ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役15

八十九階層の最奥付近の部屋。

その正八角形の大きな部屋には四つの出入り口がある。しかし、現在は、その内の二つの入口の間に、もう一つの通路が存在しており、その奥には十畳ほどの大きさの隠し部屋があり、入り口は上手くカモフラージュされて閉じられている。

そこでは光輝達が思い思いに身を投げ出して休息を取っていたが、皆、その表情は暗く沈んでおり、顔を俯かせる者が多かった。

初めての魔人族との戦い。これまで順調に迷宮を攻略していた光輝達にとって初めての敗北であり、敗走である。

それでも皆、満身創痍のものはおらず、浩二、香織、辻が怪我を負った者を治療したおかげだ。

「香織、辻さん、魔力回復薬だ。飲んどけ」

「うん、ありがとう」

「平野くん、助かるよ」

治療で魔力を消費した二人の魔力を回復させる為に魔力回復薬を渡す浩二もその表情は暗い。その原因はつい先ほどまで行われていた光輝との口論というより口喧嘩のせいだ。

 

 

 

「どうして撤退なんてしたんだ!?」

目を覚ますと光輝は浩二の胸ぐらを掴みながらそう喚いた。

「仲間を傷つけられて、どうして俺達が逃げなければいけない! 撤退なんてせずに立ち向かうべきじゃないのか!?」

その言葉に浩二も光輝の胸ぐらを掴んで言う。

「その結果、仲間が死んでもいいって言うのか? 仮にあの魔人族に勝てたとしてもあのままあそこにいれば確実に何人かは死んでいたんだぞ? お前は自分の身勝手な行動で仲間を殺すのか?」

「そうは言ってないだろ!? そもそも撤退を決めるかどうか判断するのは俺の筈だ。身勝手な行動をしているのは浩二だろう!?」

「頭に血が上ったお前に冷静な判断ができたのかよ? はっきり言うが俺はあそこで撤退を宣言したことが間違いだとは思ってない。最善の判断をしたと自負してる。文句があるのならその直情的な悪癖を治せ。ガキの頃から何度も言っているだろうが」

「なんだと!?」

「落ち着きなさい! 二人共! 今は喧嘩している場合じゃないでしょうが!!」

今にも喧嘩しそうなほど一触即発の二人の間に雫が割って入る。

「光輝。私も浩二の撤退の判断は正しいと思うわ」

「雫!?」

「あのままじゃ私達の誰かは確実に死んでいたわ。仮にそうでなくても撤退はしていたでしょうね。今、こうして私達が五体満足でいられるのも浩二の機転があったからこそよ? 断言するわ。仮に浩二がいなくても浩二の代わりに私があんたに撤退を提案していたわ」

理路整然とした雫の言葉に口を噤む。

「それよりも今は全員で生き残る方法を考えるのが先よ。いいわね?」

「……………………ああ」

 

 

雫のおかげで喧嘩になることはなかったが、光輝はそれから黙り込んで己の回復に務めている。浩二も他の人の治療や魔法薬のストックを把握している。

それでも二人の間に険悪な空気が漂っているのは確かだ。

ムードーメーカーである鈴もその険悪な空気をどうすればいいのかとオロオロしている。

(さて、どうする……………?)

浩二は己のこれからの行動に頭を悩ませる。

(ああなった光輝は俺が何を言っても聞かないだろうし、仮に聞いたとしても光輝があの魔族を殺せるとは思えない)

ならどうすればいいのか? その答えは必然と理解出来る。

(奥の手、使うしかないか……………)

出来れば使いたくない。それが浩二の本音だ。だがしかし、そんなことを言っている余裕などはない。そして何より浩二は既に覚悟を決めている。

(本来なら南雲が助けてくれるはずだけどそう悠長に言ってはいられねぇ…………)

ピンチにかけつけるそれこそ主人公のような登場で魔物を殲滅し、女魔族を殺す。それが原作での流れだ。だけど、それを待っていたら仲間が、雫が死んでしまうかもしれない。

(やるしかない…………)

再度己の覚悟を固める浩二。するとそのタイミングを見計らったかのように。

「ガァアアアアアアッ!!」

凄まじい咆哮と共に隠し部屋と外を隔てる壁が粉微塵に粉砕された。

「うわっ!?」

「きゃぁああ!!」

衝撃にとって吹き飛んできた壁の残骸が弾丸となって飛来し、直線状にいた近藤と吉野の直撃する。

「戦闘態勢!」

「ちくしょう! なんで見つかったんだ!」

光輝が、号令をかけながらすぐさま聖剣を抜いてキメラに斬りかかる。更に侵入しようとしてくるブルタールモドキを龍太郎が抑えるが、黒猫が数十体侵入してしまった。

「――――‶天絶〟!」

「――――‶天絶〟!」

黒猫の触手を障壁を展開することで防いだ鈴と香織。

「っ、光輝! ‶限界突破〟を使って外に出て! 部屋の奴等は私達でなんとかするわ!」

「だ、だが…………」

「このままじゃ押し切られるわ! お願い! 一点突破で魔人族を討って!」

「光輝! こっちは任せろ! 絶対、死なせやしねぇ!」

「………………分かった! こっちは任せる! ‶限界突破〟!」

状況を打破すべく本日二度目の‶限界突破〟を発動した光輝はこのような窮地に追いやった魔人族に対する怒りと仲間を救う使命感に滾らせ、女魔族を討とうとする。

―――だが。

そこに血塗れで瀕死の状態のメルド団長を目撃した光輝は激昂し、我を忘れたかのように女魔族に突進しようとしたら別の馬頭の魔物の攻撃を受けてしまう。

ダメージ覚悟で反撃に出ようとするも‶限界突破〟のタイムリミットがやってきた光輝は敗北した。

前回の光輝の直情的な性格を女魔族は把握していた。それでもメルド団長も光輝を殺さないでいるのは神の使徒である全員を魔人族に迎え入れる為。いや、奴隷にする為が正しいだろう。

そして隠し部屋から出てきた雫達は光輝の敗北に戦意を喪失していく。

雫も戦意が折られそうになるも気丈に振る舞って冷静さを取り繕うなか、不意に肩に手を置かれた。

「浩二……………?」

「後は任せろ」

短くそう雫に伝えてクラスメイト達よりも前に出る浩二は奥の手を行使する。

「‶無形の貌〟」


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