ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役01

平野浩二(ひらのこうじ)は転生者だ。

一度目の人生で命を落として二度目の人生を謳歌する彼は神様から貰った特典でチートし放題、やり放題、当然女子からもモテモテ。

……………なんてことは幻想の中だけで終わりを迎えたのであった。

何故なら浩二は神様に会ったわけでもチート能力も特典も何も貰っていない。気がついたら二度目の人生を送っていたのだから。

それでも転生者だから何かに特化したもの、才能ぐらいはあるかもと思い、幼馴染である八重樫雫の実家である剣術道場に入るも、後から入ってきた天之河光輝に当然の如く敗北し、雫には一本も取ることさえできず、ならばスポーツならと思い色々のスポーツに手を出すも興味本位で手を出した光輝に敗北し、更には坂上龍太郎にも敗北を叩きつけられた。

なら勉強だ。と勉学に励む。

八重樫雫の実家が剣術道場なら浩二の実家は両親が経営している小さな病院の一人息子。だから頭がいいというわけではないが、前世の知識がある分他の人達よりかは断然有利。

だが敗北。

惜しくも僅かな点差で敗北を叩きつけられて浩二は「ちくしょう……」と双眸から透明な液体が零れ落ちたことは誰も知らない。

成長するにつれてイケメン、美少女、筋肉バカになっていく幼馴染達に嫉妬を通り越して諦観の念を抱き始めた浩二は自分が脇役だと自覚した。

自分には才能がない。何かに特化したものもなければ優れていることもない。

精々同年代に比べて医学に長けていることぐらいが唯一の取り柄だ。

主人公を陰でフォローしたり、支えたり、主人公を活躍の場に立たせたりとそういう役割を持って転生したのだと思った。

それならそれで余計な恨みつらみを買わない様に己の分を弁えて生活しようと浩二は心に決めた。

「あ、浩二くん。おはよう」

「おー、おはよう」

登校時間、浩二は幼馴染である白崎香織と遭遇していつも通りに挨拶を返す。

「浩二。おはよう」

「おはよう。雫」

そしてもう一人の幼馴染である雫にも挨拶を返したら。

「おはよう。香織、雫、浩二」

「おはよっさん」

続けて光輝に竜太郎も姿を現す。

こうして主人公とも言える幼馴染達を持つ浩二は肩身が狭い思いをしながら共に学校に登校するのであったが……。

「これが日常系だったらよかったんだけどな……」

浩二は知っている。これから自分達に何が起きるのかを。

 

 

 

 

‶ありふれた職業で世界最強〟

それは浩二が転生する前、読みふけっていたライトノベル。

主人公である南雲ハジメ。そしてクラスメイト(+畑山愛子)は異世界‶トータス〟へ転移してしまう。

そこで魔人族との戦争に巻き込まれてしまい、戦闘訓練をする最中、非戦闘職‶錬成師〟である南雲ハジメが奈落に落ちて変貌を遂げ、吸血姫ユエと出会う。

それから色々な出会いと戦闘があり、最終的にはエヒトを倒して無事に元の世界に帰還する。そういう物語だ。

天之河光輝達と出会い、ここがその‶ありふれた職業で世界最強〟の世界に転生してしまったことを理解した浩二は当然取れる手段は取っている。

自分には才能がない。素質もない。

神様にも出会っていないし、チートもない。そんな脇役が危険だらけの異世界に赴けば待っているのはデッドエンド一択。

流石に二度も死にたくはない浩二は才能がない分、努力で埋めてきた。

毎朝早く起きてトレーニング。ジョギングと筋トレを行い、負けながらも雫の道場に通って剣の腕を少しでも磨き、両親の医学書を読みふけったり、サバイバル術を向上する為に時折山に籠ったりと取れる手段は取って来た。

死なない為に。そしてもう一つ。

「浩二。お昼にしましょう」

「ああ」

八重樫雫を護る為に。

お前は何を言っているんだ? と思えるぐらいに烏滸がましく分不相応な想いである。

そもそも浩二はこれまで雫に勝ったことがない。それどころか光輝にも勝った覚えがない。実力が確実に雫の方が上だと浩二はその身で知っている。

こうして昼食に誘われるのも全ては‶幼馴染〟としてだ。幼馴染でなければ浩二は雫と一緒に食事を取ることなど皆無に等しい。

だがそれでも浩二は雫を護りたい。男として惚れた女を護りたい。

(けど、雫は最後には南雲と……………)

物語の最後では八重樫雫は南雲ハジメに好意を寄せるようになり、ハジメハーレムの一員になる。

だから男として惚れた女を護りたいと思うのも密かに雫に好意を寄せていることも何もかもが分不相応。脇役とヒロインが結ばれるなんてことは決してありえない。

例えそれが本来存在しない転生者である浩二がいたとしても物語では脇役が一人追加された程度だ。何の支障もない。

「浩二。どうかしたの?」

「え? なにが?」

「箸が進んでないから………もしかして体調でも悪いの? それなら保健室まで一緒に行くわよ?」

「あー、いや、大丈夫だ。昨日、香織から色々とな…………」

「ああ、ご苦労様」

それだけで全てを察した雫は現在進行形でハジメに突撃している親友に視線を送る。

原作通り、白崎香織は南雲ハジメが好きだ。

だから相談相手にされている浩二と雫は時折香織から相談を受けている。深夜遅くまで。

頼むからもう寝かせてくれ、という懇願は香織の気持ちが落ち着くまで聞き届いてはくれない。

安眠の為に香織とハジメをさっさとくっつけようと割と本気でそう考えた。

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

「ブフッ」

親友の素の一言に雫は思わず吹き出す。

すると、光輝の足元に白銀に光り輝く円環の幾何学模様が現れた。

俗に言う魔法陣。それが一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大し、輝きを増し続ける。

(いよいよか……………)

それが何なのか、これから先どうなるのか、既に知識として知っている浩二は鞄に手を伸ばす。

そうして異世界‶トータス〟へと転移するのであった。


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