ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役10

迷宮攻略で疲弊した身体を癒す光輝達は【オルクス大迷宮】から一時王宮に帰還した三日後に帝国の使者が訪れた。

現在、謁見の間にて、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っている。光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人も揃っている。

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ。まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となり、陛下に促されて光輝は前に出る。

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五階層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化け物が出ると記憶しておりますが……………」

疑わしい眼差しを向けられ、更には護衛の一人に値踏みするように上から下までジロジロと眺められている光輝は居心地悪そうに身じろぎしながら、答える。

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六階層のマップを見せるとかどうでしょう?」

色々と提案をする光輝だが、使者は首を横に振り、不敵な笑みを浮かべる。

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

その言葉に急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定し、一行はぞろぞろと場所を変えるのだった。

場所を変えて、光輝は聖剣を手に、護衛の一人と模擬戦を行う前、浩二が声をかけた。

「光輝。初めから本気で行け」

「どうしてだ?」

「平凡そうに見えるもあれは姿を偽っている。外見と肉体構造がまるで違う。かなりの強者だと思って当たった方がいい」

(まぁ、皇帝陛下だからな………………)

完全実力主義の頂点に立つ皇帝陛下。当然、その実力も帝国最強と言っても過言ではない。それを原作知識で知っている浩二は皇帝陛下とは告げずに光輝に注意を促す。

「わかった。最初っから本気で行く」

浩二の忠告に頷く光輝の表情から油断と慢心が消えた。

だがしかし、相手はそれ以上の実力だった。

(流石はガハルド皇帝陛下ってところか………………)

あまりにも自然すぎたその動き、重く、鋭い一振りは鍛錬だけではない数え切れないほどの実戦を乗り越えた者にしか身に付けることが出来ない強者の動き。

光輝は魔法も限界突破も使ってはいない。純粋な剣のみで相手にしているからこれが実戦であればまだ変わっていたかもしれないが………………。

(むしろ、これが模擬戦でよかった……………)

これが実戦であれば光輝は既に死んでいる。それだけ実力差があるんだ。

なにより。

(何より光輝には相手、人を殺す覚悟がない)

これが日本での試合などなら光輝は問題ないが、実戦と試合は違う。

皇帝陛下であるガハルドもそれに気付いて光輝に問いかけている。それに対して光輝は己の思ったことを口にするも返ってくるのは酷評だった。

「傷つけることも、傷つけられることも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴が、ご大層なこと言ってんじゃねぇよ。‶本気〟なんて言葉はな、もうちょっと現実ってもんを見てから言え」

そう告げて一方的に模擬戦の終了を宣言する。

一方的な終わり宣言に周囲がざわめき始める。そこでイシュタルが護衛の正体を看破して護衛は本来の姿に戻る。

四十代位の野性味溢れる男。短く刈り上げられた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼。スマートでありながらその身体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

そう、使者の護衛としてやってきたその男こそがヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。

なんでも皇帝陛下はフットワークが物凄く軽く、このようなサプライズは日常茶飯事だそうだ。

そんな皇帝陛下は勇者である光輝を一瞥し、浩二にその鋭い碧眼を向ける。

「おい、そこの。勇者様に助言したお前さんだ」

「おい、龍太郎。呼ばれているぞ?」

「いや、どう見てもお前だろう……………」

さり気なく幼馴染に擦り付ける浩二に龍太郎は呆れ気味に言う。

「え~と、なんでございましょうか? 皇帝陛下」

「なに、たいしたことじゃねえよ。お前さん、どうして俺の正体に気づいた? 勇者様や他の使徒様と違ってお前さんだけ違う目で俺を見ていたことぐらい気付いてんだぞ?」

(よく見てやがる………………)

流石は皇帝陛下とも言うべきか。視野が広い。

「……………別に皇帝陛下の正体に気づいたわけではありませんよ? ただ外見と肉体構造に違いがありましたので何かしらの手段で姿を変えていることには気づきましたけど」

それを聞いたガハルド皇帝陛下は可笑しそうに笑う。

「くくく、普通はそんなもんわからねえよ。そうか、お前さんが最近耳にする‶医療師〟か…………。俺の国でもお前さんの薬は使っているぜ。ありゃいいもんだ」

「それはどうも」

「んで、お前さん。俺の国に来る気はねえか?」

まるでちょっとコンビニに行ってくるかのような気軽さで勧誘された。

(この場所でよくも堂々と勧誘できるもんだな……………)

すぐそこにイシュタルとエリヒド陛下がいるにも関わらず、臆することもなく堂々と神の使徒である浩二を勧誘してきた。

「俺の国の治療院で働く気はねえか? 働き次第によって優遇するぞ?」

「帝国に行く理由がないのでお断りさせて頂きます」

丁重にその勧誘を断る浩二だが。

「んじゃ、そこの勇者の続きの相手をお前さんにして貰うか」

「はい?」

何が、んじゃ、だろうか?

いったい何をどう結び付けたらそうなるのか。浩二を含めた誰もが啞然とするなかでガハルド皇帝陛下はエリヒド陛下に申し出る。

「陛下。先の勇者の続きの相手をこの者にして頂きたい。なに、勝ったら帝国に連れて行くなんてことはしません。ただこちらも中途半端な形で終わるのが不本意なだけです」

当然、それにエリヒド陛下はいい顔をしない。

神の使徒のなかで一番の実力者は‶勇者〟である光輝だ。それに浩二は後衛であって戦闘が本分ではない。

どちらが戦えば勝つのは明白だ。

「ガハルド皇帝陛下。失礼ながら俺は勇者である光輝よりも弱いですよ? どうしても戦いたいのであればこちらの天職‶拳士〟である龍太郎はどうでしょうか?」

前衛である龍太郎にガハルド皇帝陛下の模擬戦相手をさせようとする浩二だが、ガハルド皇帝陛下は首を横に振った。

「強いか弱いかじゃねえよ。俺がお前さんに興味があるだけだ。どうだ?」

「どうだと言われましても……………………」

乗り気ではない。それが誰が見ても明らかだ。そんな浩二にガハルド皇帝陛下は雫を一瞥して笑みを見せる。

「そこの髪を結って剣を持っている女。いい女だな。よし、お前さんに勝ったら俺の愛人になるか誘ってみるとしよう」

「あぁ?」

その一言に浩二の怒りのボルテージがMAXになった。

そんなガハルド皇帝陛下の言葉が聞こえた雫は苦労人特有の深い溜息を吐いて、空気を読まない勇者は「雫を愛人にだと!? ふざけるな!」と憤る。

――――だが。

浩二は明かな作り笑みで言葉を発する。

「ガハルド皇帝陛下。あまり冗談が過ぎると解体(バラ)しますよ?」

実験動物(モルモット)を見るかのような無感情な瞳でマッドサイエンティストの笑みを浮かべる浩二にガハルド皇帝陛下は剛毅な笑みを見せる。

「くくく、いいぜ。俺を倒すことができたら煮るなり焼くなり好きにしな」

「医者を怒らせるとどうなるか、その身で教えてあげますよ」

こうして皇帝対医療師の模擬戦が始まった。

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