ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役16

「‶無形の貌〟」

強力な魔物を従え、勇者一行の前に姿を現した女魔族。従えさせている魔物の強さと数に光輝達は劣勢を強いられ、ついには勇者である光輝が倒され、メルド団長でさえも瀕死の重体。

光輝の敗北に誰もが心が折れ、戦意を喪失するなかで浩二がそう口にした。

―――すると、浩二の姿が変貌する。

頭には禍々しい二本の角を生やし、黒髪が灰色に変色して地面につくと思えるぐらいに長くなる。更には両腕はドラゴンの鱗と思えるような堅牢な黒く鈍く輝く鱗に覆われて、爪は鋭利に尖る。

「浩二……………」

変貌した浩二の姿に戸惑う雫。そんななか女魔族が口を開いた。

「随分おかしな姿に変わったね? まるで魔物じゃないかい」

「……………まぁ、否定はしないさ」

「でも今更そんな姿になったところでこっちには人質がいる。この二人がどうなってもいいのかい?」

女魔族の言葉通り、光輝とメルド団長は敵の手中にいる。下手に手を出すことが出来ない。

だが―――

二人を捕えている魔物の首が宙を舞った。

「なっ!?」

あまりの瞬殺撃に女魔族の顔が驚愕に染まる。

二体の魔物の首を切断したのは灰色に変色した浩二の髪が刃のような形になり、その髪の刃で魔物の首を斬り落とし、光輝とメルド団長を救出した。

「香織。二人の治療を頼む」

「う、うん!」

二人の治療を香織に任せて浩二は再び女魔族と目を合わせる。

「殺れ!」

本能が鳴らす警鐘に従って魔物達に命令を下す。キメラ、ブルタールモドキ、四つ目の狼、黒猫。それぞれの魔物が一斉に浩二に襲いかかるも、浩二は己の髪を刃に変えて全てを切り裂いた。

更には……………。

「そこ」

その鋭く尖った爪を何もない空間に突き刺すと、そこから気配と姿を消していたキメラの死体が出現する。

「な、なんで分かったのさ……………」

「姿と気配が見えなくても、今の俺ならそれ以外の方法で見つけられる」

淡々と語る浩二に女魔族は次々に魔物に命令を下して浩二を殺そうとする。だが、魔物の命は無意味に散る。

「‶髪刃〟」

鋼鉄の刃のように鋭利な髪の刃が魔物達を次々と斬り裂く。だがそれだけでは終わらない。飛びかかる四つ目の狼の頭を掴んでそのまま握り潰し、背後から触手で襲いかかる黒猫の攻撃が浩二の背中に直撃するも、触手は浩二を貫くことができず、髪の刃の餌食となる。ブルタールモドキの顔を拳一発で粉砕し、キメラを蹴り殺す。

それはもう蹂躙だ。

圧倒的強者になす術もなくただ魔物達はその命を散らしていく。

「‶血弾〟」

手を銃の形にすると指先から血を凝結させた弾丸を発射させた。その血の弾丸は女魔族の肩にいる双頭の白い鴉を貫いた。

「何者なのさ、あんたは……………」

驚愕と困惑に包まれながら思わずそう尋ねてしまった女魔族に浩二は言う。

「ただの脇役だよ」

わざとらしくもそう答える浩二は血の刃を生み出して剣術で魔物を斬り裂いては、血の弾で遠距離攻撃を開始する。

浩二の奥の手―――‶無形の貌〟

それは浩二が仲間を、雫を護りたい一心で‶変成魔法〟をヒントに地道な努力と研究を積み重ねていった姿が今の浩二だ。

‶変成魔法〟は普通の生物を魔物に作り変える魔法。術者の魔力と対象の生物の魔力を使って体内に魔石を生成し、それを核として作り替える。更には既にいる魔物の魔石に干渉して自分の魔力を交えることで強化したり、従えさせたりすることができる。そして変成魔法には強化段階があり、幾重も変成の重ね掛けを行うことができてその分だけ強力な魔物を生み出す。

原作では変成魔法を獲得した龍太郎が魔石を媒体に自らの肉体を変成させ、使用した魔石の魔物の特性をその身に宿すという変成魔法としては少々特異な魔法を行使していた。

そしてもう一つ、ティオ・クラルス。‶竜化〟の固有魔法を持つ竜人族。

浩二は変成魔法を起源として龍太郎の‶天魔転変〟、ティオの‶竜化〟。その二人のやり方なら浩二は自身の技能‶改造〟で変成魔法に近い何かを手に入れることができるかもしれないと踏んで‶改造〟の技能を磨いて魔物の研究を重ねていった。

そして辿り着いたのが浩二の奥の手―――‶無形の貌〟

多くの魔物の細胞、多種多様の鉱石、あらゆる薬草や毒草などを‶改造〟の技能によって体内に取り込んでひたすらに強化改造していったのが‶無形の貌〟

その力は原作の龍太郎の‶天魔転変〟のように魔物の特性を宿すことは叶わなかったが、ティオの‶竜化〟のように‶無形の貌〟の発動状態の時だけ、浩二のステータスは大幅に上昇する。

こんな感じに……………。

 

 

平野浩二 17歳 レベル:72

天職:医療師

筋力:370 [+5430]

体力:510 [+5780]

耐性:480 [+6150]

敏捷:430 [+5900]

魔力:1500 [+7200]

魔耐:1500 [+7200]

 

完全に勇者を上回るステータスを手に入れた浩二だけど、これは決してチートでも浩二が天才だからではない。

例え、原作知識があったとしても、これは幾重にも自身の改造を繰り返して強化し続けた浩二の研究と研鑽によるもの。

脇役だろうと、分不相応だと理解していても浩二は惚れた女を護りたい。それを原動力に浩二は神代魔法の領域に手をかけたのだ。

しかし、‶無形の貌〟には代償が存在する。

竜人族の‶竜化〟のように姿を変え、ステータスを上げることには成功した。だがしかし、浩二はこの力を使いたくなかったのは代償が存在するからだ。

一つは肉体への負担が大きい。

それ故に三分以上の行使は肉体だけではなく命にも影響を及んでしまう。

二つ目は一度‶無形の貌〟を発動したら丸三日は使用することができない。もし、使えばどうなるか浩二自身でさえわからない。

代償があるから浩二は使わない様に奥の手として取っておいた。だが、一度行使した以上は……………。

「終わらせる」

魔物を殲滅して残された女魔族に向かって動き出す浩二に女魔族は残された最後の魔物、六本足の亀形の魔物に命令を下す。

「アブソド!」

六本足の亀の魔物――アブソドは主を守ろうと動こうとするが、その頭を浩二が放った血の弾丸に撃ち抜かれる。

「ッ!? ちくしょう!」

女魔族は、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法を浩二に向かって放とうとするが……………。

「‶邪纏〟」

「っ!?」

闇属性魔法によって妨害されてしまい、その一瞬で浩二は女魔族の首を掴んで持ち上げる。

「ぐぅ…………な、なぜ、それだけの力を……………ッ」

「使わなかったのか、か? まぁ、一番の理由は代償があるからだ。色々な魔物や鉱物などを自分の身体に取り込んで改造したから、出来れば使いたくなかった俺の奥の手だ」

「く、狂っていやがる……………ッ! 自分の身体を改造するなんて頭がおかしいんじゃないかい?」

「まぁ、否定はしないさ。後は光輝に俺達は戦争をしていることを自覚して欲しかったからだな」

浩二は幼馴染だけあって光輝の性格をよく知っている。だから実際に魔族と戦うのなら原作通り戦わせてみようと一考していた。今回が原作と違った結末になってしまったが、そんなの今更だ。

「ぐぅ………」

浩二は女魔族を掴んでいるその手に力を入れる。

「悪いけど、俺は護るものの為なら殺す覚悟はできてる。当然、殺される覚悟もな」

その言葉を聞いた女魔族は諦観したかのように殺しを催促する。

「さ、ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……………」

「……………………ああ」

捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると女魔族の表情が物語っている。浩二は女魔族の意を酌んでその命を終わらせようとそれに応じる。

「いつかあたしの恋人があんたを殺すよ」

「その時は逃げずに受けてやる」

その言葉を聞きて、苦しませない様に一気に力を入れてその首の骨をへし折ろうとする瞬間、大声で制止がかかる。

「待て! 待つんだ、浩二! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

香織の魔法によって回復した光輝はフラフラしながらも何とか立ち上がって声を張り上げた。

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗な人を殺すなんて、絶対ダメだ。浩二、君だって命を救う医者の子供だろ? なら止めるんだ」

しかし、その制止も虚しくゴキリと鈍い音が響き渡り、女魔族は動かぬ肉塊となった。

 


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