有りなんだと。……同じ1年同士で気使うなんて無いだろ、って思ったけど、忠も忠で思う所があるんだよ」

 

思い返すのは、山口のこと。

居残り練習で、あの月島でさえ 付き合って残っていた際に山口はちょこちょこと居なくなっていた。

 

勿論それは、嶋田にサーブを教えてもらいに通っていた為だ。

 

嶋田のジャンプフローターサーブを あの町内会チームとの練習試合で見せてもらった時から考えていた様だった。

 

元々、滝ノ上が言う様に 同じチームに火神と言うジャンプフローターを高いレベルで使う選手がいるし、そこから学べば? と最初は嶋田も言っていた事なのだが、個人練習でする内容が他にも多々あって、火神の場合はジャンプサーブと並行してジャンプフローターも練習しているので、中々間に割って入りにくかったらしい。

 

山口は 先輩ならまだしも、火神は同級生。同級生に自分の練習を中断させてまで教えを乞う……と言うのは、それとなくプライドがあったのだろう。寧ろ 隠れて練習を積み、あっと驚かせたいと言う願望の方が強かったりする。

 

最終的には、火神に負けないくらい打てる様になりたい、と言う強い願望も有り、火神は理想像。目で盗み、教わり、嶋田に事細かに教わろうとしていたのである。

 

 

「まっ、まだ1週間しか経ってねーし、まぐれ当たりはあったとしても、狙って無回転打つなんて無理無茶だ」

「だろうな。でも、近くに理想的な見本手本が居るんだし、ハマる可能性も十分あるだろ?」

「それはそうなんだがなぁ……。あんまりにも火神がサラッと難しいサーブと威力が強いサーブ使い分けてるからなぁ。忠の事は 変に力を入れ過ぎない様にだけ言った。そんで今日打つことがあったらその辺を重点的に見とくつもりだ」

「……他人は他人、自分は自分ってこったな」

「そーゆーこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏野のコート練習も交代。

続いて青葉城西の練習が始まった。

 

常にいつも通りを発揮する。

 

言葉にすれば大したこと無いと思われがちではある……が、それこそが難しい。

公式戦と言う場は周囲の景色が練習の時と、練習試合の時とはまるで違うのだ。空気も重く感じたり、緊張故に身体が動きにくくなったり、疲労感が増す事だってある。

更に、何度もやり直しの効く練習と一度でも負けたらそこで終わりと言う本番との差は、果てしない程ある。

 

それでも、青葉城西の公式WUで確認できる選手達の状態は、その辺りの固さと言うものが傍からは全く分からなかった。

 

そこにも及川の姿が光って見える。

トスのひとつひとつで今日の相手の状態を確認。今日の状態を確認。チームの100%を出す為に、目を光らせているのだ。

 

修正すべき所は声に出し、褒めるべき所は褒める。……貶したりおちょくったりする事もシバシバ。

 

 

「岩ちゃんちょっと力んでない?? いいとこ見せようとしなくて良いんだよ! なんせ、女の子たちは誰も岩ちゃんなんか見てないからね!」

「………………………」

「っっ!! い、岩泉さん落ち着いて!!」

「アハハハハ」

 

 

勿論相手は、岩泉。色々と暴言を受けたり、時には実力行使で攻撃喰らったりするので、ちょっとした及川の意趣返し、である。

勿論、これもいつも通り。……いつも通りなので、いつも通り及川を実力行使で黙らそうとボール射出しようと振りかぶった……が、流石に今は駄目、本番中の本番なので、直ぐ傍に居た金田一に止められた。

 

 

「……ん、なるほど。及川君は、選手のひとりひとりを本当に良く見てるんだねぇ……。僕には技術的な事はわからないけど、ああやって、チーム全員に声かけて、要所要所を的確に言うっていうのは、そう簡単じゃないって事はわかる。技術的な事が必要なら更に難しいんだろうね。烏養君は、火神君と及川君は 同種って言ってたけど火神君も3年生になったら、あんな風になるのかな………?」

「……………」

 

青葉城西の練習光景を見た武田は、そう呟く。

一度目の練習試合の時は、及川は居なかった。でも、今はチームキャプテンとして 全員を引っ張る主将としてコート内に立っている。

練習試合はついこの間だった筈なのに、不思議と全く違うチームの様に見えてしまっていた。

 

 

「それは、無いと思います。………絶対」

 

 

因みに、横で聞いていた清水。

武田が、火神が3年になったら及川と同じになる? と言う点に着目。

及川は、飄々としていて 肩の力を抜き、味方にもそれを見せる事で余計な力を入れない様にしているのが解る。その部分に関しては言う事無しだ。

 

でも、まだまだ今はどちらかと言えばお守り役っぽい部分が目立つ火神。

時折、度が過ぎる様なら 澤村に迫る勢いで怒気を発して見たり、時折、柔軟に あんまり触れてほしくない場所をここぞと言う所で突いて修正掛けたりと、正直同種でもタイプが違うと言えるだろう。

 

更に更に、清水が【絶対無い】と言い切る部分には他にもあった。

 

 

 

【おいかわさーーんっ!】

【きゃーー! おいかわくーーんっ! がんばってーー!】

【かっこいいっっ!!】

 

 

色んな所で聞こえてくる青葉城西の女子の声援。

そして、それに応える様に声が聞こえては爽やかな笑みを浮かべて手を振り返す仕草。

 

あの光景を火神に置き換えてみると――――。

 

 

「絶対無いです」

「で、ですよね。わかりました」

 

 

言いようのない、如何とも形容しがたい圧力が武田の身体全体に吹き荒んできた。

 

なので、早々に先ほど【火神は及川みたいになる】と言う意見を否定する武田だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「整列―――!!」

 

公式WUも終了を告げ、先ほどまで騒がしかったコート内も一気に静まり返る。

まさに嵐の前の静けさ、試合の前、主審の笛の合図が掛かる寸前の僅かな沈黙。

 

 

ピーっ! と言う笛の音が響き渡ると同時に3回戦が始まる。

 

 

【お願いしあース!!】

 

 

エンドラインに整列し違いに向き合い、一礼をした後にネット側へと集まる。

 

 

「やぁ、せいちゃん。それにトビオも」

「「!」」

 

 

試合前の礼が終わったその時、及川から声を掛けられた。

 

「まさに烏野の天才2人組だネ。今日は本当に楽しみにしてたんだ。……是非とも、白鳥沢倒す前に、2人を纏めて負かしてあげたいって思ってるから、そっちも頑張って喰らいついてきてね〜?」

「…………」

 

このタイミングで堂々とした宣戦布告を受けて、影山は思わず押し黙った。 

 

及川の実力を知ってるが故に、直ぐに返答、と言うわけにはいかなかった様だ。

でも、ただ黙ってるだけなわけ無い。

 

溜めて溜めて溜めて……と力を声に変え、溜めて放とうとしたのだが、その前に、火神が一歩前に出ていた。

 

 

因みに今の火神は普段の優等生……ではない。

いつもの対戦相手に対する礼儀。笑顔で礼儀正しい、憎めない顔じゃなく、……何となくジト目を向けられていた。

 

勿論、及川に。

 

 

それを見て思わず、ぎょっ!! としたのは及川。

 

 

【こっちも負けませんよ!】

 

 

っと、これまた憎めない満面の笑顔で返礼が来ると思ってた。若しくはもう1つの方(・・・・・・)を考えていたのだが……。

 

その及川の疑問はこのあと直ぐに晴れる。

 

 

「昨日、テレビ見ました。ああいうの……テレビじゃなくて、ここで直接言ってもらいたかったです………」

「はうっ!!?」

 

 

その言葉は、槍となり刃となり、及川を貫いた。

 

火神はテレビの内容の事について不満たらたらだったと言う事。

 

火神が言う様に直接言われる事は光栄極まれり! と思うんだが、流石にテレビ中継と言う超がつきそうな公の場でとなれば話は別だった様子。

 

理由のひとつとして、何だかんだ及川のテレビの内容で、他の皆さん(・・・・・)に絡まれてしまったりもしてるので。

 

 

「ほーら、言った通りだったろボゲ。ウケるわけねーだろうが」

 

 

直ぐ横で岩泉がダメ押しの一言で及川の頭に一撃を入れる。

 

ネタバレをすれば、あのテレビ中継での及川に対する質疑応答の件で、岩泉に言われていた事があった。

 

あれじゃ火神はきっと、色々とウザがられてる、面倒臭がられてる、突き詰めれば嫌われている、的な事を及川に言っていた。

 

そんな及川は、岩泉とは真逆であの場面でちゃっかり火神の事を匂わせた発言をする事で色々と挽回? 出来るだろう、と考えていたりするのだ。

 

そもそも、自分達の後輩たちならいざ知らず、対戦相手にそんな敬意や尊敬の念を集めなくても良いだろ? と思ってた岩泉は呆れ果てていたりもする。

 

でも及川にとっては、可愛げのなさでは屈指、強烈な影山と言う後輩が居て、それと同級に可愛げがあり、礼儀正しく、天才っぽくても憎めず爽やかな後輩(になる予定だった)が居て どうしても岩泉達の意見を一蹴したかった。

 

【アレって、オレの事だったんですか!? 及川さんに認めて貰えて嬉しかったです! ありがとうございます!】

 

と言う返答を期待していたのに……、まさかの極寒の目(ブリザード・アイ)を向けられて大ダメージだ。

試合前なのに。

 

 

「え、ええ! でもでも! 良い事しか言ってないじゃん!! 寧ろ、良い子っていったじゃん!」

「うっせーボゲ! てめーの物差しで測んじゃねぇってこった! おら行くぞ!」

「ぐえっ」

 

あまりにも長くいて、主審に注意受ける前に、ずるずると引き摺られる形で及川は去っていった。

 

 

「……ちょっと言い過ぎたかな?」

「イイや! 良くぞ優男にダメージを与えてくれたぞ! 火神君!」

「その通りだぜ誠也! 女子にキャーキャー言われるようなヤツにゃ、お灸が必要ってなもんだ!」

「や、いや、そこはお灸じゃなくて、バレーで勝負しましょうよ」

「影山くん、せいやに取られちゃって、【負けません!】 って さっき大王様に言えなかったね! ドンマイ!」

「うっせぇボゲ! 試合で勝って返答すれば良いだろうが!」

「おうよ!! 俺もだ! 絶対負けないぞ!!」

「(影山のボゲ(・・)は、岩泉さんの受け売りだったりするのかな)」

 

 

烏野側もささっと戻ってきていた。

あまり、長く時間かけてたら、それもおしゃべりを長くしてたら主審からの注意モノだ。それに加えて澤村からのキツイ注意も受ける可能性があるので、しっかりと火神が促した形である。

 

 

「影山、翔陽。及川さん、聞いてるよさっきの」

「?」

「【試合に勝って返答】と【絶対負けないぞ】ってヤツ。……ほら」

 

青葉城西側のベンチを見てみると、当然ではあるが 先ほどまで、ダメージ? みたいなのを受けた様な気がしたが、全くそんな気配は無かった。気合も集中力も全て申し分ない程上がっているのが、その表情を見て解る。いつものチャラけた姿は、もうあの場で終了だと言う事だ。

 

影山は、及川の視線を受けて、しっかりとその視線を見つめ返しながら答えた。

 

 

「……今回も、「絶対負けませんっ!!!」っス! ってボゲェ!! カブってくんじゃねぇよ日向コノヤローーー!!」

 

 

最後の最後まで、なかなか締まらなかったが、その意気込みは十分に伝わった様だ。

及川の表情を見ればそれはよくわかる。

 

 

騒いでいた面々も、完全な戦闘モードに切り替わる。

チーム全員が武田の方へと注目した。

 

 

「さて、皆は一度青葉城西に勝ってますね。たとえその時、相手が万全でなかったとしても、勝ったと言う事実は、自信の根拠にして良いと思うんです。……決して、慢心ではありません。各々の自信に! 自信を持って、ぶつかってきてください!」

【ハイ!!】

 

 

 

【烏野ファイ!!】

【オーース!!!】

 

 

 

 

烏野高校と青葉城西高校の試合は、この区画(ブロック)の中でも特に注目すべき試合へと変貌を遂げていた。

最初は、伊達工が順当に勝ち上がっていくだろう、と言うのが凡その予想だっただろう。だが、一体この試合会場の中の誰が、有力チームである伊達工をストレートで下すだろうと想像出来ただろうか。

 

 

紛れもなく、烏野は強豪。―――もう、【堕ちた】と言う言葉は、この場においては何処からも聞こえてこない。

 

 

そして、それを誰よりも感じているのが、練習試合で負けはしたが、立場的には受けて立つ側である青葉城西高校だ。

 

 

 

 

「―――10番に振り回され過ぎないように。コースを絞って止めれるものは止める。それ以外のものは拾う」

【ハイ!】

「11番の2種類のサーブにも特に注意しろ。……しっかりと見極めて(・・・・)見せろよ」

【ハイ!!】

 

 

言葉はこれ以上は最早必要ない。

後は練習してきた身体に聞く。どう動けば良いのか、どうすれば勝てるのか。チーム全体で最善を尽くす事、死力を出し尽くす事、それが勝ちに繋がる道だ。

 

 

「ぃよ~し、やるかあ! そんじゃあ今日も―――」

 

 

青葉城西の中で、誰よりも仲間を信じている。

絶対に負けない、と言う強い意思も持っている。

 

 

そして、それを証明するだけの力を、技量を、……仲間たちを持っている。

 

 

 

 

「信じてるよ。お前ら」

【――――――!】

 

 

 

 

今年こそは白鳥沢(王者)を食う。

烏野(ダークホース)に負ける訳にはいかない。

 

 

 

及川の言葉。

それは 青葉城西のメンバー1人1人の表情を変える一言。チームの空気を変えた。

 

その変わった雰囲気は、周囲にも判らせる程のモノ。

 

 

 

 

―――今、優勝候補の一角、青葉城西が烏野に牙をむく。

 

 


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