王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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この話から 第3セットスタートなのですが、かなり駆け足スタートです。
これからも頑張ります。





そして、やっぱり、私はアニメでもやっているあの稲荷戦が大好きな様です………苦笑


第75話 青葉城西戦⑮

「うお!! 烏野がセット獲り返した!!」

「つーか、マジで烏野やべーな……。堕ちた云々は ガセも良いトコじゃねーか……」

「伊達工をストレートで勝ったトコ見てもな……」

 

 

烏野高校が第2セット勝利を収め、カウントをイーブンに戻した事で、場により大歓声が巻き起こった。

 

この試合を 県予選の3回戦の試合にするのが正直惜しい、と言う意見も ちらほら沸いており、白鳥沢の存在が無ければ、事実上決勝戦! と呼ぶ者さえいた。

 

 

両チームは、見ている者たちをも興奮させ、魅了するだけのバレーをしているのだ。

 

 

「くっそがァァァ!! 結構調子あげてたのに、マジでスマン!! やられたぁッ!!」

「ドンマイドンマイ」

「次取り戻して勝てば良い」

 

最後の岩泉のスパイク。

読まれてブロック2枚揃っていたとはいえ、青葉城西のエースを自負する岩泉。

ブロックがついていようがいまいが、決めてこそのエースだ。だからこそ、ドシャットされた上にセットを落とした事実に頭を抱えていた。

勿論、気落ちする必要はない。あれは烏野側を褒めても良い場面だ。

だからこそ、岩泉にとっては慰めにもならないが、ドンマイ! の声がちらほら聞こえてくる。……だが、珍しい事に、及川だけは無言だった。セットを取り戻されたから、と言うのもあるだろうが、こう言う嫌な流れの時に 良くも悪くも声を出すのが主将であり、これまでの及川だったから、かなりの違和感がある。

 

 

「…………」

「何黙ってんだ! ぶん殴るぞ!!」

「酷いな。言えば殴る、黙っても殴るって、それじゃオレ、八方塞がりじゃん岩ちゃん。殴るとか そういうのやめなよー」

「安心しろ! おめーにしか言わねーし、殴んねぇよ! オレが落としたってのは事実なんだからな!」

 

 

岩泉もとりあえず、及川から直ぐに返答があったので、ある意味安心は出来た様だ。

そして及川は、天井を見上げて、大きく息を吸い込み…… そしてゆっくり吐き出しながら言った。

 

「解ってたんだよ。最初から解ってた。……確かに トビオの悪癖……性格云々はたった数ヶ月で治る訳がないのが当たり前だ。1セット目はそれで空回りしまくって引っ込んだんだしね」

「あ?」

 

及川の言っている意味がいまいちつかめない岩泉。

ただ、【解ってた】と言う部分に注目する。先ほど、コートの中で サーブを打つ前にも言っていた言葉だから。

 

 

「前までのトビオは、機械的に考えるだけだった。勿論、それも勿論厄介。そもそも機械みたいに精密な神業トスなんて 見せられただけでも十分腹立つしね」

「……そっちも安心しろ。おめーの方がより腹立つわ」

 

 

岩泉の横入れに、意を介する様子はない。

薄く目を開きながら そのまま続ける。

 

 

「今の流れ。トビオは間違いなくオレがレフトに上げるって読んでた。……終盤・こっちの劣勢っていう状況+岩ちゃんとオレとの超絶信頼関係」

「あってたまるか、んなもん!」

「兎も角、そういう総合的な判断をしてきたって事さ。……横暴な上に機械的な判断をしていた男が、独裁だった王様が、マトモな王様になろうとしているんだ。……これは、外に出て頭冷やしただけで出来るもんじゃない」

 

 

及川は目を見ひらいた。

 

 

「解ってるんだ。トビオを変えたのは何なのか。トビオに仕込んでた(・・・・・)のは爽やか先輩か、いや せいちゃんか。 ………解る! オレも岩ちゃん程に正直、むしゃくしゃしてた! セット獲り返されたのも、1セット目の時も!」

 

 

大きくなっていく及川の声。

 

 

「でも、この引っ張られていく感じ、何処までも行けるって思える感じ! 後少し まだもう少し出来る! まるで、出来る事が更新されていく感じ! 皆も解らない!?」

【…………】

 

 

及川は興奮気味に青葉城西のメンバー1人1人を見た。

普段の様子とはまた違う及川に、多少なりとも驚きを見せていたが……、それでもその想いは芯に届く。

 

練習中に出来ない事は試合中でも勿論出来ない。

試合で十全に発揮する為に、練習があるのだから。……勿論、試合中に全てやって来た事全て出せる、出すと言う事も本来なら難しい。

雰囲気や緊張感など、身体に力みや固さを生む環境が揃いに揃っているから。

 

だから、普通はあり得ない。

及川が言う様に上達して言っている様な気はしている。

それは気のせいかもしれない、及川程感じてないかもしれない。

でも、言えるのは確かに初めての感覚だと言うこと。

 

 

そして、何より―――。

 

 

 

 

 

 

―――早く、続きをやりたくてたまらないのだ。

 

 

 

 

 

及川は、皆の顔を見て 思ってる事は同じだと悟ると、コート側を、烏野側を見た。

 

及川の気配に、気持ちに呼応したとでもいうのだろうか、烏野のメンバーも青葉城西側に視線を向けていて その視線が交わる事になる。

 

そして、及川は高らかに言った。

 

 

 

「はやく、早くやろう! 最終(ファイナル)セット」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――最終(ファイナル)セット。

 

 

読んで字のごとくだ。これが最後。

 

それはもう次が無いセット。

ここで負ければ、終わる。

1セット目の劣勢や2セット目の優勢、勢いは関係ない。

最後のセットの最後の点を獲られれば……そこで終わりだ。

 

 

負ける。

 

 

 

今日一番。

もう何度それを更新しただろうか。それぞれを応援する熱も増しに増していく。

青葉城西の控え選手の数の方が多いので、応援色は青葉城西が上回っているが、此処までの試合を見せられたのだ。両校に惜しみない声援を送られていた。

 

 

―――でも、烏野は応援団! と呼べるような身内は居ないのが寂しい所。

 

 

「オラ‼ どうだコレ! 良くね!? 即席応援グッズ!」

「まだ始まったばっかだよ。とにかくラリーがすげー続いてる。どっちも気合十分って感じで、青城は落としたばっかだってのに、士気増し増しだし、烏野(ウチ)もぜんぜんまけてねーし、見てるこっちがツライ」

 

 

ペットボトルの中に、砂利を詰めたモノ。

それを手に、滝ノ上は嶋田と合流していた。声だけでは届かないし、何より会場の熱気に細やかながらついていきたいと言う想いもあった。

 

たった一日だけだが、あの自分達の町内会チームと練習試合をした後輩たちが、よもやここまでくるとは正直思いもしなかった。

 

 

――良い所まで行けるんじゃないか?

 

 

程度だったが、今は撤回する。

きっと県内優勝だって狙える。

あの初めて全国へ行った烏野の様に、また全国でカラスが羽ばたく事が出来る、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合はまさに一進一退。

互いに1、2セット目の学習を活かす。

 

特に、イージーミスと言える代物は決して繰り返さない。

 

烏野であれば、東峰が、セッターの影山狙いで打たれた獲り難くても、威力的には他のサーブよりも遥かに獲れる(・・・)ボールを必ず上げる様に。

ブロッカーは、青葉城西のスパイク、速攻を打つタイミングを見誤らない。

そして、何よりも会話を重ねコミュニケーションを密に取る。

 

 

青葉城西も同様だ。

先ほどはドシャットで止められた岩泉だが、今度はブロックの端を狙ったブロックアウト狙いの軌道に代え、3枚ブロック相手でも点をもぎ取った。

日向と影山の神業速攻にもブロッカーは触る。

そして、一番盛り上がったのは 火神の一人時間差、ジャンプフローターサーブにも対応してみせた所だろう。

 

 

 

つまり、3セット目までくれば互いに相手の攻撃パターンにも慣れてくる。

 

落ち着いて対応をしていく。烏野も青葉城西も、ただただそれだけを意識する。

 

 

ラリーが続く様になったのは、1発で決まる攻撃が少なくなってきたからだ。

日向の変人速攻が、火神のブロックアウトやコース分けスパイクが、徐々に対応してくる。

 

仮に、チーム力と言うモノを数値で図るとするなら、技術や経験から言って青葉城西が平均的(・・・)に高いと言うのが大方の評価だろう。

 

 

「うはっ……またチビちゃんの速攻に追いつきやがった、あっちの12番」

「ああ。ラリーが長いよ。見てるコッチが疲れる」

「――守備もブロックも、平均すりゃ青城の方が上かもしれねぇが―――」

 

 

今度は青葉城西の攻撃。

国見の巧みなフェイントが烏野のコートに落ちる―――かと思いきや。

 

 

「っしゃああっ!!」

 

 

決して落とす事を赦さないのが烏野の守護神、西谷。

 

 

烏野(こっち)のリベロの守備力は絶対青城より高ぇよ。加えて 今 前衛にいる火神の守備力も西谷と同等クラスって言っても過言じゃねぇ。―――地に居るカラスも負けてないんだ」

 

 

だからこそ、ボールが堕ちない。

意地と意地のぶつかり合いの様なモノだ。

攻撃を拾えば拾う程、相手にはプレッシャーがかかる。それがミスに繋がる。スパイカーは何とか決めようと力み、更に地の守備に目を向けすぎてブロックに捕まる。

 

それが、音駒高校戦で味わった守備の完成系だ。

 

音駒程ではないにしても、烏野の守備力も、攻撃力の様に加速していく。

 

 

 

「(常に、どんな時も西谷(リベロ)が居る、って思っちまう程の火神の守備は やっぱこっちには最高防具ってなもんだ。火神っつう武器、選択肢が減るかもしれねぇが、そこは他の奴らが補填する。……上げてくれたボールを必ず決めるって気概も加わってな。……その点は青城も解ってる筈だ。ほぼ手の内を晒した状態なんだからな。―――ただ、青城に未知の部分があるとすれば―――)」

 

 

烏養は、昨夜 夜通しで見ていた青葉城西の試合映像。

そこである違和感があった。―――リベロと言うポジションは守備専門職の筈だ。……だが、青葉城西のリベロ、渡は……。

 

 

 

 

 

 

試合は進み、今度は烏野の攻撃。

 

 

「旭さん!!」

「決めろ! 旭!!」

「おおおッ!!」

 

 

東峰のスパイク。

ブロック2枚付かれている状態で、更にクロス側を締め、ストレート側を解放した位置取り。無論、クロス側に打てば、確実に捕まる――と思わせる程のブロックの気迫を受け、東峰はストレート勝負に出た。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

そのストレート側を護っていたのが及川だ。

セッターではあるが、全ての面でレベルの高いのは彼も同じこと。色々と謙遜していても、現時点で影山より サーブが強く、スパイクも強く、レシーブも上手い。それが及川だ。

青葉城西のもう1人のリベロと言ってもおかしくない精度。

 

それを証明するかの様に、烏野のエース、東峰の強打スパイクを見事に上げて見せた。

 

 

 

「うおお! 今の取った!?」

「すげぇ! でも、及川(セッター)が上げたからトスが上げられない!」

「攻撃が単調になるぞ! 多分、レフトだ! 青城の岩泉(エース)が控えてる!」

「烏野はブロックのチャンス!」

 

 

これらの声は、コートにまで届いてくる。

コート内の集中や喧噪が外部の音を遮断してくれるのが常なのだが、これらの意見は、烏野とて同じだったから。全く同じ様に考えていたからこそ、耳に届いていたのだ。

及川がレシーブで上げた。即ち、次は2段トスになる。青葉城西に今の所火神の様にセッター補填する様な選手は居なかった。

それらを考えて 単純にエースに頼る場面だろう、とレフト位置気味にブロッカーが構えていた……のだが。

 

 

(わた)っチ!」

「ハイ!!!」

 

 

及川がリベロの渡の名を呼んだ瞬間、火神は察知する。

 

 

―――ここだ、あの場面なのだ、と。

 

 

後衛に居る自分もはっきりと見てわかる。

今の烏野のブロッカー陣は 岩泉の方に向きすぎていると。決めつけてしまっている、と言っても良い。柔軟で最適な動きが出来ないと。

だからと言って説明する時間などある訳がない。体感時間が長く感じる事とは当然ながらワケが違うのだから。

 

だからこそ、火神は短く大きく声を上げる。

 

 

「ステイッ!!!」

 

 

その声に、一瞬 チームの全員の身体に電流でも走ったのかと思う程、びくっ! と縦に震えていた。この場面はチャンスだ。ブロックで点を取るチャンス。一点集中し過ぎていた思考に、凝り固まってしまった頭に活を入れられた感覚。

 

誰がレシーブしたか、その返球位置は何処か、スパイカーは何処に居るか、それらにかかわらずブロッカーが定位置に留まる様に、との火神からの指示だ。

 

 

その次の瞬間、渡はアタックラインよりやや後ろから、ボール落下点目掛けて跳躍した。

そして、【レフト】と大きく呼ぶ岩泉の声が続く。

 

 

リベロの渡が上げた事、跳んだ事、岩泉の声。これだけの想定していなかった事が起きれば、先ほどまで(・・・・・)なら、驚き身体が瞬時に判断する事は出来ないだろう。

 

そして、続く驚きにも対応出来た。

 

リベロ渡の2段トスが選んだ手、上げ方は、バックオーバーハンド。

その空中姿勢は見事の一言。更に難易度の高いバックオーバーハンドを選んだ点も知らなければ(・・・・・・)驚愕ものだろう。

 

そして、誰に上げたのか。

 

 

「(大王様のっ、バックアタック!)」

 

 

選んだのは、レシーブで上げた直後の及川。

体勢も十分とは決して言えないレシーブ後のスパイク。選ぶ事自体が奇襲になる手ではある……が、ブロックはきっちり2枚付いていた。

 

東峰と日向の2枚。

 

 

「(……ほんと何度も何度もやってくれるね)せい……ちゃんッッ!!」

 

 

渡からのセットアップは間違いなく青葉城西の隠れ武器と言って良い。

全員が満遍なくスキルが高い故に、誰が上げても問題なく出来ると言う強みはあるが、フロントゾーンからのトスワークが出来ないリベロが、アタックラインから飛び込み、トスを上げると言う奇襲、更にレシーブ後の及川のバックアタック。

 

所謂、青葉城西のビックリ攻撃が、ここまで盛り込まれた一連の流れだったと言うのに、あの火神がたった一言で冷静にさせてしまった。

 

そして、逆に冷静さを欠いてしまったのは、及川だ。

 

ブロックが2枚付いてきた事。

そして 打点が低い日向の位置を狙った事。

情報が、条件がこれだけ揃っていれば……。

 

 

「んんんんッッ!!!」

 

 

コースをある程度読む事も、そして上げる事も不可能ではない。

そして、及川自身の気の乱れも功を成す結果となる。

 

飛び付いた火神が見事に上げてのけたのだ。

 

 

【うおおお!!】

【及川のバックアタック、上げやがったァぁ!!】

 

 

本日、烏野の何本目になるか解らないスーパーレシーブ。

どよめき、沸き立つ会場。

 

そして、それに負けないくらい 次の手を考えていたのが日向。

 

 

「もって―――こぉぉぉぉおい!!」

 

 

火神のスーパーレシーブ……とはいっても、乱れた事は乱れた。

ネットからかなり離れているアタックラインよりも外。

 

だが、日向は要求した。

そこから、あの(・・)速攻を寄越せ、と。

 

 

【ここまで頂戴!】

 

 

と。

 

 

そして対する影山。

直ぐ隣で、火神のスーパーレシーブに当てられる。

【すげぇ】と心の中で称賛しつつ、負けたくない気持ちが身体中から湧いて出てくる。沸々と芯から燃えてくる。

更に加えると、日向がもう既に走り出しているのだ。

 

ならば、自分が止まる訳にはいかない。

 

 

【上等!!】

 

 

上げてやる、と言う意思表示。

速攻は明らかに無い筈の距離からの強引な超高速&精密トスワーク。

 

ドパンッ!!

 

超精密なトスは、正確に日向の跳躍した時の最高到達点、フルスイングするインパクトの瞬間、まさに及川が機械と形容した様な御業をもって 見事に上げてのけた。

 

 

「う……」

【おおおおおおお!!!】

 

 

続く、大声援。

何度驚けば良いのか、驚きの連発で大混乱の渦だ。

 

 

「んだよ、なんであの位置から速攻なんだよ!!」

「てか、めっっっちゃ早い!! いつの間に逆に行ったんだ!? あの10番ブロック飛んでなかったか!?」

「うわーーすげーーー!! なんつーか、すげーーーしか声が出ねぇよ!!」

 

 

まだ、カウントは ほぼイーブン。半歩烏野がリードしている状況。

 

10-11。

 

点数の流れだけを見れば 何とか、相手に与えてしまった攻撃を防ぎ、点を決める事が出来ただけの事……なのだが、内容が超高密度過ぎる。

 

 

「ナイスだ!! ナイス!! よく上げたァ!! 火神!! よく打った!! 日向!! よくあんな位置に上げやがった!! 影山ァァ!!」

 

烏養も思わず立ち上がってスタンディングオベーション&ガッツポーズ。

武田も同じくだ。

 

 

 

「あの青城のリベロ君が その、難しい上げ方をして、ビックリしたのですが、ウチがその上を行きましたね!」

「ああ。何か感じ取ったのか、ただの直感なのかはわからねぇが、あの及川が上げた時、火神が【ステイ】をかけた。そこで、狭めちまってた視界を広くさせたのが影の功労ってヤツだ」

「すてい? 留まるって事ですか」

「ああ。まんまの意味だ。基本的にウチのブロックもリード・ブロックが多いんだが、ああやって、【セッターがレシーブ取った。なら次はきっとレフトだ】って決めつけちまうと、スパイカーを予測してから跳ぶコミット・ブロックになってしまう。勿論、あれだけ条件が整えば 誰だってそうなったって無理はない。乱された場面でエースに託すのは定石だからな」

 

烏養は 更に ニッ、と笑みを浮かべながら続けた。

 

「火神のステイコールで、ブロッカーを動かなくさせた結果、アイツら全員の頭が冷えた様に見えた。だから、あのリベロがトスを上げた時、バックトスで及川を選んだ時もそんなに驚かなかった。ブロックも2枚揃える事が出来てたしな」

「へぇ……なるほど」

「そういや、火神も青城のDVD見てたっけな。オレも、ある程度は【もしかしたら】って思ってたんだ。1セット目でも上げて見せた。続いてさっきのはより難易度が高いバックトス。あのリベロは元々セッターだった可能性が極めて高い。一目見ただけで技術の高さを判らせるには十分な精度だったからな。……まぁ、それをウチの奴らが見事にやっちまった訳だが! 日向も火神が上げたのとほぼ同時に走ってやがった! 影山・日向のコンビは最早言わずもがな! まさに脱帽だってな!」

 

わっはっは、と誇らしく声を上げる烏養だった。

 

 

 

 

 

 

そして、一連の流れを見て、また説明会を繰り広げていたのが女子の皆さんに頼られてる滝ノ上。

 

主にリベロに関しての事だ。セッターの様に上げるのが上手いだけでなく、限りなくフロントゾーンでセットアップが出来る様にしたリベロの凄さを、なるべく解りやすく説明をしていた。

 

リベロはトス自体は上げる事は出来る、だが打つのは反則。

ただし、それはフロントゾーン内に限っての事だ。あの時は、身体はフロントゾーンに入っているが、バックゾーンから跳躍している。これならば、リベロからの攻撃も問題ない。

 

「あれを咄嗟にやれるチームってのは本当に凄い。でも、それを返して見せた。……とんでもないね」

 

にっ……と思わず笑ってしまいたくなる。

 

あの攻撃を防いだ上で、点を獲り返したのだ。……このまま流れにのって―――。

 

 

 

「オラッ!!」

 

 

行くことは出来ない。

それを、させないのが青葉城西だ。

 

及川と岩泉の連携で即座に11-11のイーブンに戻す。

 

 

 

 

 

 

ちゃんと(・・・・)戦えるどころじゃない……」

 

菅原は、3セット目に入った時からずっと、観察に徹していた。

もしも、また自分が出るのであれば……、この試合中にいつ()が来ても良い様に 少しでも多くの武器を持つ為に注意深く観察を続けた。

 

だからこそ、より解る。

 

烏野は、あの青葉城西とほぼ互角。戦えているだけじゃない。いつ、均衡が崩れてブレイク出来てもおかしくない。それ程までに、互いに高まり合っているからだ。

 

 

「っスね。………」

 

横で見ている田中も、常に身体を動かし、何時でも出れる様に準備をしている。

澤村との交代で何度か前衛に出ているものの、ブレイクをする事が出来ず、後衛に行った時再び交代となった。

 

それでも常に欲は全面的に出している田中。自分が出たらどうするか、どう攻めるかを毎回シミュレートをし続けている。

田中は 考える事が苦手である、と菅原は思っていたのだが、認識を改めるのだった。

 

 

 

「くぅう……、どっちが上なのか判んねぇよ。マジで」

「実績で言えば、間違いなくベスト4、っていうより 県2位の青葉城西なんだけど、烏野の進化がヤバイ。ほんと、三か月前とは全く別モンだよ」

 

 

息の詰まるラリーの応酬。

叩いては拾い、拾っては繋ぎを繰り返す。これぞTHE・バレーボールだ。

 

 

そして、何度も何度も強打を繰り返してきた中で……。

 

 

「くっそッッ!!」

 

 

月島のフェイント攻撃炸裂。

巧みにレシーブの居ない場所、守備範囲の丁度外を狙った攻撃。

 

 

「うはー‼ ナイスナイス!!」

「ナイスだぁぁぁ!! いやらしフェイント月島ぁぁぁ!!」

 

「「呼び方……」」

「オラオラ! へばってるんじゃないぞ! しゃべれ上げてけ!!」

「あげてけーーー!」

 

 

これも青葉城西に後ほんの少しでブレイクを取られそうになった所からの月島のカウンターだ。強打と軟打の打ち分けが烏野の中でも上位に入る程匠な月島。 相手の苛立ちが手に取る様に解る。

 

 

15-16。

 

 

 

そして、対局が変わる瞬間は訪れる。

 

 

「岩ちゃん!!」

「オラぁッッ!!」

 

決定率が青葉城西の中で一番高い岩泉の攻撃。

その攻撃をどうにか受けたのが影山だ。

 

あのリベロが上げた時の青葉城西と同じ。ファーストタッチを影山(セッター)が取った。故に単調な攻撃になる――――などとは この場では誰も思っていない。

何故なら、前衛には火神が来ているからだ。セッターが居なくとも、セッターと呼んでも差し支えない力量を持つ火神が居るから。

 

……だが。

 

 

「大きい! 帰ってくるぞ!」

「及川押し込め!!」

 

 

影山のレシーブは、岩泉の強打もあってか 上がるには上がったのだが、勢いが強く ほぼネット真上。そして火神も明らかにツーで押し込む様に右手を伸ばしている。

 

 

「(高さの利ってヤツだ!)」

 

身長は及川の方が火神より上だ。跳躍力も然程変わりないとすれば、高く跳ぶ事が出来るのは現時点で及川に分がある。

 

当然、高い位置からの攻撃の方が威力があるし、覆いかぶさる様にされてしまえば、左右に逃げるのも難しい。

 

「(ここだッ!!)」

「ッ!!」

 

だが、火神が選んだのはツーアタックではなかった。

 

及川が出した手は、ボールに当たり、見事に烏野のコート内へとボールを落とす事が出来たのだが……、得点は烏野側。

 

 

 

15-17。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!? 今のは何でこちら側の点になるのでしょう!? ボールを押し込められた筈ですが」

「ッ……あのやろう! ほんっとにどんな場面でも冷静か! どんな頭してんだよ! 一回開いてみてみてぇよ!」

 

疑問を浮かべる武田と大いに興奮する烏養。

まだまだルールには詳しくない武田だったからこそ、今の点の流れが解らなかった様だ。

 

一頻り興奮した所で、烏養は説明した。

 

 

「オーバネットっていう反則だ先生。及川は、今 火神の【攻撃(ツー)】をブロックしたつもりだけど。てか、オレもあの一瞬はツーだと思った。こっちも騙された気分だけど、実際には、火神はトスを上げようとした。ほぼネット真上だったみてぇだが、やや烏野(ウチ)寄りだった様だな。火神がツーじゃなく、トスを上げようとしてる(・・・・・・・・・・・)、って事は まだ烏野(こっち)のボールだ。相手コート側にあるボールに手を出せば、反則(オーバーネット)になる。こっちが明確に攻撃をして、相手のブロックって形にならないと触っちゃ駄目なんだ」

 

烏養はオーバーネットについて説明をした。

相手側にあるボールを手を伸ばしてボールに触るのがオーバーネットだ。

そして、特筆すべきはそこではない。

 

「あの及川君がミスを? こちら側のプレッシャーや点を獲りたい、と言う焦りから生んだのでしょうか!?」

「それも少なからずあると思う、が。アレはちと違うぜ先生。火神は、間違いなく今、意図的に反則(オーバーネット)誘った(・・・)。直前まで、少なくとも及川の手がこっち側に入ってくるまでは、火神は片手しか伸ばして無かった。咄嗟に、ツー攻撃のフォームから、トスセットに代えたんだ」

 

 

 

 

烏養の言う通りだ。

火神が皆に揉みくちゃにされている間、及川はずっと火神の方を見ている。周囲にドンマイと励まされているが、してやられた感が全く拭いきれてなかった。

 

 

「――――ほんっっっと、やってくれるね、せいちゃん。試合が進むにつれて、どんどん可愛気が無くなってるみたいで……!」

 

 

ネットを挟んだ状態で、流石の及川も火神相手にもイラつきを隠せれず顔を顰めていた。

 

そんな視線を受け止めた火神は。

 

 

「ネット際の攻防は、押し合いだけじゃないでしょ? ネット際のなわばり(・・・・)は 必ずしもセッターだけじゃないって事です」

 

 

汗をぐいっ、と拭いながらも改めての宣戦布告として及川に返した。

正セッターじゃない火神に、巧みな技術、なわばり争いをして、後塵を拝す結果に歯ぎしりをする。

 

火神自身も、平常の様に見えるが、流れる汗の量を見れば 体力無限と言う訳ではなさそうだ。

日向程ではないにしても、攻撃毎に本物と見紛う偽物(フェイント)を入れ続けている囮として機能し続けているのに加えて、地上の守備も一切隙がない。これだけ動き続けていれば、当然だ。

 

 

 

 

 

 

そしてお祭り騒ぎのOB組。

 

 

「頭で考えてても、こんだけ疲れれば、本能的に動きたくなるもんだろ普通!!」

「何処まで行っても冷静ってヤツだな! やべーやべー、火神君ちょーー頼りになる! やっぱ! ここで青城のタイムアウトだ!」

 

 

 

 

ブレイクポイントを赦した青葉城西はすかさずタイムを要求した。

 

 

それは、烏野が勝利へと一歩リードをした証拠でもある。

 


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