ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役18

―――【宿場町ホルアド】

その宿の一室で浩二は魔物の肉を食べて生き延びたハジメの身体を診察していた。

その背後にはユエ、シア、ティオ、ミュウそして香織に見守られながらハジメはただ浩二に診察されていく。

ハジメの容態に若干ハラハラしながらも見守る香織達。すると、診察が終えて浩二がハジメの身体について診察の結果を伝える。

「バイタルが人間とは少し異なるけど、特に問題はない」

その言葉に安堵する香織達。ハジメも問題がないことに若干安堵の息を漏らす。

「強いてあげるのなら体幹が少し左に傾いている。恐らくは義手の重さのせいだろうから軽量したり、毎日ストレッチとかするのを勧める」

「ああ」

医者からの注意事項に頷いて上着を着始めるハジメに浩二は言う。

「まぁ、香織もいるから旅の道中では香織に診て貰え。香織に医学を叩きつけたのは俺だからな。頼むぞ、香織」

「任せて」

弟子に今後を任せる浩二は内面嬉しい気持ちでいっぱいだ。

香織がこれまで秘めていた想いをハジメに告げ、ハジメのパーティーに加わることができたからだ。

無論、空気を読めない鈍感系主人公こと勇者の光輝はそれを強く反対したが、浩二が経穴をついて強制的に夢の世界に行かせた。

「南雲も香織のことを頼むぞ? じゃなかったら雫と一緒にお前の痛い二つ名を広めてやるからな?」

「このラスボスどもがぁ………!」

「なんとでも言え。俺と雫は何があっても香織の味方だ。邪険になんか扱ったら容赦なく広めてやるから覚悟しろ」

精神的大打撃を受けるハジメは浩二に恨めしい視線を送るも浩二はスルー。

大事な幼馴染の手助けをするのは当然のことだ。

「‶隻眼の銃士(ピューピル・ガンナー)〟、‶漢の体現者(ザ・ハーレム)〟…………。他にも色々と雫と一緒に考えておくからな」

「こ、この野郎……………ッ!」

顔を青褪めて痛い二つ名を広めようと画策している浩二と雫は親バカとも言っても過言ではない。それも過保護と言ってもいいお節介ぶりだ。

「これぐらい当然だ。中学の頃から香織はお前に惚れて、南雲のことを知る為に俺と雫はあれやこれやと付き合わされたんだぞ? エロゲー買いに付き合わされた時はマジで頭を抱えたぞ……………」

「こ、浩二くん! それは内緒にしてって言ったよね!?」

「これぐらいの愚痴ぐらい言わせろ、突撃娘。何がお父さんのお使いだ。娘にエロゲーを買いに行かせる父親がいて堪るか」

顔を真っ赤にして怒る香織に苦労人特有の溜息を吐き出す浩二。エロゲーが何かわからないユエ達は首を傾げるも、ハジメは香織がそんなことをしていたことに頭を抱えた。

「その、なんだ、平野。お前も八重樫同様苦労してんだな……………」

「まぁな。おかげで苦労が身に沁みちまった」

同情の眼差しを向けられてまた口から溜息を溢す浩二にハジメは‶宝物庫〟から白塗りの鞘に入った刀を浩二に手渡した。

「やるよ。診てくれた礼ってことで。八重樫に渡したやつのより少し性能は劣るが、問題はねえだろう」

「お、悪いな」

白塗りの鞘に収められた刀。ハジメが雫に手渡した黒塗りの刀とは対極の白い刀に浩二は代わりと言わんばかりにある物をハジメに手渡した。

「なら代わりにコレやるよ」

「これは…………薬か?」

中身を見てみるとそこには錠剤が入っていた。何の薬かと尋ねる前に浩二がそれを教える。

「ああ、避妊薬だ」

「ぶっ!」

予想外のものにハジメは思わず吹き出してしまった。

「お前―――」

「避妊は大事なことだぞ? 南雲も中学で習っただろ?」

「それはそうだが! だけどなぁ! なんでこんなもんをクラスメイトから貰わなきゃなんねんだ!?」

ごもっとも。

誰だって同級生からそんなものを貰えば戸惑ってしまうのも無理はない。

「そりゃ作れるのは俺しかいないからな。この世界は避妊薬も避妊具もないから色々と危ないし、南雲達は旅をしてるんだろ? それで万が一にできたら大変だろうが。あ、ちゃんとヤる前に飲ませてやれよ? それと急いで作ったから絶対とは言い切れないからできるだけ外に出すように―――」

「やめろぉ!! そんな生々しいアドバイスをしてくるんじゃねえ!!」

羞恥心いっぱいで頭を抱えるハジメに浩二は首を傾げる。

「別に恥ずかしがることはないだろ? 性行為は生物にとって当然のことで恥ずべきことじゃない。ただ旅の途中で赤ちゃんができたら色々と大変だろうから渡しているんだ。香織にもちゃんと飲ませてからヤれよ?」

「おい! 何で俺が白崎に手を出すことを前提で言っていやがる!?」

「あぁ!? 香織には魅力がねぇって言いてえのか!?」

「お前も大概面倒くさい奴だな!!」

互いに睨み合って胸ぐらを掴み、頭突きする浩二とハジメ。なんとも不毛な争いか。

話題にされた香織は何を想像したのか、顔を真っ赤にして両手を覆い、避妊薬のことにユエはハジメを見ながら妖艶の笑みを溢した。シアとティオは興味深そうにハジメが持っている避妊薬を見つめる。

「たくっ、まぁ、貰えるもんは貰っておく。もういいだろ?」

「ああ、お疲れ様」

診察が終えてもう用はないかのように部屋から出て行くハジメ達。そして最後に部屋から出ようとする香織が踵を返して浩二に耳打ちする。

「浩二くんの雫ちゃんを想う気持ちも誰にも負けていないよ」

微笑みながら最後にそれだけを言い残してハジメの後を追う香織に浩二は肩を竦めて、ハジメを診察した際に手に入れたあるものを手にする。

「それにしても採血した南雲の血液はともかく、まさか魔石が南雲の体内に生成されていたとはな……………」

大きさは一センチにも満たない魔石。それが南雲ハジメの体内に生成されており、浩二はそれを摘出していた。

(原作でもこんなものはなかったはずだが……………)

原作知識としてはハジメの体内に魔石があるという話はなかった。だが現にこうして南雲ハジメから魔石を摘出したのは確かだ。

「まぁ、魔物の肉を食べたから魔石が出来る可能性も十分にあるが……………」

魔物の肉を食べ続けた結果、体内に魔石が生成された。そう仮説を立てればおかしいところはない。ただこれは原作ではないものであるのは確かだ。

「浩二」

「ん? 雫か………」

「ええ、私よ」

診察が終えて香織達が出て行った後で雫が浩二の元までやってきた。

「光輝の面倒を見ていたんじゃなかったか?」

「それが……………」

頭痛でもするのか、頭を押さえながら雫は事情を説明する。

ついさっき光輝は起きてハジメから香織を連れ戻そうと部屋から飛び出したらしい。それを聞いた浩二も雫共々頭を押さえる。

(まぁ、光輝じゃ南雲には勝てないだろうから無視でいいだろう…………)

断じて止めに行くのが面倒だからではない。原作通り酷い目に会うだろうから後に回収に回った方が楽でいいとも思ってはいない。

「まぁ、光輝のことは今は置いておくわ。それよりも浩二、大丈夫なの?」

「ん? ああ、まだ戦闘は難しいけど普通に動く分には問題は――」

「そっちじゃなくて心の方よ。人を殺したのだから……………」

肉体面ではなく精神面、心は大丈夫なのかと問いかけてくる雫に浩二は言う。

「医者は時に患者の命を奪うこともあるから元より覚悟はできてる。だから安心しろ」

苦笑いを浮かべながらそう答える浩二に雫はじっと浩二を見据えて口を開く。

「嘘ね」

はっきりと浩二の言葉を否定した。

「浩二。貴方は気付いていないのでしょうけど、貴方は嘘をつくとき、左手を二回握る癖があるのよ?」

「え?」

思わず自身の左手を見てしまう浩二に雫は続けて言う。

「私の前ぐらい自分を誤魔化さなくてもいいのよ? ちゃんと吐き出さないと心が保たないわ」

幼馴染としてそう言ってくる雫に浩二は何とも言えない表情となる。

(無茶言うな……………)

確かに浩二は魔人族とはいえ、人を殺してしまった事に何も思っていないわけはない。首の骨を折った感触も、最後の表情も脳裏にこびりついて離れない。

罪悪感で吐き気を催すも、身体を‶改造〟させて無理に押しとどめている。表情も出さないように注意しているのに雫はそれを見抜いた。

だけど、一番誤魔化さなくてはならない相手である雫はそれを見抜いてしまった。浩二は一人の男として惚れた女の前ぐらいは気丈に振る舞いたかったにも関わらず。

だが雫は気丈に隠していた浩二の心情を見抜いて心配してくれている。心配してくれる気持ちは嬉しくもそれは浩二を‶男〟としてではなく‶幼馴染〟として心配してくれる。だから‶男〟として情けない姿を晒したくはない。

(本当、自分の気持ちを素直に南雲にぶつけた香織は凄いな…………)

いや、それ以前に浩二は恐れている。

浩二は自身と雫はつり合わないことを重々承知している。それでも雫を想う気持ちが諦めきれず、香織以上に長い片思いを抱いている。

だからこそ、怖い。その想いが壊れることに。そして一度想いを告げたら最後、もういつもの幼馴染ではいられなくなることを恐れている。当然雫は浩二の想いに微塵も気付いていない。

「……………………そうだな。雫がぎゅって抱きしめてくれたら気持ちも落ち着くな」

‶男〟として惚れた女に弱音を吐き出したくない浩二は冗談交じりにそう言ってのけた。これなら雫もこれ以上追言してこないだろうと踏んで。

―――だが。

雫はそんな浩二を抱き寄せた。

「………………あの、雫さん?」

「なに? これで落ち着くのでしょう?」

「いやまぁ、そう言ったのはそうですけど…………その、胸が………」

顔に雫の胸が当たり、服越しから伝わる胸の柔らかさと女性特有の甘い匂いが伝わってくるにも関わらず、雫はそんなこと気にも止めずに浩二に言う。

「無理をさせてごめんなさい。これぐらいはさせてちょうだい」

自分達を助ける為に人を殺めた浩二に雫は贖罪の意味も込めて浩二を抱きしめるも、浩二はそのことになんとも言えず、雫から離れるまで抱きしめられるのであった。


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