王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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ようやく1セット目……、
かなり大変でした……苦笑

これからも頑張ります。


第69話 青葉城西戦⑨

火神の一撃。

それは場を巻き込み、今日一番の盛り上がりを見せていた。

 

 

「うっはーーー!! ここで1人時間差!! マジかーー! 青葉城西のブロックって、チビちゃんを除けば基本リードっぽかったのに、よく打ち切ったなぁ!?」

「つか、メッチャ溜めたな! あんまポピュラーな技じゃないし、見ない技だってのに、やっぱスゲェ度胸! 使うタイミングもえげつなっっ!!」

「やっべ! やっっべっっ! かがみん ちょー最高!! マジ最高! ちょー頼りになるぅっ!」

 

 

勿論やんややんや~~、と烏野OBの2人組も場の盛り上がりに比例するようにお祭り騒ぎだった。

 

まだ点差はあり、相手は後1点でセットポイント。

ピンチには変わりないのだが、勢いと言うものがどれだけ大切なのか、それはよく知っている。

こういった強気なプレイが、それによってもたらされた得点が、上がっていくムード、その増し方が、良い流れを生むと相場で決まってるのだ。

 

 

 

「せいやーー!! やっぱ、それオレにも教えてーーー!」

「見様見真似でやってみれば……って言いたいけど、翔陽には向いてないんだって、1人時間差(コレ)。何回も言ってるだろ? なんせジャンプする時 助走出来ないんだから。垂直跳びじゃ、高さが出ないぞ」

 

びょーんっ! と宙を飛んで迫ってくる日向を押し戻す火神。

また断られた事を少なからず落胆する想いがある日向だったが、一先ず今は喜びの方が強いので負けじと迫っていた。

 

「火神ナイス!」

「あそこで1人時間差かぁ……、オレも騙された」

「ははっ! まったく頼りになるぜ!」

「…………ナイス」

 

烏野側も大盛り上がり。

このままの勢いで行く! と雰囲気上々だったのだが、影山だけは やはり気が気じゃない様子だった。

 

ブロッカー陣を気にし過ぎて、攻撃を早く早くを意識し過ぎた事、そして あの及川との空中戦。

 

自分で自分の首を絞めてしまっていた事を気付かされた(・・・・・・)

 

「影山、もっと身体の力抜いて周りを見ろ。さっきコーチにも言われただろ?」

「……おう」

 

 

 

 

 

 

要所要所では、先ほどの火神のプレイや日向掛け声で 影山も気を取り直し、修正をしつつあるようだが、完全に吹っ切れてる様子は見られない。

持ち前の技術の高さで不安定さを抑え、補っている様だが、いつミスを起こし、崩れたって不思議ではない。

 

それ程までに、青葉城西は…… 嘗てのチームメイトとの戦いは重たいモノなのだろうと言う事がよく判る。

 

だから、この辺りで一度頭を冷やすのが或いは一番かもしれない……が、ここで影山の交代は、ブレイクを取り 押せ押せムードにブレーキをかけかねない。影山のメンタル面は兎も角、技術の高さは未だ健在だから。

 

 

その辺りは、烏養自身も感じている所なのだろう。一先ず菅原をアップはさせているが、交代のタイミングを図っている。

プレイしながら、焦る気持ちを落ち着かせる……と言うのは非常に難しい。

 

 

菅原自身にも、この局面での交代―――と言うのはプレッシャーがかなりデカくなりそうだ、と心配する……が、当の菅原の表情は 決意で満ち溢れていた。

 

 

【影山が疲れた時、何かハプニングがあった時、穴埋めでも代役でも、3年生なのに可哀想(・・・・・・・・・)って思われても、試合に出られるチャンスが増えるなら何でも良い】

 

 

烏養の脳裏に、菅原に言われた言葉が過ぎる。それは 嘗て 烏養がセッターの事で迷いを見せていた時に菅原に言われた事だ。

 

ここで菅原への心配は、菅原のあの芯の強さを疑うに等しい事だ。

 

 

「……その時が来たら、遠慮なく出させてもらうぜ」

 

烏養は、菅原を見て にっ、と笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

烏野とは実に対照的に、今回に限っては青葉城西の雰囲気もいつも通り、とまではいかなかった。

特に金田一が一番気を動転させている。

 

「くそっっ!!」

 

拳を握りしめ、歯も思いっきり食いしばる。

あの火神の一人時間差は、前の練習試合でも、……そして、中学時代にも辛酸を味わされたモノだ。MB(ミドルブロッカー)として、その上から打たれる事は………正直、これ以上ない、と言える。

 

あの釣られてしまう感覚、あの悔しさはずっとずっと残っている筈だったのに、また抜かれた。

 

そんな金田一の背を軽く叩くのは及川。

 

「ドンマイドンマイ、今のは仕方ないよ。金田一だけじゃない。オレらだって釣られたって」

「こっちもだ。なんせ今の……直前まで マジ(・・)に見えたからな。……跳ぶ瞬間に、俺らが跳んだのを見てから(・・・・)一人時間差(アレ)を選んだ、って言われても驚かねぇぞ」

 

火神の事を称賛しつつも、その表情はかなり険しい。そして、火神の事を素直に称賛してしまう自分達にも何だか悔しい、と思ったりもしていた。

 

完全に裏をかかれた。

 

3枚ブロックを揃えた。更に言えば、日向という厄介極まりない囮が最大に機能しているという状態で、火神に上がると読み切る事が出来た。

 

そこまでは良かった――が、捕えた! と思った一瞬の気の緩みからか、火神のあの殺気にも似た気迫があったからか、最後の最後で読み合いに負けた。リードブロックでなら、対処出来ていた筈の攻撃に。

 

 

素直に称賛する。でも心底悔しい。負けた事に対するイラつきもある。そして 負けてたまるか、と言う気持ちも強い。

 

だが、それ以上に感じている事もある。

 

 

―――自分達は あの男に引っ張られる(・・・・・・)

 

 

そして 間違いなく、今日烏野と試合する前より、試合をする直前の自分達より、今の自分達の方が強くなっている、と。

 

それが一番感じている所。

 

不快と同時に心地良さをも覚える。

 

正直 かなり矛盾していると思う。だからこそ、ある意味笑えてくると言うものだ。

 

 

「ほんっと怖いよね~。トビオのアレを尻拭いしただけでも驚きなんだけど、尻拭いする為に全力でレシーブに跳んだ挙句、直ぐに立ち上がって攻撃に参加。それだけでもヤバめだし、十分過ぎる程奇襲なのに、あそこから更に仕掛けてくるなんてさ」

「ああ。だが 無茶な事をやってるわけじゃねぇ。兎に角、火神の事はリードブロック主体を頭に入れ直そう。ブロックアウト狙ってくる可能性も高くなるが、普通に抜かれるよりはマシだ」

「おう」

「はい!」

 

3年の中心である及川と岩泉の2人が金田一を支える様に背を叩いた。

そして、それを繋ぐ様に他のメンバーも集まって一度軽く円陣を組んだ。

 

自分達も裏をかかれた事に対して思う所が無い訳がないと言うのに……と、金田一も思い直して、大きく頷きながら、円陣に加わる。

 

確かに思わず笑ってしまうが、それ以上に思う。

置いていかれたりはしない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後のタイムアウトを使うか否か、入畑は迷っていたが、選手たちを見て、まだ点差があると言うのも含めて、タイムアウトを取るのを止めた。

 

そして、思い浮かべるのは先ほどの攻防だ。

 

 

「(仮に、アレを、いや これまでの攻防も含めて【セッター対決】と言うのであれば、オレは間違いなく軍配は及川に上がる、優れてるのは及川だと断言出来る)」

 

バレーは 決して技術だけじゃない。

技術も勿論必要だが、試合の組み方、チーム全体を見る力、チームメイトへの鼓舞、チームメイトの調子の具合の確認などなど、欠かせない要素が様々あるが、それらを総合的に考えると贔屓目なしに考えても間違いないと言える。

 

 

 

だが、やはり考えてしまうのは火神と言う男の存在が脅威だと言うことだ。

何度目か判らないが、何度でも言うだろう。

烏野は確かに目を見張るほどの強さをこの数ヵ月で身に付けている。

それ以上に脅威なのが火神なのだ。

 

烏野の強さの絶対値をより高く上げていると実感していた。

つまり、及川が勝っていたとしても……あの火神が影山をより高くあげてしまうのではないか、と思えるのだ。

 

 

「(確かに、点数的にはこちらが優勢。……だが、要所要所、重要と思える場面。ここぞと言う場面では必ず取り返してくる。決してリズムに乗せない。それでいて仲間達を徐々に、……確実に上げて(・・・)きている)」

 

 

たら、れば、もしも、を言いたくはないが……、もしも、火神と言う男が烏野に居なければ、居なかったら……。

 

「(烏野のサーブのあそこまでの強化もない。1人と2人だけじゃ大きく違う。スピード呪縛。ブロックから逃れたい一心だった、あの影山の少しずつのズレ、軈て来る大きなズレを修正出来なかった。……及川の攻撃指揮が最大限に決まっていた。もっと点差が付いていてもおかしくない。それにうちに来ていてくれたら…………)」

 

序盤の意表をついた及川のツーアタック。

烏野の陣営で、あの攻撃に気付けたのは外から見ても明らか……火神ただ1人だった。

それに緩急自在のサーブに加えて、高いレシーブ力、攻撃力。……それらに加えて日向と言う優秀で凶悪な囮が歯車として噛み合えば、その効果は倍では済まない。

 

そして、幻と化した及川と火神のコンビ……。

 

 

 

 

「いや、止めよう。仮定など無粋な考えを起こすのは。……それに、上がっている(・・・・・・)のは相手だけじゃないんだ」

 

入畑は首を軽く振った。

確かに青葉城西は火神と言う選手は狙っていた……が、彼は烏野と言う高校を選んだ。それだけだ。少々どころかかなり惜しい相手ではある、が現実を変えれる訳が無い。

 

 

―――問題は、この相手にどう勝つか。

 

 

それだけを考える様に、入畑は気を引き締めなおす。

 

そして、先ほど言った通りだ。

今の――選手たちを見ればよく解る。今この瞬間も間違いなく躍進している事が。

そして、その成長を喜ばしく思う。

 

もっともっと見ていたくも思う。

だからこそ、この試合を勝利と言う形で乗り越えなければならない。

 

より、高みへと行く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「旭さんナイッサー!」」

「落ち着いて行けよ! 旭!!」

「ああ!」

 

 

東峰のサーブで試合再開。

オーバーハンドサービスである為、サービスエースを狙える威力のあるサーブではない。崩れる可能性も少ない。

だが、今の烏野の勢いなら ブロックで抑え、レシーブ力でカウンターを決める。今ならいけると思える。

 

「(今は無理でも、必ずアイツらみたいなサーブを。……武器になるサーブを打てる様に)」

 

東峰は、ボールを見送りながら決意を新たに持つ。

流石に。この場でぶっつけ本番の強打をうつ様な強心臓は東峰は持ち合わせていない。ガラスハートな彼以前の問題だ。

練習も出来ていないサーブを本番で思い切って使うなど愚行も良い所。

勇敢と無謀は違うし、相手にも味方にも失礼だ。

 

だからこそ、自分が出来る全力をやる。それでいて、味方の今の勢いを信じる事にした。

 

東峰が打ったボールは問題なく青葉城西側へと向かっていく。

 

だが、東峰の考え、そして今の烏野の勢い。それらは一蹴される事になる。

 

青葉城西、ここでも地力の強さを見せたのだ。

 

()っつん!」

「おう!」

 

松川のレシーブ、そして及川に返球。

そしてその後、の攻撃。金田一もそうだ。

 

金田一も気負いは一切ない。ただこれ以上ブレイクはさせない、必ず切る、それだけを考えていた。

 

 

流れる様な連携で、一切の淀みもなく、更に加えるなら強気なのも忘れていない。

 

「金田一!」

「っあああ!!」

 

「っぐ!!」

 

火神が警戒している側を金田一が見事に打ち抜いて見せた。

先ほど、僅かにでも生まれた気負いを払拭する勢いのある一撃。

 

だが、それ以上に特筆すべき点は、烏野の中で長身の月島と同じかそれ以上にブロック警戒すべしとしているであろう火神(相手)の方をあえて抜いてきた事だ。

 

 

24-21。

青葉城西セットポイント

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もっと他に無難な手もあった筈なのに、あの攻撃を選んだ及川も及川だが……、他の奴ら全員の気迫も半端じゃない。そもそも 青葉城西(アイツら)に総崩れ、みたいなのは無いのかよ!)」

 

あの一連の流れを見て、澤村は思わずそう頭の中で愚痴ってしまう。これが四強の一角、その実力なのだろうか。

 

その実力には思う所はある。

外で見ていた時も、中でプレイしている時も、何度も何度もあった。

 

澤村は、様々な試合を観戦してきた。

 

これぞ、流れを変える一撃!! と思えるプレイも何度も見てきている。

 

そして、これまでに見てきた流れを変えるプレイ(それ)と何ら遜色ない攻撃をこちら側もしていると思っている。

 

だが、それでも崩れない。安定性が欠けて、ミスにつながっても何ら不思議じゃないのに。

 

 

 

 

―――要所要所を必ず取り返す。

 

 

それは、青葉城西側にも言える事なのだ。

 

背を掴みかけていた青葉城西の背が再び一歩離れた。

 

だが、まだ負けている訳ではない。

 

 

「もう一回だ! ……食らいつくぞ!」

【アス!!】

 

 

現在は 前衛に日向と火神が居る。そして東峰が後衛、バックアタックも狙える攻撃力が極めて高いローテだ。

 

絶対に烏野の攻撃力は、青葉城西に負けてないと言う自信をもって、構える。

 

 

 

青葉城西、岩泉のサーブ。

 

 

 

後衛には西谷と澤村と言う強力なレシーバーがいる。

このローテは、強靭な矛と堅牢な盾、2つを兼ね備えているのだ。

 

「オレだ!」

「大地さん!!」

 

もう後が無い状況ではあるが、極めて冷静に澤村が、対処してみせた。

 

「ナイスレシーブ!」

 

影山に綺麗に返球された。

それを確認したのとほぼ同時に、日向と火神は動き出した。

 

 

「もってこぉぉぉいッッ!!!」

「レフトぉぉぉッッ!!」

 

 

2人の気迫、勢いは青葉城西側に相応の圧力(プレッシャー)を与えていた。

 

だが、第1セットはあと1点で青葉城西の点になる。加えて点差は3点と極めて有利だ。

 

だが、この2人の攻撃は未知数。

何が飛び出してくるのか分かったものじゃない。……限界がある様で全くソレが見えない。手の内を全て晒したと思っていても、裏技を持っているかの様な感覚。

これまで提示された情報全てを合わせても、安心等出来ない。

 

 

「(どっちも存在自体が囮みたいなもんだ。気にしない様にする事、それ自体が既に!)」

 

 

日向か、火神か。直前まで迷いを、ブロッカーの一瞬の時間を奪う。判断を奪う。

 

冷静に、冷静に……視野を広げて、影山が選んだ手は――――東峰のバックアタック。パイプだ。

 

 

 

「行けーー! 旭!!」

「旭さん!!」

「東峰さん!!」

 

 

コートの外からも声援が響く。

エースのバックアタック。囮をふんだんに、贅沢に使ってブロックを振り回し、選び抜いた手。

 

 

東峰も全身全霊で撃ちはなった……が。

 

 

 

 

 

ずだぁんっ! と鈍い音と共に、そのボールは金田一の手によって叩き落された。

 

 

 

 

 

 

「あああ!!」

「!!!」

 

 

まさかのドシャット。

完全に虚をつく事が出来たと思っていた。

あのパイプによる攻撃はまだ一度しか見せていないし、何より決定率が高い日向や火神の二枚攻撃が前衛に揃っていたのにも関わらずだ。

 

金田一も直前まで、追いかけようとした仕草をしていた……様に(・・)、影山には見えていた。

 

 

「オレがトビオだったら(・・・・・・・)どうするか、って思っててね」

 

 

そんな色々な思考の渦の中に影山が呑まれていた時に聞こえてくるトドメの声。

 

 

「前衛はチビちゃんとせいちゃん。オレ達からしたら、辛酸を十分味わわされた相手が2人もいる。そりゃ警戒するよ。……でもね、トビオは気付いてないかもしんないけど、このパターンの時、最初以外バックアタックを使ってないんだよね~」

 

 

そう、たった一度しか見せてない事。

それがかえって有力候補の1つへと押し上げてしまったのだ。

 

「だから、例え外れても良いから、金田一には警戒する様にって思ってたんだ。こっちにはまだ余裕があるし。そろそろかな~って考えてたら……うん、どんぴしゃり、だったね☆」

「………………………」

 

 

及川の追い打ちの煽りとその笑顔、そして欠点の指摘は、影山を更に奈落へと突き落とす勢いだった。

 

 

 

カウント25-21

青葉城西 第一セット先取。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっはぁぁぁ、マジかー! 烏野逆転! って勢いな場面何度もあったんだけどなぁ」

「地力の強さ、って言うよりは中盤のこっちのサーブレシーブミスが響いたな……。ずっとシーソーゲームで、そこから均衡が崩れたッポイから。何本かブレイクとったり出来てたけど、1点は1点だからなぁ……。どんだけスゲープレイしても1点だ…….どんだけスゲープレイしても1点。10点上げたくても1点! くぁぁ、獲れるセットだったとそれでもオレは思うぞ!」

 

バレーは当然、サーブだろうがスパイクだろうがブロックだろうが、どんな手段を用いても得られる点は1点ずつ。

 

どれだけ会場を沸かせ、相手を怯ませ、味方を盛り上げたプレイが見せられた所で、入る点数は1点だ。

 

決して呑まれず、イージーミスはしないその目立たない強さが、青葉城西のリードを保たせ、結果1セット目の勝利へと繋がった。

 

 

「でも、間違いなく烏野(こっち)だって調子は上げてきたんだ。……最後のドシャットは相手を褒めて、次は切り替えていけよ……」

 

 

うずうずとさせるOB組は、手に汗握りながら、第2セットの始まりを今か今かと待ちわびるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしよし! お前ら! 全然悪くはねぇ。さっきのは相手のブロックを称賛しろ! お前らの出来は全然悪くねぇぞ。ただ、良い流れが来てた所で、相手にあった貯金の差でやられただけだ。変なミスした事は悔め、だが 凹む様なトコじゃねーぞ! 2セットに十分繋げれる!」

【アス!】

 

烏養は発破をかける様に言う。

一番心配だったのは、エース東峰。あのドシャットでセットを取られた、ともなれば精神的なダメージは大きい筈だろう。

 

だが、言うまでもなく、落ち込む隙さえ東峰には与えてもらえなかった。西谷を中心に、凹む隙も無く、そしてそれ以上に東峰自身の胆力、精神力は増している。

あの伊達工線で払拭出来たものが、確実に東峰の糧となっているから。

 

「(東峰は問題ない……が、次の問題はこっちだな)」

 

烏養がその次に上げるのは――――。

 

 

「ドンマイだ。さっきのドシャット(アレ)は仕方ない。及川さんの読みが凄かった。でもこっちだって何度か決めれてる」

「……おう」

「影山ー! 下向いてる暇ねぇぞ!」

「う、うす」

 

火神や田中に肩を叩かれている影山だ。

 

試合中に、何度か周りが見えていない、嘗てのチームメイトや及川と言う男の存在もあって、視野が狭くなってしまっている。それが徐々にスピードの呪縛となって、思考を苦しめている。

仲間達の言葉や、影山自身の技術の高さでどうにか出来ていたが……、そろそろワンクッション必要だと烏養は判断。

 

 

「影山」

「!」

 

 

そして、一手うって出た。

 

 

―――菅原と交代だ。

 

 

 

 

烏養の言葉を聞いて、少しだけ顔を顰める影山。

交代させられるのは判っている。自分の失態ははっきりと。冷静さを欠いてツーにいった事、速度重視に囚われてしまい、周りが見えてなかった事、自分自身でも上げれば沢山ある。

日向の事をとやかく言えない程に。

 

 

「凹むなよ。一回リズム変えるだけだ!」

「―――――スンマセン」

 

ぎりっ……と歯を食いしばる影山。

そんな影山に伝える事。……それは決まっている。あの及川に負い目を受けている事にしてもそうだ。

いう事は決まっている。

 

 

「お前を倒すのは絶対オレなんだ! そう言っただろ! 忘れんな!」

「…………!」

「ちょこっと試合出られないくらいで凹むんじゃねぇ! それに誰にも負けんじゃねぇ!」

 

 

後ろめたい気持ち、ダメな部分が影山の頭の中を全て埋めてしまいそうだった時、日向の叫び声が強引に頭の中へと入ってきて、……マイナスの考えが吹き飛んだ。

 

 

「――――試合、まだ負けてねぇじゃねぇか。誰が負けたって? 負けてねぇし」

「!!」

 

 

目つきは悪い……が、先ほど菅原に謝っていた時の顔に比べたら倍はマシだ。

 

「減らず口きけるんなら、大丈夫そうだな! あ、勿論 オレはお前にぎゃふんとずっと言わせ続けるからな? そっちの方も努々忘れんなよ」

「(ゆめゆめ?)……んな事言わねぇし、忘れてねぇよ」

 

 

色々とあったが、このメンバーを見ていて、正直安心できる。

問題点は多々現れるが、その都度、超えようと超えようとしているのが判るから。

 

 

「影山。外からちゃんと見とけよ。外から見るのと中から見るのとじゃ全然違う。……そんで、さっきの忘れろとは言わねぇが、一度落ち着け。先輩のプレイを見ながらな」

「………ウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西も見事、第1セットを先取したが……決して余裕等はなかった。

 

「さっきのは、及川の読みが良かった。ずばりハマったな」

「ウス!」

「―――それだけじゃない。前半は良い出来だった。が、それを一度忘れようか」

「!」

 

入畑は一呼吸置くと、続けていった。

 

 

「まだこの試合、5合目、いやそれよりも下だ。……烏野を倒すためにも、本番は此処からだと思っていけ」

【アス!】

 

 

その後は、陣形について、守備位置について、警戒すべきサーブ等の指示はしたものの、全体的には精神面での鼓舞が大きかった。

 

最早、入畑にも四強だと言うことや数ヵ月前の烏野の惨敗など頭にはない。同等以上の相手として構えている。

 

そして、相手にも自分達にも敬意を向けた。

躍動し 高く高く上がっていってる姿を見れば尚更。

 

 

 

だが、時折自分達以上に感じるのは、烏野の方。

 

まだまだ未知数な部分が見えていない、見せていない様にも思えるから。

それらにも注視するように伝え、皆を送り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第2セット開始の笛の音が鳴り響く。

 

 

烏野側では、誰よりも先に菅原がコートの中へと駆け出して入って、そして振り返った。

皆が頭に【?】を浮かべていて、何かと言おうとしたその時だ。

 

菅原は、無言のまま皆の元へと歩みより。

 

【ハーイ!】

 

と一人一人に掛け声と共に。

 

澤村には どむっ! と胸パン。

東峰にはびしっ! と脇腹チョップ。

月島にはずんっ! と脳天チョップ。

火神にはごつんっ! 両拳合わせ。

西谷とはばちーんっ! ハイタッチを。

 

それぞれ相手に合わし交わした。

 

交わした後に、とびっきりの笑顔と一緒に。

 

「大丈夫大丈夫! 第2セット、スタートダッシュ決めてくべー!」

 

にっ、と言う笑顔は、皆にも笑顔を促した。

釣られて全員が笑顔になり、おっしゃあ! と元気よく円陣を組む。

 

 

 

 

そのやり取りを外から見ていた日向は。

 

「おぉ~~~~……」

「……………」

 

羨ましそうな視線を向けていた。

日向後衛からのスタートなので、日向はベンチだ。

 

影山も、その光景を見ていたが、特に何か思う所はないようで、ただ見ていただけだったのだが……。

 

「おー………… はぁ……」

「あ? 何だよ」

 

日向にため息を吐かれて、それだけは無視できないので聞き返していた。

 

そんな影山を見て再びため息。

 

「ホラも~~……お前顔怖いんだよな。皆さん見習ってくださいよー。はー、もー コレですよー」

「ああ!? 元々こういう顔だ!!」

 

突然の顔面批判に影山も怒る。

が、これは実に的確な指摘だったりするのだ。

 

 

「ピリピリしててよー。時々、せいやがフォローして、戻ったりしてんだけど、すーぐまた元に戻っちゃってさぁ~~。その上、あんましゃべんないとかさ~~」

「………?」

「何か考え込んでんのはわかるんだけど、声出さないと何考えてっかわかんねーべよー。何考えてるか当てるのすげー、得意なんがせいやでもあるけどよーー、試合中によけーな事かんがえさせ過ぎんのもよくねーべよ~~」

 

火神関係の事は兎も角……、影山にも気になる点はあった。

 

「……オレ、声出してなかったのか?」

「うん。少なくとも今までのどの試合よりも。相槌くらいはしてたかな? はぁぁぁ、まったくよー」

 

物凄く、初歩的な指摘を日向にされてしまって、影山は思わず意気消沈。

 

声を出してコミュニケーションを図る事。それはバレーであろうが何であろうが、集団スポーツの世界じゃ常識中の常識だ。

中学時代の影山でさえ、声だけデカかったのだから。……内容は兎も角。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火神にもバシバシうってもらうからな! どんどん呼んでくれよ! あとサインも!」

「アス!」

「ほらほら、大地~ もっと声だしてくべー。その辺は、リーダーって言ったって1年リーダーなんだから、この火神に頼っちゃダメな部分だろ~? 主将なんだし」

「あ、すまん!」

 

澤村への説教。

それを出来るのは菅原だけだ、と聞いていた皆は思わず、尊敬の眼差しを向けていた。

 

「旭もおんなじだぞーー! 3年少ないんだから、率先して引っ張ってってくれても良いんだぞ~~」

「あ、ウス」

 

 

1人1人をよく見て声をかける。

その姿勢も、影山は追い続けていた。

 

 

 

 

菅原が入った事。

 

 

 

 

それは少なからず観客たちにも話題を呼んでいた。

試合のパンフで番号と名前を確認し―――3年である事を確認すると、哀れみににた視線と声が色々な所であがる。

 

第1セットで戦ってきた影山は1年。今第2セットから出てきた菅原は3年。

つまり、レギュラーを1年にとられた、と言う事だ。

影山の実力の高さは、あれだけ派手な変人速攻を見れば最早誰でもわかる。ほんの僅かな焦りやズレがあり、今はベンチに引っ込んでいるが、それでも周りの評価はかなり高い。

 

だからこそ、菅原に同情の視線が集まったのだ。

 

【天才1年にレギュラーの座を奪われた可哀想な3年】と。

 

 

だが、当の本人はもう気にしていない。……100%気にしてない、と聞かれれば嘘になってしまうが、今は考えていない。

 

ただ、どうすれば良いか、どうすれば青葉城西と言うチームに勝てるか。自分に何が出来るか。……チームの為に、皆の為に何が出来るか。

 

自分に出来る事、そして皆の事。それだけを考えるコトに徹していた。

 

 

 

 

 

 

「お、ローテ少し回してきたか。……ありゃ、多分 及川のサーブに焦点合わせたローテだな」

「ああ。それオレも思った。……後衛に澤村、西谷、火神。烏野3トップの守備力を持つ3人が後衛に居るからな。あれ守備力やべーぞ? まさに最硬の盾ってヤツか」

 

青葉城西側はローテーションはそのままだ。

ここでズラされてしまえば、狙いは外れてしまったかもしれないが……。

 

「青城は1セット目と同じ。一先ず狙い通り、って事で良いだろ。サービスエースは結構防げてたけど、乱されてはいたからなぁ。……これで返球率を上げて、一本で切れれば勢いに乗れるだろ」

「【勢いに乗る】って、安易に言えないのが辛いトコだけどな………。対応力半端ねぇし。どっちもだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――第2セットが始まり、青葉城西側からのサーブで始まる。

 

 

 

 

 

 

レシーブから菅原のセットまで淀みなく流れる様に運び―――最後は月島の速攻で締めた。

 

 

 

第2セットから出場の菅原だが、その身体に固さは一切ない。

 

月島の速攻が、金田一のブロックを躱して、コートに叩きつけられる。

 

「ナーイス! 月島!」

「あ、……はい」

 

笑顔で背を叩いてくる菅原。

そういうカラミが苦手でもある月島ではある、が邪見にするような事は流石にせず、必要最低限ではあるが、受け答えはしていた。

 

 

 

「ほら見てみ? 菅原さんて、決めるとすっげー褒めてくれんだぜ!」

「……そうかよ。つーか、火神に結構褒められてねぇか? ……無駄なことも」

「無駄なことってなんだ!! それに、せいやは同級だし、付き合いも長いし! って言うか、褒めてもらえるのってそれだけでも嬉しいだろーがー!」

「……そうかよ」

 

特に影山は問題視せずに聞き流す姿勢を貫いていたのだが……、そこに縁下が入って来た。

 

 

「別にさ。オレたちは【仲良しこよし】をしようってわけじゃなくてさ。ほら、スガさんはああやって、声かけながら、スパイカーの其々の表情とか今日の調子とか、見てるんだと思うよ。まぁ、あくまでもさりげなくな」

「!」

「特に月島はさ。2・3年と違って菅原さんにとっても未知な部分が多い。……今んとこ、月島を上手く操縦してるっぽいのは火神、あと山口もかな? なんだけど、それを真似て接する、って訳にはいかないだろう? そもそも、月島自身が単純な性格じゃないんだし、菅さんも気を使ってると思う。……まっ、勿論火神も使ってると思うけど、その辺は日向も言ってた様に、同級だし。リーダー任されてるって事もあるだろうけどな。ほら、今のプレイだ。よく見てみ」

 

縁下の言葉を聞いて、促される様に影山は視線をコートの方へと向けたのだった。

 


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