王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか投稿出来ました……。
12月の師走が近づき、仕事が鬼になりかかってますので、今後遅れる可能性が出てきましたが……、足掻ける所まで頑張ろうと思います!


タイトル通り、彼女が入ってくれてから、試合まで加速出来たらな~ と考えてますが………長くなってしまったらすみません。



後、感想数1000!超え‼ つい先ほど気付きました…… 苦笑

沢山の評価や登録は勿論、感想もありがとうございます!
これからも頑張ります!




第86話 新マネージャー

 

 

部活中。

 

 

 

「月島と日向! んでもって、火神もちょっとこーい!」

「「ハイ!」」

「ハイ」

 

 

 

 

当然、勉強も大切だし、試験が迫ってる状況も結構大変なのは間違いない……が、だからと言って部活の時間は部活に集中するモノ。

文武両道が理想だから。

 

文の部分がどうしても追いつかない様子だが、もうなる様にしかならないので、日向&影山、そして田中&西谷も 半ばヤケクソ気味だったりしている。

 

それでもしっかりと勉強に向き合ってるのだから、微々たる距離かもしれないが、一歩ずつは前進している筈だ。

 

 

 

 

 

 

……………たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

「うっし、来たな。まず日向と月島。お前らはMB(ミドルブロッカー)っつう立ち位置(ポジション)だ。つまり、ブロックの要ってワケだな」

「(かなめ――――!!)ぅアス!!」

「(よし! 翔陽、()は理解出来てるみたいでよかった)」

「ハァ」

 

春高予選まで時間は少ない。

各々のポジションで発揮される最大の武器を磨く事こそが、チームの底上げに通じる。

 

勿論、全てのプレイで満遍なく高い技術を保持出来てるのに越したことはないが、そんな選手は正直稀も稀。

烏養の感覚的には、各チームに1人2人、居るか居ないかの割合だと思っている。

 

 

―――影山や火神の様に、ここまで極端な例は未だ嘗て見た事無いのだが。

 

 

「そんでもって、MB(ミドルブロッカー)じゃない火神を呼んだ理由は勿論1つだ。まだお前らの事を見た時間が長ぇとは言わないが、これまで見てきて、このチームで一番ブロックが出来てるのが、火神(コイツ)って判断したからだ」

「ぅアス!! そうです!!」

「あ、その、はい。(……なんで翔陽が誇らし気に返事……?)」

「はぁ。MB(ミドルブロッカー)って自覚、本人にあったら、ちょっとはねぇ?」

 

ここまでストレートに言われる事は正直少ない。それもコーチや監督であったとしてもそうだ。試合中の好プレイで興奮して~ と言った流れでは何度かあったが、少数の中で呼び出されてわざわざ言われるのは初めてである。

 

「…………」

 

横で日向の事を、なかなか辛辣なコメントを言ってのけた月島。(日向は聴いてなかった様だが)

 

日向に対する苦言を呈したものの、見ている視線は日向だけではなく、やや前に出ている日向と火神……、火神の方にも向けていた。

 

火神の事は最早今更。

色々と認めている部分は間違いなくあるものの、自分の得意分野でもあるブロックに関して、後塵を拝すのは正直気分の良いものじゃない。

 

いい具合に発破をかけるのが、烏養の狙いなのだろうか……?

 

 

「青城戦でも火神がやってた状況に応じて、ブロックの種を使い分けるプレイ。基本的に烏野(ウチ)がやってんのは、コミットだが、対戦相手次第じゃ、臨機応変に使い分けなきゃいけねぇ。日向は動く事に重きを置いてるから、難しいかもしれんが、要所要所の使い分けはこの先間違いなく重要だ。意思疎通も含めてな。……より、強いトコを相手にするなら尚更」

 

烏養はそういうと、にっ、と笑って言った。

 

「嬉しい事にブロックの見本、考え方も含めて手本にして良いヤツがここに居るんだ。後はお前ら全員が更にレベルを上げて、そんでもって県内最強の白鳥沢のウシワカも止められる様なブロッカーになれ」

「「アス!」」

「ハァ……(ウシワカとか、流石にそれは…………)」

 

 

県内最強スパイカーは間違いなく白鳥沢の牛島だ。全国三大エースと呼ばれている所を見ても間違いない。

総合力では間違いなく拮抗していたであろう青葉城西の牙城を、牛島が打ち破った構図が、今回のIH予選の決勝戦だったから。

 

つまり、その男を止めなければ全国―――春高への舞台は閉ざされてしまうだろう。だからこそのブロックの強化。……烏野の壁の強化だ。

 

火神も日向もやる気満々。

 

1年リーダーである火神は、またまた大変な事を烏養から指名されたのでは? と思いがちだが、やや違う。

 

日頃から、問題児たちをバレー以外……人間的? に纏めるのは なかなかに大変だったとしても、事 バレーにおいては話は別だ。バレーの事が心から大好きだから。

そして何より、この烏野の皆は、バレーにおいて、真剣に取り組めば真剣で返してくれてることを知っているから。

 

そして、それは いつも気怠けな月島であっても例外ではない。

 

心の中では、【全国の大エースであるウシワカ止めるなんて無理】と思ってしまいそうだったのだが、どうやら【無理】と思いきる前に留まる事が出来ていた様子。

 

 

月島の根底にあるもの() 火神は知っているからこそ。

傍から見れば、普段より前向き(・・・)に見える……と思われるかもしれないが、火神だから、で大体解決するのである。

 

 

そして、月島と日向は練習に戻っていく。

火神は……勿論、まだ練習参加は駄目。

 

 

「あー、ああは言ったが、もちろん 火神は怪我治ってからな? 次の病院は月曜か?」

「はい! 今の所痛みも殆どなく順調ですよ! でも、診察の時、安静期間延長されちゃったら、たまったモノじゃないので、無理は絶対にしません」

「うっし。それで行こう。………そういや、テストの事もあるからなぁ」

「ぅ……、はぃ……。そっちも順調………です。たぶん」

 

ブロックの事、そして足の怪我について。

どちらも大丈夫、やって見せる、怪我も順調に回復中、と力の籠った視線だったが………、練習ならまだしも、本番ではチームプレイじゃ、どうしようもない事は世の中にはあるのだ。他力本願では通らない事が。

だから、どこまでいっても所詮は他人であり、本番(テスト)で手を貸せるワケないので無責任にYESと言えない。

 

 

「(うっは……、さっきまで自信有り有りの増し増しだったのに……。先生よ? 大丈夫なのか? その、学校でのバカ4人は)」

 

 

烏養は火神の様子を見て 思わず笑いそうになった……が、同時にやっぱり心配にもなったので、丁度隣に来ていた武田に聞く事にした。

 

 

「あ、はい……。日向くんや影山くんは、火神くんが見てくれてる事も有りますし、授業中もなんとか聞けてる様で、他の2年生の2人も同じく。真面目だと聞いてます。……なので、大丈夫だと思うんですが………」

「…………先生(こっち)も自信無さ気かぁ……、まあ、テスト(これ)ばっかりはチームじゃなく、個人技で乗り切らなきゃならん事だからなぁ……」

 

 

バレーはチームプレイだが、テストだけはどうしようもない。

本番でチームプレイをしようとしたら、それは反則(カンニング)だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部活の時間も終わり。

運動が終われば勉強の時間が始まる。

 

 

今日も、終わった後直ぐに帰るのではなく、問題児たち4人を中心に部室でお勉強大会だ。

 

 

「んじゃ、大変だと思うけど頑張ってね~」

 

ニヤニヤ顔で労い?? をかけてくるのは月島だ。

この辺りは、日向や影山だけでなく、教える側である火神にも、中々強烈な精神的ダメージを被ってしまう。

 

 

「はぁ 手伝って欲しい所ではあるんだけどなぁ。月島が居るだけで、(間違いなく煽ってくれるし)良い刺激(プレッシャー)になるし」

 

パラパラ、とテスト範囲内のプリントに目を通しながら一人愚痴る火神。

それを聞いた、日向と影山は

 

 

 

 

【え!? 月島(コイツ)嫌!】

 

 

 

 

と同時に思ったのは、正直 その顔を見れば一目瞭然。

 

因みに、月島も 色々と苦しんでる(笑) な2人を見て煽る事自体はスカッとするし、口出しくらいなら、吝かではないが、部活が終わり 疲れてるのに残ってまでする事じゃないのも当然。

 

 

 

「え? 嫌だよ。面倒くさいじゃん。馬鹿(彼ら)を見るなんてさ」

 

 

 

拒否の姿勢。

余りにも躊躇いなくストレート、声色の変化も無い返しに、思わず横に居た山口も笑い方が引きつっていた気がする。

 

そして、日向も影山も 馬鹿(・・)にされてるのは解った。でも、自分自身の力量の無さも受け入れてる部分があるので、とりあえず、精一杯のメンチ切りでせめてもの抵抗。

 

 

勿論、火神もその程度の返答は想定内。

別に月島が帰ったとしても、やる事は変わらない。

帰ったとしても月島に煽られた事により、2人を焚きつける事が出来たし、このまま残れば騒がしくなるかもしれないが ちょっとでも 更に2人の尻を叩く事が出来るかもしれない。

 

 

 

火神策士

 

 

 

月島が 居ても帰っても勉強効率アップにはもう繋がってる。

言わば二段構えだったのだ。

 

 

ただ、このまま帰られるだけなのも癪なので、新たな布石を投入。

 

 

 

 

「だよなぁ~。月島が居たところで、焼け石に水。どうこうなるもんじゃないし。……それに、勉強って 自分が出来ても他人に教えるのって、また違う難しさがあるし、オレも痛感してる。……月島じゃ、無理(・・)かな」

 

 

 

 

別に布石~、と言う程のモノとは言えないかもしれない。

 

ただ、頑張ったのは 煽る様にではなく 出来るだけ自然に、極自然に、何ら含みなく言う仕草だけだ。【無理】と言う言葉も、そこまでは強調してない。ほんの僅かだけ声をトーンを上げただけだ。

 

そして、何より火神はプリント(こっち)に集中してます感を出す事に勤めていた。

視線一切動かず、月島の方を見てない。

 

 

月島がどんな顔して、今の言葉を聞いたかは解らない。

火神は月島の顔を見てないから。

 

 

「………………」

 

 

でも、帰ろうとしてる足を止めたのは確かだった。

 

 

「………どんな事でも、自分で言うのはともかく 他人に無理(・・)って言われると腹立つんだね。勉強で腹が立ったのって初めてだ」

「!」

 

 

正直、今回のコレは勝算が高いとは言えないモノだった……が、今の月島の返答で、勝率が跳ね上がったと感じたのは言うまでも無い。

月島は頭が良いから、勉強関連で今まで無理と言われた事は無い様子だ。

……勿論、【東大入ってみろ】的な幼稚そのものを表してる様な発言は別だが。

 

 

「お父さんの教え方ってのも気になるし、オレの復習にもなるかもだし。……馬鹿見てるくらいなら、休憩してるのと変わんないか」

「「お前帰れーーー!!」」

「はいはーい、ステーイ」

 

 

びしっっ!! とほぼ同時に 月島に指差す日向と影山だったが、それは火神に両肩を捕まれ制される。

火神は笑っていた。……目だけは全然笑ってないのが、2人にははっきりと見えた。

 

 

「うんうん。勉強(コレ)に関しては、2人に拒否権は無しなんだよ?? 2人の解答見たら―――うん。絶対に」

「「…………」」

 

 

ぴらっ、と向けられたプリントの一部。

 

プリントの殆どは学校側から出されたモノであり、要所要所を抑えるポイントとして、テスト勉強に間違いなく活かせる代物。

そして、火神が2人に見せたのは 火神自身が事前に、2人に渡してあった物。

部活終わりに提出する様に、と。

 

あの学校側から出されたモノよりも更に簡単に設定している物だ。勿論、これだけ出来てれば赤点の40点以下を回避できる程甘くないので、云わば本番前の練習……いや、練習前のウォームアップ的な問題。

 

なかなかに珍解答が並んでて、更に言えば、2割の確率で正解する5択問題以外がほぼ壊滅だった。

 

 

「へぇ~、どれどれ………」

「あ、オレにも見せて………」

 

 

月島と山口は火神が出したプリントを凝視。

一瞬固まってた。

 

 

 

 

 

 

 

問①

 

次の( )に当てはまる語句を入れ、ことわざを完成させなさい。

 

無慈悲な者にも、時に慈悲の心から、涙を流すことがある……と言う意味のことわざ。

 

日向解答:

【鬼の目にも―――( 金ぼう )】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあ!! 痛い痛い!! 目ガァァ!!」

 

 

思わず、山口は目を覆った。

某長編アニメの目潰し呪文(バ〇ス!)を受けたみたいに。

 

更に更に、解答を色々と見ていくと……。

 

 

 

問⑤

 

次の( )に適当な漢字を入れ、四字熟語を完成させなさい。

 

意味)

弱い者が強い者のえじきになること。強い者が弱い者を思うままに滅ぼし、強い者が繁栄する事。

 

日向解答:

 

【( 焼 )肉( 定 )食】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわぁ~………、ここまでベタだと狙って書いたって言われても納得しちゃうね」

 

次に月島は思わず頬が引き付いた。

 

もしも、これが自分が教えてる相手だったら、間違いなく暴言、嫌味等々が合わせて1分間に10は飛びそうな気がしたから。

 

 

「うっ………」

「この時 腹減ってた、なんてもう言わないよね? 翔陽君?? これ中学ん時も見覚えある解答なんだけど」

「はい……。その時の事思い出して――――焼肉定食(それ)書きました……」

 

火神にも静かながらに怒られて、しゅんっ……と項垂れる日向。

 

「因みに、こっちの正解は【涙】ね。【鬼の目にも涙】」

「ていうか、こっちは何? 【鬼に金棒】だと思ったの?? そもそも問題文は読んでないのかな?? ただ、【鬼】って単語見ただけで、問題も良く読まないで、勢いでガ―――! って書いちゃったんでしょ? ほんと単細胞。どうやったら、このお父さんから、こんな単細胞が生まれるのか……」

「いや、月島くん?? おとーさんは兎も角、流石に生む生まないまでの話まで飛躍させないでね? 無性生殖なんかオレ出来ないからね!?」

「うん。そうだねぇ。出来てたら、少なくとも半分くらいは能力受け継いどかないとおかしいし」

「う、うっせーーよ!! もーーー!!」

 

 

「(アレ、焼肉定食じゃなかったのか……)お前、鬼に酷いんじゃないか? 恨みでもあんのか?? そそっかしいにも程があるだろう」

「影山まで言ってくんな!! と言うか! お前自分の方心配しろよっっ!!」

 

何故か、影山も火神(こちら)側についてる感じがする。

それは火神も重々承知であり、ずいっ、と影山の答案用紙を押し付ける。

 

 

「飛雄も翔陽の事全然言えないから。ほら、これ! 三角形の内角の和くらい覚えといてよ。超基礎だよ基礎。なんなら小学生でも今日日知ってる」

 

 

影山が軒並み間違えてるのは数学、そして加えて英語。

図形問題で、ある一定の条件から 指定された箇所の角度を求めよ、と言う問題。

 

面白い事に、影山の答え方はなんと……!!

 

 

「………もしかして、いや、もしかしなくても、飛雄。コレ(・・)、めっちゃ細かく書いてるね。分度器使って解答してない?」

 

 

影山の解答は、小数点第2位まで使った細かい解答が殆どだった。

 

「? ここの角度を求めろ、ってあるから、使ったんだが。細かいのは 大体の見た目で書いただけだ」

 

影山は、何が間違えてるの? っといった感じで首を傾げてる。

 

少々疲れた火神は、月島とバトンタッチ。

と言うより、勝手に参戦してくれた。非常にありがたい。

 

 

「ばっっかじゃないの!? 分度器って、そもそも高校生が持ってる文具じゃないし、この条件下での答えを求めよ、って書いてるじゃん! 問題見てない面では日向と同レベルじゃん!? 全然笑えないんだけど!」

「ぐっ………!」

 

 

痛烈な批判を受けて、流石の影山も気圧される。

月島に教わってる訳じゃないから、別にスルーすれば良い……と少なからず思ってた様だが、直ぐ横でニッコリと笑ってる火神をみたら何も言えない、と言うヤツである。

 

「基礎中の基礎! 中学ん時の数学の基礎! 公式とか英単語くらいは、覚えようって努力したらどうなの!? それに、こっちの英語の答案も軒並みバカ解答だけど!?」

「英語だと!? 日本人に英語がわかるか! それに、角度の問題解けたからって、いつ使うんだよ、そんなもん!」

 

 

胸を張って、反撃の狼煙を上げる影山。

 

月島も月島で、最初は見てるだけ~ と言ったのをすっかり忘れて、バトルに参戦してくれる。脳みそを使うのにも結構なカロリー消費になるので、やや下がった位置で、火神はため息を吐きつつ、飲みかけのスポドリを一気飲み。

 

まだまだ終わる事の無い影山vs月島を見てて、にこやかに笑った。

 

「(まさに計画通り……ってな)」

 

何処か、ノートを持った天才高校生の様なしたり顔で眺めてる火神を見て、それを後ろから見てた澤村が。

 

「良い笑顔してんな? 火神」

 

ボソッ、と一声。

火神の狙いがどうやら澤村には読めた様だ。流石は主将。月島よりも遥かに上手、と言う事だろう。

 

「2人のやる気と言うか、発破をかけるのに関しては、やっぱり月島の煽りスキルの方がオレより上だと思いましたんで……」

「ははっ、確かに」

「おとーさんのしたり顔、初めて見たなぁ」

「まぁ……、思い通りに事が進んで結構スッキリしたんで。変なトコ見られちゃいましたね……」

 

火神は自分がどんな顔してるのか解った様で、やや恥ずかしそうに顔を背けた。

 

反則じゃ無ければ、時にはズルい手も必要だろう。その点もしっかり活用してくる火神にやっぱり脱帽する澤村。

 

「さて、んじゃあ、ここはオレも参戦するか。日頃頼りにし過ぎてた自分を戒める為にも」

「「??」」

 

澤村がそういうと、首を傾げてる菅原と火神を横切り、まだ言い争ってる2人の元へ。

 

 

「へぇへぇ~~、そうなんだそうなんだ。火神が持ってきてくれてるこの初歩テストも解けない様じゃ、東京なんて夢のまた夢なのに、そんな態度なんだ。つまり、東京行きは諦めるんだね」

「ムッ!」

 

 

考えを改めない影山に、月島は東京行きを諦めろ、と言う。

勿論、諦めれるワケ無いので、苦虫を噛み潰す影山。……ただ、マジメに勉強して少しでも覚えれば良いだけなのに……。……それが難しいのだ。興味がトコトンまで無い勉強に一生懸命になる事も、マジメになる事も、覚える事も、全てが影山にとって難しい。バレーのスキルの数10分の1でも勉学に向かえば良いのだが……、それも難しい。

 

等と、色々と考えていたその時だ。

 

「影山」

「!」

 

澤村が声を掛け、そして影山は澤村の方を向いた。

影山の視線が自分に向いたのを確認すると、澤村は、指2本を立てて、丁度ピースの形を作り、それを右下45度程に傾ける。

 

それを見た瞬間、脊髄反射の如く、影山の脳がフル回転。

 

 

「Bクイック」

【!!】

 

 

続けて、立てる指1本増やしたり減らしたり、自分の肩を叩いたり、指をスライドさせたり、手のひらを翻したり……etc

澤村が素早くハンドサインを送ると、全く詰まらず、淀みなく、速度も速く正解を答えていく。

 

 

「A・C、センター前の時間差、レフト、バックアタック、一人時間差(今んとこ火神限定)、D、平行、セミ、セッター後ろの時間差………etc」

 

 

「……………」

「おー……すげー……。多分、オレ答えられないヤツ、何個かあった……」

「ははは………」

 

 

月島は更に呆れて、山口は凄いと言いつつも、自分は覚えてないと認めつつも……やっぱり月島の様に、ちょっと呆れて、火神はただただ笑っていた。そう言えば、こんなの有ったな~と思いながら。

 

そして、一通りのハンドサインをやり終えた後。

 

 

「影山。サイン(これ)、どのくらいで覚えた?」

「? 教えてもらった日? スかね」

「……それで暗記出来ないとは言わせないからな?」

「!!!」

 

覚えようと思えば影山だって覚えれるのだ。

 

「なるほど。じゃあ、今後の試合で使うサインも、sin cos tan! みたいにする? 勉強も覚えれてバレーも出来る、影山にとって一石二鳥!」

「「「「それは絶対ヤダ!」」」」

 

 

流石に火神の案は、影山だけでなく、山口や月島、日向にも反対された。

 

「はっはっは。まぁ、疲れてきた後半に数学考えんのはオレも嫌だから言ってみただけ。……澤村さんの言う通りだ。これで暗記系は大丈夫、って事だよな」

「………………」

 

 

大丈夫、と はっきり言えないのが悲しい所ではあるが、少なくとも暗記する、と言う攻撃手段を1つ影山は持ってるので、それだけでも教える側の負担は軽くなると言うものである。

 

「んじゃあ、次の問題は翔陽だ。ハンドサインも覚えるの結構時間かかってたし。最初はかっけーから、直ぐ覚える! って言ってたけど……菅原さんと合わせる時、何度か間違えてたし」

「はははは。そんなのあったなー」

「うぐっっ!!」

 

菅原と火神は笑っているんだけれど、日向は一切笑えない。

影山の武器が増えた事もあって、より笑えなくなった。

 

 

「か、影山には負けねーーからな!!」

「!!」

 

 

日向の宣戦布告。

普段のバレーに関して言われたなら、真っ向から跳ね返してやる所存だが、事、勉強においては【んなもんワザワザ競いたくねぇよ!】感満載だったので、如何とも形容しがたい表情をしていた。

 

 

 

その後、もう時間も遅いと言う事で、勉強会は解散となった。

 

田中や西谷と言った2年組は、土曜の休日、部活後に家でも勉強合宿をするとの事。

2年の内容は当然判るワケも無い日向は、田中や西谷に対しても宣戦布告をし―――今日の部活は終了となるのだった。

 

 

因みに、いつもなら 2年生に肖って、火神を日向は家に呼んで、もうちょっとくらいは勉強を……と思っていたのだが、日向の家は山の更に先の先。火神の足がまだ快調じゃない事、火神自身も部活後は用事があるとの事で実現せず、1年問題児の2人は個人で頑張れ、と言う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして月曜日。

 

 

 

「じゃあ、今日は病院に行ってから参加、と言う形になりますんで……」

「うん了解。元々先方には時間通りに診察出来る、って言う計らいをして頂けてるからね。そんなに待ち時間も長くならない筈ですよ」

「ありがとうございます! ……あそこ、やっぱり人気があって、待ち時間だけがちょっぴり心配でしたので」

 

火神が本日向かう病院は、人気で、この辺りの中学生から高校生、更にはスポーツ少年団の皆まで、怪我した者が通うようになる病院。だから、待たされる時間もそれだけ長くなり、ある程度は覚悟をしていたのだが……、そこは医師が、と言うより武田が裏から手を回してくれた様にも感じる。………勿論、ただ患者が少ない時間帯だから、と言う理由の方が現実味があるとは思うが、真偽を明らかにするつもりもない。

 

ただ、漸く足を本格的に動かせる様になる事だけ、そのことだけに喜びを感じていた。

 

 

丁度、武田と火神が話をしている時だ。

 

 

「いや~~、聞いてくださいよ、山下先生。1組の田中、最近授業中に寝てないだけじゃなくて、授業後に質問に来たりするんですよ!? 正直びっくりで!」

「おお! わかりますよ! バレー部ですな。私も3組の西谷がそうでしたから!今日の小テストも、今までにない点。いやぁ、やればできるんですなぁ~………。おおっと、歳を取ると涙腺がどーも」

 

 

職員室、教員内にまで噂される程の変貌を遂げてるらしい。

正直、どれだけ問題があったんだ? と思ってしまうレベルだったが、これはやっぱり好ましい事極まれり、だ。

 

 

武田は火神とウインク。

 

「現実味、ってヤツですね」

「そうですね。思った以上に順調そのものです! ……あとは、清水さんの方なんですが……」

「清水……あ、新マネージャーの事ですね」

 

武田がまた、険しい顔になっていく。

日向や影山の話は聞いてないが、目の前の彼……火神を信頼しているので(丸投げ??)、ある程度は安心出来ている。

 

だが、清水に関しては少々厄介なのだ。

 

以前、火神がある程度清水に聞いていたし、本人からも好感触は少なくとも先週までは聴ける事が出来てない。

もう、何処にも入ってない生徒に対して、 部活に入らない、と言う意思表示をしたも同然な生徒たちを、引き込むと言うのは、最初の部活動紹介時の勧誘よりも遥かに難しい。

 

魅力的な案件でもなければ、より難しさは増す事だろう。

 

清水が勧誘なら、ホイホイと釣られてしまいそうな気もする武田だが、バレー部の清水の最凶番犬、田中と西谷の存在は この学校全体に伝わってる。……勿論、西谷や田中だけじゃなく、澤村や東峰と言った最強の3年ももれなく一緒に乗り出してくるので、外からは完全な難攻不落の要塞も良い所。

 

 

その最凶と最強。そこからさらに、高い伊達工も真っ青な鉄壁に囲まれている清水を落とす事は、一般人には(・・・・・)不可能の分類なのである。

 

 

 

「そちらの方なら大丈夫です!」

「うん。難しいよね………って、え!? ほ、本当ですか??」

「ハイ! 今日来てくれる女子が1名います。自分のクラスの女子です」

「!!」

 

 

懸念がひとつひとつ払拭されていくと言うのはやはり、気分が良いモノだ。

 

火神と同じクラスの女子(・・・・・・・・)と言うのが不和を呼びそうな気もしなくもない、がそれでも、火神が間違いなく関わってると思うし、その辺りはしっかりとしてくれるだろう、とまた結構無責任気味な期待を武田は火神に送って、安心をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、今から約1時間前、休み時間での事。

火神と日向のリストをもとに、何名かコンタクトを取っていた清水は、火神のいる5組に来た。

火神も丁度 清水とばったり出会って、最後の1人であり、間違いなく新マネージャーになるであろう、彼女を呼んでくる、と速足で向かう。

 

 

「谷地さん。ちょっと良いかな?」

「………へ?」

 

昼食も終わり、後はのんびり過ごしてよう……と、していたのは、その候補の1人。……火神にしか知らないが、後に 烏野には欠かせない? 無くてはならない? 兎に角、清水の後を継ぐマネージャーなる女の子 

 

 

谷地(やち) 仁花(ひとか)である。

 

 

 

谷地は、まさか特に用もなく火神から声を掛けられるとは思っても無かったのだろう。思わず変な声が出てしまっていた。

 

自分に用事がある? 事に気付くのが遅れただけでなく、本当に自分に話しかけているのかどうか確認する為に、左右に首を振って、自分以外に誰か居る? と確認して――――誰も居ないのを確認した所で、人差し指を自分に向けた。

 

「わ、わたし?」

「はははは……。うん。谷地さん、って呼んだよ」

「うひゃい! も、申し訳ありませんです! 火神殿っ!!」

「どの……。今日は殿なんだね……前は軍曹?」

 

 

火神は苦笑い。

谷地の性格はある程度知っているが、実際に対面してみると、なかなか面白い。

引っ込み思案だったり、落ち着きが無い様にも見えたりしたし、でも しっかりしている所はしっかりしていて安心出来る所もあるし……、何だかクラスのマスコット、みたいな扱いをされるだってある。

 

 

「うぅ……え、えっと。その、何かな? 火神くん」

「うん。ちょっとだけ付き合って欲しいんだ。あの人……バレー部のマネージャーをしてる3年の清水先輩なんだけど、会って話を聞いて欲しくて」

 

 

これでも大分良くなった方なのだ。

最初の頃は。

 

【む、村人Bな私なんかには恐れ多いです!】

 

とか。

 

【む、村人Cにランクアップしてもむずいです!!】

 

とか。

 

【ふぁ、ファンに暗殺されないかな!? 大丈夫かな!??】

 

 

とか、1人で盛り上がってて、なかなか会話を進めるのが難しかった。

 

勿論、ある意味仕方ない部分もあるかもしれない。

 

火神がクラスで話す相手ともなれば男子が8割は占める。残り2割の女子は、運動部で頑張ってる子筆頭であるバレー部の北原だったり、学級委員長の今野だったり、……兎も角、所謂 クラスのカースト上位な女子たちくらいしか話をしてない、と言うのが谷地の印象だった。

 

男女分け隔てなく、普通に接している火神だったが、周りの女子は勿論、同性である男子たちも良い事を多く話してたりしてるので、谷地にとっては眩しすぎたのである。

 

 

「……………」

「谷地さん? おーい、谷地さん??」

「うひゃい!! ご、ごめんっ!! 直ぐいきやすっっ!!」

 

 

立ち上がって、びゅんっ! と教室の外まで走っていった。

 

「ちょ、ちょっと待って! こっちだって、こっち!」

 

清水が待ってる方とは逆の扉から外へ。

 

 

 

 

 

 

そんなこんな、色々と大変だったが、谷地と清水の邂逅は済ます事が出来た。

 

バレー部のマネージャーの勧誘。

どういう仕事があるかやバレー部の現状、なるべく興味をそそられるような言い回しを懸命に探して、清水は谷地に伝え続ける。

 

 

因みに、そこでも谷地はトリップ気味だった。

火神の時と同じだ。

 

 

その原因……、今度は火神ではなく、清水にあるのだ。

 

 

「(うへ~~……美人……。流石火神君のマネージャー〈違う〉……。3年生かぁ……すっごく美人。……あ、口元のほくろ、凄くセクシー……美人、髪ツヤサラ………、やっぱり、火神(主人公)クラスには、こんな清水(ヒロイン)だよね……、村人B&Cとは大違い………)」

 

 

今度は清水の容姿に圧倒されてしまっているのだ。

清水も凄い分類。

 

1年のエリアに3年が来たら、当然目立つ。部活勧誘の4月にここに訪れていた3年たちはスゴク目立っていたから。……でも、やはり清水は中でも別格だ。

周りの人がチラ見をしているのは傍から見ればよく解るし、見てしまう理由も解る。

同性でも解る。憧れる美人。

 

自分に持ってないモノを全部持ってる……、そんな風に 谷地は漠然と茫然と考えながら、清水の事を見ていて……。

 

 

「―――なんだけど、見学だけでもどうかな?? 一度、体育館に来てみない??」

「うへっ!? ハイっ!!」

「!!!」

 

 

これは必然。

先ほど、火神が話していたのに、聞いてなかった事を注意(実際はされてないが)されたと思ってる谷地。

相手が話しかけてくれてるのに、何の返事も無いのは失礼極まりない。それが3年生で、これ程までの美人で、火神からの紹介であったら尚更だ。

 

だから、話の内容の殆どを理解していないのにも関わらず、言われた事は、兎に角

 

【YES! Sir!!】

 

完全に、谷地はNOとは言えない日本人状態になってしまったのである。

 

 

「ほんとう!? ありがとう!! じゃあ、放課後また来ますね!!」

「え? っ!!(うひぃっ!?)」

 

 

清水にぎゅっ、と手を握られた谷地は、思わず更に一段と変な声が出そうになったが、どうにか奇跡的に堪える事に成功した。

 

 

「良かった……。うしっ! じゃあ、清水先輩。オレは足を見てもらってから部活に参加しますんで、谷地さんを宜しくお願いします」

「うん! よろしく任されました! 火神もしっかりね? 診断結果、ちゃんと先生と、勿論 私にも報告する様に。谷地さん、本当にありがとう」

 

「あはは。了解です」

「……あ、いえ、…………ハイ」

 

 

本当に嬉しそうな清水の後ろ姿。

今にもスキップしそうな程、軽やかな足取り。

 

それを見て……それに、返事をしちゃった今、今更……。

 

 

聞いてませんでした(・・・・・・・・・)、とは言えないよね?」

「ひゃいっっ!!? そ、そんな事はございませぬ!!」

「あはははは! まぁまぁ、谷地さん落ち着いて。取って食われるワケじゃないんだからさ。……バレー部、オレからも、どうかお願いしたいし。オレだって手伝える事は手伝うからさ」

「う、うん……」

 

 

 

この時の谷地は、心にも思ってなかった事だろう。

半ば、なし崩し的にスタートしてしまったバレー部の見学。

 

 

……生涯忘れる事が出来ない程の灼熱の2年半が始まる事に。

 


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