‶ありふれた職業で世界最強〟の世界に転生した平野浩二は原作通り、異世界‶トータス〟へ転移した。そこでイシュタルから原作の内容と同じ台詞を耳にしながら納得する。
(やっぱり原作通りだな……)
人間族、魔人族、亜人族と三つの種族に分けられた世界。そして魔人族は魔物を使役する力を得て人間族は滅びの危機を迎えていた。
そこにこの世界の神として崇められているエヒトが浩二達を召喚したのであった。
当然戦争に参加することに反論の意を唱えたのは教師である畑山愛子。だがしかし、帰る手段がなく、生徒達はパニックになる。
そこに天之河光輝のカリスマ性が発揮して生徒達は冷静さと活気を取り戻した。
「俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
(最後の方は敵側なんだけどね、お前……)
内心そうツッコミを入れる。
だがそれが真実だということを知っているのは浩二ただ一人。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。………気にくわないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
そして何も発言していない幼馴染である浩二に視線を向ける光輝に浩二は肩を竦めながら言う。
「戦争そのものに反対したいが、これでも医者の息子だ。怪我人を放っておくことはできない」
「浩二……」
いつもの幼馴染メンバーの賛同にクラスメイト達も次々に戦争の参加に賛同していく。
これから先、どうなるのかも知らないで……。
戦争参加を決意した一同は王宮に赴いて国王や王子、王女やお偉い様方と挨拶したり、晩餐会で料理を堪能しつつ各自に与えられた一室で休息をとったその次の日から早速訓練と座学が始まった。
まず集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られ、それがなんなのか、騎士団長であるメルド・ロギンスが説明する。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これで迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
気楽な喋り方をする騎士団長。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。‶ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
「アーティファクトっていうのはな、現大じゃ再現できない強力な能力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、昔からこの世界に普及しているものとして唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般人にも流通している。身分証に便利だからな」
その説明を耳にして浩二は早速ステータスプレートに自身の血を擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いて、灰色へと変色した。
そして自分のステータスプレートに視線を落とす。そこには……………。
平野浩二 17歳 レベル:1
天職:医療師
筋力:40
体力:55
耐性:30
敏捷:42
魔力:80
魔耐:70
技能:医学・調合・侵入・改造・投擲・回復魔法・光属性適正・闇属性適正・高速魔力回復・言語理解
完全なまでの後方支援の天職と技能がずらりと並んでいた。
そしてメルドかたステータスプレートに関する説明中のなか雫が浩二に声をかける。
「浩二。貴方はどうなの?」
「ん」
己のステータスプレートを雫に渡すと雫は納得するかのような顔で頷く。
「流石は医者の息子ね。投擲はうちが影響しているのかしら? 浩二の投擲の腕はよかったし」
「俺的には剣術があって欲しかったけど……………」
八重樫道場には八重樫流投擲術がある。八重樫流は刀を失っても戦えるように鞘術と体術そして投擲術なども組み込まれており、浩二は投擲だけは他のよりまだマシなレベルだ。
それでも雫より劣るが……………。
「雫は…………剣士ってところか」
「ええ、まぁ妥当ね」
そう答えて雫も浩二にステータスプレートを見せる。
(こっちも原作通りか……………)
現段階で浩二の存在以外は原作通りに進み、浩二は己のステータスプレートをメルドに見せる。
「ほう、医療師か……………」
「珍しい職業なんですか?」
「いや、珍しいというわけではない。だが医術に関して右に出る者はいない天職だ。治癒や回復はもちろん高位の回復薬の調合などもできる。後方支援としてこれ以上にない天職だ」
「そうですか……………」
結局は脇役にぴったりの職業。ここまで脇役に相応しい天職と技能が出てくれば笑いが出てくる。
(というか香織の天職とかぶる…………)
白崎香織の天職は‶治癒師〟。治癒系魔法に天性の才を示す天職。
‶医療師〟などそれと大差ない天職だ。
(そういえば南雲は?)
この物語の主人公である南雲ハジメ。彼の天職がもし万が一に変わっていたとしたらどうなるのだろうか? 不安と焦燥を抱いていると。
「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛冶職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……………」
歯切れ悪くメルドはハジメの天職を説明していた。
原作通り、南雲ハジメの天職は‶錬成師〟。それを聞いて少しばかりの安堵の息を漏らす。
(でも良くも悪くもない俺は脇役だな…………)
天之河光輝のような‶勇者〟の天職でもなく、南雲ハジメのような‶錬成師〟でもない。その他大勢と同じ天職とステータス。
言ってしまえばそれこそ脇役だ。良くも悪くもないから脇役のポジションに納まってしまう。
(むしろここまで脇役ばかりならもはや運命としか言えねぇ…………)
おお、神よ。どうして私をそこまで脇役にしたがるのですか? と言いたげな顔で空を仰ぐ。
そうこうしている内に国の宝物庫から浩二に渡されたのは手袋のアーティファクト。指先の精密動作を引き上げる。それを渡された浩二は。
「それではこちらをお願いします」
早速と言わんばかりの回復薬の調合レシピとその材料を王女リリアーナ自ら渡された。
「あの、王女様……………このレシピ。ただの魔力回復薬だけじゃなく、他の回復薬の調合までびっしり書いているのですが……………? これを戦闘訓練と座学の合間にやれと?」
それはもう目を凝らさないと見えないほどにびっしりと書き連ねているレシピにリリアーナは笑みを崩すことなく言う。
「平野さんの天職は‶医療師〟。ですのでいざという時の為にも回復薬を調合できるようになって欲しいのです。あと、私の事はリリアーナで構いませんよ?」
暗にやれという言葉がひしひしと伝わってくるのは浩二がネガティブだからか? リリアーナに容赦という二文字がないのかは定かではない。
ただこれからも‶王女様〟と呼ぼうと内心そう決めた浩二であった。
(まぁ、せっかくの異世界だ。魔法だけじゃなく薬学についても調べてみよう)
落ち込んでいる暇などはない。死なない為に、そして雫を護る為にやるべきこと知るべきことは山のようにある。
まずは手始めに眼前のものから取り組むことから始めた。