王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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明けましておめでとうございます!
今年も、王様ぎゃふん! をよろしくお願い致します。

今年中に完結まで………、と願望を(笑)
コロナも終息してもらえれば………切実です。

何とか去年年末を乗り切れました。次は……と言うより今は年始が鬼門ですが。苦笑

今年も頑張ります。


第91話 レッツゴートーキョー‼

 

「―――まぁ、実際には白鳥沢に勝てない青城に勝てない烏野(おれたち)だけどな。どんだけの僅差だろうが、その辺の事実は変わらねぇ」

「……そんなもん、次どっちも倒せばカンケー無い」

「わかってんじゃねーか」

 

 

牛島に啖呵切った日向と影山は、もう先を見据えていた。

日向や影山が言う通りだ。どれだけ接戦、激戦を演じようとも青葉城西に負けた自分達では何を言っても無意味、無価値。

 

だからこそ、日向が言う様に 次――――春高予選で倒すしかない。

 

気合は十分。士気も向上。

このチームの中心とも言える2人の意識向上は間違いなくチーム全体の士気にも繋がる。あの敗戦を引き摺る様な事は、最早無いと言えるだろう。

 

 

――――だが。

 

 

 

「はい! 気合が入ったのも良し。練習は殆ど見れなかったけど、牛島さんと話が出来ただけでも、今日白鳥沢(ここ)に来た収穫にも繋がったな」

 

 

丁度、2人の間を割って入る様に……火神が2人の間に入ると両手をぽんっ! と叩いた。

 

「でも、牛島さんや及川さん(先々のデッカイ山)を見過ぎてて、意識し過ぎてて、目の前の()を忘れてないかい? お2人さん」

「「??」」

 

火神の言葉。

いまいち理解しきれてなかったのだろう。2人は首を傾げていた。

 

いや、いまいちではない。……全然理解出来てない様だ。

 

火神は軽くため息を吐いた後。

 

 

 

「強くなる為に。東京行って、強い人達と沢山試合する為にも―――――」

「「おう!」」

 

 

 

火神が最後まで言い切る前に、盛大にガッツポーズを決める影山と日向。

勿論、ここで終わらせるつもりは毛頭ない。

火神は、2人の顔面を鷲掴みにする勢いで口を閉ざす。殆どアイアンクローである。

 

 

「って、まだ早いわ」

「「もがっ!!」」

 

 

そのまま、2人に向い合せる様に、自分の姿をちゃんと見れる様に頭を捻じる? と。にっこりとした笑顔で言う。

 

 

 

 

 

 

 

「―――テスト。しっかり乗り切ろうな? トーキョー行くために、いざ! 脱・赤点!」

「「………………」」

 

 

 

 

 

 

 

忘れていたワケではない筈だが、牛島と出会い、云わばスイッチが入った日向の脳内には勉強・テスト等の学業は殆ど消去(デリート)されていた様だ。

影山も言わずもがな。日向と同類。

 

 

 

影山や日向にとってみれば、折角……。

 

 

 

【打倒・白鳥沢! 打倒・青葉城西!!】

【行くぞ!! 春高!!!】

 

 

 

的な気分になっていたというのに盛大に水差された気分だっただろうが、ご生憎様、である。

何せ、相性最悪・史上最悪の関門と言って良い相手だから。

 

それ程までに―――勉強分野は2人にとっては最凶・最悪なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――………、テストは乗り切った。だが、それは問題ではない。

一番重要で、問題なのはその結果(点数)だ。

 

 

 

いざ・結果発表。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーイ、じゃあテスト返すぞーー!」

【えーーっ】

「はいはい、ウルサーイ。覚悟を決めて、まず安藤~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレーの試合前よりも緊張するかもしれない時間帯。

絶妙な力加減で、一番苦しい時間が長く長く続くかの様に締め付けられる様な時間帯。

 

 

どくん、どくん、と自分の心臓の音がよく聞こえてくる。

 

周りの悲鳴? は一切聞こえてこない。

ただただ、自身の心臓の鼓動だけがはっきりと聞こえてくる。

 

 

全てを出し切った、と覚悟を決めている者。

運を天に任せ、悟りを開き拝んでいる者。

 

 

多種多様ではあるが、各々の名が呼ばれるその瞬間まで――――この地獄行か天国行かを決める様な時間を待たされ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、修羅場な空気なのは主に日向、影山、田中、西谷達の居るクラスであり。

1年5組では、いつもと何ら変わった様子はない。

 

 

「谷地さん、テストどうだった? 翔陽達に時間使ってもらっちゃったんだけど……」

「うん。何とか出来てたよー。8割……うーん、70点台のも1つあるけど、まぁ 及第点かな?」

「そっか。良かった良かった。……あのバカ達のせいで、谷地さんの点が下がる様な事があったら、しょーじき複雑と言うか……、どう責任取って良いか解んなかったからさ」

 

火神は、谷地の言葉を聞いてほっと胸を撫でおろした。

 

影山・日向の面倒を見てくれたのは非常に嬉しい……が、そのせいで自分のテスト勉強の妨げになり、学力が下がりでもしたら最悪だ。

部活やる事を宣言し、そして背を押してくれたであろう母親にも合わせる顔が無いとはこの事だ、と火神は思っていたのである。

 

「ひとか~! なーに、火神君とイチャイチャしてんのよー!」

「そーだそーだ、ずっるーーい!!(……このノリなら何とか入っていける!!)」

「うひぃっ!? そ、そんなつもりは、も、もーとー!!」

「あはははっ、やっぱ 仁花は可愛いね」

「うんうん♪ そ、そーいえば、火神君はテスト、どーだったの?? とーきょーえんせー、いけそう??」

「うん? ああ。俺も問題なかったよ。大体8割。数学自信があったんだけど、ケアレスミスがちょこちょこあったみたいで……」

 

アッと言う間に、女子だかり、となってしまったので 火神は頃合いを見て場を離れた。

正直、火神ともっと話を~ と思っていたメンバーも居たり居なかったりした様だが、谷地をダシにした事に対する後ろめたさや谷地そのものが(仕草等諸々が)可愛い、と言うこともあって なかなか難しかった、と言うのはまた別の話。

 

 

 

火神が今考える事はやはり、ただ1つ。

 

 

 

他のメンバーは大丈夫だったのかな………? と言う事だけだ。

今回は、きっと自分が知る以上に勉強出来た、と思えたから少なからず期待はあった。

 

単純に教える教師係が谷地・月島・火神と人数が増えた事もある。

だから――――淡い期待をしていた。

 

 

 

 

この時、期待を――――していたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は更に進み―――。

 

 

 

レッツゴートーキョー!! 本番ッ!

 

 

 

辛い辛いテストを乗り越え、ついに運命の地へとたどり着いた。

 

この場所は 東京都郊外・某所……

 

 

東京と言う日本の中心地。

そして聳え立つ大きな大きな鉄の塔。

 

それを見て皆……ではなく、一部のメンバーが感動に打ちのめされる。

 

「オオオ!!」

「まさか、まさかあれこそが、噂のスカイツリー!!?」

 

東京行きが決まった瞬間から、異様なテンションの田中と西谷。

目に入るモノ全てに感動する勢いだった。

 

そんなテンションMaxな烏野を横目に、大笑いするのは 宿命の相手である音駒高校の皆さん。

 

 

「いいや、あれは普通の鉄塔だね」

「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

 

一部訂正を。

大笑いしているのは音駒の主将・黒尾だけだ。

海は律儀な事に笑顔で訂正・ご教授してもらえた。

 

 

「そもそも、スカイツリーがあるのは ここじゃないですし、武蔵…… つまり全長634mもあって、東京タワーの倍近い。日本一高い塔なんですから。これは流石に低過ぎじゃないです?」

「テンション上がってたらなんでも良いんじゃーーー!!」

「そーじゃそーじゃーー!! テスト明けで最高の気分なんじゃーー!!」

「うわわっっ!!?」

 

 

海と一緒になって、我らが尊敬する先輩方に修正を、と一票投じていた火神はと言うと、テンションアゲアゲな、田中&西谷の放つ津波に呑まれてしまった。

 

その中で、清水関連で、追撃を喰らったのは最早恒例である。

 

そんな火神(1年)と田中&西谷《2年》のやり取りを見ていた黒尾はと言うと。

 

 

「―――ははぁ、火神(あの子)の立ち位置は想像通り、って感じだねぇ」

「まぁな。なんせ烏野のお父さんだ」

「おとーさん、ね。納得できちゃうのが何だかおもろい。――――って言うか、オイ」

「…………」

 

 

澤村と話をしていた黒尾だが……、勿論違和感に気付いている。

そして、澤村自身もそこを突いてくるであろう事は余裕で想像出来ている。

 

 

「なんか人足んなくねーか?」

 

 

それも当然だ。

 

よく眺めてみると……見えてる範囲ではあるが 眠たそうに歩いてる月島や山口、先ほどからテンションMaxの田中、西谷、そして絡まれてる火神。色々と苦笑いしたりフォローしたりしている木下、成田、縁下。

 

そして最後尾に3年の東峰や菅原。

 

まだバスを降りてきてない、とか別の所に~ とも思えたが、一番我先に、と突入してきそうな男たちの性質を考えたら……、お預け状態の様なのは想像できない。

 

 

烏野で一番賑やか―――――騒がしくもあり、一番目立つと言って良い男たちが居ないのだ。

 

 

田中と西谷、火神と丁度3人組にはなっているが………、やっぱり違和感がある。

3人組は3人組でも、堂に入っているとは思うし、自然だとも思うが……やっぱり人選間違えていると思う。

 

 

 

「あぁ…… 実はな――――」

 

 

澤村も引きつった顔を浮かべながらも、説明に入る。

色々と田中達に絡まれてる火神だが、何処となくキレが悪いのは、きっと澤村と同じ気持ちがあるからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、時を巻き戻してみよう。

 

 

それは、テスト結果発表後の部活での事。

 

 

 

【赤点ライン:40点】

 

に対し……。

 

 

英語

【日向翔陽:32点】

 

国語

【影山飛雄:39点】

 

 

2人とも、当初の成績……東京行きが決まる前の話で、勉強を本格的に始める前までの頭・学力だったら、ほぼ間違いなく複数教科の赤点ホルダーだった筈だろう、と思えるからそれを考慮すれば、かなりの快進撃だと言える。

 

 

何せ、全教科中1つずつしか赤点を取ってないからだ。

 

 

月島風に言わせれば、赤点取る事自体が、どうなの? かもしれないが、この短期間での躍進は目を見張るものがある………と、言いたいのだが……。

 

 

そして、部室の前は何だか騒がしい。

 

 

「うわぁぁぁんっっ、あってる、あ゛っでる゛の゛に゛ぃぃいぃ!! ががびぐぅぅんっっ!!!」

「うん、すげー気持ち解る。……でも、谷地さん。男子更衣室兼部室の前で泣くのはとりあえず止めとこうよ」

 

 

どうやら、火神と谷地が居る様だ。

谷地が取り乱しちゃってるのも仕方が無い。

 

引きつった笑みを浮かべてるのは山口だ。

 

「やっぱ、スゲーショックなんだろうな……、谷地さん」

「休み返上してまで、見てたんだからねぇ。彼らを」

 

月島もこの時ばかりは同情を禁じえなかった様子。

 

「でも、あれ? 日向って英語は自信あったんじゃ……??」

 

菅原は解答を見せてもらい、隅々まで確認しつつ………、問題の当たり外れは一先ず置いておき、教科に注目していた。

 

得意・不得意科目は事前申告していて、その上でテスト勉強に励んでいたので、それくらいは菅原も知っているのだ。

 

「終了間際に、解答欄が1コズレてた事に気付いたみたいですよ」

 

その菅原の疑問点に答えてあげるのは月島だ。

そして、月島は 谷地や火神には同情はするが……、正直日向にはしてない。

 

「と言うか、火神(おとーさん)が前日にも言ってたよね? 解答欄に注意しろよー、って。中学ん時もあったんデショ? なのに、ベタなミスって、何聞いてたの? わざと??」

「はぐぅ………」

 

 

ぐうの音も出ないとはこの事。

実の所――――火神は知っている(・・・・・)からこそ、出来る限りの最大限を尽くしてきたつもりだった。

ケアレスミスの中でも、定番であり尚且つ最悪の点に繋がるミスが解答欄のズレ。マーキング形式の選択問題だけで、テキトウに答えたのならまだ希望があったかもしれないが……、ある程度自信満々に解答してたのなら、当然ソレの全てが間違いなのだ。

 

「も、問題みて、これなら赤点回避できるぞ!! って思っちゃってたら………」

 

猪突猛進な日向ならやりそうな事なのである。

単純極まりないミスだからこそ、事前に釘指されていたとしても、その時は大丈夫だ、と言っても当日の空気感・緊張感・体調、その他諸々で大きく影響を及ぼす事なんて幾らでもある。

 

日向の場合、テスト問題が理解出来た時点で、かなりの好調スタートだった筈なのだが……、それが裏目に出てしまった様だ。

 

 

「もっと周りをもっと見ないとだな……日向。英語の小野先生、そういうの許してくれないし……」

「ぅぅ…………」

 

顔は兎も角(暴言)菅原の様に いつも優しい東峰の注意喚起にもこの時ばかりはあまりにも痛い暴言に聞こえてしまうから悲しい所だ。

 

 

そして、影山。

 

「影山は現文……か」

「火神も言ってましたけど、西谷や影山って、読解力が必要なのって苦手で……、影山は、暗記系を中心に勉強してたみたいなんですよ」

 

縁下がフォローに入る。

影山に関して言えば、確かに日向に大分暴言を吐いていた事を全く暴言である、と意識出来ない時点で、この手の問題は苦手だと言うのは理解していた。

 

そんな中でも、出来る限りの備えを、としていたのだが……。

 

 

「てか、後1点て……」

「しかも、読解系の漢字ミスの-1点だ……。漢字は満点なのに、ここでミスるのか……、これは悔しいよな」

 

 

39点。後1点あれば赤点ギリギリの合格ラインだっただけに、日向にも負けずと劣らない程悔しい筈だ。それも、ミスがケアレスミス、と言う。……見逃してくれそうなミスな気もするが、漢字を沢山扱う現文で、漢字のミスを見逃せ、と言うのは虫のいい話だろう。

 

甘んじて受けるしかない。

 

 

影山も日向も、出すものは全て出し切った、という雰囲気。

それでも届かなかった悔しさはやっぱりある。

 

菅原もその辺りは十分考える。

学力について話を聴いた時は、リアルで一時停止をしてしまったが、それでも 短期間でここまで上げれるのなら、次からは大丈夫だ、とも思える。

 

ただ……、残念だが東京行きは……。

 

 

「まぁ、あんまり落ち込むなよ。遠征は今回だけじゃ」

 

 

副主将として、火神や谷地程ではないが、面倒を曲がりなりにも見てきた内の1人として励まそう、としていたその時だ。

 

 

「どうやって東京まで行く??」

「走るか!!」

「チャリだろ!」

 

「!!」

 

宮城からどうやら、東京に行くつもり満々だった。全く諦めてない様子だった。

この様子なら、例え徹夜してでも東京へやってくると言うのがよく解る。

猪突猛進事極まれり、影山もこの手に関しては 大分単純だから、日向と同じだ。

 

 

「せめて公共機関、電車とかバスとか使うか? って選択肢に入れろよ……。まぁ、結構高額な金銭が発生しちゃうケド」

 

そこに、ガラッ、と入ってきたのは火神だ。

どうやら、谷地の声も聞こえなくなった事を見ると、しっかりと慰めは完了した様だ。

 

 

――――若しくは、清水が谷地を迎えに来たか、だが……。

 

 

 

 

思う所はあっても、菅原はここは何も言わない。

怪我が完治してからと言うもの、散々田中&西谷に揉みくちゃにされているのを知ったから。

 

清水の至高の撫でりこ……、【清水が火神にナデナデ事件】に関しては、菅原とて興味が無いワケじゃなかったので、田中&西谷の追及と言う名の強引極まる尋問に関して、そこまで真剣に止めに入ったりはしてない……と言う裏事情が合ったりするのは別の話。

 

 

 

「「金は無い!!!」」

「ま、まぁ……県を跨ぐような交通費、いきなり~ってのはきついよなぁ……。幾ら親でも」

 

 

 

金銭面については、主にバレー関係で沢山使っちゃってるので(食べる為だったり用具、練習着だったり)、自分のはそんな交通費は出ないし、事前に申告してたら別かもだが、突然発生したも同然な高額交通費をせびるのも無理難題だ。

 

「うーん……、後は親に送っていってもらうって言う手も……。まぁそれぞれの家庭の事情があるだろうし。ウチは普通に仕事日らしいし」

「だから、チャリ!! 走っていくのには限界がある!」

「山の1つや2つ、越えて見せる!!」

「いや、翔陽はガチで山越えてきてるから、その辺は全然心配なんかしてないケド、東京の場所わかってんの!? と言うか、旅だつのは百歩譲って良いとして、地理とか土地勘大丈夫?? 間違って大阪とか行っちゃわない??」

 

 

3人で色々と言い合いをしていたその時だ。

 

 

「おい、お前ら―――――」

 

 

救世主とも呼べる男が降臨したのは―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は元に戻る。

 

「へぇ……、勉強面まで面倒見てあげるなんてスゴイね。流石、研磨が直ぐ懐くワケだ」

「い、いえ、恐縮です……って、研磨さんは先輩なんですよ? 懐くって 違うくないですか??」

 

海が火神の事を改めて感心し、黒尾は笑いつつ 2人についての再確認。

 

「あの超人コンビは今頃補習受けてるって事か。ま、いくら おとーさんが居たとしても、そんな直ぐ成績上げちゃえるワケ無いし。そこまで超人じゃなかった、って事か」

「……黒尾さんまでおとーさん………」

 

 

板についてきた火神=お父さん。

 

まさか、県を超え、東京の高校にまでその名が定着したとなると、この合同練習でより広がってしまいそうな気もする。

拒絶をするつもりは無いが、何だか納得できない部分もあるので、どうしたもんか……、と思案していたその時だ。

 

 

「うおおおおおおおお!!?」

「「「!!?」」」

 

 

突然、背後から大きな声が聞こえてきた。

大きな声、と言うより絶叫? 悲痛な色の絶叫が。

 

ふと、曲がり角を覗いてみると……、そこには件の男が1人。

音駒の田中な、人が1人。

 

モヒカンがトレードマークの山本 猛虎が膝をついていた。

 

 

その先に居るのは―――烏野が誇る美女・美少女マネージャーの2人 清水と谷地。

 

 

「じょっ、じょっ……! 女子が2人になっとる………! キレイ系とカワイイ系の2人に…………!!」

 

「…………………」

「!!?(モヒカン……?? 東京スゴイ……!!)」

 

 

すっ、と谷地を庇う様に清水が前に。

谷地は谷地で、トラの髪型に感銘? 感動? を抱いたのか変な所で東京に対して感心をしていた。

 

確かに、高校生でモヒカンヘアースタイルはなかなかお目にかかる事はないから。

 

 

「トラさん……」

「ぷはっ! トラさんて、男はつらいよ、かよ! そんな良いもんじゃないだろうに」

 

 

火神のトラさん呼びに、黒尾には寅さん、と聞こえた様で 某国民栄誉賞も受賞した伝説の男を思い描き、思わず大笑いしていた。

 

 

黒尾は、確かに有名だけど 結構古い事を知ってるんだな、と火神が思ったのと同時に、田中が一歩前に出た。

 

 

「見たか虎よ……」

「!!?」

 

 

田中は清水と谷地の前に立って両手を広げた。

まるで後光がさしているかの様だ。……その光はあの美女・美少女から発せられているのが当然解る。

 

 

「これが烏野の本気なのです」

「くはっ……!! ま、眩しいっ………!」

 

 

「え、えと………」

「仁花ちゃん。無視して良いから。行こう」

 

クールビューティーな清水は、やや放心気味な谷地を庇うのと同時に、谷地にとってはまだまだ威圧感や迫力があり過ぎる2人から遠ざける様に施設内へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

てんやわんや、とまでは行かないが、道中色々と注意したり注意したり注意したりして、どうにか着替える場所に到達。

 

 

「じゃあ、準備出来たらすぐに体育館行くぞ。……他の連中も、もう集まってきてる」

 

 

黒尾の説明を聞いて、ピリッ……と烏野に緊張感が増したのを感じた。

主に先頭に居る3年から感じられる。

 

梟谷グループとの付き合いが長い音駒にとっては恒例行事。今更 遠慮など無いし、変に気圧されたりもしない……が、このグループ内に入ってきた外来種である烏野はまた別だろう。

 

森然、生川、梟谷、音駒。

 

自然を舞台にした世界に、烏が入ってきた。新たな地で烏が警戒し、より攻勢を強めようと躍起になる気持ちは黒尾にも解る。……が。

 

 

「……ははッ」

 

 

思わず笑ってしまっていた。

 

「「「??」」」

 

 

その黒尾の笑みの意味がいまいち解らない3年達は きょとん、としていたが黒尾は直ぐに背を向ける。

 

 

「早く来いよ」

 

 

そう一言だけ告げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、海と共に戻っていく黒尾。

 

「烏野って、あのチビちゃんが一番目立つ、って思ってたケド、居ない状態(・・・・・)ならより見えてくるもんがあるよな」

「ああ」

 

海も同感だ、と言わんばかりに笑いながら言った。

 

 

「初めてだったら、大なり小なり、少なからず緊張の色つーのは見せるもんだろうに。なんつー笑顔(・・・・・・)だよ、おとーさん」

「ふふ。右に同じ」

 

 

【他の連中ももう集まってきてる】

 

 

黒尾がそう言ったとほぼ同時にだ。

ぴくっ、と反応を見せた。澤村達3年が見せたタイミングと同じ。

 

だが、その雰囲気は明らかに違う。

 

身内であれば解らなかったかもしれないが、相対……対面してみるとよく解る。

 

色々な対応をしていて、色んな意味で練習前に疲れちゃった、と言っても良い表情をしていた筈なのに、その表情が一瞬で消えた。

裏表無い、と言うのはこの時のことを言うのだろう、と思える程の屈託のないごく自然な笑顔がそこにあったのだ。

 

 

思わず笑ってしまったが――――それと同時に畏怖の念も覚える。

 

 

幾ら周りから お父さんお父さんと呼ばれようとも、あの男―――火神はまだ1年の筈なのだから。

 

 

「3年。……最初にして最後の年か。……今年は本当に楽しくなりそうだな」

「ああ」

 

 

黒尾の言葉に、海も大きく頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 一方 烏野高校では。

 

 

 

「おうおうおう! いつになく真剣だな~お前ら~~?」

 

 

結構スパルタで有名な女教師 小野水穂先生がいつになく笑顔だった。

それには当然理由がある。

 

本日、烏野高校では赤点取った生徒に対して行われる追試・補習日。

運動はさておき、学業に関しては後ろから数えた方が遥かに速い問題児である日向・影山が無言で集中していて、そして真剣に鬼気迫る表情で一心不乱に答案用紙を埋めていっているから。

 

決して出鱈目を書いている、と言うワケではないのは、監督をしている小野が一番解る。

解るからこそ、学業にも打ち込んでいる生徒たちを見て嬉しい表情を作っているのだ。

 

 

 

2人が考えているのはただ1つ。

 

田中があの時―――言ってくれた言葉。

 

 

【お前ら! まず、火神の言う通りだ。東京まで走ったりチャリったりすんのは止めとけ。無駄に捜索しなきゃならん】

 

 

至極尤もな意見を田中の口から出された事に驚きを隠せないが、それ以上に注目するのは続く言葉の中にある。

 

 

【お前ら2人とも、赤点は1つずつだけだな? それなら、補習は午前中で終わる筈だ。………全力でやって来い。変にサボって補習で居残り、なんて馬鹿な真似だけはするな。――――そしたら】

 

 

生まれて初めて、補習に全力を出したかもしれない。

 

日向と影山はそう確信できる。

(そもそも、補習受けなくて良い様に努力しろよ、と言うのは今更な話)

 

 

クラウチングスタートを切るかの様に、補習を終えて、答案用紙を小野先生に提出したのと同時に、2人は 教室を飛び出した。

 

 

「よっしゃ! お前ら、頑張れよ~~!」

 

 

普通なら、教室を走るのも廊下を走るのも注意モノだ。……だが、その辺りは小野は目を瞑っている。

今回のテストに対する補習に目は瞑らない代わりに、今だけは目を瞑る。

 

終わらせる為に、東京へ行って全力でバレーをするために頑張ってきた、と言うのが解る答案だったから。……お世辞にも良い出来とは言えないが、それでも以前と比べたら、普段と比べたら間違いなく上昇しているから。

 

 

 

そして、日向と影山は今日だけは特別。学校の校舎内を走り続け―――校門を潜った。

 

 

 

【俺が《救世主》を呼んでやろう】

 

 

 

田中の言葉を信じて、潜り抜けた。

 

その先に居るのは―――。

 

 

「ヘイ、赤点ボーズ共」

 

 

金髪(ショート)、黒のタンクトップにジーパン姿の女性。

その顔は……遠目から見ても傍目から見ても、田中龍之介に似ている。間違いなく似ている。

 

 

「乗りな!」

 

 

ビッ、と親指で指す先にあるのは……決して人力だけでは辿り着く事が出来ない力を出せるモノ。人類の叡智の1つ――――自動車。

 

 

間違いなく、東京へと運んでくれる。まさに日向・影山の2人にとっての箱舟

 

 

「たっ、田中さんのお姉さんですかっっ!」

「おう! 冴子姉さんと呼びな! 東京までなんて、あっという間に届けてやるよ」

 

 

バチンッ! とウインクしてくれた。

余りにも男らしく、綺麗と言うより格好良いが似合いそうな女性、冴子の言葉に感動と感激に胸を打たれる2人。

 

2人は揃って冴子に。

 

 

「「冴子姉さん!!」」

 

 

と言い、頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ピンポーン

 

 

「乗車中の安全性及び快適性などについては一切保証いたしません」

「………お姉さんの運転、そんなに荒いんですか??」

「スピードだけは保証する!」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は東京合同練習側。

 

 

「お願いしあス!」

【しあーす!!】

 

 

整列し、体育館へと足を踏み入れると……、そこはまるで別世界の様に感じた。

それぞれの持つ云わばオーラだ。……強者であるオーラを肌で感じられた。

 

間違いなく、自分達が強くなる為に必要なモノが全てここに有る、と思わせてくれるようだ。

 

 

挨拶後は、まず怪我しない様にストレッチから。

澤村は、黒尾から今回の練習メニューを一通り聞いていた。

耳を澄ませてみたら、どうやら 火神が知る通り。アップ後は只管試合形式の練習をぐるぐると回しながら続ける。

 

そして、負けたら(ペナルティ)あり。フライングコート1周。

 

 

「?? あれ、誠也。翔陽は?」

 

 

澤村達に耳を澄ませつつ、ストレッチをしている最中、ボールが転がってきた。

それを取りに来たのが孤爪で、火神が丁度拾ったので、顔見知りである火神に日向の事を聴いていた。

 

 

孤爪の問いに 火神は苦笑いをすると。

 

 

「それがその――――……かくかくしかじか、で……」

 

 

掻い摘んでではあるが、説明。

補習で来れてない事は、黒尾から結構周知されている様だったが、どうやら孤爪はまだ知らなかった様だ。

 

「あー……」

「でも、こっちに向かってると思いますよ。ただ、距離があるので 何時に到着するかは解りませんが……」

「ん。翔陽なら是が非でも来る、って感じだよね。……補習だろうと何だろうと」

 

孤爪は日向の性質を解っているつもりだ。

正直相容れるとは思えない性格だけれど。

 

ふと、火神の横顔を見た孤爪は、ほんの一瞬身震いをする。

 

 

「ッ………」

「あはは……、翔陽達が居なくてちょっぴり物足りない、って研磨さんは、思ってるかもしれないですけど。………まぁ 見ててください。退屈はさせない様に頑張りますので」

 

 

それは黒尾の時と、彼が感じたのと全く同じ種類のものだった。

横目から解る屈託のない笑顔。……ここまでの笑顔はある種の狂気さえも感じてしまう程のモノだったから。

 

何をしてくるか解らない。

前の火神と今の火神はまるで違う。

 

根本的に何かが違う、とさえ思う。

 

 

孤爪にとって見れば、火神と言う選手は、まるでラスボスの裏側に存在している代物。

通常通りの攻略だけでは、到底超えられない様な男。

ラスボスを倒して、新たな世界を発生させて、そこで力を限界まで付けて……戦わないといけない相手。

 

試合上では確かに音駒が勝つ事が出来たが……、ゲームで言うなら、RPGゲームで言うなら、勝つ事は出来たけれども、まるで倒す事が出来ない(・・・・・・・・)イベント戦の様にも感じた。

 

正攻法では勝てない。突然、強制的に終わらせられる様な理不尽仕様。

 

 

だからこそ―――孤爪も笑う。

 

 

「(誠也は会う度に変わるね。……きっと、翔陽もそうなんだろうけど)」

「?? どうしました?」

「ん。何でもないよ。……こんな疲れる練習で、退屈、なんて思ってられないから安心して」

「あ、はい」

 

 

火神は、孤爪の言葉を聞いてただただ笑っていた。

 

因みに、楽しそう? に話す2人を見て、思わず感涙極まりそうなのは夜久と海。

いや、目から涙が出てるのは決して気のせいではない。

 

 

 

 

「研磨が……、あの研磨が………、自分から話しかけてるよ……」

「うんうん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神は孤爪との話を終えた後、またもう一度入念にストレッチ。

 

 

足を腕を、全てを解す。

 

 

今日は、この合同練習ででは1つ――――運命(・・)とやらとも勝負するつもりで来ていた。

 

変えられない事なんか、決してないし、筋書き通りなんてある筈もない。

決めれるのは、ここに来ている自分達だけだから。

 

確かに、影山や日向は来ていないけれども、あの2人も必ずやってくる。

 

 

 

「――――さぁ、全力全開。翔陽と飛雄に羨望の1つでもさせられる様な試合をしよう、………かな」

 

 

 

 

 


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