ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役21

雫に想いを告げた浩二は見事に玉砕した。

リリアーナに慰めながら、自身がどれだけ最低な人間だったのかとフラれて初めて気づいた浩二は次の日の早朝に王城を出た。

一人黙って王城を出て行く浩二を見送る者は誰もおらず、浩二は一人静かに王都を出ようとその足を動かすと、浩二の前方に誰が立っていた。

「たくっ、別れの挨拶ぐらいさせろっての」

「龍太郎……」

「せめて見送りぐらいさせてくれ」

「メルド団長……」

そこには幼馴染である龍太郎と騎士団長であるメルド団長がいた。

そんな二人を見て浩二は……。

「見送りなら、もう少し花があってもいいと思うけどな」

「ならこんな朝早くから出て行こうとすんじゃねえよ。お前の事だからこうするんじゃねえかなと思って昨日からずっとここで待っていて正解だったぜ」

(一晩中ここで待っていたのか……)

変わらずの脳筋に嬉しいような悲しいような心境だ。

すると龍太郎は前に出て浩二に言う。

「浩二。俺を殴れ」

「は?」

「いいから殴れ。おもっきりな。手加減なんかすんじゃねえぞ」

頬を差し出してくる龍太郎に浩二は迷いもなくブン殴った。それも‶魔力硬化〟で拳の強度を上げた状態で。

「グオッ!!」

何度も地面を跳ねて十メートルぐらいは殴り飛ばされた龍太郎に本当に本気で殴った浩二にメルド団長は頬を引きつかせる。

お互いの事を良く知っている幼馴染だからこそ遠慮も容赦もないのだろう。

「‶焦天〟。で? 気は済んだか?」

中級の回復魔法を施して言いたいことがあるのならさっさと言えと言外に告げる浩二に龍太郎は拳を天に向けて言う。

「……俺は、強くなる。もう幼馴染のお前だけに全部背負わせることは絶対にしねぇ。強くなってみせる……」

拳を握りしめて決意を言葉にする龍太郎の変わらない脳筋に浩二は肩を竦めるも、その顔はどこか安心するかのように笑みを作っている。

龍太郎もずっと浩二のことを気にしていた。自分が不甲斐無いばかりに浩二に負担を強いらせていることに。だから龍太郎はその一発を持って気合を注入した。

すると今度はメルド団長が浩二の肩に手を置く。

「浩二。俺を含めてお前に助けられている者は多い。お前に何もしてやれない自分が情けないが、これだけは言わせてくれ。ありがとう、お前がいたからこそ俺達はここにいる」

「……はい」

(その言葉だけで十分ですよ……)

むしろ礼を言うべきは、謝るべきは浩二自身にある。

これまで雫に振り向いて貰う為だけに命の危険を晒したのだ。どうせ死なないから問題ないと高を括って。それに気付いた今、その感謝の言葉を素直に受け取ることができない。

メルド団長に感謝の言葉を告げられ、ダメージから回復した龍太郎は起き上がる。

「それにしてもよぉ、光輝はともかくなんで雫まで来ねえんだ? あいつなら絶対に来ると思ったんだが……」

疑問を口にする龍太郎に浩二は仕方がないと内心思った。

告白してフった男にどんな顔をして会えばいいのかわからないのだから。雫の心情を思えばこの場に顔を出さないのは頷ける。

「まぁ、仕方がないさ。皆が皆、龍太郎みたいな脳筋じゃないんだし」

「おいコラ」

「だから龍太郎。光輝を、雫を、皆を頼む」

「……おう」

幼馴染の頼みに応じる龍太郎に浩二は「ありがとう」と告げて二人に見送られながら王城を後にする。

(そういえば一人で行動するなんて二度目の人生では初めてだな……)

これまではずっと幼馴染達と共に行動してきた。色々と面倒や苦労も……苦労が圧倒的に多かったけど、いざ一人になってみるとその苦労もいい思い出の一つだ。

(とりあえず、俺のやるべきことは変わらない。【エリセン】に赴いてそこで神代魔法である再生魔法を手に入れる)

例え雫にフラれたとしても行動方針は変わらない。死なない為にも神代魔法は必須だ。その為にもまずは【エリセン】に足を運び、ハジメ達と合流する。

その為に海人族が生活している【エリセン】に堂々と正面からは入れるように公の理由も作っておいた。そして万が一にもハジメ達と合流ができなかったらその時は、自力で攻略を目指すしかない。

今の浩二での迷宮を攻略の成功率は甘く見積もって三割といったところだろう。そうなったら博打だ。できれば避けたい。

(でも再生魔法は俺には必要だ。絶対に手に入れないと……)

それから先の激戦にも備えて【エリセン】に向かう道中で浩二はその足を止めた。

「お待ちしておりました。浩二様」

そこにいたのは勇者である光輝に平手打ちをかましてクビになった元浩二の専属使用人であるティニアだ。いつもと変わらないメイド服にその近くには私物と思われる荷物が置かれている。

「自らの功績を使ってでも私の罪を軽くして下さり、ありがとうございます」

そう言って深々と頭を下げるティニアに浩二は首を横に振る。

「いや、俺はそこまでたいしたことはしていませんよ。どちらかというと王女様のおかげでしょうし」

「それでも浩二様にも助けて下さったことには変わりありません」

それでもティニアはただ浩二に感謝する。あまりの感謝にむず痒く思わず頬を掻いてしまう浩二にティニアは顔を上げて告げる。

「浩二様。どうか私も貴方様の旅のお供をさせてください」

「え? でも……」

「危険は始めから承知の上です。己の身ぐらい己で守りますからどうか……」

浩二の旅に同行を求めるティニアだが、浩二は髪を掻きながら言う。

「お断りします。俺が向かうところはティニアさんには荷が重すぎるぐらい危険な旅です」

「覚悟の上です」

断るも本人はそれでもと確固たる強い意思を見せる。

「ティニアさんならクビになってもどこかで安全な仕事を見つけることぐらいできるでしょう? それに家族だっているのではないですか? 生活だって……」

「私は元々捨て子でリリアーナ姫殿下に拾われた身です。それゆえに家族はおりません。身を寄せる場所も働くために必要なツテもない以上は後はこの身体を売るしか生きる術はありません」

「……え? ちょ、ちょっと待ってください! それならどうしてあんなことしたんですか!?」

勇者である光輝に手を出せばクビになることも、重い処罰を科せられることぐらい誰だって理解できる。それでも浩二はきっと何かしらの保険ぐらい用意していると踏んでいた分、驚きを隠せれなかった。

「あの馬鹿の暴走はいつものことです。子供の頃からもう慣れています。それなのにどうして……?」

「何も知らないのに好き勝手に浩二様のことを悪く言ったあの勇者がどうしても許せなかったのです。ですのであの勇者を叩いたことには何の後悔もありません」

「いや、後悔してくださいよ。そのせいで……」

「例え路頭に迷うことになったとしても私はあの行動に一切の後悔はございません」

「どうして、そこまでして……」

浩二はティニアの原動が理解出来なかった。

どうしてそこまでして自分の為に怒ってくれたのか? それがまったくわからないでいた。

―――すると。

「貴方様のことをお慕い申し上げています。そうお答えしたら納得して頂けますか?」

「え……?」

まるで鳩が豆鉄砲を食ったようポカンとしている。まさに、何を言われたのかわからない様子だ。しかし、時間が経つにつれてようやく意味が脳に伝わったのか、浩二は生まれて初めての告白に耳まで真っ赤になる。

「い、いやいやいやいやいや!! ちょっと、ちょっと待って!? え? え? どういうこと? ティニアさんが俺のことを? え? 嘘でしょ? どこでフラグを立てた俺? あれ?」

浩二は混乱した。

平静さも冷静さも時空の遥か先に放り投げたかのように混乱を極める浩二にティニアが言う。

「まだ使徒様達がこちらの世界に転移される前、私は医者から余命一年と宣告を受けました」

「え……一年?」

「はい。とある難病を患って今の医学では治す手段がないとそう告げられました。私自身、私を拾ってくださったリリアーナ姫殿下に何の恩返しもできず、心苦しい思いをしておりました」

だが。

「しかし、奇跡が起きました。浩二様、他の誰でもない貴方様が調合してくださった薬のおかげで私は命を救われれたのです」

ティニアのその言葉に合点がいった。

天職が‶医療師〟だと判明されたその日からリリアーナより数多くの薬の調合をさせられた。恐らくはそのなかにティニアの病を治す薬もあったのだろう。

リリアーナは臣下を救う為に薬を調合するようにと浩二にお願いしたのだ。

だけどそれは……。

「それならなおさら、あんなことをするべきではなかったはずです。俺は王女様に言われた通りに薬を調合しただけ。それ以上でもそれ以下でもありません。結果的にそうなっただけです」

「それでも命を救ってくださった事実には変わりありません。それに浩二様の専属使用人を任され、私は貴方様の人柄に触れ、懸命なそのお姿に心惹かれたのです。ですので私を貴方様のお傍に置いては頂けませんか?」

そう言ってくれるのは素直に嬉しかった。

いや、嬉しくないわけがない。生まれて初めてそれも日本ではまずお目にかかれない美女に告白されて喜ばない男などいない。それでも浩二は……。

「……その気持ちは素直に嬉しいです。だからこそ、俺はその想いに応える資格はありません。俺は惚れた女に振り向いて貰う為に姑息で卑怯な手を使った最低な男です。フラれるまで俺はそれに気付かなかった」

自己嫌悪する。

浩二は今なら昨夜、雫にフラれてよかったと思っている。仮に告白に成功していても雫の彼氏だと誇れることはできない。そんな最低な男に誰かの想いを応える資格などない。

この旅は自身が死なないように力を手に入れると同時に自分自身を見つめ直す反省の旅でもある。

(反省したところで俺と雫との関係はもう戻らないけど……)

雫が見送りに来なかったことの浩二は内心安堵していた。どんな顔をすればいいのか、わからなかったからだ。

(でも俺よりも雫の方が問題だな……。雫、ああ見えて乙女だからきっと俺以上に傷ついてる……)

一応リリアーナに雫を気に掛けて貰うように頼み、龍太郎にも頼んでおいた。

酷いことを言って、それで放置。本当に最低だなと自己嫌悪する浩二にティニアが口を開く。

「ですがそれはそれだけ本気だったのでは? 惚れた人に振り向いて貰う為に一生懸命だったからではないのですか?」

「それは、そうかもしれませんけど……」

「確かに浩二様は最低なことをしたのでしょう。しかし、裏を返せばそれだけ一途に想っていたとも思えます。やり方はどうであれ、その気持ちは、想いは本物の筈です」

ティニアは浩二の頬に触れながら言う。

「その証拠に涙の流れた痕が残っておりますよ?」

「!?」

先の龍太郎はともかくメルド団長ですら気付かなかったのに流石は女性ということもあって確かに消したと思っていた僅かな痕跡にすら気づいた。

「……それでも、俺が貴女の気持ちに応えるかどうかは別問題です」

「今はそれで構いません。旅の同行を許して頂けるだけで僥倖です。まぁ、もし、同行を許して頂けないのでしたらもう身体を売るしかないのですが、それは浩二様のせいではありませんのでお気になさらず」

「自分を脅迫材料にしないでください」

まさかの脅迫に浩二は諦観するかのような深い溜息を溢す。

「……わかりました。もう好きにして下さい」

「はい。好きにさせて頂きます」

こうして浩二は旅の同伴者としてティニアと共に【エリセン】を目指すのであった。


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