王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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やってしまいました……。
出すの早かったかな、早まったかな、と思いましたが……。苦笑


これからも頑張ります。


第73話 青葉城西戦⑬

 

「はははっ! やっぱ 日向 キレっキレだな~、ちくしょーーっ! 影山も水を得た魚って感じだしな~~。それに加えて火神もめっちゃ笑ってる。今日一番の笑顔じゃね? アレ。それもな~んか、ちくしょー! だなーー」

「っスね。何だかあの3人は、えーっと、その、こう――――……つまり、オレも負けねぇス!」

「ははっ、何言ってんのかわかんねーよ、田中。まっ、気持ちは伝わってくるけどな」

「「………………(水を得た魚……、影山トビウオ?)」」

 

 

菅原は、見事に決めてのけた日向・影山の変人速攻を見て、思わずそう言っていた。

田中も思う所はあるのだろう。あの3人が一緒にいる事が一番しっくりくる、と思ってしまっているのだ。……が、だからと言って自分が試合に出られない事を甘んじて受けるつもりは無い。虎視眈々……菅原の様に出来る事を、やれることをやれるまでやる信念なのが田中だ。

 

そして、月島と山口は 【水を得た魚】から、影山とトビウオを連想させて、思わず笑っていたのだった。

 

「ふぅ……」

 

やはり、自分が出ている時と影山が出ている時の差が明確に出ている事が、少々悔しい。……でも、緩急をつける、と言う戦術の幅は間違いなく広がっている事も理解出来ている。

 

自分にも出来る事がある。これからその幅をどんどん増やす。

 

それは菅原にとってまさに嬉しい事だらけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日向の、烏野の最速にして最強ともいえる神業速攻。

 

影山が交代でコートの外に出て その攻撃はなくなったかに思えたのだが、更に厄介さを引っ提げてコートへと戻ってきた。

今までは菅原のセットアップで慣れていた所に、またあの神業速攻がやってきたら、どれだけ集中していても、どうしても揺さぶられてしまう事は間違いない。

 

「くっそ……(普通の速攻見続けた後だと、余計タイミングがつかめねぇ……。早いトコ慣れねぇと…… これ以上離される訳には……!)」

 

一番顕著に感じているのがMB(ミドルブロッカー)である金田一だ。

火神に何度も抜かれ、更に先ほどはドシャットで止めてのけた日向だが、また神業速攻が復活し、今度は動く事が出来なかった。

 

この攻撃、今後も使いどころを巧みに使い分けられてしまえば、と考えたら…… 頭の中がグチャグチャになってしまう。

 

 

「ハァイ、落ち着いて」

 

 

そんな金田一に、そして 恐らく全員が 一番マッチアップしている金田一程ではないにしろ、絶対に意識はしているであろう事を及川は告げる。

 

 

「こっちが焦って崩れてやる必要はないよ。今取られちゃってるけど、1本切れば問題ない。こっちもブレイクし返しちゃえば良い」

「っ! ハイ!!」

「オス! 次は拾います!!」

「うんうん。その意気その意気!」

 

雰囲気が暗くなると士気も低下する。

それはプレイにも影響を及ぼす事だろう。

それをさせない為にも、及川は常に全体を見て、的確な事を言う。そして勿論、自分自身が不調だったら、周りが見えてなかったら、逆に助けてもらう事だってあるだろう。

 

信じて信じられてが、チームの結束力に繋がるのだ。

 

 

「おい、そのポーズと顔ヤメロ。腹立ってしょうがねぇ」

「ヒドイな!!」

 

 

岩泉の毒吐きも最早通常運転の証だと言って良いのである。

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は再開。

 

「ナイッサー! 影山!」

 

続く影山のサーブ。

 

威力は十分ある……が、打つまでの動作もこの2本と比べても申し分なしだが、ほんの僅かのズレ。少しだけ精度が乱れていた様だ。

威力は強いが 着弾点はレシーバーの真正面。

 

 

「っしゃあ正面!!」

「岩泉さん! ナイスレシーブ!」

 

 

岩泉が上げたボールを最後は花巻。

見事に日向が金田一につられて跳んでしまったので、火神1枚のみのブロックになってしまうが、1枚でも出来る事はある。

 

 

「っ!」

「ストレート!!」

 

 

コースを絞らすことだ。

クロス側に打てば、絶対に捕まえる、と言う気迫で構える火神。

勿論、その気迫をも囮にして腕を振ってストレート側を……とも考えたが、相手はもう何度も何度も相対している。

それに腕を振り回す行為は、レシーバーの邪魔になりかねない。

だから、下手な小細工よりは ストレート側に居る影山に任す選択を取った。

 

 

花巻は、ストレート側に打たされている(・・・・・・・)不快感を感じつつも、道を開けてくれている事実は変わりない為、レシーバ―と真っ向勝負を選択した。

 

ドンッ! と打った一撃は 狙い通りストレート側に飛ぶ……が、如何にコースを開けていたとしても、相手は時速100kmは余裕で超えてくる速さで迫るボールだ。如何にレベルが高いレシーバーが居たとしても、そう易々と拾える球ではない。

 

 

「ぐっっ……!!」

 

 

影山は、レシーブに飛び付き、ボールに触れる。……触れただけだった。

そのまま、サイド方向へと弾き出され、こちらの失点。

ボールに手を当てる事でさえ、見事と言って良いスパイクだったが、影山は、取れなかったことを良しとする訳も無い。

 

 

「すんません!!」

「ドンマイドンマイ!!」

「次、一本切るぞ!!」

 

 

 

次は 必ず獲る。

影山はセッターではあるが、同じ様なボールが自分の所へ来たとしても、次は必ず獲ってやる、と言う気迫を見せながら、次の攻撃に備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの一連の流れを見ていた入畑は、烏野の攻撃がまた一段階進化した様に見えていた。

 

 

元々、最初の影山セッター時。

色々と問題を抱えていたものの、それを踏まえても烏野の攻撃力は当然高い。

そこへ影山から菅原へと代わり、トスの精度、攻撃速度こそは劣るものの、基本に忠実であり、速さのリズムを変える結果にも繋がって 攻撃幅がより広がった。

 

その菅原に相手が慣れだした頃に、また影山へと変える。

 

更に言うなら 最初の問題点を払拭させた上での復帰だ。

明らかに最初の頃とはリズムが違う。ただ元に戻したのではなく【進化した】と思っても不思議じゃない。

 

「(……影山は、平常のリズムを取り戻したか……、いや、それだけじゃない。明らかに視野(・・)が広がっている。まだ粗削りながらも、仲間たちの方へ意識が向いている。……元々、あの2人には、必要なコミュニケーションは獲れていたから、な。一度外へ出て、頭が冷えたのなら、ある程度は出来たとしてもおかしくない、か……)」

 

翻弄するとはまさにこの事だと、入畑は身をもって痛感する。

 

「(次は火神君のターンか……)」

 

そして、次に考えるのは やはり烏野のビッグサーバーである火神。

影山のサーブも十分凶悪だが、スコア的に考えても 2種搭載しているサーブの事を考えても、厄介と言えるのは やはり火神だ。

 

「―――出来る限りブレイクを、点差を縮めておきたい所だが……、このタイミングでは厳しいか」

 

影山が交代したばかりで、まだまだ、日向と言う囮が十全に機能している烏野の攻撃パターンに慣れきってない。

あの攻撃を直ぐに慣れろ、と言う方が無茶な話であり、加えてライト側の火神の事も当然ながら警戒しておかなければならない。……更に言えば勿論ながら烏野のエース東峰も健在だ。日向を囮にしたパイプ攻撃。ブロックである程度威力を削がなければ、一度放たれてしまえば取る事は出来ない程の威力を誇る大砲。

 

攻守共に、最も崩しにくいローテーションでは無いか。

 

 

「……ああ! ドンマイドンマイ! 焦るな!!」

「思ってた途端に、か」

 

 

最後に危惧した東峰のパイプで、打ち抜かれてしまって、16-18。

再びサーブ権が烏野へと戻る。

 

 

「ここ大事だぞ! 一本で切れ!!」

 

 

横で声を荒げる溝口も十分過ぎる程解っているのだろう。

烏野で一番厄介なサーブを操る男のターンなのだから当然。

 

 

バレーボールのローテーションと言うシステム。

 

 

それは、希望と絶望を―――交互に運んでくるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火神ナイッサー!」

「せいやー! 必殺サーブ!!」

「ナイッサー!!」

 

 

火神は、皆の声を背に受けながら、エンドラインへと下がっていく。

エンドラインから下がる歩数は4歩。

 

「(ジャンフロ。やっぱり揺さぶってくるね)」

 

及川は、火神の歩数を確認後 皆へ前に出る様にと手で指示。

勿論、歩数の件を聞いてから 指示を貰うまでもなく青葉城西の全員が そのサーブに備えていた。

 

サービスエースに加え、更に追加を重ねられた影山の強烈なスパイクサーブを見た後だから、緩急をつけると意識すればジャンプフローターサーブが効果的だろう。

 

 

 

「(———って、考えるかな。オレがジャンフロ(こっち)で打つって 解ったら………)」

 

 

 

火神は4歩下がって正面に向き直した時、青葉城西のレシーバー陣のポジションが前、前傾姿勢になっているのを見ながら思った。

 

こちらが打つ球種を示している様に、青葉城西も守りの姿勢で示している。ジャンプフローターサーブに備えている事がはっきりと解る。

 

仮に万全の体勢で備えていたとしても、非常に取りにくいと言わざるを得ないのが、そのサーブの性質、無回転にある。不規則な変化。打った本人でさえ 解らないブレ球。まるで直前でボールが変化するかの様に思えるだろう。

威力が無い分の最大の武器となるのが、その変化だ。

 

 

「(でも、ソレ(・・)だけじゃないんだ。……オレのサーブは。2つだけ(・・)だと言った覚えもない)」

 

 

火神は、一度目を瞑り、主審の笛の音が鳴ったと同時に、ギンッ! と効果音、擬音でも付きそうな勢いで目を見開いた。

 

その緊迫感は、周囲にも影響を及ぼす程だ。味方の声、そして相手の声以外が 静まり返った。息を呑む、と言うのはこういう事を言うのだろう。

 

当然、向けられている青葉城西側も一層緊張感が高まる。

 

脅威を知っているからこそ。

 

スパイクサーブ程の威力は無いのに、時に理不尽気味に動く時だってある。落ちる時も有れば浮く事もある。右左も当然ある。まさに理不尽だ。

より緊張感が高まった今、これ以上取りにくいサーブがあるだろうか。

 

 

「一本で切るよ!!」 

【おう!】

 

 

 

及川の号令の下、最大限に警戒していた青葉城西。

 

 

火神は、ボールを両手で持ち、構えた。

軽い助走から、高く上げ過ぎない前方斜め前に上げるトス。

そして、跳躍し ボールの中心をしっかり見ながら……スイング。

 

通常、ジャンプフローターサーブでは、ボールを打つ瞬間は振り切らず止めることを意識する。

 

腕を振り切らずに止めるイメージで打つと無回転に成りやすい。

ボールと手の接触時間が長ければ長い程、力が伝わる方向が真っ直ぐではなく、僅かにズレてしまうのだ。そして、そのズレが本来 無回転で相手コートに向かう筈のボールに緩やかな回転を与えてしまう結果になる。

 

そうなってしまえば、実に対処しやすいボールとなってしまうだろう。

 

無回転ボールか、回転するボールか。

ほんの僅かでも 回転がかかってしまえば、ジャンプフローターサーブの捕球難易度が大きく変わってくる。

 

ならば当然選ぶのは無回転だろう。

それを意識しつつ、少しでも強く打つ。威力を最大限に出す為に力を入れるのが正解だ。

 

 

――だが。

 

 

 

「(ここッッ!!)」

 

 

 

―――火神が選んだのは、無回転ではなかった。

 

 

 

 

 

「!!」

「っ!!」

 

ほんの一瞬の出来事だったが、後衛に下がっている岩泉、そして及川は驚愕する。

 

ジャンプフローターサーブは、無回転サーブだ。

その時に生じるブレこそが最大の脅威。

だが、この球は違う。

 

打たれたサーブがネットを越え、丁度 岩泉の正面へと到達する軌道だった。後は岩泉が如何に無回転によるブレ球を対処しきれるかどうかがカギとなる――――筈だったのだが。ネットを越えた辺りから急激にボールが変化した。

 

 

変化、と言うより大きくライトサイドへ曲がった(・・・・)と言った方が正しい。美しい曲線を描きながら。

 

 

大きく曲がったボールは、岩泉と渡が護る守備範囲の丁度中間位置へと落下……誰も拾う事が出来ずにそのままコートに叩きつけられる。

 

 

16-19。

 

 

スコアボード係が烏野の19点目を捲ったタイミングで、緊迫感あるサーブ時だった為、静まり返っていた会場が一気に目覚める。

 

 

 

【ノ――タッチ、エェェェエスッッッ!!】

 

 

 

 

烏野サイドだけじゃない。

場の全体が一気に盛り上がりをみせた。

 

元々、火神のサーブの強さに関しては、この場に居る誰もが解っている事であり、決まったり、乱したりで盛り上がるのは今や通常光景。

 

 

今火神が打ったサーブの詳細について、一体会場の何人が理解出来ただろうか。

 

 

 

「すげーなー……」

「ああ。助走から跳躍、打つ寸前まで ジャンフロそのもの。なのに、飛んできたボールは全くの別物」

「まだ隠してたって事? それとも思いつきでやっちゃった??」

「それ、どっちもやりそうだよねー……。咄嗟にやってみたのかもしれないし、元々やろうと思ってたのかもしれないし……」

 

 

正直、ノータッチエースの驚きは、他の皆さんに任せて、冷静に冷静に見ていた烏野OB2人組は、今のサーブを脳内でもう一度再生し……改めて度肝を抜かされていた。

 

 

 

 

 

 

そして、全てを理解した者の1人である 入畑は思わず立ち上がりそうになっていた。

 

「!!(今のは……意図的(・・・)か!? 意図的に回転を加えた!?)」

 

横で見ていてもはっきりわかった。

 

あの打たれたボールには、通常のジャンプフローターサーブではありえない強い回転がかけられている事に。

ボールに強い回転をかける事で、意図的に曲げる事が出来る。野球のピッチャーが変化球を投げる時と同じ原理だ。強い回転は空気抵抗を受け、右か左か、かけられた回転の方へと流れる様に曲がる。

 

「ジャンフロを警戒していたこちらの裏をかいてきた……?」

「まさか、ここで、この場面でこんな手を……」

 

強力な2種のサーブを操ってくる事は事前に解っていた事。

練習試合でもそうだし、1,2回戦でその手の内をしっかりと視る事が出来た。

打ち分け方も把握する事が出来た。……だが、更にその上がある事に驚きを隠せれない。

 

何度目だろうか。

彼は本当に高校生なのか? とまた疑ってしまいたくなる。

若しくは、全て見透かしているのか? とも。

 

 

「スパイクサーブ、ジャンフロ、先ほどの強烈なサイドスピン。加えてサーブを打つタイミングを意図的にズラすサーブ。……彼が操るのは2種のサーブどころではない」

 

 

入畑は、直ぐにタイムアウトを要求した。

このセット2度目のタイムだ。

もうこのセットで要求する事は出来ないが、数多のサーブの可能性をまざまざと見せつけられた今、少しでも頭を冷やす時間が必要だと感じたから。

動揺に付け込まれ、更なる失点は防ぎたかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うほほほ!! せいやーー!」

「ナイス火神!」

「……ぐぬう。……ナイス」

「ナイスっぽい顔しろよ、影山……」

 

タイムアウト要求の笛の音を聞き、ベンチへと戻る烏野。

 

称賛の声をそれぞれ聞きつつ―――ベンチへと帰ると何故だか烏養が、少々ジト目になっていた。

 

「火神君。チームに隠し事があったみたいですなぁ? ジャンフロとスパイクの二つは聞いてたけど、なんだい? 今の超絶回転サーブは??」

 

にっこり、と笑ってる烏養は怖い。

年の功か、年期の違いか、影山が霞むくらい怖い……かもしれない。

 

でも、興奮しているのは、はっきりと解る。

ここで3点差をつけられて嬉しい事、先に20点台に乗るとより勢いを増す事。火神の知らなかったサーブを紹介され、更に揺さぶり……寧ろサービスエースを取れる可能性が上がった事。

 

様々な利点が一気に烏野へと押し寄せてきたのだ。

難題が沢山あった筈なのに、まるでそれらを帳消しにしてくれるかの様。

 

「あ、いや、隠し事とか そんな大層なモノじゃなくてですね。歩数は判ってるみたいで、どっちかと言うと、ジャンフロの方を警戒していたのは 最初からわかったので、中盤から終盤で敢えて回転をかけたサーブを打とうかな? とは思ってました。上手く狙った所に打てて良かったです」

「簡単に言ってくれるなぁ、オイ! これまでジャンフロ目に焼き付けといて、いきなり同じフォームから全然違う球種に変えられた日にゃ、相手大混乱だぞ!! それも付け焼刃とは程遠い完成度だよ! そもそも よし、やってみよー! っていうのは解るが、実行して実現さすなんて、マジすげぇな! おい!! 練習とかしてたのかよ!」

 

バシバシ肩を叩かれる火神。

結構痛い。

回転を敢えてかけるサーブに関しては、以前よりの受け売り。

完全なコピーサーブではなく、自分なりに付け加え、カスタムを繰り返しているのだ。打つタイミングや球種等もその内の1つだ。

 

「せいや、すげーー! すげーー!」

「ナイスサーブだ! 火神!」

「すげーぞ!! んにゃろめっ! 出し惜しみしてやがったなこんちくしょーー! 青城に代わって殴っといてやる~~!」

「マジでどんだけー! だよ! うははは!」

「今度練習で あれも、たまにオレにも打ってみてくれ!! 獲ってみてぇ!!」

 

お祭り騒ぎになるのは良い事だが……、あまりに圧力かけて、揉みくちゃにしてしまうと火神にダメージが加わってしまう。勢いよく火神に飛び付いている日向を筆頭に、田中やら、菅原やらが加わって、さぁ 大変。

 

 

「止めなさい止めなさい。火神が折れちゃうよ」

 

 

東峰も同じく称賛を―――と言いたいところだが、これがもしも自分の時だったら、折れる!? って思ってしまったので、思わず止める側へと回っていた。

 

 

 

 

「よーし。見えてきたぞ。お前ら! 火神。解ってると思うが、あの回転サーブは言わば奇襲だ。取りにくさで言えばジャンフロ、無回転の方が格段。回転するサーブの方が軌道が解りやすいから取られやすい。使いどころ見極めて行けよ」

「アス!」

「そんでもって、前衛の3人はサーブで崩れて、ボールがこっちに返ってきたら畳みかけろ。攻撃方法は日向を存分に使って相手を更に攪乱しろ。変人速攻もガンガン使っていけ!! とにかく、出し惜しみはすんなよ!」

【アス!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までにないサーブ。いきなり新しいサーブを打たれちゃ正直獲られても仕方がない。……でも、落ち着いてるな?」

【ハイ!】

「ならいい。火神君のサーブ、その歩数は間違いないみたいだけど、決めつける事は避けよう。今のも前に出過ぎてなければ取れていた可能性が高いサーブだ。……まぁ、あのサーブは半ば奇襲みたいなものだと思うから、次いつ来るかはわからん。……でも、警戒は怠るなよ」

【ハイ!】

 

青葉城西側では、烏養の言う通り、入畑もあのサーブは奇襲であると言う認識だった。

 

回転が掛かるサーブは、軌道を読み易いし、曲がる方向も一定。右に曲がっていたのが突然左に~なんて事はあり得ないから、どう動くか解らない無回転よりはとり易いサーブなのだ。

サーバー側で重要なのは サーブの使いどころであり、そしてレシーバー側にとっては、決めつけない事。難しいが、出過ぎず離れ過ぎず冷静に、だ。

 

そして 何よりも気持ちで負けない様に。

 

 

 

「悪い。ボールも見えてたし、曲がる軌道も解った。頭では解ってた。んでも、ジャンフロだって構え過ぎてたよ。だから見送ってしまった」

「ああ。めっちゃ曲がったな。ジャンフロ頭に入れてたら固まっても仕方ない」

 

当然、受けた岩泉は勿論、大きく曲がったサーブを見ていた者たちも もれなく全員驚いていた。

 

加えると 間違いなくまた意識しなければならない不安要素が増えた。此処までくればうんざりしかねない勢いではある、が。やらなければ話にならない。

 

どれだけ嘆いたとしても、相手が加減する訳はないのだから。

 

 

「ま~~~ったく、ほんとせいちゃんってば たまんないよね~」

「影山ん時はメッチャイラついてた癖に。火神になったらソレかよ。最早 気持ち悪くなってきたわ」

「気持ち悪いって ひどくないっっ!? それに 皆解ってる(・・・・)でしょ! 何となく!」

「……………」

 

確かに解ってるが敢えて口には出さない。

性格が悪い上にキモチワルイ及川(by岩泉)には変わりはないので。

 

そんな視線を読んだのか、及川はごほんごほんっ、と咳払いをしつつ、改めて全員を見て言った。

 

「凄い凄いっていうのはもう解りきってる事じゃん。もう、コレ何回でも言うよー。凄い事してくる度に頭ん中に叩き込んどいてね。……いや、ほんと凄いって部分がどんどん更新されていくのは、カンベンしてもらいたい所ではあるケド。何度もいう様に トビオとチビちゃんみたいな、ヤバイプレイをしてる訳じゃない。冷静に対処していけば獲れない球じゃないんだ。せいちゃんが 絶妙に上手いのは心理の裏(・・・・)をついてきてるからだ。だから、慌てず騒がず冷静に、だよ」

 

そして、次いで烏野の方を見た。

 

「まあ、間違いなく攻撃はあの神業速攻を連発してくるだろうね。チビちゃんをどうにか後衛に回した後は、センター線の攻撃回数が多分減ってくると思うから、そこん所も意識しようか」

 

及川の言葉に頷くと、内容に気になる点があったのか、松川が次に口を開いた。

 

「そう言えば確かに。10番が下がってた時、12番が居る時はセンター線使ってくる回数減るよな」

「うん。まぁ、単純にトビオはあのノッポ君が苦手なんじゃない? 昨日の試合もそうだけど、まともにコミュニケーション取ってる様に見えなかったし、何か話す時、間には誰かしら居た。間取り持ったりはしてるみたいだけど、限界があるからね~。他人のキモチまでは変えらんないし。だから、多分トビオが一番あのノッポ君を使えない。明らかに爽やか先輩とせいちゃんが上げたボールの方が気持ちよく打ってる感じするしね」

「…………」

 

 

回数が減ってる事は周りも気付いていた。だから レフトかライト、そしてそれぞれの配置からより攻撃の選択肢を狭める事が出来て、貢献にも繋がってる。

 

だが、個人の好き嫌いまで注視してる者は居なかった。

 

確かに、じっと見ていれば気付く事なんだろうけれど……。

 

 

「……やっぱ、お前とはトモダチになりたくねーなー」

 

と、松川が岩泉に負けずとも劣らない暴言。

 

「なんでさ!!」

「だって、弱みとか握られそうじゃん?」

 

それに便乗するのが花巻。

岩泉も加わって、同級生相手にまさかの及川 四面楚歌状態である。

 

「って、チームメイトの弱み握ってどうすんのさ!!」

「いや、お前の性格の悪さなら後々に何かやらかしてくれそうで」

「そんな事しません!!」

 

 

最後の方のやり取り。

恒例の及川イジリで、良い具合に緊張が抜けたのだろう。

タイムアウト取った直後の強張っていた表情は完全に消え失せているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、タイムアウト終了直前。

 

 

影山は、とある難題に直面していた。

火神がサーブを打つ間はまだ全く問題ない………が、問題は日向が後衛に回って、月島が入ってきた時だ。

 

負けん気が強い影山にとっては少々複雑ではあるが、火神がまだまだ点を決めてくれる可能性は高いので、まだ大丈夫、月島が前に上がってくるまでにはまだ時間がある、と思うが……、それは問題を先延ばしにしているだけで、何も解決しない。

 

 

「……………」

「………なに? さっきからジロジロと」

「……………」

 

 

影山は、半ばメンチ切る勢いで月島を見ていた。

当然、あからさまに見られているので、月島も気付く。月島じゃなくても、メンチ切られて良い気分になる訳がないので、この時点で既に火種だ。

 

「(くそっ……、表情を読むとか、あげてみた感覚とか言われても、【ムカつく表情(カオ)】と【手ぬいてんじゃねぇか!?】って思うくらいしかわかんねぇし!!)」

 

悩みに悩む影山。

かと言って、色んな意味でお手本お手本と言われてる火神に【月島の調子見るの、どうすれば良い?】なんて聞くのはかなりハードルが高い。

 

 

そんな 影山の考えを見抜いた菅原は、影山に耳打ちをする。

 

 

「(影山! とりあえず会話だ会話! これ、おとーさんが、結構言ってるヤツだと思うゾ! 火神みたいに上手く立ち回れない、って言うんならとにかく月島相手には【真っ向コミュニケーション】だ)」

「? ハイッ(いつも言ってた……か?)」

 

影山はスルーしていたかもしれないが、1年リーダーを任されているのだから、ある程度は間違いなく火神は影山に伝えている、とだけ明言しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火神ナイッサー!」

「もう一本いったれーー! せいやー!」

「ナイッサー!」

 

続く火神のサーブターン。

ゆっくりとボールを手に持つとエンドラインから6歩、足を進める。

スパイクサーブである事を察知し、備える―――が。

 

「(さっきの(・・・・)を見せたから、安易に深く構えれない、かな)」

 

これまでの6歩時はあからさまに後方気味。強打に備え下がっていたが、今はまだまだ疑心暗鬼に囚われているのだろうか、定まってはいない。もしかしたら、軟打で来るかもしれない、と。

無回転サーブかと思えば強回転サーブ。

なら、このスパイクサーブも強弱どちらだ? と。

 

相手が何を出すかなど、相手がじゃんけんで何を出してくるのか考えるのと同じ。深く考え過ぎるとそれこそ泥沼に嵌る。

故に、考え過ぎず、集中する事、そして如何なるボールが来ても必ず取ると言う気概は持ち続ける事が重要だ。

 

 

「行くぞ!!」

 

【サッ こい!!】

 

 

それを待つ程のんびりとするつもりは火神には無かった。

 

主審の笛の音を耳で聞き、2~3秒間目を瞑った。

呼吸、そして身体のリズムを整え ボールを高く上げる。

 

一連の動作の全てが申し分なし。

 

青葉城西側も、打ち出される刹那、ボールが触れる、インパクトの刹那まで油断は一切出来ない。

火神が直前まで選んでいた手段は、精度重視の強打。威力は多少落ちるが、狙い処に正確に打つ事を心掛けたサーブ。狙いは渡と国見の間。

 

「「オーライ!」」

 

声かけを忘れ、2人同時に獲るつもりで動いてしまった。

ドッ! と鈍い音が響くのと同時に、パァンッ! と言う乾いた音も響く。

身体をぶつけあったが、どうにか残していたリベロ渡の腕に当てる事が出来た。

 

 

「乱した!」

「返ってくる!」

 

 

その言葉通り。

乱れたボールは、岩泉・及川の手で どうにか烏野へと返球。

咄嗟に、エンドラインぎりぎりを狙って嫌な所へと返球した及川の判断はあの状況では無難な選択だ。

 

セッターの影山を狙い、捕らせると言う手もあるが、第2のセッターと言っていい火神が動揺することなく補完してしまう。

セッターに取らされた、と言う精神的なダメージも もう烏野には望めないのだ。

 

「(ちょい迷った。せいちゃんのセットで、あの速攻は使えない。武器の1つを奪った事にはなるんだけど、ね……)」

 

本当に最善だったのか。

あの神業速攻を使わせない方が良かったのではないか。と及川は自問自答を繰り返すが、もう選んでしまった後で、考えても意味はない。下手に考え過ぎて、相手にただのチャンスボールを献上してしまうよりは遥かにマシだ、とだけ思う。

 

 

「インッ!」

「入ってるぞ!!」

「オーライ!」

 

周囲の声かけも有り、アウトかセーフかのジャッジをするまでもなく、迷うまでもなく、西谷がアンダーでボールを拾う。

 

 

「10番注意! バックも!」

「リードブロック!!」

「ブロックだ! ボールに触れ!!」

 

青葉城西側にも檄が飛ぶ。

攻撃の選択肢があまりにも多く、絞る事も難しい。―――が、これ以上離される訳にもいかない、と前衛のブロッカーは手に力が入る。

 

 

「ナイスレシーブ! 西谷!」

 

菅原は声をかけつつ、考えていた。

 

 

「(影山は、日向に【オレが居ればお前は最強だ】って言ってたけど……、何もお前1人でやる必要は無いんだ。後ろには、お前にとって最強の火神(ライバル)が居る。日向にとっても、不動の火神(トップ)が後ろに居る。……互いにより高め合う事が出来る存在がいる)」

 

 

後衛のバックアタックに備える火神の存在が、どれほどプレッシャーに感じる事だろう。

飛び出してくる日向に、どれだけ目を眩まされるだろう。

そして、それらの武器を自在に操る事が出来る影山は自分自身をどう感じるだろう。

 

 

「行け!!(バレーは6人でやるものだけど――――お前たちが揃えば、最強なんだ)」

 

 

菅原の声が皆の背を押したかのように、進む3人。

 

そして、青葉城西のブロッカー陣。及川・松川・花巻の3人は集中し続ける。

火神のバックアタックにも備え、勿論 目まぐるしくコート内を翔ける日向にも目を離さない。

本能を理性でどうにか御する。もう、あまりにも多い情報を前にすると、本能に身を任せて身体を委ねたくなるモノだが、目の前のカラスたちは、狡猾にもその隙間を縫って飛んでくるのだ。

 

 

だが――、如何に目を凝らしていても……これ(・・)は届かなかった。

 

「「「!!!」」」

 

日向が 助走し、踏み込み、跳躍する。

そこまでの3連動作。これまでにない動きを見せた部分があった。

 

それは最後の跳躍。

 

通常助走から跳躍する場合、前方気味に跳ぶものだ。ネットに当たらない様に踏み切る位置を、勢いを調整しつつ、ボールを打つ時に体重を乗せれる様に前に跳ぶのが普通だ。

 

なのに、この日向と言う男が、直前で跳躍の方向を変えたのだ。

真っ直ぐ来ていた筈なのに……前方ではなく レフト側へ 斜めに跳躍した。それも物凄い速さで。

そんなムチャな動き方をされれば、これまた普通のセッターならボールを上手く合わせる事など無理難題も良い所だ。……だが、この影山と言う男は、寸分も違わず日向の無茶な跳躍に合わせて見せた。

 

斜め跳びを見せた時、咄嗟に及川が片手ブロックで追いかけたが。一度でも振られれば間に合わない。

 

ブロッカーを完全に躱した日向は、そのまま青葉城西側へと叩きつけた。

ドパンッ! と乾いた音と共に 再び烏野へと得点が動く。

 

 

「うおおおお! なんだなんだ今の!?」

「10番、斜めにとんだ!? 斜めなのに、メッチャ高い!? どんだけ跳んでんだよ!??」

「あんなん、目の前でやられたら、絶対見失うわ!」

「烏野が先に20点台のった! 後5点だ!!」

 

 

 

 

観客の皆さんが叫ぶ様に、先に20点台へと突入したのは烏野。

サーブは、まだビッグサーバーである火神。今、完全に青葉城西を追い込んでいた。

 

「よっしゃああ!!」

「ナイスキー!」

「ナイス翔陽!!」

「アス!! …………」

「…………」

 

日向は全員から称賛されて返事を返す……が、影山だけは無言だ。

ちゃんと決めたし、問題は無かった筈だと日向も思ってる。

でも、影山のあの顔は何だか納得できない。文句があるのなら、言えば良いのに……と、色々と頭の中で考えていて……、行動に移した。

 

日向は、両手を上にあげて ハイタッチする構え。じっと影山を待った。

 

互いにガン飛ばしながら、じりっ、じりっ、と 近づいていく……が、あまりにも遅いので。

 

 

「ほんっと、お前ら最高だよ! 最高のコンビだ!」

「ぐげげっ!!」

「ぐっっ!!」

 

 

その一連の流れを見た火神は、行動開始。

あの上司と部下ネタの時同様、また笑いながら2人纏めて抱きしめるのだった。

 

 

 

 




ほぼ3種目のサーブ出してしまいました・・・
勿論、宮さんの超ハイブリッドサーブでは絶対にありません(笑)
ジャンプフローターサーブの程度の威力で、強い回転だけ意図的にかけた、ってことにしてます。ジャンフロの方が圧倒的に取りにくいサーブだと思うので、そんなに出さないサーブになりそうですね。苦笑


………佐久早さんみたく手首ぐにゃ~って訳でもないので、嫌な回転を選ぶ事も流石に出来ません(笑)

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