王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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ようやく2セット目終わりました。
これからも頑張ります!


第74話 青葉城西戦⑭

――ああ。解ってる。解ってるよ。言われるまでもねぇよ。……及川(お前)が言っている意味。及川(お前)火神(アイツ)に、何を感じているのかくらい。………どんだけの付き合いだと思ってんだ。

 

 

 

 

 

他を圧倒する火神の存在を、そしてそれに相乗してより大きく感じる烏野を強烈に感じつつも、岩泉はまた違う、これまでとは違う感覚を覚えながら、汗を拭っていた。

 

 

青葉城西は、全国には出られていないが、言ってしまえば宮城県内において文句なしの強豪校だろう。強豪と言う自負はあるし、次こそは全国へと常に虎視眈々だ。

 

仮に、現王者である白鳥沢が居なければ、或いは宮城県出場枠が2枠あるのであれば、全国大会の常連校になっていただろう。

 

 

そんな高校の練習は、当然それに見合うだけハードだ。

 

他県の強豪校相手に練習試合を重ねてきた。

全国を目指す為に、全国大会でベスト8は必ず食い込む県内最強、王者 白鳥沢を打倒する為に強豪校と練習試合を重ねた。

 

その重ね続けた練習試合の中で、勿論敗北する事もある。

勝てない事の方が多い時だってある。敗北を味わわせてくるのは 白鳥沢だけじゃないのだ。

 

何度も敗北を味わった。

その経験から全国大会の壁の高さを知っているつもりだ。

 

何度も叩きのめされた。

何度も打ちのめされた。

 

そして、一度も勝てなかった相手もいる。

練習試合とは言え 何度戦っても勝てないと言う絶望を味わった。

 

強者とは、勝者とは 大なり小なり、弱者を、敗者を、他を寄せ付けない圧倒的な力で威圧する。対戦相手を絶望の淵にまで追いやる。

どれだけ、精神力で踏みとどまったとしても、最後のセットの25点を取られてしまえば変わらない。勝てなければ関係が無い。

 

 

だが、この火神と言う男はどうだろうか。

 

 

実力はかなり高い。

これまで戦ってきた強者、強豪たちと比べても何ら遜色は無い。

レシーブ・ブロック・スパイク、そしてサーブ。

全てにおいて高い水準で持ち合わせており、託されたボールで個人でも点をもぎ取る実力者。

圧倒するエース……と言うよりは、超技巧派のオールラウンダーと言える。

 

そんな相手に点を取られればムカつくし、裏をかかれれば腹が立つのも同じだが―――圧倒的に違う点があった。

 

 

 

――青葉城西(あなたたち)はもっともっと凄い筈、絶対にこのくらいじゃ勝てない。まだ、まだまだ……!

 

 

 

 

「(初めからだったよ。最初、アイツのサーブを初めて受けた時から感じてた事だ。そんでもって、今日確信した)」

 

 

 

―――青葉城西(お前ら)なら、この程度じゃねぇだろ? もっともっと上がってこれるだろ?

 

 

岩泉は 火神に、そう言われてる感じだ。(そんな性格じゃない事は知ってるが)

 

まるで、追いすがる自分達の直ぐ目の前に立っていて、手を差し出されながら、付いてこいとでも言われている様な感覚。

 

当然、こちらも負けじと追いすがる。

手を掴むなんて恥さらしな真似はしたくない。そんな感じだから、絶望なんて考えられない。

 

何故なら、相手は直ぐ先に居る。手を伸ばせば届く距離に居るのだから。寧ろ、手を差し出してきてるとさえ思ってしまうから。自分達でも、そこへ行けると思わせてくれるから。

 

デッドヒートを繰り返しながら、自分達のプレイが向上していくのが判る。

自分達が試合中に上達していってるのを感じるからこそ、まるで手を伸ばされ、引っ張られているとより強く感じるのだ。

 

 

「(超えられない壁、ウシワカに阻まれ、背後からは影山っていう天才に迫られた。及川(アイツ)は、何度も擦り減らされてきた。……火神は 今までの天才や怪物とは全く違うタイプだ。及川(アイツ)に少し似てる。自分を、 限界以上に引っ張ってくれる(・・・・・・・・)。心湧くってのはこういう時に言うんだろうな)―――だが!」

 

 

岩泉は、続く火神のスパイクサーブを執念で喰らいつく。威力は間違いなく先ほどの影山に、……そして及川にだって負けてない代物だったが、見事に上げて見せた。

 

「ッ!! 岩ちゃん!」

「うぉらぁぁッ!!」

 

その上げて見せたボールを自らのバックアタック、ブロックを吹き飛ばす攻撃で決めて見せた。

及川は今回のセットで、バックアタックを選択するつもりは最初は無かったのだが、岩泉の気迫に選ばされた(・・・・・)

もしかしたら、相手ブロッカーに攻撃を読みやすい手だ、と防がれるかもしれないとも思ったが、それ以上に、いつも以上に岩泉を信じる事が出来た。

 

そして、それは証明される事になる。

 

強烈な一撃が、烏野の壁を貫き、コートへ突き刺さった。

 

厄介な火神のサーブを切り、スコア17—20。

 

岩泉は、吹っ切れたような、それでいて清々しさもある様な、意気揚々とした顔で高々と言った。

 

 

「だからって、そう何点もくれてやる理由にはなんねぇよ!」

「っっ~~、岩ちゃんっ!」

「岩泉さんナイスキー!!」

「ナイスキー!!」

 

 

この相手には絶望こそはしない。

必ず取り戻してやる、と言う気合こそは決して途絶えない、寧ろ増していたが、点数的に考えれば火神のサーブで圧倒されかけていた雰囲気を、まさに粉砕する一撃だった。

 

「くぅ~~、岩ちゃん、何か珍しくカッコイイ…………」

「………………」

 

カッコイイは兎も角、珍しいと言う余計な枕詞を使ってしまったので、その後無言の頭突きを及川にぶつけるのだった。

 

 

「おおっ……、火神君の強いサーブを受けて、体勢を崩していたと言うのに、直ぐに復帰し攻撃……ですか」

「ああ。……それに 今の火神のサーブ。オレの目には十分サービスエースの手応えだって思えたが……。素直に向こうを称賛だな」

 

当然レシーブは技術や経験が必要となってくるプレイだが、時に何よりも必要だと言えるのは、【絶対に取ってやる】と言う気迫、執念、精神(メンタル)面だ。

それが、あの火神のサーブを上回ったと言う訳だ。

 

「(流れを呼ぶような1発だったな。……後5点。点差は無いものと考えた方が良い……か)」

 

烏養はスコアを再度確認。

現状、こちらが先に20点台に乗り、且つこの点差。普通に考えれば、取って取られてのシーソーゲームで順当に取れるセット。点差はない……と言う考えは少々消極的すぎるだろうとも思うが、あの岩泉のレシーブからスパイクまでの流れは、思わせるに足るモノだった。

 

 

 

 

花巻(マッキー)ナイッサー!」

「ナイッサー!!」

 

青葉城西のサーブ。

そして、烏養が感じていた事 あの一連の流れからのポイントの感想は、選手たちも重々感じていた。

 

「(……このセットを落とせば、烏野(ウチ)は終わり。……先に20点台、まだ点差はある。……だが、それら一切考えるな! 平常心だ。……25点目を取るまでは!)」

 

澤村は、大きく深呼吸をする。

しっかりと相手のサーブを見極め、自身の守備範囲内に飛来してくるのを瞬時に確認すると。

 

「オレだ! オーライ!!」

「大地さんナイスレシーブ!」

 

澤村のレシーブは、正確にボールを捕らえる。

そのボールを追いかける影山。前衛には日向と東峰、後衛には火神のバックアタックも備わっている。

 

そして、影山もあの岩泉の一撃を受けて警戒心を更に強めた。

 

「(日向の速攻は決定率が高い。火神のバックアタックにも当然 目が向いている。……相手の流れにのせない為には)」

 

 

影山は、ちらりと火神の方を そして日向の方にも視線を動かした。

前衛には及川が来ている。ネット際でも 観られている視線をより強く感じる。

1セット目では、この圧力に屈する形で ツー攻撃を狙ってしまい、止めらてしまった。この圧力に屈してしまい、視野が狭くなってしまっていた。

 

だが、今は違う。

 

 

―――烏野(ウチ)の連中は皆強い。

 

 

菅原や縁下の言葉。

それが改めて頭の中に過ぎる。

 

 

 

そして――もう1つ。

 

 

 

――旭が得意なのは、ネットから離した高めのトス。

 

 

エースへの最善のトス。

烏野の最高の囮を使ってエースの道を作り出す。

例え、道が険しくとも 100%の力を出せたのなら戦える。……打ち抜ける。

 

「持って来ぉぉぉい!!」

「バック!!」

 

盛大に自身を主張する火神と日向。

これ以上無い程、相手をかく乱している事だろう。

 

「10番来るよ!」

「後ろも注意!」

 

日向と火神の声に反応しては居るが、露骨な反応は見せないのは流石の一言。1セット目の影山なら 戸惑いや躊躇いと言った精神面に影響をきたしていただろうが、今は冷静だ。

 

「東峰さん!」

 

冷静に見極めた。

ブロッカーの位置、日向や火神が及ぼすであろう影響。

 

そして、この場で託されたボールを噛みしめる東峰。悪い流れ、その入り口に立たされた感覚。皆が等しく思っているこの場面で決め切ってこそのエース。

 

「(日向、火神に負けてられない!)」

 

東峰は助走し、そして跳躍。相手ブロッカーは2枚。

松川と及川と言う極めて厄介な壁。……だが、恐れる事は一切ない。伊達工の鉄壁を打ち切った、過去(トラウマ)を払拭した東峰には、もうエースとして託されたボールを決める事しか考えていない。

 

 

「うおおお!!」

 

 

ドカンッ! と強烈な重い破裂音の様。

ブロッカーの腕に当たり、サイドにはじき出され、見事にブロックアウトで切って見せた。

 

「東峰さん! ナイスです! トスは――!?」

「ああ、もうちょい高く頼む!」

「ハイ! 解りました。修正します!」

 

「旭さんナイスキー!!」

「ナイス旭!!」

「東峰さん、ナイスキー!」

 

チーム内でも沸き起こる大歓声。

勿論、コートの外でも大きく沸き起こる。

 

「よし! よく決めた東峰!」

「ナイスです! 東峰くん!!」

 

大きくガッツポーズする烏養。

流れが変わるかもしれなかった場面だ。間違いなく嫌な流れ。それを見事の一発で切って見せた東峰に称賛の声を送る。

 

 

「ぐっ……」

「ドンマイドンマイ!」

「まっつん、おしいおしい。次一本切っていこう」

「おう!」

 

 

流れにのせてくれない事にイラつきはするが、まだまだ食らいつく、簡単には取らせない、と気合を更に込める。次のプレイに備える。

 

良い流れ、嫌な流れ と言うのは 外から見ていても何となく解る様に、中に居る選手たちもそれを重々感じている。

そして、今の流れは 間違いなく良い流れに傾きつつあった―――が、切られてしまった。少なからず影響が出るだろうな、と思っていたのだが、それを感じさせないのは大したものだ。

 

 

「(はぁ……、んで、問題は こっからかな?)しかも、青城(向こう)じゃなく、烏野(こっち)の、っていう」

 

 

烏養は苦笑いをする。

ローテーションで、日向がサーブ。そして西谷が前衛に上がってくるから、アウトとなり、その交代で入ってくるのが―――月島だ。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

入って来るや否や、月島と影山のフェイス・オフ。

味方同士で なんでやねん! と思われてしまうかもしれないが、本人たちは大真面目である。

 

 

「コラお前ら!! 毎度 敵はネットの向こう側っつってるだろ! 何で、影山vs月島みたいになってんだよ!!」

「そーだそーだ! 田中の言う通りだ!」

「づっぎぃぃー!」

 

思わずコートの外から大きなツッコミが入るが、別に気にした様子もなかった。月島と影山も大真面目だから、別に変な意識はしていない、と言う事なのだろう。傍から見たらそうは思わないが……。

 

 

それは兎も角、試合は再開される。

 

「日向ナイッサー!」

「落ち着いていけよ!」

「アス!」

 

日向も、火神や影山のサーブに充てられて自分も―――と、気合十分な感じなのだが、まだ自分が打つ事が出来るのは、普通のフローターサーブ。

変に背伸びせず、一歩ずつ……と言うのは、よく火神にも昔から言われていた事。

そして、自分に出来る100%を常に出せる様にする事。

それも意識していた―――が、やっぱり 火神や影山2人組のサービスエースは、少々日向に力みを与えた様子。

 

「あっ!!」

 

思わず日向はサーブを打った直後に声を出した。

打つ角度、強さ、それらがいつもとは違う事を撃った瞬間に確信したから。

 

【入らない!? ネットを越えない!?】

 

と思えたのだが……。

幸いにも、ボールはネットの白帯ギリギリに当たる。

いつもより力が入ってしまっていた為、白帯に当たっても威力は残っており、そのまま青葉城西側に落ちた。

 

即ち、ネットインサーブである。

 

 

「ネットイン!!」

「前前前!」

 

日向のサーブは然程 警戒していなかった、と言うのがこの時は良い方向に向かう。

強いサーブが来る訳でもなく入るサーブだから 深く構えすぎる事なかった為、不意を突かされたネットインサーブでも、間に合う事が出来たのだ。

 

「ふんっっ!!」

「まっつん! ナイスカバー!! ―――岩ちゃん!!」

 

松川のレシーブは、アタックライン付近に高く上がり、及川が素早く落下位置に入ってセット。

強気で、岩泉への速攻攻撃。

 

「オラぁ!!」

「くっっ!?」

 

 

岩泉の攻撃は相手ブロックを弾き飛ばして得点。

 

18—21。

 

 

「どんまいどんまい!」

「次確実に取るぞ!」

 

このまま、点を取って取られてのシーソーゲームで充分このセットを取り返せる。

その為にも、平常心でいる事。気負わない事。それだけ集中する。

攻撃も守備も、出来る100%を出す。

 

 

それだけを意識して、次の松川のサーブを迎える。

 

 

「オレだ! オーライ!」

「火神ナイスレシーブ!!」

 

松川のサーブを火神が処理。

Aパスで返球出来た事で、高確率で決まる速攻を選択。

 

長身の打点が高く、更に速攻と言う早い攻撃。

影山が選んだのは月島を使う真ん中の速攻だ。

 

「―――……!」

 

「っしゃあ! オーライ!」

 

月島は、そのボールを打つ―――が、打った先が丁度レシーバーの正面だったこともあり、取られてしまった。

 

 

「拾った!! カウンターくるぞ!!」

「……なんっつか、今 いずそうな打ち方してたな、月島」

 

※ いずい 【しっくりしない、違和感がある】と言う様な意味。

 

 

それが影響し、レシーバーに取られてしまったか判らないが、外から見て解る程、フォームに若干の崩れがあった。普段から月島のフォームを観察している烏養だからこそ、よりそれが鮮明に理解。

 

そして、そのカウンターは、再び岩泉の攻撃によって完成された。

3連続岩泉のポイントである。

 

 

「っく~~~、岩ちゃんの方がメッチャ目立ってる!」

「うるせぇ! お前が上げてんだろうが! それに集中しろ!!」

「してるよって! ナイスキー!」

 

 

青葉城西のブレイク。

 

19-21。

 

着実に、確実に背中に迫って来た。

 

「うおお! こっから来るんじゃないか!?」

「青城の追い上げ!」

「3番の連続ポイントだ!」

 

 

まだ追いつかれた訳ではない、が。物理的にも流れを切る事が有効だと判断した烏養は、武田に指示を出す。

 

「先生、タイムだ」

「ハイ!」

 

武田は、副審にタイムアウトを要求。

笛の音と共に、烏野側のタイムアウトで試合が一度止まった。

 

 

「まぁ、10番いないし、青城の攻撃が絶好調って、感じだからなぁ」

「あの烏野の9番と11番の強打サーブも切れたし……、ブレイク狙いやすいターン外されたから、十分追い上げられる可能性あるだろ。逆に あの及川サーブが直ぐ来るし」

 

そう、及川サーブがあちらに直ぐに控えている。

青葉城西の流れを持ってくるビッグサーバー。1セット目は見事にしのいで見せた印象があるのだが……、及川も徐々に調子を上げている。

小さな流れを大河の流れに代えるだけの力がある。

 

不安要素は間違いなく存在するが、このセットはどうしても取らなければならない。

 

「おらおら、お前ら! 顔が強張ってんぞ! 落ち着いていけ、落ち着いて取り返していけば良い! 大丈夫だ!」

【アス!】

 

慌てている様子は、表立っては見せてはいないが、烏養はしっかりと背を押す。

流れをタイムで物理的に止めたので、十分落ち着けるだけの時も稼げた筈だ。

 

そして、この試合が止まった時間は、試合中にはそこまで取れないコミュニケーションを、より綿密に取る事が出来る利点もある。

 

「………おい」

 

動いたのは影山。

そして、向かった先に居るのは月島。

 

「……今のトスは、どうでしたかコラ」

「「「!??」」」

 

顔は悪党面、強面なのは変わって無い。言葉使いも思いっきり普段と違う。

そして……知っていても、いつかは来るって判っていても、今から行くよ! 言うよ! と言う合図がある訳でもないから、意識の隙間に思いっきり入り込まれてしまった火神は、思わず吹き出しそうになっていた。

 

「……いや、まず何で田中さん口調なの?」

「何ですかコラ」

 

もう、我慢できなくなった。

波状攻撃みたいにされてしまえばもう無理だ。

 

「ぶふっっ!!」

「何ですかコラ。何で笑ってんですか、火神コラ」

「ふふっ、や、やめ、な、んでもっ。あっはっはっは!」

「笑い過ぎだボゲ!!」

 

火神は田中にひっ捕まって、頭をぐりぐりされてしまった。この場面を笑わないというは、火神には不可能だったのかもしれない。仮に来るタイミングが判っていたとしても。

 

「………」

「………」

 

 

ある意味、緩衝材だったり、間を取り持ってくれて良い通訳にもなってくれる火神がいなくなってしまったのは、彼らにとっては良いのか悪いのか……、でも、いつまでも1年生リーダーに任されてばかりではいられないのも事実なので、菅原も見守る事に徹する。

 

そして、次の月島の言葉に脱力する。

 

 

「………【黙って このトスを打て庶民】って言われてるみたいで腹立つ」

「あ゛!??」

 

実に素直な返事だ。

心情をそのままに、オブラートに包むと言う言葉を一切知らない月島はそう返した。

無論、影山も元々王様と言う名は心底嫌ってる事も有り、直接的な単語(王様)を言われてなくても、容易に連想できるので、それこそ月島に腹を立てていた。

 

「ああもう、ったく! 田中もその辺にしとけよ! こっちも大変なんだから(月島の言い方は子供か!? お父さん傍に居ないと直ぐひねくれるのか!? 言い争いしてる余裕は―――)」

 

と、菅原が月島に詰め寄ろうとしたが、それよりも影山の方が早かった。

 

「おい。それはどういう意味だ?」

「「!!」」

 

月島も、菅原も 驚きを隠せれない。

 

「……影山の方がちょっぴり妥協した、って事ですね。……同じ視線に歩み寄る為に」

 

田中から解放された火神は、ぐりぐり、と締め上げられた頭を触りながら、菅原の所へと来ていた。

菅原はそれを聞いて、ぴんっ! と来ていた。

月島を子供、と揶揄したのは菅原だ。なら、影山はどうか? あのままいつも通りの言い合いに発展していれば、まさに影山も子供のソレ。口喧嘩する子供だ。……月島に聞かれれば、それこそへそ曲げたり、怒ったりするかもしれないが、子供に話を聞くには、辛抱強くならなければならない。

視線をしっかりと合わせて。

 

「真っ向コミュニケーション、ですね。影山流の」

「……はは、だな」

 

菅原は火神の言葉に苦笑いしながら頷く。

ここでも、自分はしっかりと役割を果たせた事が嬉しいのだろう。火神より……とは言わないし、いえないかもしれないが、しっかりと残す事が出来たのは誇らしいのだ。

 

 

そんなやり取りをしている事は気付いていない月島。

当然だろう。影山の言葉があまりにも意外過ぎて、周りの声を頭に入れる余裕が無かった。

 

「(今日はやたらぐいぐい来るな……。まるで……)ん……こっちにもやり方があるから、トスは一定にして欲しい」

「………!」

 

 

 

 

 

 

 

月島の言葉、それを聞いていた武田は、首を横に振る。

 

「……トスを一定、とはなんです……?」

「―――ああ、多分だが、影山は月島にAクイックを上げる時、打つコースさえもトスで指示を出しているんだと思う。トスの位置から、ボール1個分、セッター側ならクロス、遠ければターン、全部自分で判断し、最良を選んでいるんだろう。……勿論スパイカーの性格もある、合致する時も有れば、気分よく打てるかもしれないから、調子が上がる。だが、【従わされてる】って思っちまってる月島には逆効果だったんだな。……かと言って、直前にコース変えたり、ボールの位置さえもフェイクに代えたりできる火神みたいなスパイカーも居るから、影山にとってみれば、良い切っ掛けになるとも思う。どっちが一番正しいって一概には言えないが、考える事(・・・・)は決して無駄にはならない」

「――――はぁー 成る程」

 

あの短い攻防でそこまで考えないといけない、考えている事に感銘を受けつつ、武田は選手たちのやり取りを見ていた。

 

 

「……考えているのは、君たち(・・・)だけじゃない」

「!」

 

真っ向から返されれば、月島も思いを伝える。考えを伝える。変に煙に巻いたり、誤魔化したりはしない。

それを判っているからこその、真っ向コミュニケーションだ。

 

「【相手の守備の形】【自分が今日よく決まってる攻撃】 ……皆何かしら考えてる。あの(・・)日向ですら、一応(・・) 何か考えてるから、普通の速攻も使える様になったんデショ。辛うじて(・・・・)だけど」

 

まさかの月島の毒舌の毒牙にかかったのは、眼前の王様、影山ではなく――――。

 

 

あの(・・)ってなんだ!! ですら(・・・)ってなんだ!! 辛うじて(・・・・)ってなんだ!!」

「まぁまぁまぁ」

「翔陽落ち着いて。今に月島にぎゃふん、っていわせれば良いって」

「あー、火神? ぎゃふん、って今日日聞かないと思うゾ?」

「あはは。ですね。でも、何となく 雰囲気的に気に入ってるので使ってます」

 

日向を抑えつつ……、色々と題名(・・)?? を否定されちゃった気もするが、火神自身もそのつもり、それでも敢えて使ってるらしい……ので、問題なしだ。火神は問題なしだ。……火神だけ(・・)は…………。

 

 

 

 

そして、影山は月島の話を聞いて、頷いた。

 

「わかった」

「!!?」

 

月島は、また驚いた。

王様にたてついた庶民の形なのに。

 

「随分素直だね!? 今日大丈夫??」

「どっちがいいか、やってみないとわかんねーし」

「…………」

 

影山と月島の会話が終了すると同時に、タイムアウト終了の笛の音が響いた。

 

「……逃げなかったな? 月島」

「はぁ?」

 

唖然とする月島の横で、笑いながらそういう火神。

流石に心外だったのか、普段の月島が戻って来た。

 

「影山は今日、1歩も2歩も正面から踏み込んだ。……そんでもって、お前はそれを受けた。これが逃げなかった、と表現が一番しっくりくるだろう?」

「…………ふん。でも、まだわかんないよ。王様が簡単に聞いてくれるかなんて」

「だな。……だけど、着実に変わってるよ。影山も、お前も。まだ短いケド、いっっっちばん 迷惑被ってるオレが言うんだから間違いない」

 

乾いた笑みを浮かべる火神を見ると、流石に反論する気も起きないんだろう。色々と自覚している面があるから尚更。だから月島は ばつが悪い顔をしていた。

 

「(影山と火神、日向。この3人が居れば最強だ、ってさっきは言ったけど………、色々と扱いに厄介な月島もそこに加わったら、より強く、……そして 面白くなるな)」

 

菅原は、そのやり取りを見て 笑うのだった。

 

 

 

「このセット! 絶対獲るぞ!!」

【おお!!!】

 

気合十分。コートに戻る烏野。

そして、青葉城西も同様だ。追う側である青葉城西が、烏野より気合が入らない訳がない。入れない訳がない。ここからの逆転を狙っているのだから。

 

 

 

試合は、再開される。

 

今度もAパスで返球から 改めて月島攻撃の選択を取る影山。

勿論、その頭の中で考えている事は月島が言った言葉。

 

【トスは一定にして欲しい】

 

そして、【烏野のスパイカーは全員強い】と言う言葉も。

月島も例外ではない。

チーム一の長身、そして 考えている、と言う部分においては、影山も解っている。何を考えているかまでは解ってなかったが。

 

影山は、一定にを意識。

選択肢をスパイカーの判断にゆだねる為に、月島の利き腕の中心の位置を狙って。

 

「!」

 

そして、月島も少なからず驚いた。

火神に言った通り、王様がそう簡単に改めてくれるのか……? と言う風に思っていたから。試合に勝つ為とは言っても、中学時代に見たあの決勝戦の事は月島の記憶にまだまだ新しいから。

 

だが、間違いなく 自分の言葉を聞いている。

なら、ここは応える(逃げない)場面だ。

 

月島は、跳躍し 思いっきり振りかぶった……が、直前で力を抜いた。

 

「「(フェイント!!)」」

 

トっ…… と優しいタッチ。

打つ直前の構えから 完全に強打が来る、と構えていたブロッカー陣とレシーバー陣は驚愕。

 

フェイント攻撃は何度かあったが、強打を撃つと見せかけてからのフェイント攻撃、直前まで見抜けなかった程の攻撃は火神だけだったからこそ、驚いた。

 

ボールは、飛び込んだ渡の手にギリギリ届かず、コートに落ちた。

19ー22。

 

「うおおっしゃああ!! ブロック真後ろ! ガラ空きゾーン!!」

「くわぁぁぁ、なんか腹立つ! 月島がやったら、したり顔が浮かんで腹立つーー! 全然火神のとちがーう!」

 

 

そう、火神のは強烈なまでの殺気や気迫を用いた代物。月島は、真逆に感じた。何処までも冷静だと言う事が見て取れた。

 

「おぉ~、月島もあんな強打からのフェイント出来るのか……、直前まで強打だと思った……」

「だべだべ。あ、それに加えると 火神と違うのは、相手を出し抜いた後にイキイキするところだよなぁ~。アレ、攻撃 決まって嬉しい! じゃないべ、きっと」

「イキイキ??」

「解りづらいけど、アレは結構ノってる時の顔!」

「ほ――――っ!?」

 

 

山口が月島をノってる、と称した様に 今の攻撃を見た影山も同じように思えていた。

スパイカーの表情から調子を……と言う言葉が少しわかった瞬間だった。

 

そして、次。

澤村のサーブから、相手の攻撃を 月島のワンタッチもあって見事に凌ぎ、ブレイクチャンス到来。

攻撃の手は、再び月島だ。

 

 

「!!」

「(また、フェイント……!!)」

 

二度目は無い、と言わんばかりに飛び込む渡。

今度はコートに落とす事を許さず、拾い上げた。

 

そこから、及川・松川の攻撃で切られる。

 

20-22。

 

青葉城西も20点台に乗った。

 

「(2度目……影山は意識的に12番を使うようになってきたか?)」

 

入畑がそう思った通りだ。

続く烏野の攻撃も、月島であり、そしてフェイントだった。

 

「(よし! 読み通り……!)」

 

今度は飛び込むまでもない。

渡は接近し綺麗に拾い上げた。

 

 

 

「うーん、さっき点とった時のヤツは、スゲーって思ったけど……、ただブロック避けてるだけかな?」

「ああ、それだったらウチの監督にどやされるパターンだわ。……メッチャ怒られる。逃げるな、サボるなーって」

 

 

青葉城西にブレイクチャンスとなってしまったが、影山は月島の言葉がしっかり頭に残っている。

考えているからこそ、連続フェイントだったのではないか、と。

周りが言う様に、ただ避けるだけなら、考えてないのと同じだ。

 

でも、それだけな筈がない、と思った。

 

月島は確かにムカつくし、腹が立つ相手だが……、口だけの男ではない事は知っているから。

 

 

「ふっっ!!」

 

 

青葉城西の攻撃。

今度レシーブで見せたのは火神だった。

ブロックの隙間を縫って攻撃してきたスパイクを、火神は、その間から出てくるだろう、と読んだうえでその軌道上に居た。

 

「うお!?」

「上げた!!」

 

盛り上がりを見せるナイスレシーブだ。

 

「(短い!)カバー頼む!」

 

捕える事は出来た……が、Aパスとは言えない。アタックラインより外側の位置だから。

 

だが、影山にとっては高いボールであればそれで十分なのだ。

 

 

「慎重に、慎重にいけよ……」

「青城も20点台だ……、こっからの連続ポイントは精神的に来るぞ……。確実にとっていけ……」

 

 

烏野OBが危惧する通りだ。

ここは確実に切りたい所、だと言う事は青葉城西側にも伝わっている。

火神はレシーブで体勢を崩しているから、攻撃の選択肢からはいち早く抜けている。

―――つまり。

 

「(やっぱり、エースに来るか……!?)」

 

金田一がやや 注視したのは東峰だった。

だが、影山が選んだ相手は 今回も月島。

 

 

「(また、12番。……なら!)」

 

何度も何度も……、ここ数手で見せられたフェイントが頭の中に焼き付いている渡。

そのイメージが、より一歩前へ自分を向かわせていた。

守備位置が、押し上げられていたのだ。

 

そして、それにいち早く気付いたのは入畑。

 

 

「いかん!! 出過ぎるな!!」

「!?」

 

咄嗟に声をかけるが……、最早手遅れだ。

月島は、ブロッカーの次はレシーバーをあざ笑うかの様に、出し抜く様に、強打を見舞った。

 

ドバッ!! と撃ち抜かれたボールは渡の正面。

ある程度の距離があるのなら、処理できないボールでは無かったのだが、入畑が言う様に近すぎた。オーバーハンドで獲れるような威力ではなく、そのままボールは弾かれた。

 

「――――!!!」

「うおおおっしゃああ!!」

「ムカつく奴めーーー! こんちくしょーーー!」

「ナイスつっきぃぃぃ!!」

 

 

20-23。

 

「フェイント連発からの、強打……! 警戒し過ぎて、守備が前のめりになってしまった。……行けると思った所をやられたな」

 

「スミマセン!!」

「オッケー! 次だ次!」

「確実に切っていくぞ! 切り替え切り替え!」

 

平常心を心掛けるが、着実に烏野は25点に向かっている。……後2点の重みが、青葉城西にのしかかってくる。

対する烏野は。

 

 

「ナ、ナッフ! ナフス、ナイス!!」

「……はい!??」

「いや、そこは噛むなよ影山!」

「はっはっはっは! こっちも慣れてないみたいですね~。褒めるのって」

「確かに! 影山は月島を褒める事なんて全然ないよなー」

 

雰囲気は間違いなく向上。

及川が言っていた、12番が苦手だろう、コミュニケーション取ってないだろう、と言う点が、解消されていくのが判る。

 

凄い勢いで変わっていってるのが判る。

 

 

「………解ってたよ、それも解ってた事なんだ。せいちゃんが居る。それに、あの爽やか先輩もいる。トビオに教える事が出来る人間が、そろっているんだ」

「及川……? 何言ってんだ?」

「いや」

 

及川の独り言に岩泉が反応するが、軽く手を振って守備位置に戻った。

 

続く東峰のサーブで再び烏野に追い風が吹く。

 

日向の時に続いて、ネットインサーブとなったからだ。

白帯に勢いよく当たったボールは、高く上がらず、まるで白帯を捲る様に低く短く青葉城西コート内へと落ちる。

高さが足りなさ過ぎたせいか、今回のは間に合ったのだが、一手で相手の方へと返ってしまった。

 

「くそっ!」

「チャンスボール!!」

 

西谷のレシーブを影山が上げる。

また、月島か!? と思いきや、今度はレフト側への平行トス。

そのまま、走りこんでいた火神が、ブロックの間を綺麗に抜ける様にボールをコートに叩き込んだ。

 

「「「「っしゃあああ!!」」」」

 

 

20-24。

 

とうとう、烏野のセットポイントだ。

 

「うおお!!」

「ナイス火神!!」

「このままだ! このいい流れのまま3セット目行けぇぇ!」

 

応援にも熱が更に籠る。

もう、このセットを取ったかの様に盛り上がりを見せる。

 

後1点コールが渦巻く中、それに待ったをかけるのは、青葉城西のエース岩泉。

 

場を黙らせる一撃を持って、切って見せた。

 

21-24。

 

 

「簡単に渡さねぇよ!」

 

まだ劣勢。間違いなく劣勢。

だが、エースの一点に籠る力は仲間達にも伝わる。

 

 

「すんげー、音……」

「うは……、あれブロックしたくねぇよな……」

「青城って、主に及川のせいで目立ってなかった感じがするんだけど、こういう接戦試合だと、皆レベル高いってよーくわかるわ……」

 

 

岩泉の一撃に黙らされた形になった烏野側だが。

 

「大丈夫です! 後1点、後1点です! まだリードしてますし、後1点いつも通りとれさえすれば、このセットは獲れる! ―――筈、なのに……」

 

気合を、エールを送る武田だったが、後半部分で意気消沈でもしたのか、と思える程声が小さくなっていた。

 

その原因は間違いなく相手にある。

 

次のサーブは……及川徹だから。

 

1試合目、初戦の相手で4連続サービスエースを打っていたのは記憶に新しい。如何に1セット目を上げたとはいえ、如何にセットポイントで点差があるとはいえ、全く安心できない圧力がそこにはあった。

 

 

「けど、ここでミスったら、青城はこのセット落とすわけだし……」

「だよな。ここは無難に行く可能性だってあるぜ。まぁ1セット目取ってるから、3セット目で……と言えなくもないからな」

 

強打を撃って、アウトかネットなら即2セット目は終了だ。これがマッチポイントならば考えものだが……、悩ましくもある。

 

だが、そんな悩みは最初からないかの様に。

 

 

【思いっきりでいいぞ】

 

 

仲間達が及川にそう告げた。

決して後ろを見る事なく、前だけを見ている仲間達。

そして、エール。

 

 

「……わかってるよ」

 

 

及川は静かにうなずく。

底知れぬ闘志を、ボールに込める。

 

「マジで解ってんな? ダイスキ(・・・・)な相手が居るかもしれねーが……」

「はぁ!? なにだいすきな相手って!?」

 

ここは気合を入れる場面なのに、なにそれ!? と及川は思ったが、次の言葉で、その岩泉の言葉の真意を知る事になる。

 

 

「……ダイスキなヤツが混ざってても、凹ませたい相手を忘れたりしねぇだろ? 凹ませたい相手その②が目の前に居る。――――行け」

「…………ああ。解ってる」

 

 

改めて思い出させてくれた。

及川にとって凹ませたい相手。叩き潰したい相手。

1番は当然、3年間……中学を含めると6年間立ちはだかり、阻み続けた白鳥沢の牛島だ。

 

そして、その次が―――影山。

 

下から迫ってくる脅威。才能の塊。心底畏怖し、荒れに荒れた。

影山の様に、自分が、自分が、自分がやれば、と視野が極端に狭まった。

 

それを晴らしてくれたのが……岩泉だった。

 

バレーは6人でするものだと言う事を改めて教えられた。

 

今日もそうだ。

忘れてはいけない事を、改めて頭に叩き込んでくれるのは、やはり岩泉だ。

 

 

「ッ――――!!」

 

これまでにない一撃。

これまで以上の一撃。

 

それは、打たれた瞬間……、否 打つ前から理解出来た。あのボールの高さと跳躍から、はっきりと見えた。

 

 

「(思いっきり強打!? それもサイドラインギリギリを――――)マジかよ!?」

 

このボールは見送ってしまえば、確実にインだ。解る。ジャッジするまでもない。

 

 

「火神ぃィィ!!」

「誠也ぁァァ!!」

 

瞬時に、そのボールの軌道で、誰の元に行くかを理解すると同時に名を叫ぶ。

 

「(―――初めての、直接対決!)」

 

火神は、身震いした。

本来なら、身震いする時間もない刹那の時の筈なのに、圧縮された体感時間は様々な事を考えるだけの猶予を与えた。

 

及川のサーブ、全力全開サーブ。間違いなく今日一番のサーブ。

それを味わう事が出来る喜び。

狙わない事に徹していた筈、精度重視していた筈の及川が、力重視で勝負を仕掛けてきた事に喜びをも感じる。

 

凹ませたい相手は、影山なのかもしれないが、その前に立っている。影山を凹ませるには、凹ませたいのなら、火神を倒していかなければならない。

 

 

「ッッ――――!!」

 

火神は飛びついた。

脳裏に、かつての記憶が、あのシーンが頭を過ぎる。

あの守護神西谷でさえ、上げるだけが精いっぱいだった程の威力のサーブだ。

 

 

―――取る! 捕えた!!

 

 

火神はそう思った……が。

 

「ぐっっ!?」

 

手元で更に一段階威力が増した様に感じた。

ボールの威力を殺しきる事が出来ず、そのまま大きく相手コートへと飛んでいく。

 

獲れると思ったが、その威力はある程度想定していたモノの、想像していた以上の先にあった。

見るのと体感するのとでは違うと言うのは解っているつもりだが……。

 

「(間違いない。絶対………)」

 

自分が知る及川以上のサーブだと火神は思えた。

 

 

「(このサーブ、ミスったら 2セット目を落とすっていうのに……)」

「(なんつーサーブだ。……くそっ、嫉妬しちまうよ、誠也。オレも取ってみたかった!)」

 

 

レシーブに自信がある澤村や西谷も驚愕すると同時に羨ましくも思えていた。それ程までに凄まじい一撃だったから。

 

 

「チャンスボール!!」

 

レシーブは綺麗に返球された。

ここからの選択肢は多い。

 

―――誰だ。誰に来る!?

 

状況を全て頭の中に入れて、整理する。

 

―――レシーブは……言うまでもないチャンスボールなのだから、きれいに返球されている。ここから決定率が高い手は、センターからの速攻。

 

知的であり、頭脳派とも言っていい月島は、そう結論。

金田一が丁度入ってくるセンターからの速攻に狙いを定めた。

 

だが。

 

―――だろう、多分。オレもそうする。……でも。

 

影山の意見は違った。

認めつつも、違った。

広く広くさせた視野が、影山に更なる可能性を、選ぶ手を与えていた。

 

リードブロックを主としている月島が、金田一に飛びつこうとしているのが視界の端で解ったから、思わずそれを止めるべく、ユニフォームを握って引っ張り止めた。

 

 

「(岩泉さんの決定率は高い。ここぞと言う時に決めてくる。……さっきもそうだ。なら、追い込まれたこの場面。及川さんは―――)」

 

 

影山の意図に気付いた月島。

いつものリードブロックを思い出し、即行動。

 

 

―――岩泉さんに上げる!

 

 

全てを囮に、流れを呼ぶ攻撃を何度も何度も決めた岩泉。様々な戒めを思い出させてくれた一番の相棒。

及川が信頼し、数ある選択肢の正解の手を見事に的中させた。

 

 

これまで決めてきた岩泉の一撃。

流石に来ると読まれていた攻撃は、決める事は出来なかった。

烏野の中でも長身・最高到達点が高い2人に阻まれ、自陣コートに叩き落される。

 

 

 

第2セット終了

 

21-25。

セットカウント 1-1。

 


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