王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第64話 青葉城西戦④

 

 

 

「せいちゃんのサーブで一番厄介なのは、強力なスパイクサーブとジャンフロの2つを使ってくる事。……それも 直前までどっちを打ってくるか解んないトコにあるんだよね」

「そりゃ解り切った事だろ。お前はあの練習試合ん時 ボゲな怪我して最後しか出てねーから今更解ったかもしんねぇけどよ」

「いやいや、岩ちゃん何か嫌味っぽく言ってない!? ボゲな怪我ってなに!? 再認識とかそーいうつもりで言った訳じゃないから!」

 

 

それは公式WU直前のミーティングでの事。

火神のサーブの厄介さに関しては、最早知らない者などここには居ない。練習試合の時にも味わったし、昨年の北川第一のメンバーである金田一や国見は言わずもがな。

 

まさに緩急自在サーブの二刀流。

 

身構え過ぎれば前に落とす変化球サーブに追いつけないし、前に出過ぎてしまえば、強打の餌食になってしまう。考えただけでも駆け引きだけで頭が痛くなりそうなサーブだ。

 

少なくとも1,2回戦、伊達工も含めサービスエース以外では殆ど乱されており、火神のサーブを上手く攻略出来たチームは居なかった。どのチームも悩まされていた。

 

及川は一先ずこほんっ、と咳払いをしつつ 本題へと入った。

 

 

「スパイクサーブとジャンプフローターサーブ。確かに直前までどっちが来るかわかんないなんて、凶悪極まりない。そんでもって、凶悪なんて言葉せいちゃんには似合わない」

「うるせー。とっとと本題に入れ」

「いたっっ! わ、わかったって」

 

火神好き講義は、正直そこまで行くとキモチワルイ。

その内、本能的に火神が及川の事を嫌う日が来るのでは? と確信出来る程に。

そんな感じの事を岩泉が考えてたのを悟った及川は 変な意味でかまってるんじゃないと思いっきり否定しつつ、頭を掻きながら岩泉が言う通り本題へと入った。

 

 

「2種の厄介なサーブ。直前にどっちを打つか判らなかったサーブだけど―――見分けは出来ると思う」

【!!!】

 

 

ここまで引き延ばした結果、わかりませんで終わらせた日には 岩泉だけでなく、もれなく3年全員からシバかれる予定だったのだが、予想以上の答えが返ってきたので これまでの空気が一気に霧散し、張りつめた空気になった。

 

青葉城西にとって、火神のサーブの事、攻略法ともいえる情報は空気さえ変える程のモノだと言う事だ。

 

 

「伊達工戦ん時しか、映像無いから100%確実って訳じゃないんだけどね。……ただ練習試合の時にも何か薄っすらと感じてた。たぶん せいちゃんは、エンドラインから打つポジションまでの距離、若しくは歩く時の……歩数、かな。それでサーブを打つ種に合わせて調整してるんだと思う」

「距離? 歩数??」

 

皆の頭に疑問符が浮かんでいるのは及川もよく解る。

及川にしても、今回のサーブの見分けは はっきりと完全に理解できた訳ではない。

 

 

「ほら、TVとかで出る有名選手(アスリート)達もそう言うゲン担ぎ……ルーティンをやってる人って多いでしょ? 会場に入る時決めた方の足から入れるとか、点を決める前に構えるポーズとか、試合前に食べる物決めとくとか。多分せいちゃんもそれをやってるんだと思う。……そんでもって、アレは 単なる思い付きとか、その場で急ごしらえした様なモノじゃない。確固たる実績と練習の積み重ねた上でのルーティン。いつも最高の自分を出せる様にする為のものだと思うよ。まさに自己暗示ってヤツかな」

 

飄々と話をする及川だったが、及川にも通じるモノがあるのだろう、その話してる時に纏ってる雰囲気から最大級の賛辞が見て取れた。

 

まだ1年で、中学時代にも目立った実績なし。どれだけ調べても、雪ヶ丘中学以前のバレーに関する情報はない彼が、あろう事か いきなりの公式戦で魅せた技術。

 

賛辞を送るよりも、どちらかと言えば畏怖する。影山も同じ分類だと思えるが、それ以上にも感じる時がある。

何と言っても、烏野の問題児となっててもおかしくなかった天才(影山)を飼いならしたのだから。

まさに怪物で天才だ。

 

及川は、皆を見ながら手を軽く叩いていった。

 

 

「ジャンフロの方はまだ本数が圧倒的に少ないからさ。試合中に警戒して見ておくよ。色々と確信が出来たら、タイム取ってもらって説明もする。……確信出来たら、合図もそれとなく送るから、オレの方も見ててね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――試合開始。

 

厄介極まりない、と称した火神のサーブ。

及川は最初から最後まで集中して見ていた。一挙一動を逃すまいとその背を追う。

 

 

「(……線上で一度止まって、歩き出した)」

 

 

じっ、と観察した火神の仕草。

不自然―――とまでは言わないが、観察してみると普通に歩いているだけではない。明らかにエンドラインを意識しているのが解った。無論最初の1発目だから まだまだ確信は出来ない部分はある、が。

 

 

「(1……2……3……)」

 

 

頭の中で及川は 火神が歩いていくその歩数をカウントする。

伊達工戦で見せた大多数のスパイクサーブの時は6歩。―――それ以外の歩数だったら ジャンプフローターサーブである可能性が極めて高い。

 

そして、その結果が試される。

 

 

「(! よし……)」

 

 

及川は、火神が立ち止まって振り返ったのを確認すると同時に、相手には見えない様に腰に回していた手で人差し指をたてて、指を2,3度引き寄せる仕草をした。

 

決めていた合図の1つ。

手を返して指を引き寄せる動作は、前よりの陣形で迎え撃て、と言う合図。

 

つまり、次にやってくる可能性が高い球種は―――

 

 

 

【ジャンプフローターサーブ】

 

 

 

青葉城西全員の意識が合致した瞬間だった。

 

確かに理には適っている。或いは裏を取った。とも取れる選択だ。ジャンケンの手を考える様なモノなので偏にそう取れる訳ではないが可能性としては高いと判断できる。

 

何故なら現在、及川のサーブ、そして影山のサーブと続いたと言う点。

 

影山は外したとはいえ 強力なスパイクサーブの使い手たちがそれぞれ思いっきり打ったスパイクサーブだ。同じく威力に定評がある火神も心情的には2人に負けじと強力で強烈なスパイクサーブの方を選択する、とも思える。直情型とまではいかないが、相手の宣戦布告を正面から受け取っている所を見たら……そんな事はないとはいえないだろう。

 

そして、これまでの試合では全てがスパイクサーブで始まっていて、揺さぶりをかける時にジャンプフローターサーブを選択する事が多かった。

そこを敢えて、1発目からこれまでにないサーブを選択した。

 

 

「(せいちゃん。初球でジャンフロ(そっち)って、飛雄とオレの次なのに、流れぶった切ってくるって言うか何と言うか……策士だね。そういや、全然爽やかじゃないサーブを練習試合(あん時)もやってきたっけかな)」

 

 

及川は、あの練習試合の一番最後のサーブを思い返していた。

 

主審の笛の音とほぼ同時に放つサーブ。

慌てて打ったと言って良い状況下の中でも正確に無回転で打ち放ったあのジャンプフローターサーブは圧巻を最早通り越した感覚さえあった。

 

 

そして――その笛の音が場に鳴り響いた。

 

 

それと同時に全選手が構え、集中した。どのタイミングで打ってきたとしても、必ず反応する様に心構えて。

 

 

 

 

 

 

 

「(歩数はバレてる感じなのは間違いないかな)」

 

火神は、4歩歩きそして振り返ったその時、及川の目が光った様に見えた。

 

それと同時に、レシーバーの全員が半歩前に出てきたのが解った。

その陣形、姿勢は明らかにジャンプフローターに対応出来る様に身構えたと言うのも。

 

勿論、此処でスパイクサーブに切り替える、と言うのも1つの手として有りかもしれない。……が、火神は敢えて狙い通りのサーブで勝負する事に決めた。

 

 

 

火神は笛の音が鳴ったと同時に、目を閉じて額をボールに押し当てた。

初サーブは 与えられた8秒と言う時を、めいいっぱい使う様だ。

 

 

 

 

その8秒と言う僅かな時間の中で瞼を閉じた事で、火神の中に ある記憶が脳裏を巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

【でも、それじゃ相手にバレバレな訳じゃん? 折角どっちも強いサーブ打てるのに、それまで一緒とか宮んズファン過ぎでしょ、○○は】

 

 

 

それはもう遠い遠い過去の記憶。

本質部分は忘れずとも、もう細かな所が欠けてしまっていてるので大分薄れてきたって言っていい記憶。

 

その時も球種が事前にバレたら? と言う意見は勿論多々あった。

リスペクトしたこのルーティンの由来に関しては チーム内で知らない者は勿論居なかったし、同じく2種のサーブを操る選手として、大々的に雑誌で取り上げられた事だってある。―――それどころか 作者からの応援コメントまで頂いた記憶もあった。過去最大級の歓喜だったのは言うまでもない。

 

 

 

閑話休題。

 

確かに事前の動きで察知されてしまうと言う事は 折角の2種のサーブを持っているのにその有利性が著しく薄れてしまうのでは? っと考えられるのも事実だと言えるが それ以上に火神には ある自負があった。

 

それは これらのサーブは 何百、何千、何万と練習を積み重ねてきたサーブだと言う事。

 

100%決まるサーブなど存在しないのだ。

ならば、積み重ねてきたモノを信じ、自分自身は揺るぎない自信を持って臨むだけ。

色々と考えていた当時、その気持ちに想いにもう一押しし、身体と精神(ココロ)を合致してくれるのがこのルーティンだった。

 

 

―――心技体、全てが揃ったのなら バレる、取られる等考えない。どう打つか、どこに攻めるか、そして打ち切るイメージを持つ事。それらしか考えない。後は これまでの自分のプライドを全てボールに込める。

 

 

 

残り3秒。

 

 

しん―――とした静けささえ醸し出ていた空間を切り裂く様に、火神は瞼を開いたと同時に動いた。

 

 

 

―――全力で打つ。

 

 

 

両手で上げるトスの高さは、普段よりもやや高い。

バックスイングを使わない跳躍の為 普段よりも高く跳ぶ事が出来ないから高さは考えなければならないポイントではある……が、今はもっと出来る、この動作(モーション)での跳躍でも高く跳ぶ事が出来る、と火神は思ったから。

 

跳躍したその瞬間、これが自身の今出来る最高の跳躍であることを確信した。

 

そして、それは まるでバレーの本質……【繋ぎ】のようだ。

 

まるで全てが繋がってるかの様に、最高のボールトス、最高の跳躍、最後のスイングも最高そのものだった。

 

フルスイングをすると回転を殺しきるのが難しくなるので、そこまではしなくとも、限りなく威力をボールに伝える為に込めた。

そして、一撃は見事に寸分も違わずボールの芯を打ち抜いたのだ。

最高を繋ぎ合わせたサーブ、まさに会心の当たり。

 

 

「渡!!」

「っっ!??」

 

 

そして 長い体感時間後に動く時の早さはまさに一瞬。

 

青葉城西側にしてみれば、ボールが来たのは あの永遠にさえ思えていた緊張感ある空気が霧散したのとほぼ同時だった。一瞬で目の前にボールがやって来た。

 

火神が打った位置はお世辞にも良いとは言えない。

何故なら、その場所はリベロの位置だったから。

 

でも、これには理由がある。

 

影山の宣戦布告に便乗した上での先ほどのやり返し(・・・・・・・・)だ。

 

 

渡は、及川の指示通り 前傾姿勢で やや前の位置取りで構えていたが、ここまでの強打・高威力は予想外だった。 その影響で半歩出遅れた事により ボールが変化する前に迎えに行く事が出来ず、手元で最大級にボールがブレた。手元でボールがふわりと浮いたのだ。

 

その軌道の変化についていく事が出来ず、ボールは渡の指先を掠める様にして、後方へと弾き飛んだ。

 

 

烏野の本日初のサービスエース、今日初めてのリードである。

 

 

 

「っしゃあ!!!」

 

「ナイス火神!」

「ナイスサーブ! 火神!!」

「初っ端のジャンフロ~! 火神君きっつーい! てっきり強打で行くと思ったのに、オレも騙された!」

「ナイス火神!! もう一本!」

 

そして コートの内外問わず、大声援が飛んだ。

 

「ぬぅぅ………」

「そんな顔しても駄目だって、影山くん! せいやの勝ち! でも、オレだって負けねー

! いてぇ!!?」

 

日向の煽りを無言の蹴りで返す影山。

 

青葉城西のレベルの高さは知っている。

その相手から最初のサービスエースを一番初めのサーブで決めるその火神の技量と集中力の高さに改めて唸らせる且つ、影山は火神に対する対抗心を煽られた結果になった。

次は自分も、と。

 

 

 

「見えた。手元ですっげぇブレた」

「………あんなの取れなくてもおかしくないデショ。凄いねぇ、お父さんは」

 

山口は食い入る様に見つめている。

 

ジャンプフローターサーブに関しては、嶋田に頼み込んで仕事後に練習を何度もさせて貰っている。目の前の火神をお手本・理想にしながらも、基本動作と部活の練習外の時間の有効活用。嶋田に付き合って貰えるだけの時間めいいっぱい。

 

練習は積み重ねているつもりだ。自分の中では。

 

ただ、元々険しい道だと思っていたのに、今日のあの当たりで確信した。

火神はまるで当たり前の様に――日々最高を更新し続けているのだと。

 

少なくとも山口にはそう見えていた。

 

「………負けたくない」

 

ただ単に 口に出す事も烏滸がましいのかもしれない。

自分の想像以上に コート内で暴れている天才たちは練習を積み重ねてきたのかもしれない。少なくとも才能に胡坐をかいている様な男は1人もいない。

 

それでも、どんなに険しくても、山口はただただ只管前を見続けると誓った。

出来れば、直ぐ横に居る一番の親友(自分はそう思ってる)であり、一番の長い付き合いである月島も一緒に出来たら、とも思えていた。

 

そして、そんな月島はと言うと、何とも言えない感情に呑まれない様に軽口で誤魔化している最中だった。

 

あの火神のサーブにブロックにスパイクに、とまさに八面六臂の活躍を見せられてからだ。今まで見てきていたつもりだったが、今日はそれ以上かもしれない。

 

内に沸き出てくる感情は、誤魔化してはいるが、考えるまでも無い。

 

認めたくないが 嘗て自身の身内(・・)に向けていたソレ(・・)に間違いなく似ていた。

似てると思いたくないのと同時に。

 

「………(負けたくない)」

 

強く強くそう思い直す。負けてたまるか、と言う強い気持ちで上書きした。

 

実を云えば、この感覚は2度目。あの及川のツーアタックをゲスブロックで止めて見せた時も同じく感じていた。

 

あの時(・・・)、何度も何度も確認した。ある事を認めたくなくて、どうしても認めたくなくて 他人の言葉など信じず確認し続けた。

 

 

何度確認しても、同じだった。……身体が小さいだけのモンスターに全部喰われていた。

 

 

 

傍から見た時は、言いようのない形容しがたい感覚。……バラバラになっていくような感覚だった。歳を重ねても尚、不快感だけが頭の中に残った。……今もまだ燻り、残り続けている……が、今はまた違う感情も生まれている。

 

今 色んな意味で、自分にとってのモンスター(・・・・・)とも言える男が前に居る。

あの時(・・・)と同じ様に。でも感じている事は全く違う。

 

外と中とでは、こうも違うのだろうか。あの時の見ていた側とやってる側の気持ちは。

 

月島は自然と拳を強く握りしめていた。

 

 

 

 

 

「うはっはっは!! やっぱすげーすげー! ナイスサーブだ! 火神!!」

【アス!】

 

思わず烏養は スタンディングオベーション。

立ち上がって拍手喝采を火神に送った。序盤だろうが中盤だろうが終盤だろうが、どんな場面でも、見せつけてくれるこのビッグサーバーは、紛れもなく全国クラスだと実感した。

 

その直ぐ横に居た清水も、立ち上がりこそしなかったものの、思わずバレーノートを手元に置いて拍手を送っていた。

 

「凄い。火神、リベロから点を獲りました」

「そうですよ清水さん! 凄いですね! さっき及川君がしていた事、烏養君が言ってたことをそのまんま、火神君がやり返した形になりましたよ!?」

「おうよ! 向こうのリベロからのサービスエースだからな! ……って感じで、普通は此処でさっき言った様にリベロが取れないボールを……って、苦手意識もったりする所なんだが、正直それは望めねぇ感じだな」

 

烏養は拍手喝采を火神に送りつつも、しっかりと青葉城西の事は見ていた。

あのサーブを拾えなかった事でチームの雰囲気悪くなったり変わったりした様子は今の所見受けられないからだ。

まだ早計だとは思うが……、少なくとも全国にはまだ歩を進めれてなかったとしても、4強に長く君臨する青葉城西。決してその体格や技術、チーム力だけでない。メンタル面も間違いなく強いのだろう、と烏養は認識した。

 

 

 

 

「すいません!!」

「いや、声かけるの遅かった。こっちこそ悪い」

「……めっちゃ浮いた。あんなん目の前に来たらMAXで混乱するわ」

「ふぅ……、これがあるからジャンフロは嫌なんだよね。せいちゃんのジャンフロ、変化に加えて威力も上がってんじゃない?」

「正直 考えたくねぇけど、あの威力だって事も考えて、何としてもあげていくぞ。勿論スパイクサーブも頭に入れ直しとけよ」

【ハイ!】

 

 

見事に打ち抜かれてしまった青葉城西側。烏養が言う通り、皆で集まって修正をかけている様だった。

取れなかった渡が苦々しい顔をしているのは判ったが、その表情も及川や岩泉の一言二言で直ぐに持ち直していた。

 

すぐさま立て直す一人一人の気の持ち方とそのチームワークは流石の一言だ。

 

 

 

「火神君のサーブは僕の目から見ても解るくらい物凄くブレ(・・)ましたが……、青葉城西(あちら)は一切ブレ(・・)る様子がありませんね……」

「何上手い事いってやったって顔してんだよ、先生」

「っっ! そ、そんなつもりは無いですよ??」

 

したり顔な武田にチクりと一言ツッコミを入れつつ、烏養は良い具合に毒気抜かれたので 改めて青葉城西の様子を確認。

武田ではないが、確かにブレる様子は見せない。まだタイムアウトも取ってない所を見ると、ベンチ側もある程度は想定していたのだろうか、落ち着いている様だ。

今回が初対決じゃないと言う点も恐らくあるだろう。青葉城西に勝つ事が出来たと言う自信に繋がる結果になったが、向こう側も大きなメリットがあったと言う事だ。

 

「よくよく考えりゃまだ序盤も序盤なんだ。勝負はこっからだぜ」

「「はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西のベンチ側。

烏養が言う様に、選手達同様落ちついていた。

 

「今のはコースも非常に取りづらい上に、威力も想定以上だった様だな」

「はい。渡も上手く反応は見せていたんですが……あれは……」

「うむ。手元で浮いた。こっちが見てる以上に大きなブレを渡は感じただろうな」

 

苦笑いしつつ、冷たい汗が身体に伝うのを感じる。

末恐ろしい、と言う言葉は一体何度この男に使えば良いのか、最早判らない。烏野関連で何度目の驚きか判らないまさにビックリ市場。

 

「ですが、監督。恐らく及川が言っていたのはほぼ間違いないでしょう」

「ああ。オレも数えてたよ。……ジャンフロが4歩。スパイクサーブに関しては、及川が言う様に4歩以上。助走距離を考えてみたら、ジャンフロより短いとは考えにくいしな」

 

頬杖を突いていた身体を起こすと、深くベンチに座りなおした。

 

「厄介極まりないサーブではある、が 反撃の入り口に立つ事は出来たと言う事にしよう。知った所で獲れると言う訳ではない、が心構えがあるのとないのが違うのと同じく、知っているのと知らないのとでは雲泥の差だ。……それに今のアイツらを見たらまだ心配は無いと思うよ。……目が変わった」

 

集中力がまた一段階増した、とでも言いかえるべきか。

決して集中してなかった訳ではない。烏野に負けたあの日のリベンジとして、より集中し、力を溜めていた筈だったが、まだ更に上があったかの様に感じた。

 

火神個人の厄介さ、凶悪さは、それに負けまいとする、負けてたまるか、と言う気持ちに更に火をつける結果になったのだろう。

 

「う~む。牛島君の時にも似た様な感覚があったんだが、今日は また一味違うな」

「ああ、白鳥沢の。牛島は、3年ですし、火神は1年、と言う面もあるのでは?」

「多分な」

 

大きくて強い……と言えば、現時点で言えば間違いなく宮城県で1番の白鳥沢だろう。何度も対戦したが、幾度となく阻まれた。

その時も及川を始め奮い立った。届きはしなかったが、それでも着実に迫る場面は幾らかあった。……似ていると言えば似ている。何となく違う気もするが。そこは溝口が言う様に、怪物、天才と言われてもまだ相手は新人(ルーキー)、と言う面があるのだろう、と解釈した。

 

天才でも怪物でもまだ1年。

そう何度も取られてたまるか、と言う気持ちが強く出ている、と。

 

 

 

 

 

そして、そのそれらは、次のサーブで更に解りやすく現れた。

 

 

火神の2本目のサーブ。

歩数は先ほどと同じエンドラインから4歩。

 

最初のサーブで間違いなく普段より調子が良いと感じた為、同じくジャンフロで勝負する事を選んだ火神。

 

笛が鳴って5秒後……渾身のジャンフロを打ち放った。

 

この1発も先ほどの1発に勝るとも劣らない完璧。まさにイメージ通りだった。威力も有り、回転も完璧に殺してのけた。

自分の手を離れたボールは、迫る直前 まるで意思が宿ったかの様に不規則な動きをする……が。

 

 

「オレが取る!!! ……っがぁ!!」

 

 

打った瞬間から即座に見極めたのは、岩泉。

今度はヨコにブレた球となったりオーバーでは無理と即座に判断、身体を捻らせながらアンダーで見事に拾い上げた。

 

「だっしゃああ!!」

 

「ナイス! 岩泉さん!!」

「うわぁ、今めっちゃ曲がった。変に曲がったのにすげー反応」

「ナイスレシーブ!!」

 

 

上げたのと同時に、歓声が響き渡る。

それ程までに取りにくいボールだと感じていた為だ。

 

「岩ちゃんナイスレシーブ!」

 

及川は、見事にアタックライン内側まで上げてくれた岩泉を労いつつ、即座に落下点へと入った。

 

 

及川がいる地点、間違いなく完璧に拾って見せた岩泉は心の底からガッツポーズを見せた。

間違いなく今のも最高級の一撃、一瞬で目の前にボールがきた厄介極まる一撃だった。

それをあげて見せたこのレシーブの快感は解る者にしか解らない。

 

「(何度だって上げてやる、もっと俺に来い!)」

 

岩泉は闘志を剥き出しに、次の攻撃準備へと走るのだった。

 

 

 

 

そして、及川がちらっ、と見た先に居るのは金田一。

 

先ほどの火神のサーブの印象が強過ぎて忘れがちになったが、そんな事はない。しっかりと覚えている。

 

及川が、【安心して跳べ】と言ってくれた事を間違いなく覚えている。

 

 

迷いは一切なかった。Aクイックをするために跳躍した。

 

その入ってきた金田一に合わせる及川。

囮に使う事をせず、金田一同様迷わずトスを上げた。

 

 

対面に居たのは日向だけの1枚。

 

打ち抜かれる可能性は間違いなく高いが、火神はたった1枚でも及川のブロックを当てて見せた。負けない、負けたくないと言う気持ちは日向も強く持っている。

 

 

「(Aクイック! 次は、オレが止める……!!)」

 

 

金田一が入ってきたのと同時に跳ぶ。

ブロック到達点は日向の方が圧倒的に低いが、それでも思いっきり両腕をスイングしての跳躍。助走してからの跳躍とは比べ物にならないが、それでもいつものブロックより打点は間違いなく高くなった。

金田一に上がる、金田一が来る、と見切りをつけていたから出来た芸当でもある。

 

 

次は自分が止める。負けたくない気持ちと、MBと言うポジションもあって。

 

 

……だが。

 

 

「(あれっ!?)」

 

想像していたイメージと全く違った。

金田一の高さ、打点は知っていた。中学時代から知っているつもりだった。

あの中学の試合の時にも何度か当てた記憶があるし、高校に入っての練習試合でも ブロックで完全にシャットする事は出来なくとも、当てたりする事くらいは出来ていた筈だった。

 

金田一の打点は知っているつもり―――だったのに。

 

 

 

「翔陽! 皿ブロック!!」

 

後ろから火神の叫び声が響くが、手遅れ。

金田一のAクイックからの攻撃は、日向のブロックよりも遥かに高い打点で打ちおろされた。西谷と東峰の丁度間を貫く一撃。高い打点からの強打には流石に食らいつく事が出来ず、そのまま青葉城西のポイント。

 

カウント4-4のイーブンへと戻す一撃。

 

 

「いいぞ! ナイスキー!」

「もう1本!」

「金田一ナイス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

点を獲られた。取り返された。

それは理解できる……が、日向には違和感が拭えなかった。

 

それは、直ぐ横で見る事が出来た澤村も同様。

 

 

「くっそ! スンマセン!」

「いや、アレは無理だ。西谷」

 

反応は出来た、だが全然届かなかった事を謝罪する西谷だったが、澤村がすぐさま諫めた。あの打点からの打ち下ろしを反応して取るのはかなりの実力に加えて運も必要になってくる。

火神や西谷の2人はスーパーセーブを見せる機会が多いのだが、取れないものは当然あるのだ。

 

だが、澤村はそれ以上に感じる事があった。

 

「……気のせいかな。あの12番、練習試合の時より高く跳んでる気がする」

「!! そ、それです! 澤村さん! オレもそれ、感じました」

 

日向の違和感の正体をはっきりと明確に指摘する澤村。

お陰で教えられるまでも無いと思うが、日向はある程度スッキリする事ができた。

 

だが、新たな疑問も当然ながら生まれる。その疑問は東峰が口に出した。

 

 

「でも大地。ジャンプ力ってそんな短期間で伸びるもんか?」

「……だから、気のせいかも、って事だ。日向のブロックだって決して低いって訳じゃないと思うが……、その上からだからな」

 

ジャンプ力は鍛えれば当然伸びる所までは伸びるもの。

瞬発力、バネだからある程度以上の高さともなれば、持って生まれたモノの影響が著しく影響する事もある。その極端な例が日向だろう。

 

だが、全体重を抱えて宙に跳ぶジャンプは、東峰が言う通り短期間で伸びるとは思えない。

 

「後ろから見てました。……金田一(12番)の打点、澤村さんが言う通りあの時より上がってたと思います。練習試合の時、今みたいな場面、丁度 翔陽と金田一の同時ジャンプ、似た様な場面がありましたから」

 

気のせいかも、と言った澤村をはっきりと肯定したのが、サーブを打ち 後ろから皿ブロックの指示を声に出した火神だった。

 

「マジか。……この短期間で伸ばすなんて」

 

低く見積もってた訳ではない。

北川第一出身で、4強 青葉城西高校、高身長に加えて 1年でレギュラー。間違いなく強豪選手の1人だ。それでも、跳躍の成長速度に限って言えば、十分異常だと取れる。

 

「勿論、練習試合の時がMAXじゃなかった、と言う可能性もあります」

「……それもそうだな。これだ、って正解がある訳じゃない。ただ、あの12番の跳躍は 練習試合の時より高くなってる、っていう想定だけは捨てずに行こう。日向も混乱してたが、今後も届かないと解ったらタイミングを考えて……」

「皿ブロック、ですね」

「そうだ。日向の反応の良さ、速さなら追い付ける。俺たちはワンタッチを見逃さず拾って繋げよう」

【アス!】

「おう!」

 

金田一の跳躍に関しては、十中八九間違いない情報を火神は持っている……が、ここで懇切丁寧に説明するメリットは正直ないし、なぜ知ってるんだ? と言う新たな疑問が芽生え始める可能性も捨てきれないので、敢えて火神は細かな説明を省いた。

当然だ。……普通は知る由もない事なのだから。

 

 

だが、影山にはある程度伝えた方が良いのかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

金田一を見る目が、日向以上だと火神は感じたから。

 

 

 

 

 


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