王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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初めて1日2話投稿です!!
……と言っても、最初の69話の投稿時刻を考えたら連投は 詐欺の様なものですが……… 苦笑

早く投稿出来て良かったです。
これからもよろしくお願いします。


第70話 青葉城西戦⑩

菅原の皆への目配り、そして常に行う声掛け。

 

それは影山とて理解出来る。

 

相手の目見て話をしていて、時には笑顔も見せていて、影山にとってはムカつく対象でもある月島も菅原に対しては、その……所謂 ムカつき度が顔に出ていないのがよく解る。

 

自分が出来てない事もよく解った。

 

「…………」

「まぁ、たった数回の連携やプレイを見ただけで、全部理解しろ、実践しろっていうのは無理な事くらい解ってるつもりだ」

 

菅原達を見ろ、と言ってからずっと難しそうな顔をしている影山に、縁下は苦笑いをしながらそう付け加えた。正直、影山は 難しく考えすぎなのだ。

 

「手本にできる相手はスガさんだけじゃない。火神だってオレら2年からすれば、正直嫉妬してしまうくらい上手く立ち回ってるって思う。バレーにしても普段にしても。……田中や西谷相手に立ち回れるのって、マジで大したもんだから」

 

緑下は、思わず田中や西谷の名を出していた。

当の本人、西谷は出ているので当然だが、田中も試合に夢中で見ているので届いていない様子。……ひょっとしたらクシャミするかもしれないが。

 

「……まぁ、ズレたけど、影山にスガさんや火神みたいになれ、って言ってるんじゃないからその辺は間違うなよ。……影山にだって出来てる事は絶対あるんだから」

「………?」

 

出来ている事、と言う言葉を聞いて 影山は思わず縁下の方を見た。

菅原のやり取り、そしていつもの火神の様子――――正直、自分が出来てる様には思わないし、苦手な部類だと認識もしている。バレーに関しての技術や最適解については色々と合わせれる自信はあるのだが……、あの2人と同種のモノか? と問われれば首を横に振ってしまうから。

 

「だってほら、影山 日向が打ち辛そうだったら直ぐにトス修正するだろ?」

「? ハイ。だって日向(コイツ)直ぐ空振るし。同中とは思えねぇし」

「!!」

 

まさかの自分ディスりタイムになるとは思っても無かった日向は顔を思いっきり顰めた。

同中~に関しては、誰と誰を比べているのか! と反論する所なのだろうが、日向にとっては誰よりも解りきってる事なので、その辺りは何とか口を噤む。

 

 

「あ~……まぁ。そりゃ仕方ないっていうか、環境っつーか、中学時代だって、人それぞれの物語が~って言うか……」

 

 

縁下も、その辺りはなるべくフォローを……と思ってはいるのだが、正直 影山の言っているのも理解できる。

 

無名の中学からの新人2人で、技術に差がどうしてあそこまで付くのか? と。

 

ただ、この世界がフィクション、或いはゲームだと言うのなら 技術枠と身体能力枠など、ステイタス、パラメーターを極端に振り分けたらあり得そうな気もするが……、生憎そんなファンタジーな世界じゃないので簡単な事ではないだろう。

 

ただ、現実に起こってる事なので納得する以外ないのだ。

 

 

「だから、日向はさ? 技術的にはまだまだ、その~ え~っと……及ばない点があるっていうか―――頑張ってるのは間違いないし、その……ええっと……」

「はいっっ!! せいやと比べられちゃっても仕方ないです! オレ、下手くそです!」

 

 

それでも、なるべくオブラートに包もう包もうとする緑下の優しさ。

それが更に日向の首を絞めてしまう事に繋がってしまっていて、いたたまれなくなって日向は自ら劣っている事を声高く宣言した。無論、今後にご期待ください! と自分に言い聞かせながら。

 

 

日向のそれを聞いて思わず顔が真顔になってしまう縁下。

 

 

どう言いつくろっても、結局行きつく先は、そこ(・・)なので、無駄なあがきだったか……と。

 

 

「ご、ごめん。だからうん。その通り………かな?」

「いいんです! こっから、たいきばんせーで行きますので! だいじょーぶです!!」

「はは。そうだな(おお………。日向、ちゃんと覚えなおしたか大器晩成(・・・・)。確か、前は なんちゃら万歳! とか言ってたのに)。えっと、とにかくだ。日向も影山と息が合わないと失敗しちゃうのが目に見えてるだろ?」

 

 

ここで、縁下は日向から視線を影山へと戻した。

 

「でも、他の皆はそこそこ技術がある。だから、多少打ちづらいな、ってなってもそれなりに打てちゃうんだ。……ん―――っていうか影山。練習の時は、旭さんとか田中にも【今のトスどうですか!?】って詰め寄ってたじゃん。旭さん思わず気圧されてたし」

「………ブロック居ると、どうしてもそっちが気になっちゃって」

 

練習と試合とはかかるプレッシャーが全く違う。

ただのスパイク練習なら、合わせる為のコミュニケーションは厭わない。日向に対し、嘗て勝ちに必要ならトスを上げる。必要と思わなければ上げない、と断言する程だ。密に連携をとる事に躊躇等しないのだろう。……勿論、例外(月島)は居る様だが。 

 

 

そんな影山の心情を察したのだろう、縁下は苦笑いをしながら続けた。

 

 

「えーとさ。オレが言うのもアレなんだけど、烏野(うち)のスパイカーって結構レベル高いと思うんだ。そこに、日向や火神が加わって、県内でもトップクラス! って思っても絶対大袈裟じゃないって思ってる。何せ あの全開の青葉城西相手に全く引けを取らないんだから」

「俺もそう思います………けど」

 

影山も縁下が言う事もよく解る。

 

あの日向の運動神経、能力を全て発揮した超速攻は なかなかお目にかかれるものじゃない、と自負している。自分が上げるからこそ、その力が最大限発揮される! と言う強烈な自負も備わっているが、それをふくめて烏野の攻撃力は強い。

最低限のトスを上げさえすれば、火神も青葉城西相手に様々な攻撃法で点を稼ぎ、時には崩してくれている。サーブ・ブロック共に合わさり、影山の中でも文句なしの最上位ランクだ。

 

そして、そんな自分に問いかける様に、縁下は更に続けた。

 

 

「じゃあさ。そいつらがちゃんと100%の力で打てたら、多少ブロックが立ちはだかったって、ちゃんと戦えると思わないか?」

 

 

考えているつもりだったのに、見えてなかった気がする。

如何に自分のトスで躱し、如何に自分のトスで最善を模索し―――そればっかりだったかもしれない。

 

 

【影山ぁぁっ! 居るぞ(・・・)!】

【もっと身体の力抜いて周りを見ろ】

 

 

解っているつもりだった。

でも、解っている様で、解っていなかった。

 

ずっと見てきたつもりだった。

でも、見えている様で見えてなかった。

 

 

【リズムを変えるだけ】

【外からちゃんと見とけよ。外から見るのと中から見るのとじゃ全然違う】

 

 

あとほんの少し。

ほんの少しだけ一呼吸をする。……深呼吸をして落ち着く。

その為に、リズムを変える為に、用意してくれた時間。

 

落ち着いて深呼吸をするこの時間で 影山の頭は、身体は より軽くなった気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2セット目からも互いに譲らず試合は一進一退。

今も岩泉が烏野から点を獲り返していた。

 

 

「っしゃあ!」

 

【いいぞいいぞハジメ! 押せ押せハジメ!! もう一本!!】

 

「岩泉さんナイスキー!!」

「ナーイス! 岩ちゃん!!」

 

 

見事に打ち抜いて見せた岩泉。

岩泉もまた、確実に1セット目から勢いを上げてきていた。

 

 

現在 2-2の同点。

 

 

そして、次に迫りくる脅威は。

 

 

「! ………」

「あっ! 大王様サーブのターンが来た!」

 

 

青葉城西最強のビッグサーバーである及川のサーブである。

サーブを打つ為に、ボールが及川に渡ったその瞬間から、コートの中外違わずに一気に緊張が走った。

 

 

確かに1セット目の烏野のレシーブは最高の出来だと言える。

 

 

及川に連続サービスエースを取られた学校は恐らく数多くいるだろう。

1回戦の相手を見ても尚更解る。

 

そして、その威力は大人の視線から見ても驚きものだ。

 

あのサーブの強力さは最早説明するまでもない。十分全国クラスだ。

そんな相手にレシーブで最小限で留める事が出来たのは喜んで良いし、自信をもっと持っても良い。

 

 

―――だが、だからと言って安心できると言う訳ではない。

 

 

失点を防いでいるとはいえ、及川のサーブで烏野は確実に乱されているからだ。

 

後、ほんの少しの差、遅れが点に繋がる危うい場面も多くあった。

 

更に加えると、及川自身も徐々にエンジンが掛かってきているのは、傍から見ていてよく解る。

 

威力を上げ、精度も上げ―――100%を超える力で打ってくるかもしれない。

その力をこの第2セットに狙いを定めてきているかもしれない。

 

及川サーブの攻略。

それこそが青葉城西を打倒する上で必要不可欠な要素なのだ。

超えなければならない関門なのだ。

 

 

だからこそ、烏野は1セット目とは違う手に変えてきた(・・・・・)

 

 

「おおっ!」

「やっぱりか、案の定だったな」

「レシーブの人数減らしてる。対強サーブ、及川対応フォーメーションってか」

「ああ」

 

 

予想していたOB組はいち早く気付き、そしてそれに続く様に他の観客もそれぞれが口に出していた。

 

 

 

 

「あれ? 烏野のサーブレシーブのフォーメーション……1セット目と違くね?」

「ほんとだ……。4人だった筈だけど、3人体制にしてきた」

 

 

 

 

 

これまでは、どのサーブに対しても、4人がバックゾーンに下がり、レシーブに備えていた筈だが、その人数が減っている。

及川のサーブに対し、構えているのは火神・澤村・西谷の3人だ。

 

まさにOB組が言っていた烏野の最硬の盾たちである。

 

 

「…………」

 

 

及川もその陣形を見てはっきりと狙いが解った。

第1セット目、ただ高威力なだけでは安易にサービスエースを取れないと踏み、多少威力を落としたとしても、精度に拘った。選手の間を狙い、ミスを誘う軌道に修正したのだ。

 

間を狙えばレシーバーは迷う。どちらが取るのか、と。

その一瞬の判断ミスで崩せる事が出来るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏養も及川の意図、狙いどころについては解っていた。だからこその2セット目が始まる前に対策としてこの陣形にしたのだ。

 

 

「いいか、お前ら。あの1試合で何本もサービス取る及川サーブをある程度抑えれてるのはマジで最高だ。……だが、崩されてる場面は多々あるし、有頂天になる訳にはいかねぇ。こっから更に仕掛けていくんだ。―――守備を少数精鋭に切り替える」

 

 

言葉の通り、そして今の陣形の通り、4人体制を3人へと変更した。

 

 

「あの強烈なサーブに関しては、お前ら3人で対応する。1セット目の終盤、危うくお見合いでノータッチ取られかけた場面もあったよな? 何とか返せれたが、チャンスボールを献上しちまった。……あれは、運が良かった、ラッキーだと思え。あの超高速サーブを相手にした時、一瞬の躊躇い、迷い、そいつらが命取りになる。で、レシーブに秀でた西谷・澤村・火神の少数3人で対応しようと思う。………何度も何度もラッキーってヤツは続かねぇからな。……解っての通り、練習では基本4名フォーメーション。3人はまだ試してねぇ練習もしてねぇ。……だが、お前らならやれる。決して偶然や幸運の類ではない一本に仕上げろ」

「「「アス!」」」

 

 

烏養の策、注文に間髪入れずに返答する3人。

一切迷いが無く、必ずやってのける、と言う意思がその目に宿っていた。

 

何より、3人は【及川サーブはオレが上げる!】

 

とそれぞれが強い意志でレシーブに臨んでいる。

だからこその策であり、勝算はある。―――決して博打などではない。

 

 

「よし! 間に来たサーブをどうとるかは決めちまえ! あとは声な!」

【ハイ!】

「ああ、さっきもあったが、フェイントでゆるく前に落とされた時は、他の連中が絶対にカバー。一瞬たりとも油断するなよ」

【オス!】

 

 

この策が吉と出るか、凶と出るか―――この後すぐにわかる。

 

 

 

 

 

「「「来い!!」」」

 

 

 

 

試合再開の笛の音が鳴り―――及川は始動。

サーブトスから助走、跳躍、……全てにおいて完璧。全くブレない。

宛ら、及川のサーブ動画をリピートで見せられている様な気分だった。

 

夥しい程の練習……鍛錬、修練の成果だ。

 

 

だが、烏野とて負けてはいない。

 

空気を貫く及川のサーブに完璧に反応して見せた。

 

 

 

【大地!!】

「澤村さん!!」

 

 

 

誰が声を掛けたのかわからない程までに、ボールにのみ集中していた澤村は、最初の1歩をより早く、早く反応させる。

後は体重に身を任せる様に身体を傾け、最後は2本の腕であのサーブを捕らえる。

 

何度も何度も反復練習し、時間はある様でない、を言い聞かせ、練習し続けてきた。

それは烏野側も――――3年間頑張り、身体に染み込ませ続けた澤村も同じだ。

 

 

及川から放たれた超強力サーブ、それを澤村が見事に上げて見せた。

ドパッ! と乾いた音が響く。それは、あの威力を間違いなく削いだと解る音だった。

事実、ボールは菅原が居るセッター位置、ピンポイントで返球される。

 

「っしゃ!!」

「うおおおお!! ナイスレシーブ!!」

 

好レシーブは常に場を盛り上げてくれる。2セット目序盤、一番の歓声が澤村へと送られた。

 

 

「ナイスレシーブ!(試合は 序盤。……及川のサーブは確かに何度か取れてるけど、これは西谷を除いたら今日一番のレシーブ!)」

 

菅原は、ボールを目で追いながら、次の手を考える。

 

 

「(相手を威圧する為にも、この大地が上げた貴重なレシーブを決めてもらわなければならない。そんな重い重い1点……託せるのは)」

 

 

視界、そして脳裏に浮かぶメンバーは3人。

東峰か、月島か、火神か。

 

 

もう―――菅原の中では決まっている。

 

 

「火神!!」

 

 

第1セット。

攻守共に活躍を見せた火神。勿論、だからこそマークも厳しい事は解っている。……解っているからこそ、だ。

 

―――解っていても止めれない。決められた。

 

その結果は、及川のサーブをあっさりと切った結果に相乗して、相手に更なる重圧(プレッシャー)をかけるだろう。

何より、試合中常に目配せをし、皆を支えているのは外から見ていてよく解っている。

そう、あの中学時代から、火神と言う男のスタイルは良く知っている。

 

 

1年だろうと歳は関係ない。

同級でエースの東峰も、長身で決定率がある月島も抑えて、託す事が出来る。

 

 

「ブロック! 止めろ!!」

「アス!!」

 

 

ブロックに2枚正確に付かれた。

やはり、火神のマークは決して甘くない―――が、それを見ても菅原は手を過ったとは思っていない。

 

岩泉、そして金田一の気迫あるブロックに真っ向から対峙する火神。

その空中姿勢から、もしもブロックを抜いたら、此処に来るだろう、と言う様々な予想をシミュレートし、構えるリベロの渡。

 

間違いなくこっちだ、と金田一も止めようと手を伸ばし続ける―――が。

 

 

「「!!」」

 

「ッッァ!!」

 

 

最後の最後―――火神は、インパクトの刹那、寸前でクロス側からストレート側へとコースを変えた。体勢も明らかにクロス側へと向いていた筈なのに。

 

これは スパイク、空中姿勢からのフェイクだ。

 

そのスパイク姿勢から、岩泉と金田一がクロスに来るだろうと読み、僅かに開いた。アンテナとブロックの隙間。クロス姿勢を見てより広がったストレート側への道筋だ。

1人時間差には彼らも警戒していた。1セット目とはいえ最後の方の攻防。つい先ほどのやり取りだ。だから、リードブロックを言っていた通りに徹底し、マークしていた。

 

だが、意図せず内に、知らず知らずの内に……ほんの僅かではあるがストレート側への道を作らされてしまった事に気付けなかった。

 

 

そして、火神には光の道として、その軌道が見えた。

絶好調である事の証である。

 

 

 

ずどんっ! と全くボールをアンテナは勿論、ブロックにも触らせず、ストレートを打ち抜いた。

それもセーフかアウト、その狭間……ライン上ギリギリ。

まさに極上ラインショットである。

 

 

 

 

 

「うおっっ!!」

 

 

「っしゃああっ!!!」

【うおおお! ナイスキー―!!】

 

 

惜しみない称賛。

コート内外から溢れ出んばかりに火神に、そして見事上げて見せた澤村に、チーム全員に向けられた。

 

 

「おおー! 及川のサーブ一発で切った!」

「型に嵌ったなー! つか、あのキレキレストレートもやべぇ。体勢はめっちゃクロス側だったのに」

 

 

上から見ていても解る。だからこその驚き。……もう驚く事は無い、と思っていても常に更新し続けられるので、もう明日は声がガラガラになってしまっている者たちが多い事だろう。

 

 

「……今のは会心の当たりだったんだけどなー、今日一番かも? なのにあっさりAパスしてのけるとは。さすが、主将君だね」

「―――――」

 

 

及川の視線を感じ取った澤村は、不敵な笑みを浮かべた。

 

王者に阻まれ、全国に行く事が叶わないままの青葉城西。

今年こそ、と言う想いは強いだろう。……が、この3年間、あがき続けたのは何も青葉城西(そっち)だけじゃない。

 

澤村の目はまるでそれを伝えるかの様だった。

 

 

 

 

「まずは! まずは第一関門突破! ですかね!? 素晴らしいです! 僕にも解るくらい、スムーズで鮮やかに決めてのけました!」

 

「ああ。……んでも、ローテーションってのは必ずまた回って来る。……ブレイクし続けるっつう現実味が無い事をやるってのを除けば必ず、な。だからこの後も何回もあのサーブと対峙していくだろう。……でもこれで、出鼻挫く事は出来た筈だぜ。幾ら崩れねぇ、崩れねぇ、って思ってたとしても、青城の最大最強のサーブをあっさり切った。常に注目、マークしてた筈の火神に躱されて決められた。どんな鈍感野郎だったとしても、感じない訳がねぇよ」

 

 

2-3。

 

烏野は、半歩リードする事に成功した。

 

 

「………………」

 

影山は、今の一連の流れを再度頭の中でシミュレートした。

火神が決めた。それは最早影山にとって今更驚く事は無い。だが、あの場で、……誰に上げても決まるのではないか、と影山は思ってしまった。

たら、れば、は意味が無い事は解っているのに、あの一瞬、全員が必ず打つ、と入り込んだ場面。選ばれたのは火神だったが、月島も、東峰も。……誰を選んだとしても、勝負出来る。決める事が出来る、と強く思えた。

そう、スパイカーたちが100%の力で打てるのなら。

 

 

【100%の力で打てたら、多少ブロックがたちはだかったって、ちゃんと戦えると思わないか?】

 

 

緑下の言葉が頭に過る。

あの時、返事を返す事が出来てなかったが、今なら出来る。

 

 

「……ちゃんと、戦える」

 

 

誰にも聞こえない様なか細い声量ではある、が影山は確かに、はっきりと肯定したのだった。

 

その仕草、横目で見ていた烏養。

流石に影山が呟いてた言葉までは聞き取れなかったが、その表情だけで十分だった。

 

こちら側の士気も申し分なしである、と。

 

 

 

第1セットを通してみればよく解る。

 

「(経験・基礎技術。……個々の能力では勝っていたとしても、チームとしては青城の方が上だ。点差がつけられたら、さっき見てぇにそのままの離れずにセット獲られる。……苦しくなるだろう。……だが、それでもしがみ付いてさえ行けば、絶対に流れはやってくる。僅かの歪み、隙間だったとしても、手繰り寄せる事は必ずできる)」

 

総崩れを起こさない事に、前セットで澤村が心中愚痴っていた事は烏養にもあった……が、穴の無い守備など存在しない。確実に、100%決まる攻撃も存在しない。

 

何処かに抜け道は存在する。そこへ行く為にも―――。

 

 

「喰らいついて放すなよ!」

 

 

烏養は立ち上がり、声のあらん限りを尽くして檄を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

及川のサーブを見事に切って取られた青葉城西。

烏養の言う通り、如何に鍛え上げてきたチームとはいっても彼らはまだ高校生だ。表面上では見えにくいかもしれないが、焦りを隠そうとしても、隠しきれるものじゃないし、取られたからには取り返したい、と常々思っている。

及川とて例外ではない。

 

 

今も現状の烏野の突破口―――影山以上とは申し訳ないが思えない菅原の事をじっ……と観察していた。

 

「(この2番の爽やか君の実力は まだ全然わかんないけど、練習(アップ)見てた感じじゃ マジメとか、丁寧って言葉が似合う感じかな。動きも普通だったし。……それに、絶対無いって言い切れるのが体格だ。飛雄に比べたら高さは無い)」

 

菅原の身長は確かに影山の180㎝に比べたら小さい。

それが文字通り見た通りの穴となる。

 

 

「(岩ちゃん、あの2番君がブロックの居るトコ、絶対に低い筈だから狙い目)」

「おう」

 

 

岩泉も言われるまでも無い、と返答した。

ブロックの上からスパイクを叩きつける事が出来れば、それは最強の攻撃になるのは間違いない。そのことは、岩泉だけではなく、青葉城西にとって痛い程理解しているのだ。

 

怪物・牛島若利 率いる王者白鳥沢。

 

あの男の打点の高さ。それはブロックの上から叩きつけられる。

 

悔しいが、それと同じ事だ。高さが絶対的な有利に変わりないのだから。

後はレシーバーに注視する事だけを考えた。

 

今の烏野の守備力の高さは、あの及川サーブでよく認識しているから。甘いコースを打つと例えブロックの上からの様なノーガード状態であっても取られる。そう思っているから。

 

 

 

東峰のサーブで試合再開。

 

問題なく国見がサーブレシーブ、及川にボールが飛んだ。

 

 

「岩ちゃん!」

「おう!」

 

 

想定通り。

相手ブロッカーは3枚来ているが、180㎝以上が2人に対し、もう1人は恐らく170前半。

岩泉は、一瞬ブロックを確認し、助走に入った。後は狙い目通り、菅原が居る方に打つだけだ。

 

 

だが―――。

 

 

「!! 岩ちゃんストッ―――!」

「!!」

 

 

 

岩泉は目を見開いた。

まず間違いなく、ブロックの穴……低い方を狙った筈なのに、目の前にいるのは狙った筈の男じゃない。

烏野1の長身を誇る月島だった。その身長の高さから宙で感じられる威圧感。このまま打てば捕まる! と言う感覚に見舞われた岩泉だったが、もうスパイクは止めらず、軌道も変えられなかった。

直ぐに異変に気付いた及川の声も最早遅い。

 

打ったスパイクは、月島の手によって完全にシャットアウトされ、コートに叩きつけられた。

 

 

 

 

「ドシャットーー!!」

「うおおおお!!!! つっきぃぃぃぃ!!」

「月島ナイスブロック!!」

 

 

欲して欲して、何度も欲したブレイクポイントを烏野が得た。

半歩リードが漸く1歩リードとなった瞬間だ。

 

 

「あ、あれ? 今なんかおかしい動きしなかった?」

「うん。今、咄嗟に変わったよね(・・・・・・)?? えっとどういう事……かな?」

 

上から見ていた青葉城西を応援している女性たちが混乱していた。

何が起きたのかは理解出来たが、して良いのか、何故したのかまでは解らない様だ。

 

 

ちらっ、と視線を感じたので、そこへ得意気に話すのが嶋田。

 

 

「えっと~ あれはですね。あの烏野の2番が一番背が小さいって相手に思われてる事を逆手に取ったプレイなんですよ」

 

 

指を立てて、誇らし気に話す。

因みに、こういったレクチャーは、試合中にも何度か行っているのだ。

 

それは、青葉城西の事でも烏野の事でも関係なく、解らない事を全て話してくれる。

烏野側を応援しているのは解ったから、聞きにくかった女性たちだが……、分け隔てなく教えてくれるので、次第に何でも聞ける様になっていた。

 

女の子たちに頼られるお兄さん! なポジションで何だか嬉しくて調子に乗った、と言うのが正解だが。

 

 

「2番が絶対に自分に打ってくる! って確信して、隣にいる身長の高い12番と切り替え(スイッチ)した。そこで相手側のスパイカーは、身長が低い、手があんまり届いてないだろう、って確信して打っちゃったから、思わず大きい選手が目の前」

「はぁ……。……ナルホド……」

「ありがとうございます! 何度も何度も」

「いえいえ。大丈夫ですよ~」

 

頼られるのも、笑顔で礼を言われるのも最高だな、と鼻の下を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場面は試合に戻る。

 

「ナイスブロック! 月島!」

「ドシャット見事! ナイス!」

 

菅原と火神が2人でバシバシと月島を叩く。

正直不愛想な月島だったが、この2人のストレートな賞賛には 流石に毒を吐いたりはしない。

 

 

「いや、今のは菅原さんが……」

「スガさんのナイス指示も解ってるよ! でも、あの切替(スイッチ)タイミングだって見事の一言だ。絶対岩泉さん、いきなり月島が目の前に現れた! ってなった筈だって」

「だべだべ!」

 

火神の言葉が図星だったのだろうか、思わず岩泉は火神の方をギロっ!! と睨んでいた。名を覚えてくれてる事には少なからず好感を覚えるし、及川に色々心労かけられてしまったのには同情もするが、それはそれ、これはこれ、である。腹立つのも仕方ない。

 

勿論、火神は狙って煽る様に言ってる訳ではないので、岩泉の視線には気付かず、殆ど暖簾に腕押しだった。

 

 

「それにさ、オレ 強いトコと試合すると大抵ブロック低いから、狙われるんだよなぁ。今回も多分そうだったなって思ってさ! やっぱデカいヤツが隣にいると心強いな!」

「後ろにもいますよスガさん!」

「そうだぞ、スガ」

「もち、わかってんべ!」

 

さらっと混ざってきた澤村。

例え、ブロックで抜かれたとしても、堅牢なレシーバーは後ろに控えている。

西谷が言っていた様に、背中を護ってくれる仲間が居る事は菅原も勿論解っている。

 

自分の力量不足も解っている。……でも、それ以上に菅原は周りの、仲間の心強さ、頼もしさを知っているのだ。

 

全力で助けてもらい、そして出来ることを全力でする。

だからこそ、周りも全力で応えたい、と思うのだ。

 

菅原の周囲の引っ張り方は、ある意味では火神と同じだ。

 

 

 

「うっしっ! こっから、もっともっと点稼いでいくべ!」

【おう!】

 

 

 


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