【オルクス大迷宮】六十七階層。
勇者一行は迷宮攻略を目指して階層を攻略していく。
マッピングされていない階層の地道や探索や罠への警戒。階層ごとに強くなっていく魔物の強さに疲弊しながらもそれでも順調に階層を攻略しつつある。
「ハッ!」
迫りくる魔物を聖剣で一刀両断する光輝。
「セリャ!」
更にはその光輝を死角から襲おうとする魔物を龍太郎がその拳を叩きつける。
「助かった! 龍太郎!」
「へっ、どうってことねえさ! こんなの!」
互いに背を預けて死角を減らして襲いかかってくる魔物を迎撃していく光輝のすぐ近くでは得意の剣術と持ち前の素早さで魔物を切り捨てていく勇者パーティーのエース、雫は二人を叱咤する。
「光輝も龍太郎も前に出過ぎよ! もっと後ろにも気を遣いなさい!」
叱咤を飛ばす雫にも魔物の脅威は襲ってくる。だが、その魔物の目に正確無比で放たれる投擲ナイフが突き刺さり、薬液が体内に注入されて絶命する。
「八重樫流投擲術‶穿礫〟。なんつって」
後方支援から新しく中衛を担うことになった浩二は得意の薬液入りの投擲ナイフで魔物を倒しながら
「‶邪纏〟」
闇属性魔法で光輝を手助けしている。
「何か来るぞ!!」
‶気配感知〟に何か捉えた光輝は全員に警戒を促す。
すると階層の奥から額に角が生えた大蛇のような魔物が姿を現す。
「万翔羽ばたき天へと至れ、‶天翔閃〟!」
大蛇が現れて光輝は先手必勝のように光の斬撃を放つ。だが、大蛇はその巨体とは似合わない俊敏な動きで光輝の攻撃を躱した。
「なっ!?」
自分の攻撃が躱されたことに驚く光輝に大蛇は目を光らせて大口を開けて光輝に襲いかかる。
「‶封禁〟!」
だがしかし、光輝のピンチに香織が無詠唱で光属性中級捕縛魔法‶封禁〟を行使する。本来‶封禁〟は対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法だが、香織はその魔法を光輝にかけることで大蛇の攻撃を弾いた。
「すまない! 香織!」
香織に助けられた光輝は再び聖剣を振るう。だが今度は龍太郎、雫の三人がかりで三方向からの連携攻撃を行うが、躱されてしまう。
「チッ! ちょろまかと動きやがって!」
「文句を言っている暇があるのなら攻撃しなさい!」
攻撃が通らないことに悪態を吐く龍太郎に雫が攻撃の手を緩めずに叫ぶ。
「‶縛光刃〟!」
「‶縛煌鎖〟!」
動きの素早い大蛇の動きを封じようと浩二と香織は光属性捕縛魔法である‶縛光刃〟と‶縛煌鎖〟を行使し、大蛇の上空から光の十字架と地面から光の鎖が飛び出してくる。
上下からの捕縛魔法。これには流石の素早い大蛇でも躱し切れず、身体の動きを封じられてしまう。
「よし! トドメだ!」
動きが封じられた大蛇に光輝は聖剣を振り上げるが、大蛇は口腔を開いて毒液を噴出させる。
「うあ!?」
「光輝!?」
その毒液を直撃してしまった光輝に雫は悲痛の叫びを上げるも先に大蛇を倒すことを優先する。瞬時に思考を切り換えて雫は大蛇の首を斬り落とす。
「浩二! 香織! 早く回復を!」
「任せろ!」
「うん!」
毒液をモロに浴びてしまった光輝の肌には紫色の斑点が出ていて、光輝は苦痛の表情を浮かべて尋常じゃない量の汗を流す。
すぐさま回復魔法を施す浩二と香織。二人の魔法の腕に光輝はすぐに毒状態から脱することができた。
「ありがとう。香織、浩二。おかげで助かった」
「ううん、気にしないで」
「むしろお前はこれからのことに覚悟を決めた方がいいぞ?」
二人のおかげで命拾いした光輝は感謝の言葉を送るも、浩二のその言葉に怪訝し、浩二の指す方向を見てみるとそこには見るからに怒っている雫が仁王立ちしていた。
「光輝。ちょっとそこに正座しなさい」
「はい…………」
幼馴染である雫に説教を受ける勇者。
ガミガミと説教する雫に言い訳も許さずに説教を受ける光輝に浩二達は苦笑いを浮かべながら他のメンバーに周囲の警戒と魔石の回収を行わせる。
誰一人、光輝を助けようとする者はいない。雫の説教に巻き込まれたくないからだ。
「お前達、無事か?」
「メルド団長。はい、光輝以外は」
少し離れた位置にいたメルド団長が浩二達に近づいて無事を確かめる。とりあえず怪我人はいないことに一息つく。
「光輝は…………まぁ、仕方あるまい。最後のアレは油断していた光輝が悪いからな。最後まで油断するものじゃない」
説教を受けている光輝を見て浩二達同様に苦笑いしながら仕方がないと納得する。
「ところで浩二。どうだった? これからも中衛としてやっていけそうか?」
「今のところ問題はありません」
「そうか。何かあればいつでも言えよ?」
「はい」
メルド団長の気遣いに感謝しながら浩二は香織と共に他の負傷者の手当てに入る。
「香織。俺は檜山達と騎士団の人達を治すから永山達の方を頼む。辻さん一人じゃ負担も大きいしな」
「うん、わかった」
その巨体を以て仲間の盾となることが常である永山の怪我はいつも多くて香織と同じ‶治癒師〟である辻綾子だけでは負担も大きい。故に浩二はそちらに香織を向かわせて小悪党達と騎士団に魔法薬を渡していく。
「よし、今日はここで撤退とする! 全員、地上を目指すぞ!」
ある程度の休息を取った後でメルド団長の撤退宣言に誰もが頷いて地上を目指す。
【オルクス大迷宮】を出て近郊にある【宿場町ホルアド】で一時の休息を取ることにした。六十七階層を突破し、次の六十八階層を目指して休息と準備に勤しむ勇者一行。浩二はその休息の合間に薬を調合していた。
いざという時も備えて消費した分はしっかり補充しておく浩二に雫が歩み寄ってくる。
「消費した魔法薬の分を調合しているの?」
「ああ、こういうのはこまめにやっておかないとな」
流石、と思いながら雫は浩二の邪魔にならないように横に腰を落ち着かせる。すると浩二は……………………。
「ところで雫。話は変わるけどさ、お前、異世界に来てまで‶お姉様〟って呼ばれているんだな。いったいどれだけ義妹を作れば気が済むんですか? 雫お姉様?」
「わ、私だって好きで作ってないわよ!? 知らない間に勝手に増えたのよ!! というか浩二まで私をお姉様呼びするのやめなさい!」
突然の話題に顔を真っ赤にする雫に浩二は肩を竦める。
《ソウルシスターズ》。それは雫に心を撃ち抜かれた女性達が雫をお姉様と慕い、支える秘密組織。雫の為なら世界ですら喧嘩を売る覚悟を持つ(自称)義妹達。
その秘密組織のことをどうして浩二が知っているのか? その答えは簡単だ。
「この前、ちょっかいかけられたぞ? 流石に元の世界でも似たようなことされたから対処できたけど、目が血走っていて怖かった」
向こうからちょっかいをかけてきたからだ。
幼馴染メンバーで特に雫と香織と行動を共にしている浩二がソウルシスターズにとって嫉妬の対象でしかなかった。そして雫を慕うあまりの暴走で‶絶対に我慢できない腹下しの
そして元の世界でも似たように雫から浩二を引き剥がそうと誘惑、脅迫など、時には雫の為に貞操すら散らそうとしてくる女子までいる始末。
異世界でもそんな経験をすれば元凶である雫に文句の一つでも言いたくなる。
「ごめんなさい…………」
下手な言い訳をせずに素直に謝罪を口にする雫に息を漏らす。
「まぁ、向かってきたから一人残さずとっ捕まえて実験材料にしてやったから気にしてないさ」
「……………………無事よね? ねぇ、流石に変なことしていないわよね?」
「おいおい、雫。確かに俺はマッドサイエンティストだが、女性を無理矢理犯したり、乱暴にするようなことするわけないだろう? ちょっと新しい薬の検証をしただけだ」
「そう、よか――」
「ちゃんと傷口も記憶も消しておいたから何の問題もない」
「あるわよ、このお馬鹿!!」
何が問題ないのか。雫の脳天チョップが炸裂する。