王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか早めに投降できてよかったです………(苦笑)
これからも頑張ります!


第92話 合同練習開始

 

 

 

 

 

田中冴子――田中龍之介の姉。

 

 

 

日向・影山にとっての救世主の登場。

龍之介の粋な計らいでテストを乗り越える事は出来なかったが、辛くも合同練習に参加する事が出来る事となった。

 

本来ならお預けだった合同練習が、東京行ができる様になるのだ。いつもの日向であれば、どんな場所であってもテンションMax。

例え、どれだけ冴子の荒い運転だったとしても、場所関係なくテンションMaxな筈なのだが……。

 

 

「………………」

 

 

カラスだと言うのに、まるで、借りてきたネコの様に大人しく座席に座っていた。

勿論、しっかりとシートベルトは装着している。安全第一。

 

 

そんな日向を横目に、これまで黙っていた冴子は、そのしかめっ面な顔に一喝。

日向の頬を抓んで引っ張った。

 

 

「あががが!」

「オラ! そんなに思い詰めんな! まっ、龍から色々聞いてるし、焦るのは解るけどなー」

 

 

びょーん、と 某ゴム人間? に迫る勢いで伸ばそうとしていた頬をぱちんっ、と離すと 冴子は前をじっと見据えた。舐めていたチュッパチャプスをペロッ、と口から取り出すと。

 

 

「回り道には回り道にしか咲いてない花があんだからさ。今日の事だってぜってー無駄にはなんないよ」

 

 

その横顔は真剣そのもの。

笑顔は笑顔なのだが、真に迫る、と言った所だろうか。

 

日向にとってはドストライク。

 

 

「!! おおお~~っ! よくわかんないけど、かっけぇ~~っ!」

 

 

意味は解ってなくても響きが良ければそれでヨシ。

まだまだ中学2年生な感性なのである。

 

 

「わはははは!! このアタシの隣でドライブできてんだから、その辺は赤点に感謝しろってこと! それにアタシも色々聞いてみたい事もあったしさ!」

 

 

にっ、と笑みを浮かべる冴子。

その横顔に思わず惚れそうになる日向。……勿論、男女~と言うワケではなく純粋に格好良い! と思ったからである。

 

 

「翔陽たち1年が入ってからさ。ウチの龍がよりカッコよくなっていってんだよ」

「! 田中先輩がですか?」

「おう。自慢の弟だ。今なら弟のカッコよさを解ってくれる女の1人や2人、出来そうなもんなんだがね~」

 

 

冴子は恐らく自他共に認める程の姉バカだろう。(無論、そこをツッコむ者は皆無なので、確認はしにくいが)

 

だが、それでも これまでとは何かが違うと冴子は思っていたのだ。

弟である龍之介の変化をずっと見続けてきた姉バカである冴子が気付かない訳がない。

 

 

日向は少しだけ考えて、普段の田中の事を思い返す。

最初から最後まで田中は田中だ。いつも全力一直線。日向自身と似て非なる者と言えばそうだが、冴子が言う通り、格好良い……を当てはめて考えてみると。

 

 

「オス!! 田中先輩はスゲーー、かっけぇですっ!! スパイクも アサヒさんに続いてスゲー威力だし!!」

「わっはっはっは! そりゃそーだ! なんせアタシの弟だからな!」

 

 

日向の解答に気を良くする冴子。

もしも、日向が女だったなら、これ以上ない程に喜ぶ所だ。キャーキャー言われても良い(と冴子は思ってる)のに、いまいちな様子だから、最近の悩みの1つになってたので。

 

 

 

因みに、運転席と助手席では大いに盛り上がっているというのに、影山は静か。理由は後部座席で横になって爆睡しているからである。

最初こそ、冴子の荒っぽい運転に驚いていた様だが、強心臓の持ち主だ。慣れてしまえばそのまま寝る事くらい造作も無いのである。

チョットでも、勉強で失った? 体力を回復に努める為でもあるのだから。

 

 

「最近の龍はかなり気合入ってるよ。ま、(縁下)力の下でベンキョーし出したのを見た時は別の意味で驚いちまったがな」

 

 

それは 田中家でテスト対策をしていた時の事だ。

丁度冴子が帰宅して……その勉強会を見て度胆を抜かされたのである。勉強をする――――と言う事があまりにもかけ離れた光景だったから。

 

手伝うぞ、等 色々せっついたら、邪険にされたり、そもそも勉強自体冴子もそこまで興味はない(得意とも言えない)ため、 あまり絡まずに後にしたが。

 

 

「聞けば、お前らもスゲーんだろ? スゲー1年が入った入った、って耳タコで聞いてるからなぁ」

「あ、いえ、その……うへへへへ」

 

 

照れ笑いをする日向を見て冴子は笑う。

 

 

「翔陽や後ろの飛雄の事もモチ言ってたけど やっぱ一番言ってたのは、火神(・・)ってヤツの事かな? 【火神(アイツ)に、目ぇ覚ましてもらった】つって」

「!」

 

 

火神の名が出た時、照れ笑いを浮かべていた日向の表情が変わる。

冴子は、以前の事を思い返しているのだろう、横顔の表情が、視線が何処か遠くに感じる。

 

「久しぶりに見たよ。以前の弟もな、毎日悔しそうな顔して帰ってきてたもんさ。所謂1年、丁度お前らん時か」

「え、あの田中さんが??」

「そりゃそうさ。負けたってのもあるけど、他にもレギュラーになれなかった、だの。まぁ、自分からペラペラ喋るタイプでもないけど、あいつもスゲー解りやすいんだ。あんたらに負けてない。……わかりやすいバカ、ってヤツだからね。顔みりゃどんだけ悔しいかわかるさ」

 

視線はそのままに、冴子は続けた。

 

「そんで、最近は 悔しい気持ちを思いだし始めてる、って感じだったな。予選? だったか、それに負けて悔しいってのも勿論あったが、それ以前のはちと違う。スゲー後輩が入ってきて、レギュラー取られて(・・・・・・・・・)悔しい(・・・)って」

「あ…………」

 

日向も思う所が無いワケではない。

西谷も言っていた事だが、遊びでやってるワケじゃない。全国を狙っている。強豪校として日々研鑽を、練習を積んできている。

だから、当然練習試合ならまだしも、公式戦では 強い者、勝てる者が選ばれるものだから。

 

試合にずっと出たかった日向には、田中の気持ちがよく解る。

解るし、自分自身は影山が居るから、と言う条件付きではあるものの、試合に出る事が出来ているから、なんて言葉をかけて良いのかが見つからなかった。

 

「かっかっか! なーんで翔陽がしょげた顔してんだい? アンタは勿論、火神誠也ってヤツも気にする事なんかなーんも無いよ。いつも通りでいいんだ。それにさ、アイツは【目ぇ覚ましてもらった】って言ってたんだ。これは更に一段階、カッコよくなる為に必要な事さ」

「ッ! あ、アス!! 田中センパイはいつも、いつだってカッコイイです!!」

 

日向の力強い言葉に、冴子は更に笑顔になって「だろ?」とアクセルを(何故か)全開にした。

どうやら、前の車を追い抜こうとする為だった。急加速になったのは、冴子の感情の表れだろうか。思いっきり背中がシートに押し付けられる感覚に見舞われた日向。

影山は動じず、ただただ寝ているが。

 

 

「ふふっ。そんで翔陽が焦ってる理由の1つにその火神ってヤツの存在があったりすんの? 弟も言ってたが、同じチームつったって、翔陽にとってのライバルってヤツじゃないか?」

「っ……はい。誠也は―――――」

 

 

日向は、今度は火神の事を思い返しながら冴子に話した。

 

これまでの事。

中学時代、共に最後の最後まで諦めず戦ったが……結果を残せなかった。

一緒に烏野高校に入学、バレー部に入部して そこからも一緒に頑張って頑張って………、でも 行く先々に火神はもう先回りしている様な感覚がいつまでもあった。

 

単純に悔しい気持ちも強い。

 

身体能力的には 当然差異はある。火神の方が身長は高いし力もあるだろう。……でも、そこよりも 技術面だ。

共に育ってきた環境は殆ど変わらない筈なのに 技術面が果てしなく差を開けられている。いつ開いたのか解らない程に。

中学時代はバレーが出来る事自体が嬉しい環境だったから、然程気にする事は無かったんだけれど、高校に入って……烏野高校に入ってより顕著に思い返してしまう事が多々あった。

 

でも、負けじと頑張っている。追いつこうと、置いて行かれない様にと頑張っている。成長している事だって少なからず実感している。……でも、背は果てしなく遠い。近くに見えてる様に感じるのに、手を伸ばしても捕まえられない。絶妙な距離で常に安定しているかの様だ。

 

冴子は暫く黙って聞いていたが、日向が話し終わったのを確認すると、

 

「なーる。まっ、同世代にスゲーの居たんなら、そんな気なっちまうのも解るってもんさ。……んでもね、翔陽」

「は、はい!」

「翔陽には翔陽にしかできないもんがある。弟には弟にしかできないもんがある。誰1人おんなじヤツなんていないんだよ。誠也を目標にする、つーのとは別にしっかりと頭ん中に入れとけよ? それが解ってたら、だいじょーぶだ。翔陽は良い男になるさ」

 

 

額を人差し指で弾かれる日向。

最初はきょとん、としていたが徐々に表情は戻っていく。

格好良い事言ってくれた事も相乗して、日向の表情が明るく、瞳が輝きを取り戻していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も火神の話を中心に続け、冴子は一息。

 

「まっ、解ってた事っちゃ、事だ。アタシの龍を追い抜いた1年だ。龍が特に気にしてる男だ。良い男じゃない訳がない、ってな。ん―――そーいや翔陽は何でバレー始めたの? 誠也の影響?」

「! 違いますよ。あ、でも 誠也との出会いとバレー始めた理由は一緒ですね」

「?? どういうこと?」

 

冴子は首を傾げ、日向は続けていった。

 

 

「小学生の時です。商店街にデッカイ テレビ置いてる電気屋があって、誠也とはそこで出会ったんです。多分、誠也もテレビ見てたんですよ。その時かかってた春高を! ちょうど烏野の試合で、それで――――」

 

 

日向が、今でも鮮明に覚えているあの時の興奮、光景を思い返しながら、話を続けていくと、冴子もまるで図ったかのように声を揃えた。

 

 

【小さな巨人を見た】

 

「んです!」

「とか?」

 

 

完璧にハモった。

一瞬、何を言ったのか解らなかった日向だったが、こういう時の頭の回転は速い。

即座に記憶を巻き戻し、さっきの冴子の言葉をリピートする。

 

 

「!!?」

 

 

リピート再生し、確実に間違いなく自分がよく知る存在を。火神を見る前に尊敬し憧れて、目指そうと誓った男の事を言っていた。

 

そして、日向の反応を見るだけで、自分の考えが当たってた、と冴子はニヤリと笑っていった。

 

「おっ? やっぱ当たった??」

「冴子姉さん! 小さな巨人、知ってるんスか!??」

「おう! アタシ、多分小さな巨人(そいつ)と同級生だもん」

「ヘァッ!!?」

 

明かされた驚愕……? の事実。

冴子の年齢は聴いてないが、よくよく考えてみると……確かに近しい年齢だろう事は想像がつく。(女性にいきなり年齢を聞くのは失礼である事くらい日向も解っている)

 

何にせよ、生であの【小さな巨人】を見た事がある、同級生である、と言う冴子の言葉にこれまで以上に興味津々となる日向。

 

「つっても、喋った事も無いけどさ。ヤンチャな奴なら目立つだろうし、知り合いだったと思うんだけどね」

「姐さんは【悪そうな奴は大体友達】ってヤツですか!?」

「わはは! それだな!」

 

第一印象は間違ってなかった様だ。

姐御肌な冴子の風貌を見たら、日向とて何となくではあるものの察する事がある。冴子自身の口から肯定の言葉が出れば、最早疑いの余地なし、だろう。疑う気など毛頭なかったが。

 

「……んん、けどさぁ。たまたま学校で練習試合? やってんの見かけた時、小さな巨人(そいつ)はどんな強面の知り合いよりも――――怖かったよ」

「???」

 

冴子の告白に、日向は頭を捻る。

強面……、大体の悪い奴らは皆友達、と豪語。笑っている冴子が怖がった? 事にやや疑問だったから。

 

でも、それはバレーに関係すれば解らなくもない。

何も知らない人が、いきなり全国区の練習試合を目の当たりにすれば―――と。

 

「ん~~、怖い、とは違うか。迫力がスゴイ、って感じ?」

「あっ、なるほど! スパイクですか!? スパイクが凄かったんですか??」

「いや……、そんなんじゃないよ」

 

冴子は再びチュッパチャプスを口に含み……そして あの時の記憶を思い返す。

 

 

あの時も―――今の様に口に何かを含んでいた記憶がある。丁度【苺・オレ】を飲んでいた筈だ。

 

そして、冴子は練習試合を覗いていて……その試合が終わった後、小さな巨人とすれ違ったんだ。

 

 

「そん時は調子が悪かったのか、途中で交代させられててさ」

「!!」

 

 

思い返す。

すれ違った時の事を。

 

すれ違うだけでも結構色んな事が解る。顔立ちだったり雰囲気だったり体格だったり。

小さな(・・・)巨人、と言われるだけあって、体格(ガタイ)は決して良いとは言えなかった。

 

それでも、冴子の目には……巨人(・・)に見えた。

 

 

試合に負け、交代させられて……。

その原因が不甲斐ない自分。

 

その男は、外の掃除用具入れの前に立つと、自分自身を戒める為か 目を覚まさせる気だったのか、思いっきり頭を打ち付けていた。

 

喧嘩の類は幾度も目にしていた冴子。物に当たる程度で怖いと思ったり迫力がある、と思ったりはしない。

 

ただ――――その時の表情だ。

 

視線が、目つきが、身に纏う全てに畏怖させられた。

 

 

 

 

―――目が合った時 思わず、反射的に、本能的に身体が震えてしまう程に。

 

 

 

 

「あいつは所謂《エース》ってヤツだったんだろ? 自分がエースである事の絶対的なプライド、自信。そういうのが全身から立ち上ってるんだ。……そのプライドに傷が入る様な不甲斐ない事すりゃー、そりゃ 自分をはっ倒したくなる、ってもんだよな! 危うく惚れるトコだったわ!」

 

 

迫力があった、怖かった、と言う冴子だったが 思い出して笑っている所を見たら……それはそれは笑顔だった。良い思い出の1つになっているんだろう。

 

 

「そんで、目が覚めたのか、そっからは復活さ。それにエースが活躍すれば同時に周りの連中は 【エースにおんぶに抱っこ】状態になってたまるか、って奮い立つ。………それに 龍に聞いたよ。アンタたちも似た様なの(・・・・・)、経験したんだろ? まぁ、ちょっと逆かもしんないけどね。居なくなったから(・・・・・・・・)ダメに~ なんて言わせないって感じか。つーか……、わっはっはっは!! しゃべるタイプじゃねー、って言ったが、けっこーアタシ、しゃべらせてるわ!」

「!」

 

 

冴子が言う 似た様なの(・・・・・)

勿論、何の事を指したのか、日向にも解った。

 

その冴子が見た小さな巨人の時とは少し違う。

調子が悪かった訳ではない。本当に誰のせいでもない。

 

でも……抜けてしまった。

 

そして、託された。

結果は……伴わなかったが、気合がより入ったのははっきりと覚えている。

 

 

「それにさ。話きいて……小さな巨人(アイツ)以来かな、って思ったんだよ。ちょっと気になった、なんて。―――……エースじゃないらしいケド、その場に居なくても、味方に力を与える様な存在感を持つ様な子がいたってのを聞いてね」

 

名前は言ってない。

でも、誰の事かははっきりと解った様だ。

 

「姉さんは、【小さな巨人】に詳しいんスね? そんで火神がそいつに似てるって事なんスか?」

「!!」

 

そんな時、突然後ろから声がして、思わず運転中なのにもかかわらず振り返った。

そこにはずっと静かで寝ていると思っていた影山が起きていた。

 

「べつにっ! たまたま何回か試合見ただけだし! つーか、火神ってヤツと会った事無いんだから、似てるも何も解る筈ないだろ!? それに起きてたのかよ!」

「? ハラが減ったんで」

「本能の赴くままか!」

 

持参したおにぎりを頬張ってる影山。

 

影山はおにぎりをしっかり噛んで飲み込んだ後……、冴子の言葉を聞いて、小さな巨人の感性(冴子の感想)を聞いて黙り込んでいた日向を見た。

 

エースである事の絶対的なプライド、そして自信。

 

それは、あの牛島若利を見れば一目瞭然。

自信とプライドの塊であるのが嫌でもわかる。

 

日向にとって――――王者であり、倒すべき相手である牛島は、小さな巨人と同格だと思えた。

 

 

そんな日向を見て、影山は 視線を細く……所謂 ジト目にしつつ、痛烈な一言を放つ。

 

 

「火神と小さな巨人が似てる。……まぁ、最初から解りきった事だが、多少跳べてたとしても それだけな(・・・・・)日向(お前)とは大違いだな」

「!!!」

 

 

目指している目標。

常々口にしている小さな巨人と自分自身を重ねるのは構わないが、実力を伴ってから言えよ、と影山。

 

当然、痛い所を突かれた日向は憤慨。

冴子は大笑いしつつ―――。

 

 

 

「さぁ、目的地まで後少しだ! トばすよーーっ!」

 

 

 

車を急発進。

本当に車体が浮いた!? と思う程の急発進をさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、スミマセン! 冴子姉さん!」

「あん?」

「は、はい、オレ、その、あの……トイレ!!」

「はい!? このタイミングでかよ! なーんか、締まらないねぇ、まったく」

 

 

良い具合に締める事が出来た。後は目的地へと向けて一直線! と思ってた矢先にブレーキだ。

わはは、と冴子は笑いつつ―――――。

 

 

「あ、思い出した。翔陽、弟の股間にゲロ吐いたんだったな。いいぞ、ちゃんと出すもん出す前に、言った事は」

「う………は、はい……」

「よっしゃ、直ぐサービスエリアに寄るから、ここで漏らすなよ! これ、食堂の車なんだからさ」

「う、うっす……!」

 

 

更に加速して……直ぐにSAが見えてくる。タイミング的にはどうかと思ったが、位置的にはグッジョブなタイミングだった、と冴子は思い、急ハンドル。

 

 

幸いな事に車はそれなりには多いが、空いてる箇所を探すような手間は無く、直ぐに止まる事が出来た。

 

 

「トイレトイレトイレトイレトイレーーーー!!」

 

 

車が止まるや否や、日向はスポーツタオルを手に、一目散に車を飛び出した。

それを見た影山も慌てて後を追う。

 

「おいコラ、ボゲェ!! フライングすんな!!」

 

2人して、まるで競い合う様に走り去ってゆく。

期待の新人……と言うのが、その光景、走る光景だけを見れば………それなりに解るかもしれない。日向は、股間を両手で押さえながら走ってるので、絵面的には悪い。

 

でも、やっぱり走るのは早い。それなりに広いサービスエリア、広い駐車場なんだが、あっという間に見えなくなってしまった。

 

 

見ているだけで面白い2人だ、と冴子は笑う。

 

 

空を見上げれば青空が広がってる。雲一つない快晴の空。()向 翔()の名にピッタリな快晴の空だ。

あるのは背後に聳え立つ山が太陽の光を遮って作り出してる影のみ。そこ以外は全て日に照らされている。影山(・・) 飛雄とはよく言った物だ。

 

これに、火神 誠也と言う男が加わればどんなだっただろう? 火の神(・・・)だから、日も影も色々と面倒を見たりしそうだ、と冴子は笑う。

 

チュッパチャプスを、ぽんっ、と音を立てて口から出すと、呟いた。

 

 

「ははっ、こんな責任重大なドライブじゃなかったら、もうちっと楽しめたドライブだったかもね。――――つーか、目つき悪い方……飛雄も我慢してたんだねぇ……」

 

 

日向と違って殆ど話をしてないし、要求もしてない。でも、腹が減ったら飯を食う様に本能に従ってるのはよく解ったから、遠慮して言えなかった、って性格じゃないだろう。

 

ただ、日向が前を走ったから自分も……?

 

 

「ふはっ! ありえそうだ」

 

 

冴子はそう笑ってしめると、暫くこの雲一つない青空を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一方日向と影山はと言うと……。

 

「バウッバウッ!!」

 

「わーーーー、ヤメレーーー!!」

「おい、噛まれてないか??」

 

 

トイレの直ぐ前の支柱にリードを括られ、大人しくしていた大型犬が、日向を組み伏せていた。噛まれた? と一瞬見えた影山も、今回に限っては心配する顔を出していた。こんな時に怪我でもされたら、と。

 

その心配は皆無だったが。

 

何処かの家族と一緒に、家族としてドライブをして、このサービスエリアに立ち寄っていたであろう大型犬に、日向はベロベロと顔中を舐め回されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――場面は変わり 東京某所。

 

 

烏野vs梟谷

 

 

全国で戦うチーム梟谷高校。

昨年の成績は全国ベスト8。

牛島若利率いる白鳥沢と同格と言っても良いチーム。

 

 

そう――――。

 

 

 

「(森然、生川……梟谷……梟谷ッッ!! 梟谷ッッ!!)」

 

 

そんな全国屈指の強豪校とも言って良い相手に、はち切れんばかりの満面の笑みを浮かべながら、強打を繰り返す男が1人。

 

味方内には気付かないのだろうか、このあふれんばかり笑顔。

 

 

試合開始当初から薄々―――――そして、試合が進むにつれて確信するのは梟谷のメンバーである。

 

自分達と試合する前……烏野は、森然や生川と試合していた時にちらっ、と見た時薄々―――――。

 

 

 

そして、今確信した。

 

 

 

 

 

火神(コイツ)()絶対なんかおかしい!!? 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイヘイヘーーイ!! やるじゃねーか、誠也ぁぁぁ!!」

「アッス!! ボクトさん!! ありがとうございますっっ!!」

 

 

梟谷の皆にとって、おかしいヤツ筆頭がもう全国全部ひっくるめて、自分達のエース兼主将であろう。――――ぶっちぎりで。

 

火神誠也と言う男については、第一印象はとても礼儀正しくマジメそうなのは、他の面子とのやり取りを見てて、音駒とのやり取りも少しだが見ていても解るが、今は何かが(・・・)違った。

 

と言うより、初めて会って間もない筈なのに、もう梟谷(ウチ)のエースと親友か! と言いたくなる程のコミュニケーション取ってる所もある意味スゴイ。

梟谷のエースもその性格ゆえにか、知らない相手だろうが、誰だろうが 面白いと判断したら誰かれ構わずツッコんでいく所もある。

そんな男に、火神誠也は、一切退くことなく、寧ろ嬉々としてそれに全て反応・呼応しているのだ。

 

勿論、仲間そっちのけ、と言うワケではない。

 

合間合間に梟谷のエースが呼応、反応、共鳴?? してついつい声を掛けているのだ。

 

 

 

色々と癖があり、そして自由奔放な所がある梟谷のエース。

全国5本の指に入る大エース。

 

 

 

その名も、木兎(ぼくと) 光太郎(こうたろう)

 

 

 

知らない訳がない。

そして、テンションが上がらない訳がない。

 

 

 

 

「何か、おとーさんがこれまでにない位 はしゃいでる……」

「まるで、普段のストレスから解放されて、漸く子供に戻れたかの様……。自分の時間を思う存分楽しんでるおとーさん………」

「うはー、すげー、楽しそう……。やってる事はめっっっっっちゃ、しんどい筈なのに」

 

 

その火神の様子は当然ながら、烏野のベンチ側にも伝わっている。

本日、練習試合。

キーマンである2人 日向と影山が居ない事も有り、全員満遍なく試合に出場しているからより解る。

 

「あれ、今の動きヤバイ。……ぜーーーったい、オレ達の倍は疲れてる筈……」

「日向バリに動き回ってる場面(シーン)もちらほら……」

「影山や日向がスゲー楽しみにしてたの見てたから霞んでたのかな? ……火神もメッチャ楽しみにしてたんだろうなぁ」

 

 

大量に流れる汗を必死に拭っては声を出し続ける烏野2年、縁下、成田、木下の3名。

 

驚きつつはあるものの、それ以上に感じる所がある。

げんなり、としてる場面もあるにはあるが、それ以上に目の奥に光が見える様な気がするのだ。

自分が引っ張られている、プレイが向上していくのが解る。全国を戦う相手と戦えているのが解る。

火神に引っ張られてる、と言う感覚を本当の意味で感じ取る事が出来た練習だと言える。

 

 

「……負けない」

「「おう」」

 

 

幾ら凄い凄いと言っても火神は1年。

自分達は2年だ。……置いてきぼりに、周回遅れをされ続けるワケにはいかない。極々自然にレギュラー陣と比べたら小さな焔かもしれないが、確実に胸に灯っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は続く。

 

 

「スマン!! 火神フォロー頼む!!」

「オーライ!!」

 

 

木兎の強烈なサーブ。

だが、強烈なサーブなら自分達も経験している。確かに木兎のサーブは凄い。……ミスもちょこちょこ目立つが、入れば紛れもないこれまでの最強クラス。

 

だが、あの青葉城西の及川のサーブを思い返してみればどうだ?

 

どちらが上……と称する事はしたくはないし、出来ないが、それでも 怖気付いたりはしない。

 

結果――木兎のサーブはまだ、サービスエースを取っていない。

 

 

「乱れた!!」

「レフトだレフト! 打ってくるぞ!」

 

澤村が上げたが、乱れてセッターではない火神が2段トスを上げるのを見た梟谷のブロッカー陣は、即座にレフト側へ、烏野のエースである東峰の方へと重心を向ける。

 

現在の前衛も、尾長・木兎・木葉と堅牢なローテ。

全国を戦うチームの壁は、伊達工業の鉄壁にも何ら劣らないだろう。

 

だから、完璧なサーブ&ブロックで仕留められる可能性は極めて高い……と言わざるを得ないのは外側の意見。

 

 

「(上げるのはレフト(エース)に、とは限らない―――)田中さん!!」

「「「!!」」」

 

 

S(セッター)ではなく、WS(ウイングスパイカー)のポジションである筈の火神が、セッターと見紛う程の精度で上げるセットアップ。

バックオーバーを選択した上に、相手ブロッカーを騙す限界ギリギリまで溜めたトスだ。セットに入る寸前、田中とすれ違ったのが一番の僥倖。

 

ボールを見る前に、田中の目をじっっ、と見た。時間にすれば一瞬の出来事だったかもしれないが、こういう時(・・・・・)意味の無い事をする火神ではないと言う事をこの場の誰もが知っている。

 

 

だからこそ、田中は準備していたのだ。

絶対に自分が打つ―――、自分の所へと来る、と意識して。

 

 

「ソォォォォイィィィィ!!!」

 

 

ブロッカーの時間を奪う事に成功した火神。

上げたボールは美しい孤を描きながら、アンテナギリギリ。そして高過ぎず低過ぎず。2段トスである事を考慮すると……、否 普通のセット、オープン攻撃だったとしても、十分すぎる程優秀。

 

 

「(ったく、完璧最高だ。セッターなのに、立つ瀬ねーって思っちまうじゃんかよ~! おとーさん!)」

 

 

あの一瞬で、菅原がそう思ってしまったのも無理はない。

影山の様な派手さはないが、この軌道に関しては 正確無比、と言うならば負けてはいないだろう。

 

そして、それだけではなく、膨大な練習の成果が表れている、常日頃からボールに触れている、練習は嘘をつかない、と言うのが解るそんなセット。

 

 

「くっそ!! ライトだライトーー!!」

 

木兎が反応して、追いかけるが…… クロス側は兎も角、ストレート側にはどうしても届かない。ストレート側に限っては 殆どノーブロック状態だ。

 

 

「ハイヤァァァァァァァ!!!」

 

 

田中のパワーに合わさって、打ち抜かれたストレート側のスパイクは、相手レシーバーにボールを触れさせる事なく、コートに叩きつけられた。

 

 

 

「「あ゛――い゛っっ!!」」

 

 

 

田中と火神は、胸を張って互いに当てる。ハイタッチならぬムネタッチ。(決して変な意味ではないのであしからず)

 

 

「ナイスキー! 田中!」

「ナイストス! 火神!!」

 

 

18-15。

 

点差こそまだ3点あるが、徐々に狭まってきている。

 

 

「った~く、なんつーヤツだよぉ、騙されちゃったよ赤葦ぃっ!!」

「俺に言わないでください。(……でも、木兎さんが言いたい事も解る。……今のセット。生粋のセッターに見えた)」

 

 

うがーー、と頭を掻きむしる木兎。

徐々に迫ってきてるカラスの脅威を本能的に察しているようだ。

 

 

「う~~む……。調子は決して悪く無さそうだが、絶好調? とまでは言えんな。それに烏野のブレイクも続き、スパイクもサーブも気持ちよく決まってる、とは言えない。……いつもなら、この辺でしょぼくれてもおかしくない展開なんだが、コレ、最後まで行きそうだ」

「あ~~、これ多分、相手(・・)が良かったんでしょうね~~」

しょぼくれモード(・・・・・・・・)に入るの勿体ない、って木兎が思っちゃってるかもしれないね」

 

 

監督の夜中。

2人のマネージャー白福と雀田は、珍しい(・・・)とさえ思える木兎の状態に目を丸くさせる。

 

当人たち曰く、しょぼくれ(とある現象)を起こした状態の木兎。

それは、全国5本指、と言う評価以上の潜在能力を持っている筈なのに、その上の3大エースに届かない理由とも言える状態。

 

初日である事等を考えれば、いきなり入る事自体がおかしいかもしれないが、それ以上に好敵手でも見つけた、と奮起している彼を見て思わずニヤけてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、先生。今日も驚きの連続だな、こりゃ」

 

烏養は半ば呆れるかの様に深くため息を吐いた。

交代を数度繰り返し、ローテをしてきているが、今は烏野が出せるベストメンバーを選出している……が、あの問題児である2人を省いたとなると、どうしても心許なく感じてしまう。

 

青葉城西戦で、最後の最後で止められたとはいえ、それ程までに、変人速攻とは相手にとっては厄介、味方にとっては強大な武器なのだ。

 

それを有していないと言うのに、全国相手に十分渡り合えている。

 

 

「……ええ。正直僕も日向くんや影山くんが抜けた穴はとても大きく、痛いモノだと思ってました。他の頑張ってきた皆さんを信じていない訳ではないですが、烏野の大きな大きな武器、何よりも速く、高い武器を取り上げられた状態ではやっぱりキツイ、と思ってました。……でも、戦えてると思います。生川に勝利し、森然に辛勝しました……!! そして今!!」

 

 

武田は目を見開いて、相手を見た。

名前は、知っている何度も何度も調べて、音駒の猫又先生からお誘いを受けた時にもまた、何度も何度も調べた。

 

大きく飛び立とうとしている選手達の為に、最高の環境を作ろうと努力し続けたつもりだったから、その現実を何度も何度も確認する様に見ていた。

 

 

「―――全国を戦う、大エース擁するチーム、梟谷学園相手に 一歩も引かず、渡り合ってると思います!」

 

 

武田は心躍らせた。

まだ、勝てる――――とまでは言えない。終始リードされている状態だから。

セットを取って初めて、その言葉を発する事が許される、と思っているからだ。

 

中の選手達も、外で見ている選手達も、それは思ってる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――本日、一番驚きの場面を目にする事になる。

 

 

「赤葦こーーーい!! よこせーーーッ!!」

「木兎さん!」

 

 

梟谷のメンバーは誰一人として油断して良い相手はいない。

強豪高は、攻撃陣の全てが優秀な囮も同然だ。

 

だから、誰1人としてフリーにはしてはいけない。

そんな僅かな隙でも、梟谷の頭脳、赤葦は見逃してはくれない。

影山の様な超絶スキルは持ち合わせていなくとも、癖の強い木兎と言う男を操っているだけでも、十分過ぎる程優秀。全国を戦うセッターだ。

 

だから、木兎が大きな声で呼んだとしても、馬鹿正直に木兎だけをマークするワケにはいかない。

その結果………、木葉や猿杙に打ち抜かれてしまった事だって多々ある。優秀な選手は存在そのものが囮―――とはよく言ったものだ。

 

 

だから、必要最低限の情報のみを読取って動くしかない。

そして、誰を選んでも高い事は高いが、その中で赤葦が裏の裏を読み、木兎を選らんだとしたなら、勝ち確の可能性が極めて高いシチュエーションでもある。

 

 

「木兎さん!」

 

 

そして、赤葦が選んだのは木兎だった。

リードブロックを徹底している烏野を見て、誰に上げてもついてくると判断。

 

故に、珍しく調子を上げている木兎に託したのだ。

 

 

 

「しゃああ!!」

 

 

 

決め台詞でもあるヘイヘイヘーイ! を言う準備でもしているのか、満面の笑みで飛び上がる木兎。

 

笑みを見せるのには理由は勿論あった。

何故なら――――マッチアップしているのが火神だったから。

 

 

 

「(木兎さんは、直感……読み合いよりも本能に従う面が多い。……実際に接して、相対してみて、よく解る)」

 

 

ぎらっ、と目を光らせるのは火神。

本日は、ボールには触れているがまだブロックポイント無し。烏野では月島・東峰のみだ。

 

 

でも、このシチュエーションを待っていた。

 

 

焦りや苛立ち、そんな選手の隙をついた綻びではない。

 

綺麗に赤葦にまでボールが返り、エースに託される絶好のトスを打つ木兎。

 

この場面を。

 

火神は、目を見開きながら跳躍した。

 

 

 

 

 

ドッッ! ドンッッッ!!

 

 

 

 

本日一番の轟音が体育館に響き渡る。

他のチームの面々も、反射的に烏野と梟谷の方を見ていた。

 

 

本能には本能……直感に身を委ねる。

本日初めて解禁。

 

 

 

 

―――ゲス(・・)・ブロック

 

 

 

 

 

それは、木兎のスパイクを完全にシャットアウト。

スパイクの威力をそのまま相手に跳ね返し、ブロックフォローの一切を許さない。

 

 

 

「どっっっっっっ………………」

 

 

 

ガタッ!! と烏養は立ち上がった。

 

両拳を思いっきり握り締め、振りかぶり―――――そして、立ち上がると同時に吠える。

 

 

 

 

「シャッッットォォォォォ!!!」

【うおおおおおっっ!!!】

 

 

 

 

まるで練習試合とは思えない盛り上がりを、今日一番の盛り上がりを魅せるのだった。

 

 

 

 

 

 


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