ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役12

「おはようございます。浩二様」

目を覚ますと視界一杯に銀色が見える。

窓から差し込む太陽によってその銀色は反射してキラキラと輝きを放ち、それが眩しくも浩二は今にもキスしてきそうなほどの至近距離で起こしてくる専属使用人に声をかける。

「……………………毎回この起こし方やめてください。寝覚めに悪いですよ、ティニアさん」

太陽の光に反射して輝く銀色の髪に同じく銀色の瞳を持つメイド――ティニア・セルヴィス。

王女殿下であるリリアーナの近衛兵で現在は浩二の使用人を務めているティニアは誰が見ても美女と呼ぶに相応しい。

そんな美女に毎朝キスをしてしまいそうになるほどにの至近距離で起こされては心臓に悪い浩二だが、ティニアは態度を変えずに言う。

「申し訳ございません。浩二様の寝顔があまりにも可愛らしくてつい見惚れておりました」

「はいはい……………」

そんな冗談を真に受けることなく適当に流す。

イケメンである光輝ならともかく浩二は己の顔が普通だということは重々承知している為に可愛いわけがないのはとっくに知っている。

いったいなぜ、そんな起こし方をするのかは不明だが、浩二はもうすっかり慣れてベッドから起き上がる。

「お着替えのお手伝いは?」

「いりません」

着替えを手伝おうとするティニアの申し出を断りながら思う。

(それにしてもこの人、原作でも出てこなかったな……………)

転生前に読んだ原作をいくら思い出してもティニア・セルヴィスという名前が思い出せない。というよりもいたかどうかさえ不明だ。

(ということはその他大勢扱いされている人ってことか……………)

物語に姿を見せない脇役。つまりはそういうことだ。

(まぁ、特に気にすることもないか……………)

毎朝変な起こし方をしてくること以外はよくできた人である専属使用人に意識を向けることなく欠伸交じりに着替えると浩二は思い出したかのようにティニアに言う。

「あ、そうそう。王女様に頼まれた新薬とその調合方法。机の上に置いてありますからいつも通り王女様に渡しておいてください」

浩二が指す机の上には薬剤とその調合方法が記された紙がある。それを手にしたティニアが。

「もう開発されたのですか? まだ三日も経ってないでしょうに」

「王女様の無茶ぶりにはもう慣れましたよ………」

苦労人特有の溜息を溢す浩二にティニアは思わず尋ねる。

「浩二様。どうして貴方様はそこまでなされるのですか? 神の使徒とはいえ、貴方様がそこまでする義理はないでしょうに」

突然トータスに召喚されて日常を奪われて、人間族の勝手な事情で戦争に巻き込んでいる。怒りを向けられても、理不尽だと罵られてもおかしくはない。浩二達にとってこの世界は自分達とはまるで関わり合いもない世界の筈だ。助ける義理も、救う義務もどこにもない。それなのに浩二は戦争に参加すること以外でも身を粉にしてまでこの世界の人々を救おうとしている。

そんな義理も義務もないのに疑問を浩二は答えた。

「それは俺が医者だからですかね……………まぁ、学生だから医師免許は持ってませんから正確には違いますけど、それでも俺に誰かを救える力があるのなら俺はそれを使うだけです。例え世界は違えど、病気に苦しむ人がいるのなら見捨てることなんてできない。まぁ、自己満足の為ですよ」

苦笑交じりでそう答える。

ティニアもそれ以上は追言することなく新しい薬と調合レシピを持ってそれをリリアーナに渡しに行くと浩二も朝食をとる為に部屋を出る。

「と、その前に……………」

朝食をとる前に行かなければいけないところがある。

浩二は訓練場に足を運ぶと予想通りと言えばいいのか、いつもの幼馴染達が朝練をしていた。

「おーい、そろそろ飯の時間だぞ」

浩二の声に気づいた光輝達は「そろそろか……………」と浩二の登場に朝食の時間が来たことに気づいて朝練を終わらせる。

「毎朝、精が出るな」

「ええ。まぁ、私の場合は日課だけどね」

「んで光輝と龍太郎はまた模擬戦か? いい加減毎朝、魔法をかけるのも面倒になってきたぞ? ‶回天〟」

「俺はもっと強くならないといけないからな」

「おう、悪いな」

「それでそこで倒れている香織はまた魔力切れか? ‶譲天〟」

「ええ、起きたらまず説教ね」

また無茶な訓練をした香織に呆れながら回復魔法を施す浩二に雫は後に説教することを決めて気絶している香織を背負うとそのまま食堂に向かう。

「確か今日からまた迷宮攻略だったな」

「ああ、今回の攻略で七十階層を目指す」

「おうよ、やってやるぜ」

「やる気を出すのはいいことだが、無茶はするなよ? 毎度毎度お前等の尻拭いをする俺と雫の苦労も少しはわかれ」

「そうね。次はもう放置にしましょうか?」

苦労人二人の言葉にバツ悪そうにする馬鹿と脳筋。ついでに突撃娘も含めて苦労が絶えない二人は揃って肩を竦める。

 

 

 

「俺を後衛から中衛にですか?」

【オルクス大迷宮】攻略を目指して移動する際、馬車に乗ろうとした時、浩二はメルド団長に呼び止められて現在のポジションを後衛から中衛に変えないか? と提案された。

「浩二、お前は剣も扱えるだろ? それに雫から聞いた話だと体術も使えるそうじゃないか。投擲の技能もあるし、魔法の腕もある。あの無詠唱のような魔法の技術は俺も教わりたいぐらいだぞ?」

(そりゃ無詠唱ですから……………)

‶魔力操作〟の技能を持っているから無詠唱で魔法を扱うことが出来るが、それを知らないメルド団長がそう言うのも無理はない。

「これから先の迷宮攻略はより過酷になることは間違いない。だからお前を後方支援のままにしておくのも惜しいと思ってな。前衛をサポートしつつ後衛の役割も担うことにから大変だとは思うが、引き受けては貰えないか?」

(まぁ、メルド団長の言い分は尤もだ……………)

これから先の迷宮攻略はより激しさを増すだろう。だから浩二を後方支援のままに置いておくのは勿体ないと思うのは当然のことだ。

「わかりました。できるかどうかは実際に試さないとわかりませんが、引き受けます」

(後衛には香織もいるし、回復は香織に任せて俺は雫達のサポートに集中するとしよう)

「すまんな……………お前も忙しいのに余計な負担をかけてしまって」

「いいですよ、雫諸共こういうことには慣れておりますから」

馬鹿(こうき)脳筋(りゅうたろう)突撃娘(かおり)。その三人に散々苦労を掛けられている為にすっかり苦労に慣れてしまった浩二はそんな自分に呆れるように息を吐いた。

そして今度こそ馬車に乗ろうとした時。

「浩二様」

「ティニアさん…………?」

不意に現れたティニアに驚きながらも馬車に乗るのをやめてティニアと向かい合うと浩二はティニアからバスケットを手渡された。

「道中でどうぞお召し上がりください」

「え? あ、ありがとう……………」

「いえ、それではご武運を」

一礼して去っていくティニアに首を傾げながらバスケットを持ったまま馬車に入るとそこにはニヤニヤと笑みを浮かべている鈴が早速といわんばかりに浩二をからかう。

「このこのっ! 浩二くんの色男め! いつの間にあんな美人メイドさんを口説いたのさぁ! そのテクを鈴にも教えてよぉ!」

「別に口説いてねえよ……………」

(どうせ王女様に気にかけてやってくれとか言われてんだろうしな……………)

絡んでくる鈴を適当にあしらいながら浩二はそう推測する。

あれだけ綺麗な人が光輝ではなく自分にこのようなことをするとは思えない。それにティニアは元はリリアーナの近衛兵。浩二の使用人になる前にリリアーナがきっとこう言ったのだろう。‶浩二さんには苦労を掛けていますから出来る限り気に掛けてあげてください〟と。そうでなければこんなことはありえない。

そう結論を出す浩二はチラリと雫を見るも特に不機嫌にはなっていなかった。それどころかむしろ微笑ましい顔で浩二を見ていて香織は何故か怒っている。

(浩二のことを理解してくれる人がやっと現れたのね…………)

(浩二くん! 雫ちゃんという人がいながら!)

幼馴染にやっと訪れた春に思わずほろりとしてしまう雫に二股疑惑の眼差しを向ける香織。浩二は雫に男として見てくれていないことに肩を落としながら席に座る。

(雫にとって俺はまだ‶幼馴染〟か…………)

前途多難の己の初恋に深い溜息を溢す。

「あ、これ凄く美味しい!」

「鈴! それ浩二くんに渡されたものなんだから勝手に食べちゃダメだよ!」

バスケットの蓋を開けて中に入っているサンドイッチを食す鈴に恵理は怒る。

とりあえず浩二は人の物を勝手に食べた鈴に‶くしゃみが止まらない闇属性魔法(のろい)〟を罰としてかけた。

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