王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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寝落ちしかけましたが、なんとか出来て良かったです。苦笑

これからも頑張ります!


第71話 青葉城西戦⑪

 

 

菅原セッター体制のまま、日向がコートの中へと戻ってきた。

 

「へぇ……(トビオを下げたままでも、チビちゃんは入ってくるんだ。ボーズ君が来ると思ってたのに意外だな)」

 

及川は日向を見てほんの少しだけ驚いていた。

日向に抱く及川の印象。――否、青葉城西側の印象は 正直 影山ありきである。

 

確かに身体能力は凄まじいの一言に尽きる。

あんな早い攻撃は、滅多にみられるものではないし、化け物だ。

 

だが、それを除けば良くて並であり、サーブ、そしてレシーブ、時折イージーミスをするところを考慮すれば、並以下な部分も目立つ、と言う辛口な評価が日向に対する印象だった。

 

 

神業速攻。影山と言うトンデモナイ技術を持ったセッターが居るからこそ、あの攻撃が最大限に活きる。

 

 

火神や菅原でも十分に日向とコンビを組んでも勿論攻撃は出来るだろう。

火神に至っては、セッターとしての役割も十全に行う事はこれまでで解っているし、何より日向とのセットは、まだ見れてないのでどんな感じか? とは思うが、影山とのあの神業速攻を基準に考えてみると、あの速攻以上とは流石に思えない。

 

だから 及川は、日向と影山はセットにし、田中を投入した方が体格的にも幾らか利があると思えていた。

 

だが、決めつけでかかる訳にはいかないので、決して警戒は緩めない。

例え日向が入ったままで、影山が出ている状態だったとしてもだ。あの2番、菅原の実力も、全てわかった訳ではないのだから。

 

 

 

 

 

そして、試合は月島のサーブで再開。

 

いつも通りのフローターサーブ、無難な攻撃。

そのサーブの正面には国見が構えていた。

 

 

「国見ちゃん!」

「はい!」

「ナイスレシーブ!」

 

基礎技術は、1年から3年まで満遍なく高いのが青葉城西。

 

金田一と同じく1年である国見も例外ではなく 極めて高い水準であると言える。

それに国見も影山や金田一と同じく、北川第一と言う強豪中学出身と言う事も有るし、何より四強の一角、強豪校である青葉城西で1年でレギュラーを獲得出来ている事も実力に説得力を付けれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席、上から見ていても完璧にレシーブを返したのが判ったので 明らかに強烈な攻撃が来る、とハラハラしていた。

 

「ぁぁ……、完璧に返されたな。……これ、必勝パターンってヤツだろ。誰が来ても青城の今日の決定率は高いぞ……」

「速攻くるか!? 前衛には火神が居るが……、他はチビちゃんと菅原だけか……。上背的にはきついけど、何とか止めてくれ~~。どんどん点とってくれ! 思いっきり行ってくれ~~!」

 

 

ブロック技術の高さは既にお披露目済みである火神。

そんな男の所に、完璧に返ったレシーブからわざわざ上げたりはしないだろう。勿論、及川の狙い目は、先ほどの菅原&月島相手に行った手と同じだ。

高さの無い方を狙う。……そして、今回はお誂え向き。

 

日向と菅原のブロックならば、どちら側も月島や火神程の高さは無いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「松っつん!」

「!」

 

 

そして、素早く入ってくるのはMBの松川。

及川が選択した攻撃手段は、松川からのAクイック。

 

この高さ、速さを兼ね備えた松川による真ん中からの早い攻撃はこれまででも決定率が高かった攻撃手段……だったのが。

 

 

「っっ!!」

「!!!」

 

 

その高く(・・)速い(・・)攻撃は、たった1枚の壁に阻まれた。

それも、低い―――と見越していた筈の相手に。……日向の壁に。

 

ばちっ!! と乾いた音が響いたと同時に、こちらが打った筈のボールが自陣コート内へと叩き落された。

 

「ぐっ……!」

 

フォローに間に合わずにそのまま見送る及川。

そして、見事止めて見せた日向は、その手のひらの感触はがはっきり残っており、スパイクとはまた違った快感を感じていた。

 

 

「うほーーーっ! とめたーーっ!!」

 

 

だからこそ、目を輝かせながら自分で自分に歓声を送る。

これまでで、視界に急に飛び込み 止めれなくても触るブロックだったり、視界に現れる事による不快さを与える事が殆どだった日向ブロックが、今日初めて完璧に相手をブロックしてのけた。

 

 

 

「うおおお!! 烏野連続ブロックポイント!!」

「今止めた10番、パンフ見てみりゃ 身長162㎝しかねーぞ!? やべーやべー!」

「あの11番や12番より20㎝くらいは小さいのに、あの身長(たっぱ)で止めた!?? マジっっ!??」

「うはー! うはー! マジか!? スゲースゲー!」

 

 

 

当然、場も騒然とする。

 

松川は187㎝。

日向は162㎝。

 

180台を相手に160台がシャットアウトしたとなれば、レシーブでスーパープレイを魅せた時と同等以上の驚きを見せるだろう。

 

 

「翔陽ナイスブロック!」

「日向ナーイス!」

 

前衛に居る火神と菅原が集まってきてそれぞれハイタッチ。

 

「菅原さんの指示が的確で、まさにドンピシャでしたね!? 凄いです!」

「うほーー! 触るより叩き落す方が気持ちいーっ!! せいやの言う通り、菅原さんの言う通りでしたっ! タイミングばっか気にしてて、ちゃんと跳べてませんでした!!」

「だべー!」

 

日向は興奮気味に話をしていた。

火神も同じく、そしてもう一度ハイタッチを交わす。

 

相手のスパイカーに対し、タイミングを少しずらして跳んでみて、と言う話は 実は第1セットから火神にそれとなく言われて日向は実践していた。

だが、第1セットでは、日向は何度か跳んだが、先ほどの様に止める事が出来なかったのである。

 

中から感じる事、外から感じる事の僅かな差異ではあるが、菅原は 日向が跳ぶタイミング、そのずらし方に対してもう1つ注文を付けたのだ。

 

菅原が見ていたのは 日向だけではない。

菅原が外から見ていて情報を集めたのは青葉城西のスパイカー達1人1人に対しても。

可能な範囲ではあるが、その打ってきそうな場所、攻撃手段、等々 を第1セットで得た情報から検証し、導き出していた。

 

例えば、今の速攻攻撃は、サーブを完璧にレシーブ出来たなら、高い確率でセンター線が来ると読んでいて、まさに的中。実際にMB(真ん中)の松川の攻撃だった。

それに対してこちらのブロックは、センターからの速攻なら、ボールを見て跳ぶのが一番ベターだと言える。

速攻は確かに早い攻撃ではあるが、青葉城西のタイミングは、スパイカーもやや長めにボールを見てから叩いているのもわかった。

 

でも、タイミングが解っていても止められない。

日向は慌てずに火神に言われた通り、一呼吸(ワンクッション)置いて跳ぶ様にしていたが、結果はボールに触れる。つまりワンタッチを取れる程度だった。

 

そこへ 菅原はタイミングをズラす事以外にも、更にもう1つ。少し膝を曲げて腰を落とし、跳躍する力を溜める(・・・)様に指示を出していたのである。

 

タイミングは良いのに、日向のバネ・跳躍力で止められないのに少々違和感を感じていた菅原。よくよく見てみると今日の日向は、ブロック時 いつもよりも跳躍が出来てない様に見えていた。

 

どうやら、日向はタイミングをズラす事を意識し過ぎていたせいだった。

 

結果、タイミング良くブロックに跳べても、いつもより僅かに足りない打点のせいで、ボールに触れても止める事が出来なくなってしまっていたのだ。

 

ほんの僅かな違いではあるが、その溜めが日向の高さを少し伸ばした。

ボールを落とせる程の傾斜ある壁を突き出す事が出来たのだ。

 

 

当然ながら、実に的確な指示を送った菅原の姿を見た火神はやっぱり凄い人だと感激していたのである。

 

日向の青葉城西相手に有効的なブロックの仕方については勿論知っていた。

だからと言って、口で説明しただけで直ぐに何でもかんでも成功する訳ではない。一度目から二度目、三度目と徐々にズレが生じ、その都度修正をしなければならないのだ。

 

それに知っている事が全て、100%起こるとは限らない。

 

だから、火神は的確な指示を、知らない所までやってみせた菅原を見本として見せてもらえた。寧ろ菅原が示してくれてるようにも感じた。

 

仮に、自分ならその場で修正できる自信がある。だが、それは培われてきたモノが備わっているからだ。

 

独りよがりになってしまえば、それは嘗ての影山。

 

 

―――全て自分1人で出来れば良い。

 

 

そう考えていた頃の影山と大差ない。

 

バレーはチームプレイ。

仲間たちと協力し、共闘し、繋いでいくスポーツなのだから。

1人だったら、何にも出来ないのと同義だ。

 

だからと言って、他人に教えるのが簡単かと問われれば、正直難しい。

 

教える事は正直得意としていない火神。

どちらかと言えば火神は西谷や影山と同じタイプで、身体の細胞の1つ1つに覚え込ませた嘗ての感覚を、過去(前世)から現在(現世)までの全てを100%発揮する。

 

つまり―――本能に任せてモノを言う派寄りなのである。

 

言葉で説明するのがもどかしくなる事が多いし、そして何より、お互いに高まり上がっていくバレーのスキルがより大きくズレを生んでいたので、また一際言葉にし辛い。ましてや試合中ともなれば尚更だ。

 

 

「火神だって十分出来てたじゃん! 言ってたタイミングは、間違いなくばっちりだったし。それも、オレみたいにじっくりゆっくり外から見れた訳じゃないのにさー。それ以上欲張られちゃ立つ瀬無いべ無いべ。……お前さんは十分凄すぎるから。ちょこっと考える役、オレがやっただけだって」

「あ、はい! でも凄いです! スガさん!」

「んもー、褒めすぎだって!」

「いてっ」

 

 

どんっ! と腹部に拳を当てる菅原。

菅原も火神の様な天才(と呼ばれるのは嫌いなので、口にはしない)に素直に凄い! と言われたり、時折見せる日向の様に目を輝かせられたりされると照れるが、素直に嬉しい。難しい、正直無理とさえ思っていた筈なのに、一緒にプレイする事によって、自分でももっともっと上に行けるのではないか、追いついて横に並んでプレイできるのではないか? と思えるから。

 

 

―――もっともっと高く飛べると思えるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対する連続ブロックを取られた青葉城西側は、当然 心中穏やかではない。

確かに第1セットは先取した。

第2セット目に行く時も、1セット目の事は忘れることを旨として、選手達を送り出した。

 

―――間違いなく選手達は絶好調だと言っていいのに、烏野は更に調子を上げた様に見える。

 

セッターを変えた事による全体のリズムがまた別物に変わったのだ。照準を合わし、かみ合わせる事が出来かけていた歯車を乱されたような感覚だ。

 

 

「(あの烏野の12番。……基本的に リベロを狙わないが 入れる(・・・)サーブだ。1セット目もミスは無かったし、狙いどころも悪く無いが 威力が低い。完璧なレシーブから速攻を仕掛けるのが有効な手段で、常套句だったのだが…… それを見越した上のあのブロックか)」

 

入畑は、日向のブロックを見て 背に冷たいモノを感じた。

今までのがMAXではなく、まだ高く跳べるのか? と。

 

これだけ濃密な試合だ。緊張感もあり、普段よりも遥かに疲れが出てきてもおかしくない状態で、1セット目よりも遥かに打点の高い跳躍を見せた

 

「(……あの10番が急に高く跳べるようになった訳じゃない。ほんの少しだけ跳躍する為の姿勢を修正した。その結果があのブロック……)」

 

日向の跳躍力・バネは、最早言うまでもない。これも烏野の脅威の1つだ。

 

だが、殊ブロックにおいては、最高到達点にまで到達する速度こそ同じく驚きモノだが、火神や月島と言ったシャットアウトを狙われる選手と比べるとそこまでの警戒は無かった。

ブロックは助走の無いほぼ垂直跳び。助走有りと無しとでは、10㎝以上の差が出る事もザラだ。 突然視界に入ってくるかの様な勢いある跳躍に驚きこそすれ、如何せん高さがまだ足りない。それが日向への印象だったのだが―――。

 

「……本当にノーマークだった、かもしれんな。あの控えのセッター。3年か。……3年間、頑張ってきた筈なんだ。侮ってはいけない。決して」

 

菅原を見て、入畑は改めてそう胸に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゲー! 日向、あの身長差で止めたよ!」

「……………」

「今のは多分、スガさんの指示だなっ! さっきなんか話してたし」

「マジすか!? スゲー流石3年生!!」

 

 

日向が止めた事により、コート内外問わず盛り上がる。

 

そんな中で、影山だけは静かだった。

 

普段は日向と同じくらいうるさい男なのに、今はただただ静か。……ただ、視線をコートに向け続けていた。

 

 

「いやー、テンションが更に上がりましたね! 何度かブロックポイントは見てきましたが、あの日向君が止めて見せてくれたのは、また格別というか、ガッッ! と上がった感覚が凄いです!」

「………おう、そうだな……」

 

 

同じくコーチ陣。

武田も日向のブロックを見て更にテンションが上がる。……が、烏養だけは何処か上の空。

勿論、日向が得点した事に対しては 外から見ていてもよく解る。菅原が日向に何か指示を出した。跳躍の過程を伝えた事までは流石に把握できてないが、ブロックの高さが増したのは外から見ていても解った。

普段より、やや低く感じていた日向のブロックが、あの僅かな時間で、修正させるなど 監督顔負けだ。些細で微妙な違い、ほんの僅かの距離が高くなるだけで、明暗を分ける事を身をもって教えてくれたと言って良い。

 

だから、100点満点中100点だってやりたい気分だった……のだが、烏養は上の空。

そして、烏養の視線が向かう先は―――コートの中ではない。

ちらちらと、時折視線が動く、その先に居るのは、影山だ。

 

 

烏養のあからさまな行為は、横に居た武田にも伝わった。

そして、その視線、仕草、表情から何を感じているのか、何を考えているのかも同時に理解した。

 

「大丈夫ですよ」

「ッ!?? ……え!?」

 

だからこそ、武田は答えに導いた。

烏養よりも少しだけだが、長く見てきているからより理解する事が出来ていたのかもしれない。

 

「プライドの高そうな影山君が、ベンチに下げられて、へそを曲げてしまわないか心配だったのでは?」

「ぅ………」

 

その指摘はまさに図星である、と顔に書いているかの様だ。

思わず烏養は表情を引きつらせていた。

 

そんな烏養に笑いかけながら武田は続ける。

 

 

「影山君の強さ、上手さの要因は、高いプライドもそうですが、それ以上にある上達への貪欲さだと思います。少なくとも、今彼の視線、表情は へそを曲げてる様な顔じゃありません。……どうすれば良いのか、最善とは何か、……コートに戻れた時、戻った時の事を考え続けていると思います。烏養君が言ってた通り、落ち着いて【先輩のプレイ】を見ているんだと」

「………そうか。そうだな。……ははっ! 先生みてぇじゃねーか!」

「え? いや、僕は一応先生なんですけど……」

 

 

見てるつもりで、見えてなかったのは烏養も同じだった。

武田の言う通りだ。

 

あの影山の表情は―――心配いらない。

 

烏養はそう考えなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、———更に烏野のサーブ権で試合再開。

 

 

【月島も一本! ナイッサー!!】

 

【一本! 絶対切るぞ!!】

 

 

互いに声を張り上げ、鼓舞する。

声出しでは負けないと、どちらも声を張り上げる。

 

 

そして、日向は先ほどの余韻もそこそこに、直ぐに次のプレイに集中。

菅原の後ろ、腰に回されている右手をチラリ、と見た。

 

 

「(えーっと、あのサインは確か―――……)」

 

 

それは、以前 菅原に渡されたサイン表にある手の形。

影山の様な傍から見たら無茶なドンピシャ・トスは菅原には出来ないので、どういう攻撃に出るかを決める為のモノ。それを全員分作って配っているのだ。

 

 

――少しずつで積み重ねる。例え技術で、体格で……全てが及ばなかったとしても。

 

 

 

 

菅原を誰よりも見続けている男、澤村だ。

 

「ナイスレシーブ!」

「岩ちゃん!!」

「シッ!!!」

 

月島のサーブを、正確にレシーブ、そして流れる様に岩泉が叩きつけた。

影山程ではないにしても、十分速いセットアップ。

今度はブロックに捕まえられなかった。

 

菅原も置いて行かれて、ノーブロックの岩泉の攻撃……だったが。

 

「っっらァ!!」

 

それを執念で拾い上げたのが澤村。

 

 

「ナぁイスレシィーブだぁぁッ!!!」

「ナイスレシーブ!!」

【ナイスレシーブ!!】

 

烏養から、そしてコート内外、試合会場中がそのスーパーレシーブに沸いた。

そんな沸き起こる歓声渦巻く中でも、澤村が考えるのはただ1つ。

目の前の菅原だ。その背を見て 自分をより奮い立たせた。だからこそ、あの一撃を取る事が出来た。

 

 

「(――天才1年に、レギュラーを譲った可哀想な3年生……スガは傍目には見えるのかもな)」

 

 

そして、次に思い浮かべるのは田中だ。

 

 

 

「(田中だってそうだ。同じく天才1年の後塵を拝した。―――田中はまだ2年。3年のスガと比べたら1年あるってのは、周囲の意見。本人だって胸中穏やかな訳が無い――――だが)」

 

田中は、道を作った。自分が突き進むべき道を。一度決めたのなら、出来るまでやる。強い強い精神力は、皆を引き寄せる。

 

 

菅原も田中も―――前しかみていない。

 

誰一人として、烏野に弱い男はいない。

 

 

「(ああやって田中も菅原も前へと進み続けてる。チームの為に、烏野の為に! あいつらは、皆ずっとずっと、コートに立つ事を、立った時の事だけを考え続けている!)」

 

 

そして、澤村のレシーブ。

託されボールを菅原が繋ぐ。

 

動きに迷いも淀みもない。

ただ、自分の出来る最上を、最高を出す。

 

 

菅原が上げる先は―――もう、決まっている。

 

 

 

 

 

「(くそっ、アイツ、【来い】とも【くれ】とも言わねぇ!? それに こっち(・・・)きやがった!? やっぱ半端ねぇぞ、このローテ!!)」

「!」

 

 

影山とのあの神業速攻を脳裏に刷り込まれる程見せられた相手、日向だ。

その日向が駆け出してきている。

 

だが、その横では火神も健在。澤村が綺麗に高く上げて見せたボールは高く、2人のスパイカーに助走距離の確保を容易にさせていた。

存在感がもっともある2人が迫って来た。

その2つの光が、ブロッカーの2人を、松川と岩泉の目を眩ませる。

 

 

「視野を広く!! まず、トビオじゃないんだから! 神業速攻は無いよっ! ボール見て動く! 最低限のリードブロックで!」

【デスヨネ!! くっそっ! 混乱度合いも半端ねぇ!! アタマ、パンクしそうだよ!】

 

 

及川の声が無ければ、そのまま動く事さえ出来なかったかもしれない。

それ程までに、まるで直視できない太陽の様に、眩すぎた。

及川の声により、光に輪郭が帯びて動かない事だけは阻止出来た。

 

 

――だが、動く事が出来たからと言って、相手の攻撃力を削ぐ訳ではない。

 

 

最小限の動きで、菅原が選択した手、バックトスからの日向の一撃――Cクイック。

 

ぱぁんっ! と放たれたボールは ブロッカーの指先を少し霞め、そしてコートに叩きつけられた。

 

 

「スガは、烏野のもう1人のセッターだ!」

 

 

菅原から日向へ。

最後の最後まで限りなく相手に読ませないセットアップを決めた瞬間、澤村はそう口にしていた。

 

―――影山が疲れた時、ハプニングがあった時、例え穴埋めでも代役でも、3年生なのに可哀想って思われていても、試合に出られるならなんでもいい。

 

―――オレが中にいる理由は点とる為だ。やる事決まったら、やれるまでやる、ってのがオレだ。

 

 

菅原、田中……それだけじゃない。

烏野のコートの外の皆は、代わりと言われてる男たちは、天才達の代役なんかじゃない。ましてや穴埋めなんかでもない。

試合に勝つために、烏野がより高く飛ぶ為に―――必要な男たちだ。

誇りにこそ思えど、可哀想などとは思わない。

 

 

 

2-5。

 

「おおおお―――っ! Cクイック決まった!!」

「烏野3連続ポイント!! 今日一番の連続ポイントだっ!」

 

 

青葉城西が決まる! と思ったボールを拾ってのけ、更にカウンターでこちら側の点にして見せた。

 

その一翼を間違いなく担う事が出来た。

菅原は、それを実感した。実感し、日向や他の皆と手を合わせながら、想い馳せる。

 

 

「(オレは影山と比べたら……技術も身体能力も劣るけど、チームのことは少しだけ長く見てきた。……ははっ、万能くんな烏野の火神(お父さん)よりも、かな。きっと。………オレvs青葉城西だったら、絶対に敵わないけど―――)」

 

 

菅原は、全員を見た。コートの中外を問わずに、全員を。

このチームは……自分の仲間達は強い。

 

 

そして、その強さを間近で感じているのが、青葉城西でもある。

3連続失点を許してしまった事もそうだが、決して油断などしていなかった。格下などとはもう既に思っていない。全力で叩き潰す勢いで戦っている。だが、その悉くを外され、決められた。

 

だから――次こそは切る。

 

 

「―――ここ、一本切るぞ!!」

【オオ!!】

 

 

及川を中心に、及川は気を引き締め直した。

直ぐにでも取り戻す! ――と意気込みはしたが、少し間を置く事になる。

 

青葉城西側がタイムアウトをとったから。

空回り感は少々否めないが、点差も開き、明らかに流れが烏野に向いているので仕方ない、と両チームはベンチへと戻っていく。

 

 

「くそっ。あの影山と10番ありきで考えてた。幾ら火神がある程度補完出来たとしても、本業はWS。……ふつーに影山以外のヤツが10番使ってちゃんとした攻撃されると調子狂わされるな」

「はぁ……、それにあの控えのセッターもなかなかどうして。10、11番の2人はどっちも見とかないと危ないから、あえて2人より、セッターが何処にボール上げるかを読もうと思ったんだけど……」

「……読ませちゃくれないセットだった」

 

岩泉と松川の言葉に全員が頷いた。

影山の超精密トスを間近で見続けてきたからこそ、その影山が引っ込んだ時点で、ある程度の有利性(アドバンテージ)はこちら側にある、と踏んでいたのだが、完全にそれが裏目に出た。

 

「……何てことはねぇ。オレらが、セッターは影山だ、って決めつけてた。影山ばっか見てた。あの2番を舐めてた。ただそれだけだ」

「おおっ、謙虚な岩ちゃんレアだね~。普段からソレでどうぞ! よろしく! それにあんまり足りない頭使い過ぎると痛くなっちゃうよ?」

「……………」

 

雰囲気が悪くならない程度に、いつもの及川節を吹かせている。

 

返答は無言の頭を使った岩泉頭突き! ある程度の痛みは伴ったが、考え過ぎて凝りそうな頭を解す事は出来ただろう。

やや硬かった顔が柔らかくなっていくのが、わかったから。

 

 

入畑もある程度の助言をしつつも、やはり今 注目するのは控えのセッターである菅原。

 

セッターは影山だと注視してきた。

練習試合の時もセッターには影山を指名した。

 

……もっと早く知るべきだった。

 

 

 

――烏野に、もう1人。篤実なセッターが居ると言う事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野のベンチでは、勿論大いに盛り上がっている。

主に日向が中心になって騒いでいるので、雰囲気は上々。

 

「よーし、出足は好調だ。いや、絶好調だ。ブロックも良いし、及川のサーブを一本で切って見せたレシーブ、それにあっちのMBからの攻撃を上げて見せたレシーブ。完璧だ。何べんでもいうが、調子にはどんどん乗れよお前ら!」

【アス!】

 

烏養からもお墨付きだ。

このままの流れで行けるところまで駆け抜けたい所だ。無論、決して油断していい相手ではないので、その辺りもしっかりと見極める。

 

 

 

「菅原さん!」

「おう!?」

「あの、さっきの向こうの攻撃なんですけど……」

 

 

 

ある程度の全体ミーティングが終わった後、すかさず影山は菅原に駆け寄った。

先ほどの攻防、日向が止める事が出来た事、ブロックをスイッチした事、気になった事を全て菅原に聞いていた。

 

それを聞いて、菅原も懇切丁寧、事細かに説明する。

時折、火神にも助言を聞きながら、より最適解を模索もしていく。

 

 

そんな姿を見た烏養は、改めて感じていた。

 

 

「……正直に言えばな先生。菅原が入る事のメリットは、他の連中が一度平常心に戻るとか、3年が入る事で締め直したり、色々リセットして仕切り直したり……、つまりメンタル部分が大きいと思ってた。……けど、相手が最大級に警戒してたもんの1つ、影山日向コンビ攻撃を引っ込めて、菅原っていう未知の司令塔を入れた事で、確実に相手は混乱している」

「つまり、影山君とのギャップですね」

「ああ。それに当の菅原、格上だって言っていい青城相手にして、冷静に奇襲を成功させてる。……ここでこんだけ出来てるんだ」

 

 

確信を持って烏養は言い切った。

 

 

「――これは他の試合になっても きっと通用する。間違いねぇよ」

 

 

それは菅原にとって、何よりも嬉しい事。

それを菅原本人が耳にするのはもう少し後の話。

 

「なぁ、影山」

「はい?」

 

ある程度話を終えた後、菅原は苦笑いをしながら影山に話しかけた。

 

「オレ達はさ。なんつーか、【同じポジションを獲り合う敵】みたいな図式になってたじゃん。実際にポジション争いしてるわけだし―――、なんか今日、火神(おとーさん)っつう新たなセッター超強力候補が出現したし? 名言(・・)も一緒に出てくるっていうおまけつきで。オレ、たじたじです」

「――――ハイ。正直、それはオレも思ってます」

「……あー、いや、その…… おとーさんっていうか、名言ってなんスかそれ……。それにどこでもやるというわけには……」

 

如何とも形容しがたい表情をする、とはこのことだろう。

 

菅原が、影山にセッターに対する想いを打ち明ける……的な流れだと思っていたのに、まさかの自分にも焦点を合わされて思わずたじたじになってしまう火神。

 

今日の試合は、及川がいやらしいプレイ……影山を間違いなく一番意識してると思う様なプレイが何度かあったので、火神がセットアップする機会が増えた事は間違いないが、ポジションはセッターではないのも間違いない。

 

「えー、でもほら、確かオールラウンダーだ、って言ってたべ?」

「っあ……」

 

そして、入部の時に言っていた事も思い出したみたいで、更に何だか気恥ずかしくなってきた。

 

そんな火神を見て、菅原は笑顔で背を叩く。

 

「ははっ、心強いってのは間違いないから歓迎だろ。んでも、オレだって試合いっぱい出たいんだから負けたくないんだよな、これが」

「! それはオレも同じですケド」

「だよな? 強敵相手に、コートの中で。……うん。相手のデカさとか、狙われる事とか、忘れてたって訳じゃないけど、やっぱビビるわ。前のオレならきっと萎縮してた。まーた、旭にばっか頼ってばっかな状態になったかもしれない。……でもな。今は後ろに影山が控えてる。【ツーでもセットでもする】ってはっきり言ってのけれる火神が中に居る。これ以上ないくらい頼もしい」

 

 

それを聞いて、影山は勿論、今回ばかりは火神も気恥ずかしくは感じず、真っすぐ菅原を見ていた。

 

 

「オレが上げて決めてくれた点も、火神がセットして決めてくれた点も、オレじゃなく影山が入ってる時の点も、全部合わせて烏野のものだ。烏野の得点だ」

 

 

菅原は、ぐっ、と拳を握りしめ、そしてゆっくり開きながら続けた。

 

 

 

 

「オレはオレなりのベストな戦いを、影山も影山のベストな戦いを、火神は火神のベストな戦いを。―――それで、全員(・・)で青城に勝つぞ」

「「オス!」」

 

 

 

 

 

 

 


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